(1)ホルモン分泌の異常による成長障害
成長ホルモン分泌不全性低身長症(下垂体性小人症)
甲状腺機能低下症(クレチン症、慢性甲状腺炎=橋本氏病)
(2)染色体の異常による成長障害 ターナー症候群
(3)家族性低身長
(4)低出生体重性小人症
(5)思春期遅発症
(6)愛情遮断性低身長
(7)栄養不良性小人症
(8)骨軟骨の異常による成長障害 軟骨異栄養症
(9)腎不全による小人症
(10)ステロイド大量長期投与による医原性小人症
成長ホルモン分泌不全性低身長症とは?
以前は「下垂体性小人症」という病名でしたが、上記のように名称が変更されました。 小児慢性特定疾患は平成10年度から公費負担の対象が厳しくなり自己負担を強いられる場合が出てきます。全国で3000名から4000名の患者が当てはまります。公費負担からはずされると、保険医療対象となり、年間50万円程の出費が予測されます。このことは、金の余裕のある家庭のみ治療可能で、低所得層は治療を断念せざるをえなくなる可能性がでてきました。厚生省の新基準は開始基準として身長SDスコアが従来はー2.0SD以下が公費負担の対象でしたが、−2.5SD以下のみ公費負担となりました。継続基準は年間身長の伸びが3.0cm以下であると公費からはずれます。終了基準は男子156.4cm(男子13歳3ヶ月の平均身長相当))、女子145.4cm(女子11歳5ヶ月の平均身長相当)に達すると公費対象からはずれます。
過去に、成長ホルモン治療終了患者で身長が170cmに達した患者から履歴書に既往疾患に小人症ないし低身長の名称を記載するのに抵抗のあると申し出られたことがありましたが、その場合「成長ホルモン分泌不全症」と書くようにアドバイスしたことがあります。その方が門外漢の他人には聞こえが良いからです。
成長ホルモンはどこでつくられるか?
脳下垂体という大脳の直下に親指程度の大きさで垂れ下がっている分泌腺があります。ここは6種類ほどのホルモンの分泌を調整する中枢センターであり、生産工場でもあります。さらに各臓器からホルモンの不足すると血液中に放出する配送センターでもあります。生産工場および配送センターで扱う主なホルモンは成長ホルモン、甲状腺ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン、黄体化ホルモン)、プロラクチン(乳汁刺激ホルモン)、抗利尿ホルモンなどの生産工場および配送センターが一ヶ所に集中しています。この中で成長ホルモンの生産工場が破壊される確率が一番多いのです。成長ホルモンが分泌不全ないし欠如すると低身長に陥ります。
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成長ホルモン欠損の分類と原因は?
成長ホルモンが完全になくなっている小児(完全欠損)と少しは分泌されている部分欠損の小児とは低身長の程度に差があり、当然完全欠損の小児ほど著しい成長障害を伴います。完全欠損の小児は幼児から著しい低身長を伴います。
完全欠損の原因は大きく2つに分かれており、先天性の場合と続発性の場合があります。先天性の原因としては下垂体の低形成または無形成といって先天的に生産工場としては大きさが不十分でホルモンをつくる能力が欠ける場合です。最近、MRIという最新機器で下垂体のサイズが正常なのか小さいのかわかるようになりました。完全欠損の患者は分娩外傷を伴う場合もよく見かけます。すなわち、骨盤位分娩(逆子)で生まれたり、仮死状態で生まれたりする既往があります。分娩障害の他には交通事故による頭部外傷でも下垂体の茎が切れてしまい、2次的に下垂体が萎縮します。分娩障害による下垂体茎断裂もMRI画像診断で容易に診断ができるようになりました。
成長ホルモン単独分泌不全か複合分泌不全か?
下垂体のサイズが小さかったり、下垂体が切れていたりすると成長ホルモンによる成長障害以外に甲状腺刺激ホルモンが不足したり、性腺刺激ホルモンが不足したりします。甲状腺刺激ホルモンが不足すると成長障害がさらにひどくなります。性腺刺激ホルモンが不足すると2次性徴がこない場合があります。またストレスホルモンである副腎皮質刺激ホルモンが不足すると、例えば風邪をひいたりする場合、急に、くたっとなる場合があります。最近は成長ホルモンの完全欠損の発生頻度は成長ホルモン投与患者の1割以下(5%程度)ですのでほとんどの患者さんは成長ホルモンの単独補充療法で治療は終了します。
続発性の場合は?
続発性の場合は脳腫瘍と頭部の放射線障害による場合があります。脳腫瘍による下垂体の破壊による低身長の特徴はある年齢までは正常に発育しており、成長発育曲線からも予測が可能な場合があります。脳腫瘍の主なものは頭蓋咽頭腫とジャーミノーマ(以前は異所性松果体腫と呼ばれていた)があります。治療としては脳外科的手術や放射線療法が必要です。腫瘍の消失後2年目から再発がないのを確認の上、著しい成長障害に対して成長ホルモン投与が可能になります。
成長ホルモン分泌不全症は遺伝するか?
遺伝性成長ホルモン分泌不全症は非常にまれです。ホルモン遺伝子の異常による場合は身長SDスコアがー4SD以下と著しい成長障害をきします。また、顔貌が特徴的であり、胎児様顔貌といって<おでこが広く、鼻が広くて低い(鞍鼻)という特徴>があります。我が国では10数家系しかなく、東海地区でも数家系しか存在しません。それゆえ、現在2万人の患者が全国で成長ホルモンの治療をしていることを考えると、成長ホルモン分泌不全が子孫代々に発症することはほとんどの患者においてはまずありません。
成長ホルモン分泌不全症患者の両親のどちらかが低身長を伴う場合は、ほとんどのケースで低身長の親は成長ホルモンが正常である家族性低身長といわれる体質です。体質も遺伝の1つです。成長ホルモンの治療効果は、当然両親の身長に比例しますので両親が高身長ほど患者の治療効果は著しい改善が期待されます。
成長ホルモン部分欠損症の特徴は?
現在、成長ホルモン投与患者の9割以上はある程度ホルモンの分泌が認められる成長ホルモン部分欠損症です。下垂体の成長ホルモンの部分欠損の患者は成長障害の程度が軽くその内に伸びるだろうと受診する年齢が遅くなる傾向があります。また、学童以前には「なけなしの成長ホルモン」が絞り出され分泌は正常と判断されることもあります。経過観察により低身長が続く場合は再度検査により、年齢としては10歳前後にようやく分泌が悪いことが判明するケースも時として遭遇します。一度正常と判断されてもホルモンはいつ枯渇し、なくなってしまうか、判りませんので慎重な経過観察が必要です。