成長ホルモンの基礎知識
(1)成長ホルモン(GH)の歴史
1956年 ヒトGHが下垂体性小人症に有効なことを初めて証明
1988年 遺伝子工学によるhGHの実用化
(2)成長ホルモンの生理的作用機序
身長の促進作用 → 低身長の改善
以下は研究的に証明されている事項
体脂肪の減少 → 成人下垂体性小人症の肥満及び動脈硬化の予防
皮膚組織修復作用 → 火傷の早期治療、外科手術後の早期回復
骨折の早期修復 → 骨折の治療
老化予防 → 老人の若返り
心臓病の治療 → 心筋を増やし心機能を改善
(3)成長ホルモンの生理的分泌時期
入眠後数時間が最も分泌量は多い(寝る子は育つ);早寝早起きをする
20分程度の汗をかく量の運動時に成長ホルモンは分泌亢進する。
(4)成長ホルモンと副作用
・成長ホルモンは身長増加作用としてはもっとも安全で有効な薬剤である。
・成長ホルモン治療は基本的には大きな副作用はないといっていいでしょう。
・成長ホルモン治療中にみられる副作用として、治療初期に一過性に頭痛、発疹などが見られる時があります。
・治療の初期に軽度の肝機能障害が見られることがあり、また尿の潜血は、かなりの頻度でみられますが、成長ホルモンを中止するほどではありません。
・治療経過中に、ペルテス病、大腿骨頭すべり症などが発症したと言う報告もありますが、その頻度は一般頻度より高いというわけではありません。
・成長ホルモンは血糖を上昇させる働きがあるため、治療により耐糖能異常や糖尿病の発症が懸念されますが、実際にはインスリンの分泌も上昇するため、糖尿病の発症は非常にまれです。
[過去に使用されたヒト下垂体性成長ホルモン中の病原体混入に関する問い合わせについて]
(1996年、成長科学協会の見解)
◆HIVは抽出操作で完全に除去されているので心配は全くない。
◆我が国では使用された成長ホルモン剤は全く純度の高い製品で、
これで治療を受けた患者さんからは、現在までクロイツフェルト・ヤコブ(C・J)病は、1例も発症していない。
更に、ヒト下垂体にC・J病原体を混入し、抽出操作を行った製品でも病原体は完全に除去されている。
したがって、今後C・J病が発症する心配はない。CJ病=狂牛病
*注(現在では、遺伝子組換えによるヒト成長ホルモンを使用するため心配ありません。)
成長ホルモンと白血病とは因果関係があるか?
我が国では成長ホルモン治療を受けた人から白血病の発症が報告されていますが、現在のところ、成長ホルモン治療が白血病を引き起こすという直接的な証拠は認められません。それよりも、成長ホルモンが足りない方がリスクが高いのではないかと考えられています。
成長科学協会の正式勧告;成長ホルモンと白血病との間の因果関係は不明である。
外国ではヒト成長ホルモンによる白血病の危険はほとんど心配されていない。
(5)成長ホルモンの効果と二次性徴の発現
二次性徴が早いと最終身長は低くなる。
「わせ」よりは「おくて」の方がよい。→性的関心を持たない。
女子初潮時身長は145cm以上 男子変声時期は155cm以上
平均初潮年齢は小学6年生 平均声変わり年齢は中学2年生
女子で140cm以下の身長で生理が来たり、男子で150cm以下の身長で変声が発現するとその後は身長の伸びがあまり期待できません。最近は性腺刺激ホルモンを抑制する薬剤が開発されこれを成長ホルモンと併用することにより生理を押さえたり、変声時期を遅らせたりして最終身長をさらに伸ばす方法も検討されています。
(6)成長ホルモン終了成人の肥満度
成長ホルモン終了数年後に肥満になる傾向が強い。GH投与中から運動を日課とする。
骨とカルシウムと食事
低身長を伴う児童生徒およびその家族は成長ホルモンの知識のほかに、骨の役割を理 解しカルシウムを毎日600mgとることと運動することにより骨をつよくし、将来起こり得る骨粗しょう症の予防を自覚することが肝心である。
骨の役割
(1)骨は、体をささえる支柱としての役割がある。
長管骨;四肢にみられる長い筒状の骨、脊椎骨、大腿骨、脛骨
(2)カルシウムを蓄え、それを供給する役割がある。
体重60kgの成人は約1kgのカルシウムが体内にあり、その99%が骨や歯に含まれている。残りの1%は血液中や細胞内にある。カルシウムが不足すると、骨のカルシウムが少しずつ溶けだし全身の細胞に補給するいわば骨はカルシウムの貯蔵庫でもある。
(3)臓器を守る。
脳や心臓、肺などの体の大切な臓器を外部からの衝撃から守る。頭蓋骨、肋骨、骨盤骨
(4)骨髄で血球をつくる。
骨の表面は骨膜で覆われ、表面近くは皮質骨、内側は海綿骨で構成され、海綿骨の編み目の間と骨の中心部の空洞には、骨髄が詰まっており、赤血球、白血球、血小板などの血球がつくられている。骨は血球の製造工場という役割がある。