スネイプvsグリフィンドール
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ホグワーツ魔法魔術学校の夜は基本的に静かだ。
禁じられた森から微かに聞こえる動物たちの声や、ふくろう小屋の鳴き声も慣れた者にとってはよい効果 音にすぎない。
ホグワーツ生は、夜外出を禁じられている。
子供に十分な睡眠を取らせる目的、夜間外出の危険から生徒たちを守る目的、更に規則遵守の癖をつける 目的もある。
いつもは、寮監のフィルチが愛猫を連れて見回りをしていることが多い。
だが残念なことに、フィルチは今朝悪戯好きで有名なウィーズリー家の双子の手にかかり、口から泡が湧 き続けるという妙な魔法をかけられてしまって、見回りができない。
そこで、教授たちの間で話し合った結果、魔法薬学の教師であるセルブズ・スネイプが見回りを買ってで ることになった。
セルブズ・スネイプ。
彼は、本来なら「闇の魔術に対する防衛術」の担当教師に十二分になれる素質を持ちながら、「魔法薬学 」の教師に甘んじている。スリザリン寮を受け持ち、授業でもスリザリン生に対する露骨なえこ贔屓で有 名だった。
彼は、あのハリー・ポッターが、自分のライバルであるジェームズ・ポッターの息子であるというだけで 、一方的に意地悪をするという、あまり醜聞の良い話ではない行為も平気でする。
だが、彼にとってはそんな他人の評価などどうでもよかった。
ただ、自分の研究がうまくいけばよいのだ。
生徒たちを苛めるのも楽しい行為だが、そんなのは単なる暇潰しにすぎない。彼は、大切なのは要は自分 といった人種だった。
スネイプは手元に魔法で明りを灯し、億劫そうにグリフィンドール寮を見回っていた。
時折強い風が吹いて、ガラス窓をカタカタ鳴らしている。暗闇の中、響くのは彼の足跡と、ガラスの音ば かり。
「別に異常はないな。そろそろ切り上げるか」
そうひとりごちたその時。
後ろでコトリと小さな物音がした。
くるっと振り向いてみたが、先ほどとなんの変化もない。
「・・・なんだ?」
本当なら確かめるべきだ。いつものスネイプならそうするだろう。
だが、昨日ノクターン横丁でとても興味深い闇魔術の本を見つけてしまい、それにかかりきりで徹夜して しまったものだから、スネイプはもうどうでもいいという気分だった。
そのままスネイプが去ってくれれば、話はここで終わりだっただろう。
だが、世の中そう都合よくはいかなかった。
カタン!
更に物音が響いた。
今度はかなり大きな音だ。
「いったいなんなんだ!」
口の中で悪態をつきながら、スネイプはさっき通った廊下を逆戻りした。それも早足で。


一方。
声の主はというと・・・・・。
「おい!声立てるなよ!」
「悪い、フレッド!」
そう、双子だった。
「今日はフィルチのいない絶好の探検日和だと思ったのに、なんでスネイプがいるんだよ」
「そういうなって。しかたないさ、こればかりは」
「あ〜あ。折角フィルチをやり込めたと思ったら、もっと手強い相手がでてきたぜ」
「たしかに」
ひそひそと話す。
その声は、掃除用具棚から漏れていた。
二人はスネイプを見かけてしまい、危ういところで掃除用具棚に飛び込んで隠れたのだった。
だが、成長途中とはいえ、ふたりの体はそう小さなものではない。
奥が深いわけでもなく、横広いわけでもない用具棚の中で、ふたりは身動きさえ取れなかった。
「どうしようか・・・・」
そう相談していた矢先、ひたひたひたと足音が近づいてきた。
「うそ!もう戻ってきたのか!?」
「まさか、もうバレた!?」
ふたりは背中にヒヤリとしたものが流れるのを感じた。
「誰かいるのか!?」
用具棚の隙間から、青白い光りが差し込んでくる。
もうだめか!?と思った時、バターーーーンというものすごい大音が響いた。
「ちっ」
舌打ちが聞こえたかと思うと、スネイプは、音のしたほうへと駆けていったらしい。足音が次第に小さく なっていった。
「ふぅ・・・命拾いしたな」
「本当だよ・・・な、フレッド。今夜は日が悪い。やめとくか?」
「・・・・そうだな、残念だけど」
ふたりは、スネイプの足音が聞こえなくなってから、用具棚から静かに――――音を出したら、またもや スネイプの餌食になるだけだから――――でて、そっと部屋へ戻るふたりだけの特別な扉へと向かった。
「あ〜ぁ。埃だらけになちゃった」
「・・・汚れたなぁ・・・。今日は成果ゼロか〜」
「帰ろうか」
「うん」


スネイプは、大きな音のしたほうへと駆けた。
どうやら、階下らしい。 太った婦人の扉の方向からだと予想し、大急ぎで走った。
逃げられてはもともこもない。
スネイプはそう若くもないから、あまり走ったりするのは得意ではなかった。体力の問題だ。
はあはあと荒い息を吐いて、太った婦人の扉までたどり着いた時には、もうくたくただった。
しかし、そこにいた人間をみた途端、スネイプの気力が復活した。
ハリー・ポッターたちだった。
「お前たち!そこでなにしているんだ!!」
さっきの音以上の大きな声で怒鳴る。
「あ・・・スネイプ・・先生・・」
赤い髪の少年――――ロナルド・ウィーズリーが顔色を真っ青にしていた。
「せ、先生。すみません。実は・・・」
言い訳をしようとしたロンの台詞を聞く耳もたぬとばかりにねめつけて、いう。
「こんな夜中に外にいこうとしたのか!どうなるかわかっているだろうな」
視線はだたただハリー・ポッターへと向かう。
だが、そんなきつい視線を受けながらも、ハリーは表情を変えようとしない。飄々としていた。
そして、口の端をふっとあげていった。
「先生。ここにいるの、誰だかわかりますか?」
「なにをいっているんだ!」
「よく、見てください」
ばかばかしいと思いながらも視線をハリーの右後ろに向けると、そこにはスネイプを仰天させる者がいた 。
「マ、マルフォイ!!」
ドラコ・マルフォイ。
スリザリン生のなかでも、スネイプのお気に入りだった。
その根性や性格の悪さ、家柄などどれをとってもスリザリンにふさわしい人間だと思っている。
そのマルフォイが、この場にいるのだ。
ここはグリフィンドール寮。スリザリン寮の生徒のいてよい場所ではない。
なぜ?と問いただしたい。
だが、ここで問いただすと、必ずハリーらとともに罰せねばならなくなる。
そう、スリザリンから点数をひかねばならなくなるのだ。
スネイプはそれだけは避けたかった。自分から自分の寮の点数をひくなんて・・・・。
「先生、すみません。スリザリンの自室のベッドで寝ていた筈なんですけど、いつの間にか気がついたら ここに立っていたんです。偶然トイレにいこうとしていたハリー・ポッターたちにみつけてもらって、こ こがグリフィンドールだってわかって。 もしかして、僕は夢遊病かもしれない・・・。 どうしたらいいんでしょう!先生!!」
涙を両目に浮かべて真剣な表情で訴えかけるマルフォイを見て、スネイプは戸惑った。
どう考えても、この話はおかしい。
例えマルフォイが夢遊病だとしても、こんな別の寮まで入ってこれる筈がない。なにしろ、寮には各々門 番ともいうべき存在がいるのだ。グリフィンドールでいうなら「太った婦人」だ。
合言葉も知らないのに、入れる筈がない。あってはいけない。
「・・・・それが本当だというのなら、どうして合言葉を知った。合言葉がないと入れる筈がない!」
スネイプは、グリフィンドールの合言葉を知っていたから、間違っていたらすぐわかると思いそう尋ねた 。
「・・僕、グリフィンドールの合言葉知ってます。ここにいるポッターたちが話しているのを聞いたので 」
「だとしたら、合言葉はなんだ、いってみろ」
「『ねじねじ子猫』です」
あっていた。確かに、昨日変えられたばかりの合言葉だった。
「先生、僕たちがうっかり合言葉をもらしてしまったから・・・」
「もういい!」
「罰はないんですか?」
ハリーが聞いた。
「病気ならどうしようもないだろう!ポッター、おまえたちはマルフォイを助けたということで今回は見 逃すことにする」
そうするしか、スリザリンの点数を減らさない手段はない。ぎりぎりの選択だった。
この際、信じたもん勝ちだった。
「僕、もうスリザリンへ戻ります。先生も見回りを続けられてください」
マルフォイは地べたに座り込んでいたのだが、起き上がって太った婦人に合言葉をいう。
「マルフォイ!明日、わたしの部屋へきなさい。相談にのろう」
「ありがとうございます」
「ポッター!おまえたちはすぐさま部屋に戻るんだ!わかったな」
「「はいっ」」
ハリーとロンが声を揃えて返事をする。
スネイプは、後味の悪そうな表情をしながら、ハリーたちが去っていくのを見た。
そして姿が見えなくなると、見回りの済んでいない上の階へと戻っていった。


そして、その数分後。 太った婦人の扉がまた開いた。
そしてそこにはハリーとロンの姿もある。
「もう〜、大変だったわ!本当はこんなことしたくないんですからね!?わかってるの、ふたりとも」
「すごいよ、ハーマイオニー。あれだけ完璧に化けるなんて!見物だったよな、あのスネイプ」
小声でくすくすと笑う。
「もう、こんなことをする羽目になったわたしのことも考えてみなさいよ!!」
「だけど、だませてよかった。見つかってたら大変だったよ」
「ハリー!わたし、好きでこんなことしてるんじゃないんですからね!勘違いしないで」
「わかってるよ、ハーマイオニー」
「じゃあ、とにかく、ここに居続けるのもまずいから、早くいこうよ」
「そうね、なんの為にマルフォイに変身したのかわからないもの。早くいきましょう。時間がもったいな いわ、一瞬しか見れないんですもの」
「いこう!」
三人――――そう、さっきのマルフォイは、スネイプを誤魔化す為に、ハーマイオニーが魔法で変身して いたのだ。疲れて判断能力の落ちていたスネイプだからこそ、うかっりと騙されてしまったのだ。気の毒 なことだ。
優等生のハーマイオニーは、どうしてもどうしても今日にしか見られないものを見るために、男子寮へと やってきていた。
だが、焦っていた三人はついうっかり、おもいっきり扉をしめてしまったのだ。
それで、スネイプに見つかってしまったのだ。
前々から見つかったときのために、と変身術を磨いていてよかった、とそう後でハーマイオニーは漏らし た。
三人は、足音に気をつけながら、そっと透明マントを被り、天文台へと向かったのだった。




翌日。 妙な噂がグリフィンドールに流れてきた。
スリザリンの、あのドラコ・マルフォイが、病気らしいという噂だ。
スネイプにいろんな薬を飲まされたらしい。
そう、スネイプは、マルフォイがすっかり夜中の出来事を忘れていることに驚いて、本当に夢遊病だと信 じたらしかった。
自分の手で直してみようと、試作品の薬を飲ませたところが、マルフォイはなんだか寝込んでしまったのだ。
噂を聞きつけたハリーたちは、談話室の隅でこっそりと笑いあったのだった。




HP「KINGDOM」と「ハリポッターウェブリング」を運営されている、狩夜ひびきさんのハリー小説です。
「ハリーポッターウェブリング」の登録件数が20件を超えたとのことで、記念に書かれて、登録サイトさんに送られた小説を、掲載させていただきました。

普段、ハリーをいじめられてる、スネイプとドラコが受難を受けて、ちょっとすっきり!
スネイプの心理が笑えます。涙ぐむドラコ見てみたい〜!さぞ、情けないことでしょう。
あと、やっぱり、ハーマイオニーはかわいいな。
ところで、「どうしてもどうしても今日にしか見られないもの」とはなんなのでしょう?気になります。(笑)

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