風の悪戯
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 ハリーが友人であるロンとハーマイオニーと共に寮へと入ろうとしたとき、一枚の紙が彼らの足元へとひらりと舞い降りた。
「なんだよ、これ?」
 ロンが瞬きながらそれを拾おうと手を伸ばす。
 その日は風の強い日だったのでどこかからか飛ばされてきたのだろうと、ハリーは辺りをキョロキョロと見回し持ち主を探した。すると随分と場所にこちらを見ているひとりの少女の姿を確認することが出来た。相手の顔も判断できないあの場所から風で飛ばされたとはちょっと考えにくいが、他に人影がまったくないのできっとあの子が持ち主だろう。そう思い、ハリーは遠くの彼女にも聴こえるようぶんぶんと手を振りながら大きな声で呼びかけた。
「おおーい!これは君のものかいっ!?」
 すると彼女はくるりと踵を返してもっと遠くのほうへと駆け出してしまった。
「あれ……?」
 彼女のものじゃなかったのかな?と、すると自分は関係ない人にあんな大声で声をかけたのか。ハリーはぽりぽりと頬を掻きながら苦笑した。

「……ねぇ、ハリー」
 おずおずとかけられた声にハリーは振り向く。向いた先には先ほどの紙を見ながらなんとも言えないような顔をしている二人の友人。
「なに?」
 その様子にハリーが少し首を傾げていると、二人は顔を見合わせてどちらが先に口を開くか押し付けあっていた。
「どうしたの?」
 ますます首を傾げるハリーに、ロンが複雑な顔のまま手に持つ紙を静かにハリーに見せた。
「……これって君だよね?」
「僕……?」
 その紙に――さっきは気がつかなかったが、どうやらそれは画用紙らしい――描かれていたのは明らかに自分の姿。しかもご丁寧に『Harry Potter』と名前まで書かれているから間違えようもない。
「これって……僕、だよね?」
 先ほど問われたばかりの言葉をつい呟く。
「うん」
「そうよね」
 頷く友人の顔を見てハリーは困惑した。
 確かに描かれているのは自分なのだけれど、これを描いた人も描かれたときも思い当たらないのは何故だろう?そう言うと、ハーマイオニーは大袈裟に溜息を吐いた。
「……それ、本気で言ってるの?」
「え?もちろん本気だけど……」
 答えるとハーマイオニーは小さく「鈍いわ」と呟く。ハリーが困ってロンに助けを求めると彼も額に手を当てて溜息を吐いた。
「え?え?え?」
 友人二人はどうやらいろいろ理解しているらしい、自分だけ分からないという事にますますハリーは困惑した。
 そんな彼の姿をみて、今度は二人同時に盛大な溜息を吐くとハーマイオニーが口を開いた。
「……これの持ち主らしい人、ハリーも見たわよね?」
「さっきの娘?でも呼んだらむこうに行っちゃったし、持ち主じゃないんじゃないかな……」
「彼女に決まってるじゃないっ!!」
「ハ、ハーマイオニー落ち着いて……」
 大声を上げた少女をロンが慌てて取り成した。
「だって!こんな女の子の気持ちも分からない人いないわよっ!!」
「いや、確かにそれは僕もそう思うけど……でもここは寮の前なんだし、ねっ!」
 よく分からないがなんだか酷い言われようにハリーはムッとする。
「女の子の気持ちってなんだよ?それがこの絵と何の関係があるんだい?」


「あるに決まってるでしょう!!」
「ハ、ハーマイオニー〜〜っ!」

 憤るハーマイオニーをロンが抑えようとするが、そんな彼を振り切って少女はハリーに言い募る。
「ハリーはこの絵のモデルになったことないのでしょう?それじゃあこの絵を描いた娘はハリーにモデルは頼めないけど、それでもハリーの絵を描いたのよっ!」
「……だからそれがなんだって言うんだよ?」
「〜〜〜〜〜っ!!(←頭に来て声も出ない)」
「……ハリー、君、本当に鈍すぎるよ」
「だって分からないものはしょうがないじゃないか」
 いったいこの絵がなんだって言うんだ。二人の言いようにハリーは不貞腐れ気味に呟いた。
「本当に解らないのかい?」
「うん」
「本っ当の本当に?」
「しつこいよ、ロン」
 ハリーが苛立った声でそう答えるとロンは溜息を吐く。ハーマイオニーは呆れて横を向いてしまった。
「いいかい、ハリー。この絵を描いた娘はね、きっと君のことが好きなんだよ」
「ふーん、なんだそんな……」
 事か、と答えようとしてハリーは言葉を失った。
「ねぇ、今なんて言ったんだい?」
「二度も言わせるなよ……」
「だって、自分の耳が信じられなかったから。……でも、じゃあさっきのは僕の聞き間違いじゃなかったんだ……」
「そうよっ!当たり前でしょう!!」
 なんでこんな事も解らないのよ。と、怒鳴るハーマイオニーにハリーは今度は素直に返事する。
「ごめん」
 けれどでも、と呟いて。
「何でハーマイオニーはそんなに怒っているんだい?」


「あなたが鈍いからに決まってるでしょうっ!その絵を描いた娘が可哀相よ」

「ハーマイオニー落ち着いてくれよ」
 困りきった顔をしたロンに宥められてハーマイオニーは息を吐いた。
「……その絵。決して上手くないけどハリーのことが好きだっていう気持ちがいっぱい詰まってるわ。だからその気持ちをちゃんと解ってあげないとその絵を描いた娘が可哀相だと思ったのよ」
 少し頬を染めて言うとハーマイオニーは踵を返してさっさと寮の中へと消えていった。
「お、おい待てよ、ハーマイオニーっ!」
 慌ててその後をロンが追っていき、ハリーはその場所に一人残された。

 手の中には自分の姿が描かれた画用紙。
 ハーマイオニーに言われたことを思い返してその絵を見ると確かに心が温かくなる気がする。
――誰が描いたんだろう?
 残念な事にこの絵を描いた彼女の顔は余りに遠かったためにわからなかった。ただ雰囲気と髪の長さで女の子だということがわかっただけだ。どの寮のどの学年の娘かもわからない。もしかしたら自分の知っている娘かも知れないな。
 そう考えて、ハリーは何故だかうきうきした気分になっている自分に気がつく。
 誰だか解らない誰かが、自分のことをこんな温かな気持ちで想っていてくれている。それはとても幸せなことだな、とハリーは思った。
 いつかこれを描いた娘がわかる日が来ると良い。そうしたら自分を描いてくれたお礼が言いたいな。
 その日のことを考えるとますますハリーの心は暖かくなっていったのだった。



.End




ちょこさんのHP「晴耕雨読」さんの4000HITキリ番を踏みまして、ハリーイラストをリクエストさせていただいたんです。そのイラストのできた理由的な小説書かれていたので、それも、頂いてきちゃいました♪

イラストはこちらからどうぞ。→こちら

ハリーの鈍鈍具合と、ハーマイオニーの怒りっぷりがとても気持ちいいです!
もしかして、ハーがとある彼女の肩を持って大怒りするのは、ハリーが鈍くて、ハーの気持ちに気づいてくれないから??なんて深読みしてしまいました。
ちょこさんによると、怒ったハーを追いかけたロンとハーの間にはひと悶着あったそうです♪
実際、ハリーはとてもモテると思うんです。私。だって、有名人だし、クディッチの名選手だし、ヴォルデモードと対決して勝ってるし!かなりミーハーな私だったらもう、イチコロでしょう。
何人の女の子がハリーに思いを寄せていることかしら。でも、ハリーは鈍いので言い出しづらいと・・・。なんとなくわかるなぁ、その気持ち。妄想〜。

ちょこさん、ありがとうございました!!

「晴耕雨読」さんはこちらからどうぞ。→こちら
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