独占
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宮内を慌しくかける足音が響いていた――――。
まだまだ発展途上国の慶国は、官吏がいつも忙しそうに走り回っていた。
そんなある日の朝。
一人の女御が大きな荷物を抱えて宮内の廊下を足早に走っていた。
「――― どうした?その荷物??」
荷物で前が見えない女御の前方から聞き覚えのある声がした。
女御はあわてて御辞儀をしようとして、バランスを崩し、抱えていた荷物を
その御人の方にぶちまけてしまった。
前方に荷物がなくなり改めて声の持ち主の顔があらわになる。
「あぁ!申し訳ありません!将軍様!お怪我はありませんか?」
やってしまった自分の失態に慌てて女御はその御人を助け起こす。
荷物をかぶってしまった当の本人はけろりとしたもので顔の前で
軽く手を横の振ると、
「あぁ。大丈夫。気にするな。すごい荷物だな(笑)」
と軽く笑った。
そういって立ち上がった御人は女御から見ればはるか上の官吏、
禁軍将軍 ―― 桓たいであった。
たくさんある荷物を要領よく集めひょいと肩にかかえると
女御に向かって、笑顔で言った。
「手伝おう。どこまで持っていけばよい?」
慌てた女御は荷物を返してもらおうと桓たいに向かって
「そんな!とんでもありません。将軍様の御手をわずらせるなど!」
とひたすら恐縮していった。
そんな一生懸命な女御を軽く苦笑すると桓たいは女御の頭をぽんぽんと叩いた。
「そんなこと気にするな。大変そうな人がいたら助けるのはあたりまえだろう?
うちの主上だってきっとこうするだろうさ(笑)」
苦笑した女御は、かすかにほほを染めると笑いながらお願いした。
「では、申し訳ありませんが、書庫までお願いいたします。」
二人は並んで書庫の方に歩き始めた ―――。
■□■
「・・・い?」
「―――― 祥瓊?」
祥瓊は、軽く肩をぽんっとたたかれてびくっと肩を振るわせた。
「え?あ。なに?陽子?」
と外の廊下を見ていた祥瓊は焦って振り向いた。
予想外にびっくりしている祥瓊をみて、陽子は苦笑すると
「いや。すごい険しい顔しているみたいだったから。なにを見ていたんだ?」
と言いながら祥瓊の肩越しに外の廊下を眺めた。
そこには、特に変わったものはなくいつもどおりの外殿の廊下が見えるばかりであった。
「?なにかめずらしいものでもあったか?」
不思議そうな陽子を誤魔化すように、陽子の肩に手を置くと
「なにもないわよ。さーさ、早く政務に戻らないとまた景麒が
不機嫌オーラをまとってやってくるわよ?(笑)」
とにっこり笑顔で言った。
陽子は首をかしげたがやがてこくりとうなづくとじゃあといって去っていった。
陽子が去ったのを見送ると、祥瓊は先ほどの不機嫌の原因が通り過ぎた
あとの廊下をきっと一瞥するとやがて仕事に戻っていった。
■□■
その日の夕方、洗濯物を大量にかかえて祥瓊が最後の仕事を終えようと
長く続く廊下を足早に歩いていた。
(あーあ。洗濯物もたまると結構な重さになるのよねぇ)
と一人心の中で愚痴っているとひょいっと突然洗濯物が手の中から消えた。
びっくりして洗濯物の行方を追うと斜め後ろに肩に洗濯籠をかつぎ
にっこりと笑う桓たいの姿を発見した。
「すごい量だな(笑)持っていってやるよ。」
お礼を言うべき立場の祥瓊であったがしばらく桓たいをじーと見ていたのち、
やがてぷいっと歩き出した。
桓たいはその様子にひょいと肩をすくめると祥瓊の隣に並ぶべく後をおって歩きだした。
「・・・えーと。祥瓊はなんでご機嫌斜めなんだ?」
と歩きながら尋ねた。
頭に怒りマークをつけながら、祥瓊はちらっと桓たいのほうを見たがすぐに
前に向き直ると小さな声で
「別に。」
とつぶやいた。
その様子に、祥瓊の不機嫌の原因がまったくわからない桓たいは足早に
祥瓊を追い抜くとくるっと祥瓊の前で立ち止まった。
行く手をさえぎられた祥瓊は仕方無しに立ち止まると桓たいを見上げて
「どいてよ。進めないじゃない(怒)」
と怒りをあらわにしながら言った。
桓たいは、まじめな顔に戻って祥瓊を見ながら聞いた。
「じゃあ、なんで怒っているのか教えろよ?
俺、なんかした?」
「〜〜〜〜。」
しばらく、むーーーーっとしていた祥瓊であったがやがて観念したように
「あーー!っもう!だいたい桓たいは女御たちみんなに
やさしすぎるのよ!ばか!」
と早口でまくし立てた。言われた当の桓たいは「は?」と
目を丸くすると祥瓊のセリフを反芻した。
「・・・・・えーと・・・?みんなにやさしい?俺がいつ?」
ぽかんとした桓たいの脇をするりと抜けると祥瓊は足早に歩き始めた。
「だいたい自覚がないんだもの。今朝だって、女御にやさしく
していたし。女御がほほを染めて桓たいをみていたこと知ってた?
私のこと好きとかいっていたくせに誰でもいいんじゃないの?」
と祥瓊は独り言のように言った。
ぷりぷりしている祥瓊においていかれるカッコになった桓たいであったが
そこでようやく祥瓊の不機嫌の原因を理解するとふっと口の端で笑うと
祥瓊の隣まで足早に歩みを進めた。
怒っている祥瓊の顔を覗き込むように自分の顔を祥瓊の顔の位置まで
下げるとにやにや笑顔でつぶやいた。
「それって・・・やきもち?」
それを聞いた祥瓊は、かっと真っ赤になるときゅうに立ち止まった。
「っっな!違うわよ!なにいってる・・・んんっ」
反論しようとした祥瓊の口を桓たいが自分の口で強引にふさいだ。
舌をからませて軽く吸い取ると、ようやく桓たいは祥瓊からはなれた。
祥瓊は両手で自分の口を抑えるとその場にへたり込んだ。
そんな祥瓊をみながらくくくっと笑いをこらえると桓たいは祥瓊の
目線にあわせるように座り込んだ。
桓たいは洗濯物をとりあえず床に置くと
祥瓊の首に両手を回して首の後ろのところを
ぐいっと自分の方に引き寄せた。バランスをくずした祥瓊はぽすっと
桓たいの肩のあたりに額があたる。
頭の上から心地よいトーンの声がした。
「こまっている人がいたらそりゃ誰であろうとたすけるけど・・・
こうやって接吻したいとか抱きしめたいとか思うわけじゃない。
祥瓊は特別なんだ。」
(私は・・・特別・・・?)
桓たいのセリフを心の中で反芻していた祥瓊はきゅーと胸が鳴いた。
ぽろっと静かに涙が流れた。
普段、落ち着き払っていて余裕綽々な桓たいであったが祥瓊の涙を
みた瞬間、みたこともないくらい取り乱していた。
「・・・あれ?どっどした?大丈夫か??」
そんな桓たいを見てくすりと苦笑するとそっと桓たいの肩を押すと
額を肩から離した。
そして、自分の流している涙をすっと指ですくい上げると
じっと見つめた。
「――――
はぁ。弱いな・・・私。自分がこんなに独占欲の強い
人間だと思わなかった。昔は、だれかれちやほやしてくれていたから
独占したい人なんていなかったし・・・。」
桓たいは動揺していたがやがて祥瓊の頭をぽんぽんと叩くと
「独占してくれていい。俺は祥瓊だけのものだと思えよ。」
と笑った ――――。
「へぇ。桓たいは、祥瓊だけのものなんだ?」
聞き覚えのある声がしたのでふたりしてばっと顔をあげると
そこにはいつも見慣れている慶国の主、景王――陽子が立っていた。
ふたりの世界に入っていた二人であったがその瞬間、そこは
外殿の廊下であることを思い出した。桓たいは慌てて、
立ち上がり御辞儀をすると焦りながら弁解した。
「え?いやっ!あの!けして主上のために働かないとかそういうことでは
ないのです。えっと、その・・・」
一生懸命弁解している桓たいに苦笑すると陽子は、軽く手をふった。
「あぁ。別に責めているわけではないよ。ただ、私もたまにはそういうセリフを
言われてみたいな〜とか思っただけだ。ねぇ?」
最後のねぇ?は、桓たいにではなく陽子の斜め後ろにいる
一人のすらっとした男性に向かっていっていた。
そこには祥瓊と桓たいのやりとりを見ていたのか
すっかり真っ赤になった楽俊がたっていた。
「〜〜〜よっ陽子〜(汗)」
くすくすと笑うと陽子は桓たいと祥瓊にごゆっくりと
ウィンクすると連れの楽俊を先に促した。
だんだん離れていく二人の足音にまじって
「言ってくれるよね?楽俊?ん?」とか陽子が楽俊をいじめているセリフが
途切れ途切れに聞こえた。
しばらく呆然としていた桓たいと祥瓊であったが
やがて顔を見合わせると噴出して笑った。
ひとしきり、笑いあうと桓たいは座り込んでいる祥瓊にすっと手を差し伸べた。
その手をつかんで立ち上がると二人はまた歩き始めた。
しんと静まり返った外殿の廊下を夕日が斜めに廊下を赤く染めていた――――。
了
とうりさんのHP「無機質空間研究所」さんの36000HITキリ番をゲットして、リクエストして、 頂いた、祥瓊v桓タイSSです。 とうりさんのHPに祥瓊v桓タイSSがありまして、それを読ませていただいていたのですが、その、祥瓊と桓タイの小説とイラストにすっかり参っていた私は非常にシチュエーションの細かいリクエストしてしまいました。 祥瓊がかわいいんですよ〜!絶対、祥瓊が恋愛するとこういう感じだろうな〜。っていう、あの態度。むーっとしたり、赤くなったり。かわいすぎます。こういう、気持ちが正直に顔や態度にあらわれちゃうけど、意地をはっちゃう女の子って大好きなんです。 桓タイの鈍感ぶりも彼らしい〜! 最後には、楽俊v陽子も見られるし。 とうりさん、リクSSありがとうございました!! とうりさんの祥瓊v桓タイや、楽俊v陽子などのSS、イラストがたくさんみることができる、無機質空間研究所さんはこちらからどうぞ。→こちら リンクのページからも飛べます。 |