文: 遠藤利吉イシバシ楽器オリジナルとして'96年に発売されたFender Japanのミディアム・スケール、ナローネック、スリムネック、10mmビッチのストラト。定価は119000円だった。
'98年にフロント・ピックアップがディマジオのVirtual Vintageになった「STM-DS2」(128000円)も発売された。
アメリカの"Harmony Central"という音楽サイトにこのギターの採点が載っている。
《 特 徴 》
・ ミディアム・スケール (24 3/4インチ ≒ 628.6mm) ・ ナローネック (ナット幅 1 9/16インチ ≒ 40mm) ・ スリムネック (ネック厚 1フレット19mm、12フレット20mm、Cシェイプ) ・ 指板 305R ・ ラウンドカット・ヒール ・ 10mmビッチ・ブリッジ ・ 0.3mmナイフエッジ ・ エンドロックス ・ 2ピックアップ 1ノイズキャンセル・コイル (DS Customのみ) ・ その他 オールダー(Alder)・ボディー
メープル・ワンピース・ネック ボーンナット 22フレット
フレット 幅 2.4mm 高さ 1.2mmカラー キャンディーアップル・グリーン
キャンディーアップル・レッド
レイクプラシッド・ブルー
ホワイト販売時の弦 S.I.T. Dr.Siegel's Custom Gauge
《 解 説 》
ミディアム・スケール
ギターの弦の振動部の長さ、つまりナットからブリッジ・サドルまでの長さを「スケール」と言い、これがギターを設計する時の基本となる。
但しブリッジ・サドルの位置は弦によって異なるので、設計上は「直径がほぼ0、弦高もほぼ0の理想的な弦を想定した場合のナットからブリッジ・サドルまでの長さ」をそのギターのスケールと言う。従ってスケールは実際の弦のナットからブリッジ・サドルまでの長さと同じにはならないが、ナットから12フレットまでの長さのニ倍に等しい。そのため日本ではスケールをナットから12フレットまでの長さ(スケールの1/2)で表示する事もある。
ギターには色々なスケールのものがあるが、ポピュラーなものは次の三つである。
ロング・スケール (25 1/2インチ≒ 648mm) フェンダーのストラトキャスター、テレキャスター、及びそのコピー等‥
ミディアム・スケール (24 3/4インチ≒ 628.6mm) ギブソンのレスポール、フライングV、SG、及びそのコピー等‥
俗にギブソン・スケールとも言われる。
ショート・スケール (24インチ≒ 610mm) フェンダーのジャガー、マスタング、デュオソニック、及びそのコピーがショート・スケールであるが、マスタング、デュオソニックは年代によって22 1/2インチ≒ 572mmのものもあり、又ギブソンにはES-140T、バードランドという23 1/2インチ≒ 597mmのギターもあり、これ等をジュニア・スケールとかエクストラ・ショート・スケールと呼ぶ事もあるし、24インチ以下のものを総称してショート・スケールと呼ぶ事もある。
指板上のフレットは基本的にはスケールを整数等分した位置に配置され、例えぱ12フレットはナットから「スケールの1/2の長さ」の所、7フレットはナットから「スケールの1/3の長さ」の所、5フレットはナットから「スケールの1/4の長さ」の所‥というようになる。
但し、純正調と平均律との差があるので全てのフレットが整数等分した位置にはならないが、フレットの間隔はスケールによって決まるので、自分の手に合ったギターを選ぶにはスケールが重要になる。
右の写真でポール・ギルバートと成毛の手の大きさの違いを見て戴きたいが、ロング・スケールはポールのような手の人に合わせて作られたもので、成毛のような手では条件が違い過ぎて手に合わない。
その点ミディアム・スケールはフレットの間隔が狭く、成毛の手にも合うので、STM-DS Customはスケールをミディアム・スケールにし、全体の重量バランスが狂わないように、ボディーもスケールが短くなった分と同じ比率で小さくしてある。ナローネック
フェンダーのギターはディタッチャブル・ネックであるため、'60年代には各ギターに次の四種類のナット幅のネックがあり、ギターを買う時に自分の手に合ったネックを選んで買う事ができた。
A. ナローネック 1 1/2インチ≒ 38mm
B. スタンダードネック 1 5/8インチ≒ 41mm
C. ワイドネック 1 3/4インチ≒ 45mm
D. エクストラ・ワイドネック 1 7/8インチ≒ 48mm
(※ エクストラ・ワイドネックはサンプルが作られただけで、実際に買った人はいなかったらしい)
それに対しギブソンのギターはセット・ネックであるためネックを選ぶ事はできないが、'65年から'76年頃にはギターによって次のようなナット幅があった。
ナローネック 1 9/16インチ ≒ 40mm (SG, ES-335‥等)
スタンダードネック 1 11/16インチ≒ 43mm (Les Paul, ES-355‥等)
ワイドネック 1 3/4インチ ≒ 44.4mm (Johnny Smith‥等)
(※ SG、ES-335等は'76年頃以降スタンダード・ネックになった)
STM-DS Customはミディアム・スケールであるため、ギブソンのナローネックのナット幅になっている。
スリムネック
ネックの厚さに関しては特に規格は無く、フェンダー、ギブソンとも昔は適当に削っていたようであるが、ネックの厚さが相対的に薄いものを一般 に「スリムネック」とか「スィンネック(Thin Neck)」と言う。
又、ネックの裏側が尖って断面が三角形になっているものを「Vシェイプ・ネック」、ネックの裏側が丸くなっているものを「Uシェイプ・ネック」と言い、ネックの裏側が丸くてかつ薄いものを「Cシェイプ・ネック」とも言う。
'60年代のギターのネックを何本か実測してみた結果は次の通りであった。(サンプル数が少ないので、単なる参考に‥。)
フェンダー・ストラトキャスター
1フレットのセンター 21.5mm
12フレットのセンター 22.5〜23.5mm
ギブソン・レスポール
1フレットのセンター 22.5〜23mm
12フレットのセンター 24.5〜25mm
それに対してSTM-DS Customは‥
1フレットのセンター 19mm (塗装前)
12フレットのセンター 20mm (塗装前)
‥で、裏側が丸い「Cシェイプ」である。
指板 305R
指板の表面の丸みは例えば「250R」というように表わされるが、これは「指板の表面の丸みが半径(Radius)250mmの円の円周と同じ」という意味である。Rの数値が大きいと指板の表面は平らになり、数値が小さいと指板の表面は丸くなる。
初期のフェンダーの指板には178Rというものもあり、'80年代の指板には430Rというものもあった。
成毛は三度腱鞘炎になった事があり、ひどい時にはドアの取っ手も痛くてまわせない程だったが、この痛みが一番ひどい時に184Rから430Rの指板のギターまで片っ端から弾いてみたところ、184Rや430Rの指板は指が痛くてとても弾けなかったが、305Rの指板はそれほど痛くなく、ちょっと我慢すればなんとか弾く事ができた。この事は「305R」の指板が一番指に負担をかけないと考えられ、以後成毛は自分のギターの指板を全て「305R」にしている。
ラウンド・カット・ヒール
普通のストラトで1弦20フレットか21フレットをベンドしようとするとネックとボディーのジョイント部の角が手のひらに当たり、手が小さい者にはベンドしにくい。
ラウンド・カット・ヒールはこのネックとボディーのジョイント部の角を削って丸くしたもので、手が小さくてもここに手のひらを当てると1弦20フレット以上がベンドし易く、手が安定するので正確な音程をつかみ易い。ネックを固定するプレートもそれに合わせて角を丸くしてある。
10mmピッチ・ブリッジ
成毛がゴトー・ガットと幾つもの試作をテストし、新しく型を起こして作ったナイフエッジ2点支持式ブリッジ。
本来のストラトはブリッジの所での弦の間隔が約11mmで、1弦から6弦までの間は約55mmある。そうするとスウィープ・ピッキング等で6弦から1弦まで往復するような場合、手が小さい者には全部の弦をミュートしきれず、開放弦が鳴ってしまい易い。
又、当時のハムバッキング・ピックアップの多くはポールピースの間隔が約10mmだったので、ストラトのリアにハムバッキング・ピックアップを付けた場合弦がポール・ピースの真上に来ず、各弦の音量バランスが悪くなる事があった。
10mmピッチ・ブリッジはブリッジの所での弦の間隔を10mmにしたもので、1弦から6弦までの間は50mmになり、成毛のような手でも全部の弦をミュートする事ができるし、リアにハムバッキング・ピックアップを付けても弦がポール・ピースの真上に来るので、各弦の音量バランスがくずれない。
又、指板上で1〜6弦がセンターに寄るので、ヴィブラートをかけた時にフレット落ちしにくくなる。
ブリッジ・サドルは「焼き入れ鉄」にしてあり、「焼き」を入れていない普通の鉄のサドルよりも摩耗に強く、使っているうちに弦の乗る溝が深くなって弦がサドルに喰い込み、サステインが伸びなくなったり、倍音が出にくくなったりする事がない。
このブリッジは共和商会から"Argus Dr.Siegel THE TEN"という名称で単体でも発売された(¥12000)。
0.3mmナイフエッジ
一般のナイフエッジ2点支持式ブリッジのナイフエッジの厚さは約0.5mmで、これだと抵抗が大きく、アームをアップして戻した時とダウンして戻した時のピッチが同じにならず、チューニングが狂い易い。
10mmピッチ・ブリッジはナイフエッジの厚さを0.3mmにしたため抵抗が小さく、アームをアップして戻した時とダウンして戻した時のピッチの差が殆ど無く、ピッチの復元率が良い。
又、ナイフエッジを受けるスタッドの角度を60°/60°の上下対称にしたためピッチの変化が大きく、使う弦のゲージに合わせて調整すれば、アームを3弦で4度アップ、6弦で2オクターブ以上ダウンできる。
エンドロックス
弦のボールエンドがペグの所へ来て、
トレモロ・ブロックの底でロックする斉藤任弘氏が考案したフェンダー・ジャパン独特のストリング・ロック・システムで、弦をペグの方から逆に通してトレモロ・ブロックの底でロックする。
フロイドローズ等のようにボディーやネックをザグらないのでギターの音色が全く変わらず、ピッキングの邪魔にならず、アームを使ってもチューニングは殆ど狂わない。
ただ、弦を大きくベンドするとピッチが下がる事があるが、この場合は一度アームを下げるとピッチは元に戻る。つまり演奏中にチューニングが狂っても一々ペグをまわしたりせず、アームを下げるだけでチューニングを元に戻す事ができる。
各弦をチューニングする時は、ペグをまわした後に必ず一度アームを下げ、アームが戻った所でピッチが合うようにする。これが初めはちょっと面倒だが、慣れると他のロック・システムよりもずっと簡単である。
エンドロックスはフェンダー・ジャパンの特許で、共和商会の"Argus Dr.Siegel THE TEN"には付かないので、Argusの場合は弦を普通に張ってペグの所でロックする。(ペグの所でロックする張り方についてはこちらを。)効果はエンドロックスと変わらない。
2ピックアップ、1ノイズキャンセル・コイル
ピックアップはフロントがフェンダーの「HOTROD-5S」、リアがディマジオの「PAF」で、センターはマグネットが無く、コイルだけである。(DS Customのみ)
これは、ハムバッキングからシングルコイルに切り替えるとノイズが大きくなって耳に付くので、フロント・ビックアップと逆相になるコイルをセンターに配置し、ハムを打ち消すようにしたもの。
例えて言えばハムバッキング・ピックアップの二つのコイルをフロントとセンターに分けて取り付けたようなもので、リアのハムバッキングからフロントのシングル・コイルに切り替えてもノイズが大きくならない。
ただコイルの巻き数が増える分インピーダンスが高くなり、僅かに音色が変わるので、「ノイズが増えてもオリジナルの音色が出したい」という場合はプッシュ・プル・スイッチになっているトーン・コントロールのつまみを引っ張る事により、センターのコイルを切り離す事もできる。(DS2には無い)
ピックアップ・セレクター・スイッチは3ポイントで、センターはフロントとリアの"Out Of Phase Sound"になり、レスポールのセンター・ポジションに近い音になる。これは普通のストラトでは出ない音で、成毛はライブでこの音をよく使う。
又、STM-DS2はフロントがディマジオの「Virtual Vintage」、リアがディマジオの「PAF」で、センターはマグネットもコイルも無い「単なるダミー」になっている。