アメリカコアジサシ
Least Tern
Tterna antillarum
アメリカコアジサシ 2016年6月 神栖市波崎にて 
左 アメリカコアジサシ 右コアジサシ 唐木浮羅氏撮影 2016・6 アメリカコアジサシ  2017年6月 神栖市波崎にて 
   
アメリカコアジサシ  2017年6月神栖市矢田部海岸で観察した個体  比較画像 コアジサシ 
 山階鳥類研究所によるアメリカコアジサシ国内初記録とその後の経緯

2014年6月、山階鳥類研究所による神栖市の須田浜海岸での標識調査の際に2羽のアメリカコアジサシが捕獲されました。そのうちの1羽に標識が付されており、米国に照会した結果、この個体は2012年7月16日に米国ノースダコタ州でヒナにつけられたことが判明し、日本でのアメリカコアジサシの初記録となりました。この時は標識のない方の個体に改めて山階鳥研により標識が付けられ、放鳥されました。その後2016年6月に神栖市波崎の旧港のコアジサシのコロニーで再度アメリカコアジサシが確認され、この個体は標識がなく、2014年の個体とは別個体であることが判明しています。この個体は♂と見られコロニー内のコアジサシに対して求愛給餌行動を頻繁に行っています。(コアジサシの方はメタル標識がついている個体ですが捕獲出来なかったため標識内容は確認出来なかったようです)この時は交雑出来なかったようで、相手のコアジサシも♂であった可能性もあるとのことでした。そして翌2017年6月波崎旧港で地元バーダーによりみたびアメリカコアジサシが確認されました。この個体は黒の初列風切りの枚数が2枚であり前年の個体(黒の初列は3枚)とは別個体でした。従ってこの4年間で確認されたアメリカコアジサシ4羽は全て別個体ということになります。
2017年の個体は♂で、♀のコアジサシと交尾して2羽の雛が生まれました。山階鳥研ではこの時点で雛と親鳥に標識を付けたとのことでした。以上が2017年までの経過です。

ここでコアジサシとの相違点を列挙すると ;
@ 身体の大きさはやや小さく、体型はずんぐりして見えます。(飛翔時にコアジサシも一緒に飛んでいれば区別可能)
A 背面のグレーはやや濃く、暗く見えます。(同 上)
B 腰から尾は背面同様グレーでコアジサシの様に真っ白ではありません。(背の色の濃色と相まって飛翔時に区別できます。)
  また、最外尾羽の外弁は白です。尾の形状はコアジサシよりも浅めの燕尾状
C 外側初列風切が黒でその羽軸も黒。コアジサシは外側風切り黒ですが羽軸は白です。
D 脚はコアジサシよりも短く、繁殖羽の脚の色は濁った黄色、コアジサシの脚はより明るい鮮やかな黄色です。
 
私がこの鳥を初めて確認、撮影したのは2016年6月19日、地元バーダーからの連絡を頂いてのことでした。飛んでいる多数のコアジサシの中からアメリカコアジサシを視認区別することは困難かと思われましたが、慣れてくると比較的容易に区別できました。
また、この時は港から防波堤に伸びる橋の欄干にコアジサシと共に頻繁にとまり求愛給餌行動を見せてくれたので、コアジサシとの体型、色合いなどの違いが良くわかりました。
翌2017年6月、再び見ることが出来ましたが、前述のように別個体と思われました。この観察の当日、地元の方の情報により、神栖市矢田部のコアジサシコロニーでもアメリカコアジサシを観察することができました。この個体は背から尾羽までの上面はグレーであるものの、尾羽の先端が白であること、黒の初列風切りの羽軸が白いことなどから双方の特徴を併せ持っており、両者の交雑個体である可能性があると思います。このような客観的な事実と観察結果から推量して、アメリカコアジサシは以前から定期的とは言えずともかなり頻繁に渡来しており、その結果としてコアジサシとの交雑頻度も高いのではと思いました。

山階鳥研によると北米でのアメリカコアジサシはアメリカからカナダに5亜種が分布するとのことで、亜種間雑種も多く見られ、日本に渡来する亜種の特定に大きな意味はないとのことでした。
(2017・12・17 財団法人 自然環境研究センターにて 山階鳥類研究所 茂田良光氏の講演)

来年以降、波崎のアメリカコアジサシがどの様な経過を辿ってどのようになるのかは私には想像もつきませんが純粋のアメリカコアジサシの他に明らかに交雑と判別出来る個体の観察記録も増えていくのではないでしょうか。

亜種については以下のとおりであるが。前述の通り上記以外の亜種も提唱されている。また日本に渡来している亜種については不明
Sternila a. antillarum  アメリカ東部からホンジュラス、カリブ海、ギアナにかけて繁殖 冬期はブラジル北部に渡る
Sternila a. browni    カリフォルニア南部からメキシコ西部で繁殖 冬期は中央アメリカに渡る
Sternila a. athalassos  アメリカ中央大平原からルイジアナ、テキサス州で繁殖 冬期はブラジル北部に渡る
上記以外の亜種も提唱されている
                                             (2017年12月31日記)

参考文献
山階鳥類研究所広報プログ
Avibase-the world bird database