ハクガン
Snow Goos
Anser caerulescens
成鳥 2002年11月 朝日池(新潟県) 2008年12月 朝日池(新潟県)
餌場に向けて飛び立つハクガンの群れ  2008年12月 朝日池(新潟県)
渡来直後の幼鳥  2015年11月初旬  足立区千住(東京都) 2016年3月初旬の姿  足立区千住(東京都)
いずれも基亜種ハクガン Anser c ・ caerulescens(hyperboreus)
2015年10月中旬、東京の荒川河川敷にハクガンの幼鳥が現れたという話を聞いて「まっさか!!」耳を疑いました。しかも多くの人々が出入りする河川敷の緑地公園で、当然周囲には沢山の人達が散歩に、ランニングにそして色々なスポーツに汗を流している場所です。11月初旬に現地を訪れてみてまさしく噂の通りで全く人を警戒しない幼鳥3兄弟を見ることが出来ました。 河川敷の草を食べ、時折飛んで荒川に着水し、また河川敷に戻ることを繰り返していました。
ハクガンは江戸時代から明治初期には東京湾に大群が渡来していたとのことですが、恐らく乱獲や環境の変化で渡来数が激減、1910年前後には数十羽まで減少、その後の関東への渡来は絶えてしまったとのことです。 その後は1957年から翌年にかけて行徳の宮内庁新浜猟場の沖の干潟で97羽のマガンと共に越冬した1羽の記録があり、今回は58年振りの関東での越冬記録となりました。
私がハクガンを初めて見たのは2002年11月の朝日池でのことになります。その頃は毎冬数羽のハクガンが秋田県の大潟村に渡来し、その後新潟県の朝日池まで南下、池の周辺の餌場が雪で覆われるとまた大潟村に戻って行くという行動パターンでした。その後2008年に再度朝日池で見た時は渡来数は約25羽まで増えていました。 ハクガンの復元計画は1993年に着手され、北極海のロシア領ウランゲリ島で採取した卵を日本に渡来するマガンの巣に入れて孵化させ、マガンと共に渡来させる方法で渡来数の回復を計ったものです。最近では日本への渡来数も200羽に迫るようになっています。 千島列島で繁殖するシジュウカラガンの渡来数回復計画と並んで専門家による地道な努力が奏功しているものです。 そのような状況のもとで東京に渡来した3羽(当初は成鳥を含む5羽)のハクガン幼鳥の意味するところはどのようなことなのでしょうか。 来シーズンもまた渡来してくれることを、そしてやがて昔のように東京湾にハクガン(のみではなく)の姿が普通に見られる日が来ることを願わずにはいられません。


亜種についてはいわゆる青色型の位置づけも含めていくつかの説や表記が見られるが、大きくは2亜種とされ、
基亜種ハクガン  Anser c ・ caerulescens
            東シベリアからアラスカの北極海沿岸で繁殖、冬は米国カリフォルニア、北米東海岸に渡る。過去にはこの中に日本に渡来する個体群
            が存在たが、個体群としてはすでに絶滅したと考えられる。 
亜種オオハクガン Anser c ・ atlanticus
            グリーンランド北西部からバフィン湾島嶼部などで繁殖、冬期はメキシコ方面に渡る

なお、アオハクガンについての分類上の位置づけや表記については諸説あるが下記のような例がある。
Anser c ・ caerulescens(hyperboreus)  基亜種ハクガン(白色型)
Anser c ・ caerulescens(caerulescens)  基亜種ハクガン(青色型)

また、
Anser c ・ hyperboreus  亜種ハクガン
Anser c ・ atlanticus    亜種オオハクガン
と表記する図鑑等もある。 この場合の基亜種やアオハクガンの位置づけについては勉強不足でわかりません。

(2016年3月14日記)

参考文献
Abibase - the world bird database    BirdLife international
塚本洋三 東京湾にガンがいた頃  2006年11月22日 初版1刷  文一綜合出版