風が冬の訪れを告げようとしている。
うだるような夏の季節が秋に入っても続いていた。
それはそのまま続くかのように思われたけれど、
四季はまだまだなくならないみたい。

冬の訪れを匂わせるほど寒い日の夕刻。
顔が切れるほどの冷たい突風が吹いた。
それは、私にとっても、彼女にとっても、運命的な風だった。




「恵、これは?」

「………ダメ!!」

「そ〜お〜?良いと思うんだけどな…」

「亜理紗、ほんとそれだけはやめてよね!」

「なんで?キティちゃんは子供だけじゃないわよ」

「それは認めるけど…却下!」

いくらなんでも、キティちゃんの形をしたちゃぶ台は止めて。
恵ってば、好きなのはわかるけど、他のものとの「調和と融合」を考えてよね。
いくらなんでも、他が普通といって良いくらいの白を家具の中で、
中央に置くのがキティちゃんなんて、絶対にイヤ!

「どうしても?」

「どうしてもです!!」

「可愛いのに…」

こら!人差し指を唇にあてて、上目遣いで私を見るんじゃない!
私が悪いんじゃありません。…亜理紗も悪くはないけれど。

「そうよね…せっかく二人で住むんだから、二人が気に入ったものにするわ」

「亜理紗、さっきのでいいわよね?」

実は、このキティちゃんが亜理紗の目に入る前に、
すでに二人で決めたテーブルがあったの。
さぁ、これで終わりと思ったら…駄々をこねる始めたのよ。
まったく、キティちゃん好きだけ除けばいい大人なのに。

「そうね、あれなら他に選んだのと合うものね」

「じゃあ、決まりね。すみません、これも先程のと一緒に…」

最後に決まったテーブルを配送してもらう手配をしてもらうのに、店員さんを呼ぶ。
ふ〜っ。家具を選ぶのって本当に大変。ここで何軒目だったかしら?

配送用紙に住所を書く。まだしっかりと覚えていないので、手帳を見ながら。
隣から亜理紗が覗き込んでくる。なによ?

「こうしていると新婚家庭の新居決めみたいね」

「同じよ。二人で住むために決めているんだもの」

そう、今日の買い物は二人の新居…と言っても2DKの安い所なんだけど、
そこに必要な家具を揃えに来ているの。そうそう、自己紹介が遅れたわね。
私は水上恵。メグミじゃなくて、ケイよ。で、一緒にいるのが木野亜理紗。
二人の年は…ひ・み・つ。でも、四捨五入したら、30にはなってしまうわ…ね。
い…いいのよ、別に「おばさん」て思っても。でも、口に出しちゃだめよ。
もし口に出して言ったら、鳩尾にでも、恵さんお得意の手刀をズバッと入れるわよ!

…ご、ごほん。
で、紹介の続きをすると、体力はありあり。今でこそ、体の線の細いお姉さんだけど、
これでも空手で高校のときにインターハイまでいってるのよ。
頭脳は十人並み。別に嘘をついて「鋭い観察力と、奇抜な発想力をもつ、
将来を期待されているワークウーマン」でもいいけど、体がかゆくなるしね。
容姿は…好みだから触れないで置くとして、まぁ、どこにでもいそうな感じかな?

でも、亜理紗はどこにでもいそうで、いそうじゃないの。
公認会計士の資格をもっているのに、なぜか普通の企業に就職しているのよね。
運動だってできるのよ。水泳で中学の頃らしいけど、県の記録を持っていたらしいし。
そのせいか、プロポーションもバッチリ。出るところは出て、くびれる所はくびれてる。
顔だって、同性の私がどう贔屓目に見てもキレイ…ただし、カッコはボーイッシュなのよね。
これで、ちょっとセレブが好みそうなブランドスーツを着せたら―考えるのやめ!

で、そんな二人がこうして一緒に住むようになったのは…あ、お兄さんが呼んでるわ。

「それでは、こちらの方が領収書とお届けの控えになります。
では、商品の方は○月××日の午後にお届けいたします」

「お願いします」

支払いと、配送の確認をして、本日の買い物は終了。
さてと、帰りますか。ほら亜理紗、帰るわよ。

店に入った時はまだ明るかったけれど、
いつの間にかに暗くなってる。
ちょっと、ぶるると身震い。

「さすがに日が落ちると冷えるわね」

「もう、12月だもの…温かい物でも食べてく?」

「いいわね。じゃぁ、鍋物屋!」

私が言ったのは、この辺では珍しい鍋物専門店。
大衆的なのが売りで、懐が寒い時でも、
温かい鍋を食べることが出来るの。

お勧めはモツ鍋。モツって匂いがあるから女の人に嫌われているけど、
ここのは臭くないし、とっても柔らか。にらやごぼうと一緒にみそで煮込んだのは最高!
もちろん、今日もそれを頼んだわ。亜理紗も好きだから。

「ふ〜っ、お腹いっぱいだわ。さっ恵、帰りましょう」

おいしくて、あったか〜い鍋を大満足で二人で平らげたから、
二人とももうご機嫌。寒い中でも、アルコールもちょっと入っているから、
足取りが普通になってるわ。…寒いと、背中を丸めて重くなるものね。

「あれ?手袋は?」

亜理紗ったら顔の前で白い息をハーッと手に吐いている。

「家に置いてきたみたい。恵は?」

「大丈夫だと思って持ってこなかったけど…風が痛いわね」

コートも着ているし、食べた後だし、体の方は寒さに耐えられるけど、
今日はちょっと風が強いから、手がさすがにしばれてきた。
う〜ん、ポッケに手を入れて歩くか…ん?

わっ、亜理紗ってばなにいきなり人の手を掴んで…あれ?
亜理紗のコートのポケットに私の手が入れられていく。
もちろん、彼女の手も一緒にいる。ギュッと…掴んだまま。

暖かい…手も…心も…。

結局この後、二人ともなぜか無言で新居まで帰った。
途中でバスに乗ったときはさすがにしていなかったけど、
おりた後、再び私の手は亜理紗のポケットの中にいた。

マンションに着いた。相変わらず無言。
二人とも着替えに部屋に入っていった。
部屋の中も外に負けることなく寒いから、ヒーターをつける。
隣で亜理紗がコートとセーターを脱ぎ始めた。
あ、私達の部屋は一緒よ。ベッドもまだないけど、クイーンなの。

私も着ていたコートとトレーナーを脱ぎ始めた。
亜理紗もきっと同じことを考えていると信じて、下着だけになる。
コートをハンガーに掛け、他のものは軽くたたんで亜理紗の方へ振り向くと、
やっぱり彼女も下着姿になっていた。

それが自然なように私達は体を近づけあい、
そのまま距離をなくしていった。
お互いの腕を背中に回し、力強く抱きしめあう。

だって、寒い中で人が二人いて、抱き合わない方が変でしょ?
それに、これでも私達、恋人同士なんだもの。
隙間風が吹くような仲じゃないんだから、当たり前でしょ?

亜理紗の指先が私のブラのホックに、
同じように私の指先が亜理紗のブラのホックに触れる。
ゆっくりとホックを外すと、胸がはじけるように表れた。
腕に引っ掛かったブラジャーを二人とも一度体を離し、
腕を真っ直ぐに伸ばして床に落とす。
…っと、目の前にあったはずの亜理紗の姿が沈んだ。

「あ、あ、亜理紗、ずるいよ!!」

「なに言ってるの、早い者勝ち!」

「ダメ〜、私が先だよ〜!!」

…実は、私達、二人とも「タチ」なのだ。
正確には「リバーシブル」なのだけど、
なんというか、その〜、相手が感じているのを見て、
萌えるタイプなのよね、これが。

おかげで、どっちが先に攻めるかでもめちゃうわけ。
で、今回は亜理紗が先手を打ってきているんだ…今。

「だ、ダメ!」

手がそれを制するよりも早く、
亜里沙は私の秘密の場所を表にさらけ出した。

「あれれ?もう濡れてるんじゃない?」

「そんなわけないでしょ!何にもしていないんだから!」

「そっか。じゃぁ、濡れさせてあげましょう!」

言うやいなや亜理紗の顔は大腿部の間に割り込んでくる。。
そして四つんばいになる形で、私の秘部に指を伸ばしてきた。
クリトリスを隠すものをかぎわけ、
ピンポイントで一番体が反応するその部分を舐め始めた。

「ピチュ、ペチュ…」

わざといやらしい音を立てる亜理紗。
そのほうが私が興奮するのを知っているから。
顔を軽く左右に動かし、舌を大きく口から出しながら、
普段の亜理紗からは想像できないほど淫らな姿を私に見せつける。

「…なんで止めるの」

「続けて欲しい?」

感情が昂ぶり始めたと同時に舌を動かすのを止められた。
もどかしくてしょうがない気持ち…。
あと数センチ動けばカップに入るかもしれないゴルフのパッティング。
残り一つのピンが揺れ動いてストライクを取れそうなボーリング。
後一息で感情を解放させられるのに、それを妨げられた。

「わかってる…でしょ?」

「なにが?」

「…いじわる」

「別に意地悪じゃないわよ。
私は恵を抱きしめたかったから抱きしめて、
恵のクリトリスを舐めたかったから舐めただけ。
自分の気持ちに正直に行動して、満足したから止めたのよ」

…亜理紗のバカ。
どうせ言わせたいことがあるのなら、
もうちょっと言い方を考えてよね。
もう、こっちもたまには反撃をしないと…。

「亜理紗の正直な気持ちの中には
『恵を喜ばせる』って言うのは入っていないのね。
だから、そんな風に自己満足なことだけできるのよ」

「そうよ私がしたかったのは、
あくまでも恵より先に愛撫するってことだったもの」

あら?

「でも、恵が自分の気持ちに素直になったらそれに応えるわよ。
今までのは私がしたかったことをしただけ。
これからは恵がされたいことをするわよ。さぁ、言って…」

そう言って私の口から出る次の言葉を待つ亜理紗。
わざわざ私に恥ずかしいことを言わせるためにこんな…。
あ〜っ、もう体が耐えられないわ!
もう、私の負け負け!

「亜理紗、欲しいのあなたが。
もっと舐めて、もっと激しく動かして!
私とあなたが一つになるくらいもっと、もっと!!」

「してあげるわ、私の恵。
誰も私よりあなたを愛せる人なんていないんだもの。
私だけがあなたに肉体の喜びを与えられるんだから…」




「可愛い声を聞かせてもらったわ、私も濡れちゃった」

「もう、亜理紗ったらはまり過ぎよ」

「なにが?」

「な〜にが『私の恵』よ」

「本当にそう思っているわよ。
出会いは偶然でも、今はあなたしか見えないもの」

「もし、あの風が私達を結び付けていなかったら?」

「そうね、きっと私はカッコいいやり手の企業家を見つけて、
美貌を武器に落としていたでしょうね」

「よく言うわよ」

「いいのよ、言うだけはタダだもの。
それに、本当にそうなっていなかったとは言い切れないでしょ?」

「そうね…私自身だって、あの風がなかったら…」

同じ会社で働いている私達だけど、
私は営業。彼女は経理。働いている階が違ったし、
お昼のグループも一緒じゃなかったから、
顔を合わせたことはあるけれど、話したことはなかったの。
そんな彼女とこういう仲になったのは…本当に運命的なもの。

あまりにも小説になりそうなくらい上手く出来た話なんで、
話す気にはなれないけれど…あの風にお互い感謝している。
共に手を取り合って歩んでいける同士を見つけるきっかけになったんだもの。

窓の外は強い風が吹いている。
落ち葉を空に持ち上げているその風をみて、
私はあの日を思い出していた。
きっと私を抱きしめている亜理紗も同じはず。

突風で飛ばされてしまった一枚の書類。
それが私達を結びつけたのだった。

天に手を伸ばした…まるで何かを手にするために…。


あとがき

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