「…ちゃん」

ん?誰かが私を呼んでいる?

「…ちゃんてば」

ああ、やっぱり呼ばれてる。

「イッちゃん呼んだら返事ぐらしてよ!!」

ごめんごめん考えごとをしてたから…

「由紀子!何で私の頭を殴るの!」

返事をすぐにしなかったのは悪いけど、
いくらなんでもそれで暴力をふるうのは良くない。

「だって呼んでもボーってしているんだもん」

「だからって痛いじゃないの」

ゲンコツで頭を殴られた。
力いっぱいではないけれど、真横から不意を突かれたので
当たり所も良かったのか、頭からいくつかお星様…が出るくらいだった。

「はいはい、いくらでも文句は聞くから外に出ましょうね」

「あ…」

私はふと自分がいた場所がどこであったかを思い出した。
いや、別に忘れていたわけではなかったのだけれど、
考えごとをしていたら、自分の世界に入ってしまったようだ。

「ほら、早く外に出ないと次の人たちに悪いわよ」


この日、私は由紀子と二人で新宿まで出て映画を見ていたのだ。





「イッちゃん考え事するのはいいけど、時と場所は考えてよ」

「ごめんごめん、映画を見てたら自分とダブってさ」

場所はハンバーガー屋に移っている。
映画の終った時間が15時を過ぎていたためか、
それなりに混んでいるだけで座ることはできた。

テーブルに置かれたポテトに手を伸ばしながら、
由紀子は笑顔で私に話し掛けてきた。
もちろん、怒ってなんかいない。
こんなこと日常茶飯事だから。

「そうね、私も同じことをするかもしれないわね」

「ダメ!!」

そんことは許さない、絶対にだ。
思わず大きな声を出したが、周りに人がいるのを覚えていたから、
それ程の音量ではなかったし、BGMと自分達の会話で忙しいのか、
こちらを見る人はいなかった。

「ほら、座ってよ」

思わずテーブルに両手をついて立ち上がってしまっていたらしい。
座るとポテトを口に入れながら由紀子は言った。

「でも、わからないわよ。イッチャンだってそう思ってたんじゃない?

「…まあね」

「でも、さっきはああ言ったけれど、私はしないわよ」

「本当?」

「もちろん。死んで一緒になれるなんて思わないもの。
辛くても、大変でも、生き抜くわよ、私は。
イッちゃんも生き抜くのよ。死ぬなんて思うだけで充分。実行はしないこと」

「もちろんそのつもりだけど…」

由紀子の目が私の目をじっと見ている。
心を見透かされている気分だ…というか彼女はなんでもお見通しなのだ。

「そのつもりだけど、私達が冷たい視線に囲まれて、
社会的に抹殺されようとしたらそうするかも?」

「…だって」

やっぱり映画館で考えていたことばれてる。




映画はありふれたと言ってもいい話だと思う。

趣味のサイトのメールのやりとりで気のあった二人が、
実際に会ったらその瞬間に恋に落ち、同棲を始めた。
ただ、二人の家族や周囲にしられると猛反対され、
結局その二人は無理矢理離れ離れにさせられる。

おばあさんが病院のベッドで話しを若い女性ににしている。
それまでのことはこのおばあさんの若い頃の話で、
死ぬ前に誰かにと、その女性に語っていたのだ。

映画の最後はこんな感じだった。

「相手の方とはその後、会った事は?」
女性がそうおばあさんに問い掛けると、
「会いたかったけれど、会えなかった。遠い所へ行ってしまっていたから」
と窓から空を見上げて答えた。
その後、出会いに行くまでの空想が入り、最後につぶやく。

「あなたに会えて良かった…こうして生き抜くことができたのだから」




「自分と自殺した人とをダブらせてたでしょ?」

「由紀子は?」

「私はおばあさんの気持ちが痛いほどわかったわ」

「私が由紀子と一緒になれないからって自殺すると?」

さめてしまう前にとチキン照り焼きバーガーにかぶりつく。

「そう思ってたわよね。しかも、私と一緒に死ぬ気だったわよ」

やっぱりばれてる。

「もう一度言うけど、私は自殺はしません。
死んで楽になるくらいなら、辛くても生き抜くわよ。
その覚悟の私をイッちゃんは好きになったんだから、
私に合わせるのよ。わかったわね?」

人差し指を鼻に突きつけられる。
私は頭を少しかいた。

「わかったよ、一生由紀子と生き抜くよ」

「よろしい。さっ、食べたら買い物に行きましょう!」

笑顔でハンバーガを食べる由紀子を見ていたら、
自殺なんてバカなことだと思えてしまう。
…それは今だけだ。きっとまた死にたいと思うときがあるに決まってる。
そう思うと今と同じ言葉を繰り返す由紀子の顔が思い浮かび、
(また言われてしまうな)と思った。

「ほら、にやけてないで食べてよ」

「あぁ、ごめん由紀子」


だって同じセリフをもう5回は聞いているから。


あとがき

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