「紘子にバレンタインのチョコがあるよ」
電話でお姉さまが私に言ってくれた。
「えっ?チョコレートをわざわざ買ってくれたんですか?」
私は驚いてしまった。・・・自分は買っていないから。
良く会っていると言えるような言えないような私達。
主に私の仕事の都合によるけど、姉に黙って会える日や、
「友人の所に泊まる」と理由をつけられる日にだけ会う私達。
だから、次に泊まりに行く日は、友達のアパートに泊まる事になっている。
会うのは、バレンタインの1週間前。その後にいつ会えるかは・・・わからない。
ただ、確実なのは、2月14日に私は仕事だから、その日には会えないという事。
(お姉さま、私の為に買いに行ってくれたのかな?似合わないな・・・)
その姿を想像することが出来なくて、頭の中でものすごく失礼な事を考え、
また、直接にもそのことを口に出して聞いた私。・・・答えはすぐに返ってきた。
「んにゃ、パチンコで取ったの」
「なるほどね〜」
私はそれを聞いて、思いっきり笑ってしまった。
(やっぱり)と心の中でホッとしてしまっていた。
そう、それがお姉さまらしいから。私と付き合うことで、
お姉さまらしさがなくなってしまうのは、私には耐えられない。
(私はそのままのあなたが好きなんですよ)そう思いながら、
その電話での会話は続いた。・・・いつの間にかに私の頭の中に、
バレンタインチョコの話はどこかに行ってしまっていた。
(お姉さま、ただいま♪)
そう心の中でつぶやきながら、部屋のドアを開け、部屋の中に入った。
急に入った塗りの仕事でお姉さまは昨日、寝ていないらしく、
「勝手に入って私を起こしてね♪」とメールが入っていた。
なるべく静かに重たい鉄の扉を閉めると、靴を脱ぎ、暖房で温かくなっている部屋に入っていった。
ここに来る時は必ず「ただいま」と言う事にしている。
いつも、お姉さまと一緒にいるつもりでいるから。
私が帰るべき場所はここしかないから。
そう、ここは私が本来いるべき場所なのだから。
部屋に入ると暖房の音以外はまったくしなかった。
(寝ているな・・・)そう思って、台所を横切り、襖を開けた。
(いた!!)お姉さまは布団に包まっていた。
入り口近くに今日届くといっていたPCのモニターと本体らしき大きなダンボールがあった。
それを受け取ってしまったから、安心して眠っているのだろう。・・・顔ぐらいは出していて欲しいな。
布団で隠れてしまっているお姉さまの寝顔。「見たいのに〜、ケチ!」・・・と言ってもしょうがないか。
私が部屋に入った気配に気付いたのか、お姉さまの目が細く開き、手の甲で目を擦った。
「ただいま♪」そう言うと、「お帰り」と優しく少し寝ぼけているような声で言ってくれた。
2週間ぶりのお姉さま。でも、最近は毎日と言うくらい電話を掛けていたから、
久しぶりとは感じない。けれど、やっぱり・・・愛しい。見た瞬間に自分の胸が熱くなっているのを実感できる。
すぐに「抱きつきたい」という衝動に駆られたけれど、ちょっと癪だったから我慢した。
「私が紘子に積極的になって欲しいって言われても・・・いつも紘子が先に抱きついてくるじゃない?」
お姉さまがあまりにも自分から私を抱きしめてくれる事がないので、ちょっとすねた時の返事。
・・・事実なのだけど、でも、お姉さまからも抱きしめて欲しいじゃない?やっぱり?
「それなら、お姉さまが私より早く抱きしめてくれればいいじゃないですか!」
「だ、だって、そんなヒマなんかないくらい紘子が私を抱きしめるから・・・」
わかりました。なら、抱きしめてくれるまで待ちましょう。・・・と、隣で寝転ぶだけにしていた。
かなり精神的にきついものがある。好きな人の温もりをすぐそばで感じながら、
気持ちは抱きつきたいのに、それを無理して押さえ込む。・・・蛇の生殺し?
お姉さまの右側で横になった私は、顔を左側に向けると、まだ、目を閉じているのか、
少し開いているのかわからないくらいのお姉さまの顔を眺めていた。
あってない間に髪の毛を短くしたお姉さま。もともと短い髪の毛がもっと短くなって、
気のせいか、精悍さが加わった気がする。・・・女の人に対して使っていい言葉かな?
(あれ?何かついてる・・・)目の近くに何かゴミのような物が付いている。
「お姉さま、ゴミがついてる。ちょっとそのままでいて」
そう小声でお願いすると、私は指をお姉さまの顔に近づけ、ゴミを取ろうとした。が、取れない。
「おかしいな?これ、ゴミだよね。皮がむけてる?」
部屋が暗いので少しわかりにくいが、皮膚が剥けている様にも見えた。
「ん?色は白?」
お姉さまが質問をしてきたので、色を確認して返答をする。
「そうですけど?」
「あ、じゃあ、セルを塗っていた時に弾いた絵の具が飛んだのよ」
昨日、突然入った仕事を、私が会う前に終らせたいと急いでやってくれたに違いない。
そんなお姉さまの気持ちを考えていたら・・・もう、抑えられなくなっていた。
付いている絵の具を取る振りをして身体の上に乗ると、そのまま真上から顔を見詰めた。
そんな私の行動に、私が何をしたいのか、お姉さまは充分に心しているのか、顔が気持ち緩んでいる。
(もしかして、なんだかんだ、私から抱きつくのを待っているんじゃ・・・)
そう、お姉さまは知っている。私がお姉さまに抱きつきたくてしょうがない事を。
それをしないで横に転がっているだけなんて、私には無理だと言うことも。
・・・自分の気持ちに素直になるのが一番なのかな。それなら・・・。
何度か焦らしながらも、私のほうから強く抱きしめてしまった。負け・・・かな?
そのまま何度もキスをして、互いの身体を弄ったりしていた。
けど、そのまま行為に進む事はなく、二人は布団から出た。
布団から出ると、私は部屋に入ったときから気になっていた事を口にした。
「ねえ、少し片付けましょうよ」
「え〜、このままでいいわよ」
「ダメ。少しだけでもいいからせめて片付けさせて」
自分の部屋もお姉さまの部屋の事を言えない。ただ、なぜか、人の部屋は片付けたくなる。
布団の周りや、パソコン机に置かれたペットボトルや、ちょっとしたゴミだけ、片付ける。
・・・と、棚の所に小さなチョコの箱の山を発見する。この箱が5つくらいのセットでお店で売っている、
昔からあるチョコのアソート版。ん?パチンコで取ってきたって言ってたっけ。
「あ、これよ、パチンコで取ってきたって言うのは」
「これが、バレンタインのチョコですか!」
私はそれだけ言うと、(やっぱり)と、思いっきり声をあげて笑った。
この方が私達らしい。見栄も、外見も気にしない私達。
これぐらいが、チョコで表現するなら合っている。
私も、買ってはいないけれど、買うとしたら、やっぱり昔からある、
ハート型のピーナッツ入りのチョコにするつもりだったし。
「紘子」
(えっ?)
名前を呼ばれたのに気付いた時点で、私はお姉さまに口をふさがれていた。
舌が、強引に私の口の中に入ってきた。(な、なに?)私は何をされているかわかっていなかった。
いつも強引にキスする事などないお姉さま。理由も何もわからなかった。
・・・初めのうちは。舌を絡ませているうちに、チョコレートの甘味を感じ、
お姉さまがチョコレートを口の中に放り込んでからキスをしてきた事を知った。
それは、甘い甘いキス・・・。
「お姉さま・・・」
二人の口の中にチョコレートの甘さがなくなると、
私は口を離してお姉さまに信じられないという表情を見せた。
ちょっと見ただけでもお姉さまが照れている事がわかる。
したことは大胆だけど・・・やっぱり、照れやさんだ。
「いいでしょ?こんなのも?」
頭を片手で軽く触りながら自分のしたことの肯定を求めるお姉さま。
もちろん、異存などあろうはずがない。
「もちろん!なんか、どこかの小説であったシチュエーションでしたけど・・・」
こんな風に、積極的なお姉さまを見せてもらえて、St.Valentineに感謝をしたくなった。
ま、バレンタインは日本ではある意味お祭りだし、こんなのも私達らしくて良いかな。
・・・でも、お姉さま、一つお願いしたいのは、どうせなら、溶けてしまったチョコよりも、
まだ、形がしっかりしているチョコレートを、二人で協力して溶かしたかった・・・かな。
また、来年でしょうかね?
あとがき
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