クレヨンしんちゃん 絆−NEXUS− ※この作品は「クレヨンしんちゃん」本編とは関係ない。 この作品は特撮作品「ウルトラマンネクサス」とのクロスオーバー小説である。 物語は「ネクサス」のそれを踏襲しているため、シリアスなストーリーであり、 その物語のテーマ上、どうしても必要なため、 あるクレしんキャラの死が描かれているので、 そういうのが不快な人は見ないことをお勧めする。 また、一部「ネクサス」にはなかった、作者オリジナルの展開がある。 プロローグ ある街中の公園。 薄曇の下、一人の少年が道行く人々を眺めながら物思いに耽っていた。 『オラ達は生きている。平和な日々を、ごく当たり前のものとして。 もし、その日常の裏に得体の知れない何かがあったとしても、 多くの人は自分とは無縁のものと思うんじゃないかな? でも、目の前にある現実が全て偽りだったとしたら…。 今まで自分が過ごしてきた平和な記憶が全て偽りだったとしたら…。』 彼の名は野原しんのすけ。今から語られる物語の語り部である。 Episode 01 夜襲 −ナイトレイド− 地球とは違う、人間が見慣れた世界とは違う何処か。 辺り一面ジャングルと光の空に覆われた世界。 そこには巨大な遺跡があった。その中心に聳え立つ巨大な塔。 その深奥には、一人の少年が立っていた。 目の前には不思議な光の鼓動を発する石柩が安置されており、 少年は一人の少女の頷きを受けて、目の前の石柩に手を触れ、 それと同時に大量の光が少年に流れ込み、 少年は光となって石柩の中へと入っていった。 今から1年前のある日。 朝。月日が流れ、17歳となった野原しんのすけは 一人、自分の部屋の中で起き上がった。 伸びをしながらあくびをした後、目覚まし時計を見ると、既に7時をまわっていた。 「って、もうこんな時間!?」 しんのすけは慌てて、学校の制服に着替え、 その際に鞄と枕元に置いてあるペンライト程の大きさの謎の道具も手に取った。 1階でも母、野原みさえが急いで朝食を作り、 父、野原ひろしも慌てて会社の支度をする。 「ヤべぇ、このままじゃ遅刻だぜ! 今日、会社で大事な会議があるんだ!」 「ほら、ひまちゃん! 起きて! 学校に遅れるわよ!」 みさえによって、最後にしんのすけの妹の野原ひまわりも起き上がる。 一方、支度を終えたしんのすけも慌てて2階から降りて、 ひろしと一緒に朝食を食べるとすぐさま一緒に玄関を出て、 それぞれ学校、会社へと向かっていった。 それからしばらく経って、ひまわりも自分の通う小学校へと向かっていった。 皆を見送った後、みさえは家事を済ませて買い物に行こうとしていた。 「さて…、今日の晩ご飯は何がいいかしら…。 …ま、いっか! 後で考えよっと!」 みさえは今日の献立をロクに考えずに買い物に出かけていった。 辺りを夕暮れの光が覆った頃、しんのすけが帰ってきた。 「おかえりー。」 「それを言うならただいまでしょ。」 昔と変わらないやり取りをした後、 しんのすけは2階にある自分の部屋へと向かっていった。 「まったく…、なんで私が…。」 昼頃に小学校から帰ってきていたひまわりは 愚痴を言いながらテーブルを拭いていた。 そこにみさえがやってきて、出来た料理をテーブルに置いた。 「なんだ、また残り物か…。手を抜いたなみさえ。」 「ち、違うわよ。偶然残ってたから使おうと思ったのよ! あと、あんたパパの真似しないの!」 みさえが持ってきた料理を見てひまわりが呟き、 それを聞いたみさえが言い訳を言う。 それと同時にしんのすけが2階から降りてくる。 「なんだ、また残り物か…。」 と先程のひまわりと同じことを言うしんのすけ。 みさえはまたも言い訳するが、 しんのすけとひまわりはそれを冷ややかな目で見ていた。 その後、ひろしが帰ってきて4人揃って夕食を食べ終えると、 ひろしとみさえ、ひまわりがTVの漫才を見て笑い、 飼い犬のシロはエサを食べ終えて満腹になって眠り、 しんのすけは部屋に戻って携帯でメールを打ち、 そして、のんびりと平和に一日が終わって、家族全員が床に就いた。 彼らは以前と全く変わることのない平和な日常を送っていた。 しかし、その日常の裏では彼らの知らない恐るべき現実が繰り広げられていた。 深夜、埼玉県境にあるガソリンスタンド。 夜中なので客も少なく、二人の店員が 雑誌を読んだりTVを見たりと、ダラダラと過ごしていた。 そこに赤いトラックが入ってきてクラクションを鳴らす。 二人の店員は黙って顔を見合わせるとジャンケンを始め、 負けた方は不満を顔に浮かべながら客の応対へと出て行った。 その間、トラックの運転手はクラクションを鳴らし続けてイラつきを訴えていた。 「そんなに鳴らさなくても分かってるって…。」 「何か言ったか?」 「いらっしゃいませ!」 給油をしている間に店員がトラックの窓を拭いていると、 トラックの運転手が怒り顔で文句を言いにきた。 「兄ちゃんふざけてるのか?」 「?」 「もうとっくに満タンになってるだろーが!」 店員がメーターを見ると既にメーターが満タンを示す位置を通り越していた。 「おっかしいな…。」 ガソリンが漏れているかどうか確認すると、 トラックからガソリンではない得体の知れない何かが垂れていた。 次の瞬間。 「うぁぁぁ!?」 「「!?」」 運転手はタバコを吸っていたが、店員の悲鳴を聞いてトラックの近くにきた。 地面を見ると、店員がいた場所には毒々しい色をした液体が広がっていた。 店員の悲鳴を聞き、運転手より少し遅れて店の中からもう一人の店員が出てくると、 そこでは恐ろしい光景が繰り広げられていた。 得体の知れない液体が、突如5mほどの ナメクジともウミウシとも付かない不定形の化け物となって、 その巨大な口で運転手を丸呑みしてしまった。 「あっ、あっ、あっ…。」 あまりの光景に店員は恐怖で頭が真っ白になってしまい、 自分に向かって来る化け物に対し、逃げたくとも体が全く動かなかった。 その時。 「!?」 突如、化け物と店員の間の地面が破壊された。 その衝撃で店員はその場に倒れこんでしまう。 謎の地面破壊は徐々に化け物の方へと近づいていき、 その破壊から逃げるように 化け物はガソリンスタンドから去り、破壊も後を追っていった。 やがて辺りに夜の静寂が戻り、 店員は興奮したまま化け物と破壊が去って行った方向を見つめていたが、 そこに黒のワゴン車がやってきて、 中から一人の女性とそれに従う二人の男性が降りてきた。 店員は客だと思いつつも立ち上がることが出来なかった。 破壊に追われた化け物は先にあるトンネルへと逃げ込んだ。 「予定通りターゲットをキルポイントに誘導。」 「エリア内に有人反応なし。第二種警戒解除。」 「了解。これより最終行動に入る。」 突如、何も見えなかった夜空から謎の戦闘機二機が姿を現した。 着陸した二機の戦闘機から青と黒の戦闘服に身を包んだ 4人の人間が大地に降り立ち、 巨大な武器を手に、迷うことなくトンネルの中に入っていった。 4人は化け物を発見し武器を構える。 「掃討せよ!」 4人の内の一人、指揮官の言葉と共に 巨大武器が化け物に向かって一斉に放たれ、 攻撃を受けた化け物は醜く膨れ上がって砕け散り、 辺りに化け物の破片が飛び散った。 「ターゲット消滅。」 指揮官の言葉を聞き、バイザーを上げる4人。 指揮官は腕につけた通信装置で本部に報告を入れる。 「状況終了。」 それを受け、本部から少年の声が答える。 「確認しました、39秒後に処理班が到着します。」 「イラストレーター、ビーストによる人的被害は?」 「…ご心配なく。後は、すべてM・Pが処理しますから。」 「…了解。」 イラストレーターと呼ばれる本部の少年の的外れな回答に 指揮官は不満を覗かせていた。 そこに数台の車がやってきて 中から白い防護服に身を包んだ人々と、背広を着た初老の男が降りてきた。 「お疲れ様です。和倉隊長。さすがはナイトレイダー、お見事です。」 ナイトレイダーと呼ばれる4人の内の一人、 指揮官・和倉英輔隊長はヘルメットを外して、初老の男に答えた。 「いえ。それよりもどうして現場へ? 松永管理官。」 初老の男、松永要一郎管理官は人当たりの良い、 しかし、何かを含んだ笑みを浮かべて答えた。 「たまには私も現場を知っておかなければならないと思いましてね。」 白い防疫服に身を包んだ人々、ホワイトスイーパーが 化け物のサンプルを回収している傍ら、 4人の内の一人、石堀光彦隊員が 通信・分析・索敵が可能な万能ツール、 パルスブレイガーで化け物の残骸を調べていた。 「新種のビーストか。体内の95%が水分でエタノールが大好物らしい。」 「エタノールってお酒の主成分だよね? 私、酔っ払いって大嫌い!」 そこに4人のうちの一人、平木詩織隊員が口を挟む。 平木隊員の言葉フッと笑って石堀隊員は説明を続ける。 「エタノールはガソリンや軽油等にも含まれている。 だからガソリンスタンドを襲い…。」 「人間を喰った。」 淡々としたどこか冷たい声、その声の主の方に目を向ける二人。 そこには4人のうちの一人、西条凪副隊長が立っていた。 西条副隊長はパルスブレイガーを180度回転させた アタックモードにして化け物の残骸に向ける。 石堀隊員と平木隊員が戸惑いながらも急いでその場から離れると、 パルスブレイガーから光弾が発射され、化け物の残骸は跡形も無く砕け散った。 「化け物は化け物。私達人間の敵、どれも同じよ。」 無表情のまま、その場を去っていく西条副隊長。 それを黙って見送る石堀隊員と平木隊員。 「?」 ふと、西条副隊長の目の前、トンネルの入り口近くに人影があった。 しかし、目を凝らしてもう一度見ると既にそこには何も無かった。 「……。」 翌日、TVのニュースでは ガソリンスタンドの店員とトラックの運転手が 行方不明になっていることが告げられていたが、 化け物とナイトレイダーに関しては何も報道されていなかった。 野原家は珍しく居間でそのニュースを見ながら朝食を食べていた。 「へぇ、店員と運転手が行方不明か…。最近こういう事件多いよな〜。」 「本当ね…。都会に近いところでは何も起こってないみたいだけどね。」 「へぇ…。」 みさえと話をしつつ、ひろしは何も考えずにニュースを見ながら朝食を食べていた。 そして、ひろしとしんのすけは家を出て会社、学校へと向かい、 しばらくしてからひまわりも学校へ向かった。 みさえは3人を見送った後、家に入り、掃除、洗濯など日々の家事をこなし、 寝転んでTVを見たりといつもと変わらぬ日々を送り、 ひろしやしんのすけも学校、会社でいつもと変わらぬ日々を送っていた。 そして、夕方になり、みさえは夕食の準備を始めた。 ひまわりが帰ってきて、しばらくしてからしんのすけも帰ってきた。 一方、ひろしは仕事を終え、後輩の川口と一緒に 春日部山の近くにある居酒屋に行くことにした。 川口に言わせれば料理がおいしいらしいのだ。 その頃、春日部山の峠道を一台のマイクロバスが走っていた。 社員旅行で中は既に宴会状態になっていて、一人の酔っ払いが運転手に絡む。 「どうだい? 運転手さんも一曲やるかい?」 「は、はぁ…。」 困ったように曖昧な返事を返す運転手。 その時、バスの前に5m程の大きさの飛行する化け物が現れた。 その化け物はマイクロバスに向かって口からガソリンを吐きかけた。 「遅いわね…。また、飲んでるのねあの人…。」 野原家ではみさえがひろしの帰りを待っていた。 そのひろしは居酒屋で飲んだ後川口と別れ、 家路についていたが、何かに気づいて足を止めた。 見ると、道端に1台のマイクロバスが道路を塞ぐような不自然な形で停まっていた。 「…なんだ?」 不思議に思ってひろしはマイクロバスの中に入るが、 バスの中には人っ子一人いなかった。 ひろしが車内を見回すと宴の後のように散らかっており、 つい先程まで人間がいた事を感じさせるが、 どこを見回しても、その人間が見当たらなかった。 「!?」 その時、ひろしの足元にあったビールの空き缶から得体の知れない液体が滲み出て、 驚いたひろしは空き缶から離れるが、 謎の液体は空き缶を完全に飲み込んで大きく膨れ上がっていき、 ひろしはその光景をただ呆然と見つめた。 「エリア3、ポイント247にビースト振動波確認。 ナイトレイダーにスクランブル要請。 パルスパターンから昨日現れたコードネーム・ペドレオンと思われます。」 辺り一面をコンピューター画面に覆われた部屋、CIC(Conbat Information Center)の中、 イラストレーターと呼ばれる本部の少年が 状況を分析してナイトレイダーに指示を送る。 第二種警戒が発令され、スクランブルのサイレンが鳴り、 コマンドルームで待機していたナイトレイダーが一斉に動き出した。 装具ロッカーから各プロテクターを取り出して装着し、 ガンキャビネットから巨大武器ディバイトランチャーを手に取って、 4つのシューターを備えたブースに駆け込む。 ブースは左端から和倉隊長、西条副隊長、石堀隊員、平木隊員が入り、 隊員が全員入ったことを確認した和倉隊長が声を上げる。 「出動!」 その言葉と同時に4つのシューターが遥か上階へと射出されていった。 ナイトレイダー出動を確認したイラストレーターは、 画面の一つに新たな反応を見つけた。 「エリア付近に別の振動波? この反応は…。間違いない。アレが目覚めたのか?」 「うわぁあぁわぁー!!?」 その頃、ひろしは恐怖に慄きながら峠道を逃げるが、 化け物、ペドレオンが発する触手に捕らわれてしまった。 ガードレールを掴み必死に抵抗するものの、触手の力はどんどん強くなっていき、 逆にひろしの腕は痛みでどんどん力が失われていく。 自分の死を感じたひろしの脳裏に今までのことが走馬灯のように浮かぶ。 その時、脳裏にしんのすけやひまわり、みさえのことが思い浮かび、 ひろしは再び力強くガードレールを掴んだ。 「俺は…、俺はまだ死ぬわけには行かないんだぁぁ!!」 ひろしが心の底から叫んだその時、強く優しい光が遥か上空から迫ってきた。 「うわあっ…。」 辺りを衝撃が襲い、ひろしは思い切り吹き飛ばされた。 全身をアスファルトに打ちつけ、激しい痛みが襲う。 「ぐ…。」 痛みに顔を歪ませながらひろしはペドレオンがいた場所に目をやるが、 そこにペドレオンはおらず、代わりに銀と赤の壁があった。 「…?」 不思議に思ったひろしは立ち上がって壁を凝視した。 壁は遥か上空に向かって伸びており、 ひろしもそれを追ってゆっくりと視点を上げていくと、今までにない衝撃を受けた。 「……。」 ひろしが壁だと思ったもの、それは遥か巨大な50mもの銀色の巨人の左腕で 地面にめり込んだ巨人の左拳はペドレオンを殴り潰していた。 あまりに常識はずれな巨人の大きさにひろしは驚きを通り越して思考停止に陥る。 満月を背景に静かにひろしを見下ろす巨人。 ひろしは呆然と巨人を見上げるが、ハッと我に返ると、家に向かって走り出し、 それと同時に巨人は光に包まれて消えた。 そして、しばらくしてから上空にナイトレイダーの二機の戦闘機、 クロムチェスターαとβが現れ、中から隊員4人が降りてきた。 「振動波レベル低下。」 「ターゲットは?」 「既に消失。」 石堀隊員の報告を聞いた和倉隊長は 目の前の地面にできた巨大なクレーターを見つめた。 「これは…一体?」 一方、ひろしは家に帰っており、得体の知れない化け物に襲われたことと、 謎の銀色の巨人に助けられたことをみさえに話した。 「はぁ!? そんな夢みたいなことあるわけないじゃない。 こんな時間まで飲んでたことに対する下手な言い訳でしょ!」 そう言うと、みさえは帰りが遅かったため、ひろしに殴り掛かった。 それを見てひまわりがやれやれといった感じでため息をつく。 一方、2階にある自分の部屋で布団に転んでいるしんのすけは一息吐くと、 ズボンのポケットから朝、枕元にあった ペンライト程の大きさの謎の道具を取り出して見つめた。 『あの遺跡の夢を見てから、今まであったオラの日常は呆気なく崩れ去って、 全く知らなかった現実を知った。でも、オラはこの一年が自分にとって どんなものになるのかを、まだ何も知らなかったんだ…。』…野原しんのすけ To be continued Episode 02 異生獣 −スペースビースト− 今、この地球を覆っている化け物、 スペースビーストの恐怖から人々を解放する 特務機関として国家レベルを超えて設立された、 地球解放機構Terrestrial Liberation Trust、TLT(ティルト)。 その日本支部第3基地、フォートレスフリーダムと呼ばれる 神奈川県内にあるダムに偽装した巨大基地の中、 対ビースト迎撃チーム・ナイトレイダーのコマンドルームでは ナイトレイダーが昨日のバス事件のニュースを見ていた。 事件は運転手の操作ミスによる転落事故として報道されていた。 「被害者数13名。今までで最悪の数字だな…。」 唇をかみ締め、ニュースを聞く和倉隊長。 その隣で石堀隊員が昨日の事件のデータを見返していた。 「しかも肝心のターゲットは既に消失。 現場には直径5m程の巨大なクレーターが残されていただけ…。」 西条副隊長が口を挟む。 「ターゲットが消失し、現場に巨大なクレーターが残っていたことから あそこにターゲット以外のビーストがいたことは間違いないわ。」 ネイルケアを行いながら、平木隊員も口を挟む。 「でも、あんな大きなクレーターがあったってことは…、 ものすごく大きいビーストよね? ビーストがいくら大きいって言っても その殆どが5mから10mでしょ? それがいきなり50mって…。」 平木隊員の言葉を聞き、石堀隊員がパソコンを打つ手を止めた。 「いや、実は過去に一度だけ、50m級。 それも人型のビーストが現れたことがあるんだ。」 石堀隊員の言葉に眉を動かす和倉隊長と西条副隊長。 一人事情を知らない平木隊員はその反応に気づく事無く、ただ素直に驚いた。 「え? 昔にもいたの? そんな大きいのが!」 「あぁ、トップシークレットなんだが、 今から一年程前、謎の人型巨大ビーストが現れ、 ナイトレイダーBユニットとCユニットが壊滅。 このAユニットも当時の副隊長が行方不明になったんだ。」 西条副隊長は石堀隊員の話を無視するかのように ガンキャビネットの中にある自分のディバイトランチャーをじっと見つめ、 和倉隊長はそんな西条副隊長と話を続ける石堀隊員を見た後、 誰もいないシューターに視線を送った。 「私が来る前のB、Cユニットを壊滅させたビーストって人型だったんだ。 知らなかった…。まさか今回のクレーターの主が…!?」 平木隊員の問いに、石堀隊員は静かに首を振る。 「いや、それはまだ分からない。 何せ、俺達はそいつを見た事無いからな…。 とにかくそのビーストに対して警戒する必要はあると思う。 あの悲劇を二度と繰り返さないためにもな。」 「うんうん、そうだね。」 一人力強く頷く平木隊員。 一方、西条副隊長はガンキャビネットにある 自分のディバイトランチャーをじっと見つめ続けていた。 それを何か思う顔で見る和倉隊長と石堀隊員。 一方、みさえは買い物に出かけたついでに近所の人達とおしゃべりをしていた。 「…あ、そういえば最近変な事故や事件って多くない?」 話の途中、みさえの隣にいる若い女性が思い出したように話す。 「そうそう、物騒よね。」 その女性の隣にいる年配の女性も口を開く。 「本当ね…。この前もガソリンスタンドの店員と トラックの運転手が行方不明になったってニュースで言ってたわよ。」 話を聞いてみさえが口を開く。 「怖いわね…。あ、そういえばさ…。」 年配の女性が再び口を開いて、話題は切り替わった。 同じ頃、ひろしは会社の社員食堂で昨日の出来事に思いを馳せていた。 「一体、何だったんだ…。昨日のあれは…。 酔っ払って見た俺の夢か…? いやそんなはずは…。」 「アッ! 先輩! ソースかけすぎですよ!」 ひろしが川口の声にハッとすると、 自分が目の前の定食のトンカツにソースを必要以上にかけていることに気がついた。 「アッ! やべぇ! かけ過ぎた!」 「もう…、ボーっとしてるからですよ先輩。 ここのトンカツ二度揚げしていておいしいのに…。」 川口の呟きにひろしは少しムッとした感じで答える。 「少し考え事してたんだよ…。しょうがねぇだろ。」 「え? 考え事ですか?」 「あぁ。ま、お前に話してもどうせ信用してもらえないだろうけどな…。」 そう言うと、ひろしはソースをかけ過ぎたトンカツを置いて席を立った。 「ちょっと先輩! どうするんですか、これ!」 しんのすけの通っている高校。 桜の花びらが舞い散る中、何人かの生徒が 携帯電話のニュースを見ながら話していた。 「ねぇ、最近、行方不明事件って多くない?」 「うん、今日も4人のキャンパーが行方不明になったってニュースで言ってたよ。」 その会話を聞いてベンチに座っているしんのすけの顔が一瞬曇るが、 目の前に駆けてきた少女を見て、すぐにその顔は晴れた。 その16歳の少女、酢乙女あいは笑顔で しんのすけの顔を見ると、しんのすけの横に座った。 幼稚園の頃はしんのすけはあいをなんとも思っていなかった。 しかし、月日が経つに連れてあい自身が変わっていき、 しんのすけも次第に彼女に惹かれるようになっていった。 かつてしんのすけが出会った、「つばき」という少女に惚れたように…。 あいは幼稚園の頃からしんのすけへの一途な想いは全く変わっておらず、 二人は楽しそうに話していた。 ふと、しんのすけはあいがいつも持っているスケッチブックに目が行った。 「あいが描いた絵、ちょっと見てもいい?」 「え? …えぇ、いいわよ。」 あいからスケッチブックを受け取ったしんのすけがページを捲ると、 そこには多くの人や動物の家族の絵があった。 「人や動物の家族…か。」 「うん、今度美術部の展覧会に出展する作品のテーマなの。家族の肖像。」 「ふーん…、家族の肖像…か。」 スケッチブックを返すと、今度はあいが制服のポケットの中からあるもの、 翼の生えた、千歳飴を持ったブタの粘土細工を取り出してしんのすけに手渡した。 「これ、ぶりぶりざえもんじゃん! あいが作ったの?」 「うん。しん様、昔そのキャラクター好きだったでしょ?」 「おぉ! サンキュー! あい。大切にするゾ!」 翼の生えたぶりぶりざえもんを受け取り、しんのすけは笑顔でお礼を言った。 「ビースト振動波。…しかも反応数値が大きい?」 深夜。フォートレスフリーダムでは イラストレーターがビースト振動波を感知していた。 「第三種警戒発令。ナイトレイダースクランブル。ナイトレイダースクランブル。」 それと同時に第三種警戒が発令され、スクランブルのサイレンが鳴る。 プロテクターを装着し、ディバイトランチャーを手に、ブースに駆け込む隊員達。 左端から和倉隊長、西条副隊長、石堀隊員、平木隊員が入る。 隊員が全員入ったことを和倉隊長が確認し、 シューターがクロムチェスター搭乗口に射出されていく。 スペシャルマルチロールファイターである二機のクロムチェスターαには 西条副隊長が搭乗し、もう一機には石堀隊員と平木隊員が搭乗。 クロムチェスターβには和倉隊長が搭乗する。 満月の下、ダムに偽装された発進ゲートが開いて、3機のクロムチェスターが発進。 ゲートを出るとオプチカモフラージュシステムによってその姿は消された。 ナイトレイダー発進を確認しつつも別の画面に目を向けるイラストレーター。 すると画面に新しい反応が出る。 「近くに別の振動波…。やっぱり来たんだ…。」 夜のビール工場。 そこにしんのすけが現れ、それと同時にクロムチェスターが姿を現した。 「あれって…、もしかして地球防衛軍みたいな奴!?」 少し興奮気味に呟くしんのすけ。 一方、ナイトレイダーはクロムチェスターから降り、ターゲットの位置へ向かう。 その時、建物の影から20mはあろうかというぺドレオンが現れた。 「大きい…。」 今までよりも巨大なビーストを目にして、 流石のナイトレイダーも少し戸惑い気味であった。 「イラストレーターの言った通りだな。今までよりも巨大なビースト…。」 「おそらく複数のビーストが融合したんでしょう。何かに対抗するために…。」 石堀隊員の説明を聞いた和倉隊長はすぐさま第一戦闘隊形を指示する。 「奴の体液はガソリンと同じで起爆性が高い。一発命中させれば…。」 「木っ端微塵に吹き飛ぶ!」 石堀隊員の説明を聞いてナイトレイダーは一斉にディバイトランチャーを向けるが、 ぺドレオンは自分の口の中に触手を入れると、中から工場員二人を取り出した。 「! 撃つな!」 それを見て和倉隊長はすぐさま攻撃中止を指示。 「人質なんてずる賢いじゃない!」 ディバイトランチャーを下げて平木隊員が憤り、 和倉隊長はイラストレーターに指示を仰いだ。 「イラストレーター、不測事態が発生。指示を。」 しかし、イラストレーターは和倉隊長も予想していなかった指示を出した。 「…確実に撃破しなければ被害は拡大します。 ですから…多少の犠牲は仕方ありません…。」 イラストレーターの指示を聞いて和倉隊長は我が耳を疑った。 「そんな…!? イラストレーター!」 しかし、イラストレーターは通信を切ってしまう。 和倉隊長は苦悩の表情を浮かべるが、 西条副隊長は先陣を切ってぺドレオンに銃口を向けた。 「西条!」 和倉隊長が西条副隊長に向かって叫ぶが、 その時、ペドレオンの横にあるビルの屋上にいた しんのすけが西条副隊長の視界に入った。 「あの男は…。」 驚き、ディバイトランチャーを下ろす西条副隊長。 一方、しんのすけはペドレオンを見ると、ペンライト程の大きさをした 謎の道具、エボルトラスターをポケットから取り出して、鞘から抜き、天に掲げた。 エボルトラスターから光が溢れ、上空から巨大な光が地上に降り立つと、 眩い光は次第に具体的な姿を成していき、 やがてひろしを助けた銀色の巨人となった。 「…巨人!?」 銀色の巨人の出現に驚くナイトレイダー。 銀色の巨人は自分の腰ほどの大きさのぺドレオンと対峙する。 ぺドレオンの触手に捕らわれていた工場員は既にグッタリしていた。 それを見た銀色の巨人は右手で左腕に備えてあるアームドネクサスに触れると、 次の瞬間、光を得た右手から光の帯・セービングビュートを発し、 触手に捕らわれていた二人に巻き付けてペドレオンから救出、地上に降ろした。 事態の展開に戸惑いながらもナイトレイダーは 地上に降ろされた二人の救助に向かう。 二人の無事を確認した後、銀色の巨人は再びぺドレオンと対峙し、 自分の腰ほどの大きさのぺドレオンに飛び蹴りを浴びせた。 蹴り飛ばされたペドレオンも反撃するが体格の違いから圧倒的に押される。 倒れるペドレオンを見て銀色の巨人は止めを刺そうと右手に力を込める。 しかしその時、銀色の巨人の肩に火花が散る。 見ると、西条副隊長がディバイトランチャーで巨人を撃っていた。 その事態に銀色の巨人は戸惑う。 その時、ペドレオンの背中の穴からガスが勢いよく噴射され、 銀色の巨人は苦しんでペドレオンから離れた。 「まずい…、可燃性ガスだ。」 パルスブレイガーでガスを分析した石堀隊員の言葉を聞いて、 西条副隊長は苛立たしげに唇を噛んだ。 閃光がいくつか発せられたあと、飛翔体に変形したぺドレオンが飛び立ち、 それを追って銀色の巨人も空へ飛び立った。 それを見てすぐさま一人クロムチェスターαに搭乗する西条副隊長。 飛び去るペドレオン飛翔体、銀色の巨人、 クロムチェスターαを見て石堀隊員が呟く。 「飛翔体…。クロムチェスターに対抗するためか…。」 一方、イラストレーターも指示を送って来る。 「追跡してください。ビーストの進行方向に人口密集地があります。」 街へ向かうペドレオン飛翔体と、それを追う銀色の巨人。 さらに西条副隊長のクロムチェスターαも両者を追うが、 飛行速度の圧倒的な差で追いつく事が出来ない。 その時、銀色の巨人が左手を胸のエナジーコアに当てると、 銀色の姿が光と共に赤い姿へと変化した。 続けて赤い巨人は右手を左腕のアームドネクサスに当て、 光を得た右手を前方を飛行するぺドレオンの方へと向けると、 右手から光が発せられ、ぺドレオンはその光に包みこまれた。 赤い巨人はそのまま光の中に入っていき、 やがて光共々ぺドレオンと赤い巨人も姿を消した。 目の前で両者が姿を消した事に西条副隊長は驚き、 他のクロムチェスターに乗って、 遅れてやって来た他のナイトレイダーも辺りを見渡す。 その時、辺りの夜空に謎の爆音が響き、やがて花火のような光の爆発が起こると、 その中から赤い巨人が姿を現した。 赤い巨人は地上に降り立つと、光に包まれてそのまま姿を消した。 事態を把握できずに戸惑うナイトレイダーに対し、 イラストレーターが冷静に指示を送ってくる。 「ターゲットは消失しました。帰還してください。」 イラストレーターの指示を受け、帰還するナイトレイダー。 地上では黒服の女性一人と男性二人が工場員二人を保護し、 ホワイトスイーパーが現場を分析していた。 帰還途中、クロムチェスターβで和倉隊長が呟く。 「あの巨人がビーストを倒したのか…あの巨人は一体…。」 その時、和倉隊長の脳裏にある言葉が浮かんだ。 「巨人…ウルトラマン…?」 一方、イラストレーターはぺドレオンと赤い巨人が 光の中に消えた現象を分析していた。 「位相の褶曲か…。凄いな。」 そして地上では変身したしんのすけが疲れ果て、地面に手をついていた。 『これがオラとナイトレイダーとの初めての出会いだった…。 そして、この出会いが自分の運命に 何をもたらすのかを、オラはまだ知らないでいた…。』…野原しんのすけ To be continued Episode 03 亜空間 −メタフィールド− ビール工場で起きたビーストとの戦いは 放火の疑いがある謎の火災として報道されていた。 朝の野原家。しんのすけ達は居間で朝食を食べながらそのニュースを見ていた。 「完全に倒せなかった…。」 「ん? どうしたの?」 ニュースを見ながら呟くしんのすけにみさえが問うが、しんのすけは 「なんでもないゾ。」 と答えると、鞄を取りに自分の部屋へと向かった。 それを見送るひろし、みさえ、ひまわり。 自分の部屋に入ったしんのすけは鞄を手に取って、下に下りようとするが、 その時、机の上に置いてあったエボルトラスターが目に止まる。 「やっぱまだ完全に力を使いこなせてないのかな…。 昨日、あいつを光の中に捕らえたまでは良かったんだけど…。」 エボルトラスターを手に取って呟いた後、 しんのすけはエボルトラスターを制服の上着のポケットの中に入れた。 一方、フォートレスフリーダムでは和倉隊長がTLTの査問会にかけられていた。 「どうかね。和倉隊長。巨人は我々の味方となりうるか、それとも敵となるか? そのことについて君の考えを聞かせてもらいたい。」 正面にいる3人のTLT幹部の中、 中央に座っていた東郷の質問に和倉隊長は少し間を置いて答えた。 「正直…、分かりません。 ただ、もしあの巨人が我々の敵となるならば、更なる調査・分析が必要かと…。」 和倉隊長の答えを聞いた東郷は少し間を置いた後、 ややためらいつつも質問を再開する。 「和倉隊長。君は巨人を見て『ウルトラマン』と口走ったそうだが、 その名前は一体どこから出てきたのかね?」 「いえ…、フッと頭に浮かんだという感じで…。」 査問会が終了し、廊下を歩く和倉隊長は巨人、ウルトラマンについて考えていた。 「あの巨人が、例の1年程前の巨大人型ビーストと関係がある可能性は高い…。 しかし、奴がビーストから人々を助け出したのも事実だ…。」 「単に餌を奪っただけかも知れません。」 後ろから聞こえてきた声に振り向く和倉隊長。そこには西条副隊長がいた。 「いかに人型であっても、奴は人ならざる存在、化け物。ビーストです。 ビーストは私達人間の敵。それが人間を助けるなんてありえません。」 そう強く言い残し、西条副隊長は頭を下げて去っていった。 それを不安げな表情で見送る和倉隊長の所に松永管理官が話しかけてきた。 「あの巨人を見て、和倉隊長。例のあの男を思い出しますか?」 松永管理官の言葉に和倉隊長は少し眉を動かすが、松永管理官は構わず話を続ける。 「そういえば、あの男も西条副隊長のように人一倍強い意志を持っていましたね。 結果的には、例の人型巨大ビーストと関わり、その意志の強さが災いして…。」 和倉隊長は松永管理官の話を切るように話し出す。 「チームに大切なのは信頼感です。 だからこそ西条にはあの男のようになって欲しくない。私はそう思っています。」 「それは、私も同じですよ。…それでは。」 そう言って去っていく松永管理官を和倉隊長は黙って見送った。 その頃、しんのすけは学校で休み時間に 幼稚園の頃からの友人である佐藤マサオと話していた。 「で、しんちゃん。 僕、2学期からこの遊園地でアルバイトしようと思ってるんだけど。」 マサオは「アルバイト募集中!」と書かれた遊園地の広告を見せた。 「ふーん。でも、マサオ君こういう仕事できるの? お客さん前にしてガッチガチに緊張しちゃったりするかもよ〜。」 いたずらそうに話すしんのすけにマサオは胸を張って答えた。 「あのねぇ、今の僕は幼稚園の頃とは違うんだよ。 何がどう変わったかというと…。」 しかし、しんのすけはマサオの話をロクに聞かずに あくびをして戦いの疲れから眠ってしまった。 「ちょっと、しんちゃん! まだ話の途中なんだよ? ねぇ!」 しかし、マサオが何度呼びかけてもしんのすけは起きず、 仕方なくマサオは諦めたかのように自分の席に戻った。 その頃、ひろしは会社でインターネットを使って この前のバスの転落事故のことを調べていたが、 ペドレオンに関する情報は全く拾えなかった。 「おっかしいな…。あんな化け物がいたら 必ずどこかで話題になってるはずなんだけどな…。 ニュースでも全く報じられてないし…。」 「何してるんですか? 先輩。」 後ろから声がかけられ、ひろしが振り返るとそこには川口がいた。 「別に…。ただ、昼休みで暇だからネット使ってるだけだよ。」 「へぇ…。珍しいですね…。あ、これってこの前起こった事故じゃないですか。」 画面に表示されているネットニュースの記事を見て川口が呟く。 「なんか最近多いですよね、こういうの。 ネットにある噂とかだと、こういう事件や事故って 本当は化け物が人間を襲っているんだ、なんてのがあるみたいですけどね。」 川口のその言葉にひろしの眉が動く。 「まぁ、都市伝説って奴ですね。都市伝説。」 しかし、ひろしは川口の言葉に 何も答えずパソコン画面の記事をじっと見つめていた。 一方、フォートレスフリーダムのコマンドルームでは 和倉隊長が新型高速機のクロムチェスターγの説明をしていた。 「本機から新たに開発された高出力の メタルジェネレーターが搭載されることになった。 操縦方法は従来のタイプと変わらないが、 機動性が上がった分、やや扱い辛いかもしれん。」 その説明を満足そうに聞く西条副隊長。 そんな西条副隊長を和倉隊長は少し複雑な目で見ていた。 夕方。しんのすけは学校の帰りに本屋で立ち読みをしようと、 幼稚園の頃によく入ったカスカベ書店に入った。 見ると、あの店長はおらず、代わりに女性店員であった中村が店長となっていた。 少し寂しさを感じつつもしんのすけは写真集コーナーに入ろうとしたが、 その時、制服の上着のポケットに入っている エボルトラスターがビースト出現を告げる明滅を始め、 それを知ったしんのすけは急いで店から出た。 一方、フォートレスフリーダムのコマンドルームでは 全身白ずくめで、やや猫背気味の、 左手中指に「Pyr」と刻印された銀の指輪をはめている しんのすけと同じ17歳の少年、 TLT−J作戦参謀・イラストレーターがペドレオン殲滅作戦の説明をしていた。 机の上に現れているホログラムのトンネルの両サイドに チェスターβとγが着陸する。 「奴の体液は起爆性が高い。つまり火薬庫と同じです。 ターゲットが潜伏するトンネルの両サイドから チェスターβ、γによる同時攻撃を仕掛けてください。」 イラストレーターの説明と共に ホログラム上のチェスターβとγがトンネル内へ向けて同時攻撃、 トンネル内の巨大ペドレオンを殲滅する。 説明を終えて、イラストレーターは最後にナイトレイダー全員を見渡して告げた。 「今度こそ確実にお願いします。また、あの巨人が現れるとは限りませんから。」 その言葉に西条副隊長は眉をピクリと動かす。 そして、イラストレーターは説明を終えて姿を消す。 彼はホログラムでここに現れたのだ。 その後、水槽のクラゲが不思議に漂う部屋、 CICでイラストレーターは一人、手を組んで俯いていた。 ある部屋、松永管理官が黒服の女性一人と男性二人と話をしていた。 「大原リーダー。既にご存知の通り、ここ数週間状況に微妙な変化が生じています。」 松永管理官の言葉に答えるかつて しんのすけの憧れの人であった女性、大原ななこ・現M・Pリーダー。 「例の巨人。トップシークレット扱いだそうですね。」 「はい。正直、敵か味方か分からない…。 巨人が事件に関与することで、 あなた方の職務にも少なからず影響が及ぶと懸念されます。」 しかし、大原リーダーは表情一つ変えずに答えた。 「ご心配なく、今まで通り完璧にこなします。それが私達の仕事ですからね。」 話が終わり、部屋を出る松永管理官。 それを見て黒服の男性の一人、三沢広之が口を開く。 「巨人か…。そういえば、松永管理官は レーテと来訪者の事を知りませんでしたね。」 「三沢君。レーテは最重要機密。軽々しく口にするものではないわ。」 大原リーダーが三沢を注意するが、 ドアの向こう側では松永管理官が2人の会話を全て立ち聞きしていた。 「時間だ!」 夜。和倉隊長の言葉と共にナイトレイダーが一斉に動き出す。 ブースに左端から和倉隊長、西条副隊長、石堀隊員、平木隊員が入る。 隊員が全員入ったことを和倉隊長が確認し、 シューターがクロムチェスター搭乗口に射出される。 発進ゲートから3機のクロムチェスターが発進し、 それぞれの待機場所へと向かった。 「こちら和倉、各機、状況を報告せよ。」 「こちら平木。作戦ポイントで待機。ノープロブレム!」 「こちら石堀。作戦ポイントで待機。問題無し。」 3機全て待機場所に到着し、石堀隊員が分析を始める。 「前方トンネル内にターゲットを確認。」 それを受けて指示を出すイラストレーター。 「了解しました。攻撃レベルA−3MAX。作戦スタート。」 その命令と共にクロムチェスターβがメガレーザーを クロムチェスターγがメタルレーザーを発射する。 「あの、何でこの一帯を封鎖することになったんでしょう?」 「う〜んと、上が言うには確かトンネルに崩落の危険性が出たとか言ってたな…。」 真実を知らずにミッションエリアを封鎖していた地元の警官達。 その一人がもう一人の警官とのんきに話をしていると、突然爆音と地響きがした。 「な、何だ!?」 一方、ナイトレイダーの攻撃により、トンネル内を大爆発が覆っていた。 勝利を確信するナイトレイダーだったが、分析していた石堀隊員が叫ぶ。 「ターゲット、健在!? 熱源上昇!」 トンネル内の巨大ぺドレオンは 頭部の触角の間に火球を作りだして外に向けて発射した。 急いで待避する二機のクロムチェスターだがβは被弾し、不時着する。 それを見て驚くイラストレーター。 「体内の可燃性ガスを火球として発射したのか? 奴は僕達の攻撃を学習し、戦闘能力を進化させたんだ…。」 トンネルをぶち破り、ぺドレオンは50mはあろうかという巨体を現し、 続けて火球を発射して、クロムチェスターγを撃墜した。 「新型機が…。」 モニターでその様子を見ていた和倉隊長。その時、機体の警告サイレンが鳴り響く。 見ると、飛翔体のぺドレオンが和倉隊長の乗る クロムチェスターαに迫ってきていた。 「ここから先へは行かせない!」 そう言って和倉隊長はバニッシャーレーザーキャノンを撃った。 ぺドレオンは避けるものの、 続けて放たれたスパイダーミサイルを受けて動きが弱まる。 一方、しんのすけはエボルトラスターの明滅を見ながら森を駆けていた。 辺りに爆音が響き、しんのすけが上空を見ると、 空中戦を繰り広げているクロムチェスターαとペドレオンが目に入り、 しんのすけはエボルトラスターを鞘から抜き、天に掲げる。 地上から光となったしんのすけが上空目掛けて飛び立つ。 それはぺドレオンの眼前に現れ、銀色の巨人、ウルトラマンの姿となった。 「ウルトラマン…?」 チェスターαから現れたウルトラマンを見る和倉隊長。 ウルトラマンは突っ込んでくるぺドレオンに蹴りを浴びせて地上に蹴り落とした。 蹴り落されたぺドレオンは再び歩行形態となった。 ウルトラマンは地上に降り立つと、アームドネクサスを使って、 銀色のアンファンスから赤い姿・ジュネッスへとスタイルチェンジした。 さらに右手を左腕のアームドネクサスに当て、 光を得た右手をゆっくりと辺りに回し、そのまま光を遥か天に向かって放つと、 天で広がった光がまるでシャワーのように地上に降り注いでいった。 ウルトラマンとぺドレオンの周りを水のように光が包んでいく。 ぺドレオンは火球を発射するが光に掻き消されてしまった。 「!?」 クロムチェスターαもその光に包まれていく。 「巨人とビーストが…消えた?」 不時着したクロムチェスターから降りたナイトレイダーは 目の前の展開にただ、呆然とするだけだった。 「ここは…?」 和倉隊長が気づいた時、辺り一面は赤茶色の地面と 光の空に覆われた世界になっていた。 和倉隊長のクロムチェスターαは赤茶色の崖に突き刺さっていた。 その時、爆音と共に凄まじい地響きが起こり、 和倉隊長が見るとウルトラマンとぺドレオンが激しい肉弾戦を展開していた。 押すウルトラマンだったが、 ぺドレオンの口から発する衝撃波によって吹き飛ばされ形勢は逆転。 前回とは違い、ウルトラマンとほぼ同じ大きさになっているぺドレオンは 触手を巻きつけ、電流を流してウルトラマンを追い詰める。 しかし、ウルトラマンは全身に力を込め、力任せに触手を引きちぎると、 そのままぺドレオンを蹴り飛ばして、 竜巻状のエネルギー波・ネクサスハリケーンを放ち、 それに吹き飛ばされたペドレオンが地面に突き刺さり、 身動きがとれなくなった機を逃さず、 ウルトラマンは腕を下方に組んで、胸の前で開き、エネルギーを溜めると それを天高く広げ、両腕をL字に組み、 光をスパークさせた必殺技・オーバーレイ・シュトロームを放った。 それを受けてぺドレオンは光の粒となって消滅した。 「凄い…。」 思わず感嘆の声を上げる和倉隊長。 やがて光の世界が消え去ると、和倉隊長のクロムチェスターαも元の場所に戻り、 ウルトラマンは光と共に消え去った。 「ターゲットは消滅しました。帰還してください。」 イラストレーターの指示が飛ぶ。戦いが終わり、街の方を見るナイトレイダー。 CICでは、イラストレーターが今回の戦いのデータを分析していた。 ウルトラマンが展開した光の世界の分析を終えてイラストレーターは一人呟いた。 「巨人が作りだす戦闘用亜空間、メタフィールド、か…。」 一方、ミッションエリアを封鎖していた警官達の所にM・Pの車がやって来た。 車から降りる大原リーダーと三沢。一人の警官が事情を説明する。 「引き返してください。ここは危険です!」 「危険?」 「巨大な化け物が出たんですよ! それに見た事もない戦闘機も!」 それを聞いた大原リーダーは呟いた。 「あなた達の任務は終わりました。あなた達は何も見なかった。」 「え?」 「あなた達は何も見なかった。それが現実よ。」 そう言って大原リーダーは携帯電話型の機械、メモレイサーを掲げ、 その瞬間、メモレイサーの画面から眩い光が発せられた。 一方、しんのすけは家に戻る道を歩きながら、 ポケットからあいに貰った翼の生えたぶりぶりざえもんと エボルトラスターを取り出し、見つめていた。 しばらく見つめた後、しんのすけはそれらをしまい、再び歩き出した。 『自分に与えられたこの光で、皆を、人々を守るために戦おう…。 オラはこの時、そうはっきりと心に決めたんだ…。』…野原しんのすけ To be continued Episode 04 巨人 −ウルトラマン− 「で、マサオ君はその遊園地でアルバイトする気なんだって。」 「へぇ…、マサオ君がね…。昔とは随分変わったもんだなぁ…。」 「この前もマサオ君、自分でそんな事言ってたけど、 気が弱いところは相変わらずだゾ。」 朝の野原家。しんのすけはひろし達と話しながら、朝食を食べていた。 「あ。あなた。新聞に埼玉県境のトンネルで 謎の崩落事故があったって載ってるわよ。」 みさえの言葉を聞いて、しんのすけの顔が曇る。 「おっ、サンキュー。」 新聞を受け取って一面を見るひろし。そんなひろしを見るしんのすけ。 「…やっぱ、載ってねぇや…。」 ひろしが肩透かしを受けた感じで答える。 「ねぇ、本当に見たの? そんな化け物。酔っぱらって見た夢とかじゃない?」 みさえの問いにひろしがムッとして答える。 「あのな。あれは夢なんかじゃない。俺はハッキリとこの目で見たんだ!」 「ホントに〜?」 「あぁ、間違いない。」 そんな二人の会話をしんのすけは黙って複雑な顔で聞いていた。 しんのすけは朝食を食べ終わると外に出かけた。今日は休日である。 「最近、原因不明の事故や事件が多すぎるとは思わんか? お前。」 自分にいきなりかけられた声にしんのすけは驚いて立ち止まり、 振り返るが、そこには何も無かった。 不思議に思いつつもしんのすけは再び歩き始める。 しかし、電柱の影からはしんのすけを 眼鏡をかけた中年の男性、根来甚蔵が見つめていた。 「コードネームは…ウルトラマン。今後この巨人をウルトラマンと呼称する。」 フォートレスフリーダムのコマンドルームでは 和倉隊長と松永管理官がウルトラマンの説明をしていた。 「上はこの、ウルトラマンという名前をコードネームにするのに あまり好意的ではありませんでしたが、 私はこの名前が一番しっくり来るような気がしましてね。」 笑みを浮かべて語る松永管理官。 続いて、画面に映し出された映像をバックに和倉隊長が話し始める。 「私の乗っていたクロムチェスターαが捉えたメタフィールド内の映像だ。」 「メタフィールド?」 尋ねる平木隊員。それを受けて石堀隊員が説明する。 「メタフィールドは位相の褶曲によって、生じる不連続時空間の結界で、巨人が…。 いや、ウルトラマンが作り出す一種の戦闘用亜空間です。」 「そ、そう…。」 明らかに理解してなさそうな平木隊員。和倉隊長が主張する。 「戦闘による被害を最小限に食い止めるために ウルトラマンはビーストをその空間に引き込んだ…。俺にはそう見えた。」 「つまり、隊長はウルトラマンが人類の味方であると言いたい訳ですか?」 和倉隊長は質問してきた西条副隊長の顔を見る。 「そうとは言ってない。我々にとってウルトラマンは未知の存在だ…。 だが、先の戦闘でウルトラマンが戦闘用亜空間を展開したという 事実を考慮すればそう考えることも出来る!」 「ですが、奴は自分にとって有利な戦闘用亜空間に 敵を誘い込んだだけ…そう考えることも出来るんではないでしょうか?」 反論する西条副隊長に和倉隊長は更に反論する。 「なら、どうしてウルトラマンはビーストと戦う!? 危険を冒してまで!」 「和倉隊長。あなたらしくありませんね。少し落ち着いたほうがいいですよ。」 松永管理官が注意をする。 「すみません…。」 そして、松永管理官がナイトレイダーに向かって口を開く。 「ウルトラマンについては現時点では未解明の部分が多い状態です。 ただ、ウルトラマンは人類の味方…。そうあってほしいと私は思いますね。」 そう言い残して松永管理官はコマンドルームを後にした。 「人類の味方か…。」 水槽のクラゲが不思議に漂う部屋、 CICでイラストレーターはそれらの様子を聞いていた。 その頃、しんのすけはマサオと一緒にマサオの見せた広告の遊園地に来ていた。 「ねぇ、しんちゃん。どう? なかなかよさそうな遊園地じゃない?」 「ふーん…。いいんじゃない?」 「でしょ? ねぇ、しんちゃんもこの遊園地で…。」 その時、しんのすけのポケットに入れてあったエボルトラスターが明滅を始め、 それを知ったしんのすけは遊園地から走り去っていった。 「あ、ちょっとしんちゃん! また話の途中で…。」 そして、それを見ていた根来もしんのすけの後を追った。 あるカップルが車の中で音楽を大音量で鳴らして熱唱していると、 女性が何かを耳にした。 「ねぇ、何か聞こえない?」 「え?」 彼女の疑問に彼氏は耳を貸さずに熱唱し続けるが、 音楽が邪魔で何も聞き取れない彼女は音楽を止めてもう一度聞こうとした。 「何するんだよ!」 「ねぇ、やっぱり何か聞こえない?」 「え?」 二人が耳を澄ませると虫の羽音みたいなものが聞こえてくる。 バックミラーで羽音の聞こえてくる方、車の後を見ると、 巨大な鉤爪が迫ってきていた。 ある山頂の駐車場。今日は休日なのもあって家族連れが多くいた。 「じゃ、そろそろお昼にするか?」 「うん!」 親子が笑顔で車に向かうと空から巨大な羽音が聞こえてきた。 辺りを巨大な影が覆う。 一方、ナイトレイダーも出動準備を始めていた。 「夜間ではないので、ミッションエリアの封鎖を 5kmに拡大して徹底してください。特に上空の航空管制を強化。」 イラストレーターが指示を出す中、3機のクロムチェスター、 西条副隊長が乗るα、和倉隊長が乗るβ、石堀隊員と平木隊員が乗るγが出撃する。 根来を乗せたタクシーはある山道にやって来るが、 崖崩れがあった為、通行止めとなっていた。 根来は、規制をしていた警察に高校生くらいの少年が ここを通らなかったか聞くが通らなかったらしい。 「見失ったか…戻ってください。」 渋々タクシーを引き返す根来。前を見ると一台の黒い車が近づいてきた。 黒い車の助手席に座る女性、大原リーダーをカメラに収める根来。 「何が崖崩れだよ…。これも奴らの情報操作か…。」 一方、黒い車の中。三沢が大原リーダーに話しかける。 「大原リーダー、あのカメラマン。よろしいのですか?」 「えぇ、たった一人でどうにかなる事態じゃないわ。泳がせておきましょう。」 「甘い。…と私は思いますがね。」 「別の特殊振動波。やっぱり来たか…。」 CIC。画面に現れた反応を見つめるイラストレーター。 その反応地点をしんのすけが駆けていた。 しんのすけが森を抜けると、空から車の残骸が降ってきた。 見上げると、甲虫の様な堅い体表と鋭い鉤爪を有する、 カブトムシの幼虫とイナゴが融合したかのような ビースト・バグバズンが口から車を吐き捨てていた。 車を吐き出した後、鉤爪で牙にへばりついている肉片をほじくるバグバズン。 それが意味することに怒りが湧き上がったしんのすけはエボルトラスターを掲げた。 しんのすけは光となってバグバズンにぶつかり、 そのままアンファンスの姿となって地上に降り立った。 激突するウルトラマンとバグバズン。 組んだウルトラマンは力任せにバグバズンを投げ飛ばし、 続いてキックやパンチを繰り出していく。 ウルトラマンの攻撃には以前見られなかった、 ヒットの瞬間に光がスパークする現象が見られた。 攻撃に倒れ込んだバグバズンは 尻尾にあるもう一つの口でウルトラマンの足首を噛もうとするが、 それに気づいたウルトラマンは、超高速移動・マッハムーブで回避、 バグバズンの死角に入って攻撃を続けた。 戦闘を分析していたイラストレーターが驚く。 「バトルアビリティ7000から8000。パワー、スピード、攻撃力。 全てにおいて以前より遥かに強くなってる。 このままじゃ…、このビーストを倒すのに1分もかからない…。」 そこにやって来た3機のクロムチェスター。 それを確認したイラストレーターは、 しばらく目をつむって俯いた後、意外な指示を出した。 「作戦を一部変更します。チェスターβ、γは予定通りビーストを攻撃。 チェスターαは…ウルトラマンを攻撃してください…。」 「何だって…?」 驚く和倉隊長。 「了解、ウルトラマンを攻撃します。」 西条副隊長はすぐさま了解。クロムチェスターは二手に別れる。 一方、ウルトラマンは倒れるバグバズンに止めを刺そうとするが、 そこにチェスターβとγがやってきて、 メガレーザーと、メタルレーザーでバグバズンを攻撃する。 それを見たウルトラマンがただならぬ気配を感じ、振り返ると、 背後にチェスターαが迫っていた。 西条副隊長はクロムチェスターαのバニッシャーレーザーキャノンを撃つが、 ウルトラマンはギリギリ回避。驚き、再びクロムチェスターαを見るが、 その瞬間、バニッシャーレーザーキャノンを受けて、地面に倒れ込んでしまった。 ウルトラマンは何とか体を起こし、呆然とクロムチェスターαを見る。 そんなウルトラマンを心苦しい表情で見る和倉隊長。 「そんな簡単にビーストを倒されると困るんだ…。」 ウルトラマンに攻撃するナイトレイダーを見てイラストレーターは一人呟く。 しかし、その眼は少し悲しげで拳を強く握り締めていた。 ウルトラマンは立ち上がってジュネッスにスタイルチェンジしようとするが、 クロムチェスターαに阻止され、再び立ち上がろうとすると、全身に衝撃が走った。 見るとバグバズンが右足を鉤爪で突き刺していた。 苦しみの声を上げるウルトラマンの傷口から、血の代わりに大量の光が噴き出し、 今度はバクバズンが止めを刺そうとするがチェスターβとγに阻止される。 ウルトラマンの圧勝かと思われた戦いは ナイトレイダーの参入によって先の見えない三つ巴の戦いとなった。 攻撃に耐え切れなくなったバグバズンが羽根を広げて飛び立つ。 「ビースト離脱!」 叫ぶ平木隊員。イラストレーターが指示を出す。 「チェスターβとγはビーストの追跡を、 チェスターαはウルトラマンの攻撃を…。」 指示を受けて展開するクロムチェスター。 西条副隊長の操縦するチェスターαが容赦なく ウルトラマンを攻撃する中、ウルトラマンは逃げ去ろうとするバグバズンを見て、 右手を左腕のアームドネクサスに当て、 光を得た右手から光の刃・パーティクル・フェザーを放った。 パーティクル・フェザーはチェスターβとγの間を抜け、 バグバズンの羽根の付け根に命中する。 羽根がもげたバグバズンは地上に墜落し、 力尽きたウルトラマンも光に包まれて姿を消した。 「消えた…。」 少し安心した和倉隊長。 「付近にまだウルトラマンの特殊振動波を感知しています。 チェスターβ、γはビーストを追跡。 チェスターαは着陸して、ウルトラマンの特殊振動波を追跡してください…。」 「了解。」 「……。」 隊員たちが答えていく中、和倉隊長は少し、不満げな表情であった。 「何なんだ…、あいつらは…? どうして…オラを…。」 森の中、しんのすけは傷付いた右足を引きずって歩いていた。 「止まりなさい!」 背後から聞こえてきた声に しんのすけが振り返ると、西条副隊長がディバイトガンナーを構えていた。 「あんた…。」 しんのすけの脳裏にペドレオンとの戦いで自分を撃った人物が思い浮かぶ。 「あの時の…。」 しかし、西条副隊長はしんのすけの呟きに耳を貸さずに見ると、 しんのすけの血を流している部分が、ウルトラマンの傷の部分と同じ事に気づいた。 「やはり…ウルトラマンはあなたのようね。」 ディバイトガンナーを構えつつ、西条副隊長はしんのすけに近づいていく。 近づいてくる西条副隊長に警戒するしんのすけ。 「一つ聞きたいことがあるわ…。あなたは溝…。」 「今だ!」 しんのすけはその隙を突いて、 上空に向けて小型の専用銃・ブラストショットを放ち、 それを見た西条副隊長はすぐさましんのすけにディバイトガンナーを撃った。 しかし、 「え…?」 事態に驚く西条副隊長。 見ると、ディバイトガンナーの弾が しんのすけの周りに現れた光の幕によって消し去られてしまった。 やがて上空から光の石柩・ストーンフリューゲルが降臨する。 「な、何なの、一体…?」 ストーンフリューゲルからものすごい振動が放たれ、 振動の凄まじさに西条副隊長は頭を押さえて地面に倒れ込んでしまった。 「じゃ、そういうことで。」 しんのすけが光となってストーンフリューゲルに入ると 辺りを覆っていた振動が止み、 西条副隊長はなんとか立ち上がると ディバイトガンナーをディバイトランチャーに換装させて、 ストーンフリューゲルに向けて撃つが、傷一つ付けられなかった。 「そんな…、傷一つ無いなんて…。」 唖然とする西条副隊長がふいにストーンフリューゲルに手を触れた瞬間、 イエスタディ・ワンスモア。東京タワーのようなタワー。 トッペマ・マペット。ブタのヒヅメ。ジャングル。 倒れる一人の侍。一人の少女の悲しい顔…。 ストーンフリューゲルから大量の光とイメージが 西条副隊長の脳裏に流れ込んでいき、 そのまま西条副隊長は衝撃に吹き飛ばされてしまった。 その時、再びストーンフリューゲルが振動を放ち、上空へと浮かび、 フライングモジュールとなって、凄まじい速度で空の彼方へ飛び去っていった。 それと同時に振動も止み、西条副隊長は ストーンフリューゲルが飛び去った方向を見つめて憎しみを滲ませて呟いた。 「この化け物が…!」 一方、バグバズンを追跡していた クロムチェスターγは地上に巨大な穴を見つけていた。 「ビーストの反応が消えた…。」 「逃げられたな。ビーストの奴、地中に潜ったようだ。」 その時クロムチェスターγのシステムにノイズが走る。 「何あれ?」 「ん?」 平木隊員に言われて石堀隊員は前方から迫り来る謎の物体を覗き込んだ。 その物体、ストーンフリューゲルは物凄い速度で クロムチェスターγの横を飛び抜けていき、 それと同時にクロムチェスターγのシステムが一瞬ダウンした。 「な、何だったの、今の?」 驚く平木隊員。 石堀隊員も驚きながら、ストーンフリューゲルの去った方向を見つめる。 そのストーンフリューゲルの中では、しんのすけが光に包まれて横になっていた…。 To be continued Episode 05 適能者 −デュナミスト− ストーンフリューゲルの中、光の水に漂いながらしんのすけは体を癒されていた。 その頃、フォートレスフリーダムのコマンドルームでは ナイトレイダーが先の戦闘の報告をしていた。 「西条、報告を。」 「はい。私はイラストレーターの感知した通り、確かにウルトラマンと思われる 特殊振動波を捉え、追跡。結果、山中で正体不明の飛行物体を発見しました。」 「飛行物体?」 「はい。石柩のようなその物体は強烈な振動波を発し、 その為、一時的に体の自由が利きませんでした。」 「石堀、平木。君達のチェスターγが遭遇した飛行物体と…。」 「おそらく同じ物体です。やはり凄い振動波でした。」 平木隊員に続けて、石堀隊員が答える。 「その上、物体が通過した瞬間、 チェスターの電気系統がダウンしてあやうく失速するところでした。 大きさは人一人乗れるくらいの小さなものだったのですが…。」 和倉隊長は2人の言葉を聞いて頷き、改めて西条副隊長に話を促した。 「危険を感じたため物体に対し、 ディバイトランチャーを使用したのですが破壊は不可能でした。」 少し間を置いて、和倉隊長はある事を尋ねた。 「その他に、ウルトラマンと思われる生命体の痕跡は?」 「ありません。生命体の痕跡は一切。」 すぐさま答えた西条副隊長だったが、 和倉隊長に無言で見つめられてつい目が泳いでしまった。 「…分かった。」 そう言って和倉隊長は全員に報告書を提出するように告げて解散させた。 敬礼して部屋を出て行く石堀隊員と平木隊員。 西条副隊長も出ようとするが、和倉隊長が背を向けたまま話しかける。 「西条。」 「はい。」 西条副隊長は振り向いて答え、和倉隊長は振り返らずそのまま話しかける。 「君は優秀なTLTの隊員であり、私の右腕だ。」 何か思い当たる節があり西条副隊長は黙って聞く。 「期待を裏切らないでもらいたい。…間違っても前任者の時のようにな。」 そう言って、和倉隊長は西条副隊長の方を向き、 西条副隊長は目を逸らさずに答えた。 「私は…、あの男とは違います。」 そう言い残して西条副隊長は部屋を出た。 「私は…あの男とは違う。」 フォートレスフリーダムの外観。西条副隊長は思いを馳せるように呟いた。 そして脳裏に浮かぶストーンフリューゲルに触れたときに流れ込んできたイメージ。 「あのイメージ…。どこかで…。」 そんな彼女を赤い視線が遠くからじっと見ていた。 その後のコマンドルーム。 西条副隊長は一人、パソコンを操作して、ストーンフリューゲルに触れた時に見た、 東京タワーのようなタワーのことについて調べていた。 膨大なネット上の情報の中から、 やがて一つの情報に辿り着いた西条副隊長は、 その情報を閲覧。遂にその写真、 正面に「20世紀博」と書かれた東京タワーの写った写真が、 かつて東都日報に載ったものだという事を突き止めたのだった。 「これね…。」 記事を見ていく西条副隊長の目に、その中のある家族の紹介が止まる。 「野原家…、オトナ帝国事件から日本を救った家族…。」 その家族、野原一家の写真を順番に見ていく 西条副隊長の目にある少年の写真が映った。 「野原しんのすけ…。」 一方、しんのすけは家に戻る道を歩いていた。 辺りは既に暗くなっていた。 「お前、野原しんのすけだろ。」 その時、昼間聞いた声が聞こえ、 しんのすけがすぐさまブラストショットを取り出して、 振り向くと、そこには根来が立っていた。 「あんた…、どうして名前を…。」 しかし、根来はしんのすけの問いかけに直接答えず、自己紹介をした。 「俺は東都日報の根来ってもんだ。お前のことは前から知っている。 以前、うちの新聞社がお前達家族のことを取り上げたからな。」 根来の言葉にある事を思いだすしんのすけ。 「野原さんですね。野原さんなら僕達の家の隣ですよ。」 野原家のすぐ隣のアパート。西条副隊長が そこの住人の鳩ヶ谷ミッチー、ヨシリンに野原家の住所を聞いていた。 「ありがとうございます。」 「でも、どうして野原さん達のことを知りたいんですか?」 「この記事の『オトナ帝国事件』という 事件に関わった家族って知って。それで…。」 「失礼ですが。」 呼びかけられて西条副隊長が振り向くと、そこにはひろしがいた。 「粗茶ですが…どうぞ。」 野原家。 西条副隊長とひろしとみさえがテーブル越しに向かい合っていた。 「確か…、この事件と私達のことについて知りたいんでしたね?」 みさえの問いに西条副隊長はお茶を飲む手を止めて頷き、 それを受けてひろしとみさえは「オトナ帝国事件」のことについて話を始める。 「オトナ帝国事件…。かつてイエスタディ・ワンスモアという組織が 21世紀という新しい時代を20世紀の頃に戻そうとした、 時代逆行による逃避未遂事件だ…。」 家に帰る道の途中、しんのすけは話し始めた根来の方を見る。 「奴らは懐かしいニオイとやらで日本中の大人達を懐かしさの虜にさせて、 子供達の生きる21世紀を、未来を閉ざそうとしていた…。 だが、お前達家族のとった行動は俺達に未来を生きる希望を教えてくれた。 その後、お前達家族は俺達各マスコミ、各メディアに取り上げられた…。」 「……。」 根来は鞄の中からある新聞を取り出し、しんのすけに渡した。 その新聞の一面には「新宿大災害」と書かれていた。 「あれからもう5年になるか? あの巨大な力が本格的に動き出したのは…。 俺達の見えない所で何か巨大な力が動いている…。 不気味な…死の匂いさえ感じさせる力だ…。 俺はその力の正体を突き止めようと、独自に調査を始めた。 だが、その現場には何故かいつもお前がいたんだ!」 「…偶然だゾ。」 根来から顔を背けてしんのすけは答えるが、 しんのすけの言葉に根来は怒りを露にした。 「何が偶然だ! 今日、お前を尾行していて、 また情報操作の壁にぶつかったんだ!」 今度は先の戦いで撮った大原リーダーの写真をしんのすけの前に突きつけた。 「素性は明らかじゃないが、この女が情報操作に絡んでいるのは間違いない。」 しんのすけに顔を近づけ、呟く根来。 「俺達の見えない所で一体何が起きているんだ?」 しかし、しんのすけは根来の問いに目を合わせずに一言答えた。 「話すことは…何もありません。」 一方、野原家ではひろしとみさえが自分たちのこと、 そしてしんのすけのことについて話をしていた。 「本当に色々あったわよね〜、昔は。」 「そうそう。」 ひろし達の口から語られる自分達の過去を懐かしむ話を聞いて、 西条副隊長は自分がビーストだと認識している存在が 温かい家庭で様々なトラブルを起こしながらも、 深い愛情に包まれて育った少年であることに少し戸惑いを覚えていた。 (彼は…普通の人間なの…? 幸せな家庭の中で育った普通の人間…? いえ、そんなはずがないわ…。私が見た彼は…、 人ならざる存在…。ビーストなのよ…。…そう、あの男や…あいつと同じ…。) 心の中でそう自分に言い聞かせるかのように呟く西条副隊長の脳裏に 自分の幼少期の忌まわしい記憶が思い浮かんだ。 『ママはどこ?』 そして、西条副隊長が帰った後、しんのすけは家に帰ってきた。 家族全員が床に就き、ひろし達に叱られた後、 しんのすけも自分の部屋の布団に寝転んだ。 しんのすけはふと、エボルトラスターを取り出し、それをじっと見つめる。 「あの夢を見たのは3月だったから…もう一ヶ月経ったのか…。」 呟くしんのすけの脳裏に、一ヶ月前に見た遺跡の夢が思い浮かぶ。 「ここは…?」 しんのすけは密林の中を歩いていき、自分を呼ぶ声に導かれて、 夢の中に現れた遺跡の中心に聳え立つ巨大な塔へと入っていった。 そしてその深奥、光の石柩、 ストーンフリューゲルが安置されている回廊へと至った。 「これが…オラを…。」 不思議な光の鼓動を発するストーンフリューゲルを見つめていると、 そこに女の子の笑い声が聞こえてきた。 その声が聞こえた方にしんのすけが振り向くと、 そこにはかつてしんのすけ達が映画の中に入った時に 出会った少女・つばきが笑顔で立っていた。 「つばきちゃん…!」 あのつばきが目の前にいることに驚くしんのすけだったが、 つばきは何も言わずにしんのすけに頷き、それを受けてしんのすけも頷く。 そして、しんのすけはストーンフリューゲルに手を触れ、 それと同時に大量の光がしんのすけに流れ込み、 しんのすけは光となってストーンフリューゲルの中へと入っていった。 ストーンフリューゲルの中、光の水を漂うしんのすけの前には 銀色の巨人・ウルトラマンがおぼろげな姿で存在していた。 「でっけぇ…。」 ウルトラマンの顔をまじまじと見つめるしんのすけ。 「あんたが…。」 しんのすけの言葉を受け、ウルトラマンはしんのすけを見つめる。 「あんたがオラのこと呼んだの?」 しんのすけが尋ねた時、後方から不気味な唸り声が聞こえてきた。 遺跡の向こう側に真っ黒な闇が広がり、 闇の中から片目が潰れた獣の顔を両肩に持ち、 中央に異形の顔を持つビースト・ガルベロスとなった。 遺跡へとゆっくりと歩を進めるガルベロス。 それに対し、遺跡の中心の塔から巨大な光が飛び出し、 その光の中からウルトラマンが地上に降り立った。 ウルトラマンはアンファンスからジュネッスとは違う、 青い姿にスタイルチェンジし、メタフィールドを展開。 光がシャワーのように地上に降り注ぎ、戦いの場所はメタフィールドへと移行した。 「おぉ!?」 その光景に驚くしんのすけ。 光の水の中、しんのすけはウルトラマンとガルベロスの戦いを見ていた。 ゆっくりと間合いを取る両者。ガルベロスは両肩の顔の口から火炎弾を発し、 それを見たウルトラマンはマッハムーブでガルベロスの後ろに回りこみ、 外れた火炎弾は赤茶色の崖を破壊した。 しかし、ガルベロスの両肩の顔もすぐさま後ろを振り向き、再び火炎弾を発した。 ウルトラマンは今度は飛んで上空に逃れ、 翼がなくて飛べないガルベロスに向かって上空から飛び蹴りを浴びせ、 ガルベロスが倒れた隙を突いて、 ウルトラマンは胸の前で両腕のアームドネクサスでゆっくりと円を描き、 胸のエナジーコアから強力な光・コアインパルスを放った。 コアインパルスを受けて、ガルベロスは光の粒となって消え去った。 「すっげぇ…!」 しんのすけは興奮気味に光の水の中でその戦いを見ていたが、 気がつくと、手にエボルトラスターが握られていた。 「…なんだ夢か。変な夢…。」 夢から目覚めたしんのすけは2階の自分の部屋にいた。 全てが夢の中での出来事かと思い、再び眠ろうとするが、 「! これって…!?」 その手にはエボルトラスターがしっかりと握られていた。 そして現在、フォートレスフリーダムのCICでは、 イラストレーターがパソコン画面に西条副隊長が使用していたパソコンから 引き出したしんのすけのデータを開いていた。 データの中にあるしんのすけの写真を見てイラストレーターが一言呟く。 「やっぱりお前が…。二番目の適能者(デュナミスト)か…。」 その頃、しんのすけはエボルトラスターを見つめ続けていた。 『何が夢で、何が現実なのか、全てが曖昧だった。 でも、信じなくちゃいけない現実は一つ。オラは自分にそう言い聞かせていた…。』 その頃、あいは部屋で熊の親子の温かい絵を描いていた。 その時、近くの棚に置いてあった、幼稚園の頃のあいが 同じく幼稚園の頃のしんのすけと 一緒に写っている写真が入った写真立てにヒビが入った。 その様子を遠くから見る赤い視線。 『そして、本当に恐ろしい現実が 待ち受けていることにオラはなんにも気づいてなかったんだ…。』…野原しんのすけ To be continued Episode 06 魔人 −ファウスト− 翌日。しんのすけは家の自分の部屋で布団から起き上がった。 周りを見て、枕元に置かれているエボルトラスターとブラストショットを手に取る。 そんなしんのすけの脳裏にペドレオン戦の時と昨日、 密かに味方だと思っていたナイトレイダーに攻撃されたことが浮かぶ。 『オラはナイトレイダーを自分の味方だと、一緒に戦う仲間だって思ってた。 でも、そのナイトレイダーに攻撃された時、オラは物凄く戸惑った。 味方のいない、独りきりでの戦い…。 この現実を受け入れてオラはこれからも戦えるのか…。 この時、オラの頭の中にそんな疑問が浮かんだ。』 「なぁ、そろそろ帰らね?」 ある廃工場にスケボーを持った男、 絵を描いている男、カメラでその様子を撮っている男がいた。 スケボー男が絵描き男に話しかける。 「俺、もう飽きちゃって。」 「待ってろって! もう少しで完成なんだから!」 「さっきからずっとそう言ってんじゃん…。」 スケボー男はぶつくさと文句を漏らすが、 絵描き男とカメラ男は意に介さずに黙々と絵を描き続ける。 「よし! 完成!」 絵描き男はそう言ってカメラに向かって笑顔でポーズを決めるが、 スケボー男がいなくなった事に気づいて途端に不機嫌になった。 「あいつ、マジで帰っちまいやんの。」 その言葉を聞いてカメラ男がスケボー男のいた所に目をやると、 巨大な穴が広がっていた。 「何だこれ? こんなのあった?」 カメラ男がカメラを覗き込みつつ穴に近づくと、突然、足下が崩れた。 「あ、犬。」 学校から家に帰る途中、近道で廃工場を通っていた少女、 杉山里奈は箱に入れられた捨て犬を見つけた。 近づき、恐る恐る頭を撫でた里奈は 子犬が頭を撫でられても噛み付いてこない事を知って笑顔で撫で続けた。 その時。 「うわぁぁぁっ…!! た、助けてくれぇ!!」 叫び声を聞いて里奈は振り返り、急いで叫び声がした方に向かった。 子犬も里奈に付いて行く。 「だ、誰かー!!」 やって来た里奈が見たものは、巨大な穴に飲み込まれていく絵描き男の姿であった。 絵描き男が穴の中に消えると、 絵描き男の持っていたスプレー缶がペッと放り出される。 目の前に落ちたスプレー缶を呆然と見る里奈。そこに子犬が駆け寄ってくる。 そして穴から里奈の方へ、地面の下を何かがゆっくりと近づいて来た。 その頃、しんのすけは居間でみさえと昼食を食べながらTVを見ていた。 その時、TVのニュースに速報が入ってきた。 「越谷市の廃工場で有毒ガスが発生したという情報が入ってきました。 現場には7歳の女の子が取り残されているという未確認情報があるとのことです。 繰り返します、越谷市の廃工場で有毒ガスが発生した模様です。 現場には未確認情報として7歳の女の子が取り残されているとのことです。」 そのニュースが流れたのと同時にしんのすけのエボルトラスターが明滅。 しんのすけはみさえに約束を思い出したと言い残して、急いで家を後にした。 「こちらナイトレイダー、作戦ポイントに到着。」 一方、TVで有毒ガスが発生したと 報道されていた現場にナイトレイダーが到着していた。 和倉隊長の言葉を受け、イラストレーターが改めて指示を出す。 「ターゲットは廃工場内に潜伏。 パルスパターンから以前現れたコードネーム・バグバズンだと思われます。 ただし、反応数値から見て今回は地中に潜っている。 おそらく先の戦いでウルトラマンに羽根をもがれ、 空から地中へ活動の場を移したのでしょう。 組成データから判断して、ターゲットの体表は固い。 まず冷却弾で凍結してから強化装甲弾で破壊してください。」 その指示を受けてナイトレイダーはパルスブレイガーに冷却弾をセットし、 和倉隊長、石堀隊員のA班は正面、 西条副隊長と平木隊員のB班は裏から回り込む事になった。 廃工場から少し離れた荒野に到着したしんのすけは エボルトラスターを握り、目を閉じた。 脳裏に廃工場の隅で子犬と一緒に縮こまっている里奈の姿が映る。 しんのすけは目を開き、エボルトラスターを構えようとするが、 その瞬間、どこかから闇の光弾が撃ち込まれてきた。 「うわっ!?」 撃ち込まれた闇の光弾をなんとかかわすしんのすけ。 そこに女性のような、それでありながら異様に低い笑い声が聞こえてきた。 「誰だ!?」 しんのすけの問いに答えるかのように、赤と黒が混じりあった、 頭に2本の角が生えたピエロを思わせる存在が姿を現した。 死人のように光を宿していない目が赤く光る。 「ファウスト…。」 その頃、ナイトレイダーはパルスブレイガーで ビースト振動波を探りながら工場内を進んでいった。 やがてB班は先程、若者達が絵を描いていた場所にやって来た。 西条副隊長が壁に描かれた絵を手で触って 塗料がまだ乾ききっていない事を確認すると、 平木隊員が地面に落ちていたカメラを再生して、 若者達が穴に引きずり込まれる場面を見た。 それを見て険しい顔になる西条副隊長と平木隊員。 しんのすけはブラストショットを赤き死の魔人・ファウストに向けて撃つが、 ファウストは腕でそれをいなすと、逆に腕から闇の光弾・ダークフェザーを撃った。 避けるしんのすけだったが、避けた先には既にファウストが待ち構えていた。 再びファウストの目が赤く光ると、言葉が発せられた。 「逃げても無駄だ…。何故なら私は、お前の影なのだから…。」 「影?」 「光と影…。お前の手にした光が私という影を作り出した…。」 「意味分かんないゾ。」 「いずれ分かる…。」 しんのすけはその言葉を聞くと エボルトラスターを掲げて等身大のウルトラマンに変身。 それを見て、ファウストはウルトラマンに向けて構えを取った。 荒野に人間大のウルトラマンとファウストが対峙する。 一方、イラストレーターはCICでその状況を察知した。 「特殊振動波が二つ? しかもこれは…。」 廃工場内を進むB班。 壁に立てかけられていたパイプが倒れ、 2人はその方向にディバイトランチャーを向ける。 「もう、脅かさないでよ!」 しかし、何も現れず平木隊員は文句を言って、 西条副隊長は一息ついて、それぞれディバイトランチャーを降ろすが、 その時、地面から不気味な音が迫ってきた。 急いで2人がディバイトランチャーを地面に撃ち込むと、 地面が陥没して巨大な穴が現れ、 その中からちらりとバグバズンの姿が現れたが、 すぐさま穴の奥へと消えていってしまった。 後を追う2人だったが、平木隊員はふと横を見た時に 里奈と子犬を見つけ、それに気をとられて立ち止まってしまった。 「詩織、どうしたの?」 「今、子犬を抱えた女の子が…。」 2人は先程、平木隊員が里奈と子犬を見た場所に戻るが、 そこには既に誰もいなかった。 「そんな…、確かにここに…。」 平木隊員の呟きを受けて、西条副隊長はミッションエリアに誰か迷い込んでいないか イラストレーターに確認をとろうとしたが、 パルスブレイガーはノイズが走り、通信できない状態になっていた。 「強力な電波障害だわ…。これもビーストの影響?」 荒野で繰り広げられるウルトラマンと ファウストの戦いはファウスト優勢に進んでいた。 ウルトラマンは巨大化して、 人間大のままのファウストを見下ろすとそのまま殴り潰そうとするが、 ファウストはそれを両手で受け止め、 そのまま自分も巨大化してウルトラマンを弾き飛ばした。 続いてウルトラマンはジュネッスにスタイルチェンジして、 メタフィールドを展開するが、 目が赤く光ったファウストは不気味に笑う。 「お前に有利な空間にはさせない…。」 そして、ファウストが光の無いコアゲージの前に両手を出して、 闇の塊を作り、それを空に向けて弾かせると、 天から舞い降りるメタフィールドの光に対抗するように 闇が大地から湧き上がってきた。 「闇に染まれ…!」 そしてウルトラマンは剥き出しの岩盤が広がり、 絵の具で塗りこまれたような闇の空に覆われた世界に立ち尽くした。 空間そのものから不気味な声が響いてくる。 「ここは無限の闇、ダークフィールド。光の存在であるお前に…勝ち目は無い。」 ウルトラマンはダークフィールドを見渡すが、 その時、背後にファウストが突如出現。 発せられた衝撃弾・ダークフラッシャーをウルトラマンはなんとかかわすが、 すぐさまファウストは無数の闇の光弾・ダーククラスターで 頭上からウルトラマンを攻撃した。 「脆すぎる…。正直、期待外れだな…。」 ファウストはダメージを受けて倒れ込んだ ウルトラマンの首根っこを掴んで持ち上げた。 「この闇の中で息絶え、消え去るがいい…!」 笑うファウストだったが、 ウルトラマンは力を振り絞り、ファウストを蹴り飛ばすと、 両腕をクロスし、両腕のアームドネクサスを合わせて、 光をスパークさせた必殺技・クロスレイ・シュトロームを放って、 ファウストを吹き飛ばした。 ウルトラマンはそのまま止めを刺そうとするが、 ダークフィールド内で長く戦い過ぎた為、 これ以上戦い続ける力が残っていなかった。 一方、ファウストはよろよろと立ち上がりながらも不気味な笑い声を上げた。 「それでこそ戦う意味がある…。また楽しませてくれよ…。」 そう言い残してファウストは闇に溶けて消え、ダークフィールドも消え去った。 元の荒野に戻ったしんのすけはそのまま力尽きて地面へと倒れ込む。 「ファウスト…。あいつ何者なんだ…?」 そう呟くと、しんのすけは立ち上がり、廃工場に向かってよろよろと歩き始めた。 「どこ行ったんだろう…。」 廃工場の中を探し回るしんのすけだったが、里奈と子犬は見つからない。 周りを見回し、半開きのシャッターを見つけると中に入っていった。 その時、足下が崩れ、しんのすけは体勢を崩して倒れ込んでしまう。 急いで立ち上がったしんのすけは 穴の中にバグバズンの姿を見るとブラストショットを撃ち、 ブラストショットを受けたバグバズンは撤退した。 当面の危機を乗り越え、しんのすけはホッと一息つくが、 背後から物音がして、再びブラストショットを構える。 見るとそこには子犬を抱く里奈がいて、 しんのすけは再びホッと一息つくとブラストショットを降ろして里奈に話しかけた。 「君は?」 「杉山里奈…。」 怯え震えながらも何とか答える里奈にしんのすけは頷く。 「そう、とにかくここから逃げよう。」 頷く里奈の手をとって走り出そうとするしんのすけだったが、 里奈の足は震えてもつれ、転んでしまった。 「大丈夫?」 しんのすけは里奈を抱き起こした時、体の震えが想像以上だった事に気づき、 まず里奈の気持ちを少しでも落ち着かせる事にした。 腰を屈めて里奈の目線まで下がり、子犬を指差して話しかける。 「その子犬、何て名前?」 「まだ付けてない…。」 震えながらも答える里奈。 「どうして?」 「ウチのママ、犬を飼っちゃいけないって言うから 名前を付けたらもっと寂しくなるからって…。 たぶん、この子も飼っちゃダメって言うと思う…。」 それを聞いてしんのすけは声を張り上げて答える。 「大丈夫! もしママがダメって言っても、オラがなんとか説得するって!」 「え? ほんと?」 「ほんと、ほんと。で、名前なんだけど、ジョンなんていいんじゃない?」 「ジョン?」 「うん。オラが昔見ていたロボットアニメの主人公の名前。 カンタムロボっていうロボットと一緒に悪いロボットと戦うんだゾ。」 「ふ〜ん…。」 会話に付き合っているうち、 里奈が少し落ち着きを取り戻していったのを感じ、しんのすけは立ち上がった。 「よし。じゃあ、必ず里奈ちゃんをおうちに帰してあげるから! 行こう!」 「うん。」 その時、壁を突き破って巨大なイナゴ、 バグバズンの尾部の顔がしんのすけと里奈の前に現れた。 しんのすけは里奈を後ろに下げてブラストショットをバグバズンに向けて撃つが、 先程とは違い、バグバズンはダメージに耐え、しんのすけと里奈に近づいていった。 「くっそ…!」 その時、冷却弾を受けてバグバズンが凍結する。 冷却弾が撃ち込まれた方向を見ると西条副隊長と平木隊員がいた。 「早くこっちに!」 西条副隊長がバグバズンをひきつけているうちに しんのすけは子犬を抱えて里奈と平木隊員と共に走り出した。 廃工場の中からしんのすけ達が走り出ると、 次の瞬間、建物が崩れ去ってバグバズンがその巨体を現した。 辺りは既に夜になっていた。 そこにやって来た和倉隊長達がバグバズンに向けて冷却弾を一斉に発射。 冷却弾を受けたバグバズンは凍結しながらも動こうと必死にもがくが、 この期を逃すまいと西条副隊長達はディバイトランチャーを、 しんのすけはブラストショットを撃ち、 苦しみ暴れる中、バグバズンは凍結した体表を破壊され、 遂に完全に崩壊して光の粒となった。 「よっしゃあ!」 勝利に思わずガッツポーズをするしんのすけ。 一方、ノイズが走った画面を前にイラストレーターが手を組んで俯いていると、 和倉隊長からミッション終了の報告が入った。 「こちらナイトレイダー。ターゲットを撃破。」 「こちらCIC。強力な電波障害で交信不能でしたが、状況は把握しています。」 現場ではホワイトスイーパーがバグバズンのサンプルを回収する傍ら、 里奈が子犬を抱いて立っていた。 西条副隊長はそんな里奈に近づいて笑顔で話しかけた。 「怖かったわね。でも、もうおうちに帰れるから安心して。」 「うん。」 西条副隊長に里奈は笑顔で答え、西条副隊長も笑顔で頷いた。 少し離れた所でしんのすけはそれを見ていたが、 その時、M・Pの車がやって来て、中から大原リーダーと三沢が降りてきた。 「ご苦労様です。」 「お願いします。」 和倉隊長と短い言葉を交わすと大原リーダーは西条副隊長に尋ねる。 「生存者はこの子だけ?」 「いえ、後…、あそこにいる…。」 西条副隊長は大原リーダーに答えて、しんのすけの方を見るが、 既にしんのすけがいた場所には何もなく、西条副隊長は驚いて周りを見回す。 大原リーダーはそんな西条副隊長を見て、状況を悟ると、 屈んで里奈と同じ目線に下がって笑顔で話しかけた。 「今からママの所に帰りましょう。」 「あ、うん…、でも…。」 里奈は子犬を見て不安な顔をのぞかせるが、大原リーダーは笑顔で答える。 「大丈夫。その子犬を飼う事、 ママはきっと許してくれるわ。私が話してあげるから。」 「本当?」 里奈の問いに大原リーダーは笑顔で頷く。 (あの人、どっかで見たような…。) 暗くて見えにくい中、物陰から大原リーダーを見て、そう思うしんのすけ。 「さぁ、行きましょう。」 そう言って大原リーダーは里奈を車に乗せ、 扉が閉ざされ、しんのすけの前から去っていった。 「…良かった。」 里奈を見送ったしんのすけは ナイトレイダーに気づかれないように、その場を立ち去った。 翌日、フォートレスフリーダムのコマンドルーム。 石堀隊員が資料を持って和倉隊長に歩み寄ってきた。 「隊長。昨日の妨害電波の正体が分かりました。」 「やはり、ビーストが関係していたのか?」 「というより、例の巨人、ウルトラマンが関係しているようです。」 「ウルトラマンが?」 驚く和倉隊長に向かって石堀隊員は画面にある波形のデータを映した。 「過去にウルトラマンが現れた時に確認された波形です。そしてこれが今回。」 画面に新たに映し出される波形を見て和倉隊長が呟く。 「この特殊振動波が電波障害を招いていたのか。」 「えぇ。ですが…。」 石堀隊員は画面の二つの波形を合わせた。 「これは…。」 呟く和倉隊長に石堀隊員が答える。 「基本パターンは同じなんですが、正反対の波形。 つまり、表裏一体の関係というわけです。光と影みたいに。」 「光と…影?」 その時、西条副隊長と平木隊員がTLTの査問会から帰って来た。 先の戦闘で2人と一緒に現場にいた少年、しんのすけが問題になったのだった。 「また昔みたいに始末書書かなきゃなんないのか…。やんなっちゃうな…。」 愚痴を言う平木隊員。 「昔みたいにって、昔も始末書書いてたのか?」 「えぇ…。婦人警官だった頃に、色々あってさ…。」 「へぇ…。銃を乱射したりとか? ほら、昔のギャグ漫画であったみたいに…。」 からかう石堀隊員だったが、平木隊員はそんな石堀隊員を睨み付けた。 「お、おい…。本気にするなよ。冗談だって…。」 そんなやりとりから一人離れて画面に表示されている特殊振動波を見る西条副隊長。 通常なら2人と同じくM・Pのメンバーも査問会にかけられるはずだが、 今回、M・Pのメンバーは査問会に出席してはいなかった。 「大原リーダー。どうして、あの時、あの少年の存在を黙認したのですか? 我々はあの時、あの少年が物陰に隠れていたことを認識していたはずですが。」 ある部屋。三沢が大原リーダーに物陰にいた しんのすけの存在を黙認した理由を尋ねていた。 大原リーダーが三沢を見て答える。 「上から泳がしておくようにという命令が出たの。」 「はぁ…、それで…。しかし、どうして上はそんな命令を…。」 「私にも上の考えていることは分かりませんが、 あなたたちは今まで通り職務を遂行してください。」 大原リーダーと三沢が声のした方向に振り向くと、そこには松永管理官がいた。 「松永管理官…。」 「ここ最近の状況の変化。巨大ビーストに、銀色の巨人、ウルトラマンの出現。 これらの状況は全て、来訪者の予言した通り…なのでしょうか?」 松永管理官の言葉に、大原リーダーと三沢が反応を示す。 「そうそう。確か来訪者のことは、 トップシークレット扱いでしたね。迂闊でした。」 そう言うと、松永管理官はM・P室から出て行った。 「ファウスト…か。あいつ何者なんだろう…。」 しんのすけは自分の部屋で、ファウストのことについてしばし考え込んでいたが、 考えても思い当たる節がなく、1階に降りて居間に入ると、 みさえがせんべいを頬張りながら寝転んでTVを見ていた。 TVでは廃工場で有毒ガスが発生したと伝えられた 先の事件の奇跡の生還者として里奈が取り上げられていた。 しんのすけが里奈が保護された病院にやって来ると、 里奈は子犬と一緒に元気に遊んでいた。 「今日、退院だったんだ…。」 自分が助けた命、里奈の笑顔を見るしんのすけ。 すると、子犬がしんのすけの所に駆け寄って来た。 しんのすけが子犬を抱きかかえると里奈もやって来た。 「ほい。」 子犬を里奈に返すしんのすけ。 「ありがとう!」 笑顔で受け取る里奈。 「良かったじゃん。ジョンを飼っても良いってママが許してくれて。」 「ジョン? この子はらんまる。ママが付けたの。」 「え?」 里奈の返答にしんのすけは驚くが、驚いているのは里奈も同じだった。 「お兄ちゃん…、誰?」 「誰って…、オラだゾ、里奈ちゃん。」 「どうして里奈の名前を…?」 戸惑うしんのすけの脳裏に昨日見た黒服の集団、M・Pの存在が浮かぶ。 「そんな…? そんな!?」 必死の形相で自分の腕を掴んで問い質すしんのすけに里奈は明らかな恐怖を示した。 「やぁ、こんな所にいたのかい?」 その言葉にしんのすけが振り向くと三沢がいた。 「あんたは…。」 しかし、三沢はしんのすけの呟きを無視して里奈に話しかけた。 「ごめんね。このお兄ちゃん、君と他の子を間違えたみたいなんだ。」 三沢が優しい口調で里奈に説明すると、 里奈はしんのすけに向かってにっこりと微笑んだ。 それを見てその場から立ち去る三沢をしんのすけが追う。 そこに大原リーダーと数人のM・Pがやって来た。 「お前達は、昨日の…。」 その瞬間、大原リーダーの顔を見たしんのすけに衝撃が走った。 「ななこおねいさん…。ななこおねいさんだよね?」 しんのすけは大原リーダーに近づこうとするが、その隣にいた三沢に止められる。 そんなしんのすけを見て、大原リーダーが答える。 「やっぱり…。あの少年…。あなただったのね。…しんちゃん。」 「大原リーダー。知っているんですか? この少年を…。」 「えぇ…。」 三沢の問いに答える大原リーダー。 しかし、その目はかつてと違い、冷たいものとなっていた。 「ななこおねいさん…。里奈ちゃんに何をしたの?」 「余計な記憶を消したのよ。」 しんのすけの問いに淡々と答える大原リーダー。 「え…?」 しんのすけの疑問に大原リーダーがさらりと答える。 「あなたもニュースなどを見て気づいているとは思うけど、 ビーストによる事件は全て事実が隠蔽されているのよ。 事件に遭遇した生存者は全てTLTにある私達メモリーポリス、M・Pによって、 ビースト事件に関する記憶を消去されてから普通の生活に戻ることになるの。」 「人の記憶を勝手に消すなんて! ななこおねいさん…、どうしてそんな…!」 大原リーダーに詰め寄るしんのすけだが、再び三沢に止められる。 「どうしてそんなことを…。そんなこと…、そんなこと許されるの!?」 「許すとか許さないとかより、優先すべきはまず秩序なの。 …それにこの世界には知らない方が幸せな事もあるのよ。」 「だけど…!」 しんのすけは大原リーダーのかつてと正反対と言える、変わりように驚き、戸惑う。 会話の後、大原リーダーはしんのすけをある場所に連れて行く事にした。 「あなたにだけは特別に教えてあげるわ。私達の仕事がどんなものかをね。」 「うわぁぁぁぁぁっ!!」 山中のある病院。しんのすけ達が中に入ると、 奥から助けを呼ぶ叫び声が響いてきた。 驚くしんのすけに対して、大原リーダーが無表情のまま説明を始める。 「この病室にはビースト事件に遭遇した一人の男性が隔離されているの。」 大原リーダーはある病室に入り、招かれたしんのすけも少し迷った末に中に入った。 部屋はガラス戸によって二つに仕切られていて、 向こう側には怯えた一人の男性が縮こまって震えていた。 「し、信じてくれ! 俺は見たんだ! 本当に化け物を見たんだ!! 化け物が俺のかぞ…、!? く、来るなー!!」 恐怖で半狂乱になった男性を正視できないしんのすけに対し、 大原リーダーは男性から視線を外す事無く説明を続けた。 「昨日、ナイトレイダーが殲滅したビースト・バグバズンは 一週間前に山中で多数の人間を殺害した。 彼は家族と共にその場に居合わせて、ただ一人生き残ったの。」 「ただ一人って…。」 「家族は全員殺されたわ。妻も、子供も、おそらく彼の目の前でね。 今朝、この病院に収容されるまで、 彼は独りきりで怯え続けていたの。恐ろしい、忌まわしい記憶にね。」 「そんな…。」 衝撃を隠せないしんのすけを見て大原リーダーは一言呟く。 「大丈夫よ。彼は救われる。」 そして大原リーダーはガラス戸の中に入っていき、その奥で強烈な光が発せられた。 「あの子も目撃したのよ。人がビーストに喰い殺される瞬間を。」 「里奈ちゃんが…!?」 「そんな記憶、消えてしまうに越した事はない。それがあの子の為なのよ。違う?」 「どうして、ななこおねいさんが…。どうして…。」 家に帰ったしんのすけは、様変わりしてしまった大原リーダーを思い出し、 そして、彼女の言った言葉に悩んでいた。 あいの携帯電話に電話をかけるが何故かあいは出ず、 メールを送っても返事が無かった。 「この世界には…知らない方が幸せな事もある…か。」 しんのすけの脳裏に浮かぶ、記憶を消されたが故に存在する、里奈の笑顔。 『ビーストに襲われた記憶なんて消えてしまった方がいい…。 オラは…自分自身を無理やり納得させた…。』…野原しんのすけ To be continued Episode 07 警告 −ワーニング− 朝、しんのすけは自分の部屋で悩んでいた。 脳裏に思い浮かぶ自分を攻撃するクロムチェスター。 かつてと大きく変わってしまった大原ななこ。 そして、彼女の言った言葉。 それらが、しんのすけの心を苦しめていた。 『何が正しくて、何が間違っているのか…。 この時、オラは誰かにその答えを教えてほしかった…。』 「戦略情報部及び開発部から、 クロムチェスターの新たな強化案が提示されました。」 フォートレスフリーダムのコマンドルーム。 松永管理官がナイトレイダーを前に説明をしていた。 画面にクロムチェスターの映像が映し出される。 「ストライク・フォーメーション。スピード、パワー、機動性。 3機の特性を一つに繋げる事で高機動力を維持しながらも、 今までとは全く異なる能力を発揮できるようになりました。 ウルトラマンが作り出す特殊戦闘用亜空間、メタフィールドへの突入です。」 その言葉に和倉隊長はメタフィールドの光景を思い返した。 「あの空間の中へ…。」 「はい。和倉隊長。かつてあなたのα号が メタフィールドに侵入できたのはあくまで偶発的現象でしたが、 その偶然が本来、ウルトラマンとビーストだけを取り込む 特殊空間の科学的データを私達にもたらしたのです。 そのデータを基に、石堀隊員らの協力も得て、 私達はメタフィールド境界面との位相同期を行えるようになりました。」 その説明の後、松永管理官はナイトレイダーに ストライク・フォーメーション訓練マニュアルを配布して、 コマンドルームを後にし、その後、西条副隊長は射撃場に向かった。 射撃場。 無言でディバイトシューターを撃ち続ける西条副隊長の脳裏に 先日のひろし達との会話が思い浮かぶ。その事を思い出した瞬間、 西条副隊長の撃ったディバイトシューターは的から外れてしまった。 動揺する西条副隊長だったが、次の一撃を的の中心に撃ち込んだ。 「ウルトラマンは人ではない…。 ビーストと同じ…。命令があれば奴を攻撃する。 命令が無くても、私は躊躇無く奴を撃つ! …それだけよ!」 その頃、学校が休みのしんのすけは、 春日部森林公園であいと待ち合わせをしていた。 まだあいは来ておらず、しんのすけは近くにあったベンチに腰掛けた。 あいを待っている間、しんのすけは あいから貰った翼の生えたぶりぶりざえもんを取り出した。 「しん様ー。」 翼の生えたぶりぶりざえもんを見つめるしんのすけが 遠くから聞こえるあいの声に振り向くと、あいが笑顔で駆け寄ってきた。 しんのすけはそれを見て、立ち上がると、 あいと会話をしながら公園内を歩き始めた。会話が弾み、笑いがこぼれる。 屋台で焼きそばを買って、2人で食べたり、 公園内の池に架かっている橋の上で話したり、ボートに乗ったりして楽しんだ後、 やがて、自分達の通っていたふたば幼稚園の前までやって来た。 幼稚園の頃の自分達に思いを馳せて、しんのすけとあいは楽しそうに話す。 『あいと過ごすかけがえのない日々…。 それがビーストとの戦いの中にいるオラの心を支えていた…。 あいはオラにとって本当な大切な存在になっていた…。』 『不法投棄は犯罪です』 そんな看板を無視し、秩父地方のある山中で、 ドラム缶に入った産業廃棄物を崖底に蹴飛ばす男達がいた。 妙にテンションが上がってきたのか、 凝ったポーズの蹴りをしたり、掛け声をかけて蹴ったりしていた。 「もっと静かにやれよ。…誰か来るとヤバいだろ。」 運転席に残っていた男が外にいる男達の テンションに乗れずにぶつくさと文句を言っていると、 トラックを大きく揺らす衝撃が走り、呻き声のような声が響き渡った。 「おい! 何ふざけてんだ!」 さすがに我慢できなくなり、男は運転席から降りて注意しに行くが、 トラックの周りは黄色いガスに覆われ、 先程、ドラム缶を蹴り飛ばしていた男達は喉を押さえて苦しんでいた。 その光景に男は唖然とし、思わず後ずさったが、 男達は死に瀕した凄まじい形相で男に迫ってくる。 やがて男も喉を押さえ、苦しみ始めた。 一方、CICではイラストレーターがビースト出現を探知していた。 「エリア5、ポイント564にビースト振動波確認。 ナイトレイダーにスクランブル要請。」 デートを終え、CDショップに寄った後の帰り道。 しんのすけとあいは楽しそうに話していた。 「あいって、そのアーティストの曲が本当に好きだよね〜。」 あいの買ったCDを見てしんのすけが呟く。 「えぇ。聞いていていい歌詞だなって思える曲が本当に多いの。 関西の出身で、他のBeing系のアーティストと同じように、自分で作詞もしていて、 あの『名探偵コモン』のOP曲とかも歌っていらっしゃるの。」 「ふーん。」 そんな会話をしていると、上空からあい目掛けて窓ガラスが降って来た。 「あい!!」 しんのすけは急いであいと共にその場から離れ、 窓ガラスはあいのいた場所に落下。割れたガラスが辺りに散らばった。 「あい! 大丈夫!?」 「大丈夫…。」 そう答えたあいであったが、ショックで半ば放心状態になっていた。 しんのすけは辺りを見渡し、マンションを見つけるが、 とても上空から窓ガラスが落ちてくるような距離ではなかった。 「痛い…!」 激痛に顔を歪め、あいは怪我をした右足首を手で押さえた。 それを見たしんのすけはハンカチを取り出して傷の手当てをする。 自分の傷の手当てをするしんのすけの姿を見てあいは少し嬉しくなった。 「ありがとう…、しん様。」 しんのすけはあいの傷の手当てを終えた。 「一応、病院に行こう。」 「大丈夫よ。私は平気。」 立ち上がり、あいは笑顔で答えた。 その時、ズボンのポケットに入れていた しんのすけのエボルトラスターが明滅を始めた。 それを知って、しんのすけの表情が暗くなる。 「どうしたの? しん様。」 あいを気にしつつもしんのすけは あいに見えないようにエボルトラスターを取り出した。 迷った末、しんのすけはエボルトラスターをしまい、 申し訳無さそうにあいの顔を見た。 「ごめん、オラ…。今、ちょっと急用を思い出しちゃって…。」 「え?」 「本当にごめん!」 そう言い残してしんのすけは走り出した。 「しん様…。」 走り去って行ったしんのすけをあいは寂しそうな顔で見送った。 「今回のビースト…。かなりヤバそう…。」 現場に着いたしんのすけ。 目の前には不法投棄をしていた男達が作業着を残して炭化していた。 辺りは既に夜になっていて、空には満月が不気味に輝いている。 その時、背後に気配を感じたしんのすけは振り向き様、 空に輝く満月目掛けてブラストショットを撃った。 放たれた光弾は空中で止まり、不気味な笑い声が聞こえ、 やがて光弾を受け止めた巨大な手が現れ、 その巨大な手の主、ファウストがその姿を現した。 「ファウスト…。どうしてオラにつきまとうんだ?」 その疑問に答える為、ファウストの目が赤く光る。 「その姿のままでは、私と戦えまい…。纏え光を!」 ファウストを睨むしんのすけ。 次の瞬間、ファウストがダークフェザーを撃ってきた。 その一撃を避け、しんのすけは ブラストショットを撃つが、ファウストの拳に弾かれてしまう。 「どうしてそんなにオラと戦いたいんだ? オラの持つ光と!」 ファウストに向かって叫ぶしんのすけだったが、 ファウストはそれとは別の返事を返した。 「いつまでその姿でいる? あの警告が、そんなに気になるのか?」 「警告…?」 すぐさまあい目掛けて窓ガラスが降ってきたことを考えるしんのすけ。 そんなしんのすけにファウストは再びダークフェザーを撃ち、 それを避けたしんのすけに向けて続けざま第二撃を放った。 それを見たしんのすけはエボルトラスターを鞘から抜き、 エボルトラスターから発せられた光はダークフェザーを弾き、 しんのすけはウルトラマンに変身した。 「それでいい…。さぁ、楽しませてくれ…。」 不気味に笑いながら呟くファウスト。 ファウストに向けて構えを取るウルトラマン。 深夜の森林にウルトラマンとファウスト。2人の巨人が対峙する。 そこにナイトレイダーのチェスターが到着し、ファウストの存在に驚く。 「ウルトラマンが…2人?」 平木隊員が驚く一方、和倉隊長と石堀隊員、西条副隊長は また違った反応を示していた。 「あの巨人は…。まさか…。」 「角のある方が以前正反対の波形を出した奴…。闇の巨人か…。」 「あいつが…。」 3人の反応を見て平木隊員が石堀隊員に尋ねる。 「ねぇ、ひょっとして前に言っていたB、Cユニットを壊滅させて、 Aユニットの当時の副隊長を行方不明にさせた巨人って…、あれ?」 「あぁ、忘れはしない。あの赤と黒の巨人…。 でも今回は姿が微妙に違う…。角も無かったし…。」 事態に戸惑うチェスターはウルトラマンとファウストの周りを距離をとって旋回し、 以前に攻撃を受けたウルトラマンはチェスターに対して警戒していた。 一方、ファウストは空間に溶け込むようにして消えた。 驚くウルトラマンだったが、その時、地響きが起こり、 地面から毒々しい色彩の巨大な花びらを有するビースト・ラフレイアが姿を現した。 ラフレイアが巨大な花びらを開いて黄色い花粉を噴射し、石堀隊員が分析を始める。 「奴の吐く花粉は可燃性だ。下手に攻撃すると誘爆を引き起こす。」 「ビーストの進行方向約8kmに人口密集地があります。」 「そんな!?」 イラストレーターの言葉に平木隊員が焦る。 その時、ウルトラマンはジュネッスにスタイルチェンジしてメタフィールドを展開。 ウルトラマンとラフレイア、そして花粉が メタフィールドによって地上から隔離される。 「花粉ごと消えた…。」 「メタフィールド…か。」 現状の戦力ではメタフィールドに突入することの出来ないナイトレイダーは ただそれを見送ることしかできなかった。 メタフィールド内部では、ウルトラマンとラフレイアの戦いが続いていた。 ウルトラマンはラフレイアと組合い、力任せに放り投げる。 倒れ込んだラフレイアに近づこうとした時、ラフレイアが突如花粉を発し、 ウルトラマンは花粉をもろに浴びてしまった。 それと同時に空が歪んでファウストが姿を現し、 以前と同じようにメタフィールドをダークフィールドに書き換えてしまう。 その隙にウルトラマンはラフレイアの蔦に捕らえられて引き寄せられ、 身動きできないウルトラマンにファウストが容赦なく攻撃を浴びせる。 迫るファウストに対し、ウルトラマンはパーティクル・フェザーを放つが、 ファウストは苦も無く拳で弾くと、ダークフィールド内の闇を吸収し、 両腕を合わせて必殺光線、ダークレイ・ジャビロームを放った。 ウルトラマンは全身に力を込めて何とか体を動かし、ギリギリ避け、 避けられたダークレイ・ジャビロームはラフレイアの蔦を切断してしまった。 体が自由になったウルトラマンはファウストに飛び蹴りを浴びせる。 飛び蹴りを受けたファウストは 体勢を崩しながらもダークフェザーを放って反撃するが、 ウルトラマンはそれをかわしてパーティクル・フェザーを放ち、 ファウストの右足首をかすめた。 ただかすめただけであったが、ファウストは異常に苦しみ、 ウルトラマンは不思議に思いながらも 好機を逃すまいとクロスレイ・シュトロームの構えを取るが、 ファウストは空間に溶け込むように姿を消し、 ラフレイアもそれと同時に姿を消してしまった。 やがてダークフィールドも消え去り、 朝焼けの中、元の森林にウルトラマンが戻ってきた。 一方、チェスターはそれぞれ着陸していて、 チェスターαの西条副隊長はウルトラマンの姿を複雑な眼差しで見つめた。 やがてウルトラマンが光となって消えると、 少し考えた後、チェスターから出て行ってしまった。 しんのすけは光となって地上に降りると、苦痛に顔を歪ませつつも ブラストショットを上空に撃って、ストーンフリューゲルを呼ぼうとするが、 前方の水辺に人間、それも見覚えのある人間を見つけて驚いた。 急いでその人間に駆け寄って抱き起こす。 「そんな…、どうして?」 しんのすけが抱きかかえた人物、それはあいだった。 『どうしてあいがこんなところにいるのか。その時のオラには、 目の前で起きてる事がまるで理解できなかった。』…野原しんのすけ To be continued Episode 08 突入 −ストライクフォーメーション− 先程までビーストとナイトレイダー、ウルトラマンの戦闘が行われていた森林。 ありえない場所であいを見つけたしんのすけは戸惑いを隠せなかった。 『どうしてあいがここに? 目の前の出来事に驚きながらも、 この時、オラは薄々と不安を感じてたんだ…。 オラ達の世界をじわじわと壊そうとする何かを…。』 「あい!」 しんのすけが水辺に倒れるあいを抱き起こして呼びかけると、 やがてあいの目がゆっくりと開かれた。 「しん…様?」 「あい…大丈夫?」 「…えぇ。」 しんのすけの手から離れ、あいは水と泥に濡れた体を起こした。 「良かった…。でも、どうしてこんなとこに?」 あいの無事にしんのすけは胸を撫で下ろすが、 あい自身は自分の置かれている状況を理解できず、呆然と辺りを見渡す。 ふと手を開くとそこにはNAGI SAIJYOと書かれたドッグタグが握られていた。 「なぎ…さいじょう…?」 その時、しんのすけの背後に 西条副隊長が現れてしんのすけとあいの存在に驚きを見せた。 「また、あんたか…!」 西条副隊長を見たしんのすけは驚き、あいを抱いて立たせると、警戒を示した。 西条副隊長はそんなしんのすけをしばらく黙って見ていたが、 あいの持っているドックタグを見て表情が一変した。 「それは…!」 あいの手から西条副隊長はドックタグを受け取る。 しんのすけは警戒しつつも西条副隊長に尋ねた。 「それ、あんたのなのか? あい…彼女が持っていたゾ…。 もしかして知っているのか? あいがこんなとこにいたわけを…。」 「どこで手に入れたの!」 西条副隊長の強い語気にしんのすけは驚き、あいは怯えた。 「言いなさい! これをどうして持っていたの!」 しかし、あいは事情を飲み込めなくて答えられず、 それを知った西条副隊長は深呼吸をして落ち着いた後、 ドッグタグを握り締めてあいを見ながら呟いた。 「会ったのね…。あの男…溝呂木に…!」 「あのビースト…ラフレイアがまだ生きている?」 その後のフォートレスフリーダムのコマンドルーム。 和倉隊長が石堀隊員の報告に驚く。 「イラストレーターが振動波を確認しています。 ウルトラマンがメタフィールドで仕留めそこなったようですね。 おそらく、あの黒い巨人もまだ…。」 石堀隊員の言葉に和倉隊長の顔が曇る。 一方、しんのすけはあいが保護された病院に見舞いにやって来ていた。 そして、あいを保護した西条副隊長も病院にいた。 「西条副隊長。」 後ろから聞こえてきた声に振り向いた西条副隊長は その声の主、大原リーダーの所に向かった。 「もう記憶処理を?」 「その必要は無かったわ。」 「必要無い?」 「彼女、何も覚えていないわ。」 「…嘘を付いている可能性は?」 「私達に対してそれができると思う?」 自嘲するかの様な笑みを浮かべる大原リーダーに 西条副隊長は腕を組んで諦めたように呟く。 「そうでしょうね…。」 そんな西条副隊長の様子を見て大原リーダーが尋ねる。 「何か隠しているわね?」 しばし沈黙した後、西条副隊長が重い口を開く。 「…あの男と接触した可能性があります。」 その言葉に大原リーダーの顔に驚きの色が現れる。 「あの男…。溝呂木?」 その時、西条副隊長と大原リーダーの目にしんのすけの姿が入った。 「必ず何かを仕掛けてくる。奴は…そういう男です!」 「そう…。どちらにせよ、彼女は しばらく私達の監視下に置く事になったわ。気になる事もあるしね。」 大原リーダーの言葉を受けて、 近くにいた三沢が西条副隊長に向かって無言で会釈をした。 外のベンチに腰掛けるしんのすけとあい。 「色々な事聞かれたけれど…、しん様と別れた後の事…、 何も覚えてないの…。どうして、私はあんな所にいたの?」 あいの言葉にしんのすけは前回の戦いでファウストに言われた、 「あの警告」という言葉を思い出した。 「しん様…。私…。」 震えるあいの手をしんのすけが優しく握る。 「大丈夫! オラが付いてるって! あと…、あい。昨日のことだけど…。」 しんのすけが昨日のことを改めてあいに謝ろうとすると、あいは首を横に振った。 「そんなこと…。しん様は 私の傷の手当てをしてくれたんですもの。全然気にしていないわ。」 「そっか…、良かった〜。気にしてたらどうしようかって思ったゾ。」 しんのすけは安堵の息を吐き、そんなしんのすけを見てあいはクスリと笑い、 2人は再び手をしっかりと握りなおした。 その様子を西条副隊長と大原リーダーが病院の中から見つめる。 「なかなか、いい関係じゃない。」 少し微笑む大原リーダーに対し、 西条副隊長は無言でしんのすけを見つめ続けていた。 それらの様子を赤い視界が覗いていた事に気づく者は誰一人いなかった。 その後、フォートレスフリーダムのコマンドルーム。 ラフレイアへの対策が話し合われていた。 「殲滅は不可能?」 和倉隊長が驚き、ラフレイアの映像を前に石堀隊員が説明を始める。 「はい。もし仮に殲滅に成功した場合、 ラフレイアが含有している相当量の花粉が拡散するのは間違いありません。」 「こいつの花粉ってそんなにヤバいの? 可燃性だっけ?」 平木隊員の質問に石堀隊員が答える。 「それだけじゃなかったんだ。 付着する事で瞬時に気化し超高熱を発する。結果はこれだ。」 石堀隊員が画面を切り替えると、炭化した人間の映像が映し出された。 「それが風に乗りにでもすると…。」 和倉隊長の言葉を受け、石堀隊員は今度は地図の映像を出した。 「密度は水素並みだ。拡散速度を考えると風化だけで済むはずがない。」 「ウルトラマンの力を借りるしかなさそうですね。」 ナイトレイダーが振り向いた先にイラストレーターのホログラムが立っていた。 「ストライクチェスターに合体。メタフィールド内で殲滅…。という事ですね。」 無言で頷くイラストレーターに、和倉隊長はしばし考えるが、 西条副隊長はその作戦に反発を示した。 「ですが、奴がまた都合よく現れるとは限りません! それに、ストライク・フォーメーションの訓練もまだ不十分です!」 そんな西条副隊長を他のナイトレイダーが見つめる。 和倉隊長はそんな西条副隊長を見て、作戦を指示した。 「フォーメーションの訓練は作戦開始までの限られた時間で間に合わせてくれ。 西条、お前が合体管制を務めろ。俺がガンナーを務める。」 「隊長!」 再び反論しようとする西条副隊長に和倉隊長が話しかける。 「確かに、ウルトラマンがまた現れるとは限らない。 だが…、可能性に賭けてみる価値はあると思う。俺は…彼を信じる。」 「ですが、隊長…。」 しかし、西条副隊長が全て言い終わる前に 西条副隊長以外の隊員達はさっそく作戦に向けての準備を始めていた。 そんな隊員達を見て、西条副隊長は悔しげに唇を噛んだ。 「しんのすけ君にお嬢様が惚れた理由がなんとなく分かりました。」 病院では黒磯があいに話しかけていた。 「やっと分かったの? 黒磯は本当に鈍いのね。」 「はぁ…。でも、あのしんのすけ君が本気でお嬢様のことを好きになるとは…。 幼少期の頃のお嬢様の願いがやっと叶ったということですね。」 「えぇ。」 あいは笑顔で答えた。 その会話の後、黒磯は一礼し部屋から出て行った。 独りになった瞬間、あいの表情が突然暗くなった。 「やっぱりそうよ…。どうしちゃったんだろう、私…。 しん様と出会った時の事を思い出せない…。どうして…?」 悩み、恐怖するあい。 その時、突如、全身から力が抜け落ちると、 視点が定まらなくなり、赤い視界があいの視界と同化した。 その夜、地面から黄色い花粉が噴出し、ラフレイアが姿を現した。 「コードネーム・ラフレイアが活動を再開。ナイトレイダーにスクランブル要請。」 イラストレーターの指示を受けてナイトレイダーが出撃し、 ラフレイア出現地点にはストーンフリューゲルが降臨、 しんのすけが地面に降り立った。 「またファウストが現れるかも…。今度もあの闇に飲まれたら…。」 しんのすけの脳裏に自分のエネルギーを著しく消耗するメタフィールド、 自分の力を抑え、相手の力を解放するダークフィールドの事がよぎるが、 次の瞬間、脳裏に笑顔のあいが思い浮かび、 しんのすけはエボルトラスターを力強く握り締め、天高く掲げた。 夜の森にウルトラマンがその巨体を現し、そこにチェスターが到着する。 「来たか…。ウルトラマン…。」 和倉隊長が呟き、イラストレーターが指示を送ってくる。 「ウルトラマンがメタフィールド展開後、 ストライク・フォーメーションに移行。殲滅作戦を開始してください。」 ウルトラマンはすぐさまジュネッスにスタイルチェンジしてメタフィールドを展開。 ウルトラマンとラフレイアがメタフィールドの中に姿を消すのを見て、 ナイトレイダーはストライク・フォーメーションを開始した。 「管制プログラムST。キャンディデイト2。ヴァージョン5。レベル6。」 チェスターαの西条副隊長、βの和倉隊長、γの石堀隊員が それぞれ合体管制プログラムを進めていく。 「セルフチェッククリア。ロード完了!」 「プログラムタイマー、同期信号受信確認。対衛星マスク継続中。」 石堀隊員と平木隊員の最後の操作を受けて、 画面にSTAND BY OKの文字が表示される。 それを確認して西条副隊長が叫ぶ。 「セット! イントゥ・ストライクチェスター!」 チェスターα、β、γがそれぞれ合体。ストライクチェスターが完成。 西条副隊長の操縦により、 ストライクチェスターは一気に加速を始め、凄まじいGが搭乗者を襲う。 「メタルジェネレーター、臨界まで89%。95…。臨界到達!」 「メタフィールド境界との位相同期開始を確認。」 平木隊員と石堀隊員の報告を受け、ストライクチェスターは空間に突入、 光の中を進み、メタフィールドへと辿り着くと、 既にウルトラマンとラフレイアの戦いが始まっていた。 「これが…メタフィールド…。」 初めて来た異世界に驚きを隠せないナイトレイダー。 一方、ウルトラマンもナイトレイダーが メタフィールド内までやって来た事に驚いていた。 「ダメージの残る体で、自らの墓場を作り出したか…。」 気がつくと、いつの間にかウルトラマンの横に 目の赤く光っているファウストが姿を現していた。 ファウストはストライクチェスターを見て笑うと、ダークフィールドを展開し、 ウルトラマンが作り出した光の世界を自ら作り出した闇の世界で侵食していった。 「黒いウルトラマンまで現れた! 一体何してるの?」 驚く平木隊員に石堀隊員が説明する。 「別の位相に変化している。」 「分かるように説明して。」 西条副隊長の注文を受けて石堀隊員が説明し直す。 「メタフィールドをプラスの褶曲とするならば、ここはマイナスの褶曲。 黒いウルトラマンが正と負の符号を転換して自分に有利な空間に作り変えたんだ。」 石堀隊員の説明を聞いた和倉隊長が結論を下す。 「長居は無用だな…。殲滅作戦開始!」 「了解!」 ウルトラマンがラフレイアの蔦に絡みとられないようにしながら ファウストの攻撃を防いでいる隙に、 ストライクチェスターはラフレイアの背後に回り込んだ。 「ターゲット、ロックオン。スパイダーミサイル、ファイア!」 和倉隊長はスパイダーミサイルの照準をラフレイアに合わせ、スイッチを押す。 しかし、何故かミサイルが発射されない。スイッチを何度押しても無駄であった。 「何?」 その時、ストライクチェスター全体を大きな衝撃が襲った。 「右ギバンドランブ接合部に異常加熱! 冷却が追いつきません!」 大声を上げる平木隊員。石堀隊員も声を張り上げて機体異常の原因を説明する。 「位相変化の影響だ! このままじゃ位相同期可能範囲から離脱する!」 事態を理解した和倉隊長はすぐさま武装を スパイダーミサイルからストライクバニッシャーに切り替える。 しかし、それと同時に平木隊員が更なる状況悪化を報告する。 「転換効率低下! 臨界を維持できません!」 それを聞いた和倉隊長が平木隊員に指示を送る。 「バニッシャー用のパワーをバイパスしてメインに回せ!」 「了解!」 西条副隊長が和倉隊長に尋ねる。 「撃たないんですか?」 「チャンバーに一発分だけ残す。」 目の前で戦いを繰り広げているウルトラマンを見ながら、 和倉隊長はトリガーを強く握り締めて答えた。 一方、ウルトラマンはラフレイアの蔦に捕らえられ、 身動きできないウルトラマンの前に現れたファウストは 容赦なくウルトラマンに攻撃を浴びせる。 それを見た和倉隊長は西条副隊長に頼んだ。 「西条。ウルトラマンとラフレイアの間を抜けて上昇してくれ!」 指示を受け、西条副隊長はストライクチェスターを ウルトラマンとラフレイアの間に飛ばした。 その途中、和倉隊長はウルトラマンの方を見て、 ウルトラマンも和倉隊長の方を見る。 何かを伝えるようにゆっくりと頷く和倉隊長と 何かを受け取ったようにゆっくりと頷くウルトラマン。 西条副隊長の操縦するストライクチェスターはそこから急上昇し、 そのまま今度は急降下した。 凄まじいGが襲う中、和倉隊長はラフレイアの花粉袋に照準を合わせて叫んだ。 「ストライクバニッシャー、シュート!」 それに合わせてウルトラマンは肘打ちをしてファウストから逃れ、 急いでそこから距離をとった。 次の瞬間、ストライクバニッシャーがラフレイアの花粉袋に命中。 苦しむラフレイアは花粉を辺りに撒き散らし、 近くにいたファウストを巻き込んで大爆発を起こした。 「粉塵爆発か…。」 呟く石堀隊員。 ラフレイアは光の粒となり、 さらに広がる爆発はダークフィールド全てを飲み込まんとした。 ファウストは爆発に巻き込まれて姿を消し、ウルトラマンは空へと逃れた。 「メタルジェネレーター臨界を割りました!」 「メタフィールドとの位相同期喪失! 空間位相、復元していきます!」 平木隊員と石堀隊員の報告の通り、 ストライクチェスターはもはやダークフィールドに留まる事が不可能になっていた。 「位相軸元点まで、4、3、2、1…!」 石堀隊員のカウントダウンに合わせ、 ストライクチェスターはやって来た時と同じように 今度はダークフィールド内の空間に突入し、光の中を進み、元の世界に戻ってきた。 しかし、無事に元の世界に戻って来れたと思いきや、 ダークフィールド転換の影響でストライクチェスターには 既に飛行するだけの力が残っておらず、失速し急降下していった。 西条副隊長が何とか持ち直そうとするも、 どうにもならずそのまま地面に向かって墜落していく。 皆が諦めかけた瞬間、機体に大きな衝撃が走った。 「何?」 西条副隊長は驚き、平木隊員は外を見て、自分達が墜落を免れた事を知った。 和倉隊長が見るとウルトラマンがストライクチェスターを受け止めていた。 「ウルトラマン…!」 和倉隊長はウルトラマンを見上げ、 西条副隊長は己の表情を見られないように顔を逸らした。 ウルトラマンはストライクチェスターを静かに地上に降ろすと光となって消え、 ナイトレイダーはストライクチェスターから降りてそれを見送った。 「ウルトラマーン! ありがとぉー!」 と平木隊員はウルトラマンの消えた場所に向けて大声で呼びかけた。 「ま、ウルトラマンが助けてくれなかったら、俺達は死んでたわけだからな…。」 ウルトラマンに助けられたことに思いを馳せて石堀隊員が呟く。 「そうよ。助けてくれたら『ありがとう』って言わないと!」 「そうだな…。」 そのやりとりを見て和倉隊長が微笑んでいると、 平木隊員が手を高く上げ、石堀隊員とハイタッチを交わした。 「イェイ!」 笑顔でじゃれあう石堀隊員と平木隊員。 戦いを終えたしんのすけはそんなナイトレイダーを遠くから見て、 「ありがとう…か。」 と呟くと、少し嬉しそうにその場を立ち去った。 一方、和倉隊長も勝利に喜ぶ二人を見て笑顔を漏らすが、 西条副隊長の方を見てすぐにその笑顔は消えた。 その西条副隊長は皆から距離を置き、自分の力だけで墜落を阻止できず ウルトラマンに助けられた事に思いを馳せ、深いため息を吐くと、 胸元から二つのドッグタグ、自分のドッグタグともう一人の物を見て静かに呟いた。 「溝呂木…眞也…。」 「もうこんな時間か…。」 あいの入院している病院では、 監視兼保護として残った三沢が携帯電話で時刻を見ていた。 携帯電話をしまった後、あいの病室から大きな物音がして、 気になった三沢が病室に入るとあいが床に倒れていた。 翌日、あいは昨日と同じベンチに腰掛けていたが、 その表情は暗く、体が小刻みに震えていた。 そこに何も知らないしんのすけがやって来る。 「ごめん! 遅れて…。」 しかし、しんのすけの言葉に答えず、あいはいきなり立ち上がる。 「って、どしたの?」 「…来て。」 戸惑うしんのすけの手を握り、あいは何かから逃げるように走り出した。 やがてあいとしんのすけは誰もいない、 明るく優しい木漏れ日が差す林の中にやって来た。 しんのすけに表情を見せないあい。走ってきたので息を切らし、汗をかいていた。 そのただならぬ雰囲気にしんのすけは何も話しかけられなかったが、 やがて振り向いたあいはしんのすけの顔を見て一言告げた。 「キス…して…。」 突然の申し出に驚くしんのすけ。 しかし、あいは少し震えながらもゆっくりとしんのすけに近づいていった。 しんのすけはあいの肩に手をかけ、 あいは瞳を閉じてしんのすけの顔に近づいていく。 そして二人の唇が触れ合った。しばし口付けを交わす二人。 やがて二人は離れ、あいは自分の唇に手を当てると、 そこに何かを感じ、確信して、笑顔を取り戻した。 愛する人に抱きしめられるあいと愛する人を抱きしめるしんのすけ。 その時、二人は確かにお互いの存在を感じ取っていた。 To be continued Episode 09 人形 −マリオネット− 『あいといる時のオラは幸せに満ち溢れていた。 あいと過ごす時間は永遠に続くものだと信じて、 オラは二人の未来に、ただ光だけを見つめていた…。でも、本当は…。』 あいは病院から家に電話をかけ、家族に自分の無事を知らせていた。 「えぇ、大丈夫。もうすぐ退院できると思うから。え? その日は退院祝いで 高級レストランのシェフを呼ぶですって? ちょっと、おおげさですわ…。」 しかし、あいが手にしている受話器からは ツー、ツー、ツーと無機質な機械音が響いていた。 しんのすけの通っているアクション高校。 翼の生えたぶりぶりざえもんを手にする しんのすけの脳裏に先日のあいとのキスが蘇る。 その時、脳裏に男の声が響く。 「お前は、大切なものを失う…。」 「え?」 声が聞こえて周りを見回すしんのすけ。しかし、周りに声の主はいない。 その時、しんのすけの脳裏にあい目掛けて 窓ガラスが降ってきたことが思い浮かんだ。 「あい…!?」 その頃、あいの病室を赤い光が覆っていた。 その赤い光によって目覚めたあいは立ち上がると、 夢遊病のようにゆっくりと窓へ向かい、ブラインドを開けた。 どこからか脳裏に男の声が聞こえてくる。 「お前は…人形…。」 「誰?」 少し気を取り戻したあいが不安げな声で尋ねる。 「俺が作った…美しい人形だ…。」 「誰なの?」 あいが窓の外に目をやると、窓ガラスに映るあいの顔に ファウストの顔が重なって浮かび上がってきた。 再びアクション高校。 職員室から帰ってきたしんのすけは教科書等を急いで鞄に詰め込み始めた。 「あれ? しんちゃん。早退するの?」 「うん。ちょっと…行ってくるゾ!」 マサオの質問にロクに答えず、しんのすけは鞄を背負って、急いで教室を後にした。 あいの病院にやって来た大原リーダーを三沢が出迎える。 「わざわざ申し訳ありません。保護した少女ですが、少し気になる結果が…。」 「酢乙女あい? 彼女が?」 「検査結果の数値なんですが…。」 大原リーダーは三沢から受け取ったデータを見る。 「R7性因子、免疫判定プラス92。 これならナイトレイダーにも十分入隊できるレベルね…。」 「いえ、気になる数値はそこではなく…。」 三沢に指摘された数値を見た大原リーダーは思わず驚きの声を上げた。 「この結果は…! そんな! この数値が正しければ彼女は…!」 大原リーダーの驚きに三沢は無言で頷く。 「…あの情報は本当だったの? 彼女とその家族はもう…。」 そこにあいの病室を監視していたM・Pが慌ててやって来た。 「酢乙女あいが病室から消えました!」 「え!?」 戸惑う大原リーダー達。 その横を白い寝巻き姿のあいが通り過ぎていくのに気づく者は誰一人いなかった。 一方、あいのことを心配するしんのすけは ストーンフリューゲルで病院に向かっていた。 「ただいま…。」 酢乙女邸。自分の家に帰って来たあいは 小さく呟いて門を開けるが、家の中は暗く、誰も出てこなかった。 あいが食堂に通じる扉に視線を向けて、 扉に向かうと、向こう側から扉が開けられた。 「あいお嬢様。」 扉を開けて黒磯があいを出迎えた。 「ご主人様、あいお嬢様が帰って来ました。」 黒磯に呼ばれて父と母も出てくる。 「お帰り、あい。」 「思ったより早く退院できたじゃないか。」 「えぇ…。」 あいが涙ぐみながら部屋に入っていくと、その中は明るい光に満ち溢れていた。 「どうしたの? 何かあったの?」 「ちょっと…、怖い事が…。」 涙を拭うあいの体を母が優しく抱きしめる。 「可哀相に。」 「大丈夫、もう何も怖い事なんて無いよ。」 「そうですよ、お嬢様には私達がいるんですから。」 家族の優しい言葉にあいは笑顔を取り戻していく。 「そうよね。私にはこんな素敵な家族がいるんですもの…。」 優しい家族に囲まれ、明るく暖かい部屋の中、あいは幸せな一時を過ごしていた。 「そう言えば、あいが話してくれる彼は元気?」 と母。 「えぇ、この頃あまり会えないけど、元気だと思う。」 とあい。 「確か、野原しんのすけ君って言ったね。 あいが幼稚園の頃からずっと想いを抱いていたっていう子だね。」 と父。 「そうです。ご主人様。あいお嬢様がずっと想いを抱いてた人です。」 と黒磯。 「えぇ。しん様と過ごしている時が一番心が安らぐの。」 とあい。あまりにも幸せな一時。 「そうだ…、しん様に連絡しないと…。退院したってこと伝えないと…、でも…。」 あいの顔から笑みが消える。 「しん様って…誰だっけ…? 私は…。」 あいが気づくと、周りには父も母も黒磯もおらず、 家具も無くガランとした暗く寒々しい部屋になっていた。 光は消え、部屋の中、家全体を影が支配していた。 「私…、どうして独りぼっちなの?」 周りを見渡すあい。家族は誰もいない。 「お母様はどこ?」 いない。 「お父様は…どこ?」 いない。 「皆、私だけ置いてどこ行っちゃったの…。」 震え、身をすくめるあい。でも誰もいない。 いや、一人だけいた。 あいは背後の鏡から気配を感じ、振り返る。 鏡の前に立つと自分の姿が映る。はずだが、そこにはファウストの姿が映っていた。 「化け物…。」 鏡の中から自分を見つめてくる赤と黒の異形の存在。 あいは後ずさりし、鏡から離れようとするが、 次の瞬間、暗い寒い部屋の中、鏡の前にファウストが立っていた。 そして鏡にはファウストではなく、あいの姿が映っていた。 「化け物…。」 そう呟きながらファウストはあいに向かってゆっくりと近づいていった。 しんのすけはあいが入院していた病院に到着し、 急いで病室に向かおうとしたが、大原リーダーに呼び止められた。 「あいちゃんならいないわ。誰かに連れ出されたか、 自分の意思で抜け出したか、何にしても、病室から消えたわ。」 それを聞いてしんのすけは焦りを募らせる。 「あいは誰かに狙われてるんだ!」 そう言って急いで走ろうとするしんのすけを大原リーダーが再び呼び止める。 「ちょっと、どこへ行くつもり?」 「あいを捜す!」 「家なら行っても無駄よ。一度戻った形跡はあったけど、 今はもういないと報告があったわ。」 「信用できない! 自分の目で確めるゾ!」 きっぱりと言い放ったしんのすけは病院から走り去っていった。 それを見送る大原リーダーに三沢が話しかける。 「大原リーダー、よろしいのですか?」 「彼には真実を知る権利があるわ。」 しんのすけはストーンフリューゲルであいの家を目指すが、 突如、黒い光弾がストーンフリューゲルをかすめ、 ストーンフリューゲルは高架下に着陸した。 「ファウスト…。」 しんのすけの目の前には5m程の大きさのファウストが立ち塞がっていた。 「生きていたのか…。」 ストーンフリューゲルから降りたしんのすけは ファウストに向けてブラストショットを構えた。 「そこをどけ…。どけぇ!!」 しんのすけを見て、ファウストの目が赤く光る。 「これは運命…。」 「え?」 「私と戦え…。これは運命なのだ。」 目が赤く光り、自分と戦うよう促すファウストに向かってしんのすけが叫ぶ。 「黙れッ!! 貴様があいをどっかに…。あいをどこにやったんだ!!」 しんのすけがブラストショットを撃つが、ファウストはそれを手で軽く弾く。 「あい…? その女はもうじき消える…。」 「え?」 「お前も私の出す無限の闇に飲み込まれ、共に…。」 「黙れッ! ファウスト、貴様はオラが倒す!」 そう言ってしんのすけはエボルトラスターを掲げ、 ファウストと同じ5m程の大きさのウルトラマンに変身した。 ファウストはウルトラマンに向けてダークフラッシャーを撃つが、 ウルトラマンはそれをかわすと、 ジュネッスにスタイルチェンジして巨大化しつつメタフィールドを展開。 ウルトラマンとファウストがメタフィールドに消える直前、 ファウストも巨大化しつつ、ダークフィールドへの書き換えを行った。 ダークフィールドの中。 ウルトラマンは姿の見えないファウストを捜すが、 突如、上空からダーククラスターが降り注いできた。 ウルトラマンは素早くその場から逃げ、上空に飛ぶが、 それを待ち構えていたファウストが隙を捕えて地面に押し倒した。 「私は影…。お前という存在がある限り、私が消えることはない…!」 押し組まれたウルトラマンは力を振り絞って ファウストを蹴り飛ばし、立ち上がろうとするが、 ファウストはそんなウルトラマンに向けて、ダークレイ・ジャビロームを撃ち、 コアゲージに受けて爆発に包まれるウルトラマンを見て笑い声を上げた。 「他愛無い…。」 そう呟くとファウストは立ち去ろうとするが、 ウルトラマンを覆っていた爆発が急速に収束していくのを見て、 すぐに立ち止まった。 すぐさま勝負を付けるため、 ウルトラマンはダークレイ・ジャビロームのエネルギーを吸収し、 光に変換して浄化、そのエネルギーをスピルレイ・ジェネレードとして ファウストに撃ち返した。 それを左肩に受けたファウストは吹き飛ばされ、 ウルトラマンは止めを刺そうするがダメージが酷く、その場に倒れこんでしまった。 両者共に苦しい状況に陥り、攻撃できないまましばらく睨み合っていると、 先にファウストが姿を消し、続いてダークフィールドも消え、 最後にしんのすけは元の高架下に戻ってきた。 「くそっ! ファウスト、お前は必ず倒すゾ…!」 そう言うとしんのすけはブラストショットを上空に撃ち、 ストーンフリューゲルを呼び寄せ、再びあいの家に向かった。 「あい!!」 あいの家に辿り着いたしんのすけは すぐさま近くにあった扉、美術室へと続く扉を開けた。 「…あい?」 しんのすけの目の前に広がる景色。 それはしんのすけが想像していた優しく明るく温かいものとは程遠い、 異常と恐怖、混沌と破滅と絶望、そして死が溢れ出ていた絵の数々であった。 「これが…あいの絵?」 しんのすけは部屋一面に張られている醜悪な絵に恐怖した。 心臓が激しく脈打ち、汗が吹き出て流れ落ちる。 『人や動物の家族…か。』 『うん、今度美術部の展覧会に出品する作品のテーマなの。家族の肖像。』 しんのすけの脳裏にかつて楽しく語り合っていた あいとの幸せだった時の思い出が空しく蘇ってくる。 その頃、森の中をあいが涙ながらに歩いていた。 ファウストがスピルレイ・ジェネレードを受けた部分と同じ、 左肩から大量の血が流れ出て白い素足を赤く塗りこめる。 「教えて…、私は…?」 「お前は…、お前ではない…。」 再び男の声が聞こえてきた。 「そう、お前はただの道具、俺の人形だ。 何故なら、お前という存在はとっくの昔に死んでいるからだ。」 「私が…死んでる?」 衝撃の宣告を受けるあいの脳裏に忌まわしい記憶が蘇った。 急停止するリムジン。運転していたSPに文句を言う家族。 車の前に立ちはだかる巨大な化け物。急いで車から降りる家族。 逃げ遅れた母を起こそうとするSP。化け物の爪で殺される母とSP。 駆け寄る父。車が弾かれ、その下敷きになる父。 それを見て絶叫する娘。 そこにやって来た、ナイトレイダーの隊服を着てヘルメットを被った男。 恐怖で喋られなくなった娘は男にしがみつき、震える指で化け物を指差す。 男は娘を後ろに下げ、化け物にディバイトランチャーを構える。 しかし、次の瞬間、男は娘にディバイトランチャーを向けると、 そのまま娘、あいを撃ち抜いた。それら忌まわしい記憶を思い出すと、 あいは震える指で自分の左肩を触り、 血で真っ赤になった指を見ると、そのままその場に倒れ込んだ。 「そんな…嘘…、こんなの…嘘よ…。助けて…助けて、しん様…。」 一方、しんのすけは部屋の中で呆然と立ち尽くしていた。 『全ての歯車がおかしくなり始めてた…。 まるで、どす黒い闇がオラ達の世界を蝕んでいったみたいに…。』…野原しんのすけ To be continued Episode 10 別離 −ロストソウル− 『まるで…悪い夢の中にでもいるような気分だった。 でも、朝になったら、どんな恐ろしい夢もあっけなく忘れてしまって、 またいつもと変わらない毎日が始まる。 だから早く目覚めてくれ…。オラは心の中で何度も繰り返し叫んでた。』 あいの部屋の中で呆然と座り込むしんのすけ。 その視線の先には、 幼稚園の頃の自分とあいが一緒に楽しそうに写っている写真があった。 しんのすけは力無く立ち上がると、 すがるようにヒビの入った写真立てを手に取るが、 その瞬間、全身を言いようの無い苦痛が走り、 脳裏にあいと家族が化け物に襲われる瞬間が映し出された。 一方、あいは森の中で倒れていたが、 その様子を覗き込んでいた赤い視界があいの視界と同化し、 表情が一変したあいはゆっくりと立ち上がった。 辺りは薄暗い雲に覆われ、太陽の光を完全に隠してしまっていた。 あいの家にいたしんのすけのエボルトラスターが明滅を始める。 ビースト出現を知ったしんのすけの脳裏に先程見せつけられた、 あいと家族を襲ったビーストが思い浮かんだ。 「もしかして…!?」 しんのすけが部屋を出て扉を閉めた瞬間、 部屋一面を覆っていた絵の数々は消え去り、 ガランとした暗く寒々しい部屋にひび割れた写真立てがあるだけであった。 「エリア7、ポイント290にビースト振動波確認。 ターゲットの反応はビルの地下一階にあります。」 一方、現場には既にナイトレイダーが到着しており、 イラストレーターの指示を受けて、ビルの地下を進んでいた。 「ターゲットはこの中です。」 ある扉の前に着いた石堀隊員がパルスブレイガーを見ながら報告する。 「副隊長。行きますよ。」 「えぇ。」 西条副隊長と平木隊員が突入の準備をし、和倉隊長は突入の指示を送った。 ナイトレイダーが扉を開け、武器を構えながら中へと慎重に進んでいく。 その瞬間、部屋の片隅から物音が起きて一斉にディバイトランチャーが向けられた。 しかし、 「撃つな!」 その物音を発した存在を見て和倉隊長は急いで攻撃中止を指示した。 「う、撃たないで! 撃たないでください…。」 「何? 何よこのおっさん!」 ビルの地下でナイトレイダーが見つけた相手、 それはひろしの部下の川口であった。 「ぼ、僕、昨日、お酒飲みすぎて…、 気がついたらこんな場所で寝てて…。ほ、本当です。本当ですよ!」 状況をいまいち飲み込めずとも、 川口は自分に銃を向ける人々に向かって必死の弁明をした。 「酔っ払いぃ〜? いい迷惑…。だから私、酔っ払いって大っ嫌いなのよ!」 平木隊員がディバイトランチャーを下ろしてため息交じりに吐き捨てる。 「でも、どうして彼から反応が?」 石堀隊員の疑問を聞いた西条副隊長は川口を見回し、 首からさげているペンダントに手を伸ばした。 「ダミー発信機!」 それを見て石堀隊員が呟く。 「…一杯食わされたって事か。」 「どうやら、そのようです。」 イラストレーターがナイトレイダーに話しかける。 「擬似振動波を見抜けなかった僕のミスです。 彼に関してはM・Pが対処します。撤収してください。」 「了解…。」 静かに答えた後、和倉隊長は厳しい口調で川口を問い質した。 「…記憶のあるうちに聞いておく。誰に頼まれた?」 凄みをきかせた和倉隊長の言葉に川口はすっかり怯えあがってしまう。 「だ、だから、僕はただ…。」 「あの装置を誰に渡された!! 答えろぉ!!」 突如、和倉隊長は怒りと共に川口の胸倉を掴んで抱え上げた。 突然の行動に他のナイトレイダーは驚きを隠せなかったが、 抱え上げられた当の川口は何故か余裕の笑みを浮かべていた。 「騙されてマジギレか? 和倉隊長?」 ゆっくりと和倉隊長を見下ろす川口の目には赤い光が宿っていた。 「そんなに俺が怖いかい?」 和倉隊長が聞いたことのある声で不気味な笑みを浮かべる川口。 その挑発に和倉隊長は怒りを露にした。 「溝呂木ぃ!!」 和倉隊長はさらに強い力で締め上げるが、 川口はそれを両手であっさりと振りほどき、 人間とは思えない跳躍力で部屋の反対側へと跳んでいった。 次の瞬間、川口の目から赤い光が消え、 それと同時に物陰から黒いコートを身に纏った一人の男が現れた。 「やっぱり戻ってきたのね…。溝呂木…眞也…!」 西条副隊長の言葉を聞いてその男、溝呂木眞也はゆっくりと顔を上げる。 「1年振りだな、凪。そして、ナイトレイダー。 またこうして会える時をずっと楽しみにしていた。」 「ふざけないで!」 現れた男、溝呂木は笑顔で語りかけてきたが、 西条副隊長はディバイトランチャーを構えて、怒りの顔でそれに答えた。 「怖い目だな。あの野原しんのすけとかいう奴を見る時と同じ目だ。 俺と奴を一緒にするな。」 「溝呂木。…一体どうしてこんな手の込んだいたずらを?」 西条副隊長の問いに溝呂木は手にしていた道具、ダークエボルバーを掲げる。 「…ゲームだよ。」 「ゲーム?」 意外な答えに西条副隊長と他のナイトレイダーは戸惑うが、 溝呂木はさも当然のように話し続ける。 「あぁ、俺は今、黙示録という名の楽しい遊びをしている最中なのさ。」 溝呂木の言葉にナイトレイダーは戸惑い、 それを見て溝呂木はフッと笑って、ダークエボルバーをしまった。 「どうした? 撃たないのか? なら行くぜ。」 そう言って、溝呂木はナイトレイダーの前から立ち去った。 そんな溝呂木をナイトレイダーはただ呆然と見送る事しか出来なかった。 ナイトレイダーの目の前から溝呂木が立ち去った直後、 CICでイラストレーターが特殊振動波を確認した。 「エリア3、ポイント254に特殊振動波を確認しました。 現場に向かってください。黒いウルトラマンです。」 指示を受けて、ナイトレイダーは急いでクロムチェスターに乗り、現場に向かった。 現場に向かうチェスターの中、西条副隊長は溝呂木のことを考えた。 一方、しんのすけはストーンフリューゲルに乗って、 エボルトラスターがビースト出現を感知した現場、 イラストレーターが特殊振動波を確認した地点へと到着していた。 「あい! …あいっ!!」 あいの家で見せつけられたビーストのことを考え、 しんのすけは必死にあいを捜すが、 その時、背後から足音が聞こえ、 しんのすけが振り向くとそこには現場に到着したナイトレイダーがいた。 「君は…。」 現場に到着したナイトレイダーはしんのすけの存在に驚くが、 その時、辺りを霧が覆うと同時に、か細い女性の声が聞こえてきた。 「しん様…。」 その声を聞いたしんのすけは霧の中に左肩から血を流しているあいを見つけた。 「あい!」 急いであいに駆け寄るしんのすけ。 「良かったゾ…。あいが無事で…。」 しんのすけはあいが生きていた事に安堵するが、 あいは冷たい表情でしんのすけの手を振り解くと突き放すように答えた。 「いいえ…。殺されたわ…。」 「え?」 「私も…私の家族も…、しん様のせいで殺されたの…。」 「オラの…せい?」 驚くしんのすけ。あいの声は異様に低いものへと変わっていき、 それに伴い、瞳に赤い光が宿っていった。 「そう…。あなたが私を好きになった為に 私は殺されたの…。道具として、利用されるために…。」 そして、あいの顔に別の顔が重なり、 あいはその重なった顔、ファウストの顔へと変わっていった。 「私はファウスト…。赤き死の魔人、光を飲み込む無限の闇だ。」 完全にファウストに変身したあいの姿にしんのすけは思わず後ずさり、離れていく。 そんなしんのすけの脳裏にファウストとの激戦が蘇る。 (そんな…、オラは…オラは…今まであいと戦っていたのか…。 知らなかったっていっても、あいを傷付けていたなんて…そんな…。) 次の瞬間、ファウストが巨人となり、しんのすけに向けてダークフェザーを撃った。 それを見たしんのすけはウルトラマンに変身。 ダークフェザーの爆発に阻まれて、ナイトレイダーにそれは見えなかった。 森の中、対峙する2体の巨人をナイトレイダーは呆然と見上げる。 そして、別の場所で溝呂木もその光景を見ていた。 「始めようぜ…。死のゲームを…。」 ファウストはウルトラマンに向けて構えを取り、ウルトラマンも ファウストに向けて構えを取るが、脳裏にあいのことがよぎって攻撃できずにいた。 そんなウルトラマンをファウストは一方的に攻撃する。 防戦のウルトラマンはナイトレイダーを戦闘に巻き込まないように ジュネッスにスタイルチェンジしてメタフィールドを展開するが、 それを見たファウストはすぐさまダークフィールドを展開。 広がる闇にナイトレイダーも覆われ、ウルトラマンとファウスト、 ナイトレイダーはダークフィールドの中へと消えてしまった。 ダークフィールド内。 ファウストはウルトラマンを殴り飛ばし、 ウルトラマンに一方的に打撃を加え続ける。 そしてそんなウルトラマンを見てファウストが呟く。 「やはり脆弱…。」 ファウストはダークフラッシャーを放ち、 それを受けてウルトラマンは吹き飛ばされ、 ファウストは倒れるウルトラマンを背後から羽交い絞めにした。 「今日こそ…、お前を倒して私の一部として取り込む。 さらに無敵の存在になる為に…!」 そう言うと、ファウストはウルトラマンのコアゲージに手を当て、 コアゲージから光がファウストへと流れ込んでいった。 苦しむウルトラマン。高笑いを浮かべるファウスト。 その時、和倉隊長の指示でナイトレイダーが ディバイトガンナーでファウストを撃った。 それに反応したファウストはウルトラマンを放し、 ナイトレイダーのほうに向かっていく。 そんなファウストを見てしんのすけの脳裏にかつてあった、 あいとの楽しい思い出が蘇っていく。 「止めろ…。止めろ…。…あい!!」 ウルトラマンはファウストの右肩にパーティクル・フェザーを撃ち、 それを受けたファウストはナイトレイダーに向かうのを止め、 ゆっくりとウルトラマンの顔を見る。 ウルトラマンの顔を見たファウストの脳裏に 目に涙を浮かべているしんのすけが映り、ファウストはナイトレイダーから離れ、 ウルトラマンの顔をまじまじと見つめて呟いた。 「しん…様?」 それはファウストとは違う、いつものあいの声であった。 ファウストを見つめるウルトラマン。ファウストもウルトラマンを見つめる。 そんなファウストの目からは赤い光が消え、 ウルトラマンと同じ白い光が宿っていた。 そして胸のコアゲージがウルトラマンと同じく、赤い点滅を始める。 その点滅と連動してダークフィールドも歪み、存在が不安定になっていく。 一方、その様子を見ていた溝呂木は事態打開の行動を起こしていた。 「微かに意識が…。野原しんのすけ。ならこうするまでだ。」 溝呂木が頭に指を当てると、ダークフィールドに一体の化け物が姿を現した。 それはかつてあいと家族を襲ったネズミ型のビースト・ノスフェルであった。 「あれは…。」 ノスフェルを見てナイトレイダーが驚く。 「1年前に溝呂木が引き連れていたビーストか…。」 一方、驚くウルトラマンに向かってノスフェルがゆっくりと近づいていき、 溝呂木が冷徹に指示を下す。 「そいつはもういい。…消せ。」 その言葉を受け、ノスフェルは鉤爪を広げる。 ウルトラマンは立ち上がろうとするが、力尽きその場に倒れ込んでしまう。 ノスフェルはそんなウルトラマンのコアゲージ目掛けて 鉤爪を振りかぶり、ウルトラマンは顔を逸らした。 その時、 「何…?」 辺りに鈍い音が響く。ウルトラマンが見ると、 ファウストがウルトラマンを庇ってノスフェルの鉤爪に体を引き裂かれていた。 「バカな…。」 ファウストの行動にさすがの溝呂木も驚きを隠せなかった。 ノスフェルはファウストから鉤爪を引き抜き、 地面に倒れ込んだファウストの体から光が血のように吹き出す。 それを見たウルトラマンは残された力を振り絞って再び立ち上がると、 ノスフェルに掴みかかって投げ飛ばし、 立ち上がろうとするところをクロスレイ・シュトロームで爆破した。 戦いに勝利したものの残された力を完全に使い果たしたウルトラマンは 光となってしんのすけの姿に戻った。 一方、倒れていたファウストの体が徐々に縮まっていき、やがてあいの姿となった。 しんのすけがよろよろと駆け寄り、あいを抱きかかえる。 「あい…、あい!!」 あいを抱え、必死に名を呼び続けるしんのすけ。 やがてダークフィールドは完全に消え去った。 「溝呂木眞也が帰って来た?」 報告を受けてTLT幹部はどよめきたち、 それと同時にCICではイラストレーターが手を組み、一言呟いた。 「…第一幕の扉が閉ざされた。」 しかし、そんなイラストレーターの頬を涙が伝っていった。 森の中、あいを抱えてしんのすけは涙を流す。 溝呂木はいつの間にか姿を消していて、 ナイトレイダーだけが残って二人を見届けていた。 「あい…、あい…! あい…、あい…! あい!!」 しんのすけの必死の呼びかけにあいはゆっくりと目を開け、 弱々しいながらも笑顔を向けた。 「私…後悔なんてしていないわ…。 しん様が…私のことを真剣に見てくれるようになってから…、 私…、ずっと幸せだった…。だから…、後悔なんてしていない…。」 震える手を伸ばすあい。しんのすけはその手を掴んで力強く握り締める。 「もっと…、たくさんのこと…、話したかったな…。」 「オラも…、まだ話してない…。大事な事…、まだなんにも…。」 涙を流すしんのすけの顔を見てあいが一言呟く。 「ごめん…なさい…。」 そう言い残してあいはゆっくりと目を閉じていった。 「…あい? あい! あいっ!!」 しかし、しんのすけの呼びかけ空しく、あいの全身が光に包まれていく。 そして、あいは光となって、そらへと消えていった。 あいが消えたそらを見上げるしんのすけ。 自分の両手を見るが、そこにあいはもういない。 「あいーーーーーーっ!!」 しんのすけの絶叫が世界を駆け抜け、 それに呼応するかのように辺りを覆っていた雲から大粒の雨が降り注いだ…。 To be continued Episode 11 予知者 −イラストレーター− フォートレスフリーダムの最深部に位置するSECTION−0。 イラストレーターが何かの声に耳を傾けるように下に広がる巨大水槽を見下ろす。 水槽の中では、時折、小さな光が瞬いていた。 その頃、しんのすけはふたば幼稚園に来ていた。 あいとの別れという残酷な現実に打ちのめされたしんのすけの表情は暗く、 気が晴れる事が無く、ただあいとの楽しかった思い出を思い返し門の外を歩く。 しかし、そんなしんのすけを見て、影から溝呂木が不気味な笑みを浮かべている事に 今のしんのすけが気づく事は無かった。 再びフォートレスフリーダム、コマンドルームでは 和倉隊長と松永管理官がクロムチェスターの新たな強化案について説明していた。 「これが新たに開発された対ビースト用の新兵器ですか?」 画面に映し出されたクロムチェスターの映像を見て平木隊員が質問する。 「はい。チェスターの新フォーメーション、メガキャノンチェスターです。 チェスターβのメガキャノンにチェスターγの メタルジェネレーターを接続する事によって、 ストライクチェスターに比べてバニッシャーの威力を25%アップさせました。」 松永管理官の説明を聞き、平木隊員はさらに質問を続ける。 「でも、戦車タイプだと機動力が落ちますよね。」 その質問にパソコンを開いている石堀隊員が代わりに答える。 「ようは使い分けだな。ビーストの進化に対して 色々な対応が必要になってきてるんだ。 実際、ビーストは強力になっていってるし、 今までの戦力では殲滅が困難になってきている。 ここで切り札ともなる力は欲しいところだからな。」 「ふ〜ん、なるほどねぇ。」 そんな二人の隣、西条副隊長は何かを考え込んでおり、 和倉隊長はそんな西条副隊長を見つめていた。 「西条。」 メガキャノンチェスターの説明が終わったコマンドルームで 和倉隊長が西条副隊長に話しかけた。 「どうした? 先程の説明の時、どこか上の空といった感じだったが…。」 和倉隊長の言葉に平木隊員と石堀隊員が反応し、 西条副隊長は少し間を置いて答えた。 「実は…。先日の…あの少年のことがずっと頭に引っ掛かっていて…。」 「野原しんのすけ君…か。」 西条副隊長はそれを聞くと表情を少し変え、無言で頷いた。 「あの子が恋人を失ったこと…ですね。しかも普通の状態じゃなく…。」 会話を聞いた平木隊員が口を挟み、 パソコンでしんのすけの資料を調べていた石堀隊員も続けて口を挟む。 「…ある意味、ビーストに喰い殺されるよりおぞましい体験だったはずだ。」 和倉隊長が平木隊員と石堀隊員に続ける。 「西条…。あの時の状況から考えて、 彼がウルトラマンの正体である可能性が非常に高い。 だが、例えそうだったとしても、決して完全無欠というわけじゃない。 悲しみの淵から抜け出すのに時間がいることもあるだろう…。」 しかし、西条副隊長は反論する。 「溝呂木はそんな弱い心に付け込むんです! …それに、私だって…彼を救いたいって思っているんです。」 「え?」 「救いたい」という意外な言葉が 西条副隊長の口から出た事に平木隊員は思わず驚きの声を出してしまい、 石堀隊員も驚きの表情を見せた。 西条副隊長自身も自分の言葉に戸惑い、 逃げるようにコマンドルームから出てしまった。 「弱い心か…。…西条。」 一人、驚いた表情を見せなかった和倉隊長は 西条副隊長の言った言葉に思いを馳せた。 イラストレーターが巨大水槽を眺めていると、そこに扉を開けて近づく者があった。 それに気づいたイラストレーターが独り言のようにその者に話しかける。 「この光を見ていると、何故か、心が落ち着くんです。 微粒子の囁きを聞いているような、穏やかな気持ちになれる。」 イラストレーターの話にその者、松永管理官が答える。 「この光が地球の運命を大きく変えようとしているなんて、 誰が信じられるでしょうね。」 松永管理官はイラストレーターの横にやって来て、同じように巨大水槽を眺めた。 一方のイラストレーターが話を再開する。 「全てはこの光が降り注いできた時、始まったんですよね…。」 「2万8千光年彼方のM80さそり座球状星団で起こった超新星爆発。 その光の到達と共にビーストが現れた。 ビーストの体がアクティブになった時に発せられる振動波は 超新星の残骸から今も降り注ぐこの特殊なニュートリノ、 Χ(カイ)ニュートリノに反応しているんでしたね。」 話を終えた松永管理官はイラストレーターの顔を見て不敵な笑みを浮かべ、 イラストレーターも松永管理官の顔を見返す。 「にしても、ここは表向きはフォートレスフリーダムのエネルギー施設があって、 ナイトレイダーですら近づけない危険区域だというのに、よく入れましたね。」 「進入禁止と書いてあっても、ここを管理する人はいます。 誰か人がいる限り、何とでもなりますよ。」 笑顔とは裏腹に二人の間には微妙な距離が存在していた。 あいと過ごした春日部森林公園。 しんのすけはあいがいつも座っていたベンチに腰掛け、 翼の生えたぶりぶりざえもんを見つめる。 ぶりぶりざえもんを見つめ、しんのすけが小さく呟く。 「あい…。」 「愛ー!」 突然聞こえてきたその名前にしんのすけは驚いて顔を上げる。 目の前を駆ける少女。それを追いかける父と母、そして弟。幸せな家族。 父は家族を噴水の前に並ばせて写真を撮ると、 しんのすけに写真を撮って欲しいと頼んできた。 しんのすけは快く引き受け、家族4人の幸せな写真を撮った。 写真を撮る時に何やらポーズを取る弟。 姉がそれを注意するが弟は格好良いからと譲らない。 それはしんのすけが5歳の時に見ていた、アクション仮面の決めポーズだった。 弟はアクション仮面がプリントされた服を着ていて、 アクション仮面のフィギュアを持っていた。 写真を撮ったしんのすけはカメラを父に返し、 家族はしんのすけにお礼を述べて去っていった。 そんな家族を見てしんのすけはかつてあいと交わした話を思い出す。 『人や動物の家族…か。』 『うん、今度美術部の展覧会に出品する作品のテーマなの。家族の肖像。』 『ふーん…、家族の肖像…か。』 「私の家族はね…。」 突如、しんのすけの頭に声が割り込んできた。驚いてその声の主を探す。 「しん様のせいで皆死んじゃったの…。」 見ると、木陰にあいが立っていた。 しかし、その表情に生気は無く、目も虚ろであった。 「あい?」 しんのすけの呼びかけにあいは反応するが、 黙ってそこから立ち去ってしまった。急いで後を追うしんのすけ。 あいは一本の木の前で止まり、 追いかけてきたしんのすけの方にゆっくりと振り向いた。 「半年前のあの日よ…。私達家族が殺されたのは…。 ここでしん様と話したその夜、私達はビーストに襲われて死んだの…。 道具として、利用されるために…。全部、しん様のせい…。」 話が終わるとあいは木の向こう側に姿を消した。 「あい!」 「野原しんのすけ。」 あいを追いかけようとするしんのすけだったが、 背後から声がかけられ、振り返ると、そこには溝呂木が立っていた。 「あんたは…。」 警戒するしんのすけに溝呂木は不敵に笑って自己紹介をした。 「俺は溝呂木眞也。以前、ナイトレイダーの副隊長をしていた。 それから…お前の仇だよ。」 それを感じてか、イラストレーターが呟く。 「どうやら…、第二幕の幕開けみたいだ…。」 「第二幕…。」 松永管理官の呟きにイラストレーターが頷き、質問をした。 「ところで…。どうして…酢乙女あいがファウストにされたと思いますか?」 その質問に松永管理官は少し戸惑い、やがて間を置いてから答えた。 「溝呂木眞也は野原しんのすけが いずれウルトラマンの光を手にする事まで知っていたと…。」 それを聞き、イラストレーターは静かに頷く。 「酢乙女あいは俺の道具、操り人形だったのさ。」 溝呂木の挑発を受けたしんのすけに激しい怒りと憎しみが湧き上がる。 「お前があいを…!」 「面白かったぞ。お前達の恋人ごっこを見ているのも…。」 「ふざけるな!」 しんのすけは溝呂木に殴りかかるが、あっけなく避けられてしまう。 苛立つしんのすけはブラストショットを取り出し、溝呂木に向けて撃つが、 溝呂木のダークエボルバーから撃たれた闇の光弾によって相殺される。 その隙を突かれ、しんのすけは溝呂木に殴り飛ばされてしまった。 「いくら光を得たとはいえ、 所詮お前自身は戦いは素人。それで俺に勝とうなんて甘すぎるな。」 地面に倒れ伏すしんのすけを見下ろす溝呂木。 「くっそ…!」 何とか立ち上がるしんのすけの目には憎しみしか宿っていなかった。 しんのすけは再び溝呂木の服を掴むが、 溝呂木は満足げな笑みを浮かべてしんのすけの顔を見た。 その時、溝呂木の目が赤く光り、 それを見たしんのすけの全身から力が抜けていった。 それを見て溝呂木はニヤリと笑みを浮かべると、 しんのすけを連れて時空の歪みの中に消えてしまった。 「サイクロプスの哀しみって…知っていますか?」 しばらく黙って眼下の巨大水槽を見ていたイラストレーターは突然、 思い立ったかのように松永管理官に話しかけた。 「古い神話の怪物ですね。」 松永管理官の答えにイラストレーターが頷き、話し始める。 「サイクロプス…。ギリシャ神話に登場する単眼の巨人。 彼らは予知能力を授かって、自分達の死期さえも知り、 未来に対する希望を失ったという哀れな存在…。 …時々、思うんです。僕も彼らと同じような存在なんだなって…。」 その話を聞いた松永管理官はイラストレーターの横顔を見て話しかけた。 「あなたは自分の未来を知る事によって、未来に対する希望を失ったと?」 イラストレーターは少し黙った後、笑って答えた。 「どうでしょうね。」 そんなイラストレーターを見て、松永管理官は小声で呟いた。 「ラファエル…ですか…。」 時空の歪みからどこかに一人落とされたしんのすけ。 立ち上がって周りを見ると、そこは何も無い寒々しい空間だった。 「ここは…?」 「しん様ー。」 辺りを見渡していたしんのすけに聞こえてきた声。 振り返るとあいが笑顔で駆け寄ってきた。 「あい!?」 驚くしんのすけに対して、あいは笑顔で話しかけてくる。 「しん様、来てくださったのね。感激ですわ。」 「え?」 戸惑い、ふと周りを見回すしんのすけ。 すると、いつの間にかあいの家の前に居た。 「ここは…?」 「私の家ですわ。しん様が私の家に来てくださるのって何年ぶりかしら。」 「…?」 「先程からどうなさったの? しん様。悪い夢でも見たんじゃない?」 「夢?」 「そう、夢。」 あいの言葉を戸惑いながら聞くしんのすけ。 「夢…。そんな…、だって、あいはもう…。」 そんなしんのすけにあいは笑みを消して告げる。 「そうよね…、しん様は私が死ぬ原因になったんですものね…。」 その瞬間、あいは顔の無いマネキンとなって崩れ落ちた。 「あ、あい…?」 しんのすけが気づくと、周りはあいが死んだ森の中になっていた。 「どういうこと? これ…。」 バラバラの人形となったあいを見ながら呟くしんのすけ。 その時、人形の顔にファウストの顔が浮かび上がり、 そこからあいの声が響いてくる。 「全部、しん様のせい…。しん様のせいで私はこんな姿にさせられた…。」 「あい? オラのせい…オラが…!?」 一方、西条副隊長は春日部森林公園にやって来ていた。 「やぁ、凪。」 自分を呼びかける声に立ち止まる西条副隊長。 周りを見渡すが、溝呂木の姿は見えない。 「よく来てくれたな。人間である時は、 他人でも人が傷付くのを見るのは痛々しかったが、 今は人間が壊れていく様を見るのは楽しいぞ。」 西条副隊長は姿を見せない溝呂木に話しかける。 「どうして彼を?」 「俺は力を得た…。悪魔、メフィストの力を…。 この力でお前達人間どもの心をズタズタにしてやるよ。」 「一体…、何故?」 「お前の為だ、凪。」 「私の為?」 「そうだ。お前も早くこっちに来い。素晴らしいぞ。」 「ふざけないで!」 「ふざけてなんてない。お前にはその資格がある。 奴はお前にそれを気づかせる為の道具だ。 ま、思っていたよりもしぶとく、扱いづらいがな。」 溝呂木の言葉に西条副隊長の顔が険しくなっていく。 「オラのせいであいは…。オラのせいで…。」 ダークフィールドの中、しんのすけはうずくまり自分を責めていた。 その時、エボルトラスターが光を発し、天よりしんのすけを照らす光が現れた。 見上げると、そこには神のごとく光り輝くウルトラマンがいた。 光り輝くウルトラマンから発せられた光はしんのすけを包み込み、 しんのすけはその光と共にダークフィールドから抜け出した。 時空の歪みからしんのすけは落とされ、 そんなしんのすけの所に西条副隊長が駆け寄る。 「大丈夫?」 しんのすけを抱え、西条副隊長はしんのすけの顔を見た。 「あんたは…。」 抱えられたしんのすけは西条副隊長の顔を見て呟き、 西条副隊長はそんなしんのすけの腕を掴んで話しかけた。 「あなたの悲しみは分かるけれど、いつまでもそこに留まっていちゃ駄目! 彼女だって、きっとそんな事望んでないと思うわ。」 今まで自分を敵だと認識していた西条副隊長の励ましにしんのすけは戸惑う。 「彼女の事を思うのなら、ビーストを憎むのよ。」 「え?」 「その憎しみを力に変えるの。私達を信用して。」 そして西条副隊長は立ち上がり、 いまだうずくまっているしんのすけに手を差し伸べた。 「あなたはまだ戦える。諦めるな!」 その言葉にしんのすけは西条副隊長を見上げ、 その差し伸べられた手を握り、立ち上がった。 「あ、さっきのお兄ちゃんだ。写真ありがとー!」 帰り道、しんのすけと西条副隊長は先程しんのすけが写真を撮った家族と出会った。 「バイバーイ!」 笑顔でしんのすけに手を振る少女と弟。笑顔で挨拶をする父と母。 それを見てしんのすけに少しだが、笑みが戻る。 隣にいた西条副隊長は事情が分からず思わず首をかしげた。 「当時、内閣情報調査室次長補佐だった私は命を受け、TLT−Jの管理官となった。 だが…、その私でさえ、真実をどれほど知っているのか…。 例えば、来訪者の事も…。」 松永管理官の話を聞いたイラストレーターは一つの疑問をぶつける。 「管理官は全てを知りたいんですか?」 松永管理官は笑顔で首を横に振って否定する。 「いいえ、知ったところで、すぐ消されるだけですから。 ただ、私は自分の使命をキチンと果たしたい。 それに、このままではいずれ誰かが忘却の海を知り、辿り着くでしょう。」 「レーテの開放…。それが正しいのかどうか…。僕も分かりません。」 そう言ってイラストレーターは再び巨大水槽を見下ろす。 CICの水槽の中ではクラゲが漂っていた。 その夜、少女の家族が車で家路についていた。 後部座席で眠る娘と息子を見て微笑む母親。 その時、父親が慌てて急ブレーキを踏む。 車の前に巨大な化け物が立ちはだかり、 その巨大な爪を車に乗る家族目掛けて振り下ろした。 To be continued Episode 12 悪魔 −メフィスト− しんのすけは今日見たものが すべて幻であったことを知って、家に戻る道を歩いていた。 脳裏に西条副隊長の語った言葉が蘇る。 『本当に彼女の事を思うのなら、ビーストを憎むのよ。 その憎しみを力に変えるの。』 「憎しみを力に…。」 呟きながらしんのすけはポケットからエボルトラスターを取り出す。 その時、エボルトラスターが明滅を始め、 しんのすけは急いでビースト出現場所へと向かった。 『絶望から立ち上がるのに、オラは憎しみを力に変えようとしてた。…でも。』 「エリア6、ポイント221にてビースト振動波を確認しましたが、 一瞬だったので追尾できませんでした。 現場には既に処理班が到着しているので、 和倉隊長の方で状況の確認をお願いします。」 一方、ナイトレイダーも行動を開始していた。 ホログラムのイラストレーターはコマンドルームから姿を消し、 和倉隊長はすかさず指示を出した。 「石堀、M・Pに連絡だ。平木、マップデータを出してくれ。」 「はい!」 返事をし、二人もすぐさま行動を開始する。 「こちらナイトレイダー、M・P応答願います。」 「マップデータ出ました!」 M・Pからの連絡を受けた石堀隊員が報告する。 「M・Pからの報告です。どうやら被害があったようですね。 目撃者が一名、前を走る乗用車に 何か怪物のようなものが襲い掛かったのを見たようです。 襲われた車に落ちていたデジカメの写真です。」 「これって…!」 石堀隊員が出した写真を見て西条副隊長は驚いた。 「この家族を知っているのか?」 和倉隊長の質問に西条副隊長が答える。 「偶然、森林公園で会ったんです。」 そこに石堀隊員がM・Pからの報告を伝える。 「目撃者によると、ビーストは両親を殺害後、 その死体と子供を生きたまま連れ去ったみたいです。」 「何で子供は生きたまま?」 平木隊員の疑問に西条副隊長が答える。 「おそらく…人質。」 「ねぇ、薫。薫!」 しんのすけが春日部森林公園で写真を撮った家族、山邑(やまむら)一家の別荘。 二階の寝室で姉・愛が弟・薫を起こそうとしていた。 「うーん…、んん…。」 愛の呼びかけに目覚めた薫は周りを見渡し、 自分が寝ている間に別荘に着いた事を知った。 「あれ…。別荘に着いたんだ…。パパとママは…?」 眠そうに目を擦る薫に愛が答えた。 「下にいるけど…、何か様子が変なの…。…一緒に来て。」 その言葉を受けて薫は下に降り、愛もそれを追って下に降りた。 一階の居間では父親がTVを見ていて、台所では母親がカレーを作っていた。 「お、起きたか?」 「ちょうどいい時間ね。今起こそうと思っていたんだけど。」 降りてきた愛と薫に話しかける父親と母親。 その様子に愛は戸惑い、薫は笑顔で答える。 「何だ。全然変じゃないじゃん。」 「でも…、さっきは本当に…!」 「寝ぼけて見た夢とかじゃないの? 姉ちゃんも怖がりだなぁ。」 そう言って、薫はテーブルに着き、 愛も不安そうに父親と母親をちらりと見ると、席に着いた。 そんな家族を、別荘の外から溝呂木が不敵な笑みを浮かべて見つめていた。 「さて、子供達を救えるか? ウルトラマン。」 「ポイント274に微弱ですが先程のビーストと同じ振動波を確認。 状況を確認する為、まずはチェスターα一機で向かってください。」 イラストレーターの指示を受け、 西条副隊長がチェスターαに乗り込み、チェスターαは発進した。 一方、現場に到着したチェスターαから西条副隊長が降りる。 「ポイント274。あれね。」 別荘の中では山邑一家が幸せな食事をしていた。 その時、ストーンフリューゲルが降臨し、 しんのすけがストーンフリューゲルから降りた。 しんのすけは近くにいた西条副隊長に気づくと、 昼間の西条副隊長の言葉を思い出す。 『私達を信用して。』 その言葉を思い出したしんのすけは西条副隊長のほうに向かった。 「西条副隊長!」 「…しんのすけ君。」 そして、しんのすけは西条副隊長と共に別荘の外で待機した。 しんのすけは自分と共に待機する西条副隊長を見て、ある事を尋ねる。 「西条副隊長…。どうしてオラのことを…。」 しんのすけの質問に西条副隊長は少し沈黙する。 霧の中、ぬいぐるみを持って走る少女時代の自分。 『ママはどこ?』 目の前に現れ、咆哮と共に肩から角を生やす男。 脳裏に蘇る幼少期の忌まわしい記憶。やがて長い沈黙を破って口を開く。 「同じだから…。」 「え?」 「愛する人達をビーストに奪われたから…。 だから…。自分でも不思議なくらい、あなたをようやく信用する気になったの…。」 再び流れる沈黙。 しかし、西条副隊長は別荘の外から パルスブレイガーで中を調べ、沈黙を振り払うように叫んだ。 「二つの光点は人間じゃない。ビーストよ!」 「行くゾ!」 「えぇ!」 しんのすけと西条副隊長が駆け込もうとした時、 近くの森の上空に闇の光弾が撃たれた。 「この振動波は…。」 その地点をパルスブレイガーで調べた西条副隊長は その光弾の撃たれた場所に向かった。 「あの男が…いる!」 「ビースト!」 山邑一家の別荘。 突如、幸せな食卓にブラストショットを構えたしんのすけが乱入してきた。 「な、何です?」 突然の事態にうろたえる父親。母親は素早く愛と薫を手元に抱き寄せる。 あまりに普通な家族の姿にしんのすけは一瞬戸惑い、 エボルトラスターを家族に向けるが、 結果、激しく明滅し、父親と母親にビースト振動波を感知した。 「ビースト! 人間の振りなんかしても無駄だゾ!」 いきなり父親に向けてブラストショットを撃つしんのすけ。 しかし、父親は腕でブラストショットの光弾を弾いた。 「くっそ…!」 「止めろ!」 苛立ち、更にブラストショットを撃とうとするしんのすけに薫が飛び掛かる。 「薫!」 しんのすけに飛びかかった薫に愛が叫ぶ。 「離せ! あいつは君のパパじゃない! パパとママはもう死んでるんだ!」 「嘘付くな! そんな事あるわけないだろ!」 「薫! 薫!!」 その時、父親と母親が笑い声を上げて愛を外に連れ去った。 「待て!」 薫を振りほどき、二人を追うしんのすけ。 一方、西条副隊長は上空に光弾の撃たれた森の中を歩いていた。 そんな彼女の脳裏に再び蘇る忌まわしい記憶。その時、目の前に男が現れた。 急いで西条副隊長はその男、溝呂木にディバイトランチャーを向ける。 「やぁ、凪。夜道に一人は危険だぜ。」 「溝呂木…。」 構える西条副隊長に溝呂木はダークエボルバーを見せる。 「怖い目だな。まぁいい…。よく見ておけ…。凪、これが俺の今の姿、今の力だ。」 そう言って溝呂木はダークエボルバーを左右に引き抜いた。 闇が溝呂木を覆い、溝呂木という存在を打ち破って、 骸骨を思わせる黒い悪魔・メフィストが姿を現す。 「黒い…ウルトラマン…。」 目の前に立つ5m程の大きさのメフィストを西条副隊長は恐怖の眼差しで見つめる。 「さぁ、来い。凪。」 メフィストは溝呂木の声で西条副隊長を覗き込み、 恐怖で西条副隊長は思わず後ずさる。 愛を連れ去った父親と母親を追っていた しんのすけはエボルトラスターの明滅を見て、目を閉じる。 次の瞬間、しんのすけの脳裏に西条副隊長を覗き込むメフィストが浮かんだ。 メフィストの姿に溝呂木の姿が重なる。 「あいつが…昼間の…!」 しんのすけはメフィストが溝呂木であることを知ると、 エボルトラスターを鞘から引き抜き、 光と共に大量の闇も溢れ出したそれを掲げ、ウルトラマンに変身した。 メフィストはそれを見るとフッと笑って、50mの大きさに巨大化。 CICのイラストレーターもモニター越しにその光景を見ていた。 「例の山中にウルトラマンと闇の巨人が現れました。全員出動願います。」 フォートレスフリーダムからチェスターβとγが発進し、 それと同時に、ウルトラマンとメフィストの戦いが始まった。 西条副隊長は一瞬、ウルトラマンのほうを見るとチェスターに戻った。 そこにチェスターβとγが到着し、メフィストを見て平木隊員が驚く。 「何でまたあの赤と黒のウルトラマンがいるわけ? 前に倒されたんじゃ…。」 石堀隊員が答える。 「よく見ろ。前とは体の模様が違う。」 「ウルトラマンが銀色から赤色になるみたいに模様を変えたって事?」 「いや、あれは…、ナイトレイダー前副隊長・溝呂木眞也だ。」 石堀隊員の言葉に和倉隊長と西条副隊長は 複雑な表情を見せ、平木隊員は驚きを隠せない。 「この前、私達の前に現れた人が巨人に? 確か…、一年前に巨人によって行方不明になったのよね?」 「というより、実は溝呂木が変身したあの黒い巨人が 一年前にナイトレイダーB、Cユニットを 壊滅状態に追い込んだ真犯人だったんだ…。」 「そんな…。」 石堀隊員の説明に平木隊員はメフィストを見て戸惑う。 ウルトラマンはメフィストを怒りに任せて殴りかかろうとするが、 メフィストはそれを軽く避け、右腕にあるアームドメフィストを 2本の鉤爪状の武器・メフィストクローに変形させて、 逆にウルトラマンを切り刻んだ。攻撃を受けたウルトラマンは地面に倒れ込む。 「ノスフェル!」 メフィストの言葉と共に地面が割れ、中からノスフェルが姿を見せる。 ノスフェルの目の前には愛を連れ去った愛の父親と母親がいた。 「パ、パパッ!? ママ!!」 目の前にノスフェルが現れ、驚いた愛は父親と母親のほうを向くが、 父親と母親は不気味な笑みを浮かべて愛を見下ろした。 愛はその場から逃げ出そうとするが、 父親と母親に押さえつけられて逃げられなかった。 そして、そのまま愛はノスフェルの額に吸い込まれてしまった。 愛を額に吸い込んだノスフェルが地面から這い出て地上にその姿を現す。 「あれは…ノスフェル?」 「生きていたのか!」 前回の戦いでウルトラマンがノスフェルを倒したことを思い出し、石堀隊員が呟く。 「細胞が生き残って再生したのか…。」 一方、別荘から家族を追ってきた薫もノスフェルを見る。 「怪獣!? パパ! ママ! 姉ちゃん!!」 容赦無くメフィストに攻められるウルトラマンに ノスフェルがゆっくりと迫ってくる。 ノスフェルを見たウルトラマンは拳を強く握り締め、怒りと憎しみを露にし、 それを見たメフィストが再び馬鹿にしたように笑う。 ウルトラマンは憎しみを露にしながらクロスレイ・シュトロームの構えを取り、 それを見てメフィストは額に指を当て、その指を薫に向ける。 その瞬間、薫にノスフェルの額のコブの中にいる愛、 そして、それを撃とうとするウルトラマンになっているしんのすけの姿が見えた。 「止めろ! 姉ちゃんが、姉ちゃんがその中にいるんだ!!」 しんのすけはノスフェルに襲われたあいと家族、 ノスフェルから自分を庇って倒されたファウストの姿を思い出し、 怒りと憎しみを募らせていった。 それとは別に脳裏に子供の声が響くが、 しんのすけはその声を必死に振り切ろうとする。 「止めろぉ! 姉ちゃんが…!!」 しかし、薫の叫びも空しくクロスレイ・シュトロームは発射される。 その瞬間、ノスフェルは避けようと身をよじるが、 クロスレイ・シュトロームはそのまま貫通し、 ノスフェルはその場に倒れ込んで爆発を起こした。 「うわぁぁぁぁぁっ!!」 その光景を見て薫は絶叫し、 ウルトラマンは歓喜して西条副隊長に向けてサムズアップをし、 西条副隊長はそれを見て、少し戸惑いながらもサムズアップを返す。 その光景を見てメフィストは満足げに笑って姿を消した。 しんのすけはどこか陰っている光となって地上に降り、 そこにナイトレイダーがやって来て、 その中、パルスブレイガーでM・Pと連絡を取っていた石堀隊員が口を開く。 「子供達が発見されたそうです。 男の子は無事ですが、女の子の方は…一命は取り留めましたが重症です。」 「え?」 石堀隊員の報告を聞いて固まるしんのすけ。石堀隊員が報告を続ける。 「ノスフェルの眉間のコブに捕らわれていたようです。」 「そんな…。そんな!」 しんのすけはそれを聞くと急いで走り出し、 西条副隊長はそんなしんのすけを黙って見送る。 ノスフェルの爆発地点では既に処理班が 活動を開始していて、しんのすけの前をタンカで愛が運ばれていく。 「愛姉ちゃん! 姉ちゃん!!」 そんな愛に泣いてしがみついていた薫は しんのすけを見つけて顔色を変えると、しんのすけに飛びかかって、殴りつけた。 「こいつ! どうして姉ちゃんを撃ったんだ! 中に姉ちゃんがいるって言ったじゃないか!!」 「あの声が…。」 「僕はお前を許さない! お前を一生許さないからな!!」 しんのすけは自分がしでかした事に恐怖し、ただ呆然と薫の責めを受け続ける。 「落ち着け!」 そこに三沢がやって来て薫を取り押さえ、薫に話しかける。 「一緒に病院に行こう。」 「離せ! 離せよぉー!!」 三沢は抵抗する薫を無理やり救急車へと連れて行く。 薫はしんのすけに対する怒りと憎しみをぶちまけ、 「何が皆を守るだ! こんなもの!!」 と今まで大事に持っていたアクション仮面のフィギュアを地面に投げつけた。 薫と愛を乗せた救急車を見送るしんのすけに大原リーダーが話しかけてくる。 「大丈夫…。明日には全部忘れているから…。」 しかし、しんのすけはアクション仮面のフィギュアを拾って思う。 『オラは…、憎しみのあまり大切な事を忘れてた…。 オラは、何かを倒す為じゃなくて、アクション仮面のように 何かを守る為に戦わなくちゃいけないって事を…。』…野原しんのすけ To be continued Episode 13 悪夢 −ナイトメア− 憎しみで戦い、愛と薫の心と体に 大きな傷を付けてしまったしんのすけは落ち込んでいた。 『オラは、憎しみの激しさから女の子を傷付けてしまった。 オラの憎しみはまた誰かを、そしてオラの心までも傷付けていってしまう…。』 しんのすけは近くの河原の土手で、俯いて力無く川の水面を眺めていた。 傷だらけで運ばれた愛、自分に憎しみをぶつける薫の事を思う。 その時、しんのすけの耳に足音が聞こえ、振り向くとそこには和倉隊長がいた。 「あんたは…。」 和倉隊長を見つめるしんのすけ。 和倉隊長も感慨深そうにしんのすけを見つめる。 (野原しんのすけ…。彼が…ウルトラマン…。) 「明日からしんのすけ、学校だけどどうする?」 野原家。ひろしとみさえが話していた。 「しばらく、休ませてあげましょう。あんなことがあったばかりだし…。」 「そうだな…。」 「あと、あの子…、私達に何か隠している気がするのよ。」 「え?」 ひろしの疑問にみさえが答える。 「あの子、変な夢を見るって言っていた時があったでしょ? あの後…、そう三ヶ月くらい前からそんな感じなのよ。」 みさえの言葉にひろしはしばし考え込み、あることに気づいた。 「そういえば…、確か三ヶ月くらい前からだったよな、 あいつが一度出て行ったきり遅くまで帰ってこないようになったの。」 「あと、原因不明の事件や事故とかが よく起きるようになったのもそのくらいからよね。」 みさえの言葉のあと、しばし流れる沈黙。 それを振り切るように、ひろしは声を張り上げて答えた。 「偶然だよ! 第一、なんであいつがそんな事件に関わらないといけないんだよ!」 「私もそう思いたいけど! でも…、偶然にしては何か出来すぎてるとは思わない? それに…あなたが以前見たっていう化け物のことも何か引っかかるし…。」 みさえの言葉にひろしはかつて襲われたぺドレオンのことを思い出した。 「まぁ…、確かに…な。もし、みさえの言うように 俺達の知らないところで実際に何かが起こっていて、 それにしんのすけが関わっているんだとしたら…。」 そう答えて、ひろしはテーブルの上にある、 別荘地で一家4人謎の遭難という見出しの新聞記事を手に取った。 「オラ、今までなんのために戦っていたんだろう…って思ってたんだ…。」 その頃、河原では、話し始めたしんのすけの言葉を和倉隊長が黙って聞いていた。 「オラは、今までただガムシャラに戦ってたけど…。 でも…、あんなことになって…。オラ、怖いんだ…。 このまま、憎しみを持ったまま戦って…、 これ以上誰かを傷付けてしまったりするのが…怖いんです…。」 しんのすけの話を聞き、和倉隊長はしばし考えた後、口を開いた。 「俺も昔…、お前と同じだった…。」 「え?」 和倉隊長の答えにしんのすけが反応する。 「俺も昔、お前と同じく自分にとって大切な者を失った…。 俺は…昔、家族を…ビーストに殺されたんだ…。」 和倉隊長の過去の話を聞き、驚くしんのすけ。 一方、和倉隊長は自分の過去を語りだした。 「俺はナイトレイダーに入り、 ビーストと戦うことになった…。人々を守るために…。 だが、俺は次第にビーストへの憎しみに取り付かれ、 段々と自分がどうして戦っているのかが分からなくなっていった…。 どうして俺がナイトレイダーに入ったのか…。 記憶消去や真実の隠蔽までしている組織に属してまで 俺が戦っているのは何故なのか…。 そして、自らの進む道を完全に見失いかけた時、 俺はある一つの答えに辿り着いたんだ。」 「…答え?」 しんのすけの疑問に和倉隊長が答える。 「…憎しみじゃ何も変えられない…。ビーストへの憎しみを晴らすために 俺はナイトレイダーに入ったんじゃない…。それが俺の出した答えだった…。 その答えを得た俺は迷いを捨て、組織がどうあろうとも、 自分の信じるものを貫くため…、人々を守るために戦おうと決意した。」 「憎しみじゃ…何も…。」 しんのすけは和倉隊長の言葉を呟き、 和倉隊長は自分のパルスブレイガーを見つめて続ける。 「ビースト事件に巻き込まれた人々を助けて、俺は感じたんだ…。 過去は変えられないが、未来なら変える事が出来るかもしれない…と。」 しんのすけはエボルトラスターとあいからもらった 翼の生えたぶりぶりざえもんを取り出し、あいのことを思った。 「無理だゾ…。」 しんのすけがぶりぶりざえもんを見て呟く。 「オラ…あいつが…どうしても許せない…。 どうしてもあいの仇を討たないと気がすまないんだ…。 憎しみを捨てて未来を変えるなんて…、そんなの絶対に無理だゾ…。」 「しんのすけ君…。」 立ち去るしんのすけの後ろ姿を見て、 和倉隊長が思った時、パルスブレイガーに出動命令が入った。 「ん?」 ある工場。作業員の一人が手を止め、機械の方を見る。 「どうした?」 「いや…、今なんかちっこいのがいて機械の方に…。」 「ネズミかな?」 「さぁ?」 作業員達が機械の方を見ると、体長5cm程の小ささのノスフェルが姿を現した。 「何こいつ? ネズミ?」 「毛無いんじゃないのか?」 「何か血管浮き出ていて気持ちわりぃ…。」 ノスフェルを見て作業員達が感想を述べ、 小さい口を大きく開き、ノスフェルは一つ咆哮を上げた。 スクランブルのサイレンが鳴り、ホログラムのイラストレーターが現れる。 スクランブルを聞いた和倉隊長がコマンドルームに戻って来ると、 既にイラストレーターの説明が始まっていた。 「ノスフェルが生きている?」 西条副隊長の言葉を聞いて和倉隊長が驚く。 「はい。しかし、振動波は微弱でおそらく弱体化しています。 奴が完全に回復する前に、このミッションで殲滅してください。」 ホログラムのイラストレーターは消え、 すぐさまナイトレイダーは出撃準備を始めた。 チェスターβに乗り、出撃準備を進める和倉隊長が思う。 「しんのすけ君、憎しみを捨てろ! 憎しみじゃ何も変えられない!」 一方、しんのすけはストーンフリューゲルを呼び寄せ、 ノスフェル出現場所へと向かった。 ストーンフリューゲルに乗り、拳を強く握り締めるしんのすけが思う。 「奴らがあいを殺した…。奴らが…!」 ナイトレイダーが現場に到着し、和倉隊長が指示を送る。 「ポイント247にターゲットを追い込む。石堀は待機してノスフェルを迎え撃て。」 「了解。」 そして石堀隊員を残して和倉隊長と西条副隊長が先に進み、 平木隊員も石堀隊員の肩を叩いた後、和倉隊長の後についていった。 工場内を進むナイトレイダー。辺りに霧が出てきて、視界が悪くなる中、 和倉隊長のパルスブレイガーにビースト振動波が感知される。 「西条、平木、後ろだ!」 和倉隊長が叫び、 それと同時に西条副隊長と平木隊員の後方に体長10m程のノスフェルが姿を現した。 「いきなり来てビックリするじゃない! このぉ!!」 振り向き様に平木隊員と西条副隊長がディバイトランチャーを撃ち、 ノスフェルは霧の中に姿をくらます。 和倉隊長からノスフェル出現を聞き、 石堀隊員がパルスブレイガーに目をやるとビースト振動波が現れた。 しかし、次の瞬間、パルスブレイガーからビースト振動波が消えた。 「…ロストした?」 すると、石堀隊員のパルスブレイガーに再びビースト振動波が現れる。 「え?」 その瞬間、上空からノスフェルが鉤爪で石堀隊員を弾き飛ばした。 壁に激突して石堀隊員は気を失う。 その時、その場にストーンフリューゲルが現れ、しんのすけが降りてきた。 そしてノスフェルがゆっくりとしんのすけの方に振り向く。 しんのすけは石堀隊員が倒れているのを見ると、 光と共に闇も溢れ出したエボルトラスターを掲げて、ウルトラマンに変身した。 「ウルトラマン…。」 西条副隊長が呟き、他のナイトレイダーもウルトラマンを見る。 ウルトラマンはセービングビュートで石堀隊員を安全な場所に運び、 ノスフェルに向けてクロスレイ・シュトロームの構えを取るが、その手が震え出す。 脳裏に蘇る憎しみによって戦った結果、 愛を傷付けてしまったこと。薫の心に傷を負わせてしまったこと。 「オラは…オラは…!」 様々な考えが浮かび、 しんのすけはクロスレイ・シュトロームを撃てなくなってしまった。 「しんのすけ君!」 その時、石堀隊員がしんのすけに呼びかける。 「しんのすけ君! 撃つんだ、しんのすけ君!」 しかし、今のしんのすけに石堀隊員の声も姿も入らない。 一方、ノスフェルは今度は石堀隊員のいる場所にゆっくりと近づき、 遂に石堀隊員に向けて鉤爪を振りかぶった瞬間、 ディバイトランチャーの弾がノスフェルに当たった。 振り返るノスフェル。そこには駆けつけた和倉隊長、西条副隊長、平木隊員がいた。 またもや逃走するノスフェル。平木隊員は石堀隊員に駆け寄り、 西条副隊長は構えたまま固まっているウルトラマンを見上げた。 「どうして撃たなかったの?」 西条副隊長が問うがしんのすけは何も反応できない。 「どうして撃たなかったの!」 西条副隊長は声を荒げ、ウルトラマンの肩に向けてディバイトランチャーを撃った。 しかし、それを受けてもウルトラマンはただ呆然と立ち尽くしていた。 やがて、ウルトラマンは逃げるように光となって消え、 西条副隊長はそんなウルトラマンがいた場所を睨んだ。 そんな西条副隊長を無言で見つめている和倉隊長に、 平木隊員が石堀隊員の状態を報告する。 「隊長! 石堀隊員は無事です。」 「そうか…。良かった。…しんのすけ君…。」 和倉隊長が呟いた時、遠くからノスフェルの叫び声が響いてきた。 それを聞いて和倉隊長は急いで指示を送る。 「ビーストを追跡する!」 「了解!」 和倉隊長、石堀隊員、平木隊員はノスフェルの後を追い、 西条副隊長は少しウルトラマンがいた場所を見ながらノスフェルの後を追った。 そして、皆がいなくなった後、しんのすけが現れ、力尽き、その場に座り込んだ。 脳裏にあいの死、傷だらけの愛、自分に憎しみをぶつける薫、 自分の目の前で殺されそうになった石堀隊員の姿が思い浮かぶ。 『和倉隊長…。和倉隊長の言った通り…、憎しみじゃ何も変えられなかった…。 オラはこれからどうしたらいいんだ…。 オラは…もう…何をしたらいいのか…分からない…。』…野原しんのすけ To be continued Episode 14 閃光 −ライトニング− 現場の近くの川にかかっている橋の上。 しんのすけはポケットから翼の生えたぶりぶりざえもんを取り出して見つめていた。 「あい…。」 『オラはもう何をしたらいいのか分からない…。 自分がなんのために戦っているのかも分からなくなりかけてる…。 全部忘れて逃げ出したい…。あい…またあいの声を聞きたい…。』 空は青空だったが、今のしんのすけに空の青さ、 そしてその広さを感じることはできなかった。 フォートレスフリーダムのコマンドルームでは 平木隊員が石堀隊員の傷の手当てをしていた。 「本当に大丈夫ぅ?」 平木隊員がペチンと傷の部分を叩き、痛みで石堀隊員が飛び上がる。 「いってぇ! …もうちょっとさ、優しくしてよ。」 「甘えんじゃないわよ。」 そんな二人を見て松永管理官が和倉隊長に話しかける。 「幸い、石堀隊員は軽傷でしたが、ビーストを取り逃がしてしまうとは…。 いくらウルトラマンの正体が分かったとはいえ、 彼に協力を仰ぐことは無理な話だったというところですね…。」 「松永管理官…。」 何か言おうとする和倉隊長に松永管理官は少し目をやって答えた。 「現在M・Pが彼の行方を捜索中です。 もし、TLTやビーストのことを家族などに話されたりでもしたら困りますからね…。 結局、彼には戦う資格がなかったということですね…。」 「ですが…。ですが私は、しんのすけ君が苦悩に打ち勝ち、 必ず這い上がってくる事を、信じています!」 そう和倉隊長は真っ直ぐな眼差しと口調ではっきりと答えた。 「私です。」 コマンドルームを出た松永管理官は三沢の携帯電話に電話をかけた。 「松永管理官…。現在、自分は任務中なので用件は手短にお願いします。」 電話に出た三沢の答えを聞いて松永管理官の目が笑う。 「そうですか。野原しんのすけの確保に向かっているのですね? では、あなた方はそのまま任務を遂行してください。」 そう言って、松永管理官が電話を切ろうとすると、 電話口から再び三沢の声が聞こえた。 「待ってください。教えていただけませんか? どうしてあなたが私に直接このような指示をお与えになったのか。」 「あなたが知る必要はありません。」 松永管理官は再び電話を切ろうとするが三沢は引き下がらない。 「それでは困ります。部下というものは、上司の命令を忠実にこなすもの。 ならば上司の的確な指示が必要だと思いますので…。」 「どうしても…ですか?」 「上司…ですから…。」 そんな三沢に対し、松永管理官はため息をついて答える。 「野原しんのすけの記憶を処理した後、 彼を私の手元に置きたいのでお願いします。」 「…上の指示に背いて大丈夫でしょうか?」 「上は無能です。自分達では何も考えずに、 ただ、来訪者やイラストレーターの指示に従っているだけ。 ウルトラマンについても恐れて触れようともしない。 ですが、私はどんな手を使ってでもこの世界を守ります。 ウルトラマンの光。それを我々TLTの重要な戦力とすることこそが必要なのです。」 その答えを聞いて少し考えた後、三沢は松永管理官に答えた。 「…分かりました。私、三沢にお任せください。」 しんのすけは力無く道を歩いていく。 ふと前を見ると三沢を始めとするM・Pが立ち塞がり、 後ろを振り返っても別のM・Pが既に後を追ってきていた。 三沢がしんのすけに呼びかける。 「おとなしく我々に捕まったらどうだ?」 「オラの記憶を…消すつもりだな…。」 「君にとってはその方が楽かもしれないな…。」 しんのすけの言葉に答えながらゆっくりと三沢はしんのすけに歩み寄っていく。 その時、横道からゆっくりと一台のタクシーが 出てくるのを見た一人のM・Pが三沢に話しかける。 「三沢チーフ。例のカメラマンです。」 「よし、野原しんのすけと共にあの男も確保する。」 「え? でもいいのですか? 確か以前、大原リーダーは放っておけと…。」 「部下というものは上司の指示に従うだけではなく、 例え上司の的確な指示がなくとも、 自分で判断して行動できなければいけないものなんだ。」 一方、そのタクシーはしんのすけの隣に停まり、窓を開けて乗客が言った。 「乗れ。」 タクシーの中の乗客と自分に近づいてくるM・Pを見たしんのすけはタクシーに乗り、 それを見た三沢は他のM・Pに確保の指示を出すが、 「運ちゃん! 頼んだぜ!」 「あいよ! 任せときな! 榛名山の悪魔と呼ばれた 俺の腕を見せてやる! …振り切るぜ!」 そう言って運転手は勢い良くタクシーを発進させ、 指示を受けたM・Pが追跡しようとするも、振り切られてしまった。 「根来さん…。」 タクシーの中。しんのすけは乗客、根来を見て呟いた。 「よう、久しぶり。案の定、お前も連中に追われてるみたいだな。 とりあえず、今はあいつらを何とか振り切らねぇとな。」 「……。」 一方、完全に追跡を振り切られたM・Pのうち、 数人がタクシーの去っていった方向を見て話していた。 「あのタクシー…、ものすごいスピードで走っていったな…。」 「あぁ…。あんな運転する奴見たことねぇぜ…。」 そんなM・Pの中、三沢が悔しさから叫んだ。 「くそぉ!!」 コマンドルームではイラストレーターと石堀隊員が ノスフェルの映像を前に説明を行っていた。 「ノスフェルの再生能力の謎が判明しました。」 「この口の中にある臓器です。 本体が活動を停止するとこの臓器が活発化し、急速にクローン再生を行うんです。」 「納得! だから何度倒しても生き返ったわけね。」 平木隊員が手をポンと叩いて答えた。 「この臓器を破壊すれば今度こそ…。」 ノスフェルの映像を見て、和倉隊長は静かに呟いた。 「一家四人…謎の遭難…。」 その頃、ひろし達は記事に載っていた山邑家の元別荘に来ていた。 既に警察による捜査は終わっていて、ひろし達は別荘の周りを調べていた。 「ねぇ、やっぱ考えすぎじゃない? お兄ちゃんがこんな事件に関わっているなんて。」 持っている記事を見て、ひまわりが呟く。 「でも、そう考えたら色々と辻褄が合うのよ。」 別荘の周りを調べながらみさえが答える。 一方、ひろしは皆から離れて近くの森の中を調べていた。 「何かあるんじゃないかって思ったけど…。やっぱ、何もないな…。」 そう思って、ひろしが別荘に戻ろうとした時、彼方から不気味な声が聞こえた。 「まさか…。」 かつてのペドレオンのことを思い出し、ひろしはすぐさま別荘に戻った。 「みさえ! 早くここから逃げるぞ!」 「え? いきなり一体どうしたの?」 「いいから、早く!」 首をかしげるみさえに対し、ひろしは強引にみさえとひまわりの手をとって、 自分達が乗ってきた車に向かって走り出した。 「ちょっと、一体どうしたのよ?」 「化け物がいる!」 「はぁ?」 エンジンをかけ、車を走らせるひろしの言葉の意味を理解できないみさえは 抜けた声を出すが、後部座席のひまわりが後ろを振り返ると、 森の影から、体長30m程のノスフェルの体の一部が見えた。 「これ、マジ…?」 森林の中、タクシーを降りたしんのすけと根来。 「う〜ん…。空気がうめぇぜ。 ここまで来れば、あいつらも追ってこれねぇだろう。」 伸びをして森林の空気を味わう根来にしんのすけが尋ねた。 「根来さん…。どうしてオラを…?」 しんのすけの疑問に根来が答える。 「あぁ、実はな。俺もお前と同じく連中に追われているのさ。 前にも言っただろう。独自に調査してるってな。だからだよ。」 そう言って根来はタバコをくわえて、ライターを取りだす。 「なんでそこまでして…。捕まれば…記憶を消されるのに…。」 「記憶を?」 しんのすけの言葉に根来は衝撃を受け、タバコに火をつけようとする手を止めた。 「奴らそんな事まで…。」 怒りに声を震わせて根来が呟く中、しんのすけは訴える。 「でも…、放っといてほしかったかも…。」 「何?」 しんのすけの言葉に根来は声を変えるが、しんのすけはそれに気づかず話し続ける。 「あのまま記憶を消されてしまった方が…、 あんな苦しみ、忘れてしまった方がオラはずっと楽だったのに…。」 「ふざけるな!」 いきなりの怒声にしんのすけは驚き、 根来はそんなしんのすけに対して怒りをぶちまけた。 「おい! 記憶を消されてしまうって事がどういう事か分かるか!? 自分が今まで生きてきた証を全て失ってしまうんだぞ!!」 「生きてきた…証?」 根来の言葉にしんのすけは反応するが、根来は止まらずに怒鳴り続ける。 「誰にも! 他人の人生を奪う権利なんか無いんだ!!」 そのまま根来は力任せにしんのすけを突き飛ばし、 地面に倒れ伏すしんのすけに向かってさらに続けた。 「昔にお前が未来を取り戻そうと、 俺達に未来を生きる希望を教えてくれたんじゃないのか? 過去と向き合って未来を生きるってことを!」 「過去と向き合って…、未来を…生きる…。」 「あぁ、そうだ! それがどんな記憶であってもな、 それはそいつが生きた証なんだ! ましてや! 真実を隠蔽するようなあの連中に! それを消すなんてことは絶対に…。」 と、その瞬間、いきなり根来は気を失ってしんのすけの前に倒れた。 その背後には笑みを浮かべた溝呂木がいて、気絶した根来を見下ろして呟いた。 「熱弁、ご苦労さん。なかなか面白かったぜ。」 そしてしんのすけの方に目をやる。 「よう、野原しんのすけ。」 「溝呂木…。」 黒雲に覆われた空の下、溝呂木を前にしてしんのすけは力無く座り込んでいた。 「可哀相に。よほど酷い目に遭ったんだな。」 他人事のように言い放つ溝呂木をしんのすけは憎しみを含んだ目で睨みつける。 「全部…、お前のせいだゾ…。」 「俺の?」 しんのすけの言葉に溝呂木は両手を広げて冗談っぽく答える。 「お前があいを殺した…。だからオラは…。」 「会わせてやるよ。」 「え?」 「あいに俺が会わせてやる。そう言ったのさ。」 耳元で囁く溝呂木の言葉にしんのすけは驚きを隠せなかった。 溝呂木が姿を消すと、そこには笑顔のあいが立っていた。 「あい…。」 立ち上がってしんのすけが呼びかけるが、 あいは笑顔のまま無言でその場から駆け出していった。 「あい!」 そしてしんのすけも駆け出してあいの後を追った。 一方、ノスフェル出現を知ったナイトレイダーも出撃準備を進めていた。 あいを追いかけていたしんのすけの前に扉が現れ、 扉を開けると向こう側にあいの部屋があり、あいが微笑んで待っていた。 「しん様。ここで私と暮らしましょう。」 「……。」 「何もかも忘れて幸せに…。いいでしょう?」 「……。」 しばらく考えた末、しんのすけはあいの言葉に答えた。 「うん、そうしよう…。」 ゆっくりと扉に向かって歩み出すしんのすけ。 「しんのすけ君!」 そこに現場に到着した和倉隊長が現れるが、 そこに闇の光弾が撃ち込まれ、溝呂木が現れる。 「邪魔するなって。野暮な奴だ。」 「溝呂木…!」 溝呂木は高くジャンプし和倉隊長の背後に回りこんで 殴り掛かってきたが、和倉隊長はそれに反応して攻撃を受け止めた。 「ほぉ。やはりナイトレイダーの隊長なだけあるな。」 溝呂木は余裕の笑みを浮かべ、 和倉隊長は溝呂木を気にしつつも、しんのすけの方に目を向ける。 しんのすけは扉の前までやって来たところで歩みを止めていた。 「どうしたの? しん様。」 「だって…、あいは…。」 「言ったでしょう。もう何もかも忘れていいって。だから…、早く、来て…。」 あいの優しい言葉にしんのすけは笑顔で頷き、再び扉へと歩んでいった。 そんなしんのすけに向かって和倉隊長が叫ぶ。 「駄目だ、しんのすけ君! 闇に囚われるな!」 しかし、溝呂木がそんな和倉隊長の言葉を遮る。 「もう奴を楽にしてやれ。」 「何?」 和倉隊長の問いに溝呂木はダークエボルバーの闇の光弾で答える。 ダークエボルバーで撃たれ、 吹き飛ばされる和倉隊長に向かって、溝呂木が語りかける。 「お前は奴の中に昔の自分の姿を見てたんだろうが…。 いいかげん奴は苦しみから開放されたいんだ。 過去の世界で愛する者の思い出に浸って生きる方が奴には幸せなのさ。」 和倉隊長は立ち上がり、溝呂木の言葉に反論する。 「そんなのは…生きている意味が無い!」 「心配するな。後に残った抜け殻は俺が面倒見てやるよ。 忠実な操り人形、道具としてな。」 「貴様ぁーっ!!」 ディバイトランチャーを撃つ和倉隊長とそれをダークエボルバーで迎撃する溝呂木。 両者の攻撃が中央で激突する。 一方、しんのすけはいよいよ扉を越えて あいの部屋の中に入ろうとするが、その時、足下から音がした。 しんのすけが足をどけるとそこにはぶりぶりざえもんがいた。 翼が折れたぶりぶりざえもんを拾うしんのすけにあいとの様々な思い出が巡る。 『しん様、昔そのキャラクター好きだったでしょ?』 「しん様?」 ぶりぶりざえもんをじっと見つめるしんのすけをあいは不思議そうに見つめる。 『俺達に未来を生きる希望を教えてくれたんじゃないのか? 過去と向き合って未来を生きるってことを!』 『過去は変えられないが、未来なら変える事が出来るかもしれない。』 ウルトラマンと出会い、デュナミストとなってからの様々な出来事。 そして、しんのすけの脳裏によぎるかつての自分の言葉。 『お前…逃げるのか? 逃げるなんて許さないゾ!』 「何を迷っているの? 全てを忘れ…楽になりなさい。」 あいが冷たい声と眼差しで呼びかけるが、しんのすけはゆっくりと顔を上げた。 脳裏に蘇るあいの最期。 『私…後悔なんてしていないわ…。 しん様が…私のことを真剣に見てくれるようになってから 私…、ずっと幸せだった…。だから…、後悔なんてしていない…。』 「あいは…死んだんだゾ…。」 その瞬間、ぶりぶりざえもんの翼の折れた部分に小さな光が灯る。 「今のお前はあいの姿をマネしただけ…。 オラがあいと過ごした思い出を…お前は持ってない!」 やがてその光はどんどん大きくなっていき、和倉隊長と溝呂木にも及んだ。 「あいの家族とあいが溝呂木に利用されて 殺された時の悲しみをお前は持ってない!」 戸惑うあいに対し、ぶりぶりざえもんを手にしんのすけは立ち上がり叫んだ。 「オラは…ただあいの姿だけを愛してたんじゃない…。 あいのすべてを…オラは愛していたんだ!」 その瞬間、眩い光があいとあいの部屋を掻き消し、 しんのすけは一人現実の森の中に帰ってきた。 しんのすけは自分の手の中のぶりぶりざえもんを見て、 和倉隊長が語った言葉を噛み締める。 『過去は変えられないが、未来なら変える事が出来るかもしれない。』 その時、森の向こう側からノスフェルの声が響いてきた。 体長50mの大きさに戻ったノスフェルの鉤爪に 石堀隊員と平木隊員が弾き飛ばされる。 「平木! 大丈夫か!!」 倒れる平木隊員に石堀隊員が慌てて駆け寄る。 西条副隊長がディバイトランチャーを撃つが、ノスフェルはそれを避けて、 逆に鉤爪で西条副隊長も弾き飛ばしてしまった。 その時、しんのすけが駆け寄り、西条副隊長を助け出した。 「西条副隊長!」 「し、しんのすけ君…。」 助けに来たしんのすけの姿に驚く西条副隊長。 しんのすけは周りを見渡し、和倉隊長がいない事に気づく。 「和倉隊長は?」 「あなたを助けに行くって言って…。」 そこにノスフェルがしんのすけと西条副隊長に向けて再び鉤爪を振り下ろすが、 向こう側からディバイトランチャーの弾が放たれた。 それを見てしんのすけは和倉隊長のいる場所に向かって駆け出した。 近づいてくるノスフェルに向けて、 溝呂木のところから戻ってきた和倉隊長がディバイトランチャーを構える。 「開けろ…、開けろ、開けろ!」 口を開けて叫び声を上げるノスフェル。 その機を逃さず和倉隊長はすぐさまディバイトランチャーを撃つが、 弾は惜しくも外れてしまった。 逆にノスフェルの鉤爪が和倉隊長に迫るが、 そこにしんのすけが駆け寄り、和倉隊長を助け出した。 「和倉隊長!」 「しんのすけ君…!」 しんのすけと和倉隊長は立ち上がりノスフェルを見る。 「しんのすけ君。奴の弱点は口だ。」 「口?」 「奴の口を狙え。再生システムを破壊しない限り、 奴は何度でも蘇る。…また同じ惨劇が繰り返される…。」 和倉隊長はしんのすけの目を真っ直ぐ見て告げ、その言葉を聞いたしんのすけは エボルトラスターを取り出し、見て、少し考えて答えた。 「了解…!」 しんのすけは和倉隊長から少し離れ、そこでエボルトラスターを鞘から抜き、 エボルトラスターから眩い光が溢れると、それを掲げた。 しんのすけは巨大な光となって地上に降り立ち、 和倉隊長が見守る中、ウルトラマンがノスフェルと対峙。 ジュネッスにスタイルチェンジして、 ノスフェルに向けて決意と共にクロスレイ・シュトロームの構えをとった。 「オラはもう逃げない! 憎しみも、悲しみも、全て背負ってく。 これ以上、誰かを不幸にしないために!」 決意と共に撃たれたクロスレイ・シュトロームは ノスフェルの口の中へと撃ち込まれ、 再生システムを破壊されたノスフェルは全身に痙攣が起き、血管が破裂していった。 続けてウルトラマンはノスフェルに向けてオーバーレイ・シュトロームを放ち、 それを受けてノスフェルは光の粒となった。 ウルトラマンは和倉隊長を見つめ、 それに気づいた和倉隊長もウルトラマンを見つめる。 二人はしばらく黙って見つめ合っていたが、 やがて和倉隊長が立ち去り、ウルトラマンは光と共に消え、 しんのすけは眩い光となって地上に降りると、それを見送った。 雲はいつの間にか晴れていて、夕暮れの光が辺りを優しく包み込んでいた。 数日後、しんのすけはあいや皆との思い出が詰まった ふたば幼稚園にやって来ていた。 折れた翼を直したぶりぶりざえもんを手にしんのすけは思う。 「この苦しみは…あいと生きた証なんだ…。オラはもう迷ったりなんかしない…。」 ふと、しんのすけが隣に目をやると、 そこにはあいがいて、しんのすけに向けて微笑みかけ、力強く頷いていた。 ように見えたが次の瞬間、そこにあいの姿は無かった。 しかし、しんのすけの顔は晴れ晴れとしていた。 『過去を変える事は出来ないけど…、 未来は…変える事が出来るかもしれないから…。』…野原しんのすけ 広がる青空を仰ぎ、しんのすけは青空の下を歩いていった。 To be continued Episode 15 闇 −ダークネス− 「エリア11、ポイント434にビースト振動波確認。 ナイトレイダーにスクランブル要請。」 イラストレーターの指示を受けてナイトレイダーが出撃準備を進める。 同じ頃、しんのすけもエボルトラスターの明滅を見て、家を静かに抜け出し、 ストーンフリューゲルを呼び寄せて現場へと向かっていた。 「オラは迷いを捨てて、ウルトラマンとして戦い続けることを決めた。 誰かを守るために…ビーストと戦い続けるってことを…。」 そう心の中で呟くしんのすけの顔には確かな覚悟と決意があった。 満月が怪しく照らす森の中、ナイトレイダーが現場に到着する。 「なんか嫌な感じがするわね…。」 「しっ。…何か聞こえるわ。」 西条副隊長の言葉を受けてナイトレイダーは耳を澄まして周りを見渡す。 風が森の木々を揺らす中、何か苦しんでいるような呻き声が響いてきた。 その頃、同じく現場に到着していたしんのすけもその呻き声を聞いていた。 「ビースト?」 しんのすけが呟いた時、木の上から何者かが襲い掛かってきた。 急いでしんのすけは襲い掛かってきた存在を振り払って、 ブラストショットを向けるが、 「え…!?」 自分に襲い掛かってきた存在が人間の女性だった事に驚く。 一方、ナイトレイダーも数人の男性に取り囲まれていた。 「人間…?」 事態に戸惑うしんのすけに女性が飛びかかってブラストショットを奪い、 ニヤリと不気味な笑みを浮かべて引き金に指をかけるが光弾は発射されなかった。 その瞬間、その女性は地面に倒れた。 しんのすけが見ると、 倒れた女性の背後で西条副隊長がパルスブレイガーを構えていた。 「西条副隊長!」 「無防備に見える相手でも決して油断するな…。」 西条副隊長は女性からブラストショットを奪い返し、しんのすけに渡した。 「それがこの世界で生き残るための鉄則よ。」 しんのすけは倒れた女性に目をやる。女性は倒れたままピクリとも動かなかった。 「って、もしかして…!」 「麻酔弾よ。」 「だよね…。」 西条副隊長の答えにしんのすけはホッとする。 そこに和倉隊長達がやって来る。 「二人とも無事か?」 「はい。そちらは?」 「襲撃者は3名。何とか全員眠らせた。」 和倉隊長の言葉を受けて、眠ったままの女性を見てしんのすけが呟く。 「でも彼女達、どうしてオラ達を襲ったんだろう?」 翌朝、しんのすけ達を襲った者達は全員タンカに乗せられて運ばれていった。 「彼女達、まだ眠ったままね。」 平木隊員の言葉に石堀隊員が続ける。 「でも目覚めた時には全て忘れている。」 「それがせめてもの救いね…。」 「残念だけど二度と目覚める事は無いわ。」 その言葉にナイトレイダーとしんのすけが振り返ると、 大原リーダーと三沢がやって来ていた。 「大原リーダー、二度と目覚める事が無いってどういう…。」 「4人全員死亡を確認したわ…。」 「そんな…。」 「…死亡時刻の特定は?」 和倉隊長が大原リーダーに問う。 「昨夜の10時から11時までの1時間よ。」 大原リーダーの答えに和倉隊長が驚く。 「間違いありませんか? それが確かなら…。」 「えぇ…。彼らはあなた達を襲撃した時には既に死んでいたことになるわ。」 「既に死んでた…?」 大原リーダーの言葉にしんのすけはあいの事を思い出す。 「溝呂木…。奴だ! 奴が4人を殺して操り人形にしたんだゾ!」 怒りに体を震わせるしんのすけに対し、西条副隊長は醒めた感じで答えた。 「そうでしょうね…。ただ…、全ては1年前に始まっていたのよ。」 「1年前?」 しんのすけが呟いた時、イラストレーターから新たな指示が入った。 「CICです。昨夜から確認されたビースト振動波ですが、 依然、その周辺で確認されています。 様子を見るため、しばらく現場で待機していてくれませんか? ただ溝呂木が一体何を考えているか分からないので 何かあっても無闇に行動しないようにしてください。」 「了解しました。」 「今のが、イラストレーター…?」 イラストレーターの声を聞き、しんのすけは和倉隊長に問いかけた。 「あぁ。そうだ。…しんのすけ君、それがどうかしたか?」 「その人の声、前にどっかで聞いた気がして…。」 そして、ナイトレイダーとしんのすけは キャンプを張って現場に待機する事になった。 「でも俺達も人の事を言えるのかな。」 「え?」 M・Pが現場から引き上げる途中、三沢が醒めた感じで大原リーダーに呟く。 「記憶を勝手に処理する俺達も人の人生を弄んでいると言えますからね…。」 「でも…、私達は被害者のことを思って…記憶処理をしている…。 自分の野望のために人を殺して操っている溝呂木とは…違うわ…。」 大原リーダーは迷いながらも答え、そんな大原リーダーに三沢は何も答えなかった。 一方、ナイトレイダーとしんのすけはキャンプで休憩を取っていた。 「うん。だから、今日はボーちゃんの家に泊まるから。 うん。ほーい。じゃ、そういうことで。」 みさえにウソの電話をした後、しんのすけは携帯電話を閉じて一息つく。 すると、西条副隊長がどこかに出かけ、 それを見たしんのすけは、座って本を読んでいる和倉隊長に話しかけた。 「和倉隊長。」 「何だ?」 「朝、西条副隊長が言っていた事…。」 「あぁ…。」 「全ては一年前に始まっていたって…、元々溝呂木ってどんな奴だったの?」 2人のやり取りを聞いた石堀隊員は 平木隊員に少し席を外すように促すと、一緒に外に出て行ってしまった。 「ねぇ、どうしたの? 石堀隊員?」 平木隊員の問いに石堀隊員は少し重い口調で答えた。 「隊長はあまり話したくないんだ。一年前の出来事を。」 「そうなの? でも、どうして彼には…。」 「知っておく必要があると思ったんじゃないのかな。 いずれ戦うことになるだろう敵だからな。」 石堀隊員の答えを聞いて平木隊員は頷く。 「なるほどねぇ…。ねぇ、石堀隊員。私にも教えてくれない? 溝呂木のこと。」 一方、和倉隊長はしんのすけの質問に しばらく黙っていたがやがて本を閉じて静かに語り出した。 「溝呂木眞也…。優秀だったさ…。 ビーストハンターとしての実力は正直俺より上だった。 これから先も溝呂木を上回るビーストハンターが存在するかどうか…。」 しんのすけは和倉隊長の話を黙って聞き、 和倉隊長はそんなしんのすけを見ながら話を続けた。 「俺は溝呂木を信用していた…。そして西条も…。」 「西条凪です! 本日付でナイトレイダーAユニットに着任しました。」 やや緊張した面持ちで挨拶をする西条隊員。和倉隊長が立ち上がって挨拶をする。 「隊長の和倉だ。チームメンバーを紹介する。」 そして西条隊員を椅子に座っている2人の隊員の方に向ける。 「まず彼が副隊長の…。」 「溝呂木眞也だ。」 溝呂木副隊長は和倉隊長の言葉を遮って自己紹介をし、 西条隊員の顔を見てニヤリと笑う。 「いい目をしているな。次のミッションが楽しみだ。」 溝呂木副隊長が発する何とも言えない雰囲気に西条隊員は少し気圧された。 和倉隊長はコーヒーを二人分入れてその一つをしんのすけに渡した。 コーヒーを飲みながら話をする和倉隊長と話を聞くしんのすけ。 「溝呂木が西条に何を感じたのか分からない…。 とにかく我々4人はその夜、現場に出撃した。 それが西条にとって初めての実戦だった。」 「掃討せよ!」 廃工場。和倉隊長の指示で、ナイトレイダーは 前方のビーストに向けてディバイトランチャーを一斉に放った。 全長5m程の大きさのビースト・アラクネアが倒されて光の粒となる。 「ターゲット消滅。第一攻撃態勢解除。CIC、状況終了しました。」 戦い終わって和倉隊長と石堀隊員はホッと一息吐いたが、 「待ってください!」 西条隊員だけはいまだ緊張を解かずにディバイトランチャーを構えていた。 「どうした?」 「もう1体…、近くにいます。」 「何?」 辺りを警戒する西条隊員に対し石堀隊員はフッと笑って答えた。 「初めての実戦だからな、現場には独特の雰囲気ってのがあって…。」 という石堀隊員の言葉に聞く耳持たず、 西条隊員はゆっくりと端の暗闇へと近づいていった。 「おい、既にビースト振動波の数値は低下しているはず…。」 とその時、いきなり暗闇の中から2匹目のアラクネアが現れ、 西条隊員のディバイトランチャーを叩き落した。 「ビースト!?」 和倉隊長と石堀隊員は急いでディバイトランチャーを構えるが、 別方向から撃たれた弾で2匹目のアラクネアは倒され、光の粒となった。 西条隊員が見上げると、階段の上に溝呂木副隊長がいた。 「溝呂木…。」 驚く和倉隊長に向かって溝呂木副隊長が笑って答えた。 「俺ももう1体ビーストが隠れている気がしてな。」 そして西条隊員の方を見て尋ねる。 「大丈夫か?」 溝呂木副隊長の言葉に西条隊員は少し間を置くが、やがて笑顔で答えた。 「はい!」 和倉隊長はコーヒーを飲むのを途中で止めて話し続け、 しんのすけはコーヒーを飲みながら話を聞いた。 「あの初めての実戦で俺は実感した。 溝呂木と西条、二人には同じ何かがある事を…。 技術とか経験とかを超えた…、 もっと根源的な…、戦場での資質のようなものを…。」 「迂闊に接近できないな…。」 地下通路。全長10m程の大きさのビースト、フログロスが 連続して発する火球の前にナイトレイダーは柱の影に隠れて防戦するしかなかった。 やがて溝呂木副隊長が決断する。 「俺が行く…。隊長、バックアップを頼む。」 溝呂木副隊長の頷きに和倉隊長も頷く。 「分かった。」 次の瞬間、溝呂木副隊長は柱から出てディバイトランチャーを撃ち、 フログロスがよろめいたのを見て一気に駆け出した。 体勢を立て直したフログロスは 近くまで接近した溝呂木副隊長を見て火球を撃とうとしたが、 その隙を見て他のナイトレイダーも柱から出てきて一斉攻撃。 西条隊員の放ったディバイトランチャーを頭に受けてフログロスは苦しみ、 溝呂木副隊長が至近距離から放った 止めのディバイトランチャーを受けて光の粒となった。 「抜群の射撃だったぜ。」 戦い終わって、溝呂木副隊長の言葉に西条隊員は少し照れる。 「お前には戦士としての才能がある。 いずれチームを引っ張れるだけの実力がな…。」 和倉隊長は冷めたコーヒーをテーブルの上に置き、 しんのすけは飲み干したコップをテーブルの上に置いた。 「溝呂木の厳しい指導に応え、 西条はビーストハンターとして着実に成長していった。 だが俺は…、そんな二人の姿に漠然とした不安を感じ始めていた…。 そして運命の日が来た…。あれは去年のちょうど今頃…。」 「凪。思う存分ビーストどもを蹴散らしてやれ。」 スクランブルのサイレンが鳴り、出動準備を進めるナイトレイダーの中、 溝呂木副隊長の言葉に西条隊員が黙って頷く。 「出動!」 和倉隊長の号令と共にシューターが射出され、ナイトレイダーが出撃した。 「闇の中で何かうごめいているぜ。それも一つや二つじゃない。」 現場である倉庫。溝呂木の報告を聞いて和倉隊長が尋ねる。 「生存者か?」 「違います。生体反応は0。倉庫内の人間は既に全滅しているはず…。」 石堀隊員が答えた時、倉庫の中から何か苦しんでいるような呻き声が響いてきた。 「ビースト…?」 西条隊員が呟く。 ナイトレイダーの視線は倉庫の扉、そこから垣間見える闇の世界へと注がれた。 皆が緊張する中、溝呂木副隊長が冗談っぽく呟く。 「面白えじゃねぇか。…ワクワクするぜ。」 ニヤリと笑う溝呂木副隊長に対し、和倉隊長が無表情で話しかける。 「怪物と戦う者は気をつけるがいい…。」 いきなり話し出した和倉隊長の方を皆振り向くが、和倉隊長は構わず話し続けた。 「深き闇を覗き込むと…、闇もまた…お前を覗き込む…。」 話し終わり、和倉隊長は溝呂木副隊長の顔を無言で見つめた。 しばらく黙った後、溝呂木副隊長が口を開いた。 「まず、俺と西条の二人で突入させてくれ。」 その申し出を和倉隊長は許さなかった。 「駄目だ。CICの作戦は全員で突入するとなっている。」 「CIC? あいつの作戦なんて関係無い。」 「何?」 今度は溝呂木副隊長の方を皆振り向くが、溝呂木副隊長は構わず話し続けた。 「イラストレーター…。未来を予知できるとか何とか言っているが、 俺は信用できない。前から思っていたんだ。現場に来ない、 机上で展開を描く奴の作戦なんて聞けないとな。」 「溝呂木…。」 「まず、俺と西条とで中の様子を見る。 ここに隊長達がいる限り、あの闇の中で何があっても全滅は免れる。 それがあいつとは違い、実際に現場を知っている俺自身の考えた作戦だ。」 話し終えて、溝呂木副隊長は和倉隊長の顔を無言で見つめた。 和倉隊長が西条隊員を見ると、西条隊員は無言で力強く頷いた。 しばらく悩んだ末、和倉隊長は溝呂木副隊長と西条隊員の二人を闇の中に行かせた。 和倉隊長の顔には深い後悔の念が表れていた。 「何故あの時、許可したのか今でも分からない…。 ただ…俺の心も…、あの深い闇を覗いていたのかもしれない…。」 苦悶する和倉隊長をしんのすけは何も答えず見る。 「突入から数分後…。二人から連絡が途絶え…、 大きな爆発が起きて溝呂木はその紅蓮の炎の中に消え、 西条一人だけが生還した…。それが1年前の事件…。 そしてその夜、恐ろしい悪魔が生れ落ちた…。」 和倉隊長の話にしんのすけがようやく口を開く。 「悪魔…メフィスト…。」 「溝呂木…!?」 フォートレスフリーダム。 溝呂木失踪について査問会を受けていた和倉隊長と松永管理官は 画面に映し出された溝呂木の姿に驚愕した。 ナイトレイダーの隊服を身に付け、 ディバイトランチャーを手に持って基地内の通路を歩く溝呂木の後には 全長10m程の大きさのノスフェルが控えていた。 そして溝呂木のディバイトランチャーとノスフェルの鉤爪によって、 ナイトレイダーのBユニットとCユニットの隊員が次々と殺されていった。 かつての仲間達を手にかけながら不気味な笑みを浮かべる溝呂木はフッと笑い、 胸元からダークエボルバーを誇示するかのように取り出して左右に引き抜いた。 溝呂木を闇が覆い、溝呂木という存在を打ち破って、 骸骨を思わせる悪魔・メフィストが姿を現す。 その瞬間、和倉隊長が見ていた画面にノイズが走った。 和倉隊長としんのすけ、石堀隊員と平木隊員がそれぞれ話をしている頃、 西条副隊長は一人川のほとりで溝呂木から貰ったドッグタグを見つめ、 1年前の事を思い出していた。 「凪…。これをお前に渡す。次に会う時まで交換だ。いいな。」 西条隊員は少し迷った末、自分のドッグタグをちぎって答えた。 「…はい。」 「凪。俺はもうとっくに返したぜ。」 西条副隊長が声のした方に振り向くと、そこには溝呂木が立っていた。 「早く俺のも返しに来いよ。」 急いで西条副隊長はパルスブレイガーを向けるが、既にそこには何も無かった。 その時、森の上空を巨大な漆黒の翼を持った、 カラス型ビースト・カラドリアスが飛び抜けた。 「ビースト!」 それを見た和倉隊長は話を中断して戦闘準備を始め、 しんのすけも近くにおいてあった エボルトラスターとブラストショットを手に取った。 石堀隊員と平木隊員もキャンプ場所へと急いで戻ってきた。 そして西条副隊長も溝呂木を探すのを一旦止めてキャンプ場所に向かった。 カラドリアスの翼の羽ばたきによって辺りに衝撃波が巻き起こり、 ナイトレイダーを巻き込む。 その様子を溝呂木が遠くから眺めていた。 「よぉ。」 しんのすけの背後に溝呂木が現れ、しんのすけが振り返る。 「溝呂木…!」 溝呂木は笑みを浮かべてしんのすけに語りかける。 「さっき1年前の出来事を和倉に聞いていただろ? お前も野暮な奴だな。 他人の愛する者との楽しい思い出を聞いてどうしようってんだ? 人の恋路を邪魔する奴はロクな死に方しないぜ。」 「愛する者? 溝呂木、お前がその言葉を言う資格はないゾ!」 「ほぉ、なかなか言ってくれるじゃないか。」 そう言って、溝呂木はダークエボルバーから闇の光弾を連続して放ち、 しんのすけはエボルトラスターでバリアを張ってそれらを全て受け止めた。 対峙する二人。 「どうする? もっと俺と遊ぶか? それともあの連中に加勢するか?」 溝呂木の問いにしんのすけは迷う事無く答える。 「溝呂木。お前はいつか必ず倒すゾ!」 「やれよ坊や。俺も、お前は必ず倒す。 覚えておくんだな。さぁ行けよ…正義の味方。」 溝呂木の挑発に答えず、 しんのすけはエボルトラスターを掲げてウルトラマンに変身。 上空からナイトレイダーを翻弄するカラドリアスに ウルトラマンは飛び蹴りをして地上に蹴り落とした。 「ウルトラマン…。」 和倉隊長が呟く。 カラドリアスはすぐさま上空に飛び立ち、 それを見たウルトラマンはジュネッスにスタイルチェンジして、 メタフィールドを展開した。 「位相の褶曲を確認。メタフィールドです。」 石堀隊員の報告を受けて和倉隊長が指示を出す。 「各員、直ちにクロムチェスターに搭乗!」 「ストライク・フォーメーションですね!」 平木隊員の言葉に和倉隊長が続ける。 「そうだ。メタフィールドに突入し、ウルトラマンを援護する!」 「了解!」 石堀隊員、平木隊員は和倉隊長の指示に従ったが、 一人、西条副隊長だけ疑問を訴えた。 「待ってください! CICへの確認は?」 その疑問に和倉隊長は少し間を置いてから答える。 「…現場指揮官としての判断だ。…急げ!」 「了解。」 西条副隊長も指示に従い、ナイトレイダーはチェスターに乗り込んだ。 「あの男が何も仕掛けてこなければ良いけど…。」 CICでイラストレーターは画面を見て一人呟いた。 「セット! イントゥ・ストライクチェスター!」 西条副隊長の号令と共にチェスターが合体してストライクチェスターになり、 メタフィールドに突入。 メタフィールド内ではウルトラマンとカラドリアスの戦いが続いていた。 空中を飛び抜けるカラドリアスを追って、ウルトラマンは パーティクル・フェザーの強化版・ボードレイ・フェザーを連続で放つが、 カラドリアスはそれらを全て避け、さらに高く飛んで、 上空からウルトラマンに体当たりして地上に叩き落すと、 倒れたウルトラマンの上に乗り、踏みつけて痛めつけた。 ウルトラマンは力任せにカラドリアスを蹴り飛ばし、 何とか逃れるがコアゲージが点滅を始めていた。 ウルトラマンが点滅するコアゲージを見た隙を突いて、 カラドリアスはその鋭いクチバシでウルトラマンのコアゲージを突き刺した。 胸に激痛が走り、ウルトラマンは衝撃で後ろに吹き飛ばされ、 コアゲージにはヒビが入っていた。 西条副隊長はスパイダーミサイルをカラドリアスに向けて撃つが、 カラドリアスは素早く急上昇して避け、 ミサイルは倒れていたウルトラマンに当たってしまった。 「しまった!」 「ナイスショット。」 溝呂木が笑う。 カラドリアスが上空を旋回して、 ストライクチェスターやウルトラマンに対して攻撃のチャンスを窺う中、 西条副隊長はフラフラになりながらも立ち上がるウルトラマンを見て、 何かを思い立ったようにストライクチェスターの速度を上げて カラドリアスに向かっていった。 カラドリアスも速度を上げてストライクチェスターに向かい、 ぶつかる直前に急下降したが、 西条副隊長はそれを逃さず追って急下降、カラドリアスに照準を合わせた。 「スパイダーミサイル、ファイア!」 スパイダーミサイルを受けてカラドリアスはそのまま地上に落下。 それを見たウルトラマンはカラドリアスに向けて、 クロスレイ・シュトロームを撃った。 しかし、そこにメフィストが現れ、 左腕のアームドメフィストでクロスレイ・シュトロームを受け止めた。 メフィストの出現に驚くウルトラマン。 一方、メフィストはストライクチェスターをチラリと見た後、 カラドリアスと共に無言で姿を消した。 そしてコアゲージが傷付いたウルトラマンも膝をつき、 メタフィールドと共に姿を消した。 フォートレスフリーダムに帰還したナイトレイダー。 和倉隊長は廊下を歩いていたが、そこに石堀隊員がやって来る。 「隊長!」 「どうした?」 「副隊長の姿が…どこにも見えません!」 「…何?」 驚いて顔を上げる和倉隊長。 その頃、西条副隊長は一人ディバイトランチャーを助手席に置き、 一年前の事件の起きた工場へ車を走らせていた…。 To be continued Episode 16 黙示録 −アポカリプス− アクション高校。しんのすけのいるクラスは一学期最後の国語の授業をしていた。 しんのすけは時折ノートを取りつつも、 戦いによる疲れからほとんど居眠りしていた。 しかし、その時、一瞬胸を激痛が走り、思わず胸を押さえるしんのすけ。 「野原君? どうしたの?」 先生がしんのすけに問うが、しんのすけは 「大丈夫だゾ…。」 と答えると机の上に転がっているペンを手に取った。 そんなしんのすけをマサオは心配そうに見る。 一方、しんのすけの脳裏に今朝のカラドリアスとの戦いで、 コアゲージをその鋭いクチバシで突き刺されたことが思い浮かんだ。 (もしかして…、あの時の傷が…。) 「現在、西条副隊長の所在は不明。M・Pの監視を 明確な意思で振り切ったと報告がありました。 もし、逃亡罪に問われれば…。」 その頃、フォートレスフリーダムでは ある部屋で和倉隊長が松永管理官の報告を受けていた。 松永管理官の報告に和倉隊長の顔が曇る。 「記憶消去もありうると?」 「おそらく。」 「残された時間は?」 「多く見積もって…。5時間程度と言ったところでしょうか。」 「…分かりました。」 そう言って立ち上がった和倉隊長に松永管理官が問いかける。 「どうするおつもりですか?」 松永管理官の問いに部屋を出ようとした和倉隊長が答える。 「私が直接連れ戻します。」 「和倉隊長。立場上、それが出来ない事はあなたが一番理解しているはずですが。」 「西条は溝呂木に会いに行ったんです。あの闇と…再び向き合う為に…。」 「闇?」 「管理官。西条凪は私にとって大切な副官です。失うわけにはいきません。」 松永管理官に向かって頭を下げた後、和倉隊長は退室した。 「で、さぁ。どうして私達だけ居残りなわけよ?」 コマンドルームでは平木隊員がネイルケアをしながら愚痴をこぼしていた。 パソコンで近々配備される新型機のデータを見ていた石堀隊員が答える。 「色々理由はあるだろ。」 「色々って? 何?」 「ビースト事件が発生すれば出動しなきゃいけない。」 「二人っきりで? 隊長も副隊長もいないのに?」 平木隊員の問いに石堀隊員は手を止めて顔を上げる。 「まぁ、常識的に考えて…無理だよな。」 「でしょう? BユニットもCユニットもいなくて、 私達だけで全てのビースト事件に対応してんのよ。 それに、ウルトラマンが現れてから事件が立て続けに起きてない? このままじゃ過労死しちゃうわよ。」 「でも今、Bユニットが設立に向けて動き出しているみたいだぞ。」 「へぇ。じゃあ、Bユニットに対応できる免疫判定を持つ人が見つかったの?」 「いや、免疫判定はやや低いらしい。 でも、Aユニットだけではいつか対応できなくなるからな。」 「なるほどねぇ…。」 話が一段落つき、石堀隊員は再びパソコンを覗き込み、 平木隊員は塗り終わった爪を見る。 「ま、いいか。ねぇ、どうこの色?」 「…あぁ。」 西条副隊長は1年前の事件が起きた工場にやって来ていた。 工場はあの後、何も異変が無いと判断され、 そのまま普通に再建されて、現在はTLTの監視も無くなっていた。 ディバイトランチャーを構えて工場の中を進む西条副隊長の心に かつての溝呂木との会話が蘇る。 「凪。お前は何故この仕事を続けている?」 フォートレスフリーダムのダムの上、 満月の下で西条隊員と溝呂木副隊長が並んでいた。 溝呂木副隊長の問いに西条隊員が強張った顔で答える。 「ビーストが…憎いから…。奴らを一匹残らずこの地上から抹殺したいから…。」 「つまりは復讐か。」 溝呂木副隊長の言葉に西条隊員は頷く。 「私が子供の頃、ビーストによって母を殺され、 父も犠牲になった…。私は…ビーストを決して許さない…!」 「…そうか、ビーストの最初の犠牲者になったというのはお前の…。」 溝呂木副隊長が見ると、 西条隊員は唇を強く噛み締め、目にはうっすらと涙が滲んでいた。 しばらくして今度は西条隊員が溝呂木副隊長に尋ねる。 「副隊長は? どうしてビーストと戦うんですか?」 西条隊員の問いに溝呂木副隊長が強張った顔で答える。 「俺か? 俺は…死にたくないからだ。」 「え?」 意外な答えに西条隊員は思わず溝呂木副隊長の方を見た。 溝呂木副隊長は西条隊員から目を逸らし、じっとダムの下を見ていた。 「俺は死ぬのが怖い…。 だから俺はガキの頃から恐怖に対抗するための力を求めていた…。 イジメに対抗するために格闘術を、犯罪行為に対抗するために警察の力を…。 あらゆる恐怖を拭い去るために、俺は力を求め続けた…。 それでも安心できず、俺は更なる力を求め続けて、ナイトレイダーに入ったんだ…。 未知の化け物と戦うことで、恐怖を完全に拭い去るために…。」 その話に西条隊員は少し押し黙るが、 溝呂木副隊長はそんな西条隊員を見ながら話を続けた。 「…最近よく変な夢を見る…。」 「夢?」 「あぁ…、密林の中を歩いていくと、 やがてその先のジャングルの中に謎の遺跡とそこに聳える塔が現れる…。」 「遺跡に…塔…ですか?」 「あぁ…、しかし俺はそこには行けなかった。行く勇気が無かった…。 そうこうしていると、背後にもう一つ同じ遺跡が現れるんだ…。 俺はそっちの方に心惹かれる感じがした…。そして、夢の最後…、 背後に現れた遺跡の彼方から真っ黒な闇が広がり、俺を飲み込もうとする…。」 話し終えた溝呂木副隊長の手が震えているのを見た 西条隊員は自分の手をそっと重ねて語りかけた。 「恐れる事なんて無いわ…。」 溝呂木副隊長の目を見る西条隊員。 溝呂木副隊長も西条隊員の目を見る。 「だって…、副隊長は誰より強い人間だから…。」 そう言うと西条隊員は優しく微笑んだ。 現在。工場の中を進む西条副隊長の前、闇の中から溝呂木が姿を現す。 「やっと来てくれたか…。」 嬉しそうに微笑む溝呂木に対し、西条副隊長はディバイトランチャーを構える。 「凪。お前だけが俺を理解できる…。 俺達は特別な存在だ。それはお前もとっくに気づいているはずだ。」 溝呂木の言葉に西条副隊長はディバイトランチャーを下ろす。 その手には溝呂木のドッグタグが握られていた。 「1年前の再会の証…。それを持ってこっちに来い。」 西条副隊長はドッグタグを見つめ、続いて溝呂木を睨みつける。 「一つ…、聞いていい?」 「何だ?」 「1年前のあの夜、一体何があったの? 私を残し…、この奥の闇であなたは何を見たの?」 西条副隊長の問いに溝呂木は少し間を置いた後、答える。 「真実さ。」 「真実?」 「そう、俺はあの夜、本当の自分と出会ったのさ…。」 1年前、先に突入した溝呂木副隊長と西条隊員は 工場がゾンビのような異様な動きをする集団に占拠されていた事を知った。 二人はその集団に取り囲まれたが格闘で何とか窮地を脱し、 さらに溝呂木副隊長がパルスブレイガーのアタックモードで 周囲を撃ちつくして全て倒した。 倒れた人々を見て西条隊員が尋ねる。 「まさか…?」 「最初から死んでるぜ。見ろ。」 溝呂木副隊長に促されて西条隊員は倒れた人々の顔を見る。 「殺した人間を…人形のように操るビースト…。」 「今までにない能力だな…。」 その時、溝呂木副隊長の脳裏にジャングルの中の遺跡と そこに聳え立つ塔のイメージが浮かび上がった。 「何故あの夢が…。」 「どうしたんですか?」 尋ねる西条隊員に、溝呂木副隊長は声をかけようとしたが その時、工場の奥の方から不気味な呻き声が響いてきた。 溝呂木副隊長は西条隊員を物陰に移動させて指示を言う。 「俺が先に突入する。」 「え?」 「二人同時に操られたら隊長達と相打ちになる。 だが一人残れば最悪の状況だけは回避できる。」 「なら私が先に!」 「駄目だ!」 溝呂木副隊長の一喝に西条隊員は押し黙る。 しばらく無言になった後、溝呂木副隊長が口を開いた。 「俺がビーストに操られたら迷わず撃て…。 凪、俺はお前の手で殺されるのなら本望だ。」 そして、溝呂木副隊長はドッグタグを取り出し、西条隊員に見せた。 「凪…。これをお前に渡す。次に会う時まで交換だ。いいな。」 西条隊員は少し迷った末、自分のドッグタグをちぎって答えた。 「…はい。」 「あの時、もし二人同時に突入していたら、俺がお前を殺していただろう…。」 現在。溝呂木の言葉に西条副隊長の表情が微かに動いたが、 溝呂木は気づきながらも気にせず話し続けた。 「それほどあの体験は素晴らしいものだった。」 1年前。西条隊員と別れた溝呂木副隊長は ディバイトランチャーを手に工場の奥へと進んでいった。 そして行き止まりまでやって来た時、自分の背後で重い足音がするのを耳にした。 溝呂木副隊長がゆっくりと振り向くと、背後にいた巨人もゆっくりと振り向いた。 「誰だ?」 「メフィスト…。」 その巨人、メフィストは溝呂木副隊長にとても耳馴染みな、 しかし、どこか違う声で答えた。 溝呂木副隊長はその名前を聞くと自分の好きな ヨハネの黙示録や聖書といったものの中に登場する 黒い悪魔の名前もメフィストであることを思い出し、 目の前のメフィストを見上げた。 「砕け散れ…!」 溝呂木副隊長は震える声でディバイトランチャーを撃つが、 メフィストには何のダメージも与えられなかった。 ディバイトランチャーを撃ち終わった溝呂木副隊長に メフィストがゆっくりと身を屈めて覗き込んできた。 「お前は、ビーストを殺す事を楽しんでいる…。」 「何?」 「ビーストが人間を襲うのも、人間がビーストを倒すのも、全く同じだ…。 弱肉強食の世界では正義も善悪も無い…。 あるのは、強きものだけが生き残るという結果だけ…。」 溝呂木副隊長はメフィストを睨みつけながらも黙って話を聞き続けた。 「この世界に弱肉強食の仕組みから外れたものは無い…。 人間だってそうだろう? イジメや犯罪に戦争…。 人間が人間を襲い、強き者が生き残り弱者は滅ぶ…。 人間と人間の争いと人間とビーストとの争いに何の違いがある? 人間同士が争って強き人間が生き残り、弱き人間が滅びるというのなら、 人間とビーストの争いでも強きものが生き残るだけの事。 それが人間かビーストかは関係無い。 力こそ、この世界で最も公平で平等な全てに優先される真実だ…。」 考え込む溝呂木副隊長に向かってメフィストはゆっくりと語り続ける。 「戸惑う事は無い。素直に自分の心を開放しろ。そしてもっと強くなるがいい…。」 今まで黙って話を聞いていた溝呂木副隊長はメフィストを睨みつけて一つ尋ねた。 「貴様…何者だ?」 その問いに答えるメフィストの声はとても耳馴染みな声、 溝呂木の声そのものとなっていた。 「俺は…お前の影…。溝呂木眞也…。お前が望む、お前自身の姿だ…。」 メフィストは闇となって辺りに広がり、溝呂木副隊長からも闇が発せられた。 やがて溝呂木副隊長が発した闇とメフィストの闇とが混ざり合い、 溝呂木副隊長の中へと入っていった。 そこに操られた人々がよろめきながらやって来る。 「力こそ真実…。確かにそうかも知れねぇな…。」 呟きながら溝呂木副隊長は人々に向かってディバイトランチャーを構える。 「あばよ…脆弱な人間ども…。」 ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、 溝呂木副隊長はディバイトランチャーのトリガーを引いた。 現在。長い話を終えた溝呂木が西条副隊長に手を差し出す。 「凪、こっちに来い。そうすれば、お前はもっと強くなれる…。 また一緒に戦おう。お前を理解できるのは俺だけだ。」 溝呂木の言葉に西条副隊長はしばらく考え、 やがて無言で歩き出した。その時、 「溝呂木!」 和倉隊長が駆け込んで来て、溝呂木に向けてディバイトランチャーを構えた。 「隊長!」 和倉隊長が来た事に西条副隊長は驚き、その歩みを止める。 それを見て溝呂木は少し不機嫌になった。 「よぉ、和倉。こんな所まで来るとはな。」 「何がお前をそんな姿に変えたかは分からない。 だが西条を! お前と同じ闇の中へ行かせはしない!」 和倉隊長の決意を聞いた溝呂木はフッとバカにした笑いを浮かべた。 「だったら力ずくで止めてみろよ。止められるものならな。」 和倉隊長は溝呂木に向けてディバイトランチャーを放つが、 ディバイトランチャーの光弾は溝呂木の前に現れたバリアに防がれてしまった。 和倉隊長は再びディバイトランチャーを撃つが全て防がれてしまう。 「残念だったな。悪いが俺はお前ごときに殺されるつもりは無い。 お前は所詮ただの人間。俺や凪とは違い、 いずれ淘汰される卑しい存在でしかない。」 そこに学校の制服を着たしんのすけが現れ、 ブラストショットで溝呂木のバリアを掻き消した。 「溝呂木…。人の心を踏みにじるのが、そんなに楽しいか?」 しんのすけを見て、溝呂木は不敵な笑みを浮かべた。 「ほぉ、随分と威勢が良くなったな。」 「しんのすけ君!」 和倉隊長が驚く。 溝呂木は天を仰ぐと両手を広げ、全身に力を入れた。 溝呂木から闇が広がり、辺りをダークフィールドへ変えていく。 溝呂木の発したダークフィールドはファウストのそれとは違い、 辺りに廃墟が点在していた。 「ここって…ダークフィールド?」 驚くしんのすけを溝呂木が笑う。 「ようこそ、ダークフィールドへ。驚いたか? 所詮、ただの人間であるお前とは違い、闇の力を得て人間でなくなった俺は この姿でも位相を自由に操作できる。さらに…。」 と言って溝呂木が指を鳴らすと、その背後にカラドリアスが姿を現した。 次々と人間離れした能力を見せつける溝呂木の姿を 西条副隊長は複雑な思いで見ていた。 そんな西条副隊長の視線に気づかず、溝呂木はしんのすけを挑発し続ける。 「どうする? ここは光を飲み込む闇…。お前の不利な空間で戦うか?」 溝呂木の挑発にしんのすけは制服のズボンのポケットから エボルトラスターを取り出して答え、 しんのすけはエボルトラスターを掲げてウルトラマンに変身。 しんのすけの変身を初めて見た西条副隊長が驚く。 「変身した…。」 ウルトラマンはジュネッスにスタイルチェンジしてカラドリアスに立ち向かう。 そんなしんのすけの姿を見て溝呂木は一言吐き捨てた。 「バカめ…。」 カラドリアスは低空を猛スピードで飛行してウルトラマンを翻弄すると、 一瞬の隙を突いて、前回の戦いで傷付けたコアゲージに執拗な攻撃を加えていった。 苦しむウルトラマンを見て和倉隊長が叫ぶ。 「西条! ウルトラマンを援護する!」 「了解!」 和倉隊長はすぐさまカラドリアスに向けてディバイトランチャーを放ったが、 溝呂木の時と同じバリアに防がれた。 ダークエボルバーを掲げて溝呂木が笑う。 「驚く事は無いさ。ここは俺が作り出した闇。お前達に手出しは…。」 その時、鈍い衝撃が溝呂木の体を貫いた。 驚いた溝呂木が振り返ると、 そこにはディバイトランチャーを構えた西条副隊長がいた。 「凪…、何故?」 溝呂木の問いに西条副隊長は無表情で答える。 「何故? 決まっているでしょう。」 西条副隊長は1年前の再会の証であるドッグタグを溝呂木に向けて放り投げた。 「私は人間…。そしてビーストは全て私の敵だからよ!」 そう言って西条副隊長は再び溝呂木に向けてディバイトランチャーを構え、 溝呂木がドッグタグを受け取った瞬間、再び溝呂木の体を衝撃が貫いた。 「最高だぜ、凪…。」 ドッグタグを手に溝呂木は微笑み、そのまま後ろに倒れて消えた。 西条副隊長は溝呂木が消えた場所をじっと無言で見つめるが、 溝呂木を撃った手が震えていた。 それを和倉隊長は呆然と見つめ、ウルトラマンも胸を押さえながらそれを見る。 次の瞬間、西条副隊長はウルトラマンとカラドリアスを見て叫んだ。 「今よ!」 西条副隊長はディバイトランチャーを撃ち、続けて和倉隊長も撃つ。 溝呂木がいなくなった為か、バリアに防がれずカラドリアスに命中した。 苦しむカラドリアスを見てウルトラマンは全身に力を込めて、 廃墟点在するダークフィールドを光溢れるメタフィールドへと塗り変えていった。 カラドリアスは再び猛スピードで飛行し、ウルトラマンのコアゲージ目掛け突撃。 しかし、それを予想していたウルトラマンはオーバーレイ・シュトロームで カラドリアスを迎撃、カラドリアスはそれを受けて光の粒となった。 フォートレスフリーダム。 松永管理官の隣にイラストレーターのホログラムが現れる。 「どうやら…、終わったようです。」 イラストレーターの言葉に松永管理官が尋ねる。 「そうですか…。で、彼は?」 「…無事です。今回は…。」 そして、工場の外。 しんのすけが胸を押さえて苦しみながら一人歩いて出てくる。 「待って。」 呼びかける声にしんのすけが振り返ると、 西条副隊長が自分に向けてディバイトランチャーを構えていた。 「…!?」 ディバイトランチャーを向けられたしんのすけと そこにやって来た和倉隊長が事態に驚く。 しかし、西条副隊長の決意は変わらなかった。 (私は大事な事を忘れていた…。 彼も…溝呂木と同じ人ならざる存在…、化け物…、ビーストだということを…。 それがどんな奴であろうとも…私は人ならざる存在なら…容赦はしない…!) To be continued Episode 17 要撃戦 −クロスフェーズトラップ− しんのすけにディバイトランチャーを向ける西条副隊長。 そこに和倉隊長がやって来た。 「西条…。銃を降ろせ。」 「やはり彼はビーストです。溝呂木と同じ…。そしてあいつと…。」 反発する西条副隊長に和倉隊長は静かに答えた。 「西条、しんのすけ君はビーストではない。…溝呂木とは違う。」 和倉隊長の言葉に西条副隊長は無言で従った。 一方、その様子を見るしんのすけは苦しそうに胸を押さえていて、 西条副隊長はそれをじっと見つめるが、 その時、和倉隊長のパルスブレイガーに石堀隊員からの通信が入る。 「CICが新たなビースト振動波を捉えました。」 「了解。平木と先発してくれ。我々もすぐに行く。」 「はい。」 和倉隊長は石堀隊員との通信を切り、 それを見た後、しんのすけは苦しそうに胸を押さえながら歩きはじめるが、 次の瞬間、胸を押さえてその場にうずくまってしまった。 「しんのすけ君!」 和倉隊長と西条副隊長は急いで駆け寄るが、 しんのすけは二人の手を借りずに立ち上がった。 立ち上がったしんのすけは和倉隊長達の方を見て答えた。 「ありがとう…。でも…、オラ、行かないと…。 オラがやらなくて…誰がやるんですか…?」 「しんのすけ君…。」 返答に驚く和倉隊長達の方を振り返らず、 しんのすけはストーンフリューゲルで一人飛び去っていった。 「あれが彼の…。我々も急ぐぞ!」 「了解!」 和倉隊長は急いでチェスターに戻り、 西条副隊長もストーンフリューゲルが飛び去った方向を しばらく見続けながらチェスターに乗った。 「あ。来た。」 現場の岩山、日本二百名山に登録されていて、 上毛三山と呼ばれる山のうちの一つである群馬県の妙義山では 一足先に到着していた石堀隊員と平木隊員が調査を始めていた。 そこに和倉隊長達の乗ったチェスターが到着する。 「ビーストは?」 和倉隊長の質問に石堀隊員が答える。 「振動波は健在です。ただ…過去に無い波形を示しています。」 「どういう事?」 西条副隊長が疑問を呈したその時、不気味な声が辺りに鳴り響いた。 全員がすぐさまディバイトランチャーを構えると、霧の中に光る結晶体が現れ、 続いて岩と溶岩がねじれて交じり合ったかのようなビースト・ゴルゴレムが姿を現した。 「各員、チェスターに搭乗!」 「了解!」 その時、ナイトレイダーの前に光が現れ、ウルトラマンが現れた。 肉弾戦を繰り広げるウルトラマンとゴルゴレム。 ウルトラマンはゴルゴレムを押さえつけるが、ゴルゴレムの口吻が管のように伸び、 無数の牙でウルトラマンの胸に噛み付いてきた。 胸を攻撃されて苦しむウルトラマンを見て、西条副隊長が気づく。 「傷が癒えてないの?」 胸を押さえ、ウルトラマンは苦戦を強いられる。 迫るゴルゴレムに蹴りを食らわせ、何とか窮地を脱するが、 ゴルゴレムの背中の結晶体が光ると、 ウルトラマンの攻撃が全てすり抜けてしまった。 「存在するのに攻撃できない。それがこの波形の正体か…。」 パルスブレイガーでゴルゴレムを分析する石堀隊員。 ウルトラマンはジュネッスにスタイルチェンジしてメタフィールドを展開。 戦いはメタフィールドに場所を移して続けられる。 ウルトラマンはゴルゴレムに飛び蹴りを浴びせると、 距離をとって倒れたゴルゴレムにオーバーレイ・シュトロームを撃とうと構えた。 しかし、その時、コアゲージにヒビが入り、 ウルトラマンは苦しみ、倒れ込んでしまった。 その隙を逃さずゴルゴレムは反撃に転向。 ゴルゴレムの背中の結晶体が光り、同時にウルトラマンのコアゲージが点滅する。 そして、それらに連動してメタフィールドの至る所で泡が吹き上がりだした。 「セット! イントゥ・ストライクチェスター!」 メタフィールドに突入するため、チェスターを合体させていたナイトレイダーの前に メタフィールドの光が現れ、その光を破ってウルトラマンとゴルゴレムが現れ、 そのままメタフィールドは消滅してしまった。 「メタフィールドが…消滅した…。」 まさかの事態に石堀隊員が驚く。 ゴルゴレムに突き倒されたウルトラマンは立ち上がろうとするが、 胸の痛みで立ち上がれず、 ゴルゴレムはそのまま霧の中に消えようとしていった。 ナイトレイダーはすぐさまスパイダーミサイルを撃ったが、 背中の結晶体が光って全ての攻撃がすり抜け、 ゴルゴレムはそのまま姿を消してしまった。 そしてウルトラマンも力尽きたように倒れ、そのまま姿を消した。 そんなウルトラマンを見つめる西条副隊長。 一方、戦い終えたしんのすけはストーンフリューゲルで傷を癒していたが、 ストーンフリューゲルは不安定に揺れ、 内部の光の水がその揺れに合わせて激しく波打っていた。 「傷が治りにくくなってる…。オラの体に何が…。」 苦しむしんのすけ。 その時、しんのすけの周りに電流が走り、 ストーンフリューゲルは失速して急降下していった。 「おぉ、絶景かな、絶景かな〜っと。」 その頃、妙義山と同じ、日本二百名山に登録され、上毛三山のうちの一つである 榛名山では一人の女性とアシスタントが山頂の榛名湖から風景写真を撮っていた。 女性はシャッターを切り続けていたが、 途中でフレームにアシスタントが入り込んでしまった。 「ちょ、ちょっと四郎! 何やってんのよ! 入ってるよ!」 その写真を撮っていた女性。 かつて、野原家に居候していたみさえの妹・小山むさえに叱られ、 以前、野原一家が住んでいたアパート、「またずれ荘」で 野原一家と出会い、今ではむさえのアシスタントとなっている四郎が焦る。 「すみません!」 「まったくもう…。」 不機嫌になったむさえは再びカメラを構えようとするが、 ふとフレームの外に目をやる。 「あれ?」 「あの、むさえさん?」 四郎の問いにむさえは明後日の方向を見たまま答える。 「今の見た?」 「え?」 「UFOだよ。」 「何言ってんですか?」 むさえの答えに四郎は少しイラつく。 「ちょっとUFO探しに行ってこよーっと。」 そう言ってむさえが歩き出し、 「ちょっとむさえさん! まだ撮影中ですよ!」 四郎がその後を追う。 「もう、これだからむさえさんは…。」 フォートレスフリーダムではイラストレーターによって ゴルゴレムの説明が行われていた。 「コードネーム・ゴルゴレムには別の位相に逃げ込む力。 すなわち位相間移動能力が備わっています。」 イラストレーターの説明に石堀隊員が付け加える。 「ですが、メタフィールドには捕えられましたよね。」 和倉隊長が呟く。 「では…、ウルトラマンがいなければ…倒せないと?」 イラストレーターは笑って否定する。 「まさか。位相を跨いだ罠、クロスフェーズ・トラップを仕掛けます。」 「クロスフェーズ…トラップ?」 すると和倉隊長の前にミッションエリアを表したホログラムが現れ、 イラストレーターが説明を始める。 「幸いゴルゴレムのビースト振動波は強力でロストする心配はありません。 その進路上にスキャニングパルスの増幅施設を設け、攻撃に転用します。」 「スキャニングパルスって…。」 平木隊員の言葉に石堀隊員が続ける。 「普段はメタフィールドの位相を割り出す為に使われている走査波だよ。」 そんな二人の会話を聞いてイラストレーターが頷く。 「送電線を外した高圧鉄塔を増幅器に改造。 ここにメガキャノンチェスターからの最大出力のスキャニングパルスを照射します。 ゴルゴレムが別の位相にいてもこの鉄塔の間を通過すれば その位相間移動制御器官を破壊できます。」 イラストレーターの説明を難しい顔で聞いていた平木隊員だったが やがて大きく手を叩いて叫んだ。 「あれだ! 電子レンジの中で生卵が爆発するみたいな感じだ!」 「その卵を破壊されて姿を現したゴルゴレムを…。」 石堀隊員が続けて、 「メガキャノンバニッシャーで…叩く!」 西条副隊長がシメる。 しかし、ここで和倉隊長が一つ疑問を呈する。 「ですが、ゴルゴレムが必ずしもこのトラップに引っ掛かるとは限らないのでは?」 その質問にイラストレーターは少し間を置いて答えた。 「餌・・・を用意します。」 「餌? ですか…?」 和倉隊長の顔が曇るが、イラストレーターは説明を続ける。 「はい…。ビーストは人間を襲う。その性質を利用して罠を張ります。 まずミッションエリア内の全ての住民を避難させ、ゴルゴレムの進路上、 クロスフェーズ・トラップの位置にTLT−Jの職員を配置します。」 「TLT−Jの職員を?」 「はい。一般人を利用するわけにはいかないので、 我々自身が餌になるしかない…。つまり…。」 「失敗は…許されない…。」 イラストレーターの言葉を聞いて和倉隊長の額に汗が滲む。 「ただし、一つ懸念されるのはスキャニングパルスの放射限界時間です。」 「つまりはメタルジェネレーターのフルパワー運用の限界か…。」 石堀隊員の補足説明にイラストレーターは頷き、一言答えた。 「その限界時間は…180秒。」 その数値に平木隊員が驚く。 「たった180秒!?」 「UFO、この辺に落ちたと思ったんだけどな…。」 セミの鳴き声が聞こえ、ぼうぼうに伸びた草の中、 むさえはUFOを探すが、そこに四郎がやって来てむさえの腕を掴んだ。 「むさえさん! 仕事中ですよ、仕事中!」 「いいじゃない、たまには。UFOなんて滅多に見るもんじゃないし…。」 その言葉に四郎の何かが切れた。 「ああ、もう! むさえさんはいつだってそうですよ! 何かあったら、すぐに自分のやってたこと放り出して…。 そんなのだから…、見つけられないんじゃないですか!? 目的!」 「…そう言う四郎こそ、昨日の夜何言ったか覚えてる? 僕は写真家のアシスタントなんか本当はやりたくないって。」 「こんな写真家のアシスタントなんかやりたくないってことですよ! 本当に自分が撮りたいもの…、 自分が写真を撮る目的が分からない写真家のアシスタントなんて。」 「それは…。」 「ああ…、もう!」 と四郎は苛立ちながら草むらのほうに歩いていくが、 その時、草むらの中で何かを発見した。 「む、むさえさん…、人が倒れてます!!」 急いで駆けつけるむさえ。 「大丈夫?」 そう言って倒れている人物の顔を見たむさえの顔色が変わった。 「え…?」 「ん? あっ!」 倒れている人物を見て驚くむさえと四郎。 「し、しんのすけ!?」 「しんちゃん…!?」 そして二人は少し間を置き、 「「もしかして…、知り合い?」」 お互いにそのことを聞いた。 「ちょっと、昔に色々あって…。」 「そう、私も…ちょっと、昔に色々あって…。」 四郎の答えを聞き、むさえも同じように答える。 「でも、どうしてしんちゃんがこんなところに…。」 「とにかく今は旅館に運ばないと…。」 そして2人はしんのすけを担いで乗ってきた車に乗り、旅館に戻っていった。 そのすぐ近くでストーンフリューゲルが墜落していた事に2人は気づかなかった。 「都心の一部で停電が相次いでいます。」 その頃、ラーメン屋で根来がTVのニュースを見ていた。 ニュースの内容は群馬県の山々で送電線の事故があり、 その影響で都心の一部に停電が起きているというものだった。 「へい、お待ち。」 そこにラーメンが出され、根来は近くの箸入れから割り箸を手にとって食べ始める。 「なぁ、群馬県の山って言やぁ、うちの登山部の連中、 行こうとしてた山がなんか立ち入り禁止になってて、引き返したらしいぜ。」 「立ち入り禁止? でも、なんで? 事故とか土砂崩れとかのニュースやってなかったぜ。」 「おかしいな…。」 「ちょっと、その話詳しく聞かせてくんねぇか?」 隣にいる学生二人の話に興味を持った根来は その会話に強引に割り込み、妙義山の事を聞き出した。 「群馬県の妙義山か…。ありがとさん。おっちゃん、勘定!」 そう言って根来は勘定を置くとすぐさま店を出て、 駐車場に停めていた車に乗り、走り去ってしまった。 そんな根来を見て店の店主がため息を吐く。 「全く…、ロクに口もつけずに残しやがって…。随分前に来た、 うちの『ウルトラスーパージャンボラーメン』を30分以内に食べきった奴らを 見習えってんだ。」 店主の言葉に店員が驚いたように尋ねる。 「えぇ!? いたんですか? そんな人達が…。」 「あぁ…。前の店主の時にな…。」 そう言って今の店主は昔のことを少し感慨深そうに回顧し、 根来の残したラーメンをすすった。 フォートレスフリーダムの会議室では、 一人松永管理官が眼鏡を外し、目の周りを指で揉んでいた。 「お疲れのようですが…。官房長官との接見のせいですか?」 そこにイラストレーターのホログラムが現れ、 松永管理官は眼鏡をかけていつもの不敵な笑みを浮かべた。 「骨が折れましたよ。」 「ここまで大規模なミッションは初めてですからね。犠牲者情報の秘匿から、 電波管制を含むミッションエリア内の大規模な封鎖、それに必要な施設の貸与。」 「ミッションエリア内、ビーストの進路上にあえて避難勧告を行わない。 これも初めての事では?」 松永管理官の言葉にイラストレーターは間を置いてから答える。 「…TLT−Jの職員全てをフォートレスフリーダムから移動させる事は出来ません。 ならば、より多くの人間を他から用意しなければならなくなる…。」 「それで人口200人に満たない、 オフシーズンの温泉街にいる人間ならビーストの餌食になっても構わないと?」 「そうは言ってません…。ただ…。」 俯くイラストレーターを松永管理官はじっと見つめる。 「…ご苦労様でした。」 そう言ってイラストレーターは少し複雑な顔で逃げるように 松永管理官の前から消えていった。 松永管理官は消えたイラストレーターに向かって呟く。 「イラストレーター…。あなたは何故、 自分の描いた未来に囚われているかのように、 自分の望んでもいない作戦を展開しようとする? そして…、あなたの描いた未来を私は本当に信じてよいのでしょうか?」 しんのすけはむさえ達の泊まっている旅館で介抱されていたが、 いまだ意識を取り戻していなかった。 むさえは缶ビールを飲みながらしんのすけの顔を感慨深げに見つめる。 そこに四郎が入ってきた。 「全然駄目ですよ。電話も携帯も繋がらないです。 これじゃみさえさん達に連絡できませんよ。…具合どうですか?」 「まだ寝たままだよ。」 むさえは飲み干したビール缶を床に置き、そんなむさえに四郎が尋ねる。 「にしても、むさえさんもしんちゃんの…野原さん達の知り合いだったんですね。」 「う〜ん…。まぁ、知り合いっていうか…。 野原みさえは私の姉ちゃんなんだけどね。」 むさえの言葉に四郎は少し驚いた表情で尋ねた。 「え? そうだったんですか? じゃあ、『小山』って名字は独身っていう…。」 「それ以上言うな。」 むさえは四郎の口に手を当てて話を遮った。 苦笑いしながら謝る四郎を見ながら、むさえは少し間を空けると、 思い立ったかのように四郎に自分の過去を話し始めた。 「…私さ…、昔どうしてもカメラマンになりたかったんだけど、 その時の師匠に才能ないって言われて、 夢を捨てて野原家に転がり込んだことがあるんだ。」 「…居候って奴ですか。」 四郎の問いにむさえが静かに答える。 「まぁ、そんな感じかな。…バカだよね。 辛い現実から目を背けてもなんにもならないのに…。」 四郎は黙って話を聞く。 「そんなとき、九州からお父さんが来てね、 その時のいざこざで私は自分の心の中にある本当の気持ちと 真正面から向き合ったの。どうしても、カメラマンになりたいって気持ちとね。 それから、私はカメラマンになった…。」 話し終えたむさえは自分のカメラを手に取って、 少し自嘲気味な笑みを浮かべて続けた。 「…でもさ…。」 再び話し始めたむさえを見る四郎。 「今の私もさ…。気づいたら…、いつのまにかその時の師匠みたいになってる…。 自分がカメラマンとして撮りたい写真ってのが昔はあったんだろうけど…。 それすらも分からない状態に…。…あの時の師匠もそんな感じだったのかな…。…情けないよね。」 そう言ってむさえは再び缶ビールを飲む。 その姿に四郎は悲しみしか感じ取れなかった。その時、部屋の電気が突然落ちた。 TLT−Jの一般職員も配置されているミッションエリア。 ナイトレイダーはクロスフェーズ・トラップの準備を着々と進めていた。 ナイトレイダーの乗り込むメガキャノンチェスターの両脇に設置された、 パルス・トランスミッターは出力を上げ、蒸気と不気味な唸り声を上げていく。 そこにゴルゴレムが近づいて来た。 「ゴルゴレム、800mラインを通過!」 石堀隊員の報告を聞いて、 西条副隊長はフウッと一つ大きく息を吐いた。 「ゴルゴレム、500mラインを通過!」 「まだだ。ギリギリまで引き付けるんだ。」 和倉隊長の指示に西条副隊長は黙って頷くが、 緊迫感のあまり大粒の汗が顔を流れていく。 「400mラインを通過!」 「300mラインを…。止まりました! ゴルゴレム、300mラインで止まっています!!」 石堀隊員の報告にナイトレイダー全員が驚く。 「まさか…、気づいた?」 さすがの西条副隊長も言葉に焦りが見え隠れしていた。 「プハッ! うっまいっ!」 停電し、連絡も取れない中、ろうそくを点けてむさえ達はビールを飲んでいた。 「にしても、暑いなぁ。風も吹いてないし。」 そう言ってむさえが立ち上がって窓を開けた。その時。 「動き出しました! コース変わらず! 速度上がってます!」 しばらくの静寂を破って石堀隊員が声を上げ、ナイトレイダーに再び緊張が走る。 「100mラインを通過!」 迫るゴルゴレムに西条副隊長はボタンにかけた指を確認する。 「50mです!」 「30!」 「20!」 「10!」 「西条!」 「放射!」 和倉隊長の指示で西条副隊長はボタンを押した。 装置が低く大きな唸り声を上げ、 辺りに緩やかに振動が広まり、二つの増幅器の間が赤紫に光り輝く。 「クロスフェーズ・トラップ起動を確認。」 西条副隊長は限界時間を表示するパネルに目をやる。 「本当にいるの?」 一向に姿を見せないゴルゴレムに平木隊員が小声で呟く。 その時、空間を破ってゴルゴレムが姿を現した。 「何?」 旅館ではむさえが辺りに響く唸り声を聞いて周りを見回していた。 「何かの鳴き声…ですかね?」 唸り声を聞いて四郎が呟く。 むさえはしばらく周りを見回していたが、 窓から見える山の頂上が赤紫に光り輝いているのに気づいた。 赤紫に光り輝く山頂を見るむさえ。 (もしかしたら…、見つかるかも…私の撮りたい写真が…。) そう思うと、むさえは自分のカメラバッグを持って部屋を飛び出していった。 「えっ!? ちょ、むさえさん!」 しんのすけを気にしつつ、四郎も急いでその後を追った。 「ゴルゴレム、見えました!」 西条副隊長が叫び、それと同時に ゴルゴレムが磁界に苦しみながら姿を現していく。 「まだ完全じゃない!」 和倉隊長は緊張を解かず、事態の行方を見守る。 限界時間を表示するパネルを見て石堀隊員が叫ぶ。 「限界まであと50秒!」 装置に限界が迫り、おびただしい蒸気が辺りに充満していく。 「限界まであと20秒! 10秒、 9、 8、 7、 6、 5、 4、 3、 2、 1…!」 その瞬間、ゴルゴレムの背中の結晶体が爆発し、 クロスフェーズ・トラップの装置も停止した。 「成功です! 位相間移動制御器官、破壊しました!」 石堀隊員の言葉を受けて和倉隊長が呟く。 「そうか…、背中の爆発した箇所が…。」 「ジェネレーター冷却開始! バニッシャー発射可能温度まで約90秒!」 石堀隊員の報告を聞いて平木隊員がトリガーに指をかける。 「来る!」 西条副隊長の言葉どおり、背中の結晶体を破壊されたゴルゴレムが メガキャノンチェスターに向かってゆっくりと前進してきた。 ゴルゴレムは体の至る所にある発光場所から光線を次々に撃つが、 メガキャノンチェスターは急浮上してそれらをかわしていった。 「スパイダーミサイル、ファイア!」 西条副隊長はスパイダーミサイルを撃ってゴルゴレムを攻撃し、 平木隊員がメガキャノンバニッシャーを撃つまでの時間稼ぎをする。 「あれは…。」 そこにむさえがやって来る。 目の前に広がる空飛ぶ戦車と、 見た事の無い巨大な化け物との戦いにしばし呆然とするが、 すぐにバッグからカメラを取り出してその光景を次々にカメラに収めていった。 そこに四郎が遅れてやって来る。 「怪獣?」 ゴルゴレムを見て四郎が呟く。 しばらくメガキャノンチェスターとゴルゴレム、 それらをカメラに収めるむさえを呆然と見ていたが、 ゴルゴレムが自分達の方に迫っている事に気づいて、 急いでむさえの所に駆け寄った。 「逃げなきゃ! むさえさん! 逃げないと!」 しかし、むさえは自分を引き戻そうとする四郎を 力一杯に振り解こうとし、遂には四郎を突き飛ばした。 「邪魔しないで!」 「むさえさん…。」 その時、しんのすけは意識を取り戻して起き上がり、 自分の制服のズボンの中で明滅しているエボルトラスターを取り出して 部屋を飛び出した。 「四郎逃げて!」 怯えて気が動転している四郎に向かってそう告げると、 むさえは自分に迫るゴルゴレムの巨大な足音を聞き、顔に大粒の汗が流れる。 四郎に背を向け、むさえは自分に迫るゴルゴレムの姿を見上げて写真を撮り続けた。 「見つかるかもしれないの! この写真を撮ることで…私の本当に撮りたい写真が…!」 「む、むさえさん…。」 次々に写真を撮っていくむさえを、四郎はただ見ることしか出来なかった。 「ジェネレーター冷却完了! 撃てます!」 「了解!」 石堀隊員の報告を受けて平木隊員ば照準を合わせようとするが、 何かを見つけて叫ぶ。 「人がいます!」 「バカな。」 予想外の事態。和倉隊長が見ると、 写真を撮っているむさえに向かってゴルゴレムが迫っていた。 むさえは自分に迫ってくるゴルゴレムを次々に写真に撮っていく。 その頃、車に乗った根来がむさえ達が泊まっていた温泉街にやって来ていた。 たくさんの野次馬が、外に出て何かを見ているのに気づいた根来は、 その視線の先に目をやり、遠くの山の頂上が赤紫に光り輝いているのを見つけた。 その時、野次馬をかき分け、しんのすけが むさえ達が泊まっていた旅館から飛び出してきた。 「おい! しんのすけ! おい!」 気づいた根来が車のクラクションを鳴らして呼びかけるが、 しんのすけは気づかずに走り去っていった。 「このままじゃメガキャノンバニッシャーが撃てません!」 平木隊員の訴えに和倉隊長が指示を出す。 「ストライク・フォーメーションに移行。空からゴルゴレムを攻撃する。」 「了解!」 一方、ゴルゴレムの写真を撮っていたむさえは写真を撮り終えると、 四郎を連れて急いでその場から離れようとするが、 足がもつれて地面に転倒してしまう。 「む、むさえさん!」 そこにゴルゴレムの口吻が管のように伸びて迫り、 2人に向けてその醜い牙を向けた…! To be continued Episode 18 追撃 −クロムチェスターδ− 自分達に管のように伸びて迫ってくるゴルゴレムの口吻を見て、 むさえと四郎は思わず顔を屈める。 しかし、何も起こらず、どうしたのかと顔を上げると、 二人の前には眩い光が溢れていて、やがてその光の中から銀色の巨人、ウルトラマンが現れた。 ウルトラマンはゴルゴレムの口吻を掴んで必死に食い止めるが、 ゴルゴレムはそれを振り解いて口から火球を撃った。 火球はウルトラマンのエナジーコアの辺りに命中し、 凄まじい火傷を負わせ、ウルトラマンは地面に倒れ込んでしまった。 それを見たゴルゴレムは向きを変え、恐怖で動けなくなったむさえと四郎に迫るが、 何とか立ち上がったウルトラマンは、胸の痛みに苦しみながらもゴルゴレムを押さえつけた。 そんなウルトラマンをむさえと四郎は何とも言えない顔で見つめていた。 体力が限界に達し、遂にエナジーコアが点滅したウルトラマンは 最後の気力を振り絞ってゴルゴレムを投げ飛ばすが、地面に手を突いてしまう。 ウルトラマンが動けなくなったのを見たゴルゴレムは今度は街の方へ進んでいった。 街の方へ進むゴルゴレムを見てウルトラマンは パーティクル・フェザーをゴルゴレムの口吻に向けて撃ち、口吻を切り落とした。 しかし、ウルトラマンは遂に力尽きてしまい、胸を押さえて光と共に消えてしまった。 「ゴルゴレムの進行方向に回り込む。」 「了解。」 和倉隊長の指示に従い、ストライクチェスターはゴルゴレムに対して先回りをするが、 そこで平木隊員は意外な状況を目にする。 「人です! 他にもまだ人が!」 「どういう事だ…!?」 温泉街。ゴルゴレムから逃げ惑う人々を見て戸惑うナイトレイダー。 そうこうしているうちに、遂にゴルゴレムは街に入り込んでしまった。 「止めろぉ!!」 「ストライクバニッシャー、シュート!」 和倉隊長が叫び、平木隊員がストライクバニッシャーを撃ってゴルゴレムを倒した。 しかし、その時、背中の結晶体が復元してゴルゴレムはそのまま姿を消してしまった。 「制御器官が…回復した…?」 驚く石堀隊員。そこにイラストレーターから通信が入る。 「ゴルゴレムは位相を移しました。…ミッションを立て直します。一旦、帰還してください。」 和倉隊長が険しい顔で質問する。 「その前に説明してください。 何故ミッションエリア内に人が残っていたんですか? どうしてあれだけの人数…。」 しかし、イラストレーターは感情を押し殺したかのような声で和倉隊長の質問を遮る。 「…繰り返します。 …帰還してください。」 しかし、和倉隊長は引き下がらない。 「説明してください! CIC!」 しかし、イラストレーターは何も答えず、一方的に通信を切ってしまった。 それでも和倉隊長は何度もイラストレーターに問いかけ、 ナイトレイダーは逃げ惑う人々を複雑な顔で見やった。 一方、CICのイラストレーターは和倉隊長の問いかけに俯いて頭を抱えていた。 しばらくして、ストライクチェスターはイラストレーターの指示通り帰還した。 朝焼けの中、しんのすけを追って森に入った根来が 木にもたれかかって休んでいると、そこに足音が聞こえてきた。 「しんのすけか!?」 と飛び起きるが、そこにいたのはむさえと四郎だった。 「しんのすけが…何か?」 驚くむさえと四郎。 根来はむさえが手に抱えているカメラに注目する。 森の中、苦しそうに胸を押さえながら歩いていたしんのすけが 木々の向こう側に根来達を見つける。 根来はむさえのカメラのメモリーを見せてもらっていた。 「へぇ…。いやぁ、こんな化け物が本当にいるとはなぁ…。」 根来はむさえが撮った空飛ぶ戦車と 見た事の無い巨大な化け物との戦いの写真に見入っていた。 「うーん、参った。あっ、ちょっと戻して。もう一個。…はぁ…、すげぇわ。」 根来が見ている自分の撮ったゴルゴレムの写真を見て 昨日の自分を思い出し、複雑な表情をして一人呟くむさえ。 「私…、バカだよね…。」 「え?」 むさえの呟きに振り向く四郎。 「昨日、あの時の私はこの写真を撮ることで 自分の撮りたい写真が見つかると思っていた…。 でも…、もしかしたら…それを見つける前に死んでいたかもしれないのに…。 それで…、どれだけ多くの人に迷惑をかけるかも考えないで…。」 むさえは自分の震える手を見る。 「私…バカよ…、本当にバカ…。」 そう言うとむさえはその場に泣き崩れた。 一方、しんのすけもむさえ達の話を聞いていた。 「むさえちゃん…。」 脳裏にかつてのむさえを思い出すしんのすけ。 根来は少し俯いて一つため息を吐いた後、むさえのカメラを手に取った。 「ふ〜ん、これが君のカメラかぁ。いや、良いカメラだねぇ。 手入れも行き届いているしさ。こういうの欲しかったんだよなぁ、俺も。」 とカメラを褒めつつ、根来は何食わぬ顔してカメラからメモリーカードを抜き取った。 それを見た四郎が驚いて指摘する。 「あ、ちょ、ちょっと…。」 「わぁった、わぁったよ。返す返す返す。」 とメモリーカードを抜き取ったカメラを四郎に押し付ける。 四郎は根来が手にしたメモリーカードを指差し指摘するが 根来は四郎の腹に一発重いパンチを入れた。悶絶しその場にうずくまる四郎。 「心配するな! お前さんの写真は俺が継いでやる!」 そう言って根来はむさえにハンカチを渡すと、一目散に走り去っていった。 四郎は急いで追いかけようとするが、痛みで立ち上がれず、むさえに助けられる。 「ど、泥棒…。」 と叫ぶも声が満足に出ない。そこに、 「たぶん、大丈夫だと思うゾ。」 と声がした。 むさえと四郎が振り返るとそこにはしんのすけがいた。 「…しんのすけ?」 むさえの呟きにしんのすけは黙って頷く。 「根来さんなら、あの写真をきっと公表して…。」 そう言った瞬間、しんのすけは胸を押さえてうずくまった。 胸を押さえて苦しむしんのすけの姿に むさえは胸を押さえて苦しんでいたウルトラマンの姿を重ね合わせる。 「そうなんだ…、しんのすけ…。…あの時は本当にありがとう!」 むさえのお礼の意味を理解できない四郎は訳の分からないといった表情を浮かべるが、 理解したしんのすけはギクリとして、その場から逃げるように去っていった。 そんなしんのすけの後姿にむさえはもう一言声をかける。 「…頑張って…。しんのすけ。」 その言葉にしんのすけは心の中で答えた。 (…むさえちゃん…。絶対、自分の撮りたい写真見つけてよ…。 たぶん、思い出せば分かると思うから…。自分がカメラマンになったわけを…。) そう思いながら、胸を苦しそうに押さえつつも歩くしんのすけ。 そしてむさえと四郎の姿が見えなくなる所まで来て、 しんのすけはストーンフリューゲルを呼んだ。 その後、ようやく街に帰って来たむさえと四郎を大原リーダー率いるM・Pが迎えた。 「お二人だけですか?」 大原リーダーの質問にむさえと四郎は顔を見合わせ黙って頷く。 「あなた達は何も見なかった。」 その言葉と共に大原リーダーはむさえ達に向けてメモレイサーを掲げた。 フォートレスフリーダムでは、 廊下を歩く松永管理官に追いすがって和倉隊長が問い詰めていた。 「どうして我々に人がいる事が伝えられなかったのか、その説明を求めているのです!」 「ビーストの進路を特定し、ミッションを成立させるには、あそこの人達が必要でした。」 「それではまるで…!」 「昨夜の経験を基に次のミッションは必ず成功させてください。 そうすれば犠牲者の死も無駄にならなくて済む。」 「無駄だとか無駄でないとか! 人の死というのは、そうやって測れるものではないと私は考えます!」 和倉隊長の言葉を聞いた松永管理官は不意に立ち止まって一言述べた。 「最近は…感情的な発言が多いですね。」 その言葉に思わずハッとする和倉隊長を尻目に 松永管理官は少し嘲り笑った感じで去っていった。 そんな松永管理官を黙って見送り、和倉隊長は唇を噛み締めた。 一方、しんのすけは家の自分の部屋で一人、苦しそうに胸を押さえながら、 ストーンフリューゲルの中で傷を癒しても回復が思うように進まなかったことを思い出していた。 「オラの体に何が…? もしかして…、オラの体に限界が来ていてそれで…。」 そう思い、頭を抱えるしんのすけ。 しかし、すぐに顔を上げて呟いた。 「…だとしても、オラにはやらなきゃいけない事があるんだゾ…! 皆を守るために…、オラは…戦う…!」 そう呟き、苦しみながらもしんのすけはエボルトラスターを握り締める。 その時、 「しんのすけ。」 廊下からひろしの声と扉をノックする音が聞こえ、 慌ててしんのすけはエボルトラスターを机の引き出しにしまい、扉を開けた。 「お…、父ちゃん。どうしたの?」 「どうしたのじゃねぇよ。しんのすけ。お前…、大丈夫か? 胸の怪我…。みさえから聞いたぞ。」 「だいじょぶ、だいじょぶ! もう何ともないし。」 そう言ってしんのすけは自分の胸をパンと叩いて答える。 「そ、そうか…。」 「そう。オラは不死身の野原しんのすけだゾ!」 しんのすけはひろしに軽い口調で答え、 ひろしはそんなしんのすけを見て少し安堵したかのようなため息を吐いた。 「そうか…。でも、少しでもヤバいって思ったらすぐに言うんだぞ。」 「ほーい。」 そして、ひろしが扉を閉めて立ち去った後、しんのすけは再び苦しそうに胸を押さえた。 「黙っとかないと…。父ちゃんや母ちゃんに…、 余計な心配かけさせるわけには…いかないしね…。」 フォートレスフリーダム。コマンドルームでは イラストレーターがナイトレイダーに新型機の説明をしていた。 画面にはその新型機であるクロムチェスターδが映し出されていた。 「これが新型機、クロムチェスターδです。 新開発されたハイパージェネレーターを搭載しています。」 「ハイパージェネレーターというとメタルジェネレーターより強力な?」 石堀隊員の問いにイラストレーターが答える。 「はい。メタルジェネレーター搭載時より、 最高400%のパフォーマンス・アップを実現しました。 それによってストライクチェスターでは不可能だった事、 つまり、スキャニングパルスを使った特定位相の割り出しと フェーズシンクロナイザーを使った位相間移動を同時に行えます。」 それを聞いた西条副隊長が立ち上がって力強く尋ねた。 「では、ゴルゴレムを追撃できるということですね!」 イラストレーターが頷いたのを見て、西条副隊長は和倉隊長に進言する。 「隊長! 私を乗せてください!」 「西条…。」 いつもと違い、何かを秘めた眼で答えた西条副隊長に対し、 他のナイトレイダーはしばし呆然と見ていた。 和倉隊長はしばらく考えた後、静かに決断した。 「…いいだろう。」 「ありがとうございます。」 直ちに始められた新たなミッション。 今までのチェスターα、β、γに続いて、 西条副隊長が乗り込むチェスターδの発進準備が行われる。 イラストレーターが状況の説明を行う。 「ゴルゴレムの現在位置はエリア4、ポイント815です。 進行方向ポイント818に対する避難勧告は混乱を避ける為に行いません。」 「混乱を避ける為に…ね。」 平木隊員がわざとらしく反応するが、他の隊員はあえて何も言わず、 イラストレーターは少し表情を変えるも説明を続けた。 「チェスターα、β、γはメガキャノン・フォーメーションで待機。 チェスターδは別位相でゴルゴレムを追撃。位相間移動制御器官を破壊。 先のミッションで判明したゴルゴレムの器官回復に有する時間は約480秒。 その間にメガキャノンバニッシャーで殲滅。以上がミッションの概要です。」 そしてチェスターα、β、γがそれぞれ発進。 チェスターδの発進準備を進める西条副隊長の脳裏に、 胸を押さえて苦しむしんのすけと昨日のウルトラマンの戦いが思い浮かぶ。 それが思い浮かんだ後、西条副隊長はメットのバイザーを下ろして、チェスターδを発進させた。 夜中、車の中から根来が電話をかけていた。 「おい! 明日の一面俺にくれ! 日本中、いや世界中がひっくり返る大スクープだ! ん? ん、分かった。そっち行く。」 電話を切り、根来は画面にむさえの撮った写真の映っている ノートパソコンを閉じて車を発進させた。 ナイトレイダーが乗るチェスター4機が現場に到着する。 「セット! イントゥ・メガキャノンチャスター!」 和倉隊長の号令の下、 チェスターα、β、γがメガキャノンチェスターに合体。地上に着地する。 「ゴルゴレム、追撃に入ります!」 そして西条副隊長はチェスターδを先行させる。 「スキャニングパルス放射!」 スキャニングパルスによってゴルゴレムが現在どの位相にいるか割り出す。 「ゴルゴレム確認。位相座標E29。」 そして西条副隊長は一息吐いて叫ぶ。 「ハイパージェネレーター、フルドライブ!」 そしてチェスターδはゴルゴレムを追って別位相に突入した。 それを和倉隊長が見送る。 「頼むぞ…。」 位相を超えるチェスターδ。 「く…! 位相を移された。座標E56…。フェーズシンクロナイザー作動!」 位相を超えるゴルゴレムを逃がさず追い続けるチェスターδ。 遂にゴルゴレムが現在いる位相に辿り着いた。 そこは辺りを緑色に不気味に光る岸壁が覆う、地の底を思わせる場所であった。 「!」 西条副隊長の目の前にいきなりゴルゴレムが現れた。 西条副隊長はチェスターδを急浮上させ一旦距離を置き、 ゴルゴレムはチェスターδに光線を放つが、西条副隊長はそれを避け、 「クアドラブラスター、ファイア!」 クアドラブラスターでゴルゴレムの背中の結晶体を破壊した。 ゴルゴレムは苦しみ、西条副隊長の前から姿を消した。 一方、待機していたメガキャノンチェスターの周りに ゴルゴレムの苦しみの声が聞こえてきた。 「来る!」 平木隊員が言葉を発した直後、空間を破ってゴルゴレムが姿を現し、 それを追ってチェスターδも別位相から帰って来た。 「ゴルゴレム、制御器官回復まであと400秒!」 西条副隊長の報告に平木隊員が答える。 「だいたい分かりました! メガキャノンバニッシャー、シュート!!」 しかし、メガキャノンバニッシャーが命中して、爆発する直前、ゴルゴレム前方の空間が歪んだ。 爆風の中からゴルゴレムが無事に姿を現した事にナイトレイダーが驚く。 「メガキャノンバニッシャーが効かないの?」 西条副隊長の疑問に石堀隊員が答える。 「奴の亜空間バリアで威力が半減されたんだ。」 平木隊員が指差して叫ぶ。 「見て! 制御器官が…!」 ゴルゴレムの背中の結晶体が復活。 予想外の事態にイラストレーターも驚く。 「そんな…、前回よりも回復が早い!?」 街に迫るゴルゴレム。 そんな事を知らずに街の人々は平和な一時を過ごしていた。 その時、西条副隊長のチェスターδの横をストーンフリューゲルが飛び抜けた。 「しんのすけ君?」 ストーンフリューゲルの中、しんのすけは苦しみながらもエボルトラスターを掲げた。 「うおおおおぉぉぉ!!!」 ストーンフリューゲルから光が飛び立ち、 ウルトラマンはそのままジュネッスの姿になって着地した。 そしてゴルゴレムの前に立ち塞がり、ゆっくりと力強く構えを取る。 そんなウルトラマンのすぐ背後には街が、 何も知らず平和な一時を過ごす数多くの人々の光が灯っていた。 「やっと分かったかも…。」 「え?」 旅館。むさえの呟きにビールを飲んでいた四郎が振り向く。 むさえは話し出した。 「実は私がカメラマンになったのは、子供の笑顔が撮りたいって思ったからなんだ。」 「子供の笑顔…ですか?」 むさえが自分を見つめ直すかのように語りだす。 「うん…。私ね。昔、連図さんっていう 世界中の子供の笑顔を撮っているカメラマンに出会ったんだ…。 その時にその人が言ってたの。子供の笑顔って平和の象徴だって…。」 「平和の象徴…。」 「うん。子供達の笑顔のためにもこの平和を壊してはいけない、 世界中の子供の笑顔の写真を集めた写真集を発表して 世界平和を訴えたいっていう連図さんの想いに心を震わされた…。 それで、私、自分の撮った子供の笑顔の写真が連図さんの言うように 世界平和に繋がったらなってこの仕事選んだんだ…。 忘れていたけど思い出したよ。私がこの仕事始めたわけ。 そしてそれを思い出した時、やっと分かったの。私が本当に撮りたい写真が何なのか…。」 笑顔で答えるむさえを見た四郎も少し考えた末に笑顔で答えた。 「だったら僕も、むさえさんの撮りたい写真のために…頑張りますよ!」 四郎はガッツポーズをし、むさえも自分のカメラを構えて笑顔で答える。 「うん、頑張ろう!」 一方、ウルトラマンとゴルゴレムの戦いが続いていた。 胸の痛みに苦しみながらも一歩も引かずに戦い続けるウルトラマン。 遂に肩で息をし始めるが、ウルトラマンはメタフィールドを展開する。 メタフィールドに消えたウルトラマンとゴルゴレムを見送る西条副隊長に 和倉隊長から指示が入る。 「西条! 我々もメタフィールドに突入する。」 「隊長。」 既にメガキャノンチェスターからストライクチェスターへの変形が完了していた。 「ウルトラマンを援護する!」 「了解!」 和倉隊長の命令に、西条副隊長は力強く答える。 「「ジェネレーター、フルドライブ!!」」 和倉隊長の号令でストライクチェスターが、 西条副隊長の号令でチェスターδがメタフィールドに突入する。 「「メタフィールド突入成功!」」 2機がメタフィールドに突入すると、ウルトラマンは既にコアゲージが点滅していた。 ウルトラマンは苦しみつつも何とか構えを取るが、 次の瞬間、両膝を付き、地面に倒れ伏してしまった。 「ウルトラマン…!」 「…!」 驚くナイトレイダー、西条副隊長。 その時、ウルトラマンのコアゲージのひび割れが進み、 それに呼応してメタフィールドのあちらこちらに穴が開いてきた。 「外の世界が…!」 穴越しにメタフィールドから外の世界が目に入ってくる。 さらにメタフィールドの至る所で水泡が吹き上がりだした。 ゴルゴレムは穴から外の世界に出ようとするが、位相の壁に阻止されて出られない。 しかし、ゴルゴレムは何度も位相の壁にぶつかっていき、 少しずつメタフィールドを突破しようとした。 石堀隊員が状況を分析、説明する。 「ウルトラマンのバトルアビリティが著しく低下している。 たぶん、そのせいでメタフィールドの維持能力も落ちているんだ。」 「じゃあ、この空間もいつまでもつか分からないってわけ?」 平木隊員の質問に石堀隊員は黙って頷き、和倉隊長が指示を出す。 「メタフィールドが維持されている間に我々がゴルゴレムを倒すんだ。 回り込んで奴を粉砕する! 西条、それまでウルトラマンを援護しろ!」 「了解!」 西条副隊長は再びクアドラブラスターを撃つが、先程に比べてダメージが少なくなっていた。 その間にストライクチェスターがゴルゴレムの横に回りこむ。 「ストライクバニッシャー、シュート!!」 平木隊員がストライクバニッシャーをゴルゴレムの横っ腹に撃ち、 ゴルゴレムは大きな衝撃と共に倒れこんだ。 しかし、すぐさま起き上がってしまった。 「なんで!? 今度は直撃したのに!」 信じられない平木隊員。石堀隊員が分析する。 「ストライクバニッシャーでは威力が足りないんだ。 …ビーストは俺達の予想以上に進化しているっていうのか。」 起き上がったゴルゴレムは再び穴から外の世界に出ようとするが、 クアドラブラスターとストライクバニッシャーで受けたダメージの為、その動きは弱まっていた。 「ゴルゴレムが外に…!」 西条副隊長が叫んだ時、 ウルトラマンが息絶え絶えながらも力を振り絞って立ち上がった。 コアゲージの点滅が早まり、ひび割れが進む中、ウルトラマンはセービングビュートを発して、 外の世界に出ようとするゴルゴレムを捕え、力の限り放り投げた。 次々と穴が開き、水泡が吹き上げ、崩壊進むメタフィールドの中、 ウルトラマンはゴルゴレムの前に立ち塞がり、オーバーレイ・シュトロームの構えを取った。 コアゲージのひび割れが進み、胸の痛みに苦しみつつも、 ウルトラマンは力を振り絞ってオーバーレイ・シュトロームを放った。 ゴルゴレムに命中した後もウルトラマンはオーバーレイ・シュトロームを撃ち続け、 遂にゴルゴレムは光の粒となった。 「やった…!」 ウルトラマンの勝利に和倉隊長は思わず声を上げた。 西条副隊長もウルトラマンの勝利にホッと一息つく。 そして、ナイトレイダーは無事メタフィールドから脱出した。 その頃、むさえはバッグの中からある写真を取り出して見つめていた。 四郎が見ると、そこにはかつて野原家に居候していた頃のむさえと野原家の皆が写っていた。 「うわぁ…、懐かしいな…。」 写真を見て、四郎が呟く。 「ちょっと、何勝手に見てんのよ。人の写真。」 「すみません。ちょっと、懐かしくなって…。」 写真を見つめ続けるむさえと四郎。 その目に5歳の頃のしんのすけが止まる。 その頃、コアゲージのひび割れが進み、 メタフィールドを解除することができなくなったウルトラマンは 崩壊進むメタフィールドの中で一人立ち尽くしていた。 コアゲージの点滅はさらに早くなり、ひび割れはコアゲージ全体に及んでいた。 そして遂に、鈍い音を立ててコアゲージは粉々に砕け散り、辺りにその破片が飛び散っていった。 ウルトラマンはゆっくりと崩れ落ち、全身のプロテクターが消えていき、 アンファンスの姿に戻って倒れ、メタフィールドもそれに伴って消滅していった。 夜、月が輝く満天の星空の下に戻ってきたしんのすけは一人荒野の中、地面に倒れ込んだ。 そんなしんのすけの背後には、平和な街の光が先程と何も変わらずに灯っていた。 To be continued Episode 19 受難 −サクリファイス− 戦いで傷付き、地面に倒れ伏していたしんのすけは ブラストショットを取り出してストーンフリューゲルを呼ぼうとするが、 そこに数台の車がやって来て、中から出てきたホワイトスイーパーが 倒れて動けないしんのすけの周りを取り囲んで武器を向けた。 「ポイント831到着。ターゲット確認。回収作業始めます。」 その言葉と共に一斉にホワイトスイーパーは 抵抗するしんのすけを押さえ込み、首にペン状の謎の装置を当てて気絶させた。 そしてしんのすけ捕獲の報は、イラストレーターには伝わらず、直接松永管理官に伝えられた。 「そうですか。では、ダムまで運んでください。くれぐれも、丁重にね。」 そう言って、携帯電話を閉じる自分の手が 震えているのを感じながらも松永管理官は笑みを浮かべた。 そしてナイトレイダーはそんな事も知らず、 いつもと同じようにフォートレスフリーダムに戻ってきていた。 毎朝スポーツ新聞社。 一人の男が根来が差し出したナイトレイダーとスペースビーストの写真を興味深けに見ている。 「凄い…。こりゃ大スクープだよ、根来さん!」 「いやぁ、こっちだって感謝しているぜ。 他の所だったら上からの圧力がかかって握り潰されちまうからな。」 そう言って根来はポケットの中からメモリーカードを取り出し、 その男の手の中にしっかりと握らせた。 「じゃ! 後はよろしく頼むぜ!」 「あぁ、まかせておいてくれ!」 『謎の巨大生物と秘密組織の戦い』 翌日、全国で根来が持ち込んだナイトレイダーとスペースビーストの写真が踊っていた。 根来は財布から小銭を取り出しつつ、店に向かい、 自分が持ち込んだ写真が毎朝スポーツ新聞の一面を飾っている事に会心の笑みを浮かべた。 しかし、ふと目に入った他の新聞の一面にその笑みは消えた。 恐る恐る他の新聞を手に取り、買う根来。 そこには、 『漂着!! 首長恐竜の死体!?』 『衝撃! 都内にカッパ現る!』 と何も知らない一般人にはスペースビーストと同じように感じられる、 太古の首長竜やら未知の生物やらの記事が踊っていた。 「くっそぉ…。よりによって同じ日にこんな与太記事出しやがってぇ…!」 根来は怒りで手に持った全ての新聞を握り潰すが、すぐさまハッとして呟く。 「これも連中の情報操作か…!?」 「無駄だと分かったでしょう?」 その言葉に根来が顔を上げると、 そこには大原リーダー率いるM・Pがいた。 すぐさま根来は後ろを見るがそこにも三沢率いるM・Pが待ち構えていた。 「消すのか? 俺の記憶を…。」 ゆっくりと自分を取り囲むM・Pに向かって根来が問いかけ、大原リーダーが静かに答えた。 「一緒に来てもらえるかしら?」 しかし、根来は周りを見回して叫んだ。 「ここまで来て…、消されてたまるかぁ!!」 根来はM・Pの一人にタックルをかましてその場から一目散に走り去り、 M・Pは逃げる根来を追うものの、その速度はかなりゆっくりとしたものだった。 三沢が大原リーダーに問いかける。 「今までの調査からあの男は単独です。これ以上泳がせても何も得られないと思いますが?」 「えぇ…。でも、私達を出し抜いてビーストの写真を 新聞一面に載せた男…。あの組織が興味を持つ可能性は十分にあるわ。」 「まだ泳がせるつもりですか?」 「…これが最後ね。今日一日様子を見て、 何も無かったらあの男の記憶処理を施すわ。」 「分かりました。」 大原リーダーから許可を貰った三沢は部下達と共に根来の後を追った。 様々な計器やモニターが置かれている部屋にしんのすけは運ばれていた。 意識を取り戻したしんのすけは、自分を取り囲む白衣の人々、 ケースの中に保管されているエボルトラスターとブラストショット、 そして自分がベッドに拘束されていることを知った。 「オラの力の秘密を…調べるつもりか…?」 その様子を別室からモニターで見ていた松永管理官は、 手元にあるしんのすけの資料に目を通した。 「野原しんのすけ…。生年月日、1992年5月5日。 出身地、埼玉県春日部市。 秘密結社『ブタのヒヅメ』のサイバーテロ未遂事件と、 秘密結社『YUZAME』の巨大ロボット事件、豪華客船乗員乗客行方不明事件。 そして、『オトナ帝国事件』に家族と共に関わっている…。 『オトナ帝国事件』では、家族と共に各メディアに取り上げられた…。 そう言えば、一時期ニュースで何度か聞いた名前でしたね…、野原…。 にしても、結構な有名人だったんですね。 しかも、『オトナ帝国事件』以外にもこれだけ多くの事件に関わっていたとは…。驚きましたよ。」 しんのすけの資料を読み終えた松永管理官のところに、 しんのすけの身体検査の結果が送られてきた。 その結果を読んで松永管理官は驚愕して声を荒げた。 「この検査結果に間違いは無いのですか!?」 しかし、検査担当官は冷静に答えた。 「はい。間違いありません。」 「そんなバカな…!?」 「信じられないのも無理はありません。ですが、彼、野原しんのすけのR7性因子、 および免疫判定は常人の平均とほぼ同じ。現在、ナイトレイダーBユニットに入隊できる 免疫判定基準は以前と比べて大幅に下げられていますが、 それでも彼はそこに入隊できないほど低い数値でした。」 松永管理官はしばらく結果報告書を見た後、眼鏡を直して努めて冷静に答えた。 「…なるほど、ウルトラマンはデュナミストをR7性因子や 免疫判定の高さで選んでいるというわけではなかった…という事ですか…。」 検査担当官が松永管理官に尋ねる。 「野原しんのすけの衰弱はその原因の一つにウルトラマンとの適応負荷があると思われます。 R7性因子、免疫判定が低い為、彼は本来の力を発揮することができなかったと…。 ただそう考えるとウルトラマンはデュナミストを一体何の基準で選んでいるのでしょうか? わざわざ自分の力を最大限に活用できない存在をデュナミストに選んだその理由は…。」 その質問に松永管理官は努めて冷静に答えた。 「少なくとも…、ウルトラマンは数値で選んではいないのでしょう。 数値では測れない…私達には測れない何かを基準に、ね。」 一方、野原家ではしんのすけが行方不明になっているということで警察に捜索願を出していた。 ひろしはみさえの電話での受け答えを聞きながら、今朝の新聞に目を通した。 しかし、毎朝スポーツ新聞を見た瞬間、 そこに写るゴルゴレムの写真を見たひろしの脳裏に かつて襲われたペドレオンの姿と以前聞いたノスフェルの声が思い浮かぶ。 そしてしんのすけの事も…。 「一体…、俺達の知らないところで何が起きているんだ?」 「よく考えれば、彼自身がどのような人物なのかはどうでも良い事。 我々が知りたいのは彼の力の秘密です。 彼がいつ、どのようにあの力を得たのか…。それが分かれば…。」 松永管理官の言葉に検査担当官が一つの提案をした。 「電気刺激による脳のスキャニングを行ってみましょう。」 松永管理官は頷き、すぐさましんのすけにスキャニング装置が取り付けられていった。 付けられたヘッドギアから電気が流され、 脳に刺激が与えられたしんのすけは過去の様々な出来事を思い出していく。 『そうなんだ…、しんのすけ…。…あの時は本当にありがとう!』 『過去を変える事は出来ないけれど…、 未来は…変える事が出来るかもしれないから…。』 『オラはもう逃げない! 憎しみも、悲しみも、全て背負ってく。 これ以上、誰かを不幸にしないために!』 『あんたが…あんたがオラのことを呼んだの?』 『お前…逃げるのか? お前偉いんだろ? お前のせいで全部こうなったんだゾ! …逃げるなんて許さないゾ!』 『オラ、大人になりたいから…。大人になって、 おねいさんみたいなきれいなおねいさんといっぱいお付き合いしたいから…!』 『父ちゃんに言わせりゃ、自分一人でデカくなった気でいる奴はデカくなる資格がない。』 しんのすけの脳裏に蘇っていく今までの様々な出来事。 松永管理官と検査担当官は装着したゴーグルでその映像を見ていた。 「脳への電気刺激によって過去の記憶がフラッシュバックしています。」 検査担当官の説明に松永管理官がそっけなく答える。 「重要なのは彼が力を得た時の記憶だけです。ん?」 松永管理官はしんのすけの記憶の中にあるジャングル、そこにある巨大な遺跡。 その中心に聳え立つ巨大な塔を見つけた。 しかし、その次の瞬間、別の記憶に切り替わってしまった。 「違う、違う…。あの続きが見たいんだ!」 しかし、そんな松永管理官の言葉も空しく、再び遺跡の映像が現れることはなかった。 その頃、コマンドルームでは モニターにメタフィールドを出ようとするゴルゴレムの映像が映し出されていた。 「外部から一瞬観測されたデータからメタフィールドの組成が判明した。 それによるとメタフィールドとウルトラマンの体が同じ物質だったらしい。」 和倉隊長の説明にナイトレイダーが驚く。 「同じ物質って?」 平木隊員の疑問に石堀隊員が答える。 「正確には、自分の体が存在する確立を量子力学的に拡張し、 他の物質がそこに存在する可能性を奪い去る事であの空間が作られていたんだ。 ただ、この空間の維持には限界があって、 そのタイムリミットを知らせるのがこの胸にあるコア状のゲージなんだろう。 で、ウルトラマンがなんでメタフィールドを展開するかだが…。」 「えっ…と…。」 石堀隊員の説明を理解出来ない平木隊員。 その様子を見ていた西条副隊長がため息を一つ吐いて説明を始めた。 「いい? 詩織。つまり、メタフィールドはウルトラマンの体で出来てるって事よ。」 「ウルトラマンの体で?」 驚く平木隊員。 西条副隊長は黙って頷き、和倉隊長が重々しく口を開いた。 「そうだ…。ウルトラマン、いや、しんのすけ君は まさに自らの体で我々の世界を守っていたんだ…。」 しかし、今そのウルトラマン、しんのすけが松永管理官によって危機に陥っていることを、 コマンドルームにいるナイトレイダーは誰一人知らなかった。 しんのすけの記憶を見終えた松永管理官と検査担当官はゴーグルを外した。 「脳のスキャニングで分かるのはこのくらいです。」 「仕方が無い…。では次は、ビースト振動波照射テストを行いましょう。」 松永管理官の言葉に検査担当官が驚く。 「ビースト振動波を? しかし、人間には危険です。」 「例え彼が普通の人間だったとしても 彼がその体内にウルトラマンの力を秘めている事は事実です。 ビースト振動波を与えれば、それに呼応してウルトラマンの力が引き出されるかもしれません。 それで彼の固有の振動波が分かればウルトラマンの破壊光線の波動成分分析が出来る…!」 「ですが、もしデュナミストを失う結果になれば…!」 「私が責任を取ります。」 「…分かりました。」 松永管理官に押し切られる形で、検査担当官はテストの準備に取り掛かった。 松永管理官がふとモニターを見ると、 しんのすけの隣にイラストレーターのホログラムが立っていた。 「イラストレーター…。」 「しんのすけ…。ごめん…。こんなことになってしまって…。」 テレパシーでイラストレーターはしんのすけに話しかける。 「ナイトレイダーに指示を送るイラストレーターってのは…。 やっぱり…、風間君だったんだ…。」 イラストレーターの姿を見たしんのすけはテレパシーで話す。 「うん…。しんのすけ、どうして…、どうしてそんなになってまでお前は戦うんだ…?」 「オラは戦わなくちゃいけないんだ…。皆を守るために…、 …独りになっても…。だから…オラは…。」 「……。」 しんのすけの答えにイラストレーターは悲しそうな顔をして姿を消した。 ミーティングが終わったコマンドルーム。 和倉隊長は一人パソコンを操作して、 かつて石堀隊員が集めたしんのすけの資料を再び見ていると、 そこに西条副隊長がやって来た。 「隊長…。」 「どうした?」 「私達がしんのすけ君にしてあげられる事は無いでしょうか? TLTの組織で何か…。」 西条副隊長の質問に、和倉隊長はパソコンを操作する手を止めて答えた。 「西条…。しんのすけ君は組織という枠組みに囚われることを嫌うだろう…。」 「しかし…。」 「彼はどんなものにも囚われる事無く、自分の道を思うままに進んでいく…。 これまで彼と共に戦ってきて、俺は彼はそういう人間なんだと思うようになった。」 そう言って感慨にふける和倉隊長は 再びパソコンを操作するが、再びその手を止めて答えた。 「…だが、もし、彼に何かしてやれることがあるならば…。」 再び話し出した和倉隊長を西条副隊長は見る。 「彼にしてやれることがあるなら…、俺の思いとしても TLTという組織としてではなく、俺達として…、 共に戦ってきた者として…してやりたい。」 「共に戦ってきた者として…。」 西条副隊長は和倉隊長の言葉を再び呟いた。 一方、M・Pに追われた根来は夜の街を右往左往していた。 「えーい、しつこい連中だぜ。何とか振り切らねぇと…。」 その時、何者かが背後から肩を叩き、 驚いて根来が後ろを振り向くとそこには中年の男が立っていた。 「今、追われているんだろう? かくまってあげようか?」 「あぁ?」 男は毎朝スポーツ新聞の根来の記事を取り出して尋ねた。 「あんたが、この記事、書いた根来さんだね?」 「あ、あぁ…。そうだが、お前…。」 戸惑う根来に対し、男は笑みを浮かべて話しかけてきた。 「どうする? ちょっと、怪しい場所まで一緒に行く事になるけど…。 連中に捕まるのと、俺と一緒にその場所に来るのと、どっちがいい?」 男の問いに根来は少し考えて尋ねた。 「お前…、一体何者だ?」 根来の問いかけに男は笑みを浮かべて答えた。 「あんたと同じような存在ですよ。根来さん。」 「ビースト振動波、照射準備整いました。」 「分かりました。」 検査担当官の言葉を聞いた松永管理官は しんのすけの前に取り付けられた装置、 かつて溝呂木が操った川口に付けていたペンダント、 ビースト振動波の擬似振動波を発する装置を見て呟いた。 「帰って来た溝呂木の置き土産…。まさかこんなところで役に立つとは…。」 そして検査担当官に向かって指示を出した。 「始めてください。」 「はい。」 松永管理官の指示で黒い結晶から冷たく青い光がしんのすけに向けて発せられた。 「共鳴周波数9.42、スペクトル増幅率3000。」 光は強さを増していき、しんのすけは苦しみ始めた。 心電図が異常な波形を示し始める。 松永管理官の指示で光はさらに強められていった。 「スペクトル増幅率4000!」 さらに苦しむしんのすけ。 「危険です! これ以上は!」 「いえ! もっと! もっと上げてください!!」 検査担当官の注意を押し切りさらに光を強めさせる松永管理官。 「増幅率5000!」 さらに強められる光。苦しみ、しんのすけの体が激しく痙攣を起こす。そして、 ピー。 突如、しんのすけの全身から力が消え、 ビースト振動波にさらされていながら、しんのすけの体は指一本動かなくなった。 心電図は何の波形も示さず、部屋に無機質な音が鳴り響く。 松永管理官と検査担当官の顔色が変わり、ビースト振動波照射は中止され、 急いで治療チームがしんのすけの周りを取り囲む。 電気ショックが行われるがしんのすけの体には何の反応も無かった。 そこに扉を押し開け、松永管理官が入って来る。 「私に貸しなさい!」 そう言って電気ショックの装置を奪い取り、しんのすけの体に押し付ける。 「来い!!」 しかし、しんのすけは目を覚まさない。 「来てくれ!! ウルトラマン!!!」 しかし、しんのすけは目を覚まさない。 何の変化も起きない心電図。辺りに絶望感が漂う。 そこにイラストレーターのホログラムが現れた。 「もう一度、ビースト振動波を照射してください。」 その言葉に驚く松永管理官。 「しかし…。」 「いいから、早く!」 今までに見たことのないイラストレーターの焦りを見て、松永管理官は少し戸惑うが、 他に方法は無く、再びしんのすけにビースト振動波が照射される事になった。 しかし、心電図には何の変化も現れなかった。 「波長を変えて!」 イラストレーターの指示でビースト振動波の波長が色々変えられ、 やがて今まで冷たい青色だった光が、暖かい赤色の光へと変わっていった。 「どこかから別の振動波が…?」 検査担当官の言葉を聞いて、 モニターを見た松永管理官は明滅するエボルトラスターを見た。 そしてその明滅に呼応するかのように、 しんのすけの体から赤い光が滲み出てきた。 「これが、彼の光…。」 松永管理官は安堵の笑みを浮かべる。 「波動を記録するんだ!」 「はい!」 心電図に変化が現れ、しんのすけの体に動きが見られ、 そしてしんのすけの全身を眩い光が覆った。 その頃、廊下に眩い赤い光が現れた。 それは光に包まれたしんのすけであった。 しんのすけは息も絶え絶えで苦しそうな状態であった。 しんのすけが後ろを振り向くと、 そこにはイラストレーターのホログラムがいた。 「…しんのすけ、お前の体は…もう変身には耐えられない。 ダメージの蓄積は想像以上だったんだ。 今度変身したら…死ぬかもしれない…。」 イラストレーターの言葉にしんのすけは衝撃を受けるが、やがて一言答えた。 「…オラがやらなくて…誰がやるんだよ…。」 そう言って、しんのすけは苦しみの表情を浮かべたまま姿を消してしまった。 「しんのすけ…。」 そんなしんのすけを見送ったイラストレーターは悲しげな顔をして呟き、姿を消した。 「はい…、はい…。そうですか…。分かりました…。」 野原家。みさえが受話器を置く。 「警察は何だって?」 「現在捜索中だから自宅で待機していてくれって…。」 「冗談じゃねぇ!」 みさえの言葉を聞いたひろしは玄関へと向かった。 「あなた…。」 「やっぱり、俺達の知らないところでしんのすけは独りで苦しんでるんだ! このままじっとしているなんて我慢できねぇ! 俺はしんのすけを捜すぜ!」 そう言ってひろしが靴を履こうとしたその時、居間にドスンと何かが落ちる音がした。 驚いたひろしとみさえが居間に向かうと、そこには気を失ったしんのすけが倒れていた。 「しんのすけ!?」 ひろしとみさえ、ひまわりは急いでしんのすけに駆け寄り、ひろしが抱きかかえるが、 しんのすけは目を覚まさなかった。 「しんのすけ! おい! しんのすけ!!」 一方、松永管理官はもぬけの殻となった部屋をモニターから見ていた。 「もう一度ビースト振動波を照射すれば 彼が逃げる事まで、あなたには分かっていたのでは? イラストレーター。」 松永管理官の問いかけにイラストレーターのホログラムが現れて答える。 「おかげで彼の光のデータが取れたじゃないですか。」 今度はいつも通りに冷静な口調で話すイラストレーターを見て、 松永管理官は再び戸惑いつつも笑みを浮かべて頷くが、その目は笑っていなかった。 翌日、ナイトレイダーは新たなフォーメーションの訓練を開始していた。 クロムチェスターα、β、γ、そしてδの4機が空中を進む。 西条副隊長に和倉隊長からの通信が入る。 「西条! 準備は良いか?」 「大丈夫です!」 「よし。各機、ハイパーストライク・フォーメーションに移行!」 「了解!」 西条副隊長が号令を下す。 「セット! イントゥ・ハイパーストライクチェスター!!」 4機のクロムチェスターは合体、チェスター最強形態、ハイパーストライクチェスターとなった。 青空の下、街を一望できるビルの屋上に溝呂木がいた。 溝呂木は両手を広げて空を仰ぎ、宣言した。 「さぁ、始めようか。地獄の饗宴を…!」 溝呂木の前方に黒い闇を思わせる暗雲が広がっていった。 To be continued Episode 20 安息 −キュア− 世界UFO研究所。 M・Pに追われ、謎の中年の男に助けられた根来は 古びた小さい建物に連れて来られていた。 「大丈夫だ。あいつらなら、ちゃんと振り切ったからね。」 根来をかくまった48歳の温厚そうな男性、山田太一郎が得意気に話しかける。 「本当にそうなら嬉しいんだがね。」 ブラインドの隙間から辺りを伺いつつ根来が答えた。 「で、ここは何なんだ?」 根来の問いに山田が答える。 「世界のUFOを研究しているんだよ、ここで。」 「帰らせてもらうわ。」 根来が即効で部屋を出ようとするのを 21歳のラフな服装の男、広川武雄が止めた。 「まぁまぁまぁ。」 23歳のスーツの男、青野康も立ち上がって根来を止める。 「そう仰らずに。」 「そうですよ、僕らは根来さんの事を尊敬してるんですよ。」 「尊敬?」 青野の言葉に半信半疑な根来。 広川はノートパソコンを開いて根来に見せた。 そこには毎朝スポーツ新聞の一面を飾った根来の記事が載っていた。 「この記事、ネットを通じて世界に配信させてもらいました。大反響ですよ!」 「ん? そ、そうなのか?」 広川の言葉に思わず顔がほころぶ根来。 「我々の仲間からも続々と情報が集まっているんだ。これを見てくれ。」 そう言って青野が見せたファイルには様々な写真記事の切り抜きが収められていた。 『身長30センチの宇宙人』 『伝説の類人猿発見』 「南米で発見された身長30センチの宇宙人! スマトラの伝説の類人猿!」 意気揚々と写真を見せる青野。そこに山田がやって来る。 「あなたの記事のおかげで、こいつらの信憑性が今、改めて問い直されている。」 しかし、根来はファイルを閉じ、怒りをあらわにした。 「ふざけんなよ…。俺の記事が信用されないのは、 お前らみたいな連中がいるせいだろ!」 ファイルをテーブルに叩きつけ、根来は山田に掴みかかるが、 掴みかかられた山田は平然と話し始めた。 「じゃあ、聞くがね、根来さん。あなたが撮ったこの化け物と 私達のファイルに収められているこれらの未確認生物。 その違いは何だというんですか?」 「違い?」 「違いなんてありませんよ。 どちらも世間の大多数の人に存在を信じられていないという点では、ね。」 「そ…それは…、確かに…。」 根来が言葉に詰まったのを見て山田は笑みを浮かべて答えた。 「すぐには帰らずに話ぐらいはしていきましょうよ。 それにあなたは今、迂闊に外に出られないはずだ。」 昨夜、しんのすけが意識不明の状態で家に帰ってきて、 ひろし達はしんのすけを一晩中看病した。 そして夜が明けた頃にはしんのすけの熱も下がり、 安堵したひろしとみさえはうとうとと眠りに入った。 窓から差し込む朝日を顔に受けて目を覚ましたしんのすけは 辺りを見回し、眠るひろしとみさえを見つけ、 それぞれ水を染み込ませたタオルや体温計を手にしているのを見て、 みさえとひろしが自分を看病していた事を知り、 「ありがとう…。」 と呟くと、枕元に置かれているエボルトラスターとブラストショットを見つけ、 取ろうと体をひねるが、その時、ひろしが目を覚ました。 「お…、しんのすけ。目覚ましたか。」 「父ちゃん…。」 「良かった、無事で…。…心配かけさせんな! おい、みさえ。」 ひろしはみさえを起こし、みさえはゆっくりと目を覚ます。 「しんのすけ…。昨日あんたどこ行ってたの!? 親にこれだけ心配かけさせて!」 しんのすけを叱るみさえ。しかし、その顔にはどこか少し安堵感が混じっていた。 「昨日大変だったんだから。お医者さん呼ぼうかどうか迷ったんだけど…。」 「ごめん…。」 「…そんな事よりしんのすけ、どうしてあそこでぶっ倒れてたんだ?」 ひろしの問いにしんのすけは少し考えてから答えた。 「たぶん…、頭の中に浮かんだんだと思う…。ここが…。」 「え?」 「俺が知ってる情報はぜーんぶ話した。 今度はあんたらだ。ま、期待してないが、聞くだけは聞いてやるよ。」 世界UFO研究所。 根来の話を受け、青野が嬉しそうに話し始める。 「どれから話しましょうか。ロズウェル事件で軍に回収されたUFOの話か…、 アメリカ政府のUFOに関する機密文書であるMJ−12文書の話…。」 広川もそれに続ける。 「UFOによる誘拐事件、 エイリアン・アブダクションに関する話も…あったりなんかして。」 「あのなぁ…。」 思わず頭をかく根来。 すると、デスクに座っていた山田がおもむろに口を開き始めた。 「じゃあ…、与太話は止めて、 あんたの撮った写真の化け物の話でもしましょうか?」 「え?」 山田の言葉に思わず身を乗り出す根来。 山田はそのまま話し始めた。 「この写真の化け物…。TLTのつけた名称で呼ぶならば、異生獣スペースビーストが 初めて地球に現れたのは、今から約18年前、アメリカ、コロラド州でのことだった…。 そのビーストは一人の女性研究員を惨殺し、 その夫であり、同じく研究員だった男性も消息不明となった…。」 根来は山田の語りだした話に驚くが、その後に続けて広川が口を開いた。 「今から5年前に起こった新宿大災害…。 日本の首都である東京、新宿に巨大隕石が落下したと一般には言われていますが、 真実は違う。新宿大災害の真実…それは全長50mもの巨大生物と人間との戦い。 そして、この戦いは今も一般人に知られる事なく続いている。 根来さん、あなたが撮ったこの写真がその証拠ですよ。」 そう言って広川は根来が毎朝スポーツ新聞に載せた写真を見せた。 戸惑う根来に山田が話しかけてくる。 「TLTがどれだけ真実を隠蔽しようとしたとしても、 必ずどこかから情報は漏れているものだ。 そういう情報がネットワークの中では無数に存在しているんだよ。 拾い上げるのは容易ではないがね…。」 青野が続ける。 「無秩序な情報ネットワークの中では適度な冗長度を持たせた方が的確に伝わる。 いわゆるシャノンの情報理論って奴だ。先程のUFOの話のような、 70のデタラメな情報に30の真実を上手く混ぜて話す。 真実だけなら、すぐ揉み消されて終わってしまうがね…。」 続いて広川が来て話しかける。 「あなたを追っている連中、TLTのM・Pが私達を見逃してくれているのも、 私達が流すガセネタが隠蔽に役立つと思っているからなんですよ。 だから私達はその裏をかく!」 「あんたら…一体…。」 「言っただろう。あなたと同じく…TLTの存在を知って、 真実を明らかにしようとしている者だと…。」 驚き、戸惑いを隠せない根来を見て、山田は笑みを浮かべてそう答えた。 その頃、コマンドルームでは和倉隊長が ハイパーストライク・フォーメーションの訓練結果の報告をし、 続いて松永管理官がハイパーストライクチェスターについて説明を始めた。 「ハイパーストライクチェスターには、ハイパージェネレーターによる ハイパーストライクバニッシャーが装備されていましたが、今回はそれに加え、 ウルトラマンの破壊光線と同等の威力を持つバニッシャーが新たに搭載されました。 すなわち、ウルティメイトバニッシャーです!」 「すっごいわね! ウルトラマンの破壊光線と同じ威力だなんて!」 驚きの声を上げる平木隊員。 石堀隊員が質問する。 「しかし、よくあの破壊光線のデータを得られましたね。」 その質問に松永管理官は不気味な笑いを浮かべて答えた。 「はい。今までの戦いのデータに加え、 この度、素晴らしいデータが手に入ったものでね。」 その言葉に和倉隊長はしんのすけの事を思い出した。 「…まさか!?」 「おや? 察しがいいですね、和倉隊長。 捕獲した野原しんのすけを実験して得たデータです。」 松永管理官の答えにナイトレイダーは驚く。 「しんのすけ君を実験? どうしてそんな事をしたんですか!」 「西条!」 西条副隊長が立ち上がり松永管理官に詰め寄るが、 和倉隊長はそれを制し、代わりに自分が松永管理官を問い詰めた。 「松永管理官。…まさか上層部が野原しんのすけを捕えていたとは…思いもしませんでした。」 「そうですか、それは良かったですね。」 適当に流す松永管理官だったが、和倉隊長は意に介さず問い詰めた。 「管理官…。どうしてこのような事を…!」 「決まっているじゃないですか? 今回の件であなた方は強くなれる。 ウルトラマンの力が無ければ、我々人間はビーストに勝てない。滅ぼされてしまう!」 「我々はこれまで何度もウルトラマンに…、いえ、しんのすけ君に助けられています! その事は管理官にも十分理解していただいていると思っていましたが!」 「もちろん理解していますよ。ただ…私は職務に忠実なだけですよ。 人々を守るという…。あなたもそのはずだ、和倉隊長?」 和倉隊長が言葉に詰まったのを見て、 松永管理官は和倉隊長に向けて挑発的な笑みを浮かべるが、 和倉隊長は再び松永管理官の顔を睨み、口を開く。 「…管理官。あなたはウルトラマンを特別な存在だと思っているようですが、 そのウルトラマン、しんのすけ君も私達と同じ人間なんです! それを…!」 「和倉隊長。前々から思っていましたが、 ウルトラマンのことになると感情的になりやすいですね。 一度助けられたくらいでそんなに思い入れができるものですかね。」 和倉隊長は再び言葉に詰まり、 松永管理官は自分を睨む西条副隊長達の顔を一通り見て、一人部屋を後にした。 ある地下共同溝を二人の作業員が歩いていた。 「聞いたか? もう3人消えてるって。間違いなく何かいるんだ…。」 「ただの噂だって。いるわけないだろ? 人を喰う化け物なんて。」 「でもよく聞くじゃないか。ほら、5年位前だったっけ? 新宿の地下に化け物になった人間がいて…。」 すると、奥の方から呻き声が聞こえ、二人は思わず辺りを見回した。 その時、どこからか触手が伸びてきて、 一人の作業員を捕えて引きずりこんでいった。 「エリア1、ポイント723、地下共同溝にビースト振動波確認。」 イラストレーターの指示を受けてナイトレイダーが出撃準備を始める。 その時、イラストレーターの顔に驚きの表情が出た。 「待ってください! …もう一ヶ所、ポイント274にも同じ振動波を確認…。」 その言葉にナイトレイダー達のプロテクターを付ける手が止まった。 「同じビーストが二ヶ所同時に?」 驚く和倉隊長。不思議そうに顔を見合わせる隊員達。 その後、ナイトレイダーは和倉隊長、石堀隊員によるA班と 西条副隊長、平木隊員によるB班とに分けて出撃した。 一方、二ヶ所同時に現れたビースト振動波を分析した イラストレーターはある事を突き止めた。 「このビーストは特殊位相に隠れているのか。」 ポイント723に到着したB班の西条副隊長にA班の和倉隊長から通信が入る。 「西条、平木。そっちはどうだ?」 「ポイント723に到着しました。」 「了解。両ポイント共に都心に近い。ビーストを絶対に地上に出すな!」 「了解!」 通信が終わった後、西条副隊長は床に落ちている工具箱を見つけ、 その先に時限の歪みから伸びた触手に捕えられている一人の作業員を見つけた。 「た、助けてくれ…。」 作業員は息も絶え絶えな様子だったが、 人間が来た事を知って最後の力を振り絞って助けを呼んだ。 「あ! た! 助けてくれ! 頼む! たす…!!」 西条副隊長と平木隊員はすぐさまディバイトランチャーを撃ち、 触手をちぎって作業員を解放。 そのまま次元の歪みに照準を合わせるも、次元の歪みは閉じてしまった。 「大丈夫ですか!」 平木隊員は作業員に駆け寄るが、 そこにイラストレーターから新たな指示が入る。 「ポイント531に新たなビースト振動波確認。 ポイント274と723のビースト振動波は既に消滅しています。 和倉隊長以下、全員でポイント531に向かってください。」 「了解しました…。一体どうなっているんだ?」 ビーストの行動に疑問を持ちながらも和倉隊長は移動を開始した。 そして地上にある作業場では次元の歪みから伸びた触手が作業員を次々に捕えていった。 西条副隊長と平木隊員も移動を開始しようとした時、 西条副隊長のパルスブレイガーにある言葉が送られてきた。 『黙示録の始まりだ、凪』 その言葉を見て、送り主が何者かにすぐ気づいた西条副隊長の顔に怒りが表れる。 「黙示録…。溝呂木、今度は何を企んでいるの!」 「…行くんだな。」 しんのすけはエボルトラスターを手に取り、玄関に向かうが、ひろしに呼び止められる。 隣にいたみさえが話す。 「私達にはあんたが抱えているものの重さは分からない…。 でも…、あんたには安息の場所が必要…。違う?」 しばらく間をおいた後、しんのすけは答えた。 「ごめん…。」 扉を開けて外に出るしんのすけ。 「なんでだよ…。」 ひろしは声を震わせて呟くと、扉を開けて走り去ろうとするしんのすけに向けて叫んだ。 「しんのすけ、なんでだよ? なんで、お前一人だけが行かなきゃいけねぇんだよ!?」 その言葉にしんのすけは一瞬立ち止まり、 そんなしんのすけにシロがまるで行くなと言っているかのように吼える。 「オラは…もう誰一人巻き込みたくない…。 だから…、オラは…独りで戦う…。戦わなくちゃいけないんだ…!」 ひろし達とシロにそう言い残して、しんのすけは走り去っていった。 それを呆然と見送るひろしとみさえとひまわりとシロ。その時、後から声がした。 「やはり、奴は間違っている。人を超えた力の使い方をな。」 その言葉に驚いた三人と一匹が振り返ると、背後に言葉の主、溝呂木がいた。 一方、家族のもとから走り去ってきたしんのすけは 幼稚園の頃、マサオ達と過ごした近くの河原に来ていた。 「ここは…。」 しんのすけの脳裏にこの河原での多くの思い出が蘇る。 そして、しんのすけはエボルトラスターの鞘を引き抜こうと構えるが、 脳裏にイラストレーターとひろしの言葉がよぎった。 『しんのすけ、お前の体はもう変身には耐えられない。 今度変身したら…死ぬかもしれない…。』 『しんのすけ、なんでだよ? なんで、お前一人だけが行かなきゃいけねぇんだよ!?』 しかし、しんのすけはその言葉を振り切るかのように エボルトラスターを鞘から引き抜き、ウルトラマンに変身した…。 To be continued Episode 21 宿命 −サティスファクション− 家族のもとから走り去ってきたしんのすけは、 かつてマサオ達と過ごした思い出の河原でウルトラマンに変身、光となって飛び立った。 「離せぇ!! 離してくれぇ!!」 作業場では次元の歪みから伸びる触手に作業員が次々と捕らえられていった。 触手に引きずられながら一人の作業員が悲痛の叫びを上げる。 その時、天から巨大な光が地上に降り注ぎ、触手を砕いた。 触手から開放された作業員は驚いて辺りを見渡す。 その時、作業員のすぐ横で巨大な物体が大きな地響きと共に舞い降りた。 作業員が見上げると、それはウルトラマンの足であった。 「きょ…巨人?」 ウルトラマンは他の次元の歪み二ヶ所から 伸びている触手に捕えられた作業員を見て、パーティクル・フェザーで触手を切って、 セービングビュートで作業員を救出して安全な場所に移動させた。 そしてその巨体で驚く作業員達の上を駆け抜け、ウルトラマンは次元の歪みへと立ち向かった。 ウルトラマンはアンファンスからジュネッスにスタイルチェンジして メタフィールドを展開しようとしたが、 メタフィールドはおろか、ジュネッスにもスタイルチェンジ出来なかった。 戸惑うウルトラマンに向かって次元の歪みから触手が伸び、ウルトラマンの両手と首を捕えた。 「しんのすけ…。」 CIC。苦しむウルトラマンを見て、イラストレーターはやや涙目で祈るかのように手を組んでいた。 そこにナイトレイダーのチェスターが到着。 ウルトラマンを見て、和倉隊長が指示を送る。 「各機、攻撃開始! ウルトラマンを援護しろ!」 「了解!」 チェスターαとβの攻撃によってウルトラマンの首を捕えていた触手が、 続くγとδの攻撃によって両手を捕えていた触手が切られた。 しかし、触手は今度はチェスター目掛けて迫ってきた。 それを見たウルトラマンはすぐさまパーティクル・フェザーを撃って触手を撃退。 触手は次元の歪みに逃げ込み、そのまま次元の歪みも閉じた。 「逃げたのか?」 和倉隊長の疑問に石堀隊員が答える。 「ビースト振動波ディクリーズ。安全レベルです。」 石堀隊員の後ろに座っている平木隊員が叫んだ。 「見て! ウルトラマンが…!」 エナジーコアが点滅し、ウルトラマンはその場に膝をついてそのまま姿を消してしまった。 西条副隊長はそれを黙って見つめていた。 「大丈夫ですか?」 戦い終わり、ナイトレイダーは生き残った作業員に無事を確認していた。 「巨人が…! 巨人が私を助けてくれたんです!」 作業員の言葉を聞いて和倉隊長が答える。 「…分かっています。立てますか? 大丈夫ですね。」 そして作業員の無事を確認すると西条副隊長に小声で話しかけた。 「西条、しんのすけ君を探せ。まだこの近くにいるはずだ。」 和倉隊長の言葉を受け、西条副隊長は静かに頷いた。 森の中、しんのすけはフラフラになって歩いていたが、遂に力尽きて倒れてしまった。 「くっそ…。」 しんのすけは何とか立ち上がろうとするが再び地面に倒れ伏してしまった。 しんのすけが気がつくと、辺りは今までいた森の中から 黒い海の中に浮かぶ灰色の島に変わっていた。 島の周りにはおぞましい異形な岩が生え、 まるでこの世の終焉を表したかのような場所であった。 「ここは…?」 しんのすけは近くの岩に倒れている人達を見つけた。 「父ちゃん、母ちゃん、ひまわり、シロ!!」 その時、周りから闇が広がり、その闇はしんのすけに襲い掛かってきた。 「しんのすけ君! しんのすけ君、しっかり!」 西条副隊長は気を失っているしんのすけを抱き起こして、 何度も呼びかけ、やがてしんのすけは意識を取り戻した。 「西条副隊長…。」 「良かった。気がついて…。すぐ救急隊がくるから!」 「駄目だゾ。オラにはまだ…やらなくちゃいけない事が…。」 そう言ってしんのすけはフラフラながらも何とか立ち上がり、ストーンフリューゲルを呼んだ。 しかし、すぐさま力尽き両膝をついてしまった。その様子を見て西条副隊長が問う。 「どうしてそんなになってまで…? 一体何の為に?」 その問いにしんのすけはエボルトラスターを見て答えた。 「西条副隊長達の仕事って…、人々を…、この世界を守ることなんだよね…?」 そこにストーンフリューゲルが静かに舞い降りてきた。 「だから…オラも…。」 そう言うと、しんのすけは西条副隊長の所から離れ、 よろめきながらストーンフリューゲルへと向かっていく。 西条副隊長はそれを見て続けた。 「なら、一つだけ言わせてもらうけど…。 あなたはそのために、たった一人で全て抱え込むというの?」 西条副隊長の言葉にしんのすけは立ち止まる。 「…そんな体で戦えば、最悪の場合…あなたは死ぬわ…。本当にそれでいいの?」 「……。」 さらに問いかける西条副隊長の言葉に答えられないまま、 しんのすけはストーンフリューゲルに乗って、 空へ飛び立ち、西条副隊長はそれを黙って見送った。 その後のフォートレスフリーダムのコマンドルーム。 西条副隊長は静かにコーヒーを入れていた。 「隊長。どうして隊長はウルトラマンを信じたんですか?」 「え?」 「隊長はウルトラマン、しんのすけ君のことをどうして疑いもなく信じられたんですか?」 西条副隊長の質問に和倉隊長は少し考えてから答えた。 「それはたぶん…、俺が空自にいた頃、出会ったからだと思う…。ウルトラマンに…。」 「え?」 驚いて振り向く西条副隊長。和倉隊長は静かに話し続けた。 「かなり、おぼろげな記憶なんだが、同僚と緊急警報を聞き、出撃した時だ。 俺の乗っていた機体はマシントラブルを起こして先に基地に帰投し、 同僚の乗っていた機体は確認された未確認飛行物体と衝突したんだ…。 そいつは奇跡的に生還を果たしたが、 その後、新宿に化け物が現れ、そいつは銀色の巨人となって、その化け物と戦った…。」 「新宿…。」 西条副隊長はその話に新宿大災害のことを思い出した。 「最近続発している行方不明事件…。 この街の真下で何かとんでもねぇ事が起きているのは確かだ。俺はそれを暴きたい!」 世界UFO研究所。 根来の言葉に広川と青野が難色を示す。 「で、あの連中に見つからずに地下に侵入したいと?」 「どこもかしこも警戒厳重だね。入り込む隙も無い…。」 「どっか、秘密の入り口とか無いかな? …そんな都合よくあるわけ無いか。」 根来が肩を落とした瞬間、山田が笑みを浮かべて答えた。 「あるよ。」 「え?」 「とっておきのやつがね…。」 山田が見せたパソコン画面に根来他皆が見入った。 「見たまえ、東京の地下には帝都防衛を目的に掘られた秘密の通路が無数に存在する。」 「今回のビースト、コードネーム・クトゥーラによる 連続失踪事件は決して無作為ではなく、ある明確な意思をもって行われていたんです。」 コマンドルームではイラストレーターによって、クトゥーラに対する説明が始まっていた。 「明確な…意思?」 「インクリプション…暗号です。 クトゥーラの現在までの出現ポイントは6ヶ所。そのポイントを示す全ての数値を、 ゲマトリア解釈法で分析した結果、ある一文が導き出されました。」 「ゲマトリア…解釈法?」 世界UFO研究所でも広川によってビーストに対する説明が行われていた。 「ゲマトリア解釈法。古代ギリシアなどで発達した一種の暗号解読法ですよ。 全ての数値をアルファベットに置き換える事で隠された文章を探る事が出来る。」 「隠された文章?」 根来に向かって、広川がパソコン画面を見せる。 無数の数値がアルファベットに変わり並び替えられていく。 『七つ目の封印が解かれし時、深夜0時、闇の扉は開き、終焉の地へと通じる』 「終焉の地?」 平木隊員の質問に和倉隊長が答える。 「黙示録などに記された最終決戦の場だ…。」 「さすがは和倉隊長。溝呂木と同じく、そういう方面に詳しいですね。」 イラストレーターの言葉に和倉隊長の顔が曇る。 「黙示録…。」 溝呂木の事を思い出した西条副隊長の呟きにイラストレーターが反応した。 「そう、西条副隊長へのメッセージは単なる脅し文句ではなく溝呂木からの重要なヒントだった。 奴は大胆にもビーストが潜む特殊位相のゲートが開く正確な時間と場所を僕らに伝えていた。」 イラストレーターの説明を聞いた和倉隊長が怒りを露にする 「そんな事の為に…大勢の人間を犠牲に…!」 熱い和倉隊長の横で冷静な石堀隊員がイラストレーターに尋ねる。 「それで、七つ目の封印が解かれる場所は?」 イラストレーターは画面に今まで現れたクトゥーラの出現ポイントを示した。 「今までクトゥーラが出現したポイントは皆、 黙示録に登場する七つの教会の位置と一致します。 そこから考えてクトゥーラが現れる七つ目の場所、つまり最後の一ヶ所は…。」 イラストレーターが画面上を示した最後のポイントを見て西条副隊長は驚いた。 「新宿中央公園…!?」 その新宿中央公園。エボルトラスターに導かれてしんのすけが姿を現した。 しんのすけはズボンのポケットからエボルトラスターを取り出して見つめる。 「オラがやらなくちゃいけないんだゾ…。オラが…。」 自分に言い聞かせるように呟くと、 しんのすけは一つ大きな深呼吸をして、新宿中央公園に入っていった。 「ゲート開放時刻、午前0時まで後10分です!」 そして、深夜。ゲート解放時刻が迫る中、 フォートレスフリーダムではイラストレーターの指示の下、 クロムチェスターの発進準備が行われていた。 「クロムチェスター、テイクオフ! そのままストライク・フォーメーションに移行!」 和倉隊長の指示で各チェスターが発進し、α、β、γはストライクチェスターに合体、 ストライクチェスターとδの二機で新宿中央公園に向かった。 一方、根来はその新宿中央公園地下に広がる通路を進んでいた。 「おかしい…。ここはさっき通った場所だ。ええい! 一体どうなっちまってんだ!」 根来が苛立たしく懐中電灯で地図を見ていると、奥の方から不気味な呻き声が響いてきた。 「何だ? まさか…。」 その時、次元の歪みが現れ、中から伸びてきた触手が根来を捕まえて引きずった。 根来は近くにあった鉄筋にしがみつき、必死の抵抗をする。 「こんな所で死んでたまるかぁ!!」 しかし、触手の引きずる力に負け、鉄筋を離した根来は次元の歪みへ引きずり込まれていく。 その時、光弾が触手を断ち切り、根来は何とか九死に一生を得た。 驚いた根来が辺りを見回すと、階段の上、ブラストショットを構えたしんのすけがいた。 「しんのすけ…!?」 しかし、しんのすけは根来の言葉に答えずに警告した。 「根来さん。ここは危険だゾ。地上に戻ってください。」 「バカ言え! 俺だってジャーナリストの端くれだ。そう簡単に引き下がれるか。」 そう言って根来が再び先に進もうとすると、しんのすけは根来の足下にブラストショットを撃った。 「いいから、戻って! この先に行ったら…死ぬだけだゾ!」 振り返り、しんのすけの顔を見る根来。 「……。」 「……。」 「……。」 「……。」 しんのすけの悲壮な決意を読み取り、根来が一つ尋ねた。 「しんのすけ…、お前は…、お前は一体…?」 その時、再び次元の歪みが開き、複数の触手がしんのすけと根来に向かってきた。 戦うべきビーストの姿を見たしんのすけは顔を上げ、自分に言い聞かせるように答えた。 「オラは…戦わないと…。皆を守るためにも…行かなくちゃいけないんだ!!」 その言葉と共にしんのすけはエボルトラスターを鞘から引き抜いて駆け出し、心の底から叫んだ。 「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!」 エボルトラスターから放たれた光がしんのすけの全身を包み込み、 根来の眼前にウルトラマンが姿を現した。 ウルトラマンとビーストの触手との戦いをカメラに収めていく根来。 やがて触手は次元の歪みに逃げ、 それを追ってウルトラマンも次元の歪みへと姿を消した。 それを見送った根来はカメラを握り締めて呟く。 「これが…、俺が追い求めていた真実…。」 眠っていたひろしが目を覚ますと、 辺りは今までいた世界とは全く違う異様な世界、終焉の地だった。 「どこだここは…?」 ひろしは辺りを見回し、近くで眠っていたみさえとひまわりを見つけた。 「おい、みさえ! ひまわり!」 みさえとひまわり、そしてシロはひろしの声に目を覚ますと辺りを見渡した。 「ここは…?」 「これは悪い夢じゃないぜ。」 三人と一匹が声のする方を見ると、溝呂木が不敵に笑っていた。 「来たか。」 「え?」 みさえが溝呂木の見る灰色の雲の塊に目をやると、その中からウルトラマンが姿を現した。 「巨人?」 「あれだ…、みさえ! あれがあの時、俺を助けてくれた銀色の巨人だ!」 驚くみさえとひろしとひまわりとシロの前にウルトラマンが終焉の地に降り立った。 「あれが野原しんのすけだ。」 溝呂木の言葉に驚く三人。 驚く三人を横目に見て、溝呂木が語りだした。 「遥か宇宙から飛来した光。 奴はその光に選ばれ銀色の巨人、ウルトラマンとなった。 だが奴はその光の価値を分かっちゃいない…。」 ウルトラマンの周りから闇が広がり、 その中から様々な海洋生物と苦痛や絶望に歪んだ人々の顔とが入り混じり、 溶け合い、侵食しあっているかのような姿をしたビースト・クトゥーラが姿を現した。 ウルトラマンはクトゥーラに立ち向かうが、クトゥーラは触手でウルトラマンを捕えると、 エナジーコア目掛けて執拗に攻撃してきた。 さらにクトゥーラはウルトラマンを思い切り放り投げ、全身に闇を吹き付けていった。 苦しむウルトラマンのエナジーコアが点滅を始める。 「しんのすけ…。しんのすけー!!」 しんのすけの危機に叫ぶみさえ。 その横で溝呂木があざ笑うように喋った。 「これでウルトラマンの戦いは終わる。野原しんのすけはその役目を終えたのさ。」 笑う溝呂木。その横でひろしが怒りに拳を震わせながら叫んだ。 「ふざけるなよ…、てめぇ!!」 ひろしは溝呂木に殴りかかるが、いとも簡単に叩き伏せられてしまった。 そしてそんな溝呂木と三人と一匹の目の前で ウルトラマンのエナジーコアが心臓の鼓動が止まるように点滅が止まり、光が消え、 ゆっくりと倒れたウルトラマンの瞳からも光が完全に消え失せた。 その頃、ナイトレイダーは新宿中央公園を目指し、夜空を突き進んでいた。 イラストレーターの見る画面のタイマーが0になる。 「開け、闇の扉。」 イラストレーターの言葉と共に、新宿中央公園の森に巨大な歪みが発生した。 「突入せよ!」 和倉隊長の指示の下、ストライクチェスターとδは次元の歪みに突入。 次元の歪みを突き進む二機に凄まじい衝撃が襲ってきた。 「重力波抵抗30。二時の方向、位相エネルギー収束ポイントを探知!」 石堀隊員の言葉を受けて和倉隊長が指示を出す。 「分かった。左5度旋回。」 やがて周りの世界が変わっていき、 西条副隊長はかつて通ったメタフィールドに通じる世界の事を思い出した。 そして前方に激しい光が現れ、 その中に突入した二機はウルトラマンと同じ灰色の雲の塊から現れた。 「ここが…終焉の地?」 驚いて辺りを見渡すナイトレイダー。 西条副隊長は島の周りに生えているおぞましい異形なる角らしき岩を見て、 幼少期に会った、母を殺害した男の肩から生えていた角を思い出した。 黒い海を進む二機はやがて灰色の島を見つけ、 その島で一番高い岩に、両手両足と首を蔦に巻かれ、 十字架状に捕えられているもの、ウルトラマンを見つけた。 「ウルトラマン!?」 「しんのすけ君!!」 「…!」 磔にされているウルトラマンを見て驚くナイトレイダー。 和倉隊長は十字架状に捕らわれているウルトラマンに向けて叫び、 西条副隊長は黙って捕らわれているウルトラマンを見た。 「ようこそ、終焉の地へ。」 その声に和倉隊長がモニターに目をやると、 そこには不敵な笑みを浮かべる溝呂木が映っていた。 「溝呂木ぃ!!」 「ウルトラマンの敗北はこれから始まる聖なる儀式のほんのプロローグに過ぎない。」 「あなただけは…絶対に許さない!!」 怒りを露わにする西条副隊長に対し、 溝呂木は捕えていたひろしを引きずり出してきた。 「撃てよ。」 「ひろしさん!?」 西条副隊長が驚いた瞬間、クトゥーラが闇から現れ、触手で二機を捕えた。 「このビーストが触手の本体か…! フルパワーで脱出せよ!」 和倉隊長が指示を出すが、石堀隊員が答える。 「ジェネレーター出力低下! 脱出できない!」 「各機、発射可能な武器を全てビーストに集中せよ!」 「しかし、この状態での攻撃は…!」 「ビーストの気を逸らす! それだけでいい!!」 和倉隊長の指示を受けて、 二機は発射可能な武器を次々にクトゥーラに向けて発射するが、 溝呂木はそれを見てあざ笑った。 「和倉、無駄な足掻きは見苦しいだけだ。」 一方、攻撃を受けたクトゥーラは二機を岩にぶつけようと触手を大きく振りかぶった。 それを見た溝呂木がまだ早いという感じで呟いた。 「待て。まだ殺すな。」 溝呂木の言葉を受けてクトゥーラが攻撃を止めた隙を和倉隊長は見逃さなかった。 「西条! 今だ!!」 「了解!」 西条副隊長操縦するδがストライクチェスターを捕えている クトゥーラの触手に照準を合わせ、クワドラブラスターを放った。 クワドラブラスターによって触手を切られ、ストライクチェスターは脱出。 今度は平木隊員操縦するストライクチェスターが δを捕えているクトゥーラの触手に照準を合わせ、ストライクバニッシャーを放った。 δも脱出し、和倉隊長が素早く指示を送る。 「西条、ハイパーストライク・フォーメーションだ!」 「了解!」 ストライクチェスターとδはハイパーストライクチェスターに合体。 そして、 「西条、ウルティメイトバニッシャー発射!」 「了解! 砕け散れぇ!!」 西条副隊長がウルティメイトバニッシャーを発射。 それを受けてクトゥーラは光の粒となった。 「今だ!」 溝呂木がナイトレイダーとクトゥーラの戦いを見ている隙に、ひろし達は溝呂木に突撃。 地面に倒れた溝呂木にみさえがグリグリ攻撃を仕掛けるが、 溝呂木はすぐさまみさえの手を払いのけダークエボルバーで反撃。 「みさえ! …てめぇ!!」 みさえが倒されたのを見てひろしは靴を脱ぎ、立ち上がった溝呂木の口にその靴を当てるが、 逆にダークエボルバーで攻撃され、吹き飛んだ。 気絶したみさえとひろしに目をやり、口を拭ってむせた後、 溝呂木はハイパーストライクチェスターの方を見て再び不敵な笑みを浮かべた。 「やるねぇ。だがやはり無駄な足掻きだ。」 そう言って溝呂木はウルトラマンに向かって ダークエボルバーを掲げ、大きく両手を広げた。 「冥府よ、動け!」 溝呂木の言葉と共に、ウルトラマンに巻きついていた蔦が伸び始め、全身を覆い始めた。 「闇の波動…。この蔦がウルトラマンの全身を覆い尽くした時、 野原しんのすけの生命の光は完全に消え失せる。 その瞬間、奴に同化していた光はこの終焉の地に解き放たれる。 俺はその光を奪い! 無敵の超人となって! 世界を思うがままに動かしてやる! より高き者! より強き者! より完璧なる者として! フフフフフフハハハハハアハハハハハ!!!」 To be continued Episode 22 絆 −ネクサス− 終焉の地での溝呂木の高笑いと連動して、地上では次々と停電が起きていた。 それをコマンドルームのモニターで見ていた松永管理官に戦慄が走る。 「溝呂木の特殊振動波が地上にまで…。」 「溝呂木の儀式が本当に黙示録の実践だとしたら…。秩序は確実に崩壊するでしょう。」 松永管理官が振り向くとイラストレーターのホログラムが立っていた。 「でも…。」 「でも?」 「僕の見る未来はまだ混沌の中にある。光はまだ完全にその輝きを失ってはいません。」 その頃、傷付いたしんのすけは一人、闇の中に浮かんでいた。 しんのすけが力無く前を向いた時、闇の彼方から光が自分に向かって迫ってきた。 終焉の地ではナイトレイダーがチェスターから降りて溝呂木を取り囲んでいた。 「溝呂木…、ゲームは終わりだ。」 和倉隊長の言葉に溝呂木がバカにしたような口調で答える。 「どうかな?」 次の瞬間、溝呂木は天高く舞い上がり、 ナイトレイダーは溝呂木に向けてディバイトランチャーを構えるが、 溝呂木はダークエボルバーから闇の光弾を撃って、石堀、平木隊員を次々に倒していった。 「溝呂木ぃ!!」 和倉隊長がディバイトランチャーを撃とうとするが、 溝呂木は地上に降り立ち、 素早く懐に入り込んでダークエボルバーで和倉隊長を弾き飛ばした。 その直後、溝呂木にディバイトシューターが向けられ、 溝呂木もすぐさまダークエボルバーをその相手、西条副隊長に向けた。 互いに構え合う西条副隊長と溝呂木。 「腕を上げたな…。さすがは俺が見込んだ女だ…。」 「ふざけないで! ビーストに成り果てた男が!」 「…もう一度だけ聞く。俺の仲間になる気は?」 「なら言うわ。死んだ方がマシよ!」 迷い無く毅然と答える西条副隊長に対し、 溝呂木はかすかにうろたえを滲ませていた。 「…だったら死ね。」 溝呂木はディバイトシューターを握る西条副隊長の腕を払いのけ、 ダークエボルバーを西条副隊長目掛け、振り下ろそうとするが、 その時、背中に衝撃を感じて体勢を崩した。 溝呂木が見ると、立ち上がった和倉隊長がディバイトランチャーを構えていた。 「ほぉ、やれよ和倉。この俺を倒せるものならな。」 そう言って溝呂木はダークエボルバーを構えた。 「俺はもう、お前や凪みたいな脆弱な人間とは違う…。メフィスト!」 ダークエボルバーを左右に引き抜き、溝呂木はメフィストに変身した。 「撃てぇー!!」 和倉隊長の指示の下、ナイトレイダーがメフィストに向けて 一斉にディバイトランチャーを撃つが効果が無い。 一方、西条副隊長はその間にみさえ達を救出しようとするが、 それに気づいたメフィストはダークレイフェザーを撃って妨害してきた。 状況を不利と見た和倉隊長が指示を出す。 「各員チェスターに搭乗!」 「了解!」 ナイトレイダーはハイパーストライクチェスターに搭乗。メフィストと対峙する。 「西条、ウルティメイトバニッシャーだ!」 「了解!」 西条副隊長はメフィストに向けて ウルティメイトバニッシャーを撃つが、直撃しても効果が無く、 逆にメフィストはダークレイフェザーをハイパーストライクチェスターに向けて撃ってきた。 ダメージを受けるハイパーストライクチェスター。 「まだだ…!」 呟く和倉隊長。西条副隊長はハイパーストライクチェスターから 磔にされたウルトラマンを見ながら、操縦桿を強く握りしめた。 一方、しんのすけは自分に迫り、自分を包む光の中にダメージを受けても、 決して諦めることなくメフィストに立ち向かうナイトレイダーの姿を見た。 「皆…。ウルトラマンがいなくても…。」 しんのすけはそれを見た後、エボルトラスターを見て少し諦めを含んで呟いた。 「オラ…、こんなとこで…このまま…このまま死ぬのかな…?」 「しんちゃん…。」 その時、背後から自分を呼ぶ声が聞こえ、 その声のした方にしんのすけが振り返ると、そこにはつばきがいた。 「つばきちゃん…!?」 しんのすけはつばきを見ると、驚きつつも話しかけた。 「つばきちゃん…。本当に、本当にあの時の…つばきちゃんなの?」 「うん…。しんちゃん。私はあなたが忘れている一番大切な光を伝えに来たの…。」 「オラが忘れている…一番大切な光…?」 つばきはしんのすけの言葉に頷き、 それと同時にエボルトラスターが明滅を始め、 しんのすけの目の前ににストーンフリューゲルが降臨した。 つばきの頷きを受け、 しんのすけは初めての時と同じようにストーンフリューゲルに手を触れた。 そして、膨大な光と共にあるイメージが、辺り一面に解き放たれた。 「これって…。」 その光景に驚くしんのすけ。 しんのすけの見た光景。 それは、自分が今まで出会った人々、自分が今まで多くの事件で出会った人々であった。 ひろしやみさえやひまわり、シロというかけがえのない家族。 風間やマサオ、ネネやボーなどのかけがえのない親友。 ハイグレ魔王が異世界の地球に侵攻した時、 出会ったその世界のアクション仮面やブリブリ王国のスンノケシ王子。 吹雪丸。トッペマ・マペット。玉ゆら三兄弟達。 ぶりぶりざえもんと秘密組織、SMLの2人。 秘密組織、温泉Gメンの3人。青空侍、井尻又兵衛由俊。そして、つばき。 その他、自分が今まで出会った多くの人々が映し出された。 「オラが今まで出会った人達…。」 「そう、しんちゃんは今までこんなにたくさんの人達と出会ったの…。 その人達との思い出と絆を絶対に忘れないで…。」 「絆…。」 しんのすけの言葉と共に辺り一面に 再びひろし、みさえ、ひまわり、シロ、風間、マサオ、ネネ、ボーが映る。 「そうだ…。オラは一番大切な…忘れちゃいけないことを忘れてた…。 オラには、オラのことを想ってくれてるこんなに多くの人達がいるんだってことを…。」 そう呟きながら、新しくあいとナイトレイダーのメンバーも 映し出したそれらを見つめるしんのすけ。 「でも…、しんちゃんはその人達に 支えられていただけじゃなくてその人達を支えてもいたの…。」 つばきの言葉と共に周りに再び今までの事件で出会った人々が映し出されるが、 先程とは違い、それにはしんのすけも一緒に映っていた。 「これだけ多くの人達がしんちゃんの明るさに、 しんちゃんとの絆に…支えられていた…。 逆境の中にあって、挫けそうになりながらも、しんちゃんとの絆に支えられた人達が、 しんちゃんと出会った事で、変わることのできた人達がたくさんいることも忘れないで…。」 今までの事件で出会った人々。 その中には、しんのすけと出会ったことで呪いが解けたメモリ・ミモリ姫や しんのすけを含めた野原一家と出会ったことで家族の絆に気づいたSMLの2人。 オトナ帝国事件のケンとチャコ。 そして、あの時、しんのすけ達が未来を取り戻そうとしている姿を見た人々。 しんのすけと出会ったことによって自分の想いに気づいた廉姫などがいた。 「そっか…、今まで、皆はオラと…そして、オラは皆と一緒に戦っていたのか…!」 呟くしんのすけに頷くつばき。 「しんちゃん…。私も…しんちゃんに支えられた人の一人…。」 「え?」 その言葉と同時に周りにしんのすけと一緒のつばきが映り、 つばきはそれを見て、かつての出来事を思い出しながら答える。 「映画の中で私は、ずっと独りぼっちだった…。 映画の中の太陽がずっと昇っていても、 独りぼっちだった私には周りの世界が暗く感じられたの…。 でも、しんちゃん達と出会えて…、しんちゃんと一緒に過ごせて…、 独りぼっちじゃなくなった私には…、初めて世界が明るく輝いて見えた…。 しんちゃんとの絆が私に光を与えてくれたの…。 だから、ウルトラマンはあなたを受け継がれてきた自らの光の継承者として選んだ…。 そして、私もその恩返しとして、あなたに光を手渡す役目を引き受けたの…。 それはウルトラマンの光だけじゃなくて…、人と人との絆っていう一番大切な光も…。」 「絆っていう光…。」 しんのすけの呟きに頷くつばきの姿は、だんだんと薄くなっていった。 しんのすけはつばきに近寄る。 「つばきちゃん…!」 「しんちゃんと出会えて本当に良かった…! ありがとう…。守ってあげて、今までしんちゃんが出会った大切な人達を。 そして守って、私が生きたこの世界を、 しんちゃんが出会った人達の生きているこの世界を。その力で…。」 そしてつばきは完全に姿を消した。 つばきの言葉を受け、しんのすけは力強く頷き、答えた。 「オラは生きる…! この世界を、 この世界に生きている皆を守るために…、オラは戦う…!」 しんのすけはエボルトラスターを地面に突き立て、 ゆっくりとその鞘を少しだけ抜いて、一言呟いた。 「金打…。」 再び鞘に収めたエボルトラスターから眩い光が溢れ出し、 しんのすけはその光に包まれた。 その頃、ナイトレイダーはハイパーストライクチェスターに乗ってメフィストと対峙していた。 「喰らえ!」 西条副隊長はメフィストに向けてウルティメイトバニッシャーを撃とうとするが、 その前にメフィストはダークレイフェザーを ハイパーストライクチェスターに向けて撃ってきた。 再びダメージを受けるハイパーストライクチェスター。 その時、磔にされていたウルトラマンのエナジーコアが光り輝いた。 それに気づいたメフィストが振り返ると、ウルトラマンがゆっくりと動き始め、 全身を覆っていた蔦が一斉に火花を散らし、粉々に消え去った。 「何?」 驚くメフィストの前で闇の波動から解放されたウルトラマンが大地に降り立つ。 「ウルトラマンが…!」 「しんのすけ君!」 ウルトラマン復活に沸き立つナイトレイダー。 そして目を覚ましたひろし、みさえ、ひまわり、シロもウルトラマンの姿を見て安堵した。 しかし、ウルトラマンのエナジーコアと目に光はまだ完全に宿っていなかった。 何とか立ちながらもフラフラであるウルトラマンの首根っこをメフィストが掴む。 「力とは…他者を支配し、圧する為にある…。 それに気づけぬお前が…俺に勝てるはずが無い!」 そう叫んでメフィストはウルトラマンを殴りつけ、蹴り飛ばした。 力無く吹き飛ばされていくウルトラマン。 そこにハイパーストライクチェスターがやって来た。 「第2、第3エンジン復調!」 「ハイパーエネルギー充填! …次の一撃が最後です!」 平木隊員と石堀隊員の報告を受けて、 西条副隊長がウルティメイトバニッシャー発射準備を進める。 「奴の弱点を見つけ、そこに撃ち込むしか勝機は無い!」 少し迷った後、和倉隊長がイラストレーターに尋ねた。 「CIC、教えてくれ。最後の一発をどこに撃つべきかを!」 その問いにイラストレーターが静かに答える。 「ウルトラマンの胸にある…エナジーコアを撃ってください。」 「ウルトラマンを!?」 「まさか…!?」 イラストレーターの言葉に驚くナイトレイダー。 松永管理官も驚いてイラストレーターの顔を見るが、 イラストレーターは笑みを浮かべた顔で答えた。 「ウルティメイトバニッシャーは ウルトラマンの破壊光線の光電子マトリクスを基に作られました。 組成データを修正すれば純粋なエネルギーとして還元できる。つまり…。」 「ウルトラマンに力を与えられる…?」 「ただし狙いは正確に。少しでも中心を外せば意味がありません。」 イラストレーターの言葉に和倉隊長は覚悟を決めたように頷いた。 通信を受けて、ナイトレイダーはさっそくウルトラマン復活に向けて準備を始める。 「修正データ受信!」 「エネルギー変換完了!」 平木隊員と石堀隊員の報告を受けて、 西条副隊長は静かにエナジーコアに照準を合わせる。 (しんのすけ君…。私がかつてあなたに対して 犯した過ち…。それに今、私なりのケリをつけるわ…。) そして、 「…立て! ウルトラマン!!」 力強くトリガーが引かれ、西条副隊長によって撃たれた ウルティメイトバニッシャーは真っ直ぐウルトラマンのエナジーコアに命中した。 予想外の事態に驚くメフィストとひろし達。 そしてウルトラマンはウルティメイトバニッシャーの威力に押されて吹き飛ばされてしまった。 倒れたウルトラマンを見てナイトレイダーに不安が駆け巡った。 「まさか…。」 西条副隊長が最悪の事態を心配したその時、ウルトラマンの全身から光が溢れ出て、 やがてエナジーコアと目に光が宿り、ゆっくりと、しかし力強く立ち上がった。 それを見てナイトレイダーは喜び、ひろし達はホッと胸を撫で下ろした。 ウルトラマンはアンファンスからジュネッスにスタイルチェンジし、 メフィストに向かって力強く構えを取った。 「馬鹿な!? お前の光はもう完全に消えかけていたはずだ!」 動揺を隠せないメフィストはメフィストクローを展開し、 ハイパーメフィストショットを放つが、 ウルトラマンは左腕のアームドネクサスでハイパーメフィストショットの闇を受け止めた。 メフィストは攻撃を続けるがウルトラマンはそれら全ての攻撃を受け続けていく。 「この力は絶対に希望を捨てない人達の為にある! それに気づけないお前が勝てるはずが無いゾ!」 そう言ってウルトラマンは受け止めた闇を光に変換、 スピルレイ・ジェネレードとしてメフィストに撃ち返した。 スピルレイ・ジェネレードの爆発の中からメフィストがゆっくりと姿を現す。 「希望…? 笑わせるな!」 終焉の地の大地に対峙するウルトラマンとメフィストを 上空で待機しているハイパーストライクチェスターが見守る。 「俺は無敵だ!! 断じて負けはしない!」 そう叫んでメフィストはウルトラマンに飛びかかり、 ウルトラマンとメフィストは激しい肉弾戦を繰り広げながら上空へと飛び上がっていった。 ウルトラマンはメフィストを殴り飛ばすと、 メフィスト目掛けて体当たりするが、蹴りで突き放され、地上に向けて蹴り落とされる。 メフィストは墜落していくウルトラマンから目を放し、 地上で心配そうに戦いを見守るひろし達に目を向け、 ひろし達目掛けて、ダークレイ・クラスターを放つ。 それに気づいたウルトラマンはダークレイ・クラスターの闇の光弾の前に立ち塞がるが、 闇の光弾は無数に分裂、ウルトラマンを避けてひろし達目掛けて降り注ぐ。 ウルトラマンはすぐさま方向転換、ひろし達の前に降り立ち、 サークルシールドを展開してダークレイ・クラスターを防いだ。 そしてひろし達は守られるようにウルトラマンの背後に身を寄せた。 雨あられの攻撃を防ぎきり再び飛び立とうとするしんのすけにひろしが叫ぶ。 「しんのすけ! 俺はお前やみさえやひまわり、シロ、 皆とこれからも一緒に元気で暮らすことが夢なんだ! …だから、しんのすけ。絶対に…絶対に生きて帰って来い!!」 その言葉に立ち止まるしんのすけ。やがてひろしの方を振り向き、力強く頷いた。 そしてそれを見たひろし達も黙って頷き、しんのすけを見送った。 ひろしたちにしばしの別れを告げて再び戦いに飛び立つしんのすけ。 そんなしんのすけの前には、西条副隊長達の乗るハイパーストライクチェスターが見えた。 「ウルトラマンを援護する! 全ミサイル発射!」 「了解!」 ハイパーストライクチェスターは全ミサイルをメフィスト目掛けて撃つが、 メフィストはダークレイ・クラスターを撃ってミサイル全てを迎撃。 スパイダーミサイルの爆発の中から姿を現し、ナイトレイダーに向けて突撃してくる。 「西条! 来るぞ!!」 「了解!」 猛スピードで突撃してくるメフィストに対し、 西条副隊長はハイパーストライクチェスターをかわそうとするが、 そこに地上から猛スピードでウルトラマンが突っ込んできた。 ウルトラマンに殴り飛ばされたメフィストは、全身にエネルギーを溜め、 ウルトラマンもオーバーレイ・シュトロームの構えを取る。 そして、メフィストは最強の光線技・ダークレイ・シュトロームを放ち、 それと同時にウルトラマンもオーバーレイ・シュトロームを放った。 両者の光線が空中で激突。辺りを衝撃が襲う。 その隙をついて、ハイパーストライクチェスターは 地上にいるひろし達を救出、再び上空に飛び立った。 「あ、あなたは!?」 ナイトレイダーの制服を着ている西条副隊長を見てひろしが驚く。 「話は後でします! とにかく今はここから離れないと。」 「そうね。…しんのすけ。」 ウルトラマンのオーバーレイ・シュトロームは 少しずつメフィストのダークレイ・シュトロームに競り勝ち始めていた。 「よし! このまま押し切りさえすればいけるぞ!」 ハイパーストライクチェスターの中、ひろしが叫ぶが、 メフィストはそんな状況にありながらも余裕の笑みを浮かべた。 「これがお前の力か…。やはり脆弱だな。見せてやろう…、これが俺の力だ!」 その言葉と共にメフィストは全身に力を込め、ダークレイ・シュトロームは更に威力を増し、 一気にオーバーレイ・シュトロームを押し返すとそのままウルトラマンに命中した。 「しんのすけ君!」 「しんのすけ!」 ナイトレイダーとひろし達の叫び声が響く中、メフィストが勝利に高笑いする。 「終わりだ、野原しんのすけ。お前は今まで自分の命を省みなかった。 そんな奴が戦いに勝って生き延びられるわけがない。」 ダークレイ・シュトロームを受けて落下していくしんのすけに向かって溝呂木はそう呟いた。 コアゲージが点滅し、力無く落下していくウルトラマン。 やがてジュネッスからアンファンスに戻り、目とエナジーコアの光も弱くなっていった。 しかし、ウルトラマンの中にあるしんのすけの意識は死んではいなかった。 「オラはこんなところで終わったりしない…! 皆のためにも…、オラは負けられない…。絶対に…。」 その時、しんのすけの脳裏に今まで自分が出会った人達が映る。 「絶対に…諦めるか!!」 しんのすけが叫んだその時、ウルトラマンの目の光が再び強くなり、 完全に光を取り戻したエナジーコアは、辺り全てを包むような眩い光を解き放っていった。 エナジーコアから発せられる光はウルトラマンの全身を包み込み、 全身光輝くウルトラマンは落下を止め、上空のメフィストと向かいあった。 「ウルトラマンが…!?」 「しんのすけ君!!」 「しんのすけ…。」 ナイトレイダーとひろしたちが見守る中、 コアファイナルの状態になったウルトラマンはしんのすけの真のジュネッス形態、 青い巨人・ジュネッスブルーの姿へと真のスタイルチェンジを果たした。 「何!?」 驚くメフィストを見上げ、ジュネッスブルーの姿となったウルトラマンは 右腕に新たに装備されたアローアームドネクサスから 眩い光の弓・アローレイ・シュトロームを放った。 驚くメフィストは再びダークレイ・シュトロームを放つが、 ダークレイ・シュトロームはアローレイ・シュトロームに簡単に押し返されてしまった。 「バカな!! 俺は! 俺は…!! 俺は死…。」 アローレイ・シュトロームは高速でメフィストを貫き、背後にある岩を真っ二つに裂いた。 次の瞬間、メフィストは爆発の中に消えていった。 その直後、終焉の地全体を大きな揺れが襲い、至る所で崩壊が始まった。 「終焉の地が…壊れていく…?」 「直ちにこの世界から脱出せよ!」 ハイパーストライクチェスターは元来た灰色の雲の塊に向かうが、 既に終焉の地と地上とを結ぶ闇の扉が完全に閉ざされようとしていた。 「このままでは終焉の地に閉じ込められることに…!」 和倉隊長が叫んだその時、皆の目の前にウルトラマンが現れ、 閉ざされようとする闇の扉を全身で食い止め始めた。 しかし、それを阻むかのように終焉の地の至る所から爆発が起き、 その爆発と炎はウルトラマンとハイパーストライクチェスターを包み込まんとした。 「しんのすけ!」 「しんのすけ君!」 ひろし達とナイトレイダーが叫んだ時、 ウルトラマンはひろし達とナイトレイダーの方を見て頷いた。 「光は絆…。だから、大丈夫! 皆、オラを信じて待っててくれ!」 「しんのすけ!!」 ひろし達は脱出するハイパーストライクチェスターからしんのすけに向かって叫び、 しんのすけは光に包まれながらそれを見送った。 そして、新宿中央公園の次元のゲートからハイパーストライクチェスターが飛び出すと同時に 闇の扉は完全に閉ざされ、辺りに一際大きな衝撃が走り、やがて静寂が訪れた。 「しんのすけ君…。」 「しんのすけ…。しんのすけーーーーーーー!!!」 既に閉じた闇の扉のあった場所を見て、ひろし達は叫び、 西条副隊長は一人呟き、和倉隊長は静かに敬礼をした。 その頃、根来は新宿中央公園地下に広がる通路を肩を落として歩いていた。 その時、背後で大きな衝撃が起きた。 「しんのすけが…。」 「根来さんだったかしら?」 その声に根来が振り返ると大原リーダーが現れた。 「前に何度か会ったわね。それに、何度か私達の事を覗き見していた。」 「えぇ? そうだったっけなぁ…。」 とぼけて根来は大原リーダーから逃げようとするが他のM・Pが現れて周りを囲んでいた。 「くそぉ! やっと最高の写真を撮ったってのによぉ! やっと…真実に辿り着いたってのに!」 悔しがる根来に向かって大原リーダーが近づいていく。 「あなたの真実と私が守るべき真実はまったく別のものなの。」 「バカを言え! いつの時代だってなぁ! 真実は一つだ!」 そう叫んで根来はM・Pを振り切って逃げようとするが、 そこに隠れていた他のM・Pが立ち塞がる。 根来はそのM・Pも振り切って逃げようとするが遂に捕らえられてしまった。 「俺は諦めねぇぞ! 必ず真実を明らかにしてやる! 例え記憶を消されても…絶対にな!!」 そんな根来に向かって大原リーダーがメモレイサーを光らせた瞬間、 根来も最後の抵抗でカメラのフラッシュを焚いた。 メモレイサーの光によって根来は気を失って倒れた。 しかし、 「大原リーダー?」 一人のM・Pが大原リーダーがメモレイサーを握ったまま固まってしまっている事に気づいた。 記録を残すカメラのフラッシュの光を浴びた大原リーダーはそのまま気を失って倒れてしまった。 「大原リーダー? 大原リーダー! 早く救急隊を!」 「…? ここは…?」 そして、その後、しんのすけは光の水に包まれた空間で目を覚ました。 光の水を漂うしんのすけが辺りを見回すと、 目の前に銀色の巨人・ウルトラマンがおぼろげながら姿を現した。 「ウルトラマン…?」 ウルトラマンを見つめて呟くしんのすけ。 そんなしんのすけの脳裏にウルトラマンがテレパシーで語りかけてきた。 『野原しんのすけ…。私の使命のために君の体を傷付けてしまい、 その上、こんなことになってしまって…すまない。』 謝るウルトラマンにしんのすけは笑顔で返す。 「いいって、いいって。オラも…あんたと出会って忘れてたことに気づいたから…。」 『忘れていたこと?』 「うん。皆との絆だゾ…。オラさ…、自分が頑張らなくちゃいけないんだって思って…。 知らないうちに一人で抱え込んでた…。 でも…、それが逆に父ちゃんや母ちゃん、ひまわりやシロ…。 皆を心配させてるってことにようやく気づいたんだ…。 オラは一人じゃなくて…皆と一緒に戦ってたんだってことに…。」 『……。』 しんのすけの話をウルトラマンは黙って聞いていたが、既にある事を決意していた。 「だから…。オラ…、あんたと出会ったこと…後悔なんてしてないゾ。」 軽い感じで答えるしんのすけ。そんなしんのすけを見てウルトラマンが尋ねる。 『野原しんのすけ…。本当に…後悔は…ないか?』 その問いにしんのすけはしばし黙り、顔を曇らせて答えた。 「うーん…。あんたと出会ったことは後悔してない…。でも…。」 『……。』 「でも…、オラ…皆にオラを信じて待っててってて言っちゃったし…。 それにせっかく大切な事を思い出したのに…、 こんなところで終わるなんて…オラ、やっぱり嫌だゾ。」 ウルトラマンを真っ直ぐ見てそうしんのすけはそうはっきりと答え、 そんなしんのすけにウルトラマンは頷いて答えた。 『野原しんのすけ…。』 「ん?」 『私も今、分かった…君を選んで正解だったと…。』 そして、ウルトラマンの姿は消え、しんのすけは膨大な光に包まれた。 数日後、しんのすけの思い出の河原には かつてまたずれ荘の住人だった現・劇団四毛女優、役津栗優が座っていた。 「あ、優ちゃん!」 声の聞こえた方向に優が振り返ると、 そこにはかつてのまたずれ荘の住人達が集まっていた。 「すみません。皆さん、色々と忙しいのに…。」 「いや、いいって、いいって。むさえさんの仕事が丁度休みだったし。」 四郎が笑顔で答え、続いて元ギャルママの靴底厚子が答える。 「あたしも今日は暇だったしね。」 再び四郎が口を開く。 「にしても、珍しいよな。優ちゃんが皆のこと呼ぶなんて。」 「ちょっと、野原さん達のことを話したくなって…。」 「野原さん達か…懐かしいなぁ…。」 元張り込みの刑事だった汚田急痔が感慨深そうに呟く。 その後、優はバッグの中からアルバムを取り出し、 またずれ荘にいた頃の自分達と野原一家が写っている写真を皆と一緒に見る。 「懐かしいな…またずれ荘…。」 四郎が呟き、優が頷く。 「あの頃って、なんだかんだ言って楽しかったですよね。もちろん、今も楽しいけど、 この頃…野原さん達と一緒にいた頃はなんだか不思議なくらい楽しかったなぁ…。」 「色々なトラブルが起きていましたしね、あの頃のまたずれ荘は。」 汚田が思いを馳せながら呟く。 「その主な原因になっていたのが…。」 四郎が呟き、 「しんちゃん。」 と皆同じことを同じタイミングで口に出してしまい、笑いがこぼれる。 「本当、しんちゃんには困らされたな…。」 「そうそう、僕なんか受験勉強の時に何度邪魔されたことか…。」 「でも、私なんかはしんちゃんのさりげない一言で 自分に本当に足りなかったものが分かって、それでオーディションに合格できたんです。」 「へぇ、そうだったんですか。」 汚田の言葉に優が頷く。 「そして、最近思うんです。しんちゃんのおかげで 今の自分があるんだなぁって…。感謝してるんです。」 「しんちゃん、今もあんな感じで元気にしているって思う?」 四郎の問いに優はアルバムを見ながら笑顔で答えた。 「はい。きっと…。」 そして、優達が話している河原の近くの道を 一人の少年が青いマウンテンバイクに乗って、勢い良く走り抜けていった…。 To be continued |