トップ小説作成者・千秋さん


時間は午後の9時。夏の夜でも真っ暗だ。そこに浮かぶ月は今日はやけに
はっきりと、キレイだった。今日は良い日だったと思う。

ドアを開けようと手を伸ばす。
優しく強い光に塾帰りの僕は照らされた。
僕はその光の方に顔を向ける。
月だ。
異常なまでの光を放つ。それはもう太陽と同じくらい・・・いや、それ以上の光を
放ち、この世界を急に照らし始めていた。その光はだんだん熱を帯び始めていた。

「暑いな・・・。なんだ、この光。」
暑さにも構わず僕は月が放つ不思議な光に吸い寄せられるように
ドアに背を向けて歩き始めた。そのとき、僕はハッとした。
マンションの9階から見えた光景に息を飲んだ。道路に溢れかえる人の波。
彼らは、同じ方向を目指していた。そう、月が放つ光に向かって。
暑さも気にならないのだろうか。
僕はまだ知らなかった。その波の中に自分の両親がいることを。

僕はようやくその光景を”異様”な光景だと気づいた。
心臓の鼓動が大きくなるのが聞こえて怖くなり、ドアを開けて家の中に入った。
「ただいま!ママ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
家は沈黙を守っている。
「ママ?どこなの?!僕だよ!トオルだよ!」
不安になった僕は家中探し回った。・・・が。誰もいなかった。
全身から血の気が引いていく。心臓の鼓動だけしか聞こえなくなった。
頭の中が真っ白になり、目の前の景色がだんだんぼやけていく。
僕は自分の体に起きた異変に気づくこともなく、その場に倒れこんだ。

ドンドンドン!!!!!!!!!
「ん・・・。」
僕は大きな音で目覚めた。記憶がはっきりしない。どうしてベッドで
寝ていないのかも、わからない。今が朝ということしか。視界も霞んでいる。
「風間くん?!風間くん?!いるの??!返事して?!」
ドアの外で誰かが叫んでいる。よく分からないけど、とにかくドアに向かって
よろよろと僕は歩き始めた。
「僕、ここにいますけど・・・誰ですか?」
「風間くん!ふたば幼稚園のよしながよ!いるのね?良かった・・・早くここを
開けて!大変なことになってるのよ・・・。」
「よしなが先生・・・こんな朝からどうしたんですか?・・・今開けます。」
僕はもうろうとする意識の中で、渾身の力を使ってドアを開けた。
なぜか、よしなが先生の他にひまわり組の園児も何人かいた。
みんな僕のことを見て青ざめて、その場に立ち尽くしている。
「どうしたんですか?・・みんなも。」
「あ、あ・・・風間くん。・・・あなたももう・・・遅かったのね・・。」
そういうと、よしなが先生は僕にある物を突きつけた。
そう、それは拳銃だ・・・。

「よしなが先生・・・?ど、どうしてそんなものを・・向けるんですか?」
よしなが先生の手は震えている。
「風間くん・・・先生もがっかりよ・・まさかあなたも昨日、あの月の光を
浴びてしまっていたなんて・・。」
「つ、月の光・・?」
「あなたはもう、風間くんであって風間くんでない・・そうでしょう?
やつらの言いなりにしかなれないんでしょ?!正体を現しなさい!」
「なんの話ですか?僕は風間トオルですよ!」
「あくまでしらを切ろうっていうの?!鏡を見てみなさい!」
「鏡?」
僕は全身鏡をチラッと見た。そこには信じられないような自分がいた。
左の頬、目の下あたりに竜の形をしたあざのような、刺青のような黒い模様が
できていた。さらには左腕にもその竜のような模様ができていたのだ。
「うわーーーーー!!な、なんだこれ!」
「とぼけたってムダよ!覚悟なさい!」
「待ってください!僕は風間です!みんなのことだって覚えてるし、
よしなが先生のことだって覚えているじゃないですか!」
「そ、そういわれてみれば、それもそうね・・・。」
「そうですよ!まったく・・大人ってのはどうしてこうなんだ。」
そうすると後ろで圧倒されていた園児たちも話し出した。
「その口調は、確かに風間くんよ!」
「うん!風間くんだ。」
「僕も、そう、思う。」
「み、みんな・・・あ、ありがとう!」
なんとか誤解は解けたらしい・・・。
「みんな、中に入って。僕、よく覚えてないんだ・・・話を聞かせて?」
「わかったわ。」

「とにかくまずはニュースを見て?」
ネネはテレビの電源をつけた。ネネのママもパパも月の光を浴びてやつらに
連れて行かれちゃったんだから。
「では、次のニュースです。昨夜、異常なまでに月が光を放ちました。
それを直に浴びた人は、一斉に自我を失い、月に向かって歩き出しました。
その原因や月の光がなんなのか、詳細はまったくわかっていません。
自我を失った人はみんな、襲いかかってきます、外にはなるべく出ないように
して、外に出る際は十分注意してください。・・・」
「どう?風間くん。ネネたちは、このニュースを見て知ったのよ。」
「でも、どうして僕が月の光を浴びたって分かったの?」
「月の、光を浴びた人、みんな、風間くんみたく、黒いあざが、顔のどこかに
あるから、すぐわかる。」
「そうそう、だから僕ら、風間くんももう自分をなくしてるかと思ったの。」
「なるほどね。でも、どうして僕は大丈夫だったんだ・・・あれ?ところで
みんな、しんのすけは?」
その問いにネネたちはギクッとした。もちろんしんちゃんはここにはいないの。
みんな、静まり返った。
「みんな?・・・しんのすけは?!・・答えてよ!」
誰も男らしくなく答えようともしないわ。ネネが話すしかないのね。
「風間くん・・・。しんちゃんは・・しんちゃんは・・ここにはいないの。」
「どこにいるんだ!!」
「それが・・・しんちゃんたちは、月の光に向かって歩いていくのを、
昨日、ネネ、おうちから見たのよ・・・。」
「なんだって?!し、しんのすけ・・。」
「そう、しんちゃんは昨日、月の光に向かって歩いていってしまったの。
だから、やつらの言うことしか聞かないようになってしまっているわ、きっと。」

そういえば、よしなが先生も、今、ネネちゃんも”やつら”って言ってるな。
一体、誰のことなんだろう。聞いてみるか。
「ねえ、さっきから言ってる”やつら”って誰のこと?」

「やつらっていうのは、あの光の発信源よ。みんなを操っている光をだした
張本人たちよ。やつらは組織をつくって行動してるらしいわ。その組織は
ランデブーっていう名前なのよ!」
「ラ、ランデブー・・・。そいつらの目的は一体?」
「まだわからないの。でも、光に操られた人たちは私たち一般人の10倍もの
力を手に入れているの、その記憶と引き換えに・・・。だから、私たちはみんな
で行動しないと危ないのよ。」
「よしなが先生。なんでそんなに詳しいんですか?」
「もちろん、ワイドショーよ。」
一気にその信憑性を僕は疑った。ワイドショーの話なんていちいち本気に
してらんないよ。でも、とにかくそのやつらというのの目的がなんなのかを
知る必要があるな。
「よし、1度作戦を立てましょう。」
話し合った結果、作戦は決まった。やつらと似たあざをもつ僕がおとりになって、
やつらと接触する。そして、そのアジトに行き目的を探り出す。なんなら
素性や詳しい情報も。できたら倒しちゃえ・・・って!
「これ僕以外なにもやってないじゃないかー!」
「風間くんは、そのあざもってる。きっと、力が、たくさん、あるはず。」
ボーちゃんが言うとなぜか説得力があるんだよな。
さっそく試してみることにした。いらない分厚い板を殴ってみろということ
だった。こんなの割れるわけないと思いながらやってみると・・・
バキッ
割れた・・・。しかも手はまったく痛くない。みんなも目を丸くして驚いている。
さあ、作戦実行だ。
これがまさか思いもよらない結果になるなんて、まだ僕は知らなかった。

とにかく決まったことを整理しよう。
僕の家が基地になった。よしなが先生、ネネちゃん、ボーちゃん、マサオくん、
アイちゃん、黒磯が基地で待機することになった。
そして僕には発信機のついた無線が取り付けられ、僕の家のスクリーンで
その様子をボーちゃんを中心に監視、指示を僕に送るということになった。
もちろん、こんな機械があるのはアイちゃんのおかげである。

「11番、風間。前方にあざのある2人組みを発見。仲間のふりをして
やつらのアジトに侵入を試みる。」
無線でボーちゃんに状況を伝えた。今回の目的は「やつらについての情報を
得ること」だ。つまり、スパイのようなもの。

ふいに背後から聞き覚えのある声がした。
「ああ、お前も戻るのか?」
振り返るとそこにいたのは四郎さんだ。
「よんろ・・・!うん。」
あざがある人たちは昔の記憶を忘れている。だから、昔の記憶があるそぶりを
して、それがこのランデブーたちを指揮しているやつらに見つかったら
まずい・・・僕は演技をすることにした。

歩き始めてからずいぶんと時間がたった。
春日部の端であろうか、小さな廃墟の前に差し掛かった。
そこには見張り役の男が2人たっていた。その2人は・・・
野原ひろしとその部下、川口だった。
僕は思わず声を出しそうになったが、こらえることができた。

しんのすけのお父さんがいるってことは・・・しんのすけがこいつらの
仲間になってしまった確率は相当高いってことか・・・。しんのすけ!
無事でいてくれよ!!

僕は祈りながら、四郎さんのあとについていった。

中は本当に秘密基地のような・・・ハイテクがずらりとどこまでも並んでいた。
僕はその光景に唖然としてしまった。しかし、あざがあるやつらには感情はない、
(ワイドショーでやっていた情報)

「風間くん。怪しまれるから、ふつーに。ふつーに。」
ボーちゃんの無線の声でやっと僕は我に帰った。
そのまま四郎さんのあとについていくと基地はいくつもの部屋に分かれていた。
「お前のあざを見せろ。」
四郎さんにグイッと持ち上げられた。四郎さんは不思議そうに僕のあざを
見ていた。
「お前のあざは・・・コードが上手く読み取れない。」
僕は一か八か知ったかをすることでさらなる情報を得ようとした。
「僕のコードは・・・そう、ランデブー自身じゃないと読み取れないよ。」
「そうかあ!お前が今話題のランデブー直属の兵士か!」
四郎さんは僕の腕を力強く握り、一番奥の部屋に進んでいく。
透明なしきりで仕切られた部屋にはそれぞれ確かに似たあざをもつ人がたくさん
いた。その中にはチーターの姿や、上尾先生の姿・・・他にもいろいろな人が
いた。そうこうしているうちに一番奥の部屋に着いた。

「さあ、ここがランデブーのNO.3の部屋だ。コードを
読んでもらってこい。」

しまったと思った。無線からボーちゃんの指示が聞こえる。
「風間くん。なんとか、そこから、逃げて。」
NO.3に会ったら僕のウソがすぐにばれてしまうからだ。
僕はなんとかウソを考えたが時すでに遅かった。
「早く行きな。」
四郎さんに背中を押されて僕は仕方なく部屋に入った。

ガチャ

そこは真っ白い壁と、真ん中に椅子があるだけの部屋。その椅子に
NO.3と呼ばれた男は座っていた。
僕はその男を見たことがあった。そう、あの山で。(スイカの小説を読んでね)
「くっくっく・・・お前も僕の配下となったか。」
運が良かった。男は僕が光で自我をなくしていると勘違いしていた。
「来い。コードを読んでやる。」
僕は一歩ずつ緊張しながらも男の前まで歩いた。
「ほう・・・お前は・・これはすごい。お前はNO.1の兵士となるべく
力を授かったか。・・もう私の計画の邪魔をする者はいない。くくく。」
男の言葉にボーちゃんがハッとした。

「しんちゃんに、聞いたことが、ある。」
僕は、ちょっと前に聞いたことがあった。僕が、あんなにアイちゃんのとりこに
なってしまったのは、ある男のせいだった、と。それをしんちゃんと風間くんが、阻止してくれたって。そして、今、その男の計画を邪魔する者がいなくなった、
ということは・・・。男は、風間くんが自分の配下になったと勘違いしている。
つまり、しんちゃんは、もう本当に配下になっているって、ことだ!!
それも、この男と会っているとなれば、風間くん並みの強力な力を、持っている
ってこと。どうしよう・・・。

ボーちゃんが無線の向こうで困惑しているのが分かる。どうしてかは、
僕も分かる。男はつぶやいた。
「お前のコードは・・・風だ。忘れるな。風は大空から地上を吹き渡る。常に
旅をしている。大きな心と視野をもち、時に優しく、時に厳しく振る舞え。
そして、大地からは逃げろ。いいな。」
僕はよく意味が分からなかったが、とにかく返事をした。
「今日はNO.1はいらっしゃらない。後日な。それではこれがお前の部屋の
鍵だ。なくすなよ。それから部屋に入るにはコードがいるからな。」
そして僕は無事NO.3の部屋をあとにすることができた。

「えっと・・・ここか。」
僕はどうにも大きな力をもっているから部屋も個別であった。つまりランデブー
の中で上の位らしい。鍵を差し、コードを言う。
「風。」
ドアは開いた。そこは白い壁とベッド、机、パソコン、液晶テレビ、棚、そして
水晶が机の上に置かれていて、シンプルな部屋に僕は感動してしまった。
「風間くん。あの水晶を見てみて。」
ネネちゃんはこういう不思議なものが好きなんだよなあ。
僕の手が水晶に触れるとそれは紫に光り始めた。
「11番、風。3番の部屋に行け。」
これはランデブーからの指令がここに出るらしい。
僕は11番目の兵士らしい。ここに来る前にスパイのマネをして適当に
言っただけのつもりだった。しかし、この偶然は、偶然なのだろうか・・・。
そんなことを考えていると3番の部屋の前にきた。
ドアが勝手に開いた。その中はおもちゃで溢れかえっていた。
その中心にいたのは・・・しんのすけ。

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