トップ小説作成者・風間オトルくんIIさん


これはしんのすけたちが中学生になったときのお話。

今日も相変わらず寝坊したオラ。
叱り飛ばす母ちゃん。
隣でセカセカとご飯を食べる父ちゃん。
小2になってすっかりカワイくなったひまわり。

いつものように時は進む。
朝の8時。
「おっかえり〜!!」
オラは元気よくドアを開けた。ドアの前にはマサオくんが迎えにきていた。
「おはよう。今日から担任に頼まれてしんちゃんのお迎えすることになったの。」
「お〜ごくろうごくろう!」
「・・・ずいぶんえらそうだね。」
「いかにも!!」
「はは・・・行こうか。」

僕たちのふたば中学校は大体歩いて30分くらい。
その間に駅の前を通るからたまに風間くんに会うこともあるんだ。
今日も例外じゃなかった。
「あ、おはよ、2人とも。」
「おはよ、風間くん。」
「よっ!!」
「僕今日ちょっと急いでるからもう行くね!!じゃっ!」
「ばいばい。」
「風間くん大変そうだね、中学校に入ったばっかりなのに。」
「うんうん。しっかりやってるようで、オラ嬉しいゾ。」
僕たちはまた歩き出した。

「あら、おはよう2人とも。」
「ネネちゃん・・・アイちゃん!おはよう!」
「おはよう、マサオ・・・しん様。」
「よっ!!・・・うう。オラおしっこしたくなっちゃったゾ。
ちょっとそこのコンビニでおトイレしてくる〜!」
「ま、待ってよしんちゃん。」

コンビニでおしっこをすませてまた僕らは歩き出した。
後ろからカチッカチッと音がする。振り返ってみるとボ−ちゃんがいた。
「おはよう、ボーちゃん。」
「今の何の音?」
「この石と、石を、ぶつけてたの。」
「どうして??」
「この石の、中の模様が見たかった、から。」
「へえ〜模様なんてあるんだね。」
「うん。」
「さすがボーちゃん!いろいろ知ってるなあ。」
「えへへ。僕、川で、石拾うから、先行ってて。」
「またね〜。」

プップ
「あ!幼稚園バス!よしなが先生に園長先生だよしんちゃん!」
「ほっほ〜い。」
先生たちも手を振ってくれた。

そして僕たちはまた歩き出した。
「今日はなんだかいろんな人に会いますなあ。」
「そうだね。でも、久しぶりにみんなで遊びたいよね。」
「まあね〜。」

なんだかんだで遅刻もせずに学校について授業を受けた。
そして剣道部の練習も終わった。もうそれは夜だった。

桜並木の前を1人通る。
春の優しい風に夜桜が舞ってなんともきれいだ。
オラは夢中になって上ばかり見上げながらその桜並木を歩いた。

そしてその時はきた。
1歩校門から出たとき、オラは自分の目を疑った。

辺りがすべて消えた。それと同時に白い世界が広がった。
オラはしばし呆然としたが、歩き出した。
しばらくすると色白の女の子が1人しゃがんでいた。
「どうしたの?」
「ァタチ、1人ぼっちなの。一緒遊んで?」
「いいゾ。」
「ありがと。ァタチ、まおって言うの。」
「オラ野原しんのすけ。12歳だゾ。」
「ァタチは7歳。」
こうしてオラはまおと遊ぶことになった。


会社をでた俺は愕然とした。周りがすべて青い世界になった。
しばらくしてから俺は歩き出した。
しばらくすると色白な肌の女の人が困っていた。
「どうしました?」
「私、実は迷ってしまったのです。道を教えてくれませんか?」
「もちろんですとも!!」
「私、まおって言います。」
こうして俺はまおさんに道案内することになった。

買い物から帰ってきて、家に1歩踏み入れた瞬間、
私を緑の世界が包んだ。
私は恐る恐る歩き出した。
しばらくすると健康的な肌の男の人がケガしていた。
「大丈夫ですか?」
「足が折れてしまったようなんです…よろしければ、手当てしてくれませんか?」
「わかったわ!」
「ありがとうございます。僕はまおって言います。」
「女の子みたいな名前ね。」
「あはは。小さい頃はよくからかわれましたが今はこの名前を気に入ってます。」
こうして私はまおさんの手当てをすることになった。

学校が終わって校門から1歩出た途端、赤い世界が広がった。
ランドセルをギュッと握ってアタシは歩き出した。
しばらくすると健康的な肌の男の子が泣いていた。
「どうしたの?」
「いじめられたんだ。悔しいよお。」
「どうしていじめられたの?」
「僕、名前がまおって言うんだ。だから、女の子みたいだっていじめるんだ。」
「そんなやつらやり返しなさいよ!」
「どうやって?」
こうしてアタシはまおと作戦会議をすることになった。

しばらくすると
「ありがとう。今日はそろそろお帰り。またね。」
4人のまおは同時に言った。
その瞬間、4人は元いた場所に戻っていた。
4人は家に帰るとそれぞれの体験を話し合った。
「4人ともまおだなんて…。どういうこと?」
「わからん…だが、怪しいしなぁ。用心するにこしたこたぁないな。」
「でも、どうやって用心するのぉ?」
「わかったわ。ひま、いい考えがあるの。」
「なんだ?」
「今日はみんな1人だったでしょう?だから明日は同じ場所に行くときには誰かと
一緒に行ってみたら?」
「なるほど!1人より二人、だな。」
こうして野原一家は眠りについた。

4人の夢にそれぞれがあったまおが現れ同じことを言った。
「私(僕)はあなたの味方。あなたの願いを叶えたい・・・。」

たったそれだけだったがもう朝を迎えていた。

またいつもどおり時が流れ、最初にまおへの場所に着いたのはひまわりだった。
しかしひまわりは自分がひらめいた作戦をすっかり忘れていて、また赤い世界に
迷いこんでしまった。

次にその場所に着いたのはみさえだった。みさえは買い物から帰ってきてドアに
手をかけたところで思いだし、急いで隣のおばさんを連れてきて手をにぎり
家に入った。すると、なにも起きなかった。

次にその場所に着いたのはひろしだった。今日は川口を飲みに誘うことにした。
やはり、なにも起きなかった。

最後にその場所に着いたのはしんのすけだ。しかし、剣道部の練習のあとでは回
りには誰もいなかった。しんのすけは諦めて校門を出ようとしたその時だった。
「しんのすけじゃないか?」
突然の声にオラはハッとして前を見た。そこには藍色の髪の風間くんがいた。
「風間くん!ちょうど良かった。ちょっとこっちきて。」
「なんだよ。」
風間くんは自転車から降りてきてくれた。そしてオラは風間くんと一緒に校門か
ら出た。やはり、なにも起きなかった。
「風間くん・・オラ1人じゃお家まで帰れない〜送ってって〜お願い。」
「お前なぁ〜・・まあ、塾帰りだしいいよ。後ろ乗れよ。」
こうしてオラは風間くんに乗せてもらって我が家に着いた。

「おっかえり〜風間くん待ってて〜オラがしぶ〜いお茶出してあげるぅ。」
「いいよ!僕、塾の復習しなくちゃいけないから。」
「いいからいいから!」
ドアを開けると先に帰っていた父ちゃん母ちゃんが焦りながらオラに訴えかけた。
「しんのすけ!ひまわり知らない!?まだ帰ってきてないのよっ!」
「ひまが?」
「ああ・・学校もとっくに終わってるし、先生も1人ですぐに帰ったって・・。」
「父ちゃん!ひま、1人で帰ったの?!」
「そうだよ・・・はっ!まさか!」
頭上から声が聞こえた。
「そう、そのまさかよ。今ひまわりちゃんは僕が願いを叶えてあげました。
僕の世界で願いが叶って幸せそうですよ。」
「お、お前は!!?」
「僕はまおです。あなた方も早くこちらにおいでなさい。幸せに暮らせますよ?」
「誰が行くか!!ひまわりを返しやがれ〜!!」
「・・ひまわりちゃんが帰りたいと言えばいつでも帰れますよ、ただ、
ひまわりちゃんがそれを望んでいないだけです。」
「そんなことあるわけないでしょう!?ひまわりの姿を見せなさいよ!!」
「分かりました。これでもまだ疑いますか?」
まおが手をかざすと、そこに赤い世界が現れた。その中でイケメンたちを回りに
従え、色鮮やかか宝石たちを満足げに身に付けていた。
「ひまわり!!早く帰ってきなさい!!」
「アタシ、今楽しいからいいやぁ。バイバイ。」
シュン
赤い世界をまおはしまってしまった。
「どうです?これで信用していただけますか?」
「ひまを騙すなんて・・!」
「だましてなどいません。僕は彼女の夢を叶えただけ・・・、彼女は自らの意志で
あの世界にいるのです。」
「ひまをどうする気よ!」
「あの場所に1日いてくれればいいんです。そうしたら彼女は記憶がすべて
なくなってあの世界の住人になり、僕は外に出られるのです。」
「ふざけるな!ひまわりは必ず俺たちが助けてみせる!!」
「やってみなさい。でも赤い世界に直接行けるのは彼女だけです。別の世界から
行くしかないんですよ。それでは・・・。」
それだけ言い終わるとまおは消えてしまった。
「チッ!なんてやろうだ!絶対にひまわりを救うぞ!野原一家ファイヤー!」
「ファイヤー!!」
「あの・・・今のなんですか?」
風間くんをしんのすけはすっかり忘れていた。
「風間くん!オラの妹を救出するためにその頭でっかちを貸してくれ!」
「しんのすけ・・ほめてないぞそれ・・。」
「いいからいいから!」
そしてオラたちは風間くんを家の中にひっぱりいれ事情を風間くんに説明した。

「なるほど・・。しんのすけが白、おばさんが緑、おじさんが青、ひまわりちゃんが赤い世界だった。・・もしかしたら、色の配列かもしれないですね・・。」
「色の配列??」
「はい。色には色相環という輪っかの図があるように色は配列があるんです。
つまり、青、緑、赤の世界はつながっているかもしれないですよ。」
「白はぁ?」
「そこがわからないんだよ。白と黒はその配列には組み込まれていないんだ。」
「ってことは・・俺とみさえはひまわりの世界に行けるかもしれないんだな?」
「まだわかりませんが・・赤い世界には直接はいけない、別の世界から行くしかな
いって考えると・・そうだと思います。」
「1日しかないんだ・・やってみるしかないさ!」
「しんのすけはここで風間くんと待ってて!風間くん!今日は泊まってっていいか
ら!お母さんには私から連絡しとくわ。」
「え・・・いや、はい。」
風間くんは断れない雰囲気に流され、泊まることになった。
「それじゃ俺は今から会社に行って、青い世界に行ってくるからな。」
「私も買い物に行って、緑の世界に行ってくるわ。」
二人はそう言うと家を後にした。

「風間く〜ん。オラと一緒にお風呂入ろ〜。」
「絶対にいやだ!!先入ってこいよ。」
「風間くんのケチ!」
「なんとでも言えよ!早く入ってこい!!」
「ほーい。」
しんのすけはしぶしぶお風呂に入りにいった。それにしてもおなかがすいた僕は
台所をあさった。でもあるのは材料だけで料理はひとつもなかった。
「おなかすいたなぁ・・・作っちゃってもいいよな。」
そうつぶやくと僕は冷蔵庫から野菜や肉を取り出し料理を始めた。

俺は青い世界に入った。
ひたすらに歩き続けた。しばらくするとまおが現れた。
「この前はありがとうございました。お礼をさせてください。」
「お礼・・・?」
「はい・・あなたの望んでいることを叶えてさしあげましょう。」
まおが指を鳴らすとスタイルのいい美人やビールとおつまみの山が出てきた。
「ひゃあ!夢みたいだ・・。」
俺はしばし夢に浸った。

私は緑の世界に入った。
ひたすらに歩き続けた。するとまおが現れた。松葉杖をついている。
「この前はありがとうございました。お礼をさせてください。」
「お礼?」
「はい、あなたの望んでいることを叶えてさしあげましょう。」
まおが指を鳴らすとイケメンやらブランド品やら宝石やら高級料理やらが現れた。
「これ私にくれるの?!」
「はい。」
こうして私はしばし夢に浸った。

「出たゾ〜・・ん?いいにおいがする・・クンクン。」
オラはにおいに誘われ台所に行くとオムハヤシとサラダ、スープができていた。
「勝手に使わせてもらったよ、しんのすけ。食べよう。」
「風間くん・・オラのために料理覚えてくれたのね。」
「ち、ちがうよ!幼稚園のころから料理してたからだよ!」
「んふ〜照れなくてもいいのにぃ。」
「・・・・・・・しんのすけ。早く食べるぞ。」
「ほい!!」
2人は仲良く食べ始めた。
「うまい!」
「そうか?そう言ってくれると嬉しいよ。ところでしんのすけ。もしも
あのまおってやつが夢叶えてくれるとしたら、なにが出てくるかな?」
「んー・・やっぱり水着のお姉さん。かなぁ。」
「・・・聞いた僕がバカだったよ。」
「それほどでもぉ。」
「・・トイレ借りるよ。」
風間くんは席をたった。

「ったくしんのすけは・・・相変わらずだな。」
僕はつぶやきながらトイレのドアを開けてトイレに入った瞬間だった。
「・・・ここは?一体・・・。」
あたり一面が黒かった。黒い世界・・・しんのすけたちと同じ現象を今
僕は目の当たりにしている。僕は歩き出した。

ビールを飲みながら
「俺はこんなことしてる場合じゃないんだ!!でも・・でも・・」
つい自分に言い訳をしてしまうのが情けない。
その時だった。
「あ・・れ?」
ひまわりが生まれたときが思い出せなくなった。
「やろお!記憶が消えるって俺たちの中のひまわりの記憶もかよ!こうしちゃいれ
ねぇ!どけ!俺はひまわりのところに行かなきゃいけないんだ!」
それはみさえも同じだった。
「あんたたちどいて!ひまごめんね・・今ママがちゃんと行くからね!!」
2人は再び走り出した。
だんだん世界の周りの色が変化し出した。
ひろしは水色に
みさえは黄緑に
「風間くんの言ったとおりだわっ!!」
それぞれそこに人影がいた。

「ネネちゃん!」
俺は目を疑った。が、確かにネネちゃんがいた。ネネちゃんはイケメンに囲まれ
てマリーアントワネットのまねをしていた。

「マサオくん?」
私は目を疑った。が、確かにマサオくんがいた。マサオくんは溢れんばかりの小
銭を並べ、今はアクションカードを並べている。

「ネネちゃん!ここは危ないんだ。おじさんについてきて、な?」
「いやよ!ネネ今夢が叶って幸せなのよ!」
「ネネちゃん・・・君のお母さんの名前は?」
「ママ?ママの名前はー・・あれ?思い出せない・・なんで?」
「ここは徐々に記憶がなくなってしまうんだ。ママたちを忘れるのいやだよね。
だから出なさい。」
「・・・うん。ネネは寝室からでたらきちゃったの。」
「そうか、ぢゃ、気をつけてね。」
「おじさんありがと。」
そう言うとネネちゃんは元の世界に戻った。


「マサオくん!ここは危ないから帰って!」
「そ、そうなの?危ないの怖いから・・・僕・・ちゃんと帰るよ。」
そう言うとマサオくんは元の世界に戻った。

そのあとも2人はそれぞれよしなが先生、園長先生、アイちゃん、ボーちゃんを元
の世界に戻しながら進んだ。もう家族の記憶は3分の2くらいだった。


そのころ元の世界ではもう夜中の2時になっていた。
「風間くん??おトイレ長いゾ??」
オラはドンドンとドアを叩いたが返事がない。それどころか鍵も開いていた。
「風間くん?!」
オラはドアを開けたが、誰もいなかった。

僕はひたすら歩いた。この黒い世界はなんて居心地が悪いんだろう。
すると、人なのかなんなのか・・人型のなにかがいた。
僕は怖くなったが、おそるおそる話しかけた。
「ど、どうしたんですか?」
すると人型は言った。
「まだじゃ・・・まだ足りん。もっとほしい。望みが、夢が、ほしい!!」
「あの・・・足りないって?」
「人間どもの望みや夢じゃ!!お前の望みや夢はなんじゃ?わしが叶えて
やろう。」
「僕の望み・・・?僕の望みは・・。」
その時遠いどこかから声が聞こえた気がした。
「僕は、自分の世界に帰りたい!」
シュッ

「風間くん!」
「しんのすけ・・・。」
「どこに隠れてたの〜?」
「隠れてたんじゃない。僕も・・・行ってたんだ、黒い世界に・・。」
「黒・・・。」
「・・とにかく今日は寝よう。」
「うん。・・・優しくしてね?」
「ふざけるなー!!」

朝を迎えた。
「今日はしんのすけも休め。僕も学校休むから。」
「ほーい。」
「おばさんとおじさんとと連絡した方がいいな・・しんのすけ電話借りるぞ。」
「ほーい。」

ピピピッ
「もしもし。」
「もしもし、おじさん。風間です。そっちはどうです?」
「ああ、風間くんが言ったとおり、この世界はつながってるみたいだ。今までにネネちゃん、園長先生、ボーちゃんに会って、みさえが最初にいた緑の世界だ。」
「そうですか・・がんばってください!なにかあったらすぐ連絡してください。」
「わかったよ、ありがとうな、風間くん!」

ピピピッ
「もしもし。」
「もしもし、おばさん、風間です。そっちはどうです?」
「えーっとね、私は今黄色の世界まできてるわ。あ、それからマサオくん、よしなが先生、アイちゃんに会ったわ。」
「そうですか・・・一度おじさんを待ってみてください。今、緑の世界まで
きているそうなので。」
「わかったわ。ありがとう、風間くん。」

電話を切った僕はしばらく考えた。
例えひまわりちゃんを助け出すことができても
この変な世界が消えるわけではない。
どうしたら、消すことができるのだろう。
それにしてもどうしてこんなに身近な人ばかりあの世界に行っているんだろう。

「風間くん。オラおなかすいたゾ。」
「待てよ、今考えてるんだ・・・しんのすけ。お前が初めてあの世界に
行ったのはおとといの午後だよな?」
「うん、そーだよ。」
「あの日の朝、怪しいやつに会ったか?」
「んー・・・オラが会ったのは、朝、家族のみんな。それからお迎えにきてた
マサオくん、駅で会った風間くん、道でネネちゃんとアイちゃんとボーちゃん、
バスに乗ってた組長先生とよしなが先生だゾ。」
「!!!それは本当か?」
「うん。オラもうコンビニでなんか買ってくる。風間くんは何食べたいの?」
「あ・・ありがとう。僕はパスタがいいな。」
「よくばりねえ。」
「いいだろ?無理に泊まったりしてるんだから。」
「ふーやれやれ。じゃ、おっかえりー!」
バタン
家は僕1人になって、考えを膨らませた。
「しんのすけがあのあさ会った人物がみんなこの世界に巻き込まれている。
ってことはしんのすけと関係しているやつが巻き込んだんだ・・・。
でも誰だ?しんのすけはそれ以外のやつとは会ってないって言ってるし・・
そうだ!!あの朝しんのすけと一緒に登校したマサオくんに聞けばいいんだ!」
僕は留守番していたことをすっかり忘れて野原家を後にした。

「いってきまーす。風間くん。買ってきたゾ。風間くん?」
そこには誰もいなかった。
「風間くんったらどこいっちゃったのかしら。」
オラは1人でご飯を食べ始めた。

「マサオくん!!良かった。話をちょっとだけ聞かせてもらってもいいかな?」
「どうしたの、風間くん急に。懐かしいね、なにか飲む?」
「あ、いいんだ。急いでるからね。おとといの朝、しんのすけと登校してきた
ときに怪しいことや人に会ったりしなかった?」
「えー?おとといかあ。・・・そういえば、しんちゃん家から出てくるときに
キレイな石を大事そうに握り締めてたよ。」
「キレイな石?」
「うん。しんちゃんは、庭で拾ったって言ってたけど・・・。」
「・・・ありがとマサオくん!じゃっ!」
「うん、またね。」
僕は野原家に戻った。

「しんのすけー!!」
僕はドアを勢いよく開けた。
「しんのすけ!!お前が拾ったっていう石を見せろ!!」
「風間くん!!」
「なんだよ!」
「・・・優しくしてね(ポッ)」
「ちがーーーう!!石だって!!」
「仕方ないなぁ。ほい、これ。」
ポケットからしんのすけは石を取り出した。
「しんのすけ。その石をここに置いて。」
「ん。」
しんのすけはテーブルの上に石を置いた。
そして僕らは2階に上がった。
「あの石は怪しいぞ。黒幕が僕らのことをあの石で監視してるかも。」
「なんで?」
「お前があの石を拾ってから会った人だけがあの世界に連れ込まれてるんだ。」
「ほうほう、つまり、シロが黒幕ってことですな?」
「シロ?どうしてだよ。」
「シロがあの石もってたんだゾ。で、オラがもらったの。」
「シロは黒幕じゃないだろ。たぶんシロも誰かにもらったんだ。」
「誰に?」
「きっと黒幕にだよ。」
「なんでシロにあげたの?」
「それはわからないよ。とにかくあの石を埋めよう。」
「うん。」
僕たちは庭を掘り始めた。
シロが落ち着かない様子でうろうろしていた。

「このくらいでいいか。」
「じゃ、石持ってくる。」
「うん。・・・??!しんのすけ!!」
「どしたの・・・ってこれなに?!」
「知るかよ・・なんだよこれ?」

そこにあったもの、それはあの石だった。
いや、あの石よりもずいぶんと大きい、岩のようなもの。
あの石はこの岩のかけらでしかなかったのだ。
「これは・・・?」
「オラ、知らないゾ。」
「うん・・・僕も見たことないよ、こんな石。」
「石についてはボーちゃんが詳しいゾ。」
「へえ、幼稚園からずっと?」
「うん。幼稚園のときよりももっとたくさん知ってるみたい。」
「それじゃあ、僕、ボーちゃんを連れてくるよ。」
「待って。まだ授業中だよ。」
「そっか。じゃあ・・・とにかくこの岩を掘り出してみようか。」
「うん。」
2人は土を掘り起こしスコップで岩を取り上げた。

「キャンキャン!!」
シロが岩に向かって吠え出した。
動物の勘というやつだろうか、この岩が危険なものだと感じているのだろう。
僕らでさえなにか嫌な感じをこの岩から受けていたのだ。

「この岩・・・。」
しんのすけが岩に向かって手を伸ばす。
「しんのすけ!危ないよ!さわらない方がいいって!」
しんのすけはもう岩に意識を集中していたため、僕の言葉は聴こえていなかった。
「風間くん・・この岩はただの岩じゃないよ。」
「え?」
しんのすけの手が岩に触れた。
「この岩、中に入れる。」
「は?」
その瞬間だった。しんのすけの手が岩の中に入った。
そのまましんのすけは岩の中に入ってしまった。
「しんのすけ!!」
叫んだがそこにはもう岩しかなかった。

「ここは?」
そこは白い世界だった。だけどなにか様子がちがった。
そのうちに白い世界にアルバムのように次々と映像が張り出されていく。
それらすべての写真には同じ人物が写っていた。
「この子、誰だろう。」
オラはそれらひとつひとつの写真を注意深く見ていった。
小さいころ、その子はいつもたくさんの友達に囲まれているようだった。
だが、ある写真を境に、その子は1人で写真に写っていた。
1人で写るその人物の顔はとても寂しそうだった。
「かわいそうだゾ・・・。」
写真が進むにつれて再び友達とともに写っていた。
しかし、どの写真も小さいころのような笑顔ではなかった。
「それにしても・・・見たことがあるような・・。」
オラはその人物を見たことがある気がしていた。

「遅い・・・。しんのすけ・・。」
もう昼を回っていた。あと3時間でひまわりちゃんがあの世界の人に
なってしまう。おばさん、おじさんはひまわりちゃんの元にたどり着けた
だろうか。


「みさえーーー!!!」
俺はみさえの名前を叫びながら走った。すると・・・みさえがいた。
そこは橙色の世界だった。
「あなた!!」
みさえももう疲れ果てていた。
俺たちはしばし再会を分かち合った。
「みさえ。あと少しだ!絶対にひまわりをつれて帰ろう!」
「ええ!」
身も心もボロボロだった。
だんだん世界は色を変え始めた。
橙色はやがて真っ赤な赤に染まった。
その中心にひまわりはいた。
「ひまわり!!」
「ひま!!」
ひまわりは振り向かない。
俺はひまわりの肩をつかんでこちらを向かせた。
「ひまわり!!」
目から涙が溢れる。
ギュッとひまわりを俺たちは抱きしめた。
が、しかし
「ちょっとなにすんのよ!!」
ひまわりは俺たちを押しのけた。
その目は俺たちのことなんてなにも覚えていないような冷たいものだった。
「ひまわり・・?覚えていないのか?」
「覚えてるわよ。お父ちゃんとお母ちゃんでしょ?でもそれがなによ。
あたしはここで生きてきたのよ?」

やはり大切な家族の日々をこの子は覚えていなかった。
「ひまわり!私たちは家族なのよ?ずっと毎日毎日一緒に暮らしてるじゃない。」
「知らない!もうあたしはこの世界に満足しているの。出てってよ。」
ひまわりは再び背を向けた。
「くそっ!なにか思い出すようなきっかけさえあれば・・・。」
「・・あなた!!」
「なんだよ。」
「靴を脱いで!!早く!!」
「え?あ・・・ああ。」
俺は急いで靴を脱いだ。
「しんのすけとひまわりがまだ小さかったころ、よくこれで遊んでいた。
くらえ!!ひま!!世界一臭い靴下よ!!!」
「そうか!!俺の靴下の臭いで思い出させようってわけか!みさえ行けー!」
靴下は見事にひまわりの鼻に命中した。


「この子は・・・!!」
オラは1枚の写真に写ったあるものを見て愕然とした。
その写真に写ったもの・・・それはこの子が小学生のころの写真。
黒板を背にして男の子と女の子の2人でとられたものだった。
その黒板に書かれたもの
「日直 斉藤まお」
そう、この写真に写っていたのはまおだったのだ。
でもオラが見たのは確かに女の子のまおだった。
でもこのすべての写真に写っているまおは男・・・どうして?
「女装が趣味とか?」
そんなまさか。
オラと父ちゃんは女のまおを見た。
ひまと母ちゃんは男のまおを見た。
そして写真に写っているのは男のまお。
でもやっぱり写真に写ってるんだから男が本当だろうな。
と、また歩き出した。

僕の目の前で岩に変化が起きた。
少しだが小さくなったのだ。
そのとき、玄関のドアが開く音がした。
「しんのすけ!」
その声とともに入ってきたのはおばさんだった。
「おばさん!!」
「風間くん!!」
「ひまわりちゃんは?!」
「大丈夫、大丈夫よ・・。」
そういうとおばさんは安心して緊張の糸が切れたのか
ポロポロと泣き始めた。
それから少ししてひまわりちゃんが帰ってきた。
「お母ちゃん!!」
ひまわりちゃんと抱き合っておばさんはさらにたくさん泣いていた。
そして2人は疲れ果てていたのだろう。なにも語らぬまま寝てしまった。
僕は2人に布団をかけてあげた。
そのあたりでおじさんも帰ってきた。
「良かった、2人とも帰ってきてたか。」
おじさんも安堵のため息をもらしてヘナヘナと座り込んだ。
「おじさん、良かったですね。」
「ああ、風間くんのおかげだよ。」
「もし、大丈夫でしたらお話を聞かせてもらえませんか?」
「いいとも。」


靴下はひまわりに命中した。
その瞬間ひまわりの周りを囲んでいたイケメンたちや宝石たちは
一斉に消えた。
そしてまおが現れた。まおはひどくうろたえていた。
「あと一息だったのに・・くそ!!」
それからもぶつぶつとなにか言っていた。
「・・ひまわり?」
その声にひまわりは反応してこちらを向いた。
その顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
「お・・かあち・ゃん・・、お父・・ちゃん・・。」
すべてを思い出したのだ。
「ひまっ!!」
3人は駆け寄って抱き合った。
「じゃあ、そろそろ我が家に帰ろう。」
「そうね。」
「うんっ!!」
そして3人は真っ赤な世界にまおを残して消えたのだった。


「・・ってわけなんだ。そういえば、しんのすけは?」
「実は・・、あの岩の中に入ってしまって戻ってこないんです。」
「なに??!」
「帰りたいと思えば出てこれるはずですから、様子を見ているんですが。」
「うーーん。よし!俺もじゃあ一緒に様子を見てよう。」
「しんのすけのことは任せておじさんは休んでてください。」
「そうか?悪いなあ。それじゃあ頼んだ・・ぜ・・・。」
言い終わるかどうかのうちにおじさんは寝てしまった。
おじさんも相当限界だったのだろう。

僕はもう一度黒い世界に行く決心を固めていた。
が、まおの謎が消えなかった。
まおは同一人物なのに、性別だけはちがっていた。
共通の人物なのに、どうして?
それに僕の行った黒い世界にだけ現れた人型のなにか・・一体なんなのだろう。
僕はボーッと岩を見つめていた。
そういえばどうしておばさんが帰ってきたときこの岩は縮んだのだろう。
この岩はあの世界とつながっているのか?
謎は膨らむばかりだった。
「まおは男と女で4人いるのか?しんのすけのまおは幼稚園くらいの女の子、
ひまわりちゃんのまおは小学生くらいの男の子、おばさんのまおは成人した男、
おじさんのまおは色白の成人した女・・。だーー!わからないーー!
・・待てよ。そうか・・・まおは女だ!!」

その時だった。
岩がまた縮んだ。
と思った時、しんのすけが岩の上に立っていた。
「よっ。」
「よっじゃないだろ?!おばさんたちひまわりちゃんをつれて帰ってきたぞ。」
「うんうん。わが家族だけある!」
「お前がいばるなよ・・・。で、どうだったんだ?なにかわかったか?」
「うーん、分かったような、わからないような。」

しんのすけは風間くんにこれまでのことを説明した。

「やっぱりな。しんのすけ、そろそろ行こう!」
「え?行くってどこに?」
「しんのすけはしんのすけのやるべきことがある。僕もだ。」
「だからなーにー??」
「お前は今から白い世界に行くんだ。僕は今から黒い世界に行ってくる。」
「ほ、ほい。でも風間くん、そっちはおトイレだゾ?」
「ここが僕の黒い世界への入り口なんだから仕方ないだろー!」
「ほうほう、風間くんらしいわね。」
「うるさい!どこが僕らしいってゆうんだ・・ったく。」
「おっかえり〜。」
ガチャ しんのすけは校門に向かった。
僕もそろそろ行こう。

僕はトイレのドアを開けて1歩踏み入れた。
案の定そこは真っ暗な黒い世界だった。

僕はおそれもなく歩みだした。
そして人型がいた。

「お前の望みはなんだ?叶えてやろう・・。」
「あなたは、そこでなにをしているんですか?」
「わしはここで人間どもの望みを叶えているんじゃあ。そしてその
望みが叶ったという満足感、達成感を食っているんじゃあ。うまいぞ。
だから、お前のも叶えてやろう。さあ、言え。」
「あなたはなんて名前ですか?」
「わ、わしか?」
「そうです。」
「わしは自分のことなど知らん。覚えていないのだ。」
「あなたはまおという人間を作り出していましたね。それも男と女。」
「そうじゃあ、やつらは人間どもの希望や願いを聞きだす案内人、
まあ、元はやつらもただの人間だったがのう。やつらも昔、願いを叶えて
もらって元の世界よりもこの世界にいたがったんじゃ。まおがまおを作り出す。
そういう連鎖じゃ。おかげでわしは希望も願いも食い放題じゃ。」
「・・・最初のまおが誰だったか知っていますか?」
「知らん、もう覚えてもいない。」
「あの岩は、あなたの心ですね。他人の希望や願いなんかを食べすぎるから
自分の記憶や気持ちといった心にもっていられなくなった。そしてたまたま
その心を保管しておいたのがしんのすけの庭だった。」
「ふふふ、お主、若いのにきれる頭をもっとるな。美味そうだ。」
「でもあなたは肝心なことを忘れている。しんのすけは黒板を背にした写真に
写った片方の子どもを斉藤まおだと勘違いしていた。でも本当はちがう。
あの写真の両方とも斉藤まおだった。同姓同名ですね?あなたは・・いや、
あなたたちは小学校ごろから相当寂しい思いをしましたね。お気の毒です。
でも、こうして他の人を陥れて希望や願いを食べることで自分たちの希望や願い
という思いを紛らわせようとするのは間違っている。そう思いませんか?」
「うるさい、お前・・・もう願っても帰さないぞ・・。食ってやる・・。」
そういうと人型は僕にむかって襲いかかってきた。
「あなたたちはここにはいない・・あなたたちがあの世界のまおなんだ!!」


オラは白い世界にやってきた。
すると、写真の中の人物たちが一斉に写真の中で動き始めた。
まるでなにかに気づいたかのように。
そして、男の子と女の子が現れた。
「よっ。」
「こんにちは。」
「オラ、野原しんのすけだゾ。」
「僕たち、2人とも斉藤まおっていうんです。」
「え?!君たちが?」
「そうなの。私たち、同じ名前ってだけでいじめられてるの。
ね、一緒に遊んで?」
「うん、いいゾ。」
しんのすけは心からこう言った。

しんのすけの優しさが白い世界を包んだ。

人型の動きが止まった。
あと1歩で僕は殺されるところだった。
それでも僕は1歩も後ずさらなかった。

人型は苦しそうに頭を抱えた。
僕は人型の頭をなでてこう言った。
「大丈夫。あなたの願いは今叶えられるから。安心して。」
人型は初めて笑ったような気がした。

そして人型から白い世界が一斉に広がった。
そこにはしんのすけと男の子と女の子がいた。
「僕も混ぜてよ!」
僕は3人の元に走った。
「風間くん!良かったゾ〜これでおままごとの役があまらないゾ。」
「あはは。ありがとう。」
僕たちはおままごとをして遊んだ。
みんなたくさん笑った。幸せだった。

そのうち、男の子と女の子はこう言った。
「ありがとう。」
その言葉とともに2人は消えていった。
そして僕たちも元の世界に戻った。
そこはいつもの公園の土管の中だった。

「風間くん・・。どういうこと?」
「まおたちは他人の願いや希望を食べることで自分たちの本当の願いを
叶えられると思っていたんだよ。」
「本当の願い?」
「ああ、お前にしか叶えられなかったんだよ。」
「なにそれ??」

「とにかくそういうことなんだよ。」
「ええ?オラ全然わかんないゾ、オラと風間くんの仲で隠し事なんて
良くないゾ!!」
「そういうこと言うなよ、気持ち悪い。」
「ホントはオラとおんなじ小学校、中学校に通いたかったくせに。」
「ふんっ、誰がお前なんかと同じ学校に行きたいなんて思わないさ。」
「あはん、トオルったら相変わらずつれないのね。」
「気色悪い声を出すなよ。さあ、そろそろ帰らなきゃ。僕はしんのすけと
ちがって忙しいんだから。」
「出た。大して忙しくもないのに忙しいふりをする。」
「な、なんだよ、それ!」
「風間くん、幼稚園のころからずっと僕は忙しいんだって顔してたよね。
実際はもえPを集めたかっただけのくせに。」
「ち、ちがうよ!!」
「さあってと帰ろっかなあ。」
「ま、待てよしんのすけ!!僕も帰るよ!!」

しんのすけにしか救えなかったわけ。
それは幼稚園のころからずっとかわらないこの純粋な優しさ。

殺されそうになったときに僕が1歩も後ろに下がらなかったわけ。
僕が幼稚園のころからずっとしんのすけを、この友達を信じていることを
2人に示したかったから。

2人が望んでいたこと。
それはー・・・。

END

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