トップ小説作成者・魔法と夢の申し子さん


1.遭遇
「何してるの?」
そう声をかけた時、風間トオルは別にその少女を怪しんでいたわけではなかった。ただ純粋に、何をしているのか興味を持っただけだったのだ。
だから、その少女があからさまにぎょっとした表情を浮かべて振り返ったのを見て、同じくらい驚いてしまったのである。
「‥‥‥何だっていいじゃない。」
少女はボソッと呟いた。かなりつっけんどんな言い方だ。その茶色い瞳が、探るようにトオルの顔を眺め回している。あんまりじろじろ見るので、トオルは少女が何か他のものを見てくれればいいのにと思った。

なかなか可愛い顔立ちをしているのに、ぶすっとした表情がそれを台無しにしてしまっていた。少女はほぼ一分近くトオルを眺め回すと、またぶっきらぼうに言った。
「いい、あんた、あたしがここにいたこととか、何をしてたかなんてことは、全部忘れちゃいなさい。いいわね。」
「はあ?」
「はあ、じゃないわよ。これは世界の平和に関わることなのよ。あたし、狙われてるんだから。」
トオルはこの女の子は何かの遊びにのめり込み過ぎて、現実と想像の区別がつかなくなっているのだと判断した。でなければ、ただふざけているだけかも知れない。でも少女の顔は、悪ふざけとして片づけるには不気味なほど真剣だった。
これはさっさと離れた方が良さそうだ。トオルは「分かったよ。」と小声で呟いて、少女に背を向け、足早に歩き始めた。後ろから、少女の声が追いかけてくるのが聞こえた。
「いい、絶対だからね!」

にしても何やってたんだろうな、本当に。
トオルはたった今見た光景を思い返してみた。

そう、あの子は確か、地面を掘っていた。そして何かを彫った穴の中に入れていた。何を入れていたんだろう?見られた時にあんなに過敏に反応していたことを見れば、よっぽど大切なものらしい。
まあ大切といってもあの子にとって大切なだけで、本当はただのがらくたか何かかも知れない。ボーちゃんだって一見何の変哲もない石をたくさん集めて宝物にしてるんだもんな。しんのすけだって‥‥‥。

トオルはふと足を止めた。
誰かの話し声が聞こえたように思ったのだ。
誰だ?こんな山の中で‥‥‥。

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