今日はアイちゃんのピアノの発表会にきているんだ。 僕、佐藤マサオは、アイちゃんに誘われたしんちゃんに誘われてここにいるんだ。 嬉しいような・・・悲しいような・・・ でもアイちゃんのピアノを聞けるなら・・・僕は構わない!! 「おっ、アイちゃんだゾ!」 「えー??!どこどこ??」 「あれ。」 しんちゃんが指差した方にいたのは アイちゃんとはなにもかもがかけ離れたおばちゃん。 「あれはおばちゃんだよお!・・・しんちゃん??もしかして、 あのおばちゃんをアイちゃんと間違えたの?」 「お〜、オラちゃっかりしててえ」 「はあ〜〜しんちゃんったらしっかりしてよ〜?」 自分をおばちゃんと間違えるようなしんちゃんのどこがいいんだろう。 僕はいまだにアイちゃんがしんちゃんを好きな理由がわからない。 「それに比べて僕はこんなに君のことを愛しているっていうのに・・・」 「いや〜ん。マサオくん、オラのことをそんなふうに見てたなんて!」 口に出てしまっていたらしい 「ち、ちがうよ、しんちゃんのことじゃないから大丈夫だよ!」 「な〜んだ。」 「ん??」 僕の視線の先には見たことのある男の子が見えた。 僕は風間トオル。5歳。今日は英語塾に一緒に通っている マリちゃんのピアノの発表会を見に来ているんだ。 僕が女の子といるとき、決まって現れるしんのすけには 今日は会わなかった。今日は上手くいきそうだ! よおし、マイちゃんにいいところ見せるぞー。 正装してきているし、花束ももってきているし、完璧だ。 僕はあいている席をきょろきょろ探していると 見覚えのあるおにぎり頭が見えた。 ゲッ!! マサオくんだ。しかも手を振りはじめた。 でもマサオくんだけならきっと大丈夫だろう。 「マ・・・」 そのとき、マサオくんの隣の席に坊主頭が見えた。 「シーーーーッ!!!」 僕は絶対に自分の存在をあの坊主頭=しんのすけに知られたくなかった。 どうしていつもいつも僕の邪魔をするんだああああ!! 「絶対にしんのすけに見つかってはいけない・・・」 僕はマサオくんに目で訴えた。 風間くんはなぜか振ろうとした手を下げて なにか目で訴えてくる。 も、もしかして・・・ ハッとした。 しんちゃんに見つかりたくないんだね。 風間くんも誰かお目当ての女の子がいるにちがいない。 僕もアイちゃんを狙うライバルは少しでも減ってほしいものだからね・・・。 わかったよ、風間くん!!僕たちは仲間だ! という気持ちをこめて僕は親指を立てて風間くんに手を向けた。 「やった。通じたみたいだ。」 僕はホッとして、あいている席に座った。 ここは真ん中の席だけど、ここからなら最前列のしんのすけたちの動きを 見張ることもできる。 「ブーーーーー」 電気が消えて幕が上がった。 「マリちゃんは1番手だ!!ガンバれ!」 心の中で僕はそう応援していた。 マイちゃんが袖から出てきて、一礼する。 今日のマリちゃんは一段とカワイイなあ。 ☆☆☆ 演奏は完璧だった。 「すごいや!マリちゃん!!」 僕の拍手する手にも自然と力が入った。 「マサオくん、ダルいゾ〜。オラもう帰りたいゾ。」 「ええ?!ダメだよ、しんちゃん。アイちゃんは3番目だから、 あとちょっとだから我慢してよ〜。」 「仕方ないなあ〜マサオくんは。ふーやれやれ。」 「ぐっ・・・しんちゃん、ありがとう。」 僕は怒りを抑えてお礼を言った。 そこで前の子の演奏が終わった。 「あ!終わったよ!次がアイちゃんだよ。ドキドキするね。」 「オラは別にい〜。」 「しんちゃん・・・。あ!見て!ほら、アイちゃんだよ!」 アイちゃんが出てきて僕の目の前でお辞儀をする。 そして、僕に向かってウインクをくれた。 「ア、アイちゃん。」 僕の心臓はバクバクしている。もう僕は一生君についていくよ。 「しん様。」 アイは一撃必殺のウインクをしん様に捧げたわ。 なのにしん様ったら寝てるんですもの。 それでしん様の隣にはなぜかマサオがいるし、 アイがっかりですわ。 でも、しん様がきてくれてるんですもの。 アイ、一生懸命演奏いたしますわ。 アイちゃんの演奏が始まった。 どれだけ美しい音色なんだろうか。僕はドキドキした。 って・・・え??? ううう・・・アイちゃん・・・・・ どう?しん様。アイの演奏は! しん様をチラッと見ると、しん様は寝ているし、 他のみなさんは耳をふさいでいるし、どうしてかしら? 「うう・・・アイちゃん、ひどい演奏だなあ。」 周りの人同様に、僕も耐え切れず耳をふさいでいた。 ピアノの演奏会は何度も見たことあるけどここまでヒドイ発表は初めてだ。 これじゃせっかくのマリちゃんのすばらしい演奏が消されちゃうよ! 「もう限界だ。」 僕は席を立った。同じことを考えていたお客さんはたくさんいて 出入り口はすごい混雑していた。僕はあきらめて席に着いた。 もう半数以上が席をたったころだった。 ステージの奥から白い煙がスゴイスピードで広がり始めた。 「なんだ?なんだ?」 僕はキョトンとした。 とにかく早く外に出た方が良さそうだ。 僕は再び席を立ったが時すでに遅かった。 周りにはすでに白い煙が充満していた。 「うわ!!」 ビックリして、白い煙を吸い込んでしまったのがいけなかった。 「う・・・」 白い息を吸い込んだ瞬間、僕は急激な眠気に襲われた。 薄れゆく意識の中ではっきりと見えたものがあった。 ステージにはガスマスクをした5人の大人・・・ アイちゃん、マサオくん、しんのすけも倒れている・・・ 僕らどうなってしまうんだろう・・・・・・・・・・・ 気がつくとそこはどこかの部屋だった。 そこは薄暗くて窓なんかないコンクリートの部屋。 僕の他にも何人かいる。 手を後ろで縛られて口にはテープがされている。 僕はしんのすけやマサオくんやアイちゃんの姿を探した。 「いないや・・・」 心の中でそうつぶやく。 とにかく他の人を起こさなきゃ! そのときだった。 (カツンカツン) 足音が聞こえる。僕はとっさに寝そべり寝ているふりをした。 「こちらB。異常なし。どうぞ。」 僕はその様子を薄目で見ていた。 覆面で武装した男、手には銃と無線らしきものを持っている。 「他にも仲間がいるのか。・・・そういえばさっきステージの上には 5、6人いたっけ。・・これからどうすればいいんだ?!」 自分の考えに浸っていた僕は動いてしまったらしい。 「ん?オイ。そこのガキ。起きたか。」 「は・・・はい。」 と答えたつもりがテープで口をふさがれていて上手くしゃべれない。 僕は首を縦にふった。 「ちょっとこっちこい。」 手足を縛られていたから転がっていった。 「痛いかもしれないけどガマンしろよ?」 (ビリリ) なぜか知らないけど僕のテープをはがしてくれた。 「あ、ありがとうございます。」 「静かにしろよ?俺はBって呼ばれてんだ。これから長い旅になるけど ガマンしろよ?俺らが仕事を終えるまでの辛抱だ。」 「し、仕事、ですか?」 「そうだ。お前、その年にしちゃ頭いいな。気に入った。 名前なんて言うんだ?」 「風間トオルです。」 「ほう、トオルか。俺になんか用があったらBって呼んでくれ。」 「は、はい。さっそくですがBさん。仕事ってなんですか?」 「仕事か、今回はあるお嬢さんの・・・誘拐だ。なんでも今日が ピアノの発表会だったらしい。」 「ま、まさか・・・アイちゃん?!酢乙女アイちゃんですか??!」 「ほう。お前知ってるのか。とことんお前気に入ったぜ。 出してやるよ。こっちこい。」 そう言うと僕を牢のような囲いをした部屋から出してくれた。 「こちらB。そっちにガキ連れてっから。ん?おう。ちょい待て。」 「トオル。なんか食いたいものあんのか??」 「い、いえ。大丈夫です。」 「あー、ないそうだ。」 「あの、・・・アイちゃんをどうするんですか?」 「どうするもなにもねえよ。・・誘拐する。そんだけだ。 それ以上のこたぁ俺たちゃぁしねえ。ただやつらはちがう・・・ おっと。お前しゃべりやすいな。これは内緒だ。」 「はい・・・。」 やつらって誰だろう。でも、このBって人は大丈夫な気がしていた。 「ここだ。」 (ガーッ) ドアが開いた。そこはコンピューターの部屋と言ってもいいくらい コンピューターがたくさんあった。 「こ、ここは・・・??」 「俺たちの本部さ。なかなかいいつくりだろ?」 「すごい。すごいです!!」 「ここで待て。俺たちのリーダーがくるから。・・・大丈夫。 子ども好きの優男さ。」 そういうとBは持ち場に戻った。 しばらくたつと、扉が開いた。 「君がトオルくんだね??」 「あ、あなたは!!!」 「ん、んん。・・・ここはどこ?」 僕は目を覚ました。隣にはスヤスヤとしんちゃんが眠っている。 「しんちゃん!しんちゃん!起きてよ!!」 「ん・・・ななこお姉さ〜ん、そんなにゆすっちゃイヤ〜。」 「しんちゃん!!!」 「うーん。なんだ。マサオくんか。オラ、今すごーくいい気分だったのに。」 「ご、ごめんよ。で、でも!ここどこだろう?」 「おっ??オラたち、どうしてここにいるの??」 「う〜ん。確か、僕たちは・・・あ!アイちゃん!僕たちアイちゃんの 発表会を見てたんだよ。そしたらいきなり白い煙に包まれて・・・ 気がついたらここにいたんだ。」 「ほう、ほう。で、どうするの?」 「ぼ、僕に聞かないでよ。それより、アイちゃんはどこにいるんだろう。」 「探す?」 「ええ?!脱走するってこと?」 「うん。だってここにいてもなんにも変わらないゾ?」 「で、でも危ないよ〜。もうちょっと待ってみよう?」 「仕方ないなあ〜。」 オラたちは待つことにした。 (コツコツコツ) 足音が聞こえるゾ。 「マサオくん。誰か来たゾ。」 「わ、分かってるよ。」 すぐにその姿が見えた。武装している。銃を持ってぃる。 「よお。お目覚めかい?おチビちゃんたち。」 「オラ、おチビちゃんじゃないゾ。野原しんのすけだゾ。」 「生意気なガキだな。おめえら、今日のピアノの発表会誰見に来た?」 「酢乙女アイちゃんだゾ。」 「ほお・・・ちょっと待て。あーあーこちらB。酢乙女アイのことを 知ってるガキを2人発見。どーする?・・・はいよ、了解。 おい。お前ら、こっちこい。出してやるから。」 なぜかオラたちを出してくれた。 「そのオニギリみてえな頭の方はなんて言うんだ??」 「さ、佐藤マ、マ、マ、マサオです。」 「マサオな。わかった。ようし。しんのすけ。マサオ。こっちだ。」 「ほおい。」 「はい。」 しばらく歩くと大きな扉があった。 「ちょっと待て。」 溝にスッとカードを通した。 (ガーッ) 扉が開いた。 「来い。」 中は本当に殺風景な部屋だった。 白い壁がどこまでも続いた。 中には椅子がひとつあるだけだった。 「ここで待て。」 そういうとBは出て行った。 「オラ、ちょっと探検してくるから、マサオくんは ちゃ〜んとここで待ってるんだゾ?」 「え??しんちゃん。探検なんてやめた方がいいよ〜。」 「オラ、この部屋つまんないゾ。じゃ、そゆことで〜。」 「し、しんちゃん・・・。」 あっという間にしんちゃんは部屋から出て行ってしまった。 僕は急に不安になった。 その時だった。もう一度扉が開いた。 「しんちゃん??」 と、振り返るとそこには長細いというのがピッタリと 当てはまる男が立っていた。 「お前が酢乙女アイを知っているというガキか?」 「ハ、ハイ!!」 「この映像を見ろ。」 (ピッ) そういうと壁に映像が映し出された。 「ア、アイちゃん!!!」 その映像の中には確かにアイちゃんが写っていた。 それもグッタリとしている。 |