トップ小説作成者・春日部防衛隊応援団団長さん


」がなくなっていく。ゆっくりと、しかし明らかに、確実に。
それでも最後まで忘れずにいたもの。それは‥‥‥。

a院に入院することになるので、風間くんはしばらく幼稚園に来られません。その知らせをよしなが先生の口から初めて聞いた時、しんのすけたちはしばらく驚きで声も出なかった。
「先生、それってどういうことですか?」
一番最初に口を開いたのはネネちゃんだった。目を大きく開いている。
「どういうことって‥‥‥そういうことなのよ。」
先生の話も、あまり要領を得ない。
「そんなのおかしいよ!」
今度はマサオが言った。
「だってつい昨日まで、元気に幼稚園来てたじゃないか!!」
「そうだそうだ先生、説明のいく納得をしてもらおうじゃないか!」
「それを言うなら納得のいく説明よ、しんちゃん。」

よしなが先生はため息をついた。
「あはー、そうとも言うー。で、何で風間くん入院するの?」
しんのすけが再び尋ねると、そうだそうだ教えろー!と、子供たちから質問の嵐が飛んだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。私もそんな詳しいことは知らないのよ。今朝風間くんのお母さんが連絡してきて、そう言ったんだから、原因とかは分からないの。」
「なんだ先生、全く役に立ちませんなあ。」
「うるさいわね!」
「じゃ、じゃあ今日風間くんの家にお見舞いに行くっていうのは?明日入院するんだったら、今日はまだいるかも知れないし。」
このマサオくんの提案には、しんのすけ、ネネちゃん、ボーちゃんの三人も一斉に、
「賛成!」
と叫んだのだった。

マンションに着いてみると、すぐ前にどこかの研究所の車らしいのが停まっていたが、別段気にも止めず、しんのすけたちは風間くんの家へと向かった。
チャイムを鳴らし、しばらく待つと、インターホンから風間くんのママの声が聞こえてきた。
「はあい、どなた?」
「ええと、僕たち‥‥‥」
「アリコジャパンですがー。」
「違うでしょ、しんちゃん!僕たち風間くんのお見舞いに来たんです。」
「あら、ありがとう。でも今トオルちゃんは検査の最中なのよ。終わるまで、ちょっと中で待っててちょうだいね。」
「はーい、分かりましたー。」
検査を受けている、ということは、少なくとも身体のどこかの調子が悪いのは確かなようだ。四人は言われるままに中に入った。
「でも何でおうちで検査してんのかしら?」
ネネが呟いて首をかしげた。

居間を覗き込むと、ソファに風間くんが腰かけているのが見えた。向かい合わせに座っているのは知らない男の人で、クリップボードとシャーペンを持ち、何やら書き込んでいる。その後ろにも、何人か男が立っていた。なぜかどう見ても医者には見えない屈強そうな男の姿もある。
「あ、みんな‥‥‥」
しんのすけたちの姿に気がついた風間くんが、こちらへ手を振った。するとしんのすけは「ほほーい、風間くーん。」
と、中に入っていってしまった。
「ああっ、しんちゃんダメだよ!」
そう言うマサオくんやネネちゃんたちも、しんのすけの後を追って居間に入ってしまう。

「き、君たち、今はトオルくんの検査の最中なんだよ。静かにしてもらえないかな。」
眼鏡をかけた若い男性が、慌ててしんのすけたちを止めに入った。眼鏡を外せば芸能界でも通用しそうな、端整な顔立ちである。
「いやあ、お構いなく。オラたち全員風間くんのお知り合いですから。」
「みんなでお見舞いに来たんです。ねー、マサオくん。」
「う、うんっ!」
「ボー。」
口々に言われて、若い男性は困った顔つきになった。
「分かった分かった。だからお話とかは検査が全部終わってからにしてくれるかな。」
「はーい!」
そんなわけで、四人は部屋の隅っこの方で「検査」を見物することにしたのだが‥‥‥。
「ねえ、マサオくん。」
ネネちゃんがまた叱られないように、小声で隣のマサオくんに囁いた。
「なに、ネネちゃん?」
「風間くん、全然元気そうじゃない?」
「あ、やっぱり?僕もそう思ってたんだ。」
見たところ、風間くんは熱を出しているようでもないし、咳もしていないし、やせてもいない。どう見たって元気そのものだ。
それに「検査」とやらも身体の調子を調べたりするのではなく、クリップボードを持った男性が風間くんに何か質問をし、風間くんがそれに答えていくという、何だかテストみたいな感じなのである。
「どこが悪いのかしら?」
「うーん‥‥‥。」
二人がひそひそ話しているうちに、検査は終わった。

「ありがとうございました。」
きちんと礼をして、風間くんは自分の部屋へと入っていく。それを追いかけようとしたしんのすけたちを、クリップボードを持った男性が引き止めた。
「君たち、ちょっと待ってくれないか。トオルくんを休ませてあげないといけないからね。」

「え?風間くん、お疲れなの?」
「全然元気そうに見えたわよ。ねえ、マサオくん。」
「うん。」
「身体はね、何の問題もなく健康なんだよ。問題があるのは‥‥‥おや、どうしたんだい、トオルくん。」
男の視線を追ってみんなが振り向くと、風間くんが壁に手をついて身体を支えていた。そのままずるずると、床に崩れ落ちる。
「風間くん!どうしたの!?」
ネネちゃんが叫んだ。風間くんの顔は、さっきと豹変していた。血の気が引いて真っ青になり、額に汗が浮いている。黒い瞳が硬く凍りついたように曇っていた。
「頭が‥‥‥。」
風間くんが苦しげな声で言った。
「頭がい‥‥‥たい‥‥‥。」
そう言って、ぐったりと倒れ込んだ。

それからは、気絶した風間くんをソファに寝かせたり、何人かの男が血圧とかを測ったりと大騒ぎだった。その間、しんのすけたちは落ち着きなくその様子を見つめているしかなかった。
「前よりも症状が進行しているようですね。」
さっきの若い男が言った。
「気を失うところまでいくとは。」
「ああ、どうなるか分からない。かなり危険だな。」
どうやらリーダー格らしいクリップボードの男の言葉を、しんのすけが耳ざとく聞き咎めた。
「きけん?じゃあ風間くん、今度のドッジボールの試合に出れないの?えーっ!」
「しんちゃん、それは棄権でしょ。今言ってるのは危ない方の危険よ。」
「危ない?風間くんが危ないの?何が危険なの?」
男たちは困ったように顔を見合わせた。

「説明するのが難しいんだけどな‥‥‥。」
若い男が言った。
「風間くんはね、脳の病気なんだよ。」
「脳!?」
四人が声を揃えて叫んだ。

「そう。どうしてかは分からないんだが、突然脳が激しく痛み出すんだよ。原因が全く不明だから、今我々で必死になって治療法を探しているんだ。このままいくと、症状が悪くなるばかりだからね。」
「勉強のし過ぎじゃない?」
ネネちゃんがあてずっぽうな意見を述べた。

「いや、とにかく原因は全く不明なんだが、子供の脳だ、何が起こるか分からないからね。入院してもらって、じっくり検査する必要があるんだ。」
「そうなんだ‥‥‥風間くん、治るといいね。」
「で、風間くんいつ帰ってくるの?」
「それは‥‥‥分からない。今まで発見されたことのない症例だから、長い時間がかかるかも知れないね。」

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