トップ小説作成者・らうるさん


もしも…「ヘンゼルとグレーテル」

むかしむかしドイツの森の中に、仲の良さそうな家族が住んでいました。
ある晩おさない兄妹が寝静まった頃、お父さんとお母さんが深刻な話をしていました。
「ねぇマサオくん。今日の獲物はたったのこれだけ?!あの子たちはともかく私たちの食べる分だってないじゃないの。
 一体これからどうする気よ?」
「ま、まってよネネちゃん。僕のことはパパって呼ぶはずだったじゃない。それに…」
「それに…?!」
「言っちゃなんだけど、君のやりくりが下手だからこんなことになるんじゃないの!?」
一瞬お母さんの表情がかげったように見えましたが、気を取り直したようにこう言いました。
「これから先もこんな調子じゃ、私たちのとる道は一つしかないわね!」
「え…。それはどういう…」
「あの子たち2人を追い出してしまえばいいのよ。
 そうすればいくら甲斐性なしのあなたでも私たちの分くらいなら稼いでこれるでしょ?」
「追い出しちゃうの?でも、どうやって?」
「そういう細かいことはあなたの仕事なの!あー解決したらスッキリした」
「困るよネネちゃん。僕、悪者になんかなりたくないよ」
こんな事を言いながら、両親たちは眠ってしまいました。

さてこの会話を立ち聞きしてしまった者がいます。
おしっこで目が覚めてしまったヘンゼルでした。
内容を聞いて自分たちの身の危険を感じたヘンゼルは、隣のベッドに寝ているグレーテルを揺り起こしました。
「大変だグレーテル!僕たちこの家から追い出されてしまうかもしれない!」
「ん…。あれ風間くん。おかしな格好して何してんの?」
「何言ってるんだグレーテル。僕の名前はヘンゼル。オマエの兄さんじゃないか。
 (小声で)台本どおりにちゃんとやれよ、しんのすけ」
「おぉ!
 んまぁーヘンゼルぅ、それ、どぉいう事なのぉーん」
(うっ、なんか気色わるー)
「僕、父さんと母さんが話してるのを聞いちゃったんだ。
 あんまりにも貧乏だから僕らをどこかにやっちゃおうっていう話を!」
「ヒ、ヒドイわ…。
 いくらヘンゼルがもえPクッキーが欲しいって駄々をこねたからって、アタシまで被害にあったんじゃたまったもんじゃないわよね!」
「お、おい!人聞きの悪いこと言うなよ!
 だいたい駄々こねたのはオマエのほうだろ!おかげで見ろ!
 僕たちの部屋はチョコビシールでいっぱいだ。あーもう、こんなに汚くして!」
「そんなこと言っていいの?オラ見ちゃったんだゾ。
 『ウワーーン、ヤダヤダヤダーッ!もえPクッキー買ってくんなきゃヤダー   ッ!』」ニヤリ
「しんのすけー!そんな台詞、台本にないぞー!」
2人はとうとう本当にケンカを始めてしまいました。
……。
「ハァハァ…。言っとくけどな。僕たちが捨てられちゃうのは本当のことだし、僕は もえPなんか好きじゃないんだからな」
「うぅん、わかってるって、大丈夫!そゆことは明日考えましょーよ」
「オマエ、少しはキンチョー感とか持てよ」
「キンチョーしてたらどうにかなるの?」
「うーん、それは…」
「じゃ、いいんじゃないのー。さ、寝ましょー」
こうして一家の夜は更けていくのでした。

翌朝。
家族みんなが揃ったところで、お父さんが話し始めました。
「おはよう、ヘンゼル、グレーテル。
 実は2人に話さなきゃならないことがあるんだ。
 ゆうべ母さんともよく話したんだけど、うちは…土星貧乏なんだ」
「土星貧乏?」
「輪をかけて貧乏、ってことだ、だから2人にはむぐぐ…」
話の途中でお母さんがお父さんの口を塞ぎながら話し始めました。
「いやーね、パパったら朝から暗い話なんかしたりして。
 今日は天気がいいからピクニックに行きましょうって、そういう話だったじゃないの。
 ねっマサオくん!」
「「ピクニック?!」」
(貧乏なのにピクニック?!)
ヘンゼルはお母さんの話に不審を抱きました。
(でもお父さんとお母さんがボクらを裏切るなんて、そんなことあるはずがない!)
一生懸命思い直し、ヘンゼルはみんなと一緒にピクニックにいくことにしました。

ヘンゼルもグレーテルも一度も来たことがないほどの森の奥深くに着くと、お母さんが言いました。
「お父さんとお母さんは森で食べ物を探してくるから、あなた達は火の番をしていてちょうだい。
 いいわね。私達が戻ってくるまでここを離れちゃだめよ」
「…ハイ」
「ほーい」

日が傾いて暗くなり、寒さがしんしんと身に沁みてきます。
「あぁやっぱり昨夜ボクが聞いちゃった事は本当だったのかもしれない…」
「わかってたんならどうにかしてよね。役立たず!大豆!!イソフラボン!!!」
「そんなに罵倒しなくたっていいじゃないか。だいたい大豆ってなんだよ。」
「大豆も知らないの、風間くん。納豆とか豆腐のもとなんだよ」
「知ってるよ!!…じゃなくて。
 これからどうしようっていう話のことだよ!
 ふふん!こんなこともあろうかと思って、ボクはちゃあんと対策をとっておいたのさ!」
「もぉ、だったら最初からそう言ってよね」
「オマエ、昨日ボクが悩んでいたら明日考えろとか言ってたじゃないか…」ぶつぶつ
「そうショベルなよ」
「『しょげる』だろ。
 …まぁ、いいや。
 ねぇグレーテル、今夜は満月だろ?周りを見てごらん。
 ボクが道々落としてきた白い小石が光って見えるはずだよ。
 ソレをたどっていけばお家に帰れるよ、きっと!」
自信を持ってヘンゼルは断言しますが周囲を見回してみても、いっこうに白い小石は見当たりません。
「アレ?おかしいな…。ちゃんと落としてきたはずなのに…」
「ひどいわひどいわ、ヘンゼル!!
 石を落としてきたなんて見え透いた嘘をつくなんて!!」
「嘘って。何だよ!
 だったら聞くけどオマエはどんな対策とったっていうんだよ」
「オラはちゃぁんとやったゾ。この子を捕まえてきた、えっへん」
「ぼ ー」
グレーテルが連れて来たのは熊の毛皮を着た、ぬぼーっとした男の子でした。
「わっ」
いきなり現れた男の子に驚きつつも、ヘンゼルは冷静になろうと努めました。
「は、初めまして、僕ヘンゼルと言います。あのー、君は一体どうしてココに?」
「ぼ ー 。 き れ い な 石」
そういって彼は両手にいっぱいの白い小石を見せてくれました。
「これ、もしかして…」
「こ ん な に 立 派 な 石 は な か な か な い !」
(ボクが落としてきた命綱がぁ…、一晩考えた対策がぁ…) 
がっくりと肩をおとして、ヘンゼルは落ち込んでしまいました。
「どうしよう…。ボクたちもうお家に戻れなくなっちゃった…」
「気にすんなよ風間くん。これで何もかも終わったというわけじゃないゾ!」
「家に帰れなかったら、何もかも終わりなんだよっ!…はっそうだ。君!君の家は?」
「ボ ク も 迷っ た」
「…そうか」
「で も アッ チ の 方 か ら い い ニ オ イ が す る」
「いいニオイ?」
「美 味 し そ う な ニ オ イ」
「!」「行ってみよう!」
ヘンゼルとグレーテルはその方角にダッシュしました。
「… で も ソッ チ の 方 に は」
けれどもこの言葉は急いで走っていたため、ヘンゼルとグレーテルには届きませんでした。

先を進むごとに美味しそうなニオイは強くなっていきます。
こっちだ。この先に僕らを助けてくれる何かがある!ヘンゼルの期待はぐんぐん膨らみます。
歩いて歩いてもうへとへとになった時、ようやくいいニオイの元が現れました。
「スゴイ!」
「お菓子の家!」
おなかが空いていたので、2人は無我夢中で食べ始めました。
「わ、この窓、飴で出来てる」
「壁はビスケット、屋根はチョコレート、…むぅー」
「どうした、グレーテル?」
「こんなにお菓子があるのにチョコビが一つもなぁーい!」
「食べ物がたくさんあるっていうのに。ワガママ言うなよ!」
ぶちぶち言い合う2人に、どこからともなく話しかける声が聞こえてきました。
「もーしもーし、私のお家を食べているのはどこの誰かぇ?」
「誰?どこから話しかけてるの?」
「まぁ立ち話もなんだから、家の中にお入りなさいな」
ヘンゼルとグレーテルは誘われるまま、お菓子の家に入っていくとそこには怪しげな格好をした年齢不詳の女性が居りました。
「おぉ、梅さん!」
「年齢イコール彼氏いない暦なんだよねー」
「違う違う違ーーうっ!
 私はねぇ、一人きりで森の中に住む絶世の美女なのさ。
 こんなに美しいのに森の奥過ぎて誰も寄り付かなくてねぇ。
 良ければ二人ともココに住まないかい?」
この言葉を聞いてヘンゼルとグレーテルは相談し始めました。
「お菓子の家は魅力的だけどさ…」
「あのヒト、自分のことを絶世の美女だって。普通じゃないよね」
「うんうん。他に比べる人がいなければ自分が一番になるに決まってるじゃないか」
「きっと誰にもかまって貰えないもんだからこんなところに住んでいるんだゾ」
「コラコラコラーーーッ!全部聞こえてるってば!
 どうするの?私と住むの、それとも出て行く?」
「そう言われたら、…なぁ」
「仕方がない!一緒に住んでやるゾ」
ヘンゼルとグレーテルは渋々ながらまつざか梅(仮)と一緒に住むという約束を交わし、眠りにつきました。

次の日の朝。
ヘンゼルはおかしな場所で目を覚ましました。
(そうか。確か昨日、僕たちはへんな女の人と一緒に住むという約束をして……、!!)
昨夜は確かにベッドの上に寝ていたはずなのにヘンゼル今、檻の中に閉じ込められています。
「おーい!誰かーっ!」
「ふっふっふ、ようやくお目覚めかい?」
「あなたは昨夜の自称美人!」
「『自称』は余計だよ!
 …ボウヤ、お前はご馳走を食べさせて太らせてから私が食べてやろう。
 そっちの女の子は召し使いだ。毎日こき使ってやるから楽しみにしときな!」
「おぉ!オラは食べられちゃわないのか、よかった」
「喜んでいられるのも今のうちよ。さぁ娘!そうと決まったらさっさとお前の兄さんに食べさせるご馳走を作るんだよ!」
そうしてまつざか梅(仮)はグレーテルを台所に連れて行きました。
「ね〜ぎとろ巻き巻き なぁーっとぉ巻き巻き 手ぇ巻き寿司〜 と。
 むぅー、こんなに美味しそうなものを風間くんだけに食べさせるなんて納得いかないゾ!
 …こっそりオラが食べちゃおーっと!」
まつざか梅(仮)がだらだらしてごろ寝しているのをいいことに、グレーテルはご馳走の大半を食べてしまい、
余ったわずかな海苔などだけをヘンゼルに与えました。
こんな調子でしたので、ヘンゼルはいっこうに太らず、グレーテルはガンガン太っていきました。

こうして4週間が経ちました。
「ホーッホッホッホッ!苦節4週間。待ちに待った日が来たわ!
 月が満ちた今夜、若い男の子の肉を食べればピッチピチで魅惑的な肉体が手に入るのよ!
 どれ、あの子がどれだけ太ったか見に行こうかしら」
そう。やはりまつざか梅(仮)は魔女だったのです。
ヘンゼルの面倒を全部グレーテルにまかせっきりだったため、檻の中を覗くのも4週間ぶりです。
「な、何よコレーっ!全然太ってないじゃないの!ていうか前より痩せてるじゃない!」
「あ…、まつざか先生…。ボク、もぅダメ…」がくっ
「ちょ、ちょっと!食べるどころの話じゃないわ。グレーテル!グレーテル!」
「んー、…なぁに。」
「どうしてこんなことになってるのよ!アタシの言いつけ、守ってなかったわね!」
「おぉ、もちろんこんな不公平なこと守るわけないゾ。オラが良ければそれでいいのだ」
「そんな勝手はバカボンのパパだけで十分よ!…あぁ、チャンスは今夜しかないの に」
「そう気を落とすなよ、おばさん。どうせ誰も見てないんだから顔が綺麗だろうが若かろうがカンケーないゾ」
「それもそうね。計画性なんて言葉、私には似合わないわ!今日が良ければそれでい いのよ!ホーッホッホッホッホ!」
「そうだゾ。ホーッホッホッホッホ!」
こうしてみんなで仲良く末永く暮らしましたとさ、チャンチャン。

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