トップ小説作成者・零@涼宮ハルヒさん


【桜】


今日はしんのすけの卒園式。

寝ぼけまなこのしんのすけにいつものように着替えをさせ、ご飯を食べさせるみさえ。
昔と全く変わっていないことを嘆きつつも息子の卒園を心から喜んでいるに違いないのだが。
いつもはよれよれの頼りないスーツを羽織るひろしも、今日はピシッとした冠婚葬祭用スーツを見事に着こなしている。
鏡の前で気取ったポーズをとるひろしをあきれた目で見つめていたひまわり。
つい先ほど娘にあきれた目線で見られていたことなど知らぬひろしはにこやかに
「朝ごはん食べようね」
とひまわりを抱きかかえ居間へと向かった。

しんのすけがパジャマを着替えつつご飯を食べているいつもの光景も、もう見ることは無いのだろうかとふと思ったひろしは厄介ごとから解放され、
手を焼かずに済むと安心するとともに一抹の寂しさも感じる。何故だろう。
いや、きっとこいつは小学校に入っても変わるはずが無い。
前言撤回、規則正しいしんのすけを見るのはいつになるだろうかと大きなため息をついた。

いつもの朝の風景。
しんのすけの準備も済み、めずらしく幼稚園のお迎えバスに乗ることが出来た。
今日は卒園式、チャリで送って行くと化粧の時間の確保さえも危うい。
バスに乗せられて本当に良かったと一息ついたみさえは食器を片付けようと居間へ向かった。
するとどうだろう、食器がひとつも無い。
ふと台所を見るとひろしがぎこちない手つきで食器を洗っている。
「しんのすけのために今日は特別綺麗な顔で見守ってやれよ」
そう言うとみさえを化粧台へと強引に向かわせた。
今までではじめて見るかもしれないようなやさしい笑みを浮かべたひろしにみさえは少し照れるように 「洗剤はムダに使っちゃだめよ」
とひろしのご厚意に甘えた。


一方幼稚園に到着したしんのすけ達は、もう見ることのない教室を名残を惜しむように見回していた。
胸にはバラの付いたリボンには
『ごそつえんおめでとう』
と書かれていた。

風間くんはいつもなら
「トオルちゃん、私達、卒園しちゃうんだし何か思い出作りましょ」
などと耳元で気味悪くしんのすけに話しかけられるのだが、今日のしんのすけはいやに静かだ。
それ以上に、何か物悲しそうに教室の外に広がるグラウンドを見つめているのはしんのすけらしくない。
風間くんはそんなしんのすけの気持ちを少しは理解出来たのだろうか、だまって見てやることしか出来なかった。

結局みんなはたいした話も出来ず、突然現れた上尾先生がぼそぼそとみんなに告げた。
「みなさ〜ん…あの〜…式場に…」
こうした話し方をする先生とももうお別れだ。
みんな同じことを考えているのだろう。


式場では多くの保護者がパイプ椅子に腰を下ろしている。

組長…いや、園長先生の奥さんが司会進行を行い、無事に卒園式は始まった。


しんのすけが大人しく真剣なまなざしで式の進行を見つめている。
そんなしんのすけの姿をみさえが泣かないわけがなかった。
いつもとは違う大人っぽいしんのすけ。
なんだかんだ言って楽しかったわんぱくなしんのすけを叱り繰り返す日々が思い出される。
今みたいにおとなしい子になってしまったらいつもしんのすけらしくなくなってしまうもではないのか。
そんなことを考えると泣かずにはいられなかったのだ。


そして無事式は閉会した。
しんのすけが花のアーチをひろしとみさえとともにくぐり抜けて行く。
少しずつ、ゆっくりと。

幼稚園の門を出てもしんのすけは何も口にしなかった。
みさえに抱きかかえられたひまわりが不思議そうに見つめている。
「しんちゃ〜ん!!みんなで写真撮ろうよ〜!!」
ネネちゃんやマサオくん、よしなが先生達がしんのすけを呼んだ。
「ふっ、写真だなんてみんな子供だなぁ」
地面を見下げたままキザっぽくため息とともにそ口を開いた。
何故しんのすけが地面を見下げたのかをひろしとみさえは見た、そして理解した、透き通った涙がしんのすけの頬を伝っているのを。
「行ってきなさい、ママはここでしんちゃんが戻ってくるのを待っているわよ」
やさしく微笑むみさえ、いつもより綺麗な母ちゃん。
「ほら、男の子なんだから涙なんて流すんじゃないぞ」
いつもより格好よく、たくましく見える父ちゃん。

「うん!!」
しんのすけは全速力でみんなのもとへ走っていった。

桜が咲きはじめた日の午後だった。
ひろしが持ってあげたしんのすけの幼稚園バッグに一枚の桜の花びらが舞い落ちた。
ひろしはしんのすけの背中を見守った。


まるで未来へと走り続けていくかのような息子の姿を―――――

短編集その2 【恋愛街道爆進中!!】


私は酢乙女あい 5歳 『しん様激LOVE』


今年の初夢はしん様とおデート…
あぁっ、この上ない幸せでしたわ!!

そして今日は冬休みが明けて幼稚園に通う日。
私がしん様とおデートする夢を見たんですもの、しん様が見ていないわけがないわ。
しん様はきっと私を待ち焦がれていたに違いないわ!!
黒磯、早くお車をお出しなさい。
「はっ、かしこまりましたお嬢様」
やけに長ったらしい車があいを乗せて幼稚園へと向かってゆく。
ふと車の窓の外を見ると、昨日から降っていた雪が積もり、一面の銀世界が広がった。
しん様とゲレンデをふたりっきりで歩いたら…
そんな理想を浮かべているうちに幼稚園に到着した。

---ここより3人称視点---

幼稚園バスより早めに到着し、しんのすけの顔が見たいということでいつも早めに来ているのだが、
残念なことにいつもしんのすけはバスに乗っていない。
そりゃそうだ、みさえが毎日と言っていいほど遅刻したしんのすけを自転車で送っているのだから。
誰かこの役を代わって出る者はいないだろうか、かわいそうに。
少なくともあと1年はみさえに頑張ってもらうしかない。

そんなこんなで遅れてやってきたしんのすけに、あいはいきなりの悩殺ウィンクを仕掛ける。
近くにいたマサオがすぐさま顔を真っ赤にしてその場に倒れ込んだ。
マサオ、君は愛の横顔、しかも目を閉じていない片目を見ただけだろう。
休みが明けてもマサオは純情であることに変わりない。
しかしそんなウィンクを見たしんのすけはいつものように
「どした、ゴミに目が入ったか?」
とボケなのかイマイチよくわからない感想。
あいもいつものことであるとわかっているので
「あーん、しん様〜」
としんのすけの背中を追う。

しかしあいはまだまだ諦めない、というかいつものことだ。
一緒に遊ぶことをせがまれてしぶしぶしんのすけは「雪をかぶった死体ごっこ」を提案した。
あいは嬉しそうに雪を体に乗っけた。
つまり、しんのすけと遊べるなら…なんでも良かったのだ。
しかし雪をかぶせてただ寝るだけの遊びになんの醍醐味があるのだか。
地面の雪があいの体温を容赦なく蝕んでゆく。
「あ…あの、少しばかり寒いのではございま…」
「あー、飽きちゃった」
としんのすけ。彼のマイペースぶりは常軌を逸するばかりだ。
「そんな、せっかくなんですからもっと遊びましょうよ」
とあいが願っても
「いつまでそんな幼稚な遊びしてんの」
とまたしてもマイペースぶりを遺憾なく発揮するしんのすけ。
てか、君が提案したんでしょうが、君が。

するとよしなが先生の「おやつタイム」という言葉がグラウンドに響き渡った。
今日は副園長先生のおしるこだ。
みんなはわーっと教室へと戻り、みんなで手を洗ってから席に着いた。
しんのすけはあいに手を洗えと注意され、しぶしぶ手を洗った。冷たそうだ。
おしるこの中のお餅はひとり2個の配分だが、しんのすけのおしるこには3個入っている。
それを発見したのはネネちゃんだった。
ネネがお願いする、あいが対抗してお願いする。
もちろんその1個のお餅をよこせという争いだ。
おいおい、しんのすけはまだ誰にもあげるとも言ってないぞっ。
しかし何故だかしんのすけ、あいちゃんにお餅をあげたのだ。
ネネちゃんが「ムキーィ」と咆哮を上げつつもあいはすまし顔でネネを見やる。
しんのすけに感謝するあいだが、しんのすけは「良かったね」としか言わない。
彼流の照れ隠しなのだろうか、それとも本当に適当な気持ちだったのか。

おやつも食べてまた元気に遊ぶしんのすけ達、しんのすけはぼーっとしている。
あいがいくら遊びの提案を持ちかけても知らんぷりをしている。
あいはだんだん自分に男を惹きつける魅力がないのかと自信を失ってしまった。
憂鬱な気分があいを孤独にさせる。
するとかすかべ防衛隊のメンツで鬼ごっこをやるらしい。
もちろんしんのすけにも参加の誘いが来て、二つ返事で参加を決めた。
あいはしんのすけを見いやった。
「やっぱり私といるよりみんなでいるほうが楽しいのかしら…」
そんな思いがよぎったがそれは杞憂だったのかもしれない。
「おーい、あいちゃんも入ればー」
しんのすけが手を振ってあいに参加を誘っている。
あいは突然の誘い、しかも憧れのしんのすけからのに太陽のような笑顔で駆け寄った。
「ぜひやりますわ〜」

結局鬼ごっこではしんのすけと接することは無かったが、あいはいつかの初夢を思い出した。
「おデートとまではいかなくても、あいはしん様を愛してますわ」

上機嫌なあいを、お迎えの黒磯が
「なにか嬉しいことでも?」
と聞くと
「なんでもありませんわよ」
と高飛車に答えた。実に嬉しそうな声だった。


その日の夕食―――――

「お父さまお母さま、今日幼稚園で嬉しいことがありましたのよ!!…」

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