トップ小説作成者・ろれつさん


しんのすけが道端を歩いているとただっぴろい通りに出ました。
ただなんとなく暇すぎたので外に出で散歩していたのですが、よく考えてみ
ると自分がなぜこんな通りにいるのか、なぜこの時間に遊んでいるのかさえ
よくわからないのでした。周りには見知らぬ民家が立ち、道には一人も人が
いません。耳を澄ましてみても人の話し声やテレビの音などもしないし、気
持ち悪いくらいにひっそりしたとおりでした。
(確か今日は幼稚園があったはずだけど)昨日約束したネネちゃんとのリア
ルおままごとのことなど今日やるはずだったことを思い返していましたが、
一日がたった今はじまったような不思議な気持ちに包まれているのでした。
つづく

その2

先に進んでいくとしんのすけと同じくらいの大きさの石像が立っていました。
一つは赤鬼でもう一つは青鬼らしいのでした。しんのすけはその石造の目がこ
ちらを見ているようで気持ち悪くてしょうがありませんでした。二つの石像は
互いに手をつなぎ仲良さそうにしていましたがその片方の、青鬼の右手は何か
によって壊されたらしくその右側にもう一つ鬼の石像があったらしいのでした。
確かに石像が置いてある台座には二人の鬼を置くには不自然な隙間があいており
、しんのすけが台座を見てみると足の跡らしい楕円の形をした跡が残っていました。
しんのすけが台座に上り、青鬼の隣に立ってみるとちょうど三人の鬼が仲良く並
んでいるようでした。しんのすけもなんか妙に気持ちがよくしばらく三人で佇ん
でいました。

その3
 空を見上げると雲ひとつない青空で太陽はちょうど一番高い位置に上ってい
るところでした。しんのすけはもともと落ち着きのない子でいえのなかを走り
回ったり、おもちゃを散らかしたりするたびにみさえにげんこつをくらってば
かりでしたが、ここで来てから何時間経ったのか、本当に忘れてしまうくらい
長いあいだ大人しく台座の上に立っていました。鳥もいなくしんのすけのそば
を通る人も一人もいません。あたり一面時間が止まってしまったかのように動
きません。しんのすけもその動かない世界に吸い込まれるようにただボーっと
空を見上げていましたが、急に家に帰りたくなりました。
 台座から降りてさっき来た道を眺めましたが本当に今まできたことのない道
なのでさっき言った道を引き返せば家に戻れるのかもわかりません。ただこの
ままぼーっとしているわけにもいかないので、とりあえずさっき来た道を引き
返すことにしました。
 「じゃそゆことで。」
 鬼の石像に別れの言葉を告げ、しんのすけはもと来た道を歩き始めました。 
 (今度は道をちゃんと見て、今度また鬼さんに会いに来るぞ)
 そう思いながらさっき見た家や道端の雑草などをいちいち見ながらあたりを
キョロキョロしながら歩いていましたが、やはり誰にも会わないし、家の中か
らも物音が全く聞こえてきません。しんのすけが塀をよじ登って家の中をのぞ
いても部屋の中はきれいに片付いていて、しんのすけがどの家をのぞいても誰
もいなく、ちょっと外出中どころかどこか旅行にでも出かけているのではない
か、と思えるのでした。
 もう人に会うのもあきらめてしんのすけはもうやみくもに道をたどっていま
した。いままでいくつの家の前を通り過ぎたのか、いくつの角を曲がったのか
わかりません。道に迷ったしんのすけは自分が家に帰れるのか怖くなってきま
した。喉も乾いたし、お腹も空いてきました。
 (あ〜あ、チョコビが食べたいぞ。ジュースものみたいぞ。)
 家ではみさえやひまわりが寝ころびながら昼間のワイドショーを見ているの
でしょうか?それとも今横を歩いている家のように中はすっからかんで、誰も
いないのでしょうか?背中を丸め首を前に出して、トボトボとしんのすけは歩
いていました。ふと空を見上げると太陽はまだ一番高い位置にありました。時
間が止まってしまったのか、丸一日たってまた同じ位置に来たのか、それとも
二日経ったのか、三日経ったのか?しんのすけにとってはもうどうでもいいこ
とでした。ただ家に帰りたい一心で一歩一歩歩き続けました。太陽はぴくりと
もせずにしんのすけを見つめていました。
 道端にしんのすけは倒れこみました。不思議なことに地べたが布団のように
やわらかく、とても気持ちよく感じられました。そうしてしんのすけは気を失
ってしまいました。すやすやと安らかに呼吸しながら、お日様に温められてま
るで家の中にいる時のような意心地のよさでした。

その4
 しんのすけは頭の上にずっしりと重いものを感じて目を覚ましました。しん
のすけは頭の上のひまわりをどけてみると、そこは家の中で、ひまわりのベッ
トの上でずっと眠っていたようです。寝室には幼稚園の制服が脱ぎ捨てられて
いました。台所ではみさえの包丁の音コトコトと聞こえます。
 「母ちゃん。今日オラ幼稚園サボっちゃったぞ。」
 「何いってんの。今朝ちゃんと送ってあげたでしょ?あんたのトイレの長さ
は、私ゆずりかしら。」
 「だってオラ一人で散歩してて、おにさんのお人形とか見たんだゾ。」
 「はいはい。夢の話ね。しんちゃん帰ってからすぐに眠いとか言ってねむち
ゃったくせに。あっ、あとしんちゃんが今日見たいって言ってたお昼のアクシ
ョン仮面の再放送取っといたからね。」
 (確か前のが白菜星人で、次のがしいたけ星人の話だったから、鬼さんと会
ってて一回見逃しちゃって今日の敵は何だろう?)
 鬼と一緒にあれだけ長くいたことや長い間見知らぬ通りをさまよい続けたこ
となどが全部夢だとは納得いかないしんのすけはアクション仮面のビデオを見
て驚きました。ビデオには前回の白菜星人の続きでしいたけ星人の話が一番最
後に入っていました。
 (本当にあれ夢だったのかなあ?そんな訳ないゾ!) 
 納得いかないしんのすけはまた外に出ようとしましたが、明日は土曜日でお
父さんの会社もお休みなので車でつれていってもらうことにして、今日はアク
ション仮面をおとなしく見ることにしました。

 土曜日の朝、しんのすけはいつになく早起きでした。まだみさえとひろしはぐうぐうといびきを立てて寝ています。
(今日は父ちゃんと一緒にあの石像を見に行くぞ。)
興奮してまた寝付く気にもならないのでしょうがなくしんのすけは居間に行ってテレビを見ることにしました。
(この時間にテレビなんか見たことなかったぞ)
 まだあたりは暗くこんな時間にテレビなんか見てたら間違いなくみさえに怒られるでしょう。夜中には深夜番組のエッチな番組や通販なんかをお父さんと一緒に見たことはありますが、早朝となるとまったくありません。いつもは寝坊屋さんのしんのすけが急に目が覚めたのも不思議です。時計を見ると午前の三時頃でした。寝ている家族にばれないようにスイッチを入れて画面が出る前に音量を下げ、ドアが閉まっているのを確認し、しんのすけは画面を見つめ、首をかしげました。
 夕べ見た石像がそこに映っていました。台座の上に立っていた二人の石像の姿はありませんでした。
 (なんであの場所が移ってるの?)
 テレビに反射した自分の顔を見つめながら、しんのすけは自分を見つめる四つの目に気付きました。後ろを振り向くと昨日の鬼が二体こちらをじっとみています。それは石像ではなく血の通った生き物でした。しんのすけと目を合わせると鬼はその裂けたような口を大きく開いてニヤッと笑いました。そして大きな声で叫び出しました。
 「しんのすけがいたぞ。しんのすけがいたぞ。逃げ出した兄弟よ。逃げ出した兄弟よ。かえってこい。かえってこい。」
 そういうなり服の間から縄を取りだし、しんのすけをぐるぐる巻きに縛ってしまいました。もう一匹の鬼はテレビの淵に足をかけるとさっとテレビの中に消えていきました。鬼にひょいっと軽々しく持ち上げられしんのすけもテレビの中に連れ去られていきました。
 誰もいなくなった居間にはテレビの音が響いていましたが、やがておはようのメッセージと共に、本当のテレビ放送が始まりました。しんのすけが音量を下げておいたせいで家族の眠りは妨害されることなく朝を迎えました。そのため寝坊一家の野原一家が、朝起きるといつの間にかテレビがついていて、家中どこを探してもしんのすけが見つからないことに気づくのはお昼過ぎのことでした。

 「しんのすけーどこにいるのー?隠れてないで出てらっしゃーい。」
 時計はもう三時を回っていた。しんのすけはどこに消えたのだろう?野原みさえは不安な気持ちをかき消すようにただしんのすけのことを呼び続けていた。昨日の夜、しんのすけはどこかに連れて行ってもらいたいとしきりに催促していた。ひょっとしていつまでも寝てばかりしている私たちにしびれを切らして一人でどこかに消えていってしまったのだろうか?
 「やっぱり家中探したけど、どこにいったんだしんのすけは。」
 頭をかきながらひろしが居間に入ってきた。昨日の息子のただならない態度に違和感を覚えたが、今朝の失跡とどんな関係があるのだろう?
 「昨日しんのすけどっかいきたい場所があるとか言ってたよな?」
 「ええ、どこに行きたかったのかしら?そういえば昨日しんのすけなんか変なこと言ってたみたいなんだけど。」
 「変なことって?」
 「なんかいつの間にか知らない道に出ていて、変な石像があったんですって。でもあの子幼稚園から帰ってきてからずっと寝てたのよ。寝ぼけて夢の話してると思ったからあんまり真剣に話は聞かなかったんだけど。しんのすけひょっとしてその夢で見た場所を探しにどこかに出かけちゃったんじゃないかしら?」
 「ここいらに石像があるところなんてあったか?まあとにかく車で近所を探してみるか?」
 「警察はどうする?」
 「最悪の場合行方不明を出さないと。」
 みさえとひろしは夜になるまで近所を何周も何周も回ってしんのすけを探したが石像はおろか人形のようなものも道にはなかった。一体息子はどこに消えたのか?玄関にはいつもの靴がおきっぱなしになってたし、夜寝ている間にしんのすけが何者かにさらわれたかそれとも家出したのか、どっちにしてもひろしにとっては胸が痛くなる思いだった。結局その日のうちに警察に連絡したが、誘拐の可能性も否定できないときかされ、日曜に何をするあてもなく、一家はその日はテレビも見ずに寝てしまった。

小説トップに戻る

トップページに戻る