トップ小説作成者・瑠璃さん


注意:このお話は、完全に私の作り話です。原作、アニメのストーリーとは、ほとんど全く関係ありません。
《<破壊の神>出現、春日部最大の危機!》
プロローグ:破壊
破壊しなければならない。
「彼」はそう思っていた。その考えは、時が経つにつれて一層強くなっていった。
次々と建てられるビル。せかせかと歩き回る、忙しげな大人たち。時間から開放されているはずの子供たちでさえ、その束縛から逃れられなくなってきている。
このままでいいのか?いいわけがない。
逃れる方法はただ一つ…全て破壊してしまうのだ。
「奴ら」が持ち込んできた、ありとあらゆる害悪を。
そう…破壊するしかない。
「彼」は指に力をこめ、携帯のボタンを押した。

1.爆弾魔
「ねえねえ、聞いた?また<破壊の神>が爆弾を仕掛けたんですって!」
バスに乗り込むなり、桜田ネネはみんなに向かって言った。
「うん、ニュースで見たよ。怖いよね。」
マサオがうなずく。不安そうな顔をしていた。
「僕、怖くて眠れなかったよ。もし僕の家に爆弾が仕掛けられてたらって思うと…。」
「何でマサオくんちに仕掛けるわけ?普通そんなことしないでしょ。」
「それはそうだけど…でも、爆弾仕掛けるような人が普通なわけないもん。」
「そりゃ、まあそうよね。」
ネネも素直に認めた。
ちなみにまだ発言はないが、もちろんしんのすけとボーちゃんもすぐそばに座って、ネネたちの話を聞いている。
<破壊の神>………今春日部で最も話題になっている犯罪者で、爆弾魔だ。
様々な方法で、様々な物、建物を爆破する。その手口は見事なまでに鮮やかで、春日部の警察だけでなく、東京の警察でさえ、手がかりを何一つ掴めていないという。
そしてそいつは、春日部の中でしか爆破を行わなかった。だから犯人は十中八九、春日部に住んでいる可能性が高いわけだが、何しろ春日部には二百万人近くの人が住んでいるのだ。まさかその全員を虱潰しに調べていくわけにもいかない。
そういうわけで、警察が<破壊の神>を見つけられる可能性は、今のところ無きに等しいのだった。

「でも、<破壊の神>は人を殺したことがない。」
ボーちゃんが低い声で会話に割り込んだ。ネネの顔が、さっと曇る。
「ボーちゃん、声をちっちゃくして。」「ボ?」「風間くんに聞こえちゃったら、大変よ。」
ボーちゃんは、はっとして後ろに首をねじった。他の四人も、恐る恐るといった感じでそちらに顔を向ける。
風間トオルは一番後ろの席の、隅っこに腰かけていた。しんのすけたちが会話しているのが見えていないはずはないのに、参加しようともせずに窓の外を見ている。その顔に浮かんでいるのも、見るからに沈み切った暗く悲しげな表情。
「聞こえなかったみたいだゾ…。」
しんのすけはほっとしたように、しかし心配そうな表情で、トオルを見ていた。
<破壊の神>は人を殺したり、傷つけるような爆破を行ったことはない。ただ一人を除いては。
その唯一の犠牲者が、トオルの父親だった。

トオルの父親は、ずっと外国で働いていた。でもつい一週間前、一時的ではあるが日本に帰ってきたのである。ちょうど、<破壊の神>の存在が騒がれ始めた頃のことだった。
そして<破壊の神>の爆弾の犠牲になってしまったのだ。運が悪いとしか言いようがなく、さすがのしんのすけたちもトオルを慰める言葉が全く見つからなかった。四人にできることといえば、ただ<破壊の神>が一刻も早く捕まるのを願うことだけだった。その見込みさえ、ほとんどついていないというのに。
バスに揺られながら、しんのすけたちはトオルの横顔を束の間見つめ、そして顔を見合わせて、ため息をついたのだった…。

幼稚園でも、トオルはじっと座り込んだまま、ほとんど動かず、しゃべらなかった。
先生たちも半ば諦めてしまい、トオルに声をかける者は誰もいない。でも気にしないでいることはできず、どうしてもちらちらとそちらを見てしまう。
そんなわけで、幼稚園にはずっと重苦しい空気が漂っていた。
「ああ、もー…何か全然調子出ないわ。」
ネネがとうとう重い雰囲気に耐えかねて、おままごとの台本を放り投げた。こういう重苦しさは大の苦手なのだ。そしてトオルの方を見る。
「風間くんもいいかげんにしてほしいわよ。いつまでああやって塞ぎこんでるつもり?」
「しょうがないよ、ネネちゃん。」
マサオがなだめにかかった。
「ネネちゃんだって、風間くんみたいなことになったら、きっと…。あれ、何だろ、これ?」
マサオが目を丸くして、すぐそばの地面に落ちているものを拾い上げた。それはチェック柄のハンカチだった。幼稚園児が持ち歩きそうなものではない。
「先生のかな?」
「う〜む、まつざか先生のじゃないことは確かですな。」
「じゃあ、よしなが先生か上尾先生に聞いてみよう。」
マサオがハンカチを持って立ち上がった。その時、突然強い風が吹いてきて、マサオの手からハンカチを飛ばしてしまった。
「あ、しまった!」
マサオが叫んで、捕まえようと走る。その瞬間…。

ものすごい爆発音が響き渡った。

空中に飛ばされたハンカチのあった所からまばゆい光がほとばしり、その直後、轟音と共に爆風が吹いた。しんのすけたちは吹き飛ばされて塀にぶつかり、他の園児たちも悲鳴を上げた。
幼稚園の窓ガラスが割れる音がした。先生たちが中から飛び出してくる。爆発が起こったと理解するまでに、しばらくかかった。

ようやく爆音と爆風が収まり、みんなが我に返った時、幼稚園の周りには大勢の人々が集まっていた。みなてんでばらばらにわめき合っている。
「おい、今の、爆発じゃないのか?」
「まさかまた、<破壊の神>が…。」
「怪我人は?誰か警察に連絡しろ!」
「いや、それより救急車を…。」
誰が連絡したのか、パトカーや救急車が、次々とやって来る。吹き飛ばされたしんのすけたちは幸いかすり傷程度で、救急車に乗る必要はなかった。
「全員大丈夫ですか?」
警察官が、園長先生に尋ねる。園長先生は、ショックからようやく立ち直ったといった様子だった。
「え、ええ…そのようです。」
広場には、園児たちが全員集められていた。窓ガラスで怪我をした子もなく、大泣きをしている子はたくさんいるものの、取りあえずは全員無事らしい。
と、みんなが一安心しかけたその時、ボーちゃんがぽつりと言った。
「…風間くんは?」
全員はっとして、きょろきょろ辺りを見回した。
いない。集まっている園児の中にも、幼稚園の中にも。トオルは姿を消してしまったのだった。

2.夢
トオルは悪夢の中をさまよっているような気分でいた。
人目のない所へ行きたくて、廃ビルの裏へ走り込んだり、川岸へ行ってみたりもしたが、どうしても落ち着けない。誰かに見られている気がして、落ち着かなくなる。かといって、幼稚園に戻ったり、家に帰る気にもなれなかった。そして今は、空き地の土管の中に身を潜めている。
何てことだ。冗談じゃない。「あれ」が、本当に起こってしまうなんて。そしたら、もう一つの「あれ」も、きっと…。
「見ーつけた、か・ざ・ま・く・ん!」
不意に声をかけられ、うつむいて座り込んでいたトオルはギョッとして顔を上げた。目の前にしんのすけを始め、防衛隊のみんなの顔が並んでいる。
「みんな…。」
「何で急にいなくなったりしたの?」
ネネが言った。責める口調ではない。むしろ気をつかっているような様子だ。
「あの…爆発が起こったりして、やっぱりその、何て言うか、ショックだった?」
今度はマサオが言う。言葉はたどたどしいが、気をつかっている点はネネと一緒だ。
「みんな心配してるよ。最近ずっとあんな感じだったから、何かとんでもないことをするんじゃないかって、風間くんのママなんか、もう半分泣いてたわよ。」
「そうだよ。でもすごいね、しんちゃん。何でここにいるって分かったの?」
「いやあ、勘だゾ、勘。」
しんのすけが照れている。
「ね、だから帰ろうよ、風間くん。」
ネネが言った時だった。

「…帰れないよ。」
トオルがうめくような声で、そう言った。
「え?」
四人が思わず聞き返す。トオルはもう一度、さっきよりはっきりした声で繰り返した。
「僕は帰れない。」
「何で?どうして帰っちゃダメなの?」
ネネが戸惑い顔になる。それはしんのすけたちも同様だった。一方、トオルは苦しげに顔を歪めてこう言った。
「帰れない、絶対に帰れないよ。だってママが、僕のせいで死んじゃうんだから…。」
そして、トオルは泣き出した。四人は呆然として、しばらくその様子を見つめているしかなかった。

「夢なんだ。」
トオルがぽつりとそう言ったのは、もう夕焼けが闇の中に消えかかりそうになってからだった。それまで、五人はずっと土管の中で黙って座っていたのである。
「夢…?」
マサオが顔を上げて呟く。他の三人も、トオルの顔を見つめる。でもトオルは四人の方を見ないで、消えかかった夕焼けの赤に目を向けていた。
そのまま話し出す。
「最近ね…一ヶ月ぐらい前からかな。変な夢を見るようになった。何か僕の全然知らない人や場所が出てきたり、かと思えばよく知ってる人が出てきたり。ただ妙にリアルな夢でね、起きた後もずっと覚えてるんだ。」
「それが、どうかしたの?」
「そのうち、その夢で見たことがほとんど全部、現実で本当に起こることに気がついたんだ。」
「えっ…!」
四人の顔に、一様に驚きの色が広がった。
「風間くん、それって…。」
言いかけたマサオの言葉を、途中からネネが引き取った。
「…予知夢ってやつじゃない?」
トオルがちょっと笑って、うなずいた。
「そうとも言うみたいだね。」
「へえー、風間くん、超能力者だったのかあー。」
しんのすけが驚いたような、憧れているような眼差しをトオルに向ける。でもトオルは、すぐに顔を曇らせた。

「そうやって、普通の出来事を予知してるうちはまだ良かったんだ…でもそのうち、すごい音の爆発の夢ばかり見るようになった。」
「…爆発って……。」
「その一週間後に、本当に爆発事件が起きて、<破壊の神>の犯行声明が出た。僕が夢に見たとおり、そっくりそのままに。」
しばらく、沈黙が落ちた。
「…それで?」
ボーちゃんが初めて発言した。
「それからはもう、<破壊の神>が起こす爆破の夢ばっかり…寝るのがもうつらくてつらくて、でもだからといってそんなこと、誰にも相談できないだろ。」
しんのすけももう、うらやましそうな表情をしていなかった。
「でもある日、それよりももっと怖い悪夢を見た。パパが買い物に行って、お店に落ちている鞄を拾い上げた途端、その鞄が爆発する夢。」
「………。」
「でもその時の僕は、それを予知夢だなんて思わなかった。ただの悪夢なんだって。パパが死んじゃうなんて、これっぽちも考えてなかったから。だから…。」
トオルは不意に言葉を切った。四人も黙ったまま、先の言葉を待つ。
ようやく聞こえてきたトオルの声からは、完全に感情が消えていた。
「あの日は雨が降ってた。すごい雨だった。だから僕は買い物を頼まれてたけど嫌がって、パパにお願いした。パパは笑って、しょうがないなあって言って、傘をさして家から出ていった。でも一時間以上たってもまだ帰ってこなくて、僕は怒ってたんだ、お腹が空いたのにって。そしたら…。」
不意にしんのすけが手を伸ばし、トオルの腕をつかんだ。トオルの身体がびくっと震え、顔をこちらに向ける。
「風間くん、もういいゾ。もう分かったゾ。」
しんのすけはそう言って、ゆっくりと手を離した。
マサオはほっとしていた。このまましゃべっていたら、トオルは壊れていたかも知れない。想像を絶する苦しみに、心を押しつぶされて。
その苦しみにたった一人で耐えてきたトオルを思うと、胸の奥が鋭く痛んだ。
「ちょ、ちょっと待って。」
ネネが口を挟んだ。
「風間くん今、ママが死んじゃうって言ってなかった?もしかして、それも…。」
「うん。見たんだ、夢で。」
「やっぱり…爆弾で?」
「分からない…でも、火事かも。熱くて、周りが赤かったから。そしたらママの叫び声が聞こえて…。」
「じゃあ、風間くんのママが死んだとこを、本当に見たんじゃないんだ。」
しんのすけが言った。
「うん、でも…。」
「それならきっと大丈夫だゾ。風間くんのママが死んじゃうって決まったわけじゃないから、そんなに落ち込んじゃダメだゾ。」
ネネ、マサオ、ボーちゃんはびっくりしてしんのすけを見つめていた。しんのすけにこんなに論理的な慰めの言葉が話せるとは!
「ほら、帰ろ。」
しんのすけはトオルの腕を引っ張り、土管から抜け出した。そのままずんずん歩いていく。
「あ、待ってよお、しんちゃん!」
置いていかれた三人は、慌てて二人を追いかけた。五つの人影が、空き地から走り出ていく。
夕焼けは、とうに消えてなくなっていた。

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