トップ小説作成者・高階 一希さん


200X年 08月 16日 午前 3時 11分 野原家
「テンテレテッテテテテン♪」
携帯の着メロが鳴り響く。みさえのだろうか、ひろしのだろうか。
「うーん。ゴホッ」
ひろしが起きる。とそれに応じてみさえも起きる。
ひろしは枕元の携帯を確認する。どうやら新着メールのようだ。
「どれどれ…」
ひろしは眠い目をショボショボさせながら中を見る。
[Sub:野原ひろしへ-1122877388935554349800283-]
[from:機密情報です]
野原ひろし様。
野原一家の主のあなたに、重要なことを
お知らせします。
野原一家は、狙われています。
これはいたずらではありません。
詳しくは、0120-1126-8160
(いいふろ-はいろう)までどうぞ。
法務省公安調査庁家族犯罪利用対策本部より

「何だ!?このふざけたメール。いたずらではありません、ってどうみたって
いたずらだろ!」
「お、父ちゃんケージさんがいるところからメール?」
しんのすけがまぜっかえす。
「あらまあ。警察から!?」
「いやちがうって。公安調査庁、ってところだって」
「聞いたことないわ」
「法務省の機関らしい」
「ふーん。ネットで調べてみれば」
「よし」
少しして…
「アメリカのCIAみたいなところらしい」
「あら!物騒なところねえ」
「まあ、物は試しだ。0120-1126-8160に電話してみるか」
受話器をとって、ダイヤルを回した途端につながった。
「こちらは、法務省公安調査庁自動応答サービスです」
「メールが来た場合は、タイトルの後にある数字を入力してください」
「ええー。めんど。しかも長いし」
「セキュリティのためです」
「自動応答じゃないのかよ!」
「このタイミングでどう返事するかを考えてテープに吹き込んでいます」
「すげぇな」
「それほどでも」
「よし。入力完了」

つづく。
(このタイミングで!?)


 プッツン、と音がした。
 「んあんだよ、電話切れちまった」
ひろしがつぶやいた瞬間、電話がつながった。

「野原一家のみなさんですね」
「そうだけど」
「法務省公安調査庁家族犯罪利用対策本部の柴崎です。突然のメール、失礼致しました」
 しんのすけとそう変わらない年頃の女の子の声だと思ったら、次は初老の男性の声に変わる。まるで電話先の人物が次々変わっているようだが、なめらかな変化なのでそれがヴォイスモジュレーターなどによるものだと解る。
 
「現在、あなたの一家は狙われています」
「だから、何にだよ」
「盗聴の危険性があるので、それは言えません。10分程度で迎えにまいりますので、しばらくお待ち下さい」
 プツン、と切れた。ツーツー。今度は本当に切れたようだ。

「何て言ってたの?」
みさえが聞いてきた。
「柴崎って人が出た。俺たちが狙われている、っていうから、何にだ、って返事したら言えないと。
 それで、10分程度で迎えに行くから、まっててくれと言っていた」
「なぁにそれ。でも、本当に迎えにくるとしたら…。化粧してないじゃない!」
「化粧してもしなくても変わらないゾ」
「なんですって!」
「まあまあ」

なんていってるうちにクラクションが聞こえてきた。
「なによ、呼びだすなんて、失礼な話」とみさえが切れ気味に話す。

とにかく外へ出ることにした。東の空が明るくなってきている。
家の前には一台の黒塗りの高級セダン、ではなく、一般的な自家用車が停まっていた。
「なんだか期待はずれだ。ちょっとわくわくしてたのに」

ドアが開く。中から眼鏡をかけたスタイルの整ったとても綺麗な女の人が出てきた。
黒いスーツを着ている。
ひろしとしんのすけは無意識に鼻の下が伸びてしまう。

「柴崎です。さあ、お乗り下さい」
「よろこんで〜」
としんのすけが言い出す。
 ひろしたちも柴崎の発する断るなオーラを感じて乗り込む。
 
つづく。


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