トップ小説作成者・トンビさん


 〜砂の城〜

第一章 消え行く「野原」
 
ここはどこだろう。ただ、春日部でないことはわかっていた。
半年前、父ちゃんが会社をクビになった。
父ちゃんは何も言わずオラたちを連れて駅に向かった。
きっと旅行をしているのだろう。そう信じていた。
このとき、すでに野原の一部が焼け始めていた。
どこかの駅に着いた。雪が降っている。
「じゃあ、元気でな。」
父ちゃんはそう言って歩き始めた。きっと宿を探しに行ったのだろう。
母ちゃんもそう言っている。
なのに、母ちゃんはオラの手を引いて電車に乗った。
オラはわけを聞けなかった。
父ちゃんの姿がどんどん小さくなる。
ひまわりが泣き始めた。かばんの中のシロも震えていた。
母ちゃんはとても頼もしそうな顔をしていた。
でも、逆にそれが不安でしかたなかった。
野原は焼けてしまった。虫一匹いなくなった。
それはもう「野原」ではなかった。

第二章 あれから

あれから20年。俺はシロの墓の前に立っていた。
そういえば、いつのまにか自分のことを「俺」と呼ぶようになっていた。
あの後俺たちは母ちゃんと北海道の田舎に引っ越した。
幼稚園も学校も楽しかった。でも父ちゃんはいなかった。
俺が中学2年のときシロは死んだ。
ひまわりは仙台の大学に通っている。母ちゃんは北海道で暮らしている。
今俺は一人だ。仕事もしていない。2年前までは会社で働いていた。
ただ、父ちゃんに会いたくなった。生きているかどうかもわからない。
あのとき知ることが出来なかった謎をただ知りたかった。
ヒントは沖縄。俺が自立するときに母ちゃんが教えてくれたただひとつの鍵。

そして今俺は那覇にいる。実はいまマサオ君が出張できているらしい。
「あっ、マサオくーん。」
「しんちゃん、ひさしぶりー。」
マサオくんには事情を話しておいた。
「せっかく20年ぶりに会ったのに
お父さんを探すの手伝えなんて、何があったの?」
「わからない、それを知りたいんだ。」
「ふーん。僕もあと一週間しかいられないから頑張って探そ。
あ、でも僕これから仕事だから夕方6時にしんちゃんのとこ行くね。」
マサオくんの仕事が終わるまで一人で頑張らなくちゃ。

でも、意外と鍵はすぐに見つかった。

第三章 「お城公園」

俺はパソコンで父ちゃんの行きそうなところを探した。
だんだん眠くなってきて、なんとなく「野原ひろし」と検索した。
・・・やっぱりなにも出なかった。少し期待はしていたのだが。
そして少しの間思い出に浸っていた。

「そういえばよく公園に遊びに行ったなあ・・・」
春日部にはいろんな公園があるのだが、
中でも一番よく行ったのは「お城公園」だ。
その公園には名前が特になかったので
風間君たちや父ちゃん母ちゃんとそう呼んでいた。
その理由としては、公園の真ん中にすべり台やブランコが
設置されている大きなお城の遊具があったことだ。
俺は父ちゃんとそのお城のそばにある砂場でよく砂の城をつくった。

またなんとなく「お城公園」と検索してみた。
でもそう呼んでいるのは俺たちだけだったので期待はしなかった。
ほら、やっぱり・・・いや、一件だけあった。
お城公園とかかれた日記だ。製作者は・・・「ヒロシ」
・・・父ちゃんだ!

第四章 再開

「じゃあ、がんばってね。」
「マサオくんも仕事がんばって。」
手掛かりを見つけるなり俺はマサオくんとわかれた。
あの日記によると、父ちゃんは今大阪にいるらしい。
なぜお城公園の名前で日記を書いていたのかはわからないが、
もしかしたら俺だけへのメッセージかもしれない。
 
大阪に着いた。そして、この近くで働いているらしいボーちゃんと落ち合った。
残念ながらボーちゃんは一緒には探せないらしい。でも、
「しんちゃん、携帯の電話番号教えて。」
「なんで?」
どうやらボーちゃんは人探しの仕事をしているようだ。
ボーちゃんを信頼していたから迷うことなく教えた。
でも、期待はしていなかった。
それからいろいろ探し回った。でも、何も成果は無かった。

偶然なことに、風間くんも大阪で刑事をしていた。
風間くんも一緒には探せないらしいが、しきりに今までの情報を聞いてきた。
日曜日に探すのを手伝ってくれるらしい。

それから三日後、留守番電話に一本記録が残っていた。
「しんのすけか?父ちゃんだ、ひろしだ!
昔、一回だけ大阪の遊園地に行っただろ。明日、そこに来てくれ。」
とても早口だった。でも父ちゃんの声だった。
いつの間にか目から涙がこぼれていた。

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