トップ小説作成者・雪野めりぃさん


※映画「カスカベボーイズ」の話です。
「カスカベボーイズ」のラストシーンのしんちゃん視点。
思い切りネタバレです。






















知事のおじさんをやっつけたオラたちは、
カスカベに…ホントの世界に、やっと帰ってくることができた。





…でも。



「…つばきちゃん?」







「つばきちゃーん?どこにいるのー?」

よろこんでいる大人の人たちの中から、オラはつばきちゃんを捜す。
だってつばきちゃんも…ここにいっしょにいるはず。
いっしょに帰ろうって、やくそくしたのだから。




なのに



なんで、お返事してくれないの?




「つばきちゃぁん!!なんでかくれてんの!?
いるの知ってるんだよ!!つばきちゃあんっ…」
まるでこわれたみたいにただただ彼女を呼びつづけるオラを、
風間くんが後ろから止めた。

「しんのすけ、つばきさんは映画の中だけの存在だったんだ。
だからここにはいないんだよ…」
「ううんウソだっ!いっしょに帰るって約束したんだもんっ!!」

オラはすぐさま風間くんに切り返した。
だってそんなの…ひどすぎる。


ひどすぎるよ


「だったらオラ、映画に帰る!!」

叫んで、スクリーンに飛び込んでいった。
でも、オラの体は、映画の中には入れず…べちり、とスクリーンに打ちつけられて。
もう一回やってみても、また、べちり、と。

そのまま…かっこわるい格好で、オラの体は床にずり落ちた。





どうして?

どうしてあんなウソついたの?つばきちゃん


つばきちゃん…




涙が、でてきた。


どうしよう…みんな…いるのに…。
こんな顔、とても上げられない。
でも、涙は止まってくれない。

せめて声だけはもらすまいとして。
突っ伏した床に、ぽたぽたとオラの涙がながれていく。






やがて、よろこびの声で騒がしかった映画館の中も静まりかえっていった。
そうなってきたあたりで、オラの涙もようやく止まりだす。


「しんのすけ、帰ろう」
風間くん、いつになく優しい声だ。
でも、オラ…。

「やだ…オラあっちの世界がいい…」
そうしぼりだした声は、自分でもオラのものとは思えない位、暗いもので。

「何言ってるんだよ、散々僕たちに帰ろう、帰ろうって言っていたじゃないか…」
「こっちの世界の方が楽しいって、教えてくれたでしょう?」
「つばきちゃんのいない世界なんて楽しくない…」

…風間くん、ネネちゃん。

あのときのオラがあんなにハッキリと「帰ろう」って言えたのは、
つばきちゃんともいっしょに帰れるって、信じていたからなんだよ…。



「代わりと言っちゃなんだけど、僕たちが居る」
「うん、カスカベ防衛隊!」
「ほら、帰りましょう?」
「帰ろう!」

ひとりじゃ立つこともできないオラ。
風間くんとネネちゃんに肩を貸してもらって、ようやく顔と体を上げた。
そのままふらついた足取りを支えてもらいつつ、映画館のトビラに向かう。
どうしてこんなことになっちゃったの…なんて、
考えてももうどうしようもないことを、考えながら。

けれど、そのときだった。
トビラに近付いた所で、懐かしい声がした。




「…シロ…?」

それは、オラのよく知る声。
自然と自分の足で立って、声の先に駆け寄りトビラを開けた。
その瞬間、オラの目の前に飛び込んできた、まっしろなわたあめ。

思いっきり飛びつかれて、オラは後ろにころんじゃって。
でも、ころんでちょっと痛いと思ったのもつかの間…
シロが、うるんだ目をしてオラをぺろぺろとなめる。
嬉しそうに、しっぽをいっぱいにふって。

「おおー、シロお久しぶりぃっ」

その時、オラは…映画の中でのオラ自身の言葉を、ふと思い出した。






『シロをね、おいてきちゃったんだ。エサあげなきゃいけなかったのに。
きっと今ごろないてると思うんだ…。』








「アン、アンっ!アン…」
「そーかそーかあ…オラがいなくてさびしかったかあ…。
ごめんねぇ」
「アン!アン!」




…そうだったよね。
オラは、やっぱりこっちに帰らなくちゃいけない。



だって、ずっとオラを待ってくれていた存在が、この世界にあるのだから






「よーし、帰ったらすぐごはんにするからなあ!」















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「ごちそーさまあ〜」
「いただきます、でしょ」

そう言いつつも、今日の母ちゃんはうれしそうだ。
でもきっと、父ちゃんもひまもオラも、もちろんシロもよろこんでいる。
だって、本当に久しぶりだもんね。
カスカベの、この家で、みんなそろってごはんを食べるの。

現実世界では1日ちょっとくらいしか、たってなかったらしいけど、
映画の中では何日も時間がたっていたものね。



おなかがいっぱいになったら、なんだか眠くなってきた。
ふだんなら、まだまだ起きてる時間なんだけれど。
さすがに、今日は、疲れちゃったみたい。

それはみんなもおんなじだったらしくて。
こうして、オラん家はいつもより一足早く眠りについた。





夢の中へタイムスリップする直前に考えたのは、
やっぱり、ななこおねいさんをさしおいて本気で恋をしてしまった、あの子のこと。




夢の中で、オラはつばきちゃんと再会する。

しばらく、おたがいをじっと見つめて。
そうしてオラ達は、どこからか聞こえるメロディにのせてダンスをした。

スケートするように追いかけっこをして。

手をつないで。いっしょに笑って。


永遠の空間と間違えてしまいそうにもなるようなバショ。

そこで、オラ達は、おどり続けた。
時間が、ゆるしてくれるまで。





━━しんちゃん、ありがとう。楽しかったよ。

オラも、楽しかったよ。つばきちゃん。

━━…ごめんね、しんちゃん。

いいよ。つばきちゃん。気にしないで。
オラなら、大丈夫だから




━━…しんちゃん、泣かないで…。


オラ泣いてないゾ!男の子だもん…!


━━…………




…つばきちゃん


つばきちゃん


つばきちゃん




━━━しんちゃん…














━━━だいすき━━━














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「しんのすけ!早くしないとバスが出ちゃうでしょ!」
「まだ出ないー!もーちょっとまってー」
いつものように、トイレの外からオラをせかす母ちゃん。
もう。オラにはオラのペースってもんがあるんだから、
そんなにせかされてもこまるゾ。みさえ。


「ああ…今日もダメかあ…」



みさえのこぐ自転車にのってのんびりするオラ。
いつもと同じ生活が、戻ってくる。

「ハア…ハア…もーッ!なんであんたはいつもそんなにトイレ長いのよっ…!」
「いやー、オラといっしょでシャイだからなかなか出てきてくれなくてえ」
「まったくっ…」






ねえ、つばきちゃん。
オラ、もうこれ以上ウジウジしたりしないよ。

そんなカッコ悪いオラじゃあ、つばきちゃんにもみんなにも顔合わせられないもの。
オラって結構、シャイだから。





だから、つばきちゃんも。

映画の中で、幸せにしててね。




つばきちゃんが幸せなら、オラも幸せだから。









あ、もうすぐ幼稚園につくみたい。





…じゃ。



そーゆうことで!










END.

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