オオクワガタ蝿轣Eブリーディングに関する技術情報 
◆オオクワガタの生態について

 生息場所
 比較的標高の低い、クヌギ・ナラ・エノキなどの樹液の出ている広葉樹の樹洞を好みます。能勢、韮崎、筑後各地方が三大産地として有名。各府県でも採集例が確認されていますが、いずれも局所的で採集地は限定されます。

 性  質 光を嫌い物音に敏感です。昼間には殆ど姿を見せません。蛹室から出てきた新成虫は住処を求めて場所を飛翔により移動しますが、適当な場所を見つけるとその場所に落ち着き縄張りを持ちます。

 体  長 ♂30o前後〜80o前後。通常、♂は大顎の内側に1対の内歯を持つ。♀30o前後〜50o前後。天然個体での♂70o以上は数が少なくなりますが、養殖個体では近年の養殖技術の進歩により80o前後が多数作出されている。レコードサイズは年々o単位で伸びています。

 活動期間  自然界では5月〜10月。但し地域により差。日没〜深夜の時間帯に樹液を吸いに出て来ます。一般飼育の常温下における活動期間は4月〜11月と長い。

 寿  命 越冬し翌年以降も活動を続ける個体もいますが、厳しい自然環境下では朽ち木の存在等環境に恵まれる必要があり、一般飼育下の場合と違って3〜5年も生き続ける個体は非常に少ないでしょう。

 幼  虫 クヌギやナラ、エノキなどの広葉樹の乾燥気味の朽ち木に入っている。孵化後、1〜2年の年月をかけて羽化。



◆オオクワガタのライフサイクル

 成虫を飼育するには、基本的にはエサと水分の管理が大切となってきますが、幼虫時代と違って比較的楽に飼育が可能だと思います。ただ、季節ごとに管理方法が違ってくるので注意が必要です。1年間のライフサイクルはプレ活動期、活動期、プレ越冬期、越冬期の4つの時期に分けられます。(下、記述中に出てくる温度は目安です。環境、個体差等あるので念のため)

 プレ活動期(春:3月〜4月くらい、個体差あり)

 日中の気温が200℃を超え、昼夜の温度差が無くなってくると、暖かさを感じ取り、春の訪れを本能的に察知します。動きはまだ鈍いのですが、徐々にゼリーを食べるようになります。暖かい日が続くようになったら3日に1度は観察を行いましょう。少し早いかな、という時期でも餓死防止のためにゼリーを1個(昆虫ゼリーが経済的)入れておいてあげましょう。毎晩エサを食べている様子なら越冬用のセットから通常の飼育セットに変えます(円筒容器を使用する限り、越冬時も通常時もほぼ同じセットです)。

 活動期(夏:5月〜9月)

 夜間でも気温が15〜18℃となってくると毎日エサを食べるようになります。この時期は1〜3日おきに状況を確認するのがよいと思います。また、気温が上昇傾向にある5月から産卵用セット可能です。早い時期にペアリングさせると産卵可能時期が長く結果、沢山幼虫が得られることになりますし、ペアリングが不調に終わったときのリカバーもできます。9月以降に産卵用セットを組んでも気温が下降傾向となり、秋冬の訪れを察知して越冬への準備に入るものが多く、期待する数字が得られないことが多いです。

 プレ越冬期(秋:10月〜11月くらい、個体差あり)

 夜間の温度が10℃以下の日が続くようになると、越冬の準備に入ります。越冬するのに必要な栄養分を体内に貯蔵するようになります。また、ゼリーを食べる時以外は出て来なくなり活動回数が減ってきます。

 越冬期(冬:12月〜2月)

 春の訪れまで、じっと寒さに耐えて過ごします。管理方法は成虫の越冬管理の方法を見て下さい。管理が適切であれば50日程度は確認しなくても大丈夫です。注意する点は乾燥と温度の2点だけです。乾燥状態が長期間続くとオオクワガタは死亡します。越冬させる場所は床下収納庫、納戸、車庫、室内であれば非暖房の北向き部屋など出来るだけ温度が低く一定に保たれる場所がよいとされています。


◆与えるエサについて スイカやメロンはX

 オオクワ成虫の好むエサは、甘い果汁系統のものなら何でも食べます。食べると言うより口ひげを巧みに用いて吸うというのが適当な表現でしょうか。ただし、食べるからといって何でも良いわけではありません。出来るだけ栄養価の高いものを与えることが大切であり、これが長生きさせる条件でもあります。カブト虫と異なり数週間で死ぬ虫ではないので責任をもって生かしてあげることが必要です。オオクワガタ飼育をはじめ様々な甲虫類の飼育が浸透した現在では、専門ショップをはじめホームセンター、最寄のスーパーマーケットでも安価な(スペシャルゼリーとして高価なものもあります)ゼリーが販売されていますのでこれらを与えると良いでしょう。
 良いエサは成虫の寿命を延ばし、産卵においても絶大な効果が得られることになります。身近で採集できるノコギリクワガタクやミヤマクワガタ、カブト虫にも専用のゼリー類を与えることにより、スイカやメロンよりも長生きでき10月くらいまで飼育することができます。


オオクワガタの採集地・産地の呼称について

台場クヌギ オオクワガタの日本三大産地として有名なのは、山梨県韮崎市周辺、佐賀・福岡県境筑後川流域、そして当ショップの地元、北大阪能勢周辺です。他、香川県、福島県、岡山県、千葉県など各地で採集例が報告されています。この天然採集成虫のことを一般に「ワイルド」と表現していますが、このワイルド成虫はどこの場所でもマニアによる乱獲や朽ち木割りによる産卵場の破壊が進んでいるようで、採集は至難を極めています。
 オオクワガタが生息する条件としては、樹液が出る樹洞が出来たクヌギやコナラの広葉樹、白色腐朽菌の蔓延した朽ち木が存在していなければ可能性はゼロに等しいといえます。台場クヌギとは畑の土止め、薪や椎茸栽培用に人為的に伐採を繰り返し、基幹が太く複雑に曲折し至る所に洞が出来ているのが特徴です。能勢周辺では台場クヌギが多く存在しており、かつ自然環境が多く残っている場所が多いなどオオクワガタが繁殖できる条件が整っていたからでしょう。


 能勢を起点として大阪側は豊能町、箕面市、茨木市、高槻市と隣接していますので、能勢以外の地域でもごく少数ですが生息しており、採集例もあるようです。兵庫県側は川西市、猪名川町あたりでも採集例があります。能勢を中心に、その採集できる数の多さで「日本一」と紹介しいてる雑誌もあるようですが、かつての大産地、能勢・三草山周辺では朽ち木は割られ、生木にもナタが入りクヌギの樹洞も破壊されているものが多く、過去の話だと私は思います。しかし、人の手が入っていない場所はまだ残っていると思われるので、三草山を中心にジャングルの中を捜せば期待が持てるかも知れません。

 日本国内で採集されたオオクワガタであればどこで採れたものでも皆同じと思いますが、東西南北にまたがる日本では採集地による微妙な個体差があります。そして地域に特化した資質を持つオオクワガタは保護しなければいけないと思っています。オオクワガタを繁殖させる場合、♂♀の産地データが不明な場合はともかく、産地が明確である場合は同一産地♂♀を交配させて種を継続させていくことが大切だと思っています。例えば、福岡県産オオクワガタと岡山県産オオクワガタを意図的に交配させることは出来る限り回避すべきでしょう。交配によって誕生する子孫はオオクワガタに間違いはないのですが、福岡県産でも岡山県産でもなく交雑種のオオクワガタと位置付けるというのが業界の認識です。(交雑=ハイブリッド、と表現することもあります)交雑種の子孫は大型化するデータが出ていますので、大型狙いで交配を行うブリーダーも多いと思いますが、いかに血統が良くても得られる子孫は交雑種であり、産地呼称を付けることは許されることではありません(と、いうよりも産地名は付けられないでしょう)。また、ショップによってはオオクワガタに固有名詞(名前を付けること)を与える例も見られます。これについては否定も肯定もいたしません。ただ、顎が太く形が良いオオクワガタであっても交雑によって作られたものだとしたら、はっきりとそれを明示することが必要だと思っています。


温度管理の長所と短所 冬は休ませないと翌夏に死亡する確率が高くなります

 温度管理とは、気温が下がり活動を休止する冬期に園芸用温室、エアコンを利用して意図的に適温状態に冷房などで飼育温度を一定にコントロールすることです。但し、夏場は少々の高温でも耐えられるので、成虫に対しては冬期に行う温度管理が一般的です。但し、夏場の温度管理はオオクワの寿命に与える影響は低いですが、冬場の温度管理は結果的に成虫の寿命を縮めることになるので計画的に行うことが必要だと思います。
 

 温度管理の長所

 成虫・幼虫共に温度管理がパーフェクトに出来る環境はブリーディングにおいてメリットがあります。何故なら、成虫であれば夏期以外でも採卵することが可能となり、1年を通して幼虫を取ることができるからです。結果的に沢山幼虫を増やすことが可能となります。また、新成虫を加温飼育することによって羽化年度内に産卵させることも可能となり、時間的な問題がクリアされる面もあります。

 温度管理の短所

 単に鑑賞だけの目的で加温飼育しても結果的に寿命を縮めてしまうことにつながります。活動〜越冬〜活動、オオクワには休息の時期が必要なのです。このサイクルから越冬を取り去ると短命傾向となります。実際♀の場合、越冬期間を与えずに初夏〜冬にかけて加温飼育して長期間産卵させると産卵中に突然死ぬか、翌夏前後までに死亡する確率が高くなります。長期に渡る温度管理は成虫の寿命を縮めることを念頭に置き、ブリーディング計画を立てるようにして下さい。


越冬管理方法

 エサを食べず活動を休止する冬期は飼育ケースを「越冬仕様」に変更する必要があります。越冬仕様が不充分だと成虫を越冬中に死なせる原因となりますので注意して下さい。基本的には水分と温度に注意をするだけで充分です。

 セッティング方法(当ショップ推奨)

※新しいマットを容器の下部から3〜4p程度敷きます。小型の容器ほどマットは少なくて済みます。
※マット全体が湿るように霧吹きなどで加水・調整します。
※マット上に、乾燥防止のため、木の皮、木片、枯葉などを敷きつめます。エサ皿でもOK。
※越冬のセットへ移行した当初はゼリーを1個入れておきます(食べることもあります。餓死防止の為)。

 越冬用ケースとして透明円筒容器類の使用を推奨します。写真は1g横長型円筒容器。

 一部のマニュアル類には、大きめのプラケにマットを厚めに敷いて、と記述したものがありますが少量のマットで小型の容器でも十分です。室内に置く限り寒さ対策は度外視しても大丈夫。(国産オオクワは寒さに強い。本州の氷点下程度では死にません)

 円筒容器は防虫、保湿に優れ場所を取りません。プラスチックケースを使用する場合も基本的には同じです。但し、フタの面積が広くなるので湿気が外に逃げやすくすぐに乾燥してしまいます。保湿効果のあるシートで被うと越冬中の水分補充の回数が減り管理が楽になります。セッティング後は、期間を通して暗く温度が低く一定の場所にケースを保管します。尚、初期の水分量により水分補充する時期や量は異なって来ますが、越冬期間中の加水は初回を含み2〜3回もあれば充分。とにかく、初回に適度な量を含ませておけば2月中に1回加水するだけで良いでしょう。
 越冬中の死亡の原因は、乾燥死と餓死が大半を占めます。越冬用の飼育ケースに移行当初は、真冬に比べると暖かい日も多く、場合によってはエサを食べたりする個体もいます。観察を1週間に1回程度行いましょう。真冬の時期は1ヶ月に1回で充分です。そして春になって暖かく(3月下旬)なってきた頃から1週間に1回、それぞれエサの摂取状況と乾燥度合いについてチェックして下さい。尚、12〜2月の期間は常識的に考えてもエサを食べる可能性はありません。この期間はエサを取り去り清潔な環境を整えてあげましょう


新成虫の取り扱い、羽化後の取り出し時期の見極め

 新成虫とは、羽化後1年以内の成虫のことを指します。一般に新成虫はエサを摂取しない傾向があるということを覚えて下さい。新成虫の多くは幼虫時代に蓄えた栄養分を体内に保有しておりエサを食べなくても生命維持出来るのだと考えられています。無理に与えても食べずに残ったゼリーが腐敗して環境が悪化するだけなので自然にまかせましょう。オオクワガタの場合は、成虫になってからの寿命が他の昆虫と比較して圧倒的に長く、羽化後の成熟(交尾器、消化器など)もゆっくりと進むようになっています。国産のカブト虫と同様の取り扱いをしてはいけません。

 新成虫は、越冬新成虫(越冬を経た成虫)と未越冬新成虫(越冬を経ていない成虫)に分けられます。

 新成虫は羽化後は体が未成熟で時間の経過と共に消化器官、交尾器が徐々に発達・成熟して行きます。成熟期間は♂♀により差があり、♂で2〜3ヶ月程度、♀で3〜6ヶ月以上かかります。さらに個体差があり、一概にこの期間が過ぎたから、と言えないところが難しいところです。加温飼育をしない場合の羽化時期は5〜10月の範囲が一般的で、成虫の販売がピークになるのもこの時期ですからショップで販売されている成虫のほとんどが初夏以降に羽化した新成虫である可能性が高いといえます。初夏以降に羽化した新成虫を購入しても盛夏に交尾・産卵する場合もあるのですが、通常は晩夏〜秋以降が産卵可能時期となるでしょう。ただ、気温が下がってくると産卵しなくなるので常温飼育下では来夏まで待つ必要があります。尚、園芸用の温室等で加温飼育可能な場合は、新成虫の問題は時間の経過とともに解決されます。
 一方、越冬を経験した成虫は体がすっかりと成熟し、エサも沢山食べ交尾も可能となります。本来、越冬させた後、もしくは羽化後、最低半年以上の成熟期間を与えた成虫を販売すれば問題はクリアするわけですが、多くのショップは羽化した成虫を長期間維持・管理する手間と費用のマイナス面を憂慮し、羽化後短期間で店頭に並べることが多いようです。成虫を購入する場合、必ず羽化時期を確認するようにして下さい。ちなみに、当ショップでは。羽化時期を明記し、繁殖に使用できるか出来ないかを必ず告知しています。

 オオクワガタは成虫の寿命として2〜5年、昆虫の中では長寿の部類に入ると思います。この寿命の長さが多分に影響しているのと思われますが、前述のように羽化後は繁殖能力が伴っていないのです。数年間生き続けられる生命メカニズムがプログラムされており、急いで子孫を残す必要がないことから生殖器の成熟に時間がかかるのだと私は思っています。もし、オオクワガタがカブトムシ並の寿命であれば、成熟する前に死んでしまいます。
 ではどこで成熟の成否を判断すればいいのか? 体が成熟すると生体維持のエネルギー源をエサの摂取のみに頼ることとなります。よってエサの摂取具合で判断することも一つの方法です。しかし、未成熟の場合でもエサを摂取する個体もいるので、これでは判断がつきかねます。私は、羽化後の時間管理をすることによって、ある程度の判断をつけています。成熟が完了したか否かの見極めは、自然界では蛹室から脱出して表に出てきた時。一般飼育下の場合は、飼育ビンの上に出てきた時が、まさにそれだと思います。
 しかし、羽化後短期間で蛹室から取り出して飼育ケースに移す場合が多いことを考えると、成熟度を判断するポイントは「羽化してからの経過日数」を参考にすればいいと思います。羽化後♂は2〜3ヶ月程度、♀は4〜6ヶ月を目安にすれば良いでしょう。
 当ショップでブリードした成虫の蛹室からの取り出しは、原則として羽化を確認後マット上に出てから、もしくは上に出てきた(もしくは蛹室から出ている)形跡があった場合か、羽化後の経過日数が30日以上過ぎた場合に取り出すようにしています。但し、菌床飼育の場合は、培地の劣化などの要因により3週間程度で別容器へ移すこともあります。

 

 
参考例 羽化後、飼育容器からの取り出しのタイミングは、写真のように表面に上がってきた形跡が確認出来たらOKです。これらのサインを見落として長期間放置しておくと餓死、または乾燥死する可能性があります。外に出てきたということは活動をするため、ひいてはエサを食べるためです。
しっかりと観察して適切な時期に移し替えて下さい。



飼育ケースのセットの仕方(単独・ペア)

1頭ずつの単独飼育の場合(例)
 
用意するもの ミニ型、もしくは小型プラスチックケース、成虫用マット、皿木、ハエの侵入を阻止するシート、シールド等。

 ダニ対策に効果的情報

 一般にマットは広葉樹のものが使用されますが、是非、当ショップの「ダニ避けマット」をご使用ください。杉のひき粉で防虫効果が期待でき、キノコハエも発生しません。スーパー仕様だとダニ除去効果も期待できます。

 小型プラケ使用のデラックス版。これならオオクワは幸せでしょう。
 底面積が比較的広いので、皿木や登り木をレイアウトするのが理想です。
 フタには防虫保湿シートや防ハエプロテクターを使用して必ず防ハエ対策をして下さい。
 多数飼育になるとコンパクトなミニ型プラケ、もしくは小型円筒容器が良いかも。
写真は準備中  円筒容器使用例。場所を取らず、防虫対策は完璧に近いものが得られます。ゼリーをそのまま置くとマットがドロドロになる場合が多く、新型「アクリルポット」を用いると清潔な状態が比較的維持出来ます。当ショップは全てこの方式で管理しています。


♂♀ペア飼育の場合(例) 繁殖を前提としたセット 

 用意するもの。
 中・大型プラスチックケース(もしくはコンテナ)、広葉樹マット、産卵木2〜3本(クヌギ、ナラ等)皿木(必須)、枯葉等。

産卵木の下準備

※電子レンジで4〜5分程度加熱します(材の中に入り込んでいる虫を駆逐するため)。
※電子レンジで殺虫処理を行った場合は、涼しい場所に移して冷まします。
※産卵木は適度に加水させたものを使用します。
※外皮は事前に剥がしておくと材割り時が楽です(加水後の方が剥がし易いですよ)。

マット類の下準備

※電子レンジで3分程度(本数、熱量により調整)殺虫処理を行います。同様にエサ皿等行います。
※飼育ケースに詰める前に、マットを適度に加水・加湿しておきます。

 まず、マット2〜3p程度敷きます。
 その上に産卵木を横向きに2〜3本並べます。
 産卵木が隠れる程度までマットを詰めます。
 エサ皿、登り木、枯葉等をセットすれば完成です。

 この程度の空間や隠れるモノがあればオオクワは快適です。
 (登木や備長炭は無くても可。但し、転倒時の対策に枯葉か樹皮は必須))

 飼育ケースの設置場所、設置後のケアについて

※昼でも暗い環境、物音・騒音などの影響の少ない場所に置きます。
※室温は22〜30℃までを目安にして下さい。
※定期的に異常がないか様子を見ます。
※♀が産卵行動(材を削る行為)を始めた場合は、♂を取り出しておくと♀が産卵に集中できます。
※適切な時期(産卵行動後1週間〜10日程度)を経て産卵木の取り出しを行います。
※3〜4週間経過しても産卵行動が見られない場合は、交尾がうまく行われていない、等何らか原因があれます。
 ♂♀のどちらかを入れ替える等、ペアを組み直すことが必要です。

 飼育ケースの大きさ、材の向き(縦横配置)について

 飼育ケースは基本的には大型を使用します。その理由としては、複数の産卵木を余裕をもってセットすることができますし、♂♀の相性が悪かった場合にお互いの隠れるスペースが取れるからです。
 産卵木は最低でも2本、出来ることならそれ以上セットするのが理想ですが、大口径の材を使用するのであれば2本で精一杯かも知れません。また、材をセットする向き(縦横)によってセット出来る本数が異なって来ます。物理的に考えても、縦向きの方が沢山セット出来ますが、最低でも14p以上の深さのマットで隠す必要があり、この場合は特大ケースが必要となります。何故なら、1本の産卵木の長さに関しては14pにカットされているからです。すると、飼育ケースのフタの部分までは10p未満となり、エサ皿などをセットすると、もうフタの部分とスレスレです。空間が少なくなり、オオクワにストレスを与えることになります。

 産卵木を埋める理由について 産卵木をマットに全部埋める理由は次の通りです。

※材の乾燥を防ぎ湿度を一定に保つ。
※カビの発生を防ぐ。

 むき出しの状態では材の表面は乾燥してしまいますが、マットに埋めることによりある程度一定に保つことができます。また、夏場はすぐに青カビが発生します。特に空気に直接触れている部分は気持ちの悪いくらいに...。マットに埋めることにより、完全に発生を抑えることは出来ませんが、埋めない場合に比べて発生するカビの量はかなり少なくなります。ただ実際にカビが発生しても、オオクワには無害であるし気にしなくても大丈夫です。産卵行動に入ると不思議なくらいにカビが少なくなります。


ペアリングを成功させる諸要点

 効率的に、かつ沢山産卵させるにはある程度の準備が必要です。例えばショップで購入してきたペアをすぐにペアリングさせるより、一週間でも栄養強化期間を設けてあげると効果的です。ペアリングさせるのにはおおよそ以下の5点について注意すれば良いでしょう。

 ♂♀ともに成熟した元気な個体であること。

 特に♀が未熟な場合は♂からの交尾を嫌います。普通は逃げます。交尾がしたい♂は後ろ足で♀の背中を擦る行動をして交尾を迫ります。何度か求愛して成就することもあるようですが♀が応じない場合は♂が苛立って傷つけたりすることがあります。国産オオクワ♂の♀に対する攻撃性は低く性格は比較的穏やかな部類に入るのですが、ペアリングさせる♂♀共に成熟していることが必要です。双方とも越冬していることがベストでしょう。

 バランスの取れたサイズ同士を組んでいること。

 大きい♂には大きい♀を、小さい♂には小さい♀を、それぞれの個体の大きさに応じてペアを組む必要があります。一般に♂何o以上、♀何o以上といわれているのがそれです。♀の体格に比べて♂が小さいと良くありません。但し、絶対に無理というわけではなく諸条件が揃っているとスムーズに行くこともあります。

 ♀の性格、互いの相性。

 攻撃的な♀は♂の足を噛みちぎったり場合によっては捕食したりすることがあり、ペアリングに使えないケースも出てきます。発生率は非常に低いのですが理解しておく必要があります。ペアリング後に皿木などの下に一緒にいたり、♂の下に♀が居たら問題ありません。交尾後でも♀が他の♂に取られたりしないよう「警護」する行動見せることがあります。

 飼育ケースの大きさの程度。

 ♂♀共に逃げ隠れる場所があるかということです。♀の場合、交尾を嫌って逃げたくてもケースが狭く逃げ隠れるスペースが無いと傷つけられる可能性があります。また、♂の方も同様に攻撃的な♀から逃げ隠れ出来るスペースが必要で、双方ともにストレスなどを感じさせない空間を作ってあげる必要があります。大型プラケース程度を目安にすると良いでしょう。

 ♀の日頃のエサの内容。

 ペアリング前は個別飼育が基本です。特に♀の場合は日常から栄養価の高いゼリーを与えておくと交尾後比較的短期間で産卵行動に入ります。栄養が不足していると産卵数が少なく、産卵行動に入るまでの時間も要し良い結果が得られません。動植物性タンパク質をたくさん含んだゼリーが最適でしょう。


符節の欠落現象について

 オオクワガタは、6本の足が付いています。そして、足の先には「爪」が付いており、この爪が木につかまるのになくてはならない役割を果たしています。この爪の部分を「符節」と呼んでいますが、羽化後、時間を経るごとに失う傾向があります。成虫全部が対象ではないのですが、何頭かは欠落が目立つようになります。
 写真の♀は、羽化後1年6ヶ月程度が経過しています。1度の越冬と産卵を経験しています。前足2本は健在ですが中・後足の4つの付節をすべて失っています。ただこれは極端な例としても、後ろ足の1〜2本の欠損はよく発生します。符節が2本程度欠けても支障はないと考えていますが、さすがに素早い木登りは出来なくなります。


 符節を失う原因は、私にはよくわかりません。ただ、以下のような要因が絡んでいると思っています。

 1.親から受け継いだ体質、資質に起因するもの。
 2.越冬時の環境に起因するもの。
 3.通常時の環境に起因するもの。
 4.雌雄によるもの。

 まず、親からの受け継ぎ、すなわち「遺伝」的な要因ですが、全ての成虫に発生するものでなく、個別的に見られる傾向が強いと思っています。よって、遺伝的・先天的なものの影響は少ないと見ています。

 私が思うに、越冬時の環境と通常時の環境が符節欠落の主な原因となっていると思います。
 まず、越冬時の影響について言及いたしますと越冬時に受けたダメージによる、というものです。幼虫は越冬時には体液を「不凍液化」して氷点下でも体が凍らないようにする能力を持ち合わせていますが、成虫となった後でもある程度の体液の不凍液化という能力を引き継いでいると思います。しかし、符節はオオクワの体の中で最も細い部分のひとつにあたります。体を不凍液化する能力があっても、この細い部分に流れている体液はごくわずかで、環境の影響を受けやすい弱い部分ではないのでしょうか。不凍液化した体液が少ない、もしくはほとんど存在していなければ凍結することがあるかも知れません。越冬を終えて活動を開始したとき、体液の循環の悪かった符節は内部の組織に何らかのダメージを受けており、時間の経過とともに抜け落ちていく、との仮説を立てることが出来ると思います。裏づけとして、越冬前の新成虫ではほとんど皆無で、ほとんど越冬後に発生することから仮説を証明できるのではないかと思います。
 
 次に、通常時の環境について言及いたしますと、「退化(老化)ではないか」というものです。付節を使う機会が少ないから失った、という仮説です。飼育ケースの中に皿木や登り木などを入れておくと、昼間はともかく、夜には這い出してえさを食べたり木に登ったりします。登るときは当然付節(爪)を活用し、とにかく爪が引っかかればどこでも登って行けます。日頃からこのような環境だと付節を常時使用し、器官が刺激されているので退化ということは少ないのではと考えます。
 皿木も登り木もセットせずにマットと枯葉を敷いてゼリーを転がすだけ、といった環境は付節を使用する機会が激減するので自然に抜け落ちる確率が高くなると思います。
 我々人間も、日頃からものを噛む習慣をつけていないと噛む力が弱くなり、顎が細くやせていくといわれています。他、骨折などで長期間運動制限されると筋肉の減少、握力の低下などに陥ります。人間場合、体の器官や部位は使わないと機能低下します。この考え方をあてはめると昆虫のそれも機能低下するのかも知れません。

 最後になりますが、雌雄による付節の欠落の確率は圧倒的に♀のほうに多く見られるようです。産卵を経験するとその確率は高くなると思います。これは産卵による体内養分の変化・消耗が関係していると思います。私は学者ではないので結論を出すことは出来ませんが、上記仮説に照らして観察を続けていくと、必ず何か答えは出るような気がしています

 付節を欠いた成虫の管理方法について

 付節を欠いた個体には、エサ場をフラットにしてあげることが大切です。皿木は摂取しやすいようにマットに半分ほど埋め込むか、皿木はセットせずに直接ゼリーをマット上に転がして与えることが必要です。そして、他のオオクワガタと同様、きちんと愛情を持って飼ってあげましょう。


♂成虫の大顎の差異について
 多くの種類のクワガタにおいて個体の大小により、大顎の形状に特徴があらわれます。その多くが内歯(ないし)に明らかな違いが出現します。
小歯型 中歯型 大歯型
 オオクワガタの場合、大顎に1対の内歯があります。大きい個体はその内歯が先端側に、小さい個体は根元に認められます。その内歯が先端にあるものを「大歯型」、手前にあるものを「小歯型」、そして中間に位置しているものを「中歯型」と呼んでいます。個体の大きさによる歯型の相違は何もオオクワガタだけでなく、ミヤマクワガタ、ノコギリクワガタをはじめ外国産クワガタでも見られます。尚、遺伝的要因はあまり関係なく小型のペアの子孫でも大歯型の成虫となりますし、大型ペアの子孫でも小歯型の成虫になることがあります。一概にはいえませんが、幼虫時代に過ごす環境的要因、すなわち後天的な要素が大きなウエイトを占めているように思います。
 雑誌や写真では、極太や美形のオオクワガタが紹介されていることが多く、実際は大きさによって大顎の形状をはじめ全体のイメージが異なってくるということをご理解下さい。「成虫を購入したのだが、思っていたものと違う...」なんてことにならないようにして下さいね。大きさ(サイズ)が異なると、大顎の特徴まで異なる場合が多いのです。



オオクワガタの温度に対する耐久力について

 オオクワガタやカブトムシは夏の昆虫の代表格ですね。では、夏の暑さは大好きなのでしょうか? 暑くなってくる季節に出てくるのだから「暑さ大好き...」と思うのですが、私が思うに、特に夜行性のオオクワガタやカブトムシは「暑さに弱い」「暑さが嫌い」だと思っています。これらの夜行性の昆虫が昼間に姿を現さないのは、確かに「習性」のひとことで片付いてしまうのですが、多分に「温度」というものも影響しているのではないのでしょうか。夜行性の昆虫は、昼間は土の中や洞穴の中に隠れていますが、ここが意外と涼しかったりします。その潜んでいる場所も直射日光が当たり、気温の高い場所にはほとんどいないのですね。そして、山間部の夜間は23℃くらいですから昼間とは別世界です。この温度近辺が最も活動しやすい、オオクワ・カブトの好む温度ではないかと私は思っています。これら自然界に住んでいる虫は自由に生息場所を移動できますから、自ら過酷な環境下に身をさらしている昆虫はいないと思います。暑さが嫌いな昆虫は標高の高い山地で繁殖したり、本能的によーく知っているのですね。
 けど、狭い飼育ケースの中のオオクワガタ・カブトは自由が制限され、ほとんど一生をケース内で過ごすことになります。越冬時は自然界よりも「厚遇」されると思いますが、こと夏季は厳しいのでは。たいていの方が室内で常温のままで飼育されておられるように、高温多湿の過酷な環境となっているのが現実だと思います。飼育ケースを見たら死んでいた..ということも起こるのです。 それでも生きていくために環境に適応していくこともありますので、累代飼育すると「暑さに強いオオクワガタ」が出来るかも知れませんが、それこそ生態の変遷を考えると数10年規模のものとなり、無理があるように思います。

 では一体何℃くらいが生命を脅かす危険ラインなのでしょうね。考えてみましょう...真夏の自然界では、昼間でも35℃前後まで気温が上昇しますが、死なずに生きています。ですから35℃までは生存できると思いきや...ここが落とし穴です。前述の通り、昼間の温度の高い時間帯は、比較的涼しい場所に避難していますから、最高気温の直撃を受けているわけではないのです。
 人間の場合は、温度が高くなってくると熱射病や日射病の危険にさらされるように、オオクワ・カブト達もある水準を越えると生命の危機に直面することになります。
 生命維持限界ラインが何℃かは不明ですが、例えば40℃の環境では長時間続くと死亡すると思います。直射日光が当たる環境では、もっと下がって30℃でも危険でしょう。実は以前、夜に採集したクワガタを車の中におき忘れ、朝の10時くらいに思い出して取り出した時、瀕死状態だったことがありました。幸い何とか回復しましたが、その時が上記の温度くらいだったと(それ以上だったかも知れません)思います。この例は極端であっても、真夏の閉め切った室内では、40℃近く、というのはありえる話なので注意して下さい。 7月〜9月下旬くらいまでは、最高気温は絶対といってもいいほど30℃以上になります。閉め切った室内は+3〜+5℃以上になるでしょう。この期間中は出来るだけ涼しい、暑くても32℃くらいまでの場所に飼育ケースを置いてあげてください。エアコンがなくても扇風機で空気を循環させることにより、室温を下げる効果があります。
 一方、幼虫は32℃でも何とか生きられると思いますが、暑すぎると成熟が早まり大きくなりません。前蛹は暑さに弱い傾向があるので油断は禁物です。また加湿したフレークや発酵熱を持っている菌床では、内部は室温よりも高くなります。(+2℃くらい) 幼虫は成虫と比較して弱い生き物ですので、成虫以上に温度に対して注意する必要があると思います。(特に初齢、前蛹)

 暑さ対策を工夫され、大切なオオクワガタを守ってあげましょう。


同一容器内での多数飼育について

 飼育する成虫の数が増えるに従ってさまざまな悩みが出てきます。飼育ケースを置く場所が無い、場所の確保に苦労する、というものも悩みの一つだとだ思います。♂♀単独飼育されている場合はミニ、小型飼育ケースで対応されておられると思いますが、それでも数10頭単位となると飼育ケースの山が築かれてしまいます。例えば10ペアだと最高20個の飼育ケースが必要だということですね。壁にぎっしり....という方も多いと思います。
 そこで、場所の節約や管理の軽減を考えると、♂♂、♀♀といった複数飼育が出来ないものかと思ったりします。一つの飼育ケースで3〜5匹飼えたら楽だと思うのは誰でもだと思います。
 実際、私もテストを含めて何度か行ったことがあるのですが、ある一定の条件をクリアすることで1個の飼育ケースで数匹の成虫を飼う事ができると思っています。但し、絶対安全というわけではありませんが.....

 

 @飼育ケースは中型以上、出来れば大型がいい。
 A入れる成虫のサイズはアンバランスものがいい。
 B成虫の数だけのエサ皿、もしくはエサ場を用意し間隔を少しあけて配置する。
 Cマットは少し深く5p程度まで埋めてやる。(隠れることの出来る領域を増やしてやる)


 オオクワ♂は縄張り意識が強く、特に初対面同士の場合は必ずといっていいほど争いを始めます。要はエサ場の確保の為の争いです。お互い死ぬまでということは少ないのですが、時には傷を負ったり最悪の場合は致命傷になる可能性もあります。争いの結果、成虫同士のいわば力関係が決定するようで、戦いに負けた成虫が再度けしかけるということは少なくなります。強い成虫がエサを食べている時は出てこず、エサを食べていないときを見計らって出てきてエサを食べるようになります。上下関係というか秩序というものが出来るようですね。こうした争いはエサ皿を成虫分だけ確保してあげると、少なくとも争いの確率は減ります(ただし100%ではない)。
 個体のサイズをあえてアンバランスにしたのは、争いの結果を出しやすくするためです。サイズが大きいものが有利であることは明白ですからね。小さい相手が比較的大きい相手に挑むことは本能的にも少ないようです。ただし、この点は「気性」ということにも影響されるかも知れません。勝負の結果を早く着けることにより傷つくのを回避することが出来ます。
 オオクワ♀は比較的おとなしく♂に比べて争うケースは少ないですが絶対ではありません。ただ、♀の場合もエサ皿を複数用意して、住む場所と空間を確保してやることが大切です。


 成虫の絶対的な行為は「自分のエサ場の確保」と「自分の子孫を残すための交尾」です。生きていくために必要なエサを摂取できる場所が確保出来ており、いつも自分の食べたいときに食べることの出来る状態が保たれていれば、例えすぐ近くに自分と同じ属の成虫がいたとしても気にならないようですね。自分のエサ場を侵されない限り秩序は保たれるようです。エサ場を独占して♀が来るのを毎日首を長くして待っているのですね......自然界では良いエサ場を確保できたら♀と出会う確率も増えるわけですから。

 


各部位の名称について
 
マニュアル制作時に成虫の各部の名称について調べましたので、このページでもお知らせいたします。
 羽を閉じた状態のものしか無かったので、後翅(こうし・後ろ羽)が未掲載ですが、その他の主要部分は揃っていると思います。


文字が判別しにくいようなので以下に補足しておきます。

上部は 口ひげ、内歯です。

左部は上から、触角、前脚、前胸背板(ぜんきょうはいばん)、
 
   小楯板(しょうじゅんばん)、中脚、後脚。

右部は上から、大顎、複眼、頭部、腿節(たいせつ)、脛節(けいせつ)
     符節、上翅(じょうし)