オオクワガタ蝿轣Eブリーディングに関する技術情報 幼虫飼育編
 
◆幼虫の採れる場所・環境

 
 オオクワガタの産地で写真のようにカワラタケが生えている朽木に遭遇するとチャンス! 樹種がクヌギ、エノキで木の周りが80p以上あれば大チャンスといえるでしょう。

 比較的原形をとどめ「脱出口」があるものは高確率で中に新成虫、もしくは幼虫がまだ残っていると思われます。ただ、残念なことに私の地元の能勢周辺では、人が容易に入ることの出来る森林においてはこれらの条件を満たすものを見つけるのは0%に近い確率でしょう。自然が多く残っていてもマニアや業者における材割りが侵食して全てに手(斧などによる切削)が入っている状態です。

 30年位前(すごい昔ですね)、私が中高校生くらいの時代にはある場所で一度の早朝の樹液採集だけで数10頭のカブト、ミヤマ、ノコ、コクワが採れて虫かごを満タンにして帰っていたのですが、今ではその2割程度しか採集できません。虫の種類により食する材などの環境が異なりますが材割による産卵環境の破壊が影響している可能性が高いと思います。今後、人の目につきやすいポイント(樹液を出している木)周辺での採集はますます期待出来なくなるでしょう。

◆孵化〜蛹化までのライフサイクル

 オオクワガタは孵化から羽化まで、それぞれのステージを経て成長します。

 @卵       産卵後10日〜2週間前後で孵化することが多い。
 A1齢(初齢)  孵化直後、中期、後期に分けることもある。
 B2齢(亜終齢) 脱皮後の成長度合いにより、前・中・後期に分けることもある。
 C3齢(終齢)  若3令期・成長期・成熟期に分けることもある。
 D前蛹      完全に前蛹モード突入後、約2〜3週間で蛹になります。
 E蛹       蛹の期間は3〜4週間以上。♂♀の種類の違い、また温度差により多少変化する。
 F羽化

 卵から羽化までに要する期間は、孵化の時期、エサの種類、環境温度、親から受け継いだ遺伝子等により変化します。どの要素が一番成長に影響を与えるかといえば恐らく環境温度でしょう。仮にフレーク飼育で平均20℃、菌床飼育で30℃に近い条件で飼育すると菌床飼育の方が高確率で加齢・成熟が進み、結果フレーク飼育で羽化したものよりも小型になる可能性が非常に高くなります。大型成虫を得るためには温度管理が必須だと私は思っています。
 その他、エサの種類によっても変化します(菌床飼育の方が加齢・成熟が早い)。以上のことから、幼虫で過ごす期間は環境温度とエサ環境により、初齢→3齢→前蛹→蛹のトータル期間は複雑に変化します。

 自然界では、一般に初夏までに孵化した幼虫は晩夏までに3齢となり、翌夏に羽化することが多いと考えられています。晩夏以降に孵化した幼虫は2齢で越冬して翌年の夏頃に3齢となりますが、羽化に至るのは翌年の春〜夏になると考えられています。幼虫期間で半年から1年近い差が出てきますが、これらは産卵された時期や孵化した時期の気温が影響を受けているのです。
 前者(初夏に孵化)を1年1化型、後者(晩夏に孵化)を2年1化型と呼んでいます。一般に2年1化の方が大きく成長するといわれています。さらに羽化した年に蛹室から出て活動を始める個体と、羽化した年は蛹室内に留まり越冬後に活動するものを区別するために1越型として表すこともあります。自然界のオオクワをはじめ、ヒラタ、ノコ、コクワについては大半が1越型となるようです。その根拠して、冬期の材割り時に成虫をゲットした場合、ほとんどが朽木内部の蛹室らしき場所から採集できるからです。これは、夏に羽化ものがそのまま越冬体勢に入っていることを示しています。一般飼育下においては養殖技術が進化し高栄養のエサの摂取と温度管理によって、自然界とのサイクルが崩れつつあるように思います。特に、冬期に活動を停止する自然界と、温度管理下におかれる幼虫との差は歴然でしょう。

3齢後期から前蛹、蛹から羽化の様子
幼虫〜前蛹(ぜんよう)になる前の状態、行動
 幼虫は環境状態、温度、積算温度などの影響を受け、適切な時期に幼虫から成虫になる為の準備を始めます。そして楕円形のやや大きい部屋をゆっくりと作っていきます。この部屋は蛹室と呼ばれます。今までの坑道と違って、自分のフンを少しずつ部屋の壁に塗って行き、壁が崩落しないようにしっかりと固めてい きます。実は、この蛹室を作る直前に飼育容器の内部を細かに移 動する行動をとることがよくあります。この行動は、蛹室からの脱出経路の確認や雨水を逃がす水路などを作っているといわれています。実際、自然界では蛹室の中に水が溜まらないよう工夫したり、脱出のために表皮に近い場所に蛹室を作るようです。養殖されている幼虫でも虫としての本能は一緒ですから同じような行動をするのでしょう。
完全な前蛹状態
 そしてこれらの作業を終え蛹室を作成し、全てのことに満足したら体内のフンを全部排出し2週間程度ぐったりしています。体内では蛹になる準備が進められています。蛹化直前は頭から尻までピンと突っ張った体勢をとり、これが見られたらまもなく蛹化です。この前後の時期は絶対に衝撃を与えないよう、飼育容器には触れないほうが無難です。振動を察知すると外敵の襲撃と勘 違いして体をくねらし激しく動きます。無駄な動きをさせると体長が縮む原因ともなり、最悪の場合はエネルギーを消耗して蛹になることなく死亡します。尚、蛹室は頑丈に作られていますので、幼虫自身の動作による蛹室の破壊はほとんどありません。 常時、観察をされる場合は、出来るだけ飼育容器を手に取らぬよう、予め目視できる位置にビンを配置しておくことがいいと思います。
蛹化した直後(まだ白い、時間の経過と共にクリーム色→茶色となっていく)
 蛹の時期をクリアすると蛹に脱皮します。♂なら大顎があるので性別が確認できます。大体3〜4週間で羽化します。♀は3週間程度で、大型の♂になるほど羽化まで時間がかかるようです。また、温度も重要で低すぎると、♂♀共に羽化まで時間がかかります(前蛹も同様)。飼育容器の取り扱いは前蛹と同様で振動などは厳禁です。ちよっとした振動や変化で激しく動きます。あまり動きすぎると体力を消耗し、羽化のためのエネルギーを消耗して死亡することもあるので注意して下さい。また羽化時の体長が縮む場合もあります。前蛹〜蛹の時期は観察は、とにかく振動などの刺激を与えないように注意して下さい。
羽化直前
 蛹の色が赤くなってきたらそろそろです。羽化直前は、蛹の表面の体液が無くなり干からびたようになります。手足が最初にめくれ始め、その後に仰向けからうつ伏せに体制を入れ替えます。この時、うつ伏せになれなかったら100%羽化不全となります。羽化が始まって完了するまで半日くらいかかります。また羽化したからといってすぐに取り出してはいけません。体はまだ固まっておらず、取り出すときのショックでキズが付く可能性があります。体に傷がつくとその場所からの体液流出を止めることができず成虫は死亡します。
羽化中
 脱皮中、抜け殻?が体にまとわりついてしまうと、羽が真っ直ぐに伸びきらなかったり、一部羽化不全の原因ともなります。大型の♂成虫の羽化時は、時と場合によっては人間の手による「アシスト」も必要かも知れません。
羽化完了
 無事、羽化が完了しました。羽化直後の体色は鮮やかなワインレッドです。2週間程度で赤味は無くなりますが、完全に体が固まるまでには4週間程度要すると思います。取り出しは最低でも2週間以上経過後を目安にしましょう。
 尚、羽化時期によっては蛹室内で越冬体制に入るものも少なくないですが、菌床飼育の場合は培地が劣化してアンモニアガスが発生して成虫に悪影響を与える可能性があります。状況次第で別の飼育ケースへの移動も必要でしょう。

◆幼虫の死亡率の割合

 幼虫飼育において最も悲しいことが「飼育中の死亡」です。手塩に掛けて大きく育てさあもうすぐ成虫、という時期になって幼虫や蛹が黒くなっていたらショックです...(死亡すると黒く変色しカビる)。

 写真左は、70o超級で羽化寸前に死亡しました。体のほぼ全体が出来上がっているのがよくわかります。写真左は、亡骸です。下の二つが幼虫、上が蛹時の死亡です。

 当ショップの過去の飼育データから算出すると菌床飼育、フレーク飼育ともに15〜20%くらいの死亡率となっています。死亡率15%ということは、単純計算で100頭孵化して無事に成虫になるのが85頭前後ということです。当然、管理次第で変わるものなのですが、飼育方法による死亡率の格差はほとんど無いのではと思います。但し病気や突然死などの内的要因は上級者でも対処できませんが、雑菌の繁殖や環境などの外的要因については経年飼育から得た見極めが上級者には出来るので、上級者が飼育する場合と初心者が飼育する場合とでは幼虫の死亡率に差があると私は思っています。
  
 さて、ここで死亡の原因となるものをいくつかピックアップしてみました。

  @極端な高温低温によるもの。
  A突発的な体内アクシデント(人間でいう心不全?みたいなもの)
  B脱皮・蛹化不全によるもの。
  C水分過多、乾燥、酸欠、雑菌感染などの環境劣悪によるもの。

 これらの中で最も生命を脅かすものはどれでしょうか? 複合的な絡みもあると思いますが酸欠や雑菌の影響によるものが多いと思っています。例えば、フレーク飼育はいわば雑菌の巣のようなものであり、雑菌繁殖の少ない菌床とは比べ物にならないでしょう。抵抗力が弱い幼虫は雑菌に冒されて死亡に至ることがあっても不思議ではありません。人間もウイルスに感染すると死亡することがあるように。このことから出来るだけクリーンな環境を整えてあげることが必要で、異常(カビ類の大発生)が見られたら危険回避措置も必要でしょう。
 ここから興味深い点なのですが、力尽きて死亡する幼虫は、圧倒的に♂幼虫の方が多いと思います。これはもう確信的といってもいいくらいです。写真でもご紹介いたしましたが、こうした亡骸として掘り出されるものは♂が多いのです。幼虫は自身の持つバクテリアや抵抗力で雑菌から身を守り対抗していると思いますが、私はこの雑菌に対する抵抗力・対抗力は♂より♀の方が勝っていると思っています。その根拠として、♀成虫が産卵行動を始めると材に発生していたカビ類が消えることが知られているように、多くの♀成虫が細菌を駆逐する逃避物質を放出していると考えられています。だとしたら、
♀成虫が持っているこの優れた能力は、既に幼虫時代から持ち合わせているのかも知れないのです。雑菌を駆逐する能力が♀幼虫には備わっているとの考えは、途中死亡する個体は♂が多いという例に対して説得力があると思います。あくまで推測の範囲であり科学的根拠に基づいたものでは無いのですが、私はそう主張したいですね。


◆脱皮・蛹化・羽化不全について

 オオクワガタは完全変態の虫です。その成長過程においては当然、脱皮や蛹化、羽化というハードルが待ちかまえています。それぞれがハードルと呼んでもいいでしょう。大抵はスムーズに次のステージへと移っていくのですが、数%の確率で次のステージに進めないケースが発生します。ハードルには脱皮、蛹化、羽化が該当しますが、脱皮に関しては初齢→2齢→3齢→蛹→羽化までの合計4回もあります(最後の2回は蛹化、羽化のための脱皮)。それぞれのハードルを無事にクリアして成虫になれるのです。一つでもクリアし損なった場合は最悪の場合死亡しますが、例え生きながらえても活動に支障を来たすケースが多いようです。
 これらの脱皮の過程において発生する事故を「脱皮不全」
「蛹化不全」「羽化不全」と表します。

脱皮不全に関して

 脱皮の前には、楕円形の部屋を作りその中で行います。この脱皮中にトンネルが崩れたりすると脱皮の邪魔になり、脱皮が上手く行かずに失敗することがあります(脱皮不全)。下の写真をご覧下さい。左が脱皮不全、右が脱皮後の例です。

 

 何故、こんな姿になってしまったのかその原因は不明ですが、脱皮時に頭部が上手く割れずに脱皮出来なかったようです。頭部周辺に古い抜け殻が付いているので、その色の違いがよくわかると思います。しばらくの間生きていましたがやがて死亡しました。本当に可哀想ですね。
 脱皮が上手くいくと右図のようになります。頭が白く脱皮直後なのがよくわかると思います。1日もすれば頭がオレンジ色に変わります。脱皮の前後は菌床・フレークの交換等は絶対に避けて下さい。一箇所にとどまり楕円形の部屋を作り出したら脱皮の前兆かも知れません。脱皮がもうすぐ始まる...という時に、掘り出すと傷ついたりします。また、ケースを動かしたときの振動で壁が崩れて脱皮の邪魔になることも考えられます。くれぐれも取り扱いは慎重にして下さい。また、飼育日誌などを付けてデータ取りをされると参考になると思います。ある程度の飼育経験を積むと幼虫の様子で脱皮の時期がわかるようになりますよ。

蛹化不全について 蛹化不全の原因は以下のことが考えられます。

※蛹室内部の壁が壊れてしまった。
※前蛹状態で菌床・フレーク交換した。
※振動を与えすぎて体内エネルギーを消耗させた。

 3齢以降、体が成熟すると蛹になるための部屋を作り始めます。途中、何らかの原因等で蛹室内部の壁が壊れたりすることもありますが、蛹室を作成し始めた段階での部屋の修復は可能だと思います。しかし、蛹室を完成させ前蛹モードに入った場合はもう修復することはできません。壊れた部屋の一部が邪魔になって脱皮に失敗することがあります。この時期は、振動を与えることは厳禁ですので注意しましょう。蛹室の壁の崩壊は、その殆どの場合が「人為的」なものによる可能性が高いからです。また、蛹室を作っているのに気付かず(ビンの内部)にフレーク交換などで取りだした場合も同様です。もうマットに潜っていく力が残っていません。不完全な状態下での蛹化は、脱皮がスムーズに行かず失敗する可能性が高くなります。
 前蛹に入ると蛹室の中でぐったりとする日が続きますが、少しの振動でも察知すると幼虫は外敵と勘違いして体をくねらして抵抗する動作をします。1〜2度程度はあまり影響はないと思いますが、頻繁であると体内エネルギーを消耗して蛹になる前に死亡することがあります。また余分なエネルギーを消耗したことで小さな蛹にしかならないこともあります。
 以上のことは、人為的な要因ですが環境的な要因にも注意しましょう。一般に前蛹時は高温に弱く死亡する例が少なくありません。高温にならないように注意が必要です。特に真夏の時期は注意して下さい。

羽化不全・羽化不良に関して

 羽化不全の原因は、基本的には蛹化不全の4つの原因と共通です。そして羽化時に失敗する原因として新たに考えられることが、蛹室の大きさ、水分過多、未成熟、他などです。また、蛹室を作ることが出来ずに上部空間で蛹化した場合にも羽化不全の確率が非常に高くなります。
 羽化が近づくと全体が赤みを帯びてくるのでよくわかります。最初は仰向け状態です。羽化が始まると、大顎、足の部分を丁寧にはぎ取りながら態勢をうつ伏せに変えます。この時、うつ伏せになれないとその後の過程で羽根を伸ばすことが出来なくなり100%羽化不全となります。また、体長と蛹室の大きさが比例せず狭い蛹室の場合は、体の反転や大顎を持ち上げる動作の時に体の一部が引っかかったりしてスムーズに行かない場合もあります。

 また、水分過多の状況下では羽化のための脱皮がスムーズに行かない事もあります。一般に菌床飼育の場合の羽化不全の確率は、フレーク、材飼育と比較して高いという結果が出ています。
 一般に羽化不全として最も多い例が写真のように上翅(上羽)の部分が常に開いた状態になることです。体が固まっているのでもうきれいに伸びることはありません。出来る限り人為的なものに起因することは避けてあげましょう。


蛹室の大きさ、形状について

 一般に、大型幼虫には大型の容器を、中・小型にはそれなりの、というのが一般的な考え方です。外国産をはじめ、国産オオクワガタでも羽化時推定80oクラスの幼虫には直径120o程度の容器が必要かも知れません。しかし、羽化時推定75o未満では、特に蛹室を作る最後の1本においては容器の直径は100o程度でも充分であると思っています。♀なら70〜80o程度でいいでしょう。
 通常、幼虫は蛹化前に「蛹室」をゆっくりと時間をかけて作り上げていくことはみなさんご存知かと思いますが、その蛹室の壁は害菌や雑虫の侵入を防ぐため、体液混じりの「フン」を少しずつ塗って固めていきます。体液を放出するということは、結果的に体内の養分を消費することになるので幼虫は縮みます。大型成虫で羽化させるためには、この縮みを最小限にすることが必要です。
 私が気が付いたことには、大きな容器に入れた幼虫は横幅一杯に蛹室を作る場合が多く、結果的に大きすぎる蛹室になっていることが多いように思います。大きな蛹室を作るということは、それだけ労力と時間を必要とし、縮む比率が大きくなるということです。大きすぎる蛹室を作らせないため、最後の1本(蛹室を作らせる)の容器の直径がポイントとなります。

 重ねる飼育ビン1.5g容器(直径120o)横幅いっぱいに蛹室を作っています。
100o容器だと20o分の労力が失われずに済んだのではないかと思っています。

 幼虫の縮みを無くすことは不可能でが、この縮み人為的に抑えることは可能だと思っています。その一策が必要以上の大きさの蛹室を作らせない、ということなのです。私は最終交換時の幼虫体重が25g以上の場合、もしくは25g以上あると推定される場合を除いて全てをリミテッド850ボトル、もしくは相当の(ガラスビン)容器で羽化させるようにしています。窮屈そうに潜っていきますがやがて作られる蛹室は斜めに作った場合でも110o程度なのでこれだけあれば充分でしょう。

 幼虫の縮みという現象は、幼虫の成熟状態に最も左右されます。じっくりと時間をかけて成長し体色が黄味がかっている孵化後1年以上経過した幼虫では、孵化後1年未満で蛹室を作り出す幼虫と比較して縮みの度合いが少ない傾向があります。このことから、例え容器のサイズを工夫しても幼虫の成熟状態により予想以上に縮むことがあります。
 以上のことから、大型成虫を得るには偶然ではなく工夫や努力(日常の管理)、素質などの様々な要素が全て満たされて得られるのだと思っています。


蛹室を作らずに蛹化した時の対処方法

 
幼虫飼育の経験を重ねていくと、様々な問題に遭遇することがあります。その一つに、中に潜らずにフレークや菌床の上部で蛹化することがあります。同じ条件で飼育していても数%の確率で発生します。写真はフレーク上で蛹化したものですが、蛹室を作って蛹化したものと比較して羽化不全となる確率が非常に高くなります。もし、このような事態が発生した場合は放置せずに対応策を取るようにして下さい。 このようなケースでの羽化不全の確率が高くなる大きな理由としては容器上部の状態が悪いからだと考えています。一般に内部に蛹室を作成した場合は壁面は糞と体液で固められており頑丈な構造となりますが、菌床もしくはフレーク上ではその多くが砂場のような状態になっています。蛹になってクネクネと動いているうちに、体の一部が沈んでしまうことが考えられます。また、寝返り動作もやりにくいようです。そうしているうちに仰向けのまま羽化を迎える。爪が掛からない、うつ伏せになれない...結果、上羽が伸びきらない無残な姿となるのでしょう。対策としてはオアシスと呼ばれるものを使用した「人工蛹室」に移す方法と、羽化が済んで「不要となった蛹室」です。私は、蛹室を作らずに蛹化した幼虫を確認した時点(もしくは予想される時)で、代用となる蛹室を調達するようにしています。

 上部は壊れていても、下半分の構造が残っていれば十分に再利用が可能です。写真のものは、羽化した成虫を取り出した後、別の蛹を入れたものです。上部は空洞でも全く問題なしです。同様の事態に遭遇された方は是非お試しください。蛹の取り出し・投入には少し神経を使いますが大き目のスプーンなどで行えば楽にできますよ。投入前の措置としては、蛹室が乾燥していたら少し霧吹きで湿らせるといいでしょう。 






人工蛹室を作成して使用する場合
 適当な代替の蛹室が無い場合は、人工的に蛹室を設ける以外に手立てはありません。この人工蛹室の使用については、非常事態の最後の一策だといえるでしょう。間違っても正常だと思われる状態の蛹室を壊して幼虫を取りだしすことは避けて下さい。
人工蛹室を使用する場合、型は人的なもので穴をあけて作ります。指で押しても簡単に出来ます。写真のようにミニケースに入れて容器全体をシールド化して管理するのがベストでしょう。

ポイント1・・・蛹室の大きさについて
 どれだけの大きさのものを作成すれば良いかは、縦に関しては羽化時推定体長+20〜30oが目安です。横幅は蛹の腹幅の1.6倍前後が目安だと思います。つまり、腹幅が20oの蛹であれば32oの幅を作ればいいと思います。狭すぎると寝返ることが出来ないし、広すぎてもいけません。

ポイント2・・・蛹室の深さについて
 お尻の部分を振っても飛び出さない程度の深さが必要です。浅いと最悪の場合、蛹が飛び出すことがあります。最深部で40〜50o程度は必要だと思います。
ポイント3・・・水分の量について 
 何日間人工蛹室で管理するかによって変化するので一概に言及できません。基本的には蛹室側壁に適度に霧吹きで水分を与える程度でも充分だと思います。私は控えめにしています。
ポイント4・・・人工蛹室へ移す時期について
 蛹化直後はいうまでもなく、羽化直前も良くありません。移した後、羽化まで3週間以上の長期間となると水分調整が難しくなります。私は目が黒くなり、羽化まで1週間前後が予想される時期に移すようにしています。ちょっと湿っているかな、程度でもシールドで保湿されていますので乾燥の心配はまずありません。人工蛹室は人為的なものなので短期間で済ませてあげるのが良いと思います。



3齢にならずに2齢で羽化する例

 一般に、オオクワガタは、初齢→2齢→3齢→前蛹→蛹→羽化(成虫)の各ステージを経て成虫となりますが、ごくまれにこの過程のうち3齢を跳ばして2齢→前蛹になることがあります。 

 原因としては次のようなものが考えられると思います。
 
 1.加温(常時適温)により変態サイクルに狂いが発生した。
 2.環境が劣悪(狭い容器)で早く成虫になろうと成熟を急いだ。
 3.エサが高栄養で2齢での成長・成熟が進んだ。
 4.遺伝的な要因。
 5.その他

 但し、過程を跳ばすケースはいくつもあるわけではなく、2齢→前蛹の移行期だけで他は発生しないものと私は思っています。通常、2齢で成長後に適切な時期に3齢へと加齢するのですが、何らかの要因により3齢へ加齢する時期を逸して成熟が進んだと思っています。カップ容器などで長期間、高温環境に置くと可能性が高くなると思います。

 このようなケースを防ぐ手段としては2つ考えられます。

 1.2齢以降の環境温度を25℃までに保ち、高温による成熟の加速を抑制する。
 2.狭いカップ容器で長期間飼育しない。

 割出し直後から、菌床であれば850ボトル程度に投入することによりスムーズに加齢・成長すると思います。カップ容器は確かに便利なものなのですが、交換時期を間違えると幼虫は大きくならないことを理解しておきましょう。2齢蛹化は例外なくミニ成虫にしかならずにコクワ並みだということは間違いありません。


丸2年以上も幼虫で過ごす例
  
 成虫の寿命は一般に3〜5年というのがはよく知られていますが、幼虫のそれは寿命ではなく、幼虫期間として表されます。その幼虫期間は孵化から羽化まで要した日数を基準に1年1化、2年1化というように表されます。
 ところが、2年1化の中からごく僅か数%の確率で3年1化になる幼虫が出てきます。丸2年以上幼虫として生きたことになります。写真のものは既に死亡しましたが孵化から丸2年以上生きていました。白い部分は全くなく、全身が黄味かかっており全身にその「年輪」が漂っていました。

 幼虫期間が長いほど大きな成虫の期待が高まりますが、その期間にはリミットがあり蛹化する時期を逸するともう無事に羽化できる確率はゼロに近くなるようです。詳しい生態メカニズムについてはわかりませんが、環境温度を上げても効果は期待できません。私は蛹化するリミットを超えた幼虫は一種の生態的な異常を来たしており、結果成虫になれないのだと考えています。羽化まで早すぎたら大きな成虫が得られないし、逆に羽化まで長すぎても良くない・・・。幼虫飼育の難しさでもありますが、そのリミットぎりぎりで羽化させた結果が特大成虫になるものかも知れませんね。

 補足説明 孵化日を2006年7月1日とすると

 @2007年6月30日までに羽化すると1年間で羽化したことになるので1年1化となります。
 A2007年7月30日に羽化すると孵化後1年以上2年未満に該当し、この場合が2年1化となります。
 B2008年7月01日を迎えた時点で3年目に突入となり、この場合が3年1化となります。


幼虫に有害な天敵・外敵に対して
 

 成虫は堅い甲羅に覆われて飛翔することも可能ですから、外敵に襲われた場合でも回避することも可能です。しかし、幼虫は体も弱く動きも遅いし逃げ場もない環境にいますので、外敵の襲来を受けた場合は100%大半が餌食となります。幼虫を襲う天敵としては、コメツキ虫やハチが知られています。

 材の中に入り込んでいる有害虫撃退方法

 産卵・飼育材を煮沸する(一番効果がある)。
 電子レンジで熱死させる(1〜2分では効果なし)。
 2〜3日間、材を水没させ水死させる(生存例あり。完全には無理?)。



 私は短時間で効果が期待できる電子レンジ殺虫法を実践していますが5分程度は加熱する必要があります。1〜2分程度では内部まで熱が伝わらないのか、材割後にゴミムシダマシの幼虫が出てきたことがあるからです。基本的にハウス栽培ものであれば雑虫類の侵入は少なく、野外栽培ものは飛躍的に侵入する確率が高くなるようです。
 産卵材をセット中、容器側面にミミズが這ったような不自然な細い坑道が見えたり、ツブ状の糞が一箇所に固まって見られた時などは急いで材の中を調べる必要があると思います。

 当ショップで販売しているクヌギ材についてはハウス栽培ものを取り扱っている業者から仕入れており、オオクワ幼虫を捕食する天敵が材へ侵入している確率は低いと思いますが100%安全とはいえません。上記の殺虫法を参考に、ご自身で一番有効と思われる方法で対策を講じて下さい。


雌雄判別方法

 ある程度、飼育の経験を積まれると幼虫の時点で性別がほぼ判るようになります。一般的に雌雄判別は次の2点で可能です。

 1.卵巣(生殖器)の有無。 2.頭幅の大きさ。

 写真左が♂、右が♀です。どちらも3齢初期の幼虫です
。右の幼虫のお尻の部分からおおよそ3節目の部分に白いものが見えます(○枠内)。これが左右に1つずつ確認できれば♀と判断できます。形がゴマ粒のように粒状に見える場合と、線状に見える場合があります。写真は3齢幼虫ですが2齢幼虫でも確認できる場合があります。
 一方、左の幼虫にははっきりとそれとわかるようなものが確認できません。1〜2節目にあるものは、将来生殖器となるものではなく他の組織となるものや単なる脂肪球の場合が殆どです。特にお尻から2〜3節目の部分に注目して見ることがポイントです。ただ、3齢中期頃までは体色に透明感があるので判別も容易ですが3齢後期となると脂肪がたっぷりと付いて体色が黄味を帯びて来ますので確認しにくくなります。
 その他、頭幅の大きさから判断する場合、比較的大きい場合は♂、小さい場合は♀の場合が多いです。もちろんこれは後天的要素であるエサの質、飼育技法によって変化しますので一概にはいえませんが、頭幅が9o以上ある場合は♂の確率が高いのではないかと思います。
 以上、2点の判別方法により高確率で雌雄判別ができるのではないかと思っています。


冬期の管理方法

 自然界では、当然のように四季が存在しています。オオクワガタも例外ではなく、成虫、幼虫共に冬期は活動を停止して厳しい冬を乗り越えるのです。えっ、幼虫って越冬するの? と思われた方もおられるでしょう。人間が季節によって衣服を変えて気温に適応しているように、幼虫は体内の「体質」を変えて体を適応させます。
 自然界ではオオクワは里山や山地に生息しています。都市部と違って真冬の朝晩の気温は氷点下になる日も多く、冬を乗り切るための工夫をする必要があるのです。ではその工夫とは一体何なのでしょうか。それは「体の凍結防止」です。気温が徐々に低くなって来るに従い、冬の到来を察知します。すると幼虫は未消化物や余分な水分を全部体外に排出して体が凍結するのを防ぐのです。生物である限り、色は違っても血液や体液が体の中を循環しています。体が凍ってしまえば血液や体液も流れず、結果的に心停止に至り死亡という結果になります。厳しい環境を克服するための生命維持メカニズムには驚くばかりですね。さて、タイトルとは少し違った内容の話をしましたが、以下、本題です。
 通常、加温飼育していない方は、幼虫の飼育ケースは室内に置かれていると思います。真冬でも室内は想像以上に暖かく、日中は15℃以上になることも多いと思います。寒暖差が大きく5℃以下になりにくい環境では越冬態勢には入らず、摂食などの活動を行うようです(但し成長、成熟はしないようです)。冬期でも室内温度が10℃以下になることは少ないマンションにお住まいの方が幼虫飼育される場合、越冬管理については特に気を使う必要性は少ないと思っています。幼虫が越冬態勢に入るケースとしては、外気と同等の場所か室内でも寒暖差が少ない寒い環境に置かれた場合に限られるようです。以上のことから、冬期は環境温度を把握して幼虫にダメージを与えない場所で管理することが必要だということを理解して下さい。昼間は20℃超、夜間は0℃の寒暖差の場所は絶対に避けて下さい。

冬期材割り採集幼虫に関しての注意

 冬期の材割りにて採集した幼虫は、その多くのものが越冬モードに入っていると思います。採集して来ていきなり暖房の効いた部屋や、菌糸ビンなどに投入すると環境の激変によるショック死することがあります。しばらく移行期間を設け、急激な温度変化を与えないようにするほうがよいと思います。


容器の大きさが幼虫に与える影響力 

 オオクワガタ幼虫は、孵化後、産み付けられた環境下において最大限可能なレベルまで成長しようとします。例えば、自然界においてクヌギやエノキの朽ちた巨木に産み付けられ、他の幼虫と競合せず充分な居住場所があれば♂70o以上に成長する可能性が高くなります。一方、産み付けられた木が細かったり他の幼虫と競合する過密な環境だった場合、結果的に成熟を早めて♂60o未満の小型サイズで羽化する確率が高くなると思います。このように、幼虫時代に過ごす環境によって羽化後の大きさが決定されるのは間違いないと思っています。あくまで私見ですが、大きな幼虫を作出するためには「容器の大きさ」というものも考慮する必要があると思います。幼虫の最大サイズを引き出す環境として次のようなローテーションが最適と考えています。

 例)割出し直後からと考えると

   @初齢〜2齢 850CC〜1.5g容器  この時期から自分の居る環境が広大だということを意識させる。
   A3齢加齢後 1.5〜2g容器    引き続き大きい容器、良いエサの環境を与える。
   B3齢終期頃 850CC〜1.5g容器  最後のエサ交換時に、少し小さい容器にスイッチする。

 以前はプリンカップ容器も多用していましたが、2006年夏以降は割出し直後からボトルやビン容器に投入しています。その理由としては、あくまで私見なのですが120CCプリンカップに投入するよりも最初からある程度の大きさのボトルに投入するほうが頭幅の大きさや、最終的な体長に差が出るように思っているからです。もちろん、管理を適切に行えばプリンカップでも問題無いと思いますが、私は性格的にズボラで、気が付いたらカップの中で既に3齢に成長していたことが何度もあったからです。
 
昨今、初齢幼虫飼育の定番としてのプリンカップの使用が定着していますが万全では無いということです。通常、幼虫は孵化後に坑道を掘り次第に範囲を広げていきます。初齢時に、カップの菌床をすべて食い尽くすことはほとんどないので、初齢幼虫に対してカップを使用することは何ら問題ないと思います。しかし、2齢幼虫となると体長も大きくなり坑道を掘る範囲も広くなってきます。そしてこの時点で幼虫は自分のいる環境はどうなのか、ということを察知すると思います。だとすれば2齢加齢後はできるだけ早く大きな容器に移さないといけません。そのままにしておくと「狭い、大きくなれない」と判断して成長を放棄するかも知れないからです。

 事実、実飼育下において10頭程度を90CCカップと120CCカップ菌床に分けて初齢で投入。その後3齢加齢後に850CC〜1リットル前後の容器に移し替えました。その後、羽化した♂グループで70oオーバーはゼロ。それどころか60o未満も出現しました。これらのことから、あくまで推測・私見ですが、例え大型に成長する素質を持っていたとしても、若齢時に狭い環境下に長期間置かれると、ほとんど大きくなることを放棄して小型成虫で羽化することを選択するようです。プリンカップにて飼育される場合、2齢加齢後は早めに交換を心がけて下さい。


幼虫の持つ環境コントロール能力とは 

 オオクワ幼虫は、自身の持つバクテリアなどの助けを借り、噛み砕いた材を消化・吸収しやすいようにしてから食べていますが、このバクテリアを利用して行っているものがもう一つあります。それは環境コントロール(環境支配)です。オオクワ幼虫を投入した容器と、そうでない容器のフレークの外観は、時間の経過と共に驚くほどの違いが出てきます。

 写真左は初齢で投入後50日経過したSPフレークカップ。2齢まで成長しています(姿は写っていません)。写真右は同時期に作成した幼虫を投入していないカップです。水分率、詰め加減はほぼ同一条件です。幼虫の居る左のカップに異常は見られませんが、右のカップは何やら怪しい状態です。フレークが変色して判別しにくいですがカビのようなものも発生しています。環境支配の影響度によりこれだけの違いを作り出します

 もちろん、幼虫の居るフレークにもカビがはえたり変色することも事実です。しかし、カップのように狭い容器ではほとんど劣化が発生しないのです。これは幼虫自身の持つ環境コントロールが行き届いているからだと私は思っています。これは容量の大きくなる1〜2リットル以上の容器でも同様の傾向が見られますが、さすがに容器が大きくなるにつれてカビたり傷む場所は増えるようです。ただこれは広すぎて環境コントロールが及ばないと考えています

 このバクテリアの一部は親虫からの「受け継ぎ」であると考えられています。親虫は産卵後、卵を丁寧に噛み砕いた木屑で埋め戻しますが、この木屑に親虫の持つバクテリアが含まれており、孵化後にこの木屑を食べることにより体内に取り込まれまれその後に活用されて行くという図式です。例えば、孵化後の幼虫は雑菌などの攻撃に対して弱いものと考えられますが、親から受け継ぐことで当面の抵抗力を確保することが出来るのではと思っています。
 また、「材割して取り出した際は、オガクズも一緒に混ぜるといい」「フレーク交換は新しいフレークに前のフレークを少し混ぜて与えるといい」とありますが、これは構築されたバクテリアを持ち出すことが狙いです。材割後やフレーク交換後の新しいフレークには親が残したものや幼虫の作り出したバクテリアが存在しません。幼虫は環境を再構築する必要があり、結果、環境に適応するための労力と時間がかかってしまうのです。成長にもマイナス要因ですね。少し混ぜると効果があるといわれる理由はここにあるのです。


単一容器での複数飼育について
 
 割り出し後の幼虫をまとめて一つのケースに入れて飼育している方は非常に少ないと思います。割り出した幼虫を意図的に同じ容器に投入する方はまずおられないでしょう。その理由として、あえて共食いなどの危険やお互いが牽制しあっての早熟化(小型化)の確率が高くなる、単一容器での多数飼育は意味がないからです。
 しかし、意図は異なりますが、短期間であればそれなりの効果が得られることもあります。

(コントラストを変えています)

 写真をご覧下さい。小型プラケースにSPフレークを詰めたものです。見えにくいですが3カ所の坑道内に3齢幼虫が居ます。ケースの中には、カワラクヌギ材が埋め込んであります。ただ、これは「ハイブリッド飼育法」ではなく、材がウルトラ級に堅くて材割を断念し、結果、埋め込んだものです。あまり紹介されている事例は少ないのですが産卵済みの材のうち、特に堅いものは無理に割らずに良質なフレークに埋め込んで幼虫を取り出すことも有効な方法であると思っています。その理由として、堅い材を無理に割ろうとすると余分な力が加わり、結果、幼虫を潰すケースが増えると思います。これを避けるため、堅い材はこのようにして埋めておくのです。いずれ幼虫は何匹かフレークの中に出てきますからある程度の数が出てきた時点で取り出し、材の状態を確認後、再度埋め戻します。時間の経過と共に幼虫は加齢して大きくなって行きますから、材の中は急速に食されボロボロになり、堅かった材も徐々に崩れるようになっていきます。1回目の掘り出しでフレーク中から5頭、材の浅いところに1頭の計6頭が取れました。まだ材の中には居ると思いますが、深追いは禁物です。また元通りフレークの中に戻しておきました。いずれ出てきたところをゲットすればいいのですから。

 材割時にいつも気付くことなのですが、幼虫は互いの坑道が重なることなく(一部重なることもありますが)スレスレの状態でも狭い産卵材の中を「同居」しています。幼虫は足を擦り合わせて音を出すことにより、それを「牽制音」として自分の存在を他の幼虫に知らせているといわれています。一般によくいわれている「共食い」ですが、これはもうお互い居場所が無くなった状態のいわば最終局面での出来事かも知れません。材の中で坑道が交錯した程度、不意の鉢合わせ程度ではおこることはないと思います。オオクワ幼虫は、実は無駄な争いを避ける努力、回避行動を取る生き物かも知れません。
 小型プラケースに直径約10p×長さ15pの材を入れてみると、その隙間はあまり広くありません。底部と側面にあわせて5匹も居たのですから、ある程度の秩序ある行動があったと思わざるをえません。共食いも無かったようです。ただ、材の中とフレークの中で決定的に異なることは、移動のしやすさです。比較的堅い材の中を少しずつ坑道(トンネル)を掘って進むのと、軟弱なフレークの中では圧倒的にフレークの方が簡単に、短時間に、長い距離を移動することができます。幼虫同士が出くわす可能性も高くなると思いますので、あくまで暫定的なものとしてとらえ、長期にわたる飼育は控えたほうがいいと思います。
 材が堅くて困った方は一度お試し下さい。材を割らずに幼虫が取り出せるのでこれは楽ですよ。


積算温度について

 積算温度の定義は、ある期間の日平均気温が基準温度(目的により異なる)を超えた分だけ取り出し、合計したもの。農作物、植物の結花、栽培限界などの目安になる、と「大辞泉」では定義されています。例えば、桜の花に例えて考えてみましょう。

 ここで仮に桜の花の 基準温度を6℃、積算温度を50℃ とします。

 計測を2月20日から行うこととし、1日の平均気温が6度を超えた日は、その超えた日の気温を0から足していく事とします。そして、毎日、平均7℃の日が続くと仮定すると、1+1+..と加算していくこととなります。そしてこの値が積算温度の50℃に達したあたりに桜の花が開花するということになります。よって、上記例では、4月10日あたり...と見ることができます。

 オオクワガタにもこの積算温度たるものが存在し、♂で○○℃、♀で○○℃に達したら前蛹モードに突入するという仮定が成り立つのではないかということです。但し、上記例とは違い一般に計算されている方法は、1日の平均気温をそのまま加算していく方式です。仮に11月全ての日の平均温度が22度としたら、30×22=660℃、ということになります。では、基準日はいつからか? それは3齢に脱皮した日からカウントとする考え方が基本となっているようです。一般に羽化まで♂70oで5500℃前後、♀45oで4500℃前後といわれています。

 しかし、過去の飼育例はで大幅に数字を突破することがありました。

      例1(♂26g)  例2(♂22g)
 孵化時期 98年9月下旬  98年12月中旬
 3齢加齢 99年2月上旬  99年 3月上旬
 積算温度  約10000℃   約9500℃   (2000年8月10日時点)

 双方ともその後死亡(3年近く幼虫で生活)しましたが、積算10000度をラクラクと達成しました。ここまでくると一種の病気のようなもので、ホルモン異常を来していたのかも知れません。積算温度では説明の出来ないケースもあるのです。

 私はあまり積算温度を意識していませんが、関心のある方はまず1年間、日々のデータ(温度と幼虫の成長度合い等)を取ってみて下さい。記録に残すことによって、数字がはっきりと見えてくるようになります。積算温度を低く長く積み立てていくことが大型クワガタ作出のカギを握っていることは間違いないでしょう。


園芸用温室を利用した温度管理のテクニック

 温度管理下では、ある程度自分の意のままに温度をコントロール出来ます。ということは、ある程度自分の意のままに幼虫の成長速度をコントロールすることができるということになります。本ページでは、園芸用温室を利用した温度管理について述べてみようと思います。

 冬期の温度管理においては、「エアコン」と「園芸用温室」が使用されていると思いますが、この園芸用温室は意外と知られていないこともあるようです。どこで売っているのか? 何を揃えればよいのか.....等。

最低でも以下の3点は必ず必要です。
 ※園芸用温室(アルミ製フレームが多い)
 ※プレートヒーター
 ※サーモスタット
さらにデジタル温度計があれば便利です。
温室内、外の温度を計測可能。
最高最低温度をメモリー可能。
(ヒーター&換気扇サーモ)

ヒータサーモは必須です。
換気扇サーモは無くても可。
アナログ温湿度計

温度と湿度を計測可能。
これ1個でも充分です。 

 これらは全てホームセンター等で揃うと思います。ただ季節商品であり、10月から年末にかけてが品揃えのピークです。春から夏には展示されていない場合が多いです(季節的に当然。一般の需要ではまず陳列しても売れません)。
 ショップにもよりますが上記3点セットで30,000円くらいでしょうか? 運が良ければ「在庫処分」として破格値で購入できることもあります。実際、写真の温室は20,000円でお釣りがきたと思います(温度計は含まず)。

 まず、熱源である「プレートヒーター」(以下、ヒーター)ですが、温室の容積に応じた出力のものを購入する必要があります。温室の大きさに比べて出力が小さいと内部全体が温かくなりません。大抵、温室の底部の大きさに応じてヒーターが作られていますので、小さい温室に大きい出力のヒーターを設置しようとしてもサイズ的に収納できない場合が多いので間違いはないと思うのですが、購入の際には確認が必要です。ヒーターの出力は200数W〜500Wくらいです。
 次にヒーターに必ずセットしなくてはいけないものが、「サーモスタット」(以下、サーモ)です。サーモが無いとヒーターは常時通電状態となり、加熱して温度が50℃以上にもなります。サーモに基準温度を設定することにより、センサーが働いて温度をコントロールするのです。
 そしてデジタル温度計です。出来ることなら最高・最低温度(0.1単位)のメモリー機能が付いたものがベストです。日々温度を記録することにより、ヒーターやサーモが誤作動することなく動いているかを知ることが出来ます。デジタル温度計の温度センサーは、サーモのセンサーと近い位置にセットすると正確な温度が記録できます。
 もう1個のアナログ温度計は温室底部にセットします。出来ればデジタル式をもう1個..といいたいのですが、デジタル式だと1個2000円以上するので、ここはアナログでも十分だと思います。写真のものはアナログでも「湿度計」が付いた贅沢なものです。これを温室底部に置くことにより、温室内の上部と底部の温度範囲を知ることができます。(一般に、ヒータに近い底部付近の温度は上部より高くなります)

 温室内の温度の特性、容器の置く場所について

 最近は温室の品質もよくなり、発熱体(ヒーター)を制御するサーモは電子式のものが多くなってきました。センサーの性能も良くなったので、限りなく設定した温度の範囲内で温室内温度が保てるようになっています。しかし、下部にヒータを設置する構造上、温室内の温度は最上部と最下部では最大3〜5℃程度の温度差が発生してしまいます。実際に温度計を複数設置するとわかることですが、ヒーターに近い下部は温度が高く上部は低くなります。もし、温度を関知するセンサーの位置が上部にセットしてあり、仮に25℃に設定していたら下部付近では30℃を越えている可能性もあります。
 温室内で温められた熱は下から上に移動します。熱は上昇と共に冷却されながら全体を温めていきます。下部は常にヒータの熱を直接受けていることと、ヒーターへの通電が切れたとしてもヒーターはしばらくそのまま熱を放出し続けることにより、常に下部の方が温度が高い状態となるのです。(これを解消する手段としては温室内の空気を攪拌させる装置がオプションで販売されていますのでそれを付けたらかなり改善されると思います)
 環境温度に差が出てくると、飼育容器内部の菌床やフレークの温度も数℃の範囲で変化するはずですから、成長にも微妙に影響が出てくると考えています。そして、この温室の特性を利用して飼育容器をローテーションすることも大切となってきます。具体的には、若齢時や3齢の成長期、前蛹から蛹においては比較的高温の下部に置いて、2齢や3齢の成熟期には上部に置いてじっくりと成熟させる...という方策をとるのも一つの方法です。 

 例えば、初齢〜2齢初期 25〜26℃ 最初は沢山活動させ、エサも沢山食べさせる。
     2齢中期〜後期 18〜20℃ 少し活動量を落とす。
     3齢初期    25℃    沢山エサを食べさせ活発に活動させる。
     3齢中期    20℃    3令脱皮後、40日前後から温度を下げる。
     3齢後期    18℃    じっくりと成熟させ、蛹化を少しでも遅らせる。
     前蛹期     24℃〜   蛹室を作り始めたら一気にヒートアップ。
     蛹期      24℃〜   30℃を超えたら逆効果。最悪死亡することもあり要注意。

                    ※注意 温度の範囲はあくまで目安です。

 ポイントは何といっても3齢中期〜後期にかけてでしょう。この時期に意図的に温度を下げ蛹化を少しでも遅らせて、じっくりと成熟させることが「美形の超大型個体」作出の秘訣のひとつであると思っています。幼虫の成長ステージ毎に微妙に環境温度をコントロールすることにより、しない場合よりも確率的に大きな幼虫にすることが出来ると思います。(但し断言は出来ません)

 幼虫のステージ毎に温度コントロールすることは完全に少数飼育向けです。数100単位を扱うようになった当ショップでは年間通じて夏期25℃前後、冬期18℃程度で一定管理しています。数100になると個々の成長度合いの差が大きく個別の対応が不可能だからです。その為、一年未満で蛹化するケースが多く超大型はほとんど期待できない結果に終わっています。