菌床飼育編
◆菌床飼育情報@− 菌床飼育とは

「菌床」とは、クヌギやナラなどの広葉樹を細かくチップにした「オガクズ」に添加剤(栄養素)とキノコ菌を接種し人工的に培養したもの。この菌床で幼虫を飼育すると高確率で幼虫は大きくなります。しかも、成長速度も早めるので短期間の飼育で大きな成虫を得ることが可能となります。(ごくまれに、成熟ばかりが速まって全然大きくならない個体もあります)
 では何故大きくなるのか? その理由は、キノコ菌は材(オガクズ)を適度に分解し菌糸に栄養分を蓄積する能力があるのです。そしてオガクズ全体に蔓延した菌糸の部分と、分解されて消化・吸収しやすくなったオガクズの部分を幼虫が食べることにより大きくなるのです。
 しかし、管理を誤るとフレーク飼育では考えられないような失敗をするケースも数多く出ます。全てが良い点ばかりではありません。大型成虫を得られる可能性が高い反面、羽化不全や死亡率が他の飼育法と比較して高い傾向があります。以下、簡単に長所・短所を列記します。

長所 短期間に幼虫を大きく出来、結果的に大きな成虫を得られる。
   菌床の内部の栄養状態をある程度一定に保持することが出来る。
   同じもの(菌床ビン)を短期間で一度に大量に作ることが可能である。
   材飼育などの当たり外れがほとんどない。
   菌糸がビンの中の環境をコントロールしており、雑菌等の悪影響を回避出来る。

短所 羽化不全の確率、幼虫の死亡率が他の飼育法と比較して高い傾向がある。
   温度管理が必要であり、温室、エアコンなどのコストがかかる。
   培地の状態(菌糸の衰退による劣化等)により、羽化までに数回のビン交換の必要が出てくる。
   場合によってはエタノールによる消毒が必要で面倒さがつきまとう。
   菌床のコストがフレークと比較してやや高く、特に大型♂には大きい菌床が必要である。

 まだ、これ以外にもあると思いますが、何と言っても超特大オオクワガタを作り出すことが出来る可能性を秘めている点にひかれてしまいますよね。けど、ここでよく考えて下さい。実際、菌床飼育はフレーク飼育と違って、その扱い方や管理方法において異なるところが多いのです。
 以下、管理の方法について簡単に書いてみますと....。

 使用前、使用中に関しての注意事項

 ※飼育中の環境温度を18〜25℃前後の範囲で保つ事が必要。温度管理が必須となります。
  高温すぎると菌床の劣化を早め、低すぎてもキノコの発生等、同じく劣化を早めることとなります。

 ※キノコが発生すると培地の栄養分を吸い取ってしまうので速やかな処置(キノコの摘み取り)が必要。
 ※冷蔵庫で保管していたものを取り出してすぐに使用しないこと。2日間程度は慣らすことが必要です。
 ※原液でのエタノール消毒はオオヒラ菌をも殺菌する恐れがあります。倍に薄めて使用は控えめに。
 ※急激な温度変化をさける。幼虫にダメージを与える他、キノコが発生する原因ともなります。
 ※ガラス製の菌床ビンを多数取り扱う場合、温室等の棚が耐えられる積載重量を考慮しましょう。
 ※その他。

 保存・保管に関しての注意事項

 ※フィルターやキャップをきっちりと締めて雑菌が混入しないようにします。
 ※すぐに使用しない菌床は冷蔵庫か10℃前後の冷暗所に保存しましょう。
  管理が適切であれば、8ヶ月程度は保存できます。
 ※冷蔵庫に入れていてもキノコが生えることもあるので油断しないようにしましょう。
 ※その他。

 以上のことを踏まえ、特大オオクワガタ誕生!にチャレンジして下さいね。


◆菌床飼育情報A− 菌床投入時期の判断

菌床飼育については理解出来ても、その菌床の中に何時、材から割り出した幼虫を入れたらいいのかその時期がわからないとおっしゃる方も多いと思います。私見ですが、初回投入時期に関しては何も初齢からでもなく2齢からでも充分だと思います。ただ、最近のレコードクラスの成虫を作出した方々は、割り出し直後の初齢(1齢)で投入されていることが多いようです。
 私の持つ知り得るデータの範囲ではありますが参考例としてご紹介します。尚、お客様が当ページをご覧になられて飼育した結果において幼虫が死亡等の事態になったとしても、私の責任ではございません。ご自身のご判断のもと行って下さい。

 初齢で投入する場合に注意すること。

 ※孵化して間もない幼虫のエタノール消毒は危険。(幼虫へのエタノール消毒は無意味です)
 ※低温下では活動力低下により菌糸に巻かれて死亡する可能性があるので注意する。
 ※環境の変化について行けずに死亡する可能性がある。
 ※小型の菌床カップでも1g以上のものでもかまわない。(この点はブリーダーの意見の分かれるところ)

 2齢で投入する場合に注意すること。

 ※脱皮前後の時期は避けること。
 ※出来るだけ2齢でも前期の投入を心掛ける。3齢加齢に近づくほど菌床飼育の効果が薄れる。

 3齢で投入する場合に注意すること。

 ※3齢初期ではそれなりの効果が得られますが、成熟期以降では全く効果が期待できない。
  菌床本来の効果が得られないので、行わないのが得策。(特に♀の場合)

 その他、注意事項。

 幼虫は生き物であるゆえ、本来持つ素質やその成長速度は違って当然です。菌床に投入後、1ヶ月で3齢になる幼虫がいれば、3ヶ月経っても2齢で加齢が止まっていることもあります。菌床の白い部分が少なくなってきた場合や、菌床の劣化が著しい場合は、2齢になるのを待つまでもなく菌床の交換が必要になります。(通常、余程のことが無い限り比較的短期間で加齢すると思いますが...)

 幼虫の♂♀の区別、個体の大きさによって菌床ビンの大きさ(特に内径を重視)も考えましょう。850tを使用する場合、特に大型に成長した♂幼虫では、羽化時に必要な大きな蛹室が作れないことがあります。羽化時の推定体長が70oを超えると思われる場合は、出来るだけ内径の大きいサイズの菌床(1100t、1500t)を使用しましょう。尚、ビンを横に置く方法もありますが、幼虫がこちらの意図を理解してくれるとは限りません(が、少しは効果があるようです)。
 尚、最終的な幼虫の体重が25g以上ある幼虫は、羽化すると75oオーバーとなります。このクラスになると1500t以上を使用された方が無難だと思います

 幼虫の投入時期は、幼虫個々の資質等の問題もあり、どの時期がよいのか一概にはいえないと思います。出来ることなら十分に成長した2齢での菌床投入をお奨めいたしますが、初齢で投入しても管理が適切であれば2齢から投入するよりも好結果が得られる確率が高くなることは間違いないようです。


◆菌床飼育情報B− キノコの処置について

菌床飼育をしていると、突然キノコが生えてきたり、ビンの側面にツブが出たりと、フレーク飼育では見られないような現象が発生します。初心者の方からみると、キノコが生えただけでもう劣化が始まった..と思われる事も少なくないと思います。私も当初はオロオロしてばかりでしたから ^^;

 考えられる現象としては、以下のようなものでしょうか。

 ※ビン側面にらしきものが出てきた。(下図左)
 ※ビン側面の
が伸びてきた。(下図中)     ※左、中とも「発芽現象」です。
 ※ビン上部に
キノコが生えてきた。(下図右)


 いずれの場合も菌床の劣化ではなく、また急な劣化につながるものでもありません。発芽現象についてはあまり神経質にならないようにした方がいいと思います。

 一方、発芽を通り越して、太いキノコを伸ばすこともあります。

 菌床飼育を行っているとキノコの出現は、いわば当たり前のことなので別に驚くこともないと思うのですが、夏を越した菌床は、ウルトラ級のキノコを出すことがあるので注意して下さい。ご覧のように側面にへばりつくように生えています。もはや発芽というレベルではなく、キノコそのものです。厚さ5〜7oの分厚いものです。
 詰め替え後7ヶ月が経過した熟した菌床です。3月に詰め替えて冷蔵庫に入りきれなかったものを床下収納庫に保管して10月から常温下に置いたものです。発芽の原因は室温の寒暖差が刺激となったこと、真っ暗な環境から光が当たるようになった光の刺激が考えられます。

 熟成の進んだ菌床ほど発芽しやすい傾向がありますが、新しい菌床でも諸条件が揃うと発芽します。他のページでも言及いたしましたが、実飼育下で発芽ゼロを実現することは不可能です。
 キノコが生えたり、側面に芽が出たりするのはキノコが子孫を残そうとしているからです。これらの現象は菌床飼育の宿命ともいえるでしょう。回避は不可能です。例えば、シイタケは春と秋の2回収穫できるのが普通です。これは気温が関係していてキノコの発芽・成長の条件を満たすと一気に生えてくるのですね。
 クワガタ飼育用の菌床も、広葉樹のオガクズに栄養素としての添加剤、水分を加えたものにキノコ菌を(多くはヒラタケ系)接種して一定期間培養・熟成されたものがみなさまのお手元に届けられます。狭いボトルに詰め込まれてはいますが、中には生きた菌が蔓延しています。これらは気温、湿度、刺激、他等の条件がいくつか整えば100%の確率で発生します。
 

 キノコが生えても材飼育の場合はそんなに神経質にならなくてもOKですが、菌床の場合はそうはいきません。特にボトルの上部に発生したキノコは上部の空間から酸素の供給を受け、また培地の栄養分を吸収して急成長することがあります。場合によっては、フィルターを塞いでしまう(上図右)こともあるので注意して下さい。発生後、早めにピンセットやスプーンなどで切除しないと、キノコが腐敗したり、培地の栄養を吸い取ったりと良い事がありません。(スプーンで削ると、それが刺激となりキノコの発生が促進されることがあります。面倒ですが、ピンセットで摘み取るのが良いと思います) 

 温度管理が必要なのは、このようにキノコの発生への対策もあるからです。温度を18〜25℃の範囲にセットするのは幼虫の活動を活発にさせるだけではありません。キノコの発生を抑える必要もあるのです。一般に最もキノコを出す温度は10℃〜17℃前後ではないかと私は見ています。このような温度下では新しい菌床でもキノコが発生します。菌床の説明書にも記述されていますが、冷蔵庫に入れるのは菌の長期保存の他、キノコの発生を防ぐのも目的なのです。(但し、冷蔵庫に入れてもキノコが出る場合もありますので油断しないで下さい)


◆菌床飼育情報C− 菌床交換のタイミング

菌床を交換する場合は次のケースが考えられます。

幼虫が白い菌糸の部分を食い尽くす手前か、ほぼ食い尽くした時。

 幼虫の大きさに対して菌床ビンが小さい場合や3齢の成長期などでは、菌糸が衰退する前に、そのほとんどを食べたり、壊したりするので、おのずと交換時期は察知できると思います。菌床に投入後、坑道を掘ったり幼虫自身の出す排泄物やバクテリアの影響、また、菌床自体を食することにより、白い菌糸の蔓延した培地は次第に失われていきます。幼虫は、少しずつ新しい部分を食べ進んでは行きますが全体をくまなく食するということは少ないようです。白い菌糸の生きている部分が無くなると、培地は黒く変色し培地そのものの栄養も失われて行きます。実際よくあるケースとして、まだ中〜上部に白い部分が残っているのに黒く変色したビンの下部から上がってこない(食い上がり)ことがあります。こうした状況下で飼育し続けると成長が鈍るばかりか、逆に縮む場合もあるので注意して下さい。観察して、食い上がる様子がなければ、幼虫の成長ステージを見極めた上で交換する必要もあります(但し、幼虫の大きさに変化が見られない場合はそのままでもよい)。

菌床の劣化が進みカビや雑菌の繁殖が見られた場合、培地が泥状になった場合。

 菌床は管理が適切であれば、常温(20℃程度)下でもある程度の状態を保つことができます。しかし、幼虫投入後は、時間の経過とともに劣化が発生します。劣化が始まると急速に培地の状態が悪くなりますので注意して下さい。交換の目安は投入後、30日〜90日あたりでしょう。劣化が進んだ培地の中は、当然のように幼虫にはよい環境とはいえませんので、早急な交換が必要となります。

羽化までの日数を逆算し、前蛹〜蛹時において菌床の衰退が予想される場合。

 菌床飼育で必ず計算しておかねばいけないことは、良く言えば菌床の「持久力」、悪く言えば菌床の「寿命」です。現在の菌床が幼虫の羽化まで、水分過多となったり劣化しないかどうかを見極める必要があるということです。現在は正常でも、蛹室を作り出した頃には劣化が進んでいることもあるのです。蛹室内が水分過多の状況になると羽化不全などの危険が増大します。現在の状態は良くても1ヶ月後も良いとは限らないのです。
 前蛹期間約20日+蛹期間約25日と、現在の状態から前蛹までの××日を加算し、その期間中に菌床が良い状態でいられるかを計算する必要があります。菌床交換の時期は、日々の観察をしっかりと行い適切な時期に行って下さい。特に夏場に3齢後期〜蛹となるサイクルの場合は注意が必要です。
 この辺の見極めはある程度の経験が必要になるかとは思いますが、ポイントとしてとらえておきたい事の一つだと思います。


◆菌床飼育情報D− エタノール消毒について

菌床を購入された時、大抵「菌床取り扱いマニュアル」が付いていると思います。それらはメーカーさんの作成したもの、ショップが独自に作成したものに分かれると思います。そのマニュアルの中には、必ずといっていいほどエタノール消毒という字句が記載されています。そのエタノールとは一体何なのでしょう。
 私の所持している「消毒用エタノール」のラベルに記載されている内容を抜粋してご紹介すると、

 効能・効果  手指、皮膚の消毒用、手術器具の消毒..他。

 使用上の注意 原液は刺激作用があるので経口投与しないこと。過敏症、発疹などの過敏症状が現れることがある。
        皮膚刺激症があらわれることがある。火気に近づけないようにする。  他

 抜粋ですが以上のようになります。エタノールの持つ殺菌消毒成分を利用して、幼虫をビンに詰める際の容器やフタ、空気中の雑菌消毒に利用します。菌床は、雑菌やカビに対して弱い面があり、場合によってはすぐにカビが繁殖したり雑菌に負けて劣化してしまうことが少なくありません。多用はよくありませんが、菌床飼育をする場合は備えておくのがいいと思います。
 
 私が思う雑菌感染・混入ルートはおおよそ次の通りです。

 ※幼虫投入時や菌床ビンのフタを開けた時の空気中の雑菌。

 ※幼虫の体に付着している雑菌(材割り、フレーク飼育時)
 ※フィルターやキャップの隙間。
 ※詰替用菌床ブロックからビン詰めの際。その他。

 通常は工場で菌糸ビンを製造後、ビン全体に白く菌糸が廻った状態でお客様にお届けされます。この状態が一番安定しており、菌糸の活動も強く雑菌が混入してもさほど問題ありません。例え、青カビなどが発生しても一部分にとどまり、全体に蔓延することは少ないと思います。もちろん幼虫は少量の青カビ程度なら問題ありませんし、そのまま食べてしまいます。
 一方、工場での製造と異なり、菌床ブロックと呼ばれる商品から個々へのビン詰めを行う場合は、詰め替え時に空気中の雑菌を取り込む可能性が高くなりますし、事前に容器類や手袋の殺菌、空気中の殺菌など、エタノールを使用することが多くなります。
 1本ずつ機械詰めされた菌床商品より、ブロックから詰め替えたほうが経済的ではありますが、その分、リスクを負うことをご理解下さい。初心者の方はなさらないほうがいいと思います。

 以上をまとめると次のようになります。

 既製品(機械詰め)の菌床の場合・・・ほとんどエタノールは使用しなくても問題ありません。
 手詰めの菌床の場合・・・・・・・・・菌糸が完全に廻ったものをご購入される場合、既製品と同様です。
 自ら手詰めして菌床を作成する場合・・詰め替える容器、器具、手袋等の消毒にエタノールは必須です。

 また、幼虫に対するエタノールの使用は、私個人の考えでは否定的だと申し上げておきます


菌床飼育情報E− 菌床の劣化の見極め

 菌床飼育の場合に遭遇する現象としては、既にご紹介(製品情報等)した通り、培地の「劣化」です。劣化が起こる原因としては幼虫が食べた部分や菌糸が衰退して黒くなった部分が増えることです。菌糸が生きているときは水分をコントロールしていますが、死滅すると培地に含まれていた水分が放出され、結果として泥状となります。この状態が「劣化」というものであって、発芽したりキノコが生えたり、菌糸皮膜が黄色、茶色系に変色するのは劣化ではありません。劣化というものは、菌糸が衰退し白い部分が失せ黒く変色してキノコの発芽ができなくなった(菌糸の死滅)状態のことをいいます。私は、少なくともそう解釈しています。
 下の写真をご覧下さい。
 左の写真は側面から見たところ、右の写真は上部から一部(左側)の菌糸皮膜を取り除いたものです。明らかに、「これは劣化じゃないの」と思われる方もいらっしゃると思います。確かに側面写真や、上部から見たものでは赤茶けているしキノコは生えているからそうかも知れません。しかし、皮膜を削っ左半分の培地はまったくの「クリア」です。黒く見えるものは「蛹室」の一部ですが、他の部分には白い菌糸がまだびっしりと生えています。
 これらのことからおわかりと思いますが、「赤茶ける現象」はそのほとんどが外側の部分に留まり、内部は汚染?されていないということです。内部の菌糸はまだかなりの部分が生きていますから、当然、エサとして十分に使用できるのです。程度にもよりますが、菌糸の部分には材をほどよく分解した栄養分がたっぷりと含まれています。多分、新品の菌床よりも材の栄養分の蓄積量としては勝っていると思います。見極めが大切かとは思いますが、外側が多少赤茶けても内部は影響を受けていませんのでそのまま交換せず幼虫を飼育し続けることをお奨めいたします。ただ、さすがに蛹化前にこの状態だと羽化にも影響するかも知れませんので交換するほうがいいと思いますが、交換時期を逸して前蛹期に入ってしまっても私はそのままにしています。


 上記のデータは5月に羽化し、夏を常温で管理。10月上旬に取り出した時に撮影しました。投入してから既に7ヶ月程度過ぎているので、通常の飼育ではあまり考えられない菌床の使用期間ですが、高温にさえ置かない限り、あと2ヶ月はエサとして使用できると思います。 


 では左の写真の全体が黒いボトルのものは? そう、これは間違いなく劣化です。黒い部分と茶色い部分がありますが茶色い部分はペースト状になっているようです。このような状態になるまで放置してはいけません。羽化不全や培地が水分過多となり、底部に蛹室を作った場合は酸欠する可能性が高くなります。

 側面が白くても内部は食して黒くなっていることもあり、見極めには難しいところがありますが、全体の7割程度菌糸の白い部分が無くなった(食した)状態が交換の目安です。

 実飼育下では、早め早めの交換が好結果を得ているように思います。


菌床飼育情報F− 菌床内部の酸欠

 菌糸の活性化による酸欠例

 冷蔵庫に保管していた場合やクール配送など冷やされた状態から常温下に戻してご使用する場合はご注意下さい。菌が眠っていた状態から活動状態(一般に活性化という)となります。この場合、通常状態より多くの二酸化炭素が排出されます。結果、オオクワ幼虫が酸欠する可能性が高くなります。ご使用になる前に常温下に2〜3日置いた後、投入することをお奨めいたします。

 菌床ボトルが逆立ちした画像が登場しましたが、これには理由があるのです。

 菌床は、オガクズにキノコの菌糸を植菌して培養させたもの...とご紹介しました。菌糸も立派な「生き物」です。生き物ということは「呼吸」をするということです。ただ、通常の植物と違って異なる点があります。それは「酸素を消費して二酸化炭素を排出する」ということです「ふーんそれがどうしたの?」と思われる方、要注意です。オオクワ幼虫も酸素を必要としています。そして菌糸も酸素を必要としています。酸素の量が十分で、かつ菌糸の酸素摂取量がオオクワの酸素摂取量を下回っていたら問題ありません。しかし、菌糸の活動が活発な時は大量に酸素を消費しているので注意が必要です。そう「酸欠」の恐れがあるのです。酸素を消費するのと同時に二酸化炭素が排出されます。酸素と二酸化炭素の比重は後者の方が重く、ボトルのような密閉した構造では内部の下部に特に溜まりやすくなります。通常、上部フィルターからは新鮮な酸素が供給されていますが、下部までには行き渡るまでに菌糸に奪われるかも知れません。結果内部の二酸化炭素濃度が増して、酸欠の恐れが出てくるというわけです。複数の幼虫を菌床飼育していると、その中には必ずといってもいいほどボトル上部に坑道を掘って居座っている幼虫が出現します。単に上に出てきているだけなのかも知れませんが、下部が酸欠気味で苦しくて上がってきている場合が多いのです。

 その解決策として実行されているのが、ボトルを逆さまにしておくという方法です。前述の通り、二酸化炭素の比重は酸素と比べて重いのですから、これならフィルターを通して排出されるはずです。私はは2日程度逆さまにしています。きちんとした測定器を使用したわけではありませんので、どれくらい励行すれば二酸化炭素が抜けるのかは不明ですが、酸欠を防止するための有効方法であることは広く知られています。
 ただ、坑道を掘ったり菌糸を食べたりすることによって、生きている菌糸の部分が減ってきますから時間の経過共に酸欠は解消される傾向にはあります。このことから、投入初期段階が最も注意すべき時期となると思います。

 他に酸欠防止策としては、幼虫が潜りやすいように菌床中央に「ほぼ底部まで届く穴をあける」ことがあります。その穴の中に幼虫を入れるので穴は塞がりますが、壊された菌床組織の空間に新鮮な酸素が入り込んでいるので、少なくとも投入直後の内部が酸欠状態になることは少ないのです。いずれの方法も簡単に出来ることなので是非参考にして下さい。

 通気穴閉塞による酸欠例

 菌床ボトルの上部には呼吸のための通気穴が開いています。フィルター(写真では水色)は蓋の内部にセットされていますが、その構造上危険なこともあります。その危険とは通気穴が塞がれることで発生する「酸欠」です。ある条件が整うと簡単に発生します。

 写真をご覧下さい。終齢幼虫が上部まで完全に上がって来ています。菌床飼育でこの状態が見られたら内部は酸欠状態となっていると判断して下さい。酸欠の原因は、上部に伸びたキノコが通気穴から蓋の内部に侵入し、結果、通気穴を塞いでしまったからです。発見が遅れたら酸欠死していたと思います。キノコが上部空間に発生したら必ず摘み取るようにして下さい。

 インターネット系ショップでは、菌床の販売の際「初心者でも安全・簡単」等のアナウンスが見られますがご注意下さい。850〜1000ccの菌床製品は写真のキャップの構造を採用しているものが殆どです。いつあなたの幼虫に発生しても不思議ではないのです。飼育年数を重ねたベテランの方なら周知のことですが初心者の方は、まさか...といった感じでしょう。多分、ここまでは予測できないと思います。

 毎日の観察(大きくなっているかな、といった感じの観察)は幼虫にストレスを与え逆効果かも知れませんが、3〜4日に一度は異常がないかの観察・容器の点検は必要でしょう


◆菌床飼育情報G− 異なるメーカーの菌床併用

 菌床飼育は幼虫を大きく成長させ、結果大きな成虫を得られることは広く一般に知られるようになりました。その菌床の製造元も沢山存在し、メーカーから個人まで実に様々なところで作られるようになりました。恐らく、菌床のブランドは数十もしくは百銘柄くらいはあるかも知れません。インターネットでも沢山検索することができます。
 この沢山ある菌床ですが、幼虫に与える場合、一貫して同一メーカー製、もしくは同一製造元の菌床を与えることが良いとされています。それはオガコ、種菌の種類、水分率などの「培地」の諸条件が常に同じ環境に幼虫を置くことが良いという考えからです。
 但し、2齢の中期くらいまでの幼虫であれば、例えばA社菌床→B社菌床への交換は何ら問題ない、と思います。その根拠として2齢中期くらいまでフレーク飼育後、もしくは割り出し時に2齢の幼虫を菌床に投入し、その後菌床飼育を継続した場合、比較的簡単に70oを超え、場合によっては初齢から菌床飼育した幼虫よりも大きくなることもあります。2齢の時点で菌床の種別が変わっっても、多くの場合は影響はないということです。フレーク→菌床、もしくは材割→菌床でスムーズならば、A社菌床→B社菌床でも対応できるはずです。
 ただ、見落としてはいけないのが、菌床を交換する時どちらの菌床にアドバンテージがあるか、という点です。それは交換後の菌床のグレードが勝っていたほうがいいはずです。フレーク→菌床、材割→菌床どちらも後者の菌床が勝っていると思います。高栄養の環境下、さらに大きくなれる可能性を秘めていると思います。この考えをA社菌床→B社菌床に当てはめてみると、B社の菌床がA社のものよりもグレードアップしていることが必要だと思います。
 以上のことから、2齢時点での異なる製造メーカーへの菌床交換は、投入する菌床のグレードが勝っていた場合は問題ないと考えています。(理論的には間違っていないと思います)

 では3齢以降はどうか? 今後、考察も含めて研究したいところです。ただ一つだけいえることは、菌糸の部分が無くなり、黒い部分が多くなった、いわばボロボロになった菌床になった時点でのエサ交換は、交換前の菌床の状態が劣悪相当と判断できますので異なる製造メーカーの菌床に投入しても、環境面ではよくなるので問題ないと考えます。場合によっては、成熟が進み縮んで蛹になる準備をすることがあると思いますが、これらはエサ交換が刺激となって起こったと考えるのが妥当で、菌床の質の差に起因するというものではないと思います。

 菌床飼育で75o以上の個体を作出されておられる方は、菌床交換の際、菌床(白い菌糸の部分)の6〜7割くらいまでを食した時点での早めの交換をされておられるようです。この場合、まだ菌床そのものが白い部分を残し栄養分も残っている状態での交換となります。この場合は、環境諸条件を変えないためにも、新しい菌床も同一メーカー、同一仕様のものを使用したほうがいいということになるのです。(それでも交換後の菌床にアドバンテージがあれば問題ないと思うのですが...実際、○−potさん、○太郎さん、フジコン菌床とを→←してみましたが異常なかったですよ。)3齢以降の異なる製造メーカーの菌床交換は、交換前の菌床の状態により幼虫に与える影響がある程度決まるのかも知れません。


菌床飼育情報H− 詰替え後の環境温度が菌糸に与える影響

詰め替え直後の温度環境がどのように菌床に影響するのかを試してみましたのでご報告します。
 
 左が失敗作。右が成功作です。
 詰め替え後3週間が経過しています。

 1個は詰め替え直後から室温(最低24℃・最高35℃)に、
 もう1個は20℃設定のエアコン下で管理。


 左のカップは果たしてこれが菌床....というような姿をしています。詰め替え直後の菌床を夏期の常温下に置いた典型だと思います。
 一般にオオヒラタケ菌は「高温に対して持久力あり」といわれています。当ネットショップでもそうアナウンスしています。しかし、菌糸が廻っていない詰め替え直後は例外なく、「高温に対して弱い」ということです。菌糸を再生させるときに発酵熱を持ちますが、環境温度が高いと発酵熱と環境温度の影響を受けて菌が死滅してしまうのです。熱にやられた菌床は菌糸が殆ど再生せず、しばらく3〜5日程度は茶色ですがやがて「青・黒系」のカビが発生してエサとして使用できなくなります。
 工場で製造されたボトルタイプの菌床は菌糸が廻った状態でお客様にお届けされるので問題ございませんが、お客様で菌床ブロックから詰め替えされた場合は、菌糸が再生するまでは温度管理が必須です。特に夏場の時期は25℃までが限界です。夏場に菌床詰め替え作業をなさる場合は充分にご注意下さい。