◆フレーク飼育情報@− フレーク飼育とは


 一般に「フレーク飼育」(マット飼育と表現することが多い)とは、朽ちたクヌギやコナラなどの広葉樹を細かく粉砕したオガクズを容器に詰め、その中に幼虫を入れて飼育する方法です。最近では、朽ち木でなく生木を粉砕したフレークもあるようです。一般に良質なものほど微細仕上げや、栄養添加剤のプラスなど幼虫が摂取しやすい状態に人工的な工夫がなされています。

 フレークは自然発酵ものと人工的に発酵処理したものに大別することができます。クワガタ幼虫に与えるものは後者のフレークです。人工的な発酵過程の中で栄養添加物も混ぜられますので、栄養価の高いフレークに生まれ変わります。一般に発酵期間が長くとられたものはこげ茶色に、普通の期間でも茶色に変色します。

 フレーク飼育の方法はいたって簡単です。フレークを適度に加水したあと、ガラスや樹脂製の飼育ビンなどに堅く詰めて幼虫を投入します。堅く詰める理由としては、少しでも朽木の状態に近づけるため(木の中と思わせる)と、蛹室や坑道の崩落防止です。但し水分量により堅く詰めすぎると酸欠となり死亡することもあるので注意が必要です。飼育ビンの八分目まで堅く詰め、上部は潜り込みやすいよう軽めに詰めるのもいいと思いますが、軽く詰める場合は乾燥しやすくなるので注意して下さい。

フレーク飼育のメリット

※比較的幼虫飼育のコストを低くすることができる。
※1リットル程度の円筒飼育ブローを使用することにより、場所を取らない。
※幼虫の生育状況や蛹・羽化を観察することが可能。
※自分で添加剤を加えたフレークを自作できる。

フレーク飼育のデメリット

※♂70o以上の個体を作出するには諸条件が伴わないと難しい(現在はSP発酵フレークなど高栄養フレークの進化で変わりつつあります)。
※坑道の崩落による脱皮、蛹化、羽化不全の可能性が少し高い。
※常にカビ等の雑菌との戦いとなる。
※時間の経過とともにフレークの傷みが加速される。定期的なエサ交換が必要。
※通気穴からダニ等が進入し、中で爆発的に繁殖することがある。

 初心者の方や手軽に幼虫飼育を楽しみたい方に最適な飼育法だといえるでしょう。フレーク飼育で大型を狙うには、1年1化ではなく2年1化で羽化するようにコントロールするのも一つ方法でしょう。その理由は、幼虫期間の長い方が結果的にエサを食べる期間が長くなり、成熟期間も長くなるからです。また、高栄養の添加剤を加えたフレークを幼虫に与え、スムーズに吸収させることが出来たら大きくなります。いずれにせよ、フレーク飼育による大型個体作出のカギはフレークに混ぜる「添加剤」が握っているのは間違いありません。


◆フレーク飼育情報A フレーク交換のタイミング

フレーク飼育は孵化後は小型の飼育容器で、2〜3齢では1〜1.5リットル程度の飼育容器で行います。(一般に、円筒型のものがよく利用されています)国産オオクワ程度でしたらこのサイズで十分でしよう。しかし、孵化後は小さくても、環境が快適であれば20日前後で2齢へ脱皮し、さらに20日前後で3齢へとスピード成長することもあります。幼虫の成長に従って、容器の交換と共にフレークの交換もしますが、フレークの状態(腐敗が進行した場合など)により交換することもあります。
 一般にフレーク交換する必要があるのは、フレーク全体が黒く変色したりカビが目立ってきた場合か、幼虫のフンが目立って来た場合などです。

フレークの黒色化、カビの発生に関して

 一般に温度と湿度が高くなる夏場は、フレークの劣化や分解が急速に進みます。適温の温度管理下や冬場では考えられないことですが、1ヶ月で真っ黒になってしまうこともあります。また添加剤などの栄養素を多量に加え過ぎて劣化が早まることもあります。一応の目安としては、幼虫投入後2〜3ヶ月を見られたらよいでしょう。黒く変色したフレークは劣化と分解が進み、逆に幼虫には不適なエサとなってしまいまい、成長が期待出来なくなります。速やかに交換するようにしましょう。

容器の大きさに関して

 また、人それぞれに飼育方法があると思いますが、材割り直後は小さい容器で飼育し、ある程度の大きさ(2齢)になったら1〜2リットル容器に移していると思います。幼虫が成長してきているのに、いつまでも狭い容器のままならエサも減り、成長が期待できないばかりかストレスも与えてしまいます。早めに大きい容器に変えてあげましょう。容器の大きさは、♂は1.5リットル、♀は1リットル程度で十分でしょう。

フンの数について

 フレークの中にフンが目立ってきたら交換してあげましょう。目視で十分ですが、外側にフンが見られなくても中はフンで満たされていることもあります。注意して観察し、適切な時期に一度交換するのがよいでしょう。

フレークを交換するときの注意事項1 古いフレークの取り扱い

 よくいわれていることに「古いフレークを捨てずに新しいフレークに混ぜてやる」という表現があります。幼虫は、様々なバクテリアの力を借りて自分の住みよい環境を作っています。排出されたフンには幼虫に有用な菌やバクテリアが含まれており、これをフレークに混ぜることにより、消化・吸収しやすい形に変えて体内に取り込んでいます。新しいフレークに交換すると、バクテリアや有用菌が全く存在しないことになり、幼虫は、環境自体を最初から作り直す必要が出てくるのです。だから、古いフレークも少し入れた方がいい、ということになるのです。
 しかし、私はフレーク交換の際、状況により古いフレークは全部捨てています。フレークの傷みが少ない場合は残しますが、真っ黒になっていたり等傷みが激しい場合は全部捨ててしまいます。但し、フンだけはいくつか残しています。では、そのフンを混ぜるのか...いえいえ、実は、フンを水に溶かして作成した水溶液をフレークに降りかけるのです。有用菌の存在が大きいのであれば、その有用菌の詰まったフンを溶かして新しいフレークに混ぜたほうが、より早く新しいフレークに幼虫が馴染むのではないかとの考えからです。幼虫も自分の保有していた菌やバクテリアが最初からいるので安心するのではないかと思います。


 注釈:水溶液作成方法は少数飼育向けです。多数飼育には向きません。


◆フレーク飼育情報B 発酵、栄養添加物について

当ネットショップで販売しているフレークは、全て「自然発酵済みフレーク」です。そして、SP発酵フレークなどは栄養添加剤として人工的な栄養素を加えて仕上げられています。両者の違いは、前者が自然栄養のみ(朽木が持つ栄養分)なのに対して、後者は動植物タンパク質を筆頭に、様々な栄養素を加えている点です。効果の違いは明らかです。

 フレークはクヌギ、ナラなどの広葉樹を粉砕したものを使用しています。そして工場で発酵処理が行われて、製品としてパッケージされます。この発酵処理を怠ると後々大変です。幼虫を飼育容器に入れる際に加水してフレークを詰めますが、未発酵の材は、加水することによって発酵現象が起こります。冬期には起こりにくいのですが、夏期の高温下では簡単に発酵現象が起こります。短期間で発熱して、内部の温度が40〜50℃以上になってしまいます。当然、幼虫は死亡します。発酵はフレークだけでなく、成虫用の「埋め込みマット」でも同様の問題が発生します。その点、フジコン製のものは全て発酵済みですから安心してご使用頂けるかと思います。

 発酵の過程では、微生物の働きで有機物が分解されます。そして、その過程で熱を発します。添加剤を加えない自然発酵では比較的短期間で終わりますが、添加剤を加える場合は3〜4週間程度かかります。一度でも発酵が完全に終了した材は加水しても再発酵しないので安全です。
 ブリーダーフレーク、えのき材フレークは自然発酵済みですからそのままご使用頂くことも可能です。しかし、ブリーダーフレークの場合は、クヌギ・ナラ材のもつ自然栄養のみですから、♂70oオーバーはほとんど不可能です。しかし、人工的に「添加剤」というものを加え、発酵させることにより材の栄養分が増加します。それを食することにより添加剤を入れない場合より幼虫は大きく成長するのです。
 添加剤の種類には、ブリーダーの間で色々と試されており、バイオクレストの他に、小麦薄力粉、ふすま、プロティン、ロイヤルゼリー、その他沢山試されているようです。みなさんも独自の添加剤をブレンドされて空極の添加剤を作成されては如何でしょう。
 
ただ、添加剤の種類によっては、フレークの量に対する添加剤の量、水分量などが微妙に違ってきます。添加剤の入れ過ぎや、発酵の過程の管理に失敗すると「腐敗」し、フレークそのものがエサとして使用出来なくなる事もあります。ご注意下さい。

 以下、発酵処理方法を簡単に書いておきますが、なされる場合は、ご自身の責任でもって行って下さい。尚、結果の成否に関しては当社では一切の責を負いませんのでご了承下さい。(バイオクレストに貼り付けされているラベルからの引用)

※フレークをコンテナなどの大きい容器に入れる。
※フレークの容積に対してバイオクレストを容積比で4〜5%を加え、フレーク全体に混ぜ込みます。
※フレークの容積に対して約20%の容量の水を均一にかけ、全体に水分を馴染ませます。
※フレークを少し強めに上から押さえてから、コンテナのフタをします。この際、通気が確保できるようにします。
 数時間〜数10時間後、発熱し40℃以上の熱を出すようになり発酵が始まります。
 発酵・熟成期間は夏期(外気25℃以上)では、約2週間。春秋期(外気15℃以上)は、約3週間。
 それ以外はコンテナを電気毛布などで加温させる必要があります。
※発酵期間中は、数回は空気を入れ替える為、フレークをよく混ぜ返して再度の発酵促進を行います。
※フレークの温度が外気温近くに下がれば発酵が完了です。
 コンテナから出して丸1日程度空気にさらしてガス抜きをしてからご使用下さい。


◆フレーク飼育情報C フレークの変色、カビについて

 フレーク飼育はストック中や容器に詰め込む際に空気中の雑菌を取り込んだりするので、飼育中は常に雑菌との戦いとなります。けど、ご安心ください。結論を先に述べると、少量のカビがオオクワに与える影響は少ない、または殆ど無いというのが私の考えです。フレークに発生するカビは赤、茶、黒系統のカビが発生する事が多いように思っています。逆に青カビは前者のものと比べると少ないように思えます(菌床は青カビ系が多い)。

 カビの発生を左右するものに、幼虫の持つ環境コントロール能力があると思います。幼虫は住みよい環境作りのために自ら持つ有用バクテリアをばらまきながら坑道を掘り進んでいきます。自分の食するフレークを食べやすい状態に変えるということと、雑菌に対するバリアを作る役目を持っていると思います。
 そのバクテリアにも優劣があって、バクテリアの力が弱い幼虫のものほど、カビ等が発生する確率が高くなるのでは..と思っています。その根拠として、カビ類は最初にビン底には発生しない、もしくは発生しにくいという点です。これは幼虫による環境コントロールだと思っています。大抵、投入後はビンの底部に居座るものがほとんどです。カビは不思議とその幼虫の周辺からではなく上部付近から発生します。もっとも空気と触れている面積が違うので何とも言えないかも知れませんが....
 一方、逆に幼虫が居座っている中部、底部からでも発生するのは危険だと思います。カビの繁殖力が強くて幼虫がコントロール出来ない状況が考えられるからです。いくらなんでもカビが蔓延したフレークをそのまま与える方はいらっしゃらないと思いますが、状況を観察して全体に蔓延するようであればフレークの全交換に踏み切ったほうがいいでしょう。

写真右は、2齢で投入後2ヶ月経過した1リットル飼育ブローです。側面に赤茶色のカビが発生しています。全く坑道が見られないので、多分中の幼虫は100%死亡していると思います。当初はそんなに目立っていなかったのですが、3週間程度過ぎた頃から急に増えてきました。堅く詰めすぎたことによる酸欠か、病気にかったのかは不明ですが、この場合はカビが死亡をもたらした、というよりも中の幼虫が死亡したことにより、カビが増えたと私は考えています。
 フレーク飼育の場合、もう一つ目立つ現象が「フレークの白色化」です。(写真左)白色化する詳しい原因はつかみかねますが、木を白く腐らせる「白色腐朽菌」の影響を受けているのではないか、と考えています。フレークを仕込む時に、空気中のものを取り込んだか、もともと同菌を含んでいたフレークに加水したことによって発生したのかも知れません。実飼育例では、フレークが白色化した後、そのままの状態を長期間保ち、カビの早期発生や白色から赤、青系に変色することは確認しておりません。そして下部まで及ぶことなく、幼虫の存在している範囲までには及ばないのが特徴です。

 幼虫がカビや菌糸に感染したフレークを食べても死ぬようなことはまずありません。絶対とは言い切れませんが、可能性は極めて低いと思います。昆虫達は、厳しい自然界を生き抜くために様々な能力や知恵を親から受け継ぎ、本能として身に付けています。乾燥状態の朽ち木の中、泥状となった菌床の中でも必死で環境に適応し、やがて成虫となっていくのです。そんな適応力を持つ虫がカビ程度のものに負けてしまうことなど考えられない、と私は思っています。但し、全体をカビが覆うような状態では死亡する確率が高くなると思います。ご注意下さい。


フレーク飼育情報D 糸状菌の発生について

フレーク飼育下では、写真のようなものが発生することがよく見受けられます。みなさんもご経験があるのではないでしょうか?
 これは「糸状菌」とよばれ、字のごとく「糸状に伸びる菌」です。カビの一種です。ただこれは正式な菌の名前ではなくて、菌糸を細く伸ばす性質を持った菌の通称として使われています。オオクワ飼育下で発生する糸状菌の正式な菌名はわかりません。ごめんなさい。
 糸状菌は晩秋から冬、そして春にかけての時期に発生率が高く、真夏ではあまり見られません。糸状菌には、昆虫などの幼虫・成虫にとりついて死亡させるものもあります。その特性を利用して農業・栽培などでは有害昆虫を駆逐するために人工的に培養している例もあるようです。もちろん、オオクワ飼育下で発生するものは、幼虫に対してほとんど無害です。実際、実飼育下でもかなりの頻度で出現していますが、糸状菌が原因と考えられる死亡例は記憶にありません。糸状菌の発生した部位にも幼虫は居座っていますし平気に食べているようです。
 SP発酵フレークのラベルにも「糸状菌が発生することがございますが良い状態の証拠です」と記載されていますので、さほど気になるものでもないようです。写真のような糸状菌が発生しても、それに伴う早急なフレーク交換はなさらなくてもいいと思います。

 フレークを飼育容器に仕込んである程度の時間が経つと、フレーク自体の劣化が発生・進行します。水分が多く、環境温度が高いほど加速されます。発生する原因は、フレークに元々含まれていたものが出現したり、フレークを仕込むときに空気中の雑菌も取り込むことなどが考えられます。このように菌床飼育と違ってフレーク飼育は常に雑菌との戦いとなるのです。
 しかし、フレークに存在している菌は全てが悪いものではありません。中にはオオクワに好影響を及ぼすものもあるのです。例えば、オオクワ幼虫が自ら排出した糞に含まれている菌(バクテリア)や、SP発酵フレークに含まれているFEM菌がそうです。主にオオクワの消化吸収を助ける働きを担っている他、幼虫の住みやすい環境にするといわれています。これらは、いわば「善玉菌」と解釈するといいかも知れません。糸状菌の中には材の成分を分解する働きをするものもいますから、オオクワ飼育下に発生するものがそうであれば「善玉菌」に近いものになると思います。
 逆にフレーク飼育下で歓迎しないものに「トリコデルマ菌」があります。一般に青カビ・赤カビと呼ばれているものがそうです。トリコデルマ菌の中にも「糸状に伸びる」ものがありますから話がややこしくなりますが、これらは大抵赤、青、緑系の色をまとっているので、上記写真のものと明らかに様子が違っています。これらほぼ「悪玉菌」であり、大量に発生するとフレークが汚染され幼虫に対しても悪影響を与えることがあります。少量で有れば問題ありませんが、一部でも帯状に発生したり全体に目立つようであればフレークの全交換をされたほうがいいでしょう。
 
 菌床飼育でも安心してはいけません。菌糸が強く生きている間は雑菌に負けませんが、菌糸の衰退と共に雑菌感染の確率が高くなります。その場合は青、緑色系のカビが発生します。ご注意下さい。