産卵材・材飼育編

◆産卵・材割・材飼育関連の情報@− 産卵材の割り出し、取り出し時期の見極め

産卵材をセットしても、その取り出しから材割りに関してよく分からない..と、お悩みの方々が多いのではないかと思います。木に削った痕跡があるが、産卵しているのか? どのタイミングで取り出せば良いのか、いつ材割りすればいいのか、などですね。
 私は、♀が1本の材を削り始めてから7日前後で産卵木を取り出します。はい。産卵痕が多くても少なくても取り出します。大抵最低でも2カ所に産卵痕が付いていると思います。マットに隠れている部分を中心に産卵する事が多いものですから、全体に産卵させる為に、いわゆる「天地返し」も一つの方法ですが、1本の産卵木を埋め込む期間が長いと、結果的に産卵時期の開いた卵が存在する事となり、あとからの材割りに支障を来すと判断しています。要するに卵、1齢、2齢幼虫が一つの産卵木の中に混在する事は好ましくないと思うのです。
 7日前後という短期間で取り出す事により1本当たりの産卵数は減るかも知れませんが、材割り後は確実に同じステージの幼虫を得られるメリットや、幼虫の早期の菌床投入にもつながります。産卵材は、材の中の栄養分も少なく、長くいるほど不利となり、その後の成長に影響がでる可能性もあるのです。

 次に取りだした産卵木の保管期間ですが、これが判断に迷うところです。早く割ったら卵が出たり、孵化直後は弱く死亡することもあります。かといって、遅かったら2齢までになっていることになります。しかし、別に2齢で取り出すのが悪いというのではありません。ただ、前述の通り、大型を狙うには低齢時からの菌床飼育が不可欠です。時期が遅れれば、それだけ可能性が低くなっていきます。

 ここで産み付けられた卵の孵化までの期間を考えてみましょう。孵化は、環境温度、水分等の影響を受けます。一般的には約10日前後で孵化するようですが14日はかかると考えた方がいいでしょう。すると大体の割り出し時期が掴めて来るのではないのでしょうか。

 産卵期間7日 孵化期間14日 猶予期間6日前後 よって、保管期間は14日+6日=20日前後。

これを1齢幼虫でゲットするための「材割りまでの方程式」と名付けました。
 (室温平均28℃以上下での数値、温度が低いと孵化までに若干時間を要します)

 これにより、初日に産み付けられた卵は計27日前後、取り出し前に産み付けられた卵は20日前後が経過することとなり、かなりの確率で1齢幼虫が採れることになると思います。産卵木の1本1本の時間管理が大変ですが、初齢から菌糸飼育する場合などは、参考になると思います。

 一方、日数が過ぎているからいいというわけでもありません。材割りをするのには、幼虫が孵化しているということを見極めることも必要です。環境(温度や湿度)によって変化します。けど、観察をしていると「既に孵化してるよ」ということを、幼虫自ら教えてくれることがあります。下の写真をご覧下さい。

 材の表面に一部、中からオガクズが吹きだして明らかに白くなっている部分があります。これは孵化した幼虫が坑道を掘り進み、間違って表面に出てきたことを証明しています。内部から開いた穴を塞ぐときに詰めたたオガクズが外に出てきたのでしょう。カビたり変色して汚れている材の表面とは異なっているので、内部から出たものだとすぐにわかります。比較的柔らかい材に見られるようですが硬い材でも見られます。この現象がみられたら100%の確率で既に何匹かの幼虫が孵化しています(確信をもって断言できます)。ですから、この現象が見られたら「材割りGo!」となります。

 余程のことが無い限り、3週間も保管すれば孵化してくれています。上記方法を励行することで得られるメリットが三つありますそれは高い確率で初齢幼虫をゲットできること。早い時期に菌床、SPフレークなど高栄養エサによる飼育に移行できること(成長が期待できます)。共食いを防ぐことができることです。1p程度の大きさの初齢幼虫は少々過密気味でも坑道が交錯することは少ないですが、割り出しの日が遅れると共食いの確率が高くなります。上記産卵木の1本は直径7p程度の細木です。特に口径が細い材は、太い材(10p以上)よりも材割りを早めに行うようにしたほうがいいと思います。何故なら、材の細い太いに関係なく、1カ所の産卵痕に産み付けられる卵の数には差がない...ということです。細い材だから産卵は少ないだろうという考え方はあてはまらないことが多いのでご注意下さい。


 実際、8.5pの1g円筒飼育ブローに余裕で納まっているのだからその細さはおわかりだと思います。その細い材からでも何と8匹の1齢幼虫をゲットできました。材のサイズからすると上出来の部類でしょう。早速、SPフレークに仕込みました。
 私は、面倒ですが1本1本を材の大きさにより、1g〜1.5gの円筒飼育ブローに入れて保管しています。上記写真のものは日付が写っていませんが(裏側)、ラベル等に記入することにより、日付、取り出し日、種親など管理できます。大ケースにまとめて保管すると場所をとらず合理的かと思われますが、材1本1本のデータを記すことが難しくなると思います。また、円筒飼育ブロー容器に入れることにより、防虫効果もありますし、
なにより材の乾燥を防いでくれます。
  円筒飼育ブロー容器は、幼虫飼育だけのものではありません。使い方によっては、材の保管容器として、越冬用飼育容器として優れた機能を発揮してくれます。

 初心者のみならず、ベテランの人でも意外と苦戦するのが産卵材の「割り出し」です。初めて割り出しする人は「どこから割ったらいいの」「突き刺して幼虫を潰したらどうしよう」等、困ってしまうと思います。比較的軟らかい材はやり易いのですが、特に硬い材は神経を使いますね。ドライバーを押し当てて丁寧に樹皮をめくろうにも、硬いせいか細かく割れて作業がなかなか進まないのです。初めての人は、出来るだけ産卵材には軟らかめ(軟らかすぎても駄目ですが..)の材をセットすることをお奨めします。また、割り出しに不安を感じる人は、5センチ程度の小径の材などで何度か「練習」をされるのも良いと思います。

 割り出しの方法は、多くの方は、マイナスドライバーを利用されていると思いますが、一方、ナタで「パキッ」と真っ二つにする、ペンチで切り裂く、考古学の発掘並にハケも使用される等、様々です。私は、爪(自分の指の)とマイナスドライバー、ハケを使用します。
 まず最初に産卵痕のある場所、予め割りやすいように切れ込みを入れておいた場所、種菌を打ち込んだ穴等を中心に取り掛かり、材全体を少し剥がしてから(年輪1年分)作業を進めるようにしています。材を剥ぎ取ることで素手で持ち易くなりますし、カビやダニが付いていることが多いですし、ヌルヌルになっていることもあります。ビニールの手袋をしている方も多いと思いますかが、私の場合は素手の感覚を大切にしています。その後の作業は「神経戦」です。少しずつ、時には大胆に割って(剥がして)行きます。私の場合、1本に最低1時間はかかってしまいます。ですから、材をため込んでしまうと悲惨。

 下の写真左は、樹皮を丁寧に半分ほど剥がしたが例です。もう幼虫が作った坑道出現しています。下に剥がれている部分がありますが、こんな感じで割れてくれます(剥がしていきます)。中央は全部剥がした例です。ます。色の違いでよく分かるように、1枚取るだけで材の表面の感触は全然変わってしまいます。これなら素手でも持てるというものです。

比較的柔らか目の材は比較的楽ですよ。素手でやってみましょう。

(左・中とは違う材です)
 材の中央に大きな産卵痕があります。坑道も至る所に..
 右の写真には切断面に2カ所の産卵痕があります。
 これだけ産卵痕や坑道があると、あとの作業は比較的楽ですね。

 幼虫は材の比較的浅い部分に隠れて?いたり、時には芯の部分まで入り込んでいることもあります。絶対ここにはいない、という確証はありません。どんな材でも一番最初にメス(ナタ、ドライバー)を入れる場所を決めるのに迷うこともあります。1本1本の材の状況が異なるので当然といえば当然の話ですが、ある程度本数をこなして慣れてくると作業がスムーズに進むでしょう。ただ、いくら慣れても集中力が欠如すると作業が雑になり、幼虫を潰す回数が増えることになります。材が上手く割れなくても決してイライラせず、お気に入りのBGMなどを聴きながら落ち着いて作業をして下さいね


◆産卵・材割・材飼育関連の情報A 材の割り方、硬い材の対処方法

硬い材は四苦八苦...。私は使用しません。けど、下記の方法も....。

 硬い産卵材、口径の大きい産卵材の割り出しを比較的楽にする方法のご紹介です。下の写真をご覧下さい。何か、変わったところはございませんか? そう、針金が巻き付けてあることから想像出来ると思いますが、既にセット前に3〜4分割し、針金にてきつく巻いた産卵材をセットしています。


 既に実践されている方もおられると思いますが、ホームページ上で紹介しているところは当社が初めてだと思います。針金で巻いてもオオクワは全然気にしていません。手前の産卵材の左下部には大きな産卵痕がありますし、裏側にかけて材全体に産卵してくれています。産卵材は全部を完全分離しないで、一部でも接合した状態にして「切れ込み」を入れるのが理想ですが、なかなかうまくいきません。手斧を使用して慎重にやってみても「ズバ...」と割れてしまいます。一部でも接合した状態にすることにより、針金で巻く作業が楽になるからです。完全分離させると、ささくれが出来たり微妙なズレが生じることがあります。(針金をきつく巻くことにより解決しますが)

 材が比較的硬く大口径の材(13p)であり、割り出し時に苦労しそうだったので試験的にやってみました。写真とは別の産卵材を既に取り出して保管中なので、針金を解いたときに果たして「ポロ」っと幼虫が出てくるかレポートしたいと思います。針金を解くと当然産卵材も分離します。その境界上に坑道を掘って潜んでいた幼虫を傷つけず取り出すことが出来ると思います。ただ、材が硬いという点は改善されないので、分割後の作業は「神経戦」となるでしよう。しかし、1本の材にかかる所要時間は大幅に低減されることは確実と考えています。

 針金は周囲にビニールコーティングされ、細くて柔らかいものがベストです。写真のものは一部錆びていることからおわかりのようにノーマルなものです。(針金を巻く時はケガをしないように....)

 上記写真の産卵木を割った様子です。

 上部に2匹、下部左に1匹の計3匹が割った材の境界線上に坑道を掘っていました。針金を外してそっと割るだけで簡単に取ることができました。ただ、運良く境界上にいれば楽ですが、材の中に入っていれば効果がないかも知れません。上記の場合は、ノータイムで3匹ゲットですから上々??
 結局この材からは7匹取れました。材の太さ(12p))から考えると不作でした(針金の影響ではないと思います)。
 





◆産卵・材割・材飼育関連の情報B 材に発生するカビの処置

産卵材をセットした後、びっくりすることが発生します。そう、産卵材全体に発生するカビです。1日もすればびっしりと出てくることもあります。産卵材に発生するカビは、青・白系のカビが多いようです。

 写真はセットして2〜3日後の材です。表面に付着したマットの屑や、材の表面に青カビやカビの菌糸が吹いています。産卵木が水分を含んでいること、マットも水分を含んでいること、ケースにフタをしていること、などの要因により非常にカビが発生しやすい状況となるのです。
 カビを防ぐ方法としては、産卵木を完全にマットに埋め込むと外気と触れる面積が少なくなり、発生する量をかなり減らすことが出来ます。但し完全には不可能です。カビの発生が気になる方は、産卵木をマットに埋めることをお勧めいたします。

 カビが発生することによる成虫、卵、幼虫への影響はない、と考えています。カビが発生するのは表面だけで材の中までには及びません(絶対とはいえませんが...)。驚くことにオオクワ♀が削った産卵場所にはカビは繁殖しません。普通はカビが蔓延していくように思えるのですが、逆に消滅する傾向にあります。これは推測ですが、♀はカビを駆逐するフェロモン(抗菌物質)を放出しているのでは、と考えられています。

 けど、びっしりと生えたカビを見ると初心者の方はびっくりされるでしょうね。(私もその一人だった)日常生活ではカビ=腐り物、というイメージが付いているので、どうしても「大丈夫なのかな...」という気になりがちです。気になる方は、ティッシュでそっと拭き取ると少しはきれいになります。(カビの胞子を散らさないように、吸い込まないようにして下さい。


◆産卵・材割・材飼育関連の情報C オオクワガタの卵

材割りをしていると、「卵」が出てくる場合があります。色は白系か、クリーム色系です。
 大きさは2o前後。大型♀のものは大きく、小型♀は小さくなります。 

 卵が出てきたらプリンカップ等の小型容器にフレークを詰め、カップ側面に軽く埋めます。湿気を保ち乾燥させないようにすると有精卵であれば孵化します。ただし、全部の卵が孵化するのではなく無精卵の場合は孵化せずにそのままカビるものもあります。
 多くの場合、これらの卵は産み付けられたものの孵化することが出来ず消え去る運命にあるのでしょう。うまく受精がいかなかった無精卵や、産卵後の環境が良くなく水分を吸収できずに死亡したもの等、色々と原因により孵化できなかったことが考えられます。

 孵化前の卵を取り出すときは、必ず卵を埋め戻す際に親虫が噛み砕いたオガクズを卵の周辺に詰めておかなくてはいけません。親虫の持つバクテリアの受け渡しが行われ、幼虫の体内に取り込まれると同時に消化器官に対して大切ものとして活用されます。
 プリンカップを使用する場合は、写真のように側面に詰めると孵化の様子なども観察出来ることもあり便利です。


◆産卵・材割・材飼育関連の情報D 産卵可能な温度域は?

よく、オオクワガタ♀の産卵に関しての説明に「温度は21〜23度以上必要」とか、「6月〜8月の気温で産卵可能」と表現されているものが多いように思います。事実、当ネットショップのサイトでも同様の表現を行ってまいりました。しかし、まだ気温の低い5月でも十分に産卵できる事例を確認する度に、ある疑問がわいてきました。それは20℃以下の環境下でも普通に産卵し、17℃くらいでも産卵するということです。これでは冒頭の表現と合わないことになります。これを裏付けるデータとして、過年度には5月上旬からペアリングを開始して、既に材割で卵や幼虫を得たことがありました。5月といっても最低気温はまだ低く、15℃位まで下がる日も少なくありません。なのに、かなりの数の産卵木を取り上げることができました。
 私見ですが(毎度お得意の)、産卵行動のメカニズムには「越冬」と「盛夏」が影響しているように思います。そして、実は温度にはあまり影響されるものではなく、時期に影響されるものではないか..との仮定に達しました。(温度の影響を否定しているのではなく、それ以上に「時期」というものがウェイトを占めているという意味です)

 ここで少し平年気温について考えてみましょう。大阪で1年間で最も最高・最低気温の低い日は、1月29日前後です。そして、最も最高・最低気温の高い日は8月4日前後です(どちらも平年気温です)。意外と意識されておられる方は少ないと思いますが、8月上旬までは平年気温は最高・最低共に徐々に上昇線を描いていきます。そして、その後は1月下旬まで日々の平年気温は徐々に下降線を描いていきます。1年間では気温の頂点と底があるのですね。もしかしたら、オオクワガタは本能的にこの温度の推移を知っていて、これから夏に向かうのか、冬に向かうのか、ということまで判断しているのだと思います。
 動物や昆虫には、自然の推移に敏感に反応し様々な行動をすることは皆さんご存知のことだと思います。例えば、渡り鳥の飛来や外国でよく見られる蝶の集団移動などですね。これらと似たようなものがオオクワガタにプログラムされていたとしても不思議ではありません。種というものが代々と受け継がれてきたことで自然界に適応できる能力というものが備わっているのです。種として個体として最も活動できる時期か(もしくは時期に向かっているのか)、活動に不適な時期か(もしくは時期が近づきつつあるのか)ということも判断できるのではないか、と考えています。
 そして、真夏の30℃以上の時期を相当期間経験することにより、活動のピークということを知るのでしょう。7月〜8月までは成虫の動きや食欲、産卵数において最もパワーが発揮できる時期です。越冬後、活動を再開して真夏の最盛期までの流れは、まさに自然の成り行きでもあるのですね。ピークがあるとしたら、必ずボトム?が訪れるのです。このボトムが「越冬期」です。自分の活動サイクルがどの時期にあるのかをオオクワガタは知っているのだと思います。これからピークを迎え、十分に活動日数が得られる5月と、ピークを過ぎてまもなく越冬の準備に入ろうとする10月....一日の平均温度はほぼ同じであっても、後者の場合には気温は徐々に低くなっていきます。活動・気温のピークが過ぎたということを感じ取ったオオクワガタの取る行動は、「越冬の準備」です。これが「交尾・産卵」にとって代わることは少ないと思います。気温のまだ低い4月や5月でも産卵できるのは、このような体内メカニズム・生態プログラムが絶対に作用しているものと私は確信しています。

 以上、うまく表現できない箇所もあると思いますが、要旨はご理解頂けたかと思います。ただ絶対的なものではなく、個体の資質や環境によって差異があることを最後に付け加えておきます。以下、簡単にまとめました。繁殖プランに合わせ、最適な時期にペアリングなさって下さい。

 産卵可能な時期は、越冬後の4月下旬頃〜10月上旬頃まで。(一般飼育環境下、常温)
 最も適した時期は、6月中旬〜9月中旬まで。(夜間平均20℃以上)


◆産卵・材割・材飼育関連の情報E 複数年に渡る産卵現象
 
 ご存知のように、オオクワガタは羽化後、数年間活動する「多年生」の生き物です。一般飼育下では比較的簡単に、自然界でも諸条件が整えばかなりの確率で越冬し、翌夏に再び活動を再開することができます。ところが、この多年生の生き物であるがゆえ、オオクワガタの場合、固体によっては1回の交尾で複数年に渡って産卵を続けるものも現れるようになります。

 これを確認するため、下記条件にて実験を行いました。

 交尾時期:H12年10月(平均24℃加温飼育下)
 産卵木:1本も与えず
 越冬開始時期:同年12月
 越冬終了時期:翌年 3月

 以降、環境温度20℃にてドルクスゼリーを与える。

 この♀に対して5月初旬に1本の産卵木を与えました。もちろん単独飼育です。すると1週間もしないうちに見事な芸術的なアゴさばきで材をボコボコにしてくれました(少し取り出しが遅かった..)。 明らかに産卵行動です。頭を入れたりお尻を入れたりと産卵−埋め戻しを繰り返していました。 材割後、卵を7個確認しました。

 このように、オオクワ♀は状況によっては前年の交尾だけでも「翌年も産卵することがある」ということです。固体による産卵能力によって異なるとは思いますが、特に晩夏に交尾して十分な産卵数や産卵場所を確保できずに越冬に入った場合、その多くの固体が翌初夏に産卵を再開することが多いと思われます。

 一般飼育下において初夏に交尾させ相当数の産卵数をこなした場合、時を経るごとに数が少なくなり、やがて「タネ切れ」となります。このような場合は、腹に卵を抱えている可能性は低く、翌年になって交尾なしに産卵を再開する可能性は低いと思います。
 一方、初夏に交尾しても少しずつダラダラ..と産卵するタイプのものや、極端に産卵数の少なかった♀は翌年も継続して産卵するものが出てくるかも知れません。短命で終わる昆虫にはありえないことが、多年生のオオクワガタにはあたりまえのように発生します。未交尾の新成虫では全く問題ありませんが、前年に交尾させた「ボロ成虫」の場合は、ペアリング前に注意してください。何故なら、腹には既に「有精卵」を抱えており、♂の交尾を受け入れる必要などないからです。♂が交尾を要求しても本能的に交尾を回避する行動に出ます。怒った♂が♀を傷つけたり、チョッキン....なんて考えただけで恐ろしい話です。
 私は、昨年産卵させた♀を再度繁殖に使用する場合、小型プラケに1本の産卵木をセットした「ミニ産卵用セット」に1週間程度入れるか、通常の産卵用セット飼育ケースの中に♀だけを入れてしばらく様子を見るようにしています。
 特に晩夏にペアリングさせた♀や、前年の産卵数の少なかった♀は要注意です。ご参考にして下さい。


◆産卵・材割・材飼育関連の情報F 晩夏の産卵セットについて

 オオクワガタの産卵には「産卵用セット」として大型の飼育ケースを使用し、産卵木を数本セットしておられると思います。確かにこれがベストなのですが、期間通してずっとそのまま...というのは疑問を感じています。産卵数は最初の1本から3本までがピークで、徐々に減ってきます。1本に産み付ける卵の数も減ってきます。その傾向が歴然と判明しているのですから、状況を見極め、産卵木を減らしたり場合によっては小型ケースへの移行が最適だと思っています。

 写真は小型ケースにクヌギの産卵木を1本セットしています。ゼリーと枯葉を転がした単純なセットです。枯葉に隠れた中央部分に産卵痕があります。
 
産卵数が減り、勢いが衰えた♀にはこのようなセットで十分です。状況を見ながら取りだし、さらに産卵しそうなら1本セットします。セットして1週間以上削らなければ、その材は他の♀に与え、削らなかった♀の産卵は終了させます。産卵木のロスがなく経済的ですよ。
 尚、小型ケースへと環境が変わっても産卵にはほとんど影響はないようです。

 小型ケースに移行した後、大型飼育ケースのマットは捨てないで下さい。マットの中に幼虫がいることがあります。複数ケースをセットした方はマットを1個のケースにまとめて10月頃まで様子を見て下さい。もちろん、1個にまとめなくてもいいですが、その際はマットの表面のエサ皿、産卵木、枯葉などを取り除いてきれいにして下さいね。そのまま放置しておくと、お家の方からイエローカードが出ること必至です。
 保管中、壁面に坑道が見られたら確実に存在しています。例え坑道が見られなくても、マットを処分する際は一応中を点検して廃棄して下さいね。最低でも2齢以降の幼虫が出てきますから見落としすることは少ないと思います。

 毎年、この方法で最低でも5匹くらい幼虫を救っています。その中から♂70oクラスが出たこともあるのですよ。手間と場所を取りますが、ぜひ実践なさって下さいね。私はこれらの幼虫を「おまけ幼虫」と呼んでいます。


◆産卵・材割・材飼育関連の情報G 材飼育に有効な材とは

材飼育とは、ご存知の方が多いように、朽ち木に幼虫を埋め込んで育てるという方法です。よくある説明には、「材飼育では良い材に当たれば大型に成長する」ということを聞きますが、逆に良い材に当たらなければ好結果が得られないという事になります。では、良い材とは一体どんな材なのでしょう? 写真のようなカワラタケクヌギ材が材飼育に最適! また、産卵材に使用しても抜群の効果が出るのは間違いないでしょう。カワラタケ材はフジコンさんからも発売されており、口径サイズによる種類も豊富で、材飼育に最適なものが沢山ございます。産卵用としても是非お試し下さい。

 一般に販売されている飼育材は、そのほとんどがシイタケ栽培用に使用されたクヌギやコナラの廃材です。実際に椎茸栽培が終わって使いモノにならなくなったものですから、木材の栄養分もそのほとんどが椎茸に吸い取られてしまっています。ですから、椎茸栽培に使用された材は材飼育に使用しても良い結果が得られる可能性が低いのでは、と考えています。勿論、材の具合によっては栄養分が沢山残っている場合もあるでしょうが、確率的に低くまさに「良い材に当たれば..」の表現がピッタリですね。

 材飼育に効果があるのは、クヌギやエノキ材にカワラタケやヒラタケ、カイガラダケ菌を打ち込み、人工的に培養させて作った材や自然界で発生している同様の菌の蔓延した立ち枯れの材です。これら白色腐朽菌と呼ばれるものがほどよく材を分解し幼虫が摂取しやすい状態になっています。こうした材を使用すると大型・極太でガッチリとした個体に成長するといわれています。

 材飼育をするなら、以上の点を考慮し、少しでも好条件の飼育材に幼虫を投入するのがよいでしょう。材飼育の場合は、ほぼ常温飼育下におかれることと、幼虫に刺激が少なく落ち着いて成長・成熟するためにほとんどの個体が2年1化となります。しかも胴幅が広く大顎がガッチリした「美形」のオオクワが得られる確率が高くなります。機会があれば是非ともトライしてみて下さい。


◆産卵・材割・材飼育関連の情報H カワラタケ材の管理、セット方法

 自然界では、オオクワ♀が好んで産卵していることが知られています。カワラクヌギとありますが、クヌギに「カワラタケ」というキノコが生えたものであってクヌギの種類ではありません。カワラタケは、自然界ではどでも見られるキノコで、一般に木を腐らせる性質を持っています。キノコの色は茶系、青系、白系、緑系とあるようですが、全て同じ属としているようです。自然界では緑系(ミドリカワラと呼んでいる?)白系のカワラタケで腐朽した木にオオクワ幼虫が入っていることが多いようです。

 このカワラ材も人工培養が出来るようになり、カワラクヌギ材、カワラエノキ材としてショップなどでも見られるようになりました。けど、使用方法などについては意外とアナウンスしているところは少なく(当社もそうですね...) 「どう使えばいいの」と、いった内容のお問い合わせを受けるようになりました。
 このページでは知っている範囲、勉強した範囲ではございますが、カワラタケ材の事に関してアナウンスいたします。

 保管に関して

 基本的には、シイタケクヌギ、ナラ材と同じ取扱方法でいいと思います。湿気の少ない乾燥した場所に保管して下さい。屋外で外気に直接触れる場所、他の昆虫が侵入できるような場所はダメです。小型の材で材飼育される場合は、羽化までに必要な交換用の材をストックしておく必要があるので特にご注意下さい。

 産卵材として使用する場合

 産卵材として使用する場合は、全てにおいて従来のシイタケクヌギ材、ナラ材と同様の扱い方でいいと思います。水に浸す時間、陰干し時間、外皮を剥くのもお好みでどうぞ。但し、殺菌・殺虫処理(電子レンジなど)を施した場合、カワラタケ菌の多くが死滅しますが、何ら影響はないようです。熱処理以外の方法でとなると、長時間水没以外の方法しかありませんが100%駆除できるとは限りません。外皮周辺に居るものは水死しますが、少し内部に穿孔しているものはどうでしょうか?熱処理されない場合は、24時間は浸しておきたいものです。ただ、雑虫といわれるたぐいのものは、内部奥深くまで入っていることは少なくたいてい浅い部分に穿孔しています。外皮を剥いで食痕が見られなければ、特に大きな雑虫は入っていないと思われます。ちなみに私は面倒なので全て電子レンジを使用しています。フジコン製クヌギカワラ材は、自然下で培養されており、外皮をめくればクモ、アリ、小さな幼虫類が入っていることがあります。殺虫処理は出来るだけ施したほうがいいでしょう。

 飼育材として使用する場合

 材の太さ・長さが重要です。材質も見逃せません。材そのものがエサとなるわけですから体積が多いほど有利です。少ない(材が小さい)と交換回数の増加や交換時期の見極めなど難しい部分があります。出来ればノンストップ・ノン交換といきたいところですね。
 初令〜2齢で投入するなら全体的に材質はやや堅めがいいと思いますが、投入する場所は比較的軟らかい部分を選んであげると穿孔しやすいと思います。軟らかすぎるとすぐにボロボロにされる恐れがあります。以上のことから、幼虫を材に入れる時期にもよりますが、最低でも太さ13〜15p、長さ30p級、材質やや堅めのものが1本欲しいと思われます。フジコン規格ならカワラクヌギM〜L材、カワラエノキ太物材が必要となります。
 ええっ??30pだったら飼育ケースに入らないのでは? と思う方が多いのでは? ここからは色々と意見の分かれるところですが、カワラタケ材という特別な材を使用されるのですから、外皮を取らず、しかもマットの中に埋め込まない方法を取るのがいいと思います。理由? やっぱり材飼育は自然界と同じ状況下で行いたいものですからね。
 
一般に紹介されている材飼育法は、長さが14pにカットされたシイタケ栽培に使用された廃材しか入手できないことを想定したものです。長さ、太さなど材飼育に適した材が販売されている現在では、こうした概念を根本的に見直す必要があると思います。大きな材をわざわざ小型ケースに入る程度にカットして使用することもないと思います。今後、創意工夫され、独自のカワラ材、エノキ材にあった材飼育法というものを確立されては如何でしょうか。

 材飼育では、もう一つ考慮しなくてはいけないことがあります。それは材の「熱処理」をするかしないか、です。 材飼育は、材そのものが場合によっては3齢終期まで食べるエサとなることです。オオクワ幼虫は材を細かく噛み砕き、自身の持つバクテリアの力を借りて消化・吸収しやすい形に変えてから食べています。坑道に詰っている噛み砕いたオガクズは食べかすではなく、これから食べる、食べるかもしれない重要なエサとなるのです。カワラタケ菌糸が生きているとこれらのオガクズに菌糸が再生して材の分解を促進し、オオクワ幼虫がより消化・吸収しやすい形へと導いてくれます。こうしたオガクズを食べることによって幼虫は大きくなれるのです。
 材飼育では、このカワラタケ菌を如何に活用するかがカギです。ですから、私見ですが菌そのものを死滅させる行為、すなわち「熱処理」は絶対に行ってはいけない、と私は考えています。ということは必然的に加水・水没時間を多くとり、水死作戦しかないことになります。何か有効な手があったらご紹介して欲しいところですが...。

 材そのものの水分ですが、乾燥気味の材を好む、もしくは乾燥気味の環境でも対抗力を持つ幼虫の性質を考えると、出来る限り飛ばした状態に仕上げる必要があると思います。セット後も水がヒタヒタ、とにじみ出て来るのは如何なものかと思います。加水後、縦置きして半日程度陰干し後、切断面に新聞紙か漫画本を敷き、さらに半日から1日程度、残っている余分な水分を吸収させる方法もいいと思います。「ほとんど湿っていないな」という程度で十分だと思います。

 最後に投入する幼虫ですが、やはり♂でないと意味がないように思います。材飼育では、@胴幅の広い、A顎の長さが短い、B顎の太い成虫ができるといわれています。大きさというよりも形に現れてくるということですから♂が理想でしょう。パワフルな♀が出来ても凶暴化することが多く、あまりいいことがないと思います。
 投入時期は、判別の困難な初令からの投入は回避して、2齢以降の幼虫を投入したほうがいいでしょう。割り出し直後が理想です割り出す材(産卵用として)もカワラ材がいいのはいうまでもありませんね。エサの質や環境がほぼ同一ですからスムーズに落ち着いてくれると思います。

 具体的なセッティング方法としては、下記のようなものを考えてみました。

 ※大型のコンテナの中に砂、もしくは埋め込みマットを敷き、適度な水分を与える。
 ※煉瓦を砂、マットに少し埋めるようにセットする。
 ※煉瓦の上に材を横か斜めにセットする。砂の部分に材が触れないように調整する。
 ※蓋をして暗く涼しい静かな場所にセットする。
 ※定期的に異常がないか観察する。砂が乾いたようなら少し湿らす。
  場合によっては、材へ直接霧吹きなどで水分を与える。

 あくまで「一例」なので絶対ということではありません。他の方法もあるかと思いますので、ご参考程度に留めてください。あくまでもお客様のご判断のもとでなさって下さい。上記方法を実践され、お客様に不利益、害が生じたとしても弊ネットショップの責任ではございません。

 最後の最後...材飼育は一般に「コストが高くつく」との印象がありますが、上記例でもあるように太い材を使用することにより投資は1本の費用だけで済む可能性が高いと判断しています。2本使用しても材のコストだけ見ても3,000円もかかりません。1本で済むと材のコストは1,500円未満です。羽化までに時間を要するとは思いますが、これだけの低コストで「極太♂成虫」を作出できるのであればメリットはあるでしょう。材の中に入っている幼虫の生死、状態成長ステージが確認できないので、羽化まではつまらないものかも知れませんが、実際に取り出すときはものすごく楽しみなのでしょうね。


◆産卵・材割・材飼育関連の情報I フレーク/カワラ材を使用したハイブリッド飼育法

材飼育の良さとフレーク飼育の手軽さをミックスした飼育技法です。♂成虫を、胴幅の広いガッチリとした容姿にしてくれる可能性を含んだ幼虫飼育技法だと思っています。

 写真のケースをご覧下さい。何の変哲も無い、SPフレークを詰めたただの「重ねる飼育ビン3リッター容器」です。しかし、実は内部に仕掛けがあるのです。
 3リットル容器内には「カワラクヌギ材」のブロックを埋め込んでいます。SPフレークもガチガチに固めて、これでもか...というレベルにまで堅く詰めています。

 材飼育に関しては、私はその多くの事象について未知数ですが、ガッチリとした太い個体のできるといわれる要因として、堅い材の中を堀り進むことで大顎が鍛えられ、体内組織も強く作られていくのだという推測を立てています。ならば、擬似的ではあるのですが、堅い部分を多く含んだ環境に幼虫を投入することにより、フレーク/菌床飼育幼虫よりもガッチリとした個体が出来るのではないか..と。
 我々人間でも鍛えると筋肉が発達して太くなるように、生き物というものは「負荷」というものの影響を受けると、体の組織の一部が発達し強く大きくなれます。オオクワガタの幼虫に、この負荷というものを自然に与えることにより、強く大きな個体になれるのではないか、と考えています。フレークや菌床飼育で出来た成虫の大顎が比較的貧弱なのは、材に比べるとスカスカも同然の環境で育ったからではないか、と考えています。
 まあ、「おしゃぶり」程度であれば何の効果は無いと思うのですが、取り出す際、ブロックが細かく砕かれていれば、その容姿に少し期待が持てると思っています。気になるエサ交換ですが、エサとしての絶対量が多いので、当然「無交換作戦」に出ます。ゆっくり落ち着いての成長も期待できます。これで来夏の楽しみが一つ出来ましたね。


 ひと夏経て、中をほじって取りだしました。さて、何が出てきたか....

 側面にも中心部にもいない....死亡したのか、と思って材のブロックを取りだしたところ、食痕らしきものを確認し、中に居ると確信しましたが、問題は「羽化しているのか否か」でした。前蛹だったらごめんなさい..てな感じて坑道を丁寧に掘ること少々..ボコっと空いた穴から出ました出ました。60o半ばのサイズでしたが見事羽化していました。
 羽化時期が掴めませんので何ともいえませんが、どちらかといえば小型ですので昨夏頃に羽化していたと思います。その理由としては設置場所が夏場には35℃くらいにもなる場所だったこと、同じ場所でブロー容器で飼育していた他のグループは全て昨夏に羽化したことからです。高温下ですのでSP+カワラ材でも例外なく成熟が早まったのだと思います。温度管理をしっかりすれば70oアップも望めたかも知れません。

 このタワシ程度の材を崩していてあることに気が付きました。写真のものは側面の比較的浅い場所に蛹室を作っていましたが、少し深い場所に作っていたら出て来られなかったかも知れません。その理由として、成虫は何と尻から自分で這い出して来たのです。このことは尻を坑道方向、すなわち自分の掘り進んできた方向に向けていた証拠です。柔らかい菌床やフレークでは蛹室を大きく作る傾向がありますが、材の中はそんなに広くないようです。少なくとも自分の体の向きを変えられるほどの広い蛹室は作らないようです。
 幼虫や前蛹では頭の方向を反転させるのは容易ですが、羽化後は無理があります。脱出口となる方向に尻を向けて羽化すると、材を噛み砕く大顎を使えないので、堅い材などの場合、最悪出られないのではないか...と思いました。よく雑誌の材割りレポートなどで蛹室の中から♂成虫の死骸が出て来たとの記事をを読んだことがありますが、もしかしたら出るに出られず死亡したのかも知れません。
 あくまでも推測の範囲で、「そんなんあるわけない」と考える方が多いと思いますが、堅い材の場合はあり得るかも知れませんよ。尚♀の場合は坑道を掘るのに適した顎を持っているので、例え脱出口でなくても、蛹室から新たな坑道を掘って外部に出ることが♂よりも楽に出来るのでは、と思っています。


◆産卵・材割・材飼育関連の情報J バクテリア材の作成方法

 ノーマル産卵材を簡単な方法でグレードアップ?

 バケツに張った水の上に浮いているのはオガクズです。ただのオガクズではなく、SPフレークのそれです。SPフレークには特殊添加物やバクテリアが混合されていますのでそれらは水に溶けだしていると思われます。こうしてSPフレークの水溶液に浸した産卵木はパワーアップされ、ノーマル材と比べて理論的にも栄養価が高い材に「変身」したことになると思います。
 フジコンオリジナルのバクテリアの「FEM菌」が材に住み着き幼虫に優しい環境を構築してくれると思います。

 そして、まだ断定できませんが、水に浸した材とを比較すると「カビの発生が非常に少ない」ように思えます。普通は2〜3日程度で青カビがゾロゾロと確認されるのですが、発生が遅い傾向があるようです。カビが繁殖するにはまだ温度が低く、条件が整っていないのかも知れませんが....。

 水の量に対するフレークの量は適当にやっていますので、配合率などは決めていません。お試しになる方はお好みでどうぞ。加水後、フレークは捨てないで下さい。ザルに移して乾燥させるとフレーク飼育に混ぜて使用できます。材割り後、SPフレーク飼育への移行にはベストマッチすると思います。