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絶体×絶命 /
Desperate Measures /
Jede Stunde zählt

Barbet Schroeder

1998 USA 100 Min. 劇映画

出演者

Michael Keaton
(Peter McCabe - 服役中の凶悪犯)

Andy Garcia
(Frank Conner - 刑事)

Joseph Cross
(Matthew Conner - フランクの息子、白血病患者)

Marcia Gay Harden
(Samantha Hawkins - マシューの手術を担当する医師)

Brian Cox
(Jeremiah Cassidy - 警部)

見た時期:2004年2月

ストーリーの説明あり

何とも不思議な作品でした。めちゃくちゃ強引な筋、あの完全犯罪クラブのシュルーダー監督にしては穴だらけのプロットの作品で、出演者が自分の良さを出せないような演出。悪いのが元のストーリーと脚本なのは分かりますが、この監督はそういうものでももう少しましな仕上がりにする実力があるような印象。

スターとして呼ばれて来て、日本では主演扱いのアンディー・ガルシアも脚本が悪いのか、演出が悪いのか、本人が乗り気でなかったのか、間の抜けた演技。ですからこれだけですと、スターを使ったのに三流の仕上がりと言われそうです。役どころは職務と息子に対する愛情の板ばさみにあって苦悩する父親。ミスキャストだったのかも知れませんが、演出が良ければもうちょっと行ったのではとも思わせます。子供を思う父親としては最近チャーリー・シーンの名演技を見たばかりなのですが、シーンにやらせた方が成功したかも知れません。もっとも絶体×絶命が撮影された頃、シーンはまだデニス・リチャーズと知り合っておらず、武勇伝ばかり伝わっていましたから当時の彼ではだめだったかも知れません。

さて、そこへ颯爽と現われ絶体絶命の危機に瀕していた作品を、一流半程度の落ち込みに押さえたのがバットマン。ドイツではマイケル・キートンは評価がいいです。今では絶体×絶命と聞くと、キートンの映画と感じる人の方が多いです。彼の出番だけを拾って編集し直すと、それはそれは恐い映画になります。夢に出て来そうで、夜1人でトイレに行けなくなります。

筋が強引、それこそ無茶苦茶だという理由は以下の通り。

アンディー・ガルシア演じるコナーはサンフランシスコの刑事でシングル・ファーザー。夫人は亡くなっています。息子は白血病のために病弱。骨髄の提供者がいると息子が助かるチャンスもあるのですが、現在は絶望的。そこで同僚を誘って FBI に押し入り、息子に合う骨髄を持っている人間をコンピューターの中から探し出します。この時コンピューターに dir A などと出るのでおやっと思ったのですが、1998年の作品。この作品に出て来る PC は古めです。筋にあまり関係ありませんが。自分も警察関係の仕事をしているのに、同業者の事務所に押し入ってこういう事をするので、ここでもう目が点になる人が出ても当然。点になった人は常識があるのです。

さて、愛があれば手段は何でもというガルシアさん、息子への愛のために無理してみつけて来た骨髄提供者候補は最悪。凶悪犯で更正の兆しゼロ、ハンニバル・レクターとも似た根っからの極悪人、危険人物です。その危険さを最初の数分でしっかり表現してしまうマイケル・キートンに感嘆。それでコナーがFBI に押し入るという暴挙も一時忘れてあげる気になりました。ちょっと前、ペイチェック 消された記憶で「最初の10分ほどの間に強い印象を残さないとだめ」というような趣旨の事を言いましたが、ここはまさにキートンの功績で成功しています。

キートンは180センチにやや欠け、骨格はかなり細身の人です。主役は1人で映ることが多いので、背が低めでも困りませんが、貧弱な骨格は撮影の時どうにもなりません。ところがキートンはトレーニングをしたと見え、胸にかなり厚い筋肉がついていて、細めの腕や脚が目立ちません。脚の方は出演中ずっとズボンで隠してあるので見えません。驚いたのは脚の長さ。ああ長いと重心が上に行ってしまって、相撲はすぐ負けてしまうなあなどと余計な心配をしてしまいました。日本の男性は短足を気にする人が多いです。ズボンなどという西洋の衣服のせいです。しかし喧嘩をする時は重心が下にある方が得です。ところで足の長いキートンの演じるマッカイブは喧嘩は強いです。取っ組み合いはしないで、他の手段を使うからです。例えば頭。

腕や首には漢字の刺青があり、腕の方は「耐」と読めました。首の後ろに「舌」と似たような字が見えましたが、舌というのは変。活だったんだろうか。斜めになっていたので読みにくかったです。刺青は大ブームになり今ではベルリンでも至る所で見られます。ああいうのは本格的なやくざしかやらない、刺青=犯罪者という古い感覚の私は、キートンが刑務所で刺青を見せるシーンには納得しますが、ベルリンの町で若い女の子が刺青をしているのを見ると、やはり考えてしまいます。町中がやくざであふれているのか・・・まさか、でもあんな若いおなごが刺青している・・・などと思った時期もありました。それに日本の芸術的な刺青を知っていると、こちらで見られる刺青がお粗末に見えて仕方ありません。あんなのなら無い方がいい・・・なんて。

マッカイブは人肉こそ食べませんが危険この上ない男で、何人も殺しており、終身刑。知能の方はハンニバル並で、映画では知能指数150とか160とかいう話が出ていました。学歴はゼロに近いのにすぐ環境に馴染み、その範囲で最高の知恵を絞り、実行力が凄い。幸せな家庭などというものは全く知らないので、コナーの家族愛などは嫉妬の材料にこそなれ、理解しようなどという気持ちはゼロです。ですからコナーが苦悩していても屁も引っ掛けないという態度。持っている知能は全部犯罪に使うので危険極まりない男です。その様子を短時間に手際良く表現できるキートンという俳優、私生活でもそのぐらい危険なのかと心配になるぐらいの演技を軽くやってのけます。

私がキートンの演技に信頼感を持っているのはクローンズを見たためです。クローンズはコメディーで、筋は絶体×絶命に負けるとも劣らないくだらない筋なのですが、1人で4役をこなし、言わば4つ子の役です。原本のキートンから作られた3人のクローンズと合わせて合計4人、その1人1人の違いを実に細かく演じ分けて見せたのです。絶体×絶命は1人の役だから4分の1で楽だと言えばそれまでですが、ちょっとした目つきで恐さが出る、凄い俳優です。

コナーの方ですが、「息子を助けるために必死の父親」という言い訳でああいう事が通るのかは分かりません。私は通らないという意見ですが、コナーは図々しくもマッカイブのいる刑務所に行き、単刀直入に「お前の骨髄が必要だ」と言います。交渉人な どという映画も見てしまったので、ああいうアホな交渉法があるのだろうかと、これまた目が点になりますが、交換条件も充分に出せない状態。自分から見せなくてもいい父親の弱みを、頼まれもしないのに自分でさらけ出しています。当然何倍も頭のいいマッカイブにコケにされます。

マッカイブはこれを脱走のチャンスと見て結局承諾します。そして着々と準備。コナーの方からはまともな交換条件が出なかったのですが、マッカイブは脱走の役に立ちそうな(と観客にはすぐ分かる)、一見無関係に見える条件を通します。この準備がまた凶悪で、ちょっとした痛みは我慢。ここを見ているだけでも生理的嫌悪をもよおします。

まるでハンニバル・レクターの護送のように重装備の護衛つきで刑務所から病院に運ばれて来たマッカイブですが、手術が盲点になり、手錠をはずすなど、警察、病院側の凡ミスが続きます。準備していた物すべてを使って脱走を図るマッカイブ。ついペイチェック 消された記憶と比べてしまいました。絶体×絶命は SF ではないのですが、刑務所を出た後の行動を予想してきっちり準備してあったマッカイブは、20個もの品は用意していませんが、麻酔が効かない、発火できる、病院や付近の地理に詳しいなどいくつかの点をフルに活用して手術室から消えます。

この後マッカイブを普通に追う警察関係者、マッカイブを生け捕りにして手術を成功させたいコナー、コナーに無理に手伝わされる女医、父親より状況を冷静に見ている息子、コナーを職務規則違反で捕まえたいもののやや同情的な警部などが入り乱れて追いかけっこ。手際が悪く、現実味が無く、もう無茶苦茶。ここだけは4流映画と言ってもいいぐらいです。せっかくマッカイブに銃をつきつけることのできた制服警官を刑事のコナーが説得し、銃を手放させようとしたためドタバタし、制服警官は重傷を負ってしまうなどという、重大な責任問題の生じるような事までやってしまいます。結局建物は損壊、ヘリは空中で撃たれる、患者は全員避難、高速道路では走る方向を変えるので、あわやデッドコースターというような混乱。

だめな父親に比べ息子はましで、自分の現実を正しく把握しています。仏教的に悟りの境地で「だめなものは諦める覚悟」もある一方、マッカイブと話していて、「簡単に諦めるな、最後まで自分のために戦え」などと励まされてしまうので、賢く実行力のある少年は早速マッカイブに襲いかかり怪我をさせます。素直な子供ですねえ。

結局かなりの損害を出した後で、マッカイブをとっ捉まえ手術。冷酷なマッカイブはなぜかこの少年には心を動かされたようで、少年の手術後の様態を気遣います。その後大笑いの結末になりますが、ここは見事なうっちゃり。ユーモアのある最終シーンです。ここだけ監督の面目が保たれています。この人は完全犯罪クラブでも最後の最後、見逃さない方がいいシーンを1つ隠していました。

このようにして映画は幕を閉じますが、無能とは言えない監督、有能としか言い様のないキートン、それまであまりひどいアラが目立たなかったガルシア、わりとできのいい子役、一応役どころが納得できる女医が集まって一体何をやっていたんでしょう。その上警部役にはあのブライアン・コックスも顔を出しているのです。せっかく気合を入れてやって来たキャストもいるのにこの仕上がり。どうなっているんでしょう。

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