映画と音楽のページ

ブルース・ブラザーズ /
The Best of the Blues Brothers

考えた時期:2004年5月

ブルース・ブラザーズについては色々言われており、映画2本はよく知られていますので、そちらは割愛。今日は DVD のお話。

ドイツでの知名度、尊敬度をかんがみるに、安価と思われる DVD をデパートで発見。早速購入。きっちり名の知れたミュージッシャンの音楽 CD は滅多に割り引きや安価の品が無いのに比べ、 DVD は大サービスと言ってもいいような具合です。去年購入した映画 DVD には2本入っていました。ちょっと前にカバー・バージョンと承知で買った音楽 CD は下手バンドでこけたのですが、今回のは音楽 CD ではなく、画面付きの DVD な上、スタックスお墨付きの本物。サタデー・ナイト・ライブ系のシーンとコンサートで、映画化されたブルース・ブラザーズとは全然別なシーンのてんこもりです。

最初にベルーシ以下、ブルース・ブラザーズ・バンドがが信じられない姿で登場。全員を着ているのです。やはり彼らはコメディアンだったんだ、と変に納得。映画ブルース・ブラザーズで行きがかり上「ブルーグラス・バンドだ」ということにされてしまい、変な衣裳を着せられて演奏したブルース・ブラザーズ・バンドよりもっと奇妙きてれつ。これだけで爆笑。しかしソロを取るベルーシはマジで、歌はかなりなものです。ところでこの DVD を見るとベルーシの特徴が分かります。

 ・ 歌がべらぼうにうまい、アクロイドなどは軽く抜いている
 ・ ステージではアクロバットのように飛び跳ねないと、有り余ったエネルギーが爆発しそうなので、所狭しと飛びまわる
 ・ 太目の体にも関わらず、アクションでもアクロイドを軽く抜いている
 ・ 連れているバンドの方が音楽界では名が通っており、業界の尊敬を集めて良いはずだが、ベルーシはそんな事はへとも思わず、歌い続ける
 ・ へとも思ってもらっていないバンドは、ベルーシの歌のうまさに満足して、楽しそうに演奏している

ですので、当然わいてくる疑問。お主、なぜ死んだ?

全体はインタビューアーが酒場でアクロイドと一緒に登場し、ブルース・ブラザーズ時代の思い出を語るという設定です。アクロイドはエルウッドとして黒装束で登場したり、普通の男として平服で登場したり、一人二役。ベルーシはもう死んでいるという前提条件で過去を語ります。話の中で音楽部分に差し掛かると、そこは当時のライブの録画が登場。アクロイドがエルウッドになっている時は、前科者で、欧州の権利の分け前を現金で手渡されるという設定にしてあり、怪しげな黒めがねをかけたまま。アクロイドがアクロイドを演じている時は、普通のメガネをかけた陽気なおっさん。思い出のブルース・ブラザーズ・バンドのシーンではベルーシを引き立ててあります。これが成功。しかし、このインタビュー、演出はあまり良くないです。

ステージの2人を見ていて、サム & デイヴ、ライチャス・ブラザーズなどを思い出しました。サム & デイヴ、ライチャス・ブラザーズでは、亡くなったのはやや存在感の弱い方のパートナー。サム & デイヴでは圧倒的にサムが上手で、デイヴはいないと困るけれど、2人並ぶとサムの引き立て役に回らざるを得ませんでした。ライチャス・ブラザーズはその点やや違い、曲によってはボビー・ハットフィールドが1人でソロを取っているものあり、ビル・メドレーがほとんど登場しない曲もあります。Mr. II がセッティングしてくれ、パーフォーマンスを見る機会があったのですが、これを見ると、ビル・メドレーの方が不敵な顔で堂々としていてハットフィールドは力関係ではやや押され気味。この2人は才能のある者と無い者コンビでなく、違うパートを引き受ける人間が2人組み合わさったという、本来なら理想的なデュエット。しかし精神的な強さはメドレーの方にあったのかな、と思わせます。両デュエットとも、メンバーの仲は悪く、デイブは犯罪に巻き込まれて早く死亡、ハットフィールドはコカイン濫用で昨年死亡。

それに比べブルース・ブラザーズではステージでは才能が溢れ返っているベルーシがドラッグが原因で死亡。舞台裏ではアクロイドの方が多才でしたが、ステージで、ことソウル、ブルースに関して言えばベルーシの1人舞台と言ってもいいほど。それがこの DVD でもはっきり分かります。しかしアクロイド氏の偉いところは、そのベルーシと対抗しようとはせず、自分の役割、必要性もしっかり自覚し、舞台を引き立てている点。2人の仲が悪かったという話は、私の耳には入っていません。

アクロイドは犯罪学などというおよそ芸能人らしからぬ学問を大学で修め、芸能界ではパーフォーマンスのみならず、脚本を書いたり、企画をしたりと多芸な人です。こと音楽の舞台となると、ベルーシにかないませんが、そのベルーシに活躍の場を与えています。そこが偉い。ベルーシはベルーシでとにかく才能がほとばしり出て、凄い勢いで歌いまくります。

さらに凄いのはダンス。あの太目の兄ちゃんが所狭しと飛びまわるだけでも大変な騒ぎですが、ステップの正確さ、絶対にリズムをはずさず、滞空時間の長いジャンプ、細かいステップなど、信じられないような動きをします。普通の芸能人と違いオリンピックの体操選手のような動きが多いです。アクロイドと組んで踊る時も絶対にリズムをはずしません。天性の才能としか言いようがありません。ベルーシは元々サッカーかフットボールのトレイナーになるつもりでいたという変り種ですから、身の軽さはそのあたりから来ているのかも知れません。あのでっぷりした兄ちゃんが、と思いますけれど。私は《人は見かけによらない》という話が大好きなので、犯罪学者とスポーツ・トレーナーがソウル、ブルース界をひっくり返したという話は大いに気に入っています。

サム & デイヴ、ライチャス・ブラザーズなどと決定的に違う点、ジェームズ・ブラウンに迫るかという点は、ブルース・ブラザーズお抱えのバンド。このメンバーの凄さはドイツでも知れ渡っていますが、作曲もやるようなベテラン揃い。今では白髪のトランペット奏者、隣にアレサ・フランクリンがいないと物足りないメ ルセデスの販売店長、その他あの、映画にも出ていたお歴々が登場。エルビス・オン・ステージのバンドが安っぽく見えてしまう内容の濃さ。

映画ブルース・ブラザーズのスペシャルにはバンドのインタビューも入っています。今度買った DVD は舞台裏の話はすべてアクロイド氏から語られます。

トップで登場するのはかというようなばかばかしいコスチュームを着こんだブルース・ブラザーズとブルース・ブラザーズ・バンド。全員がを着ています。しかしベルーシの歌はもうこの段階で殺気が漂っています。

アクロイド氏の解説によると、ベルーシは話が出た頃はブルースなどは全然知らず、ヘビー・メタルのファンだったのだそうです。ベルーシの天才ぶりが分かりますねえ、そんなに早く切り替わるものなのでしょうか。こういう人を使って吹き込んだアルバムが350万枚売れたのだそうで。アクロイド氏の希望でもあり、スタッフも乗り気だったのが、アイディア。シカゴ・ブルースの電気製品と、スタックス系のR & B、特に真鍮製品をかけ合わせて強力なブルース・バンドを作りたかったのだそうです。曲は一般的なブルースの典型を破り、違うシンコペで行きたかったと。まあ、凄い事を考えたものですが、それだけでなく、それが実現したというところに偉大さを感じます。このビジョンはスモーキー・ロビンソンとゴールディーに負けません。

ベルーシの死に関しては、彼が将来の事に頓着がなく、現在のみを考える人だったという話と、周囲の皆でドラッグを止めるように言い、納得させようにも、必ずどこからか音も無く現われて、彼の手に秘密裏にドラッグを届ける人がいて、友人のアクロイドでも、妻でも止めることができなかったという話を聞いたことがあります。あれだけ凄い才能があるのになぜさらにドラッグが必要だったのかは私には理解できません。デュエットの仲が悪いというのはサイモン & ガーファンクルなどでも有名ですが、ブルース・ブラザーズはそうではなかった様子。損得勘定だけで物を言っても、ベルーシ無しでは商売にならないのですから、誰も彼の死を願ってはいなかったと思います。ベルーシに死なれたアクロイド氏の落ち込みようはかなりなもので、そのため続編の制作も非常に後になりました。

死んでしまった人を惜しんでも戻って来ませんが、メンバーが悲しんでいるという意味ではクイーンといい勝負。クイーンの方にはフレディーより歌のうまい(ごめんなさい、井上さん)ジョージ・マイケルが加わるという話が一時ありました。ブルース・ブラザーズの方にも弟のベルーシが加わるという噂が時々出ます。ジョン・グッドマンも歌はなかなか行けますし、2000 に出たバスター坊やもいい。しかし繊細な感覚を持って歌う人となると 2000 でブルース・ブラザーズにすっぽかされてしまう田舎バンドのリードボーカルをやっていた人がなかなか良さそうです。もっともこの人映画ではロックンロールを歌っていましたが。

いいかげんなお世辞でなく惜しい人を無くしたと言えるのですが、安楽な暮らしをして、悩みの無い人はブルースを歌えないのでしょうか。うたむらさん、誰か苦労知らずのブルースマン知っていますか。

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