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ポセイドン・アドベンチャー /
The Poseidon Adventure /
.Poseidon Inferno - Die Höllenfahrt der Poseidon

Ronald Neame

1972 USA 117 Min. 劇映画

出演者

Gene Hackman
(Frank Scott - 急進派の牧師)

Ernest Borgnine
(Mike Rogo - 刑事)

Stella Stevens
(Linda Rogo - 刑事の新婚の奥さん、元娼婦)

Red Buttons
(James Martin - 雑貨商)

Carol Lynley
(Nonnie Parry - 船内ショーの歌手)

Roddy McDowall
(Acres - 船員)

Shelley Winters
(Belle Rosen - イスラエルの孫を訪ねる女性)

Jack Albertson
(Manny Rosen - ベルの夫)

Pamela Sue Martin
(Susan Shelby - 若い女性)

Eric Shea
(Robin Shelby - スーザンの弟)

Arthur O'Connell
(Chaplain John)

Leslie Nielsen
(Captain Harrison - 船長)

見た時期:公開当時、2005年6月

要注意: ネタばれあり!

大分古い映画なので死んでしまう人もばらします。見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

ラジオの深夜放送に非常にユニークなコメディー番組(資料参照)がありました。いつも耳に残っていたのが「明日は帰ろう、オデッセイ」という文句で、個性ある人たちが大勢ギリシャの神々になって登場。ポセイドンも重要な役でした。だれかあの番組について知っている人がいたら、井上さんの TAVERN か CAFE に是非書き込みをしていただきたいところですが、そのポセイドンをタイトルにした作品です。

★ 不吉なタイトル

海上を航行する客船にポセイドンなどという名前をつけると、当然ながら地震や津波に襲われます。ですから映画が始まる前から何かとんでもない事になりそうだと予想した方、正解です。

一連のパニック物に入るのでしょうが、そういうカテゴリーを無視して、ポセイドン・アドベンチャーと いう名前でずっと覚えていた作品です。パニック自体よりその後生き延びるための努力の方に重きが置いてあります。津波という天災は日本人だけが恐さを知っていて、他の国には最近までそれほど関心を持たれていなかったと言いたくなるほどでしたが、ついにこの間大災害が多数の国を巻き込んでしまいました。アメリカは地震国で、ハワイなどには観測の設備が整っていて、日本とも十分情報交換をしているようです。それでも日本のように国中が地震、津波に対して覚悟が決まっているというほどではありません。

★ 上品に死ぬレスリー・ニールセン

職業的に「地震と来ればすぐ津波」と考えるのは、気象庁の人ばかりではなく、船乗りもそうです。で、物語の冒頭すぐ船長が津波について心配を始めます。船長は意外や意外、あのレスリー・ニールセン。しかしお若い方、ポセイドン・アドベンチャーはコメディー映画ではありませんぞ。タイタニックにも勝るシリアスな大悲劇なのです。ニールセンは120本ほどの作品に出ていますが、コメディーを始めたのはあとの方です。津波が船に届いた段階で船長室が直撃され、その時点でニールセンは昇天。しかし気品のある立派な船長を演じています。

★ 実力者ジーン・ハックマン

主演は何と言ってもジーン・ハックマン。これまでに見たジーン・ハックマンの作品はかなりの数になりました。1番最初がハワイなのですが、どこに出ているのか覚えていません。次は俺たちに明日はないで、無論どこに出たかしっかり覚えています。何と言ってもオスカーにノミネートされてしまいましたからね。その後は目立つ役が多く、ポセイドン・アドベンチャーも主演です。

美男でもなく(ロバート・レッドフォード)、女性をとろけさせる目も持たず(ポール・ニューマン)、体がカッコイイわけでもなく(アーノルド・シュヴァルツェンエッガー)、ニヒルさやクールさで売るでもなく(クリント・イーストウッド)、極端に執着もしない(ロバート・デニーロ)俳優がこれほどのスターになったまま何十年というのは、良く考えてみると珍しいのではないかと思います。

悪役をやっても、そのためにその後善人役が全然回って来ないというわけでもなく、いつも善人を演じるというわけでもないので、観客はハックマンが出て来たからといって善か悪と最初から決めつけてしまうことができません。私はそういう風に毎回何が飛び出すか分からない《ジーン・ハックマン現象》を歓迎。特定ののタイプの役に押し込まれることなく、顔形のような生まれて来た時の特徴で売るでもなく、エキセントリックさを売りにするでもなく俳優業をやって来られ、実力で言えは中堅、ベテランの性格俳優と互角の勝負。それでいてスター・ランクから言うとずっと上です。

★ 話は簡単

物語は単純極まりなく、津波の直撃を受けた豪華客船ポセイドン号が上下さかさまになってしまい、生存者が船底に向かって昇っていくというものです。乗客は千人以上。ニューヨークからアテネに向かい地中海にさしかかったところでした。

★ ドイツ人の知らない災害

ドラマ性を持たせるため、「ハッピー・ニュー・イヤー!」とカウントダウンをして、新年を祝うパーティーをやるところで日本人が聞くとすぐ大地震と納得する規模の地震が起き、直後に津波です。ドイツというのはほとんど地震の無い国で、あったとしても規模が小さいので、震度とか報道されてもそれがどのぐらいの揺れか想像できる人はほとんどいません。

ドイツの人が昔も今も悩む災害はオルカンと呼ばれる突風と、河川の水位が異常に上昇して町が水浸しになってしまうこと。突風は突然やって来てその辺の木がなぎ倒されるので、油断なりません。風が突然チェーンソーのような凶暴性を発揮して、バッサリ。台風より時間の余裕が無い時もあります。1度そういう災害に遭ったら、次の年から対策を準備しておけばいいのにと思うのですが、なぜか上手く行かず、数年に1度、2度、地方から大きな被害が出たというニュースが入ります。近年ではオーダー川で軍が出るような被害がありました。こちらは雨が続きじわじわ水位が上がって行きますから、死者という話は珍しいですが、きれいに整備していた道路や公園が滅茶苦茶になってしまいますし、家の地下倉庫に泥が入ったりと後始末が大変です。ではまた地中海に話を戻しましょう。

★ 2派に分かれてサバイバル

大津波が来るまでにざっと主要な登場人物が紹介され、その人たちだけが生き残ります。船がさかさまになってしまった時点でかなりの犠牲者が出ますが、船内にはまだ空気が残っているので、パーティー会場にいた人など何十人かは助かります。その時点で、船の技師の意見に従う多数派と、少年や急進派の牧師に従う少数派に分かれます。

最後の説得も虚しく、多数派はホールに残ると決め、少数派だけが転覆で上になってしまった船倉に向かいます。その直後に爆発が起こり、多数派はほとんど死亡。空気はまだ十分ありますが、その後も所々で爆発が起き、少数派は追い詰められて行きます。最大の難関は上に向かう途中水が入ってしまった通路。それまでも特技やアイディアを生かして少しずつ生き延びる策を見つけて来た一行ですが、牧師がロープを持って向こう側へたどり着き、他の人はそのロープにつかまって潜水すればいいということになります。ところが牧師は水中で行く手をさえぎられます。その時太った老女がかつて水泳の選手だったと言い出し、大活躍。牧師を救助した後で心臓麻痺を起こして昇天。なかなか劇的です。

その前、その後も大小の難関があり、1人、また1人とメンバーが減って行きます。かわいそうなのは牧師といつも対立していた刑事。2人とも石頭で事あるごとに喧嘩をしていましたが、刑事は結婚したばかりの妻を亡くしてしまいます。刑事という職業で売春婦を何度も逮捕していたのですが、彼女を心から愛していたので、愛人などにせず正式に結婚。この旅は新婚旅行だったのです。それまでジーン・ハックマンとがっぷリ四つの大喧嘩をやらかしていただけに、ここは涙を誘います。

 

そのハックマン扮する牧師は急進派で、人の説得が上手。それでこれまでメンバーを引っ張って来ていますが、最後の最後で、自己犠牲。まさにキリスト教の映画です。皆の生きる道を開くために死を選んだ牧師に代わって、意気消沈していた刑事がまたがんばり、最後は数人が助かるという作品です。急進派牧師と言いましたが、実は彼の発言は無神論者に近いです。ドイツのキリスト教の偉い人(例の法王になった人ではありません)が、ドイツで大きな事故が起きた時に「神はん、あんた事故の時どこにおったんや」と神に食って掛かったように、ハックマン演じる牧師も「俺たちは自分の力で助かってやるぞ」と何度ものたまうのです。実際彼は弱音を吐く人たちを叱咤激励して、自己の力を最大限出させるのに成功し、かなり後の方まで犠牲者を最小限に押さえています。

ここが日本人の宗教観と大きく違うところ。日本の神は万能で何でもやってくれる存在ではなく、私たちと一緒にいる存在。神であった頃の天皇も、人間になった天皇も伝統的に私たちが大きな災害に見舞われた時に慰め、私たちの目をその先の生に向ける役目を担っておられますし、神話の神々もその辺の自然の中にいて、人間と一緒に生き、私たちがやるような悪戯や失敗もします。人々は神が全てをパーフェクトに治めてくれるという頼り方はしておらず、そのため「ちゃんとやってくれるはずの神よ、災害の時君はどこにいたんだ」などという話にはなりません(とは言うものの、私は神に文句を言ったこの司教だか、かなり高位の僧には感心しています。それがあの時事故に遭った人の正直な気持ちだったと思います)。日本の神々や天皇は何か起きた時に悲しみを一緒に分かち合ってくれ、その後助かった人々にその先の道をそれとなく知らせてくれるという、西洋とは違う役目を担っています。

ハックマンが演じる牧師は従来のキリスト教から少しはみ出し、人間が隠し持っている馬鹿力を今出す時だと自分に言い、いよいよと言う時には自分の命を犠牲にしながら、君たちならやれると言うことで死んで行きます。少しははみ出しますが、やはり全体はキリスト教式です。

後で偉い司教などがこれを見ると、「自分の力を出すようにと神が望まれたのだ」と言い出すかも知れません。「じゃ、それまではあるのに実力を使わでくれということなのか」と突っ込みが入るかも知れませんが、その辺はキリスト教の人たちの間で論争してください。

最後救助隊が来るシーンが、全然違う筋なのに、なぜかタイタニックの始めと終わりを思い出させます。そして随分制作年が離れているのに私はなぜかポセイドン・アドベンチャーの方ができが良かったと思ってしまうのです。見たのは恐らく3度目ぐらいでしょう。最初は公開当時劇場で。それから日本のテレビで。そしてドイツのテレビです。3度見ても飽きません。

いちいち書いていると長くなってしまうので止めておきますが、ジーン・ハックマンだけでなく、共演している人には当時有名だった人たちもいます。私が注目したのは、ステラ・スティーヴンス。ベン・ケーシーと いうテレビ・シリーズの1エピソードに出演。普段の1週間で1話完結の慣例を破り、1つのエピソードが数回続く回に若い女性として登場。非常にセクシーで ありながら、クールでもあり、印象に残りました。映画ではあまり大成功しなかったらしく、その後徐々にあまりカッコ良くない役も演じていましたが、元々テ レビを中心に活躍する人だったようです。売り込みが上手だったら、現代で言えばシャーリーズ・セロンのような輝く美しさで映画界をリードできたかも知れま せん。

上に触れたのはラジオ漫画(タイトルはうろ覚え)というシリーズの1枠で《望郷ロマン 明日は帰ろうオデッセイ》と言います。

主なタイトル: 忍法西遊記、片目のダルタニアン、俺は日吉丸、望郷ロマン 明日は帰ろうオデッセイ、龍馬の胸に赤いバラ、走れダンテス、センチメンタルトマホーク、恋時雨国定忠治、夕焼けのロビンフッド

主な出演者、関係者: 内海賢二(現役)、小島一慶(警察沙汰で引退)、 水森亜土(絵と芸能界で半ば現役)、里吉しげみ、高松しげお(現役)、野沢那智(病死)、朝比奈尚行、小原乃梨子(現役)、猪俣照代、増山江威子(現役)、倉沢映子、白石冬美(現役)

後記: その後、副題、年まで入れて詳しくリストアップているサイトを見つけました。それによると

忍法西遊記(1970)、マロニエロマン 片目のダルタニアン(1971)、戦国ロマン 俺は日吉丸」(1972)、望郷ロマン 明日は帰ろうオデッセイ」(1973)、幕末ロマン 龍馬の胸に赤いバラ」(1974)、脱獄ロマン 走れダンテス」(1975)、フライドチキンウェスタン センチメンタルトマホーク」(1976)、股旅メルヘン 恋時雨国定忠治」(1977)、英国番外地 夕焼けのロビンフッド」(1978)

となっています。ダルタニアンがあったのは知っていました。確かオデッセイの中でダルタニアンの話が出たように思います。ハチャメチャな番組でしたが、創造性に富み番組間のクロスオーバーもやっていたのではないかと思います。

番組が放送された年を見ると、ちょうどミステリー・クラブとかぶります。大学時代は通学片道3時間以上の時もあり、睡眠時間も少なめ。そんな中で例外的に深夜放送を聞いていました。1973年と言えば楽しいことばかりの年でした。

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