映画のページ

ワールド・トレード・センター /
World Trade Center

Oliver Stone

2006 USA 129 Min. 劇映画

出演者

Nicolas Cage
(John McLoughlin - ワールド・トレード・センターを熟知している警官)

Maria Bello
(Donna McLoughlin - ジョンの妻)

Connor Paolo
(Steven McLoughlin - ジョンとドナの長男)

Anthony Piccininni
(JJ Mc Loughlin - ジョンとドナの次男)

Morgan Flynn
(Caitlin McLoughlin - ジョンとドナの長女)

Alexa Gerasimovich
(Erin McLoughlin - ジョンとドナの次女)

Wass Stevens
(Pat McLoughlin)

Michael Peña
(Will Jimeno - ジョンの部下)

Maggie Gyllenhaal
(Allison Jimeno - ウィルの妻)

Tiffany Romano
(Bianca Jimeno)

Lucia Brawley
(Karen Jimeno)

Peter McRobbie
(アリソンの父親)

Dorothy Lyman
(アリソンの母親)

Julie Adams
(アリソンの祖母)

Tony Genaro
(William Jimeno Sr. - ウィルの父親)

Aixa Maldonado
(Emma Jimeno)

Lola Cook
(Olivia Jimeno)

Michael Shannon
(Dave Karnes - 会計士、元海軍兵士)

Jordan Lage
(デイブの行く教会の牧師)

William Mapother
(Thomas - 海軍兵士)

Armando Riesco
(Antonio Rodrigues - ジョンの部下)

Jay Hernandez
(Dominick Pezzulo - ジョンの部下)

Stephen Dorff
(Scott Strauss)

William Jimeno
(港湾局警察官)
Scott Fox (Scott Fox - 消防士)
大勢の本物の警官、消防士、救助関係者 (警官、消防士、救助関係者)
Nelson Peña
(Raul - スリ)

見た時期:2006年9月

プラトーンはまだ見ていないので評価が偏るかと思いますが、オリバー・ストーンというとやる事が大袈裟でちょっと引いてしまう監督でした。作品数は比較的少なめですが、1度作り始めるとやる気を出し、テンションが上がり過ぎてという印象を持っていました。彼の目指す立派な使命は理解できるのですが、ドラマチック過ぎたりして、彼が思っているほど観客の私は共感しないのです。その彼がけちょんけちょんの一歩手前の評価を受けている、ワールド・トレード・センター崩壊の映画を作りました。ちなみに5年前の事件後、9月11日事件関係の映画を見るのはこれが初めてです。

雑誌などには退屈だとか観客を特定の方向に誘導する作品だといったきつめのマイナス評価が出ていて、総合点数としては中程度の点をもらっています。ですので公開初日に急に切符が当たった時には、やれやれと思いながら出かけて行きました。

この当選にあたっては2つけちがついていました。まず始まる時間が15時だと言うので、外出から帰って来たその足でまた外出。よりによって両方ともベルリンの端っこ。行って見ると懸賞係の人が間違った時間を言ったことが判明。2時間半早過ぎました。その上、映画館のあるショッピング・センターで切符売り場に向かっている途中にドイツ人らしい若い男にすれ違いざまいきなり太腿を殴られたのです。こぶしを手を下ろした高さに握り、その高さでいきなり殴りつけて来たのですが、それがたまたま私の太腿の高さ。変な手口だなと思ったのですが、そういう風に殴ると人目につかないからだと後で気づき、これは常習犯かと思いました。実はこの映画館、前に来た時も似たようなトラブルに遭っています。と言うと映画館が悪いように聞こえて語弊があります。トラブルが起きるのは映画館の中や近くではなく、その映画館が入っている大きなショッピング・センターの広場のような場所や、店が並ぶ通路の一角。ベルリンの他のショッピング・センターでは1度もこんな出来事に遭ったことがなく、ここでは連続2回目なので印象が悪くなっているところです。その時もドイツ人に見える男の単独犯。それで映画館が悪いわけではないのになるべく行かないように心がけているのですが、懸賞に当たるのが遅いと、映画館を選べなくなるのです。日によってはドイツ人の相棒を連れて行く事もあり、そういう時は襲われないので、敵は単独で歩いている外国人専門に狙っているのかも知れません。

2つもけちがついたのですが、ようやく2時間ほど暇をつぶして座席へ。最初は私1人。暫くして10人弱の人が入って来ました。若者ばかりです。いくつか新作の予告を見てから始まり始まり。

結論を先に言ってしまうと、過ぎたるは及ばざるが如し。そのことを知って控え目にしたストーンの勝ちです。

写真で知っていた通り、ニコラス・ケイジが非常に地味な中年の警官を演じています。無口であまり笑わない男。同僚の間ではそれほど人気がありませんが一応チーフ。いつも通りの出勤で、この日はたまたま早朝の係。ショッピング・センターへパトロールに出かけます。ちょっとしてドスンと聞き慣れない音が。すぐ本部と連絡を取り、非常事態発生とのことで、他の同僚も続々本部に戻って来ます。その間にワールド・トレード・センターに飛行機が突っ込んだ様子がCNNにも映り、警察も事の重大さを把握。消防署はもう出動しているのでしょうが、警察も付近の交通整理が必要ということで、すぐ出動。付近の交通を遮断することと、建物の中の人を安全な場所に誘導するのが仕事だと最初は思っています。

バスで現場に掛けつけている間に家族と携帯で話をしていた同僚から2機目が隣の建物に突っ込んだという話が伝わります。最初は他の同僚は信じませんが、やがてそれが本当だと分かり、尋常な出来事ではないと言うことが全員に分かって来ます。まだこの時は自分たちの命が危ないとまで考えている人はいませんが、ありとあらゆる犯罪、テロに備えていたはずのニューヨーク警察もこういう事態のためのマニュアルが無いということははっきりしています。

現場に到着してバスを降りた頃からは普段は陽気な若い警官にも命がけの仕事だということが分かって来ます。そこで示されるのがアメリカ的ボランティアの精神。もしドイツの批評家が観客を一定の方向に誘導する映画だと非難するとすればこのシーンでしょう。弱虫や躊躇う人を出さず、皆が明るい顔で当然のごとく救出に向かう。美談です。しかし映画には時々そういう作品があることを知っていた私は別に良いじゃないのと思いました。驚いたのはそれがオリバー・ストーンだったという点だけ。

オリバー・ストーンの話によると、あの日現場にいた警官、消防隊、レスキュー隊、医療関係者は皆やるしか無いと悟り、危険を顧みず黙々と仕事をしていたのだそうです。だとすると、ストーンは事実を映画にしただけ。となると誘導と言えるのかは怪しくなって来ます。尋常で無い出来事が起きると、突然計算も何も無く英雄になってしまう人というのがいます。それだったのかも知れません。

ここでちょっと事件をおさらい。

1度目の事件

1993年始め、駐車場爆破事件発生。犠牲者数は2度目の事件に比べると少ないですが、死者が6人。負傷者は2度目の事件には及ばないものの4桁の数で、千人を少し超えます。4階分の穴が空き、ビルの機能はストップ。小さな事件ではありません。映画ワールド・トレード・センターでは、ニコラス・ケイジ演じるジョンががこの時出動したため、建物に詳しいという台詞を喋っています。

2度目の事件

2001年9月11日朝出勤の頃

オリバー・ストーンがワールド・トレード・センターで扱っている事件で、死者の数は2749人とされています。完全な確認は取れないので9月11日直接の被害者数はまだいくらか訂正される可能性を含んでいます。その他に救助活動で肺をやられた人も多く、今後まだ間接的な死者が出ると考えられます。遺体確認はあまりできず、千人以上が未確認。

事件直接の死者のうち殉死した消防士343人、警察官23人、港湾管理委員会37人。

塔が2本あり、最初の飛行機激突は北側の塔。速度を落とさないまま8時46分110階建てビルの94-98階に突入。フランスのテレビ取材班がこの様子を撮影。この出来事のためにジョンやウィルも出動。

時を経ず、9時3分に南側の塔に別な飛行機が激突。同じく110階建てで、突入したのは78-84階。この事件は北側の塔を報道するために集まった報道陣、野次馬に多数撮影されています。ストーンはこういった映像の一部を使用した模様。しかし突入シーンは多くないです。

飛行機が事故を起こしてビルに接触、あるいは衝突する場合は想定して設計されたビルですが、飛行機を武器として通常の速度で故意にぶつけて来る場合は想定されておらず、設計者側にも警備側にもマニュアルはありませんでした。

計算されていなかった出来事の1つは飛行機の燃料火災によって生じる熱。素人の私にはかなり早いと思われる9時59分に北の塔から崩壊が始まり、10時28分には南も崩壊。

(付近にはこの2本ほど高くないビルが数軒あり、連鎖反応で全壊または半壊)

映画の話に戻りましょう。ジョンたちが負傷者救出のために必要なヘルメットや酸素ボンベを取りに行く最中に建物が崩壊し、彼の連れていた一行が中に閉じ込められてしまいます。2時間近い時間を閉じ込められた警官の中の2人とその家族の心配だけで持たせています。仲間は大半が死に、残ったのは3人。うち1人はその後死亡。あとは首から下は埋もれているので、ニコラス・ケイジとマイケル・パニャが顔だけで演技です。俳優としてはちょっと大変。残った家族の方は夫婦の夫側と妻側の家族が集まって一緒に心配するというお涙頂戴の話です。捻ったプロットなどは全然ありません。夫や妻を亡くした家族と、助かった人の家族の対比なども特に無し。

助かった2人とその家族だけに焦点を当てた作品で、それ以外にはほとんど目を向けません。私にはそれで良かったように思えます。アメリカ式のハッピーエンド映画かと聞かれると、「返事は難しい」というのが私の答。これだけ色々映しておいて2人が死んでしまうのは残酷。ハッピーエンドには違いありませんが、2人は重症を負っていますし、この当時はまだ知られていなかった肺の問題も生じます。瓦礫から生じた灰や有毒ガスを吸った生存者に肺癌の危険が生じているとの報道を読んだことがあります。2人はその後また両足で立てるぐらいに回復していますが、引退し、年金生活に入っています。精神的な問題もまだ抱えているのかも知れません。これだけの傷を負ってのハッピーエンドです。

ストーンが撮ったのは限りなく実話に近い劇映画。主人公のジョンとウィル、その他の警官は実在します。夫人の1人が間もなく臨月というのも実話だった様子です。そして事件の直後コネチカットに座っていた、以前海軍に所属していた経理士がテレビを見て急に思い立って、海軍の制服を着、ボランティアの救助に向かい、一直線にウィルとジョンの埋まっている場所にたどり着き、2人が死ぬ前に発見したというのも実話だそうです。

この映画を撮るにあたって、ニコラス・ケイジは当の本人の協力を得られ、瓦礫に埋まっている最中にジョンとウィルがした話、考えた事などをたくさん聞くことができたそうです。ストーンは瓦礫の山を再現。建物の骨組だけはちょっとセットという感じがしますし、多分凄かっただろうと思われる熱と灰は減らして表現したようですが、それでも呆気に取られる規模です。ドイツ人や日本人の年配の人には空襲を経験した人もいます。他の国では今経験している最中という不幸もあります。余所と比べていると、死者3000人前後で、なぜこうも騒ぐのかという疑問が生じるかも知れません。ストーンはワールド・トレード・センターを作るにあたって、焦点をあの日に起きたあの事件の2人の当事者にきっちり限って、こういう出来事が小さな一般人をこのように振りまわすのだということだけをメッセージとして作品に託しています。この時点で妙にドラマチックなストーリーにせず、地味な作品を作ったのは却って良かったと思います。戦争反対とか、犯罪撲滅という立派なお題目を並べてチャリティーやデモをやる前に、この点をしっかり分かっていないと、《慈善ショータイム》が終わってしまったらパーティー三昧という妙な事になります。そういう意味ではこの作品は《普通の人間の普通の日常》がいかに大切かということを考え直すいい機会になります。

もう1つ意外な効果があります。以前に何か事故や事件に巻き込まれた人にとってはこの作品は妙に慰めになるのです。それは多分ウィルとジョンの家族の様子を《普通に》描いているからでしょう。親戚が集まって来て、皆で心配そうにテレビを眺めている様子、警察の車が横付けされるので覚悟を決める夫人、誕生日を祝ってもらえずすねている息子、知名度もあるプロの俳優が演じているのですが、普通の家族風にでき上がっていて、監督の目がなぜか優しいのです。あのストーンがと思ってしまいます。

批評家はある種のプロバガンダ映画だと言っているのでしょうが、見る方がこれはプロバガンダだと分かって見ていれば問題は無いのかも知れません。《これはアメリカ人を慰める映画、元気付ける映画だ》と見る人が知っていればいいのです。日本でも新しい物を建設するといえば頑張っている建設関係者の映画ができます。あれも一種の《頑張っているぞ》とアピールするプロパガンダ映画です。要は観客と制作側にお約束が分かっていればいいのです。そう言えばワールド・トレード・センターが始まる前にケビン・コスナー主演の守護神の予告がありました。日本の映画に似ているのでリメイクかも知れません。となると、あれも《頑張っているぞ映画》でしょう。マジに感動するも良し、お約束だからとほどほどに見るも良し。日本に比べ地味に働く警官や消防士に普段あまり大きな感謝の念を持たないアメリカとしては、たまにはこういう視点で映画を作るのも良いかも知れません。縁の下の力持ちという言葉は日本では当たり前ですが、ストーンは瓦礫の下の力持ちをこの129分で表現したかったようです。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ