映画のページ

騎士 ニック・パークの作品紹介

チーズ・ホリデー /
A Grand Day Out with Wallace and Gromit /
A Grand Day Out /
Wallace & Gromit - La gran excursión /
Wallace & Gromit: Un dia de campo en la luna /
Dia de Folga /
Wallace & Gromit: Um Grande Passeio /
Wallace & Gromit - Alles Käse /
Wallace and Gromit - Una fantastica gita /
Wallace et Gromit: Une grande excursion

Nick Park

UK 1989 23 Min. クレイ・アニメ

声と姿の出演

Peter Sallis
(Wallace - 町の発明家)

姿の出演

Gromit
(ウォレスの忠犬、ビーグル)

地下室のネズミたち

月面で動くレンジ

見た時期:1996年頃

作品を全部一まとめにご紹介しようと思ったのですが、かなりの長さになってしまったので、分けてご紹介します。

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ チーズ・ホリデー

日本語のタイトルもドイツ語のタイトルもぱっとしません。とは言うものの A Grand Day Out を訳すのは難しいです。《すばらしい旅立ち》ってな感じでしょうか。子供向きのクレイ・アニメだと侮ると行けません。主人公がロケットを作り月旅行をするというれっきとした SF 映画に仕上がっています。

バンク・ホリデーが来るのでどこかへ旅行をしようと思って旅行会社のパンフットなどを見ていたウォレスは、冷蔵庫を開け、チーズを切らしていることに気づき、月へ行こうと思い立ちます。英国人はどうやら月に行くとチーズがたくさんあると信じているようです。日本人ならつきたて、ホカホカの餅があると考えそう。

★ ウォレスとグロミットの食生活

ウォレスの食生活はかなり偏っていて、大好物はチーズをクラッカーに乗せたものを食べ、一緒に紅茶を飲むこと。

朝食は英国式のトーストにイチゴのジャムを塗ったもの。飲み物は紅茶。彼の食卓を見ていると紅茶にミルクは入れていない様子。しかし家に牛乳瓶があり、時々グロミットがココアを飲んでいます。

その他にウォレスはポリッジを朝食に取ることもあり、納戸に1箱置いてあります。

グロミットは概ねウォレスの食事に合わせていますが、庭の犬小屋には犬の餌用の容器が置いてあります。壁紙は骨のデザインになっているので、骨を齧ることもあるようです。

★ 大陸側と似た日常生活

作品全体にドイツっぽいフレーバーがあるのですが、ウォレスが見ているパンフレットとそっくりな物が当時ドイツにもたくさんありました。グローバリゼーションの影響で欧州全体が似てしまったのかとも思います。ただ、住宅は中央ヨーロッパと言われている地域と英国ではかなり違うのではと思っていたので、意外な印象を受けました。ウォレスやグロミットが座っている居間の装飾とそっくりなアパートや家を当時ドイツでたくさん見ました。若い人は IKEA の家具を買い、モダンな調度品を揃える時期でしたが、それでも中年以上の人でウォレスとそっくりなアパートに住んでいる人はドイツにたくさんいました。また、若い人で全体の調度品はモダンにして、部分的にウォレスが使っているような物を買う人もいました。なので私に取ってはウォレスの住居は見ていてとても楽しいです。

欧州は全体としてどこも似たようなものと考える方もおられるかも知れませんが、数カ国ごとに生活習慣がガラッと違い、例えばドイツ、ルクセンブルク、ベルギー、オランダ、デンマークなどにはどこと無く似通ったところがあり、スペイン、ポルトガルに共通する部分があったりしますが、大陸でもこういった大雑把な違いがある上、一般的に「英国は大陸とかなり違う」と考えられています。

大陸の方が重厚に建てられたアパートが多いです。戦火を免れたアパートは壁が厚く、天井も高くてしっかりした作りです。英国の一般住宅を見たことがありますが、ウォレスの住んでいるような町は見ませんでした。私の見た英国が典型的なのか、ウォレスの住んでいるような町が典型的なのかは短い滞在だったので判断できませんが、戦後の英国を描いた映画を見ると、むしろ私が見た英国の方が頻繁に登場します。ウォレスの住んでいるような場所はベルギーやドイツではよく見かけます。

しかし私はイングランドでさえも北部に行ったことは1度も無く、イングランドの北部やスコットランドが大戦で破壊されたという話を聞いたことはありません。1度壁の厚い、天井の高い家屋が作られると、よほどの事が無い限り壊さないと思うので、ウォレスの家を見て英国人は「これは典型的な英国だ」と感じるのかも知れません。

ニック・パークはランカシャー出身。ランカシャーは英国を真ん中でばっさり切ったとして、下半分の左上。あと少し北上するとスコットランドという場所です。私が見たのは同じイングランドの中でも下の方。かなり距離があるので、家から習慣からガラッと違うのかも知れません。私が映画などで見るのは主としてロンドンや南部の風景。

さて、思い立ったが吉日。ウォレスはまず設計図を描き、それからグロミットと協力して古い木のドアを持ち出して来てのこぎりで切り、ロケットの枠を作り、オレンジのペンキを塗り、木製ロケットを仕上げます。ああいうドアはドイツでも時々地下室に粗大ごみ風に置いてあります。

ウォレスを始め英国人は月にたくさんチーズがあると信じていて、チーズが大好物のウォレスは月へ行ってチーズ・ピクニックをやろうというわけです。ささやかな望みをかなえるべく、NASA も顔負けの壮大な宇宙計画を立て、グロミットも宇宙飛行犬として乗り込みます。

道中お茶が飲め、トーストが焼けるように、そして記念写真が取れるように(パークの父親は写真家)準備万端整えてあります。SF の壮大な世界と毎日の日課であるお茶とトーストの組み合わせが愉快です。

紆余曲折というほど大きなトラブルも無く、無事に月面着陸。毛布とお茶のセットを持ってチーズ探索に出かけます。道中出会ったのは動くレンジ。コインを入れるとなぜか動き出します。あまり深く物を考えないウォレスはつい好奇心からコインを入れ、後がどうなるか考えずその場を去ります。

注: 「ガス・レンジに何でコインを入れる所がついているの」というのが日本人の素朴な疑問。ちょっと聞いてみると、ドイツにも戦後そういう時代があったそうです。冷蔵庫に鍵がかけられるようになっているのを見てびっくりしたことがあるのですが、所変われば習慣がかなり違うようです。

コインで起動したレンジは月面規律派。「月面に物を放り出し、その辺のチーズを勝手に切り取って食べるとはけしからん!」とばかりに怒ります。なので後片付け。その時にスキー・ホリデーの宣伝のパンフレットを目にします。ウォレスが勝手に切り取ったチーズは接着剤で修理。

近くに着陸しているロケットを発見してレンジはびっくり。駐宇宙船禁止違反だぞというようなメモを貼り付けます。その上ロケットは燃料漏れまで起こしている。望遠鏡で遠くを見て、チーズを切り取っているウォレスを発見。これはもう棍棒でぶっ叩かなければ改心しないと結論を出し、レンジはウォレスの所へ出向いて行きます。グロミットが危険に気づいたその瞬間コインの時間切れでレンジはフリーズ。

レンジがなぜそこにいるかも考えず、次の瞬間自分が殴られるところだったことも知らず、ウォレスはまたコインを入れてみます。また動き出したレンジは完全に頭に来ています。同時にパンフレットのように雪山でスキーをする自分の姿も想像。追いかけて来るレンジを見たウォレスは自分が勝手に取ったチーズとの関連にちらっと気づきます。

慌てて離陸しようとするウォレスとグロミット。缶切りを手に襲って来るレンジ。危機一髪です。格納庫に入ったレンジは暗いのでマッチを擦ります。まだ点火していなかったロケットはレンジのおかげで点火され発射。レンジは鉄の断片だけを手に月に取り残されてしまいます。「僕も一緒に行きたかった、雪山でスキーがやりたいよ」

煤だらけになって鉄の断片を手にしたレンジは怒りと悲しみのミックス。腹を立てて手を振り上げた瞬間アイディアが閃きます。鉄片をスキーのように延ばし、試して見ます。「ここでもスキーはできそうだ」と思い、やって見ると上手く行き、レンジはうれしそう。

★ 成功したミニマリズム

パークがチーズ・ホリデーを世に出すまでに非常に時間がかかったそうです。まだアードマンの全面的なバックアップなど考えられない時期で、何もかもをパークが手作りでやっていた頃の作品です。声優も自分で探し、出演交渉をしなければならない立場。マネージャーなどはもちろんいません。

この作品が人の心を捉えたのは、話が非常に明快で、主人公が一直線に進むところと、「なんでやねん」と首をかしげ、最後まで説明の無いエピソードがうまく溶け込んでいるところです。ウォレスとグロミットのキャラクターは非常に日常生活に近づけてあり、他方なぜ月にレンジがいるのか、なぜ宇宙服を着ないでなぜピクニックができるのかは誰も説明してくれません。その落差を無視して話は実にあっさり進みます。

登場人形は少なく、姿形もあっさり。台詞は単純明快分かり易く、年端の行かない子供でも理解できます。それでいて時々あれっと思うような大人の、それもかなり映画マニアでないと分からないシーンが隠れていたりします。

子供も大人も楽しめる作品。パークに出会ったアードマンは幸運だったと思います。パークとサリスの出会いも幸運。タイトルの通りすばらしい船出でした。

この後どこへいきますか?     次の記事へ     前の記事へ     目次     映画のリスト     映画以外の話題     暴走機関車映画の表紙     暴走機関車のホームページ