February.26,2002 ポールの痛みが伝わってくるような『雨粒を洗い流して』
もう話題としては古くなってしまったが、年末にミック・ジャガーとポール・マッカートニーの新譜がほとんど同時にリリースされた。ミックのはすぐに飽きてしまって仕舞いこまれてしまったが、ポールの『ドライヴィング・レイン』の方はいまだに聴き続けている。というか、正確に言うと中の一曲をエンドレスにして何回も繰り返して聴いている。昨年9月のアメリカテロ事件のために急遽加えられたアルバム最後の曲『フリーダム』のひとつ前の曲『雨粒を洗い流して』だ。本来ならこれがラスト・ナンバーになるはずだった。
正直言って、最初に『ドライヴィング・レイン』をパソコンの内蔵CDプレイヤーに入れて聴き出したときは、「ああ、いつものポールだな」という程度の印象しかなかった。適度にポップなポールの曲が並んでいる。耳に心地よいポールの曲は決して嫌いではないのだが、ビートルズ末期のあのメンバーがテンテンバラバラになった中で、自分ひとりでもと、ゴリ押しエネルギーで作った血の出るような『アビー・ロード』の熱気が、その後のポールには感じられなくて、私は不満だった。麻薬所持で公演中止になったときは、別に見たいとも思わなくてチケットも買っていなかった。その後の東京ドームは見に行ったが、ここでも私は不満だった。ロックの持つ心の底から沸き立ってくるような興奮は感じられなかったのだ。まるでファミリー向けのポップス・コンサート。世界中の人々和気藹々。そんなもの私は見たくなかった。これはロックじゃない。そんな思いを抱きながらも、ポールのベースをかたどったピン・バッチなどを買ってしまっていたっけ。
CDが終盤にさしかかり、『雨粒を洗い流して』のイントロが始まったときに、パソコンのキーボードを叩く指が止まってしまった。思考も停止状態。ピアノの叩き出すリズムに続いて、ポールの力強いベースが加わる。そこに引っ掻くようなギター。さらには合わせるように、ピシッ、ピシッとシンバルが入ってドラムスが強烈にリズムを加えてくる。ロックだ。これこそがロックだ。イントロの盛り上げに続いてポールのヴォーカルが入ってくる。数行の短い詞なのだが、これを10分ほどの曲の中で、何回も繰り返してポールは叫ぶように歌う。「君の頭から雨粒を洗い流して 目をぬぐってベッドにもどる 朝の空は晴れ渡り そしてぼくはここにいる・・・」 なにか悲しいことがあったのか、ポール!? ひょっとしてジョージの死期が迫っていることを聞かされた直後の心境を歌ったものか?
30分ほどのセッションを短くして収録したものというが、これの完全版を是非聴いてみたいものだ。なんといってもドラムが狂ったように暴走している様が興奮を掻き立ててくれるし、ラスト近くのポールの悲鳴のように振り絞るスキャットは、何回聴いても悲痛の様相を呈していて、ジーンときてしまう。私はこの一曲のためにもこのCDは一生聴きつづけるだろう。愛する妻、そしてかつての盟友を失ったポールの痛みがヒリヒリと伝わってくるような名曲だ。