April.10,2002 ようやく見ることができたロジャー・ウォーターズ

3月31日 ロジャー・ウォーターズ (東京国際フォーラム)

        ロジャー・ウォーターズのピンクフロイド脱退は実は大きな変化だったということを改めて思った。一ベーシストの脱退では済まなかったのだ。ことに『狂気』 『炎』 『アニマルズ』 『ザ・ウォール』と続くピンクフロイドの黄金時代の曲のコンセプトは、実はロジャー・ウォーターズのものだったのだということに気がついた。ピンクフロイドの初来日を私は見ていない。私の見たのはロジャー脱退後の2回目の来日だけだったのだ。

        東京国際フォーラムに来たのは、ずいぶんと久しぶりだ。この前は、確かアラン・パーソンズのときだから、あれから何年経っているんだろう。今回はかなり前の方の席が取れた。こうやって舞台を見ると、舞台の高さが低い。60年代から加熱したロック・ブームのときは、こんな低い舞台は考えられなかった。当時は結構舞台に登ろうとする観客もあったわけで、その予防もあった。舞台の前には警備員がズラリと並んでいたものだった。今回は柵を持った警備員もいない。それと、以前は舞台に山と積み上げられていたスピーカーがほとんど見当たらない。こんなんで大丈夫なんだろうかと思うくらいスピーカーの数が少ない。それが始まってみると、まったく驚くほどの音響がある。音響技術の進歩とは凄いものだ。

        今回のライヴは1時間半ずつの2セット。計3時間という構成。場内が暗くなるとミュージシャンが、ゾロゾロとステージに上がる。ギター3人、キーボード2人、ドラムス、バック女性ヴォーカル3人といった構成。一段高くなった舞台中央にロジャー・ウォーターズがベース持って立つ。『イン・ザ・フレッシュ』から『アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール(パートU)』へとアジるように歌っていく。歳を取っても、その体はスリムだし、顔つきも鋭い光を放っている。本家ピンクフロイドがデイブ・ギルモアの泣きのギターとニック・メイソンの独特の思い入れたっぷりのドラムにあったのに対し、ロジャー・ウォーターズのライヴでは、まさにロジャーのアジるようなヴォーカルと、よりソリッドなギターや、キーボードや、ドラムスの音が聴く側に突き刺さってくる。なあるほど、ロジャー・ウォーターズの目指していたものは、こういう音だったのかと思う。デイブ・ギルモアのギターは思い入れたっぷりで、基本形はブルースなのに対し、ロジャーの方はもっと攻撃的。

        ロジャー・ウォーターズ脱退後の本家ピンクフロイドのステージが、照明プランが派手だったのに対し、ロジャー・ウォーターズはバック・スクリーンに曲に応じて映像を流すことを中心に据えたことによって照明プランは消極的。このへんが、メッセージ性を色濃く残したかったロジャーらしい。曲によってスクリーンの映像が変わるから、英語の歌詞がわからなくても飽きが来ない。

        第一セットはピンクフロイド時代のアルバムから。ほとんどがコンセプト・アルバムの形をとっているから、どうなるものかと思ったのだが、各アルバムからバラバラに持ってきて音の並びで繋げた印象。それでもセットの終わりはほとんど『炎』からのもので、ツインギターのリードが圧倒的。

        第二セットは『狂気』からの選曲が目立つ構成。『タイム』や『マネー』をで沸かせて、やがてロジャー・ウォーターズのソロ・アルバムからの曲がズラリと並んぶ。そして締めくくるようにしてまた『狂気』からの『狂人は心に』と『狂気日食』へ。アンコールは『イーチ・スモール・キャンドル』。歌詞をスクリーンに出して反戦の意思を込めた。

        ピンクフロイド時代のロジャー・ウォーターズのベースで印象的だったのは、やっぱり『吹けよ風、叫べよ嵐』のイントロ、ディンコディンコディンコディンコというリズムだろう。あるいは『マネー』のリズムなどが思い浮かぶが、意外と斬新なベースラインが少ない。曲を引っ張って行くような乗りのリズムではなく、ニック・メイソンのドラムと相俟って、沈み込むようなベース・ラインが特徴的。それがピンクフロイドだといわれればそうなのだが。今回初めて知ったのは、『タイム』のチッコチッコチッコチッコという秒針を刻むようなリズムはロジャーのベースだったこと。左手でミュートをかけてピックで弾いていたのだ。

        そのほか気に入ったところ。ロジャーがギターを弾くときにはベースに持ち替えたりして、ロジャーの隣で忠実に遣えていた感のある第3のギタリスト、アンディ・フェアウェザー・ロウが『マネー』で猛然と弾きまくったところ(弦切った)。『タイム』でのグラハム・ブロードのドラムスやりたい放題。

        現ピンクフロイドに較べると、ロジャーのカリスマ性が目立った形のライヴだった。惜しいのは、やっぱり女性バックヴォーカルを3人も入れておきながら『虚空のスキャット』を演ってくれなかったことか。うーん、やっぱりあれはリック・ライトの曲だからだろうなあ。つくづくロジャー・ウォーターズ在籍時のピンクフロイドのライヴを見たかったものだ。


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