June.8,2002 いぶし銀のギタリスト、ジミー・ヴォーン
5月25日 JAPAN BLUES CARNIVAL `02
日比谷野外音楽堂 1日目
今年のブルースカーニバルには、かのスティービー・レイ・ヴォーンのおにいさん、ジミー・ヴォーンが出るというので、仲間内では早くから話題になっていた。今は亡きスティービィーの残り香が少しでも嗅げたら―――そんな思いをみんなが持ったのは当然だろう。スティーヴィー・レイ・ボーンのギターをコピーさせたら、この人以上の人はいないだろうという我らの仲間、スーパー・イラストレイターの水野さんをはじめ、なんと仲間10人で日比谷野音に押しかけるということになってしまった。早めにチケットをゲットしたので、前から5列目ど真ん中。絶好の位置だ。
まずは、日本のKOTEZ&YANCYが舞台に上がる。おやおや、いつものようにデュオかと思ったらバンド付き。ブルースハープのKOTEZと、キーボードのYANCYに加えて、ギター、ベース、ドラムス、サックス、トロンボーンが入る。『On The Sunnyside Of The Street』 『I Want You By My Side』 『Fever』とスタンダード・ナンバーが続くのだが、その解釈の仕方が実にオリジナルで、彼ら独自の世界を作っている。毎度のことながら、「ブルースって、こんなのもありなんだ」と思う。都会的で洒落ていて、聴く者をいい気持ちにさせる。5人が加わったバンド編成も悪くないが、このふたりは、ふたりだけで完成している音楽だと思うので、いらないと言えばいらないかもしれない。ラスト・ナンバーはアニメ『はじめ人間ギャートルズ』のエンディング・テーマ『やつらの足音のバラード』。「♪なんにもない なんにもない まったくなんにもない・・・・・」というこの歌。あのアニメ、よく見ていたんだよなあ。最後にあの曲が流れると、ドタバタだった内容から一転、遠い原始時代の荒涼とした風景が浮かんだものだったっけ。KOTEZ&YANCY、よくこの曲を憶えていたものだなあ。
司会は今年もこの人、後藤ゆうぞう。それにカメリア・マキ。マキちゃん、今年は浴衣姿ではないのね。ノースリーブにギター抱えて颯爽と舞台に立つ姿、カーワイイー! 今年も後藤ゆうぞうのハープとヴォーカルにギターを合わせる。『主催者からのお知らせブルース』だ。「♪主催者 からのお知らせ きょうの 素敵な想い出 今年も 楽しいお土産 Tシャツ売ってる 今年は4色」 はいはい、毎年のことね。つづいて『主催者からのお知らせブルース・パート2』 こちらはスロー・ブルースで場内禁煙を訴える。よく見ると舞台の両袖には、赤く[禁煙]の文字が見える。これは助かる。毎年煙草の煙には辟易していたのだ。屋外というのは風があり、もろに煙が顔にかかるのだ。と言っても、あいかわらず無視して煙草を吸う奴らは多い。警備員も注意しない。マナーは守って欲しいよなあ。
「時は昭和の26年 まだ春浅いダラスの街で オギャーと生まれた元気な子 ジミー・ヴォーンと名付けられ 小学校に入学 やがて不良の仲間入り・・・」 毎年、誰の紹介でも同じやんか―――と後藤ゆうぞうの大阪弁につられて、こちらも大阪弁の突っ込みを入れたくなってしまうが、すっかり聴き慣れてしまったこの浪曲風のフレーズ、楽しいんだよね。「アー・ユー・レディ! 大きな拍手でお迎えください! スティービー・レイ・ヴォーンにギターを教えた男 こんな兄貴が欲しかったー! フローム・オースティン、テキサス! ジミー・ヴォーン!」
舞台に上ったのは、ギター&ヴォーカルのジミー・ヴォーン以外に、ドラムス、ハモンドオルガン、それにベースか?と思ったひとりはサポートのギター。へえー、ベースなしかあ。ハモンドのフットでベース代わりにしているらしい。まずはインストの『DIRTY GIRL』から。シャッフルのリズムをドラムスが叩き出し、ハモンドが気持ちよく乗る。そこに派手さはないが、渋いジミーのギターが被さる。2曲目の『Moter Head Baby』からヴォーカルをとる。ファビラス・サンダーバーズ時代にはギターだけに徹していたから、ジミーが歌うようになったのはソロになってから。決してヘタではないのだが、ちょっと個性に欠けるか? 彼にとって一番辛いのは、どうしても弟と較べられてしまうこと。3曲目にあえて、スティービー・レイ・ヴォーンのオハコだった『Texas Flood』を持ってくるとなると、どうしても比較してみたくなってしまう。スティービーの手数が多いギターに対して、ジミーのは割と正攻法といったギターを弾く。いやいや、決して悪くないのだよ。上手い。上手いのだ。歌もクセのある歌唱法だったスティービーに対して、嫌味のないきれいな歌い方をするのがジミー。その次の曲あたりからバック・ヴォーカルの男性がふたり入った。ところがどうも私にはこのふたりは不要にしか思えなかった。果たして、本当に必要かあ? このふたりを入れるくらいならベースをひとり入れて欲しかった。ヴォーカルが女性のルー・アン・バートンに変わる。最新のアルバムでもハイライトだったのが、彼女がヴォーカルをとった『In The Middle Of The Night』。伸びのある高音の彼女の歌声に、ジミーの渋い声が加わると、痺れるようなハーモニーが生まれる。ラスト前がまたご機嫌だった。『Boom−Bapa−Boom』をルー・アン・バートンとふたりの男性バック・ヴォーカルを加えての大盛り上がり大会。帰りがけに、「ジミー・ヴォーンではなくて地味・ヴォーンだ」などと悪口ぬかした客がいたが、わかってないなあ。
後藤ゆうぞうとカメリア・マキちゃんの『ブルース・クイズ』コーナー。今年は『歌うブルースクイズ』だ。『Sweet Home Chicago』を歌ってみせる。
「♪Come on Baby don`t you want to go
Come on Baby don`t you want to go
Back to the same old place
Sweet home Chicago」
この3行目が、おおもとのロバート・ジョンソンでは、歌詞が違う。それを歌ってみせろというのだ。これは、なかなか難易度が高い。ところが、ちゃーんと隣にいたウタムラさんはわかっていたから凄い。一人目に挑戦した男の人は、「♪Back to the land of Los Angels」と歌っていた。おしいなあー。正解は「♪Back to the land of California」なんだよねえ。二人目の人で正解。ロバート・ジョンソンのシカゴはイリノイ州のシカゴではなくて、カリフォルニアにあったシカゴなんだそうな。
さて、トリは一昨年も来たバディ・ガイだが、そのときとあまり変わっていない。乗りのいい『Watch Yourself』から入って盛り上げたものの、キチンとエンディングを決めないままにスロー・ブルースの『5 Long Years』に入るという了見がわからない。このころは、もう酔っ払った客が大騒ぎしている最中。バディ・ガイがいくら「シッ、シッ」と言ったところで収まらない。一昨年も書いたが、ここはライヴハウスじゃないんだから、それなりの構成を考えてくれないと困る。ギンギンにギターを弾いたかと思うと、ほとんど投げやりになってしまったりする。シールドで弦を叩いたり、シールド引き摺り客席乱入も相変わらずなのだが、こういう奇をてらった演出もキチンとギターを弾いてからやって欲しい。ダラダラしたステージが続いて、いい加減飽きてきてしまった。始まったときから、すぐ隣にいたふたりの女性がペチャクチャお喋りが止まらなかったのだが、バディ・ガイとなって特にひどくなった。やれ去年見たクラプトンがどうだったの、B・B・キングがどうのと、まるで関係ない話をしている。そのうるさいこと。気が散ってステージに集中できない。キーボード、サックス、サポートギターのソロの方が盛り上がるというのはどういうことか? ジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトンのマネを演ってみせるのも一昨年と同じ。それがまた中途半端なのがイライラする。果ては客にピックを投げて、サイン大会。おいおい、それで終わりかよ? サインを貰いに前に出て行った客はいいかもしれないが、残された野音いっぱいのほとんどの客は、ボンヤリとバツクバンドの演奏を聴くだけ。
ハネてから、仲間と銀座の居酒屋で呑む。ウタムラ氏によると、ジミー・ヴォーンは先日のクアトロのときとは別人のようにいい出来だったとのこと。ラッキー! それにしても、バディ・ガイだ。今度来日したときは、行くの止めようかなあ。というわけで、2日目のレポートに続く。