November.1,2002 GO!GO!7188狂騒記

        この1週間というものは、私の中ではたいへんなことになっていた。事の起こりは、ちょうど1週間前の10月25日の金曜日の夜のことだ。仕事を終え、片付けもあとは排水溝の掃除だけとなっていた。その前に、ちょっと休憩と思い、何気なくテレビをつけたのだった。ちょうどテレビ朝日が写り、『ミュージック・ステーション』が終わるころの時間だった。最後のミュージシャンが今、演奏を始める瞬間にスイッチを入れた形だった。女性ふたりが、それぞれギターとベースで、ドラムスが男というスリーピース・バンド。『浮舟』という曲名が見えて演奏が始まったら、私はこの曲に夢中になってしまった。なんとも日本的な歌詞をギターの女性が歌っていく。なにか懐かしいような昭和演歌、というよりは怨歌というような趣き。それをエレキ・ギターをかき鳴らしながら、ややぶっきらぼうな歌い方で歌っていく。ベースは重くうねり、ドラムスは変幻自在でやたら手数が多くて、抜群のセンスをしている。

        見終えてからもメロディーが頭に残り、猛烈にこのCDが欲しくなってしまった。翌26日土曜日、CDショップに『浮舟』という曲名だけを頼りに行ってみると、新譜のコーナーであっさりと見つかった。バンドの名前はGO!GO!7188(ゴーゴーナナイチハチハチ)。さっそく家に帰ってプレイヤーに入れ、『浮舟』と、カップリング曲『パパパンツ』を飽きることなく繰り返して聴いてしまった。このバンドに関する情報をもっと知りたい。今や便利な時代になったものでインターネットがある。さっそく検索してみると、GO!GO!7188の公式サイトが存在するのがわかった。そこにアクセスしてみて愕然としてしまった。私は、このバンドはデビューしたての新人バンドだとばかり思っていたのである。デビューは何ともう2年前。アルバムが『蛇足歩行』 『魚拓』と2枚出ていて、さらにはカヴァー曲集アルバム『虎の穴』、去年の日比谷野音のライヴDVDまで出ている。

        27日日曜再びCDショップへ。前述の3枚のCDと、DVDを購入。帰宅する前に喫茶店で一息したら、有線から『浮舟』が流れてくるではないか! どうやら今ヒットしているらしいのだ、この曲は。

        帰宅して全てを聴いてみると、『浮舟』は彼らとしては、やや新境地という作り方。『浮舟』は日本的なメロディーと歌詞を意識的に作ったらしい。歌い方も、他の曲とはやや違う。それでも、これらを聴けば聴くほどにこのバンドが面白くなってきた。60年代や70年代の日本のポップスを70年代のロックに味付けしたとでもいうのだろうか。それもヤワな味付けではない。時にハード・ロック、時にパンクになっている。ベースの浜田亜紀子が作詞をして、ギターの中島優美が作曲してメイン・ヴォーカルをとる。そこにターキーがドラムスを合わせるという形。女の子(ふたりともまだ20代前半だ)と思ってあなどってはいけない。ギターもベースもかなりの硬派なスタイル。中島優美のぶっきらぼうのように聞えるヴォーカルも気持ちがいいし、浜田亜紀子のコーラスがかぶると、ますますよくなる。そのふたりをサポートするよなターキーのドラムスがこれまた絶品! このドラムスは、びっくりするほどセンスがいい。

        カヴァー曲を列挙すると、これまたびっくりするのではないだろうか? 加山雄三『蒼い星くず』 『君といつまでも』、ザ・ピーナツ『恋のフーガ』、奥村チヨ『恋の奴隷』、タイガース『君だけに愛を』、スパイダース『バンバンバン』、山口百恵『ひと夏の経験』、ピンク・レディ『ベッパー警部』、チューリップ『心の旅』、さらには『ひょっこりひょうたん島』 『妖怪人間ベム』 『キューティー・ハニー』・・・って、こいつら何者だあ! それも、原曲の雰囲気を残しながらGO!GO!7188なりの解釈を加えた、なみなみならぬ出来になっている。とくに私は『恋のフーガ』のパンク的解釈に痺れてしまった。

        まだ二十歳そこそこのバンドが、これらの古い曲を体験してきたとは思えないのだが、ひょっとするとこの子たちの親が好きだった60年代、70年代歌謡曲とロックをそのまま聴いて育ち、こんなバンドになったのかもしれない。本来、70年代に登場していてもおかしくなかったスタイルのバンド。それが時を越えて21世紀に登場してきた。きっと60、70年代の音楽にドップリだった、今のおじさんやおばさんなら絶対に気に入る音だと思う。おじさんうれしい。


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