May.16,2003 キング・クリムゾン公演に関する不満

        『三遊亭白鳥とひみつのそば屋』を催した翌日、私のスケジュールは混んでいた。少々二日酔いぎみの頭で翌日の仕込みを終え、紀伊国屋ホールで入江雅人のひとり芝居を観て、さらにその足でキングクリムゾンのライヴを観る為に、三軒茶屋の昭和女子大人見記念講堂に向った。

        途中でいくつかの買い物をしてから昭和女子大の中に入り、人見記念講堂の前に着いたのは開演15分前だった。会場の前には長蛇の列が続いていた。私も最後尾に着く。ところが、それが遅々として前に進まないのだ。開演時間はどんどん迫っている。どうしてこんなに列の進行が遅いのだろうと思ったら、入口でのカメラ・チェックが異様に厳重なのだ。私も買い物が多かったのでトート・バッグを持っていた。チッェクをしている係員に差し出すと、かなり長い時間をかけて見ている。もちろん、カメラも録音器具も持っていないから、そのまま入れたのだが、これを入場者全員に繰りかえしているのである。

        会場に入って席に着いても、アナウンスが何回も流される。カメラでの撮影や録音をしている人が発見されたら、ただちに演奏は中断させると、かなり高圧的な物言いなのである。キング・クリムゾンのロックを楽しみにしていた私は、ここでイヤな気分になった。それは確かに肖像権の問題もあるだろうし、海賊盤が出まわる問題もあるだろう。しかし、ここまで厳重にする必要があるのだろうか? せっかく浮世の憂さから逃れて音楽を楽しみに来たとういのに、まるで入場者は総て犯罪者扱い。ここは、いったい何なのだ? キング・クリムゾンのプロモーターは今回から別の事務所に替わった。どうも今度のプロモーターは、お客さんにコンサートを楽しんでもらおうという配慮に欠けているのでないだろうか?

        だいたい、現代は携帯電話にもカメラが内蔵されている時代だ。それでは、携帯電話も総て入口で主催者に預けなくてはならないと言うのか? 主催者は、入場者数千人の携帯電話を責任持って総て管理が出来るのか?

        録音だって、これだけ続々とコレクターズ・ボックスを出しつづけているキング・クリムゾンだもの、盗み録りしてもあまり意味がないでしょ。

        いやーな気分のまま、ほぼ定刻、ロバート・フィリップが出て来てひとりでインプビゼーションを始める。悪くないのだが、これが10分も続くとなると、さすがに飽きてきた。他のメンバーが出て来てカルテットでの演奏が始まったのだが、これがまた私には不満だった。私の一番好きなキング・クリムゾンは8年前のダブルトリオでの来日のときのもの。ギター2、ベース2、ドラムス2という、お互いにライバルがいるという緊張した関係が、ピリピリとした空気を醸し出していて、一時も気合を抜けないというスリリングな興奮があった。それが3年前の来日と、今回の来日には、あのときの感動がまるで無い。

        私は最近のキング・クリムゾンのアルバムを嫌いなわけではない。あいかわらず凄いことを演っているなと思うし、好んで聴いている。しかし、異論はあるだろうが、私には今のキング・クリムゾンのライヴは面白いと思えないのだ。前回もそうだったのだが、盛りあがりもなく「えっ! これで終わりなの?」というところで終わってしまった。

        昭和女子大のキャンパスを出て、人ごみを嫌って三軒茶屋とは反対方向に歩いた。今聴いたばかりの演奏を思い出しながら、もう、これで次回の来日には行かないだろうなと思った。

        会場で売っていたCD付きのプログラムは買ってしまった。ここでしか手に入らないもので、未発表の音源が入っているのはうれしかったが、インタビュー部分の翻訳くらい載せて欲しかったな。 


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