June.12,2004 脳梗塞のブルース

5月23日 Japan Blues Carnival '04

        今にも雨が降り出してきそうな空。毎年5月下旬に開かれる野音のブルースカーニバルは、雨の心配と切っても切れない。去年はパスしてしまったが、今年はデレク・トラックスのバンドが出るから、どうしても行きたい。手に入れたチケットと空を見つめて心配はつきない。

        当日は曇り空。夜に入って雨になるという予報。もしものことを考えてカッパ持参。それにしても寒い! コーヒーをポットに淹れてくればよかったなあと思うくらいの肌寒さである。席はBブロックの中央、けっこう前の方だった。これならオペラグラスは必要ないだろう。

        定刻3:30。ブルース・ハープの音が響き渡り、後藤ゆうぞうが舞台に出てくる。「きょうのトップバッターはこの人、大きな拍手でお迎えください・・・・・あっ、オレや」 そう、千秋楽は司会の後藤ゆうぞうとカメリア・マキちゃん(G)コンビにKey、B、Dsのバンドがついた後藤ゆうぞう&東京スペシャルフレンドバンド。『ゴトウゆうぞうのLORD,I WONDER』 『ルート66』 『ジャンバラヤ』の3曲。主催者のM&Iに特別に頼んで、15分だけという条件で出させてもらったとか。笑いをとると同時に、お客さんの緊張を取る、いいトップバッターぶり。もっとも、日曜の午後、肌寒いとはいえ、ここは野外でもあるし、お客さんたちは最初からリラックス・ムード。ビールを飲んでいる人も多い。

        続いて、『主催者からのお知らせブルース』。「♪携帯電話を切っておいてね。切っておいてと言っても包丁で切ってはあきまへん〜」 ぶはははは。今年のTシャツは評判がよかったのか、作る枚数を減らしたのか売り切れとか。よかった、よかった。場内は禁煙。煙草を吸う人は後方の喫煙場所で吸ってくれと歌う。何年か前までは野音は喫煙OKだったと思う。煙草嫌いの私は、近くの席から風で流れてくる煙草の煙に辟易していたものだ。それでもこれを守らない人はいるようで、係員が煙が上がるのを見ると注意して歩く。それでもゲリラ的に吸う人がいるんだから、始末に悪い。分煙が徹底されはじめたのは時代なんだなあと思うが、あとはマナーの問題。

        二番手がブラック・ボトム・ブルース・バンド。このバンドを観るのは、4年前の、やはりここ日比谷野音の『ブルーズに乾杯Vol.1』以来。そのときの写真は宇多村さんが残してくれています。あれからCDが出たりしていたのだけど、4年経って、さらにパワーが増した感じ。6月に出るニューアルバム『ワッショイ★スター』の曲から『ワッショイ・ブギ』。ワッショイという日本のお祭りの掛け声と、ニューオリンズ・サウンドの融合が面白い。お客さんとの掛け合いのコーナーも楽しく、このバンド、これからも注目! それにしてもホーン中心になると熱狂のサウンドって感じになるものだね。

        後藤ゆうぞうは、大阪弁で沖縄ミュージックを演る不思議な存在。さらにはブルースにも詳しい。沖縄の楽器三線でブルースまで弾いちゃう。『スイート・ホーム・シカゴ』をシカゴ・スタイル、メンフィス・スタイル、Tボーン・ウォーカー・スタイルで弾きわけるあたりは、なかなかの役者ぶり。

        力強いドラムスの音が響き渡る。おおっ、正木五郎じゃないか。そこにバカボン鈴木のベースが絡む。近藤房之助&His B&Oは『ストーミー・マンデー』からスタート。いきなり硬派のブルース・スタイルにどっぷり。房之助のギターが泣く、吼える。ブルージーな40分間。いいねえ。お酒なんか飲まなくても、十分に酔ってしまった。

        そしていよいよ待ちに待ったデレク・トラックスの登場。ニュー・アルバムの曲が中心なので、予習していった過去二枚のアルバムからの曲はほとんど聴けず。といっても、ラストの『ジョイフル・ノイズ』は聴き応えがあった。スタジオ版よりもはるかにエキサイト。バック・バンドの技術や乗りも申し分ないが、このデレク・トラックスというギタリストの凄さは筆舌につくし難い。そのフレーズたるや、聴いていて脳内血管ぶちきれ級の興奮度なのだが、この男のクールな表情はどうだろう。興奮した様子もせず、またニコリともせず、ひたすら無表情でギターを弾きつづけるのだ。問題はリードヴォーカルの男。歌は決して下手ではないのだが、パフォーマンス不足なのだ。デレク・トラックスの無表情ギターはそれでも絵になるのだが、あのヴォーカルは困る。カラオケ屋で歌っているのではないのだから、もう少しパフォーマンスが欲しい。

        デレク・トラックスの後半あたりから、チラチラと雨が降り出した。カッパを着るといったほどでもなかったのでそのまま聴きつづけた。寒さはさらに増し震えがくるほど。隣に座っているグループはビールからワンカップになり、かなり酔っ払っている。煙草と違って、ブルースカーニヴァルはお祭りみたいなものだから、酒はかまわないと思うのだが、ここまでヘベレケに酔っ払われると困る。それになぜか私語が多い。ちゃんと聴けよ。デレク・トラックスが凄いプレイをしているんだから。

        オーティス・ラッシュのステージの準備をしているところで、酔っ払った男が後藤ゆうぞうに向かって何か叫んでいる。どうも、司会なんてどうでもいいから早くブルースを始めろということらしい。しかしセッティングの間の時間つなぎなんだから、しょーがないのにね。ブルース・クイズは、オーティス・ラッシュが今回日本に来るにあたり新調したギターは何かという問題。「布袋モデル!」なんていう珍回答が出るあたりが、いつものブルース・カーニヴァルらしい。

        脳梗塞で倒れたというオーティス・ラッシュ。ジャパン・ブルース・カーニヴァルのためにリハビリの日々をおくって、やって来てくれた。バックバンドはおそらく前回来日のときと同じメンバーだと思う。力強いドラムスからイントロ、そしてオーティス・ラッシュのサポートのためにやってきた、やはり左利きのギタリスト、カルロス・ジョンソンが加わって一曲。いよいよオーティス・ラッシュの登場だ。このころには雨はまた上がっていた。オーティスの具合が気になる。日本人の奥さんと、スタッフに両脇を支えられながら出てくる。椅子に座って「サンキュー」と何回も繰り返すのだが、やはり呂律が回っていないようだ。しかし、想像していたよりは悪くない。ギターは弾いているマネだけして音は出していないらしい。それでもカルロス・ジョンソンが、オーティスの音をほぼ忠実に再現している。というよりも、本家よりも上手いかも知れない。ヴォーカルの方はいける。呂律が回らないながらも搾り出すように歌い上げていく。そのひたむきな姿に涙がこぼれそうになる。これぞブルースじゃないか。

        最後は、出演者が全員が出てきて『モジョ・ウオーキン』のセッション。ソロを次々に回すが、やっぱり目立ったのがデレク・トラックス。あいかわらず何が楽しいんだかわからないといった表情で、とんでもないフレーズを弾きまくる。凄いギダリストが現れたものだ。

        地下鉄で帰宅。地上に出たら雨が降っていた。天もオーティスに味方してくれたのだろう。オーティス、完全復活してまた、私たちの前に出てきてくれ!


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