September.18,2002 くず餅

        東京のくず餅というのは、京都あたりのものと違うというのは知らなかった。柳家小三治の落語のマクラを聴いていて、初めて知ったというありさま。いや、もともと、くず餅自体にそれほど関心がなかったといっていい。とはいえ、くず餅は我が人生でけっこう食べている。

        くず餅といえば、なんといっても亀戸の船橋屋であろう。東京のくず餅は、葛ではない。小麦のでんぷんを発酵させたものだ。これにきな粉と黒蜜をかけて食べる。そう、まずはきな粉、次に黒蜜の順番である。この順を間違えて、最初に黒蜜、次にきな粉にしてしまうと、きな粉にむせってしまうことになる。とはいえ、なかなかきな粉を黒蜜が包んでくれないのがもどかしい。

        くず餅を食べるのには楊枝がいい。箸などという大仰なものは似合わない。スプーンでもおかしいし、フォークで食べるのはなんとなく野蛮な行為のように思える。ここはやっぱり楊枝。楊枝の先で突き刺して口に運ぶ。口一杯に広がる黒蜜の甘さ。冷たいくず餅のモチモチとした感触。ザラザラと残るきな粉。ここで熱いお茶を一杯。これぞ江戸前の味。

        十分にきな粉を黒蜜で混ぜ合わせたつもりでも、ときどき、きな粉に咳き込んでしまうことがある。それもまたくず餅の風情といえば風情。

        小三治によると、東京以外の人は、くず餅を臭いと感じるそうなのだが、私は一度も臭いと思ったことがない。発酵食品だと知って初めて、ああそういえば、独特の臭みがあるかなあと思った程度。改めて匂いを嗅いだことなど無かった。この夏、ほんとうだろうかと思い、きな粉も黒蜜もかけないで、くず餅の匂いを嗅いでみた。無臭といってよかった。これのどこが臭いというのだろうか? 冷蔵庫に入れないで数日放っておくと匂いが出るのだろうか?

        くず餅は嫌いではないが、かと言って、毎日でも食べたいというほどのものでもない。ときたま来客などがあったおり手土産に頂戴して、突然に冷蔵庫の中で見つかったりする。仕事が一段落して、さてお茶でも飲もうというとき、「そういえば、貰い物のくず餅があったっけ」と思い出し、冷蔵庫の中から、よーく冷えたくず餅を取り出す。熱いお茶に冷たいくず餅。ふと庭など眺め(ウチには庭などないが)、「そろそろ秋だな」などと呟いてみる・・・・・くず餅って、そんな感じがしません? 


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