June.30,2006 フロート

        喫茶店のメニューにフロートってあるでしょ。コーヒーフロートとか、コーラフロートとか、オレンジフロートとか、ソーダフロート(クリームソーダね)とか、氷を入れた冷たい飲み物にアイスクリームを浮かべたもの。あれってあまり好きじゃなかったんですよ。アイスクリームは、おそらく私がどんな食べ物が好きかと質問されたら迷わず「アイスクリーム」と答えるだろうと思うくらい好きだし、夏といったら冷たい飲料水でしょ。しかもアイスクリームと清涼飲料水を別々に取ると高くつくのに、フロートにすると割安感があってお得だとは思うんですよ。でも、これが気に入らないんだな、私は。

        つまりですね、クリームソーダを頼んだとするでしょ。ソーダ水もおいしいし、アイスクリームもおいしい。でもソーダ水とアイスクリームが混じりあってしまった味はいやなんです。人によるとあの交じり合ったところがおいしいんだと言う人もいるようですが、私は断固としていやだ! となると、どういうことになるか。アイスクリームが解ける前に食べてしまおうという意識が浮かぶんですね。あの、他では見られない柄の長ーいスプーンで懸命にアイスクリームがソーダに溶け出さないうちにと夢中でアイスクリームを食べるわけです。もう時間との闘いと言っていい。食べ終わったときは、ハアハアハアと息をついている始末。しかるのに、ソーダ水にとりかかるわけですが、悲しいかなソーダ水は元の爽やかさは無く、なんだかアイスクリームが溶けてモチャーとした味になってしまっているわけですよ。これが嫌なの!

        こんな話を人にしたら、「そんなにアイスクリームの味が混じり合うのが嫌なら、先にストローで底の方のソーダ水を飲んで、それからアイスクリームを食べればいいじゃないかと教わった。そうかあ、そうだよなあ、なぜそれに気がつかなかったんだろう。でもなあ、水分の無くなったグラスからアイスクリームを掻き出して食べるというのもなあ。

        ところで、最近になって宗旨替えをしたというか、去年からフロート類でもコーヒーフロートだけは注文するようになった。アイスクリームが適度に溶けたアイスコーヒーはおいしいということに気が付いたのだ。だって暖かいコーヒーにクリームって合うじゃないですか。アイスコーヒーにはアイスクリームでしょ。そうなるとあとは、なし崩し状態でどうでも良くなって来てしまった。ソーダ味のアイスクリームがあってもいいじゃないか。オレンジ味のアイスクリームがあってもいいじゃないか。コーラ味のアイスクリームがあってもいいじゃないか。こうして、いい歳をした男が最近はなぜか喫茶店でフロートを飲んでいるんです。

        でも・・・・・どうしてもいやなことがある。飲み終わったフロート類って、下に残った角氷にアイスクリームと飲み物によってつけられた泡のようなものが付着していてきれいじゃないんだよね。


June.17,2006 冷凍みかん

        スーパーやコンビニでやたらとかかっているGTPの『冷凍みかん』という曲が頭の中から去らなくなってしまった。ついにはCDも買って、こうやってパソコンのキーボードを叩いているときも流しっぱなしだ。こうなると冷凍みかんが食べたくてたまらない。上野へ落語を聴きに行ったついでに上野駅へ立ち寄ってキヨスクで冷凍みかんを購入しようと思ったのだが、売っていない。駅構内に行けば売っているかと思い入場券を買って駅のホームにも行ってみたが見当たらない。アイスボックスは置かれていたがアイスクリームしか入っていない。家に帰ってからインターネットを見てみるとネットでも冷凍みかんは売られており、注文すると宅配便で送ってもらえることを知った。でも送料を支払ってまで食べたいという気にはなれなかった。

        ひょっとすると、まだ冷凍みかんの季節ではないのかも知れない。そういえば、私の冷凍みかんの思い出といえば、まさしく夏だった。小学生のころ両親に連れられて夏休みには旅行に出かけた。上野駅から高原の避暑地へ。東京駅から伊豆方面の海へ。両国駅から千葉方面の海へ。そんなとき必ずといっていいほど我家では駅の売店で冷凍みかんを買った。GTPの歌詞では冷凍みかんは4個入りである。実際、今売られているのは確かに4個入りのようだ。なるほど列車のボックスシートは4人がけ。4個入りは妥当な数量なんだろう。しかし記憶違いなのかもしれないが、私の記憶する冷凍みかんは5個入りだったような気がする。今よりも家族構成が多かった昔は子供は二人がけのシートに3人座った。私の家族は両親と私、それに妹の4人家族だったが旅行に出るときは親戚の子供も一緒にということもあったから、よくボックスに5人ということも多々あった。

        赤い網の中に入った冷凍みかんを列車の窓に吊るす。買ったばかりの冷凍みかんは凍り付いているからまだ食べられないのだ。昔の列車にはクーラーなんてものは無く、天井に取り付けられた扇風機が暑い空気をかき回しているだけ。当然窓はいっぱいに開けられ、そこから入ってくる風に当たると涼しい。だから窓の景色を眺めるのも楽しかったが、風を感じるのも気持ちよかった。ついつい窓から頭を出して両親から注意されたり。しばらく乗っていると、冷凍みかんも溶けて来る。夏の車内で食べる冷凍みかん、好きだったなあ。つめ〜たくて、子供の手では皮が剥けなくて、母親に剥いてもらった冷凍みかんを口に放り込む。いきなり噛むと歯に沁みるから、みかんをひと房口に入れたら、口の中で転がしてその冷たさを楽しむ。口の中の熱で溶け出したところでサクッと噛む。それでも冷たい。歯に沁みる。うっとなった瞬間に今度はみかんの甘さがふわ〜っと口の中に広がる。これが快感なんだよなあ。

        今、クーラーの効いた車内で食べる冷凍みかんてどんなもんだろう。そんなにありがたみがないような気がする。あの暑かった夏、列車の窓に揺れる冷凍みかんの網。ただのおじさんになってしまった私の感傷なのかも知れない。


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