May.20,2001 リヴ・タイラーちゃんにキャイーン

        「トラフィック」っていう映画は確かにアカデミー賞の候補になるだけあって、よく出来ていた。三つの話が別々に進行するというスタイルなので、ちょっと途惑いを覚えたのだが、ドラッグというテーマをめぐって交錯するこの映画は、今までにない手法で描かれた問題作だった。ただ、面白かったかというと、私には今ひとつ入っていけないものがあったのだが・・・。

        その中でドラッグ中毒になった高校生の娘を持った父親役のマイケル・ダグラスは儲け役とは思ったけれども、近頃のマイケル・ダグラスってなんだかつまんない映画が多い。「トラフィック」、マジになりすぎだよー。そんな「トラフィック」公開中の影で、ひょいと上映されはじめたのが「ジュエルに気をつけろ」。マイケル・ダグラスが設立した新しい映画制作会社の第1作目。何か、思いっきり力の入っていない映画を1作目に持ってくるのが、ちょっとマイケル・ダグラスらしくなくて不思議。しかも、しっかりと出演までしていて、今まで見られなかったコメディ演技に徹しているのだから、この人何考えてんだか。

        なんのことない、この映画、リヴ・タイラーの魅力だけで出来ているようなシロモノで、いわゆる悪女もの。父親のスティーヴン・タイラーゆずりのセクシーな目と唇(?)で男たちをたらし込んでいく話。それにしてもリヴ・タイラーちゃんの成長したこと! 二枚目のバーテンダー(マット・ディロン)をたらしこんだあたりはいいとして、トラブルが発生するとチビでマゾの弁護士(ポール・ライザー)に言い寄るわ、デブの刑事(ジョン・グッドマン)に言い寄るわで、まったく節操なし。それがすべて彼女の目的というのが、理想の家を手に入れることにあるというのだから、女っていうのは分らない。男は、家を手に入れるための道具としてしか思ってないんじゃないの、このキャラクター。でも、そんな彼女でもウインクされれば、キャイーン、キャイーンと従ってしまう男の気持ちって、分かるなあ。

        貧乏なバーテンは車も持っていない。「買ってよ」と言っても、「そんな贅沢なものは買えない」と言われたら、ひょいと出かけて、どこかから車を運転してくる。「友達から借りたの」。おいおい、友達って誰のこと? 返さなくてもいいみたいだけど・・・。でもって、自分で泡だらけのスポンジ持って、お決まりの洗車シーン。アメリカ人ってセクシーな女の子に洗車させるシーン好きだねえ。

        理想の家を手にいれるためには、泥棒に入ってでも家具や電気製品を手にいれる。「理想の家には、DVDプレイヤーがなくちゃだめよ!」って、そんな程度でいいなら、オジサンが買ってあげるからリヴ・タイラーちゃん、こっちにいらっしゃいって!

        でもって、最後は、バーテン、弁護士、刑事、それにマイケル・ダグラスの殺し屋、さらには、突如出現の第5の男まで加えての鉢合わせ。火を吹く拳銃、ショット・ガン。罪な女だねえ。でも、悪女と分っていながら、男ってこういう女に弱いんだよね。

        マイケル・ダグラスも肩の力を抜いてコメディ演技を楽しんでいるし、それにしてもあの最後に出てきた男、G.Iカットに黒縁メガネ、白のワイシャツでショットガンって、マイケル・ダグラスの主演作『フォーリング・ダウン』のキレちゃったオヤジそのまま。遊んでますねえ。この調子で頼みますよ、マイケルの旦那!


May.15,2001 日本映画、危うし!

夜のガソリンスタンドの前、4人の若者が立っている。顔を見合わせ、このガソリンスタンドを襲いに、駆け出したところでストップ・モーション。そして、文字が浮かびあがる。「なぜ襲撃事件を?」

コンビニ。カップラーメンをつまらなそうに食べるさきほどの4人。「退屈だなあ。また暴れるか?」

ノイジーなBGMをバックに、ガソリンスタンドを襲い、器物を破壊しまくりながら、売上金を強奪しようとしている4人。そこに、また文字が浮かび上がる。「なんとなく」

        韓国映画『アタック・ザ・ガス・ステーション』のオープニングだ。去年あたりから、けっこう韓国の娯楽映画が日本でも公開されるようになり、私も何本か見た。それは、この欄で書いてきたとおり。ただ、私にはそれらの映画はどれも世評ほど面白いとは思えず、私の鑑賞眼の方が落ちているのだろうかと不安になった。私には、それらの映画は韓国人的生真面目さが前面に出すぎているようで、見ていて疲れてしまうのだった。韓国人という国民性は、肩の凝らない映画は作れないのではないだろうかと疑ったりした。特に韓国人のユーモア、[笑い]を見てみたい。そんなことを、この欄でも書いたはずだ。

        そんな私の欲求を、「こんなものもあるよ」と提示してみせてくれたのが、『アタック・ザ・ガス・ステーション』だった。オープニングのカッコイイこと。そして、ガソリンスタンドを襲う4人の面構えのいいこと。そして見ていくにつれ、この4人のキャラクターの個性が際立って描かれていることに感心してしまう。それは4人の過去が、それぞれ挫折の上に成り立っていることが明らかにされるにつれ、より深いものになっていく。

        リーダーのノーマークは、かつて野球選手を目指して挫折した過去。ペイントは、画家を目指していて親から反対された過去。タンタラはロックバンドを目指して挫折した過去。そして私が最も気に入ったのはムデボ(無鉄砲)。貧乏人の子供として生まれ、学校でも先生から差別されて過ごした過去を持つこの男。この映画の、[笑い]の部分は、ほとんどこの男のパートから出で来る。角棒を持ち、人質の見張り役を担当するこの男からは、鈴木清順の『けんかえれじい』に共通するような、ユーモラスな暴力が感じられる。

        ひと夜の、あるガソリンスタンドをめぐる空間で、さまざまな人が出入りし、さまざまな事件が起こる。そのエピソードのひとつひとつが、考えさせられるテーマを持っていて、しかも[笑い]の要素を含むエンターテイメントとして観客に提供してみせる。これだよ、これ。こういう映画が見たかったのだ。なあんだ、韓国映画、ちゃーんとやるところでは、やっているんじゃないか! これに較べると、昨年の日本映画『スペース・トラベラー』の薄っぺらな事! こちらは、銀行強盗に入る話だったけど、見ていて恥ずかしくなるくらい、つまらなかった。今や、韓国映画に負けちゃってるぞ! 

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