Junuary.18,2003 70年代を舞台にしたレトロ青春映画

        『這個夏天有異性』のことは、去年の10月に書いた。ツインズという女の子のユニットを主演にしたアイドル映画で、わたしも年甲斐もなく、ピチピチした女の子に胸キュンになってしまったものだった。そんなツインズの新しい映画は『一碌蔗』(Just One Look)。監督は今注目のイップ・カムハン。

        ツインズのふたりが主人公になった映画を期待していると、ちょっとはぐらかされた感じになるだろう。それというのも、『這個夏天有異性』があくまでツインズの女の子ふたりからの視点で描かれていたのに対して、この『一碌蔗』はショーン・ユという若手男優が主人公で、このショーン・ユの目から見た世界が描かれているのだ。

        舞台は長州島。ファン(ショーン・ユ)の父(サム・リー、好演)は借金を背負っていて、町のチンピラ、クレイジー(アンソニー・ウォン)から、「金を返さないと、碌な死に目にあわないからな」と脅かされている。そんなある日、親子で映画館に出かけたときに、父はトイレで自殺してしまう。ところがファンは自分の父が自殺したとは信じられない。これはクレイジーが殺したんだと思い込む。

        やがて10年の月日が流れる。時は1970年代。ファン(一番左側、自転車に乗っている男)は映画館の前でサトウキビを売って生活している。ある日、空手道場のデモンストレーションが町中である。獅子舞を見せて客を集め、拳法の型を見せ、門下生を募集しようというわけである。ファンは獅子舞のお囃子で太鼓を叩いているナン(シャーリーン・チョイ)に一目惚れしてしまい、入門する決意をする。道場で拳法を習いたいと申し込むが、一緒に行った友人ミンの方はもっと頭がいい。太鼓を習いたいと申し出るのだ。友人に一目惚れの相手を取られたような形になってしまったファンだが、今度は山に住む少女ユウ(ジリアン・チョン)に惹かれていく・・・。

        70年代の香港映画のことを詳しく知っているともっと面白いのだろう。ストーリーが進むにつれ、ファンが働いている映画館の映画が変わっていく。それが微妙にストーリーに関連していくのだ。ちょうど拳法を習おうと思った時期には、ブルース・リーの『怒りの鉄拳』がかかっていたり、ファンとユウが初デートで行くはずだった映画が『ロメオとジュリエット』だったりする。

        とにかく、ショーン・ユの目線から描かれているから、ツインズはあまりいいところがない。『這個夏天有異性』でも、ダメ中年に惚れたりする不思議な魅力を発散していたジリアン・チョンの方が今回も、天然不思議清純派美少女という感じで、グツと私のハートを掴んだ。そこへいくとシャーリーン・チョイは今回、精彩が無い。『這個夏天異性』の積極的な現代っ子という役柄とは正反対で、古風な空手少女。いつも顔つきが険しい役で、どうも演技が弾んでこない。

        ショーン・ユと共にツインズを食ってしまった感があるのが、ここでもアンソニー・ウォン。町の嫌われ者であり、ファンの仇でもあるチンピラであるが、どこか人間的なよさを持っている男なのだ。結婚をして男の子が生まれると、もうその子供が可愛くてしかたない。デレデレの子煩悩ぶりを発揮したりする。子供のためなら自分は死んでもいいくらいの可愛がり用ようだ。

        物語は終盤に向って、それぞれの登場人物が思うような希望とは違う結末に向って移行して行く。人生ままならないんだよなあという感が強いのも、はかない夢の青春映画という感じでいい。

        序盤で、青春期に達したファンたちが、ある家の物干しに黒くて大きなブラジャーが干してあるのを見つけて、どんな女の人があのブラジャーをしているのだろうと想像するシーンがある。これが終盤でこの持ち主が現れる。香港映画ファンなら誰でも知っているある女優さんがワンカット出演で出て来るのだが、これは見てのお楽しみ。

        ツインズ見たさに手を出したDVDだったが、どうして、なかなか良く出来た青春映画だった。イップ・カムハン監督、ツインズをダシにして、どっこい自分の映画を撮ってしまったようで、なかなか侮れませんな。

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