March.8,2003 じっくり観せる男のドラマ

        香港で、この年末年始大ヒットしたという『無間道』(Infernal Affairs)は、ズラリとスターを並べたという割には話が暗そうで、輸入DVDショップの店先で見たときにはあまり食指が動かなかった。しかし、監督がアンドリュー・ラウ(アラン・マックとの共同監督)とあれば、観なければならないだろう。



        話は、最初はちょっと混乱する。警察側と犯罪組織側が、それぞれにスパイを送りこんでいるという設定なのだ。上のジャケットを見ながらだと比較的わかりやすいかもしれない。アンソニー・ウォン扮するウォン刑事は、ヤン(トニー・レオン)の優秀さに気づき、警察学校で訓練中の彼を(若い時代はショーン・ユが演じている)潜入捜査官として、サム(エリック・ツァン)の犯罪組織に潜りこませる。一方サムも、優秀な新人ミン(アンディ・ラウ。若い時代はエディソン・チャン)を警察学校に送り込み、警察の情報を手に入れている。この設定がややこしいと思われたのだが、どうして、観ていくうちに気にならなくなってきた。

        最初の最大のヤマは、タイ人の麻薬組織から麻薬取引をしようとするシーン。これを警察のウォンに通報するヤン。取引情報がバレているとサムに知らせるミン。そこを無理に取引を強行するサム。取引現場のビル。向い側のビルでは警察組織が張り込んで監視している。インターネットを使ってボスに情報を流すミン。窓際でモールス信号を使って上司ウォンに情報を伝えるヤン。この丁丁発止のやり取りが面白い。お互いの出し抜き合いが、刻々と変化してい様はスリリングだ。このへんの描き方は、さすがにアンドリュー・ラウだと思わせるところがある。

        この1件で、お互いの組織にそれぞれスパイがいるらしいという事が、それぞれで囁かれだす。そこで、2番目のヤマになる。どうやらウォンが犯罪組織に潜入させた捜査官と、あるビルの屋上で打ち合わせしているらしいという情報を、ミンは組織に伝える。ウォンとヤンがビルの屋上で密会していると、犯罪組織の人間が続々とビルに集まってくる。ヤンが犯罪組織の部下から携帯電話でこの情報を得たときには、もうビルは取り囲まれている。ヤンの身元がバレるとたいへんなことになる。このビルからの脱出劇が、これまたスリリングなのだ。実はこのビルでの1件も、裏での騙し合いがあったのが、あとになってわかるのだが、そこから一気にラストへなだれ込んでいくことになるのだ。

        アンディ・ラウとトニー・レオンがいい味を出しているのはもちろんなのだが、それぞれの上司にあたるアンソニー・ウォンとエリック・ツァンがいいのだ。「また、この人たちか」と思うのだが、日本に較べて俳優の数が少ないとはいえ、こんな凄い役者は日本でもそういないだろう。主役のふたりを食わんばかりの演技は、この映画の最大の観どころ。

        これだけでも十分に満足のいく男のドラマになっているのだが、豪華な女優陣が花を添えている。ミンの婚約者に、今香港で一番人気のある女優サミー・チェン。ヤンが恋心を抱いて通いつめる精神科の女医にケリー・チャン。これだけ揃えて、才人アンドリュー・ラウが撮れば面白くならないはずがなかったのだ。

        題名の『無間道』とは仏教の無間地獄のこと。いつまでいっても苦しみは去らないスパイの生き方を指しているのだろう。確かにこの映画は、観るまでは気が重かった。しかし、一度観始めたらグイグイと引き込まれてしまった。こういう骨太な映画を作れる力が香港にはまだあるのだ。


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