April.27,2005 双子が撮った双子の話

        先月、オキサイド・パン監督の『死亡写真』のことを書いたが、こちらはやはりパン兄弟制作で、双子の弟の方のダニー・パンが監督した『阿子子有難』(Leave Me Alone)。去年の東京国際映画祭でも『ひとりにして』というタイトルで、先行上映されたそうだ。



        イーキン・チェンが一人二役で、双子の兄弟の役を演じている。双子のパン兄弟が双子の兄弟の話を撮るというのが面白い。さらには、TWINSのシャーリン・チョイがヒロイン役。こちらはTWINSといっても、ご存知のように双子ではないコンビの片割れ。う〜ん、ややこしい。

        キットとマンの双子(イーキン・チェン)は、小さいころに両親が離婚してしまい、兄のキツトはタイへ、マンは香港で育つことになる。ふたりが成人したある日、ひょっこりキットが香港のマンのところへ現れる。マンはファッション・デザイナーのようなことをやっていてある程度裕福な暮らしをしている。一方のマンは、このあとすぐわかる事になるのだがタイでかなりヤバイ仕事をしているらしい。実は、キットはマンに金を借りに来たのだが・・・・・。

        マンが持っているクルマに興味を示したキットは、このクルマを是非運転したいと思う。ところが国際免許を持っていない。マンは自分の免許書をキットに渡す。同じ顔なんだからバレやしないと。ところがキットはこのクルマを運転中に事故を起こし、病院に入院してしまう。当然運転免許書からマンだと思われてしまうし、人身事故が絡んでいたために、実は無免許で運転した兄のキットだと言うわけにもいかなくなる。

        一方、タイではキットの恋人ジェン(シャーリーン・チョイ)が、キットの帰りを待ちわびている。キットがマンからお金を借りて戻ってきて、黒社会とのヤバイ取り引きをしようとしているのだ。キットは事故で下半身が、しばらく動けなくなってしまっているので、代わりにマンがキットに成りすましてタイへ行く事になる。それが裏目に出て状況は悪化するばかり。

        キットの方はマンに成りすまし入院しているが、気がつくとベッドの脇には男性がぴったりと張り付いていて看病をしている。実はマンは少年時代のトラウマから女を愛することが出来なくなり、ゲイになっている。キットはノーマルなので、マンだと思い込んでいるこの男性を拒否し続ける。

        タイへ行ったマンのパートと、香港で入院中のキットのパートが交互出てくるが、どちらもコメディ調。あのホラーばかりという印象のパン兄弟の映画とは思えない。話が進むにつれ、ドジなマンを嫌っていたジェンが、その優しさに惹かれていくと同時に、ゲイの弟の気持ちをだんだんに理解していくキットの様子が描かれ、話に厚みを与えていく。

        キットが退院してタイへ向かってからはのアクションは派手で面白いのだが、やや空回りか。

        イーキン・チェンがいい演技をしている。双子なのに、まったく性格の違う二人を、キチンと演じ分けている。表情ひとつで、どちらの役を演じているのかわかるのだ。逆にキャスティング・ミスだとしか思えないのはシャーリーン・チョイ。まだ小便臭いガキといったシャーリーンが、黒社会相手に互角に対しようというのが絵にならない。『ツインズ・エフェクト』のヒットから、またイーキンと組ましたのかも知れないが、どうも浮いてしまっている印象なのだ。まっ、パン兄弟って、こんなコメディ・アクションも撮れるってことなんでしょうね。


April.3,2005 そんな香港が好きなんだ

        今年の香港電影金像奨が発表になり、監督賞と脚本賞が『旺角黒夜』(One Nite In Mongkok)になったと知って、いささか慌てた。評判が良かったこともあって、去年輸入DVDを手に入れていたというのに、ついつい観ないままに年を越してしまっていたのだ。



        監督はイー・トンシン。ヒロインがセシリア・チャン(あるいはセシリア・チョンとも表記するらしい)とくれば、あの『忘不了』のコンビ。私も去年の7月に書いた。相手役がダニエル・ウー。映画の冒頭はセシリアもダニエルも出てこない。香港一の繁華街・モンコック(旺角)で、チンピラ同士の抗争が起こり、一方の若者が死んでしまう。子供の喧嘩に親が口を出すというのは何処にでもあるようだが、殺された方の親は黙っていない。黒社会のボスでもある相手の親を殺そうとして、裏から殺し屋を雇う依頼をする。ところが、この情報はあっという間に黒社会に漏れてしまう。その上、警察もその情報をキャッチする。何としてでも殺し屋を捕まえようと、黒社会中の人間と警察が総力を上げることになる。警察が付けたオペレーションの名前が旺角黒夜というわけ。

        そんな中で、中国本土からやってきた殺し屋というのがライ(ダニエル・ウー)。彼は香港に来るなり不穏なものを感じて、指定されたホテルには泊まらず、売春宿に身を寄せることにする。すると客が売春婦タンタン(セシリア・チャン)を殴りつけている現場に遭遇してしまう。許せない気になったライはタンタンを助ける。この暴力的な客は黒社会の構成員。仲間を引き連れて仕返しにやってくる。ライとタンタンは売春宿を逃げ出すことになる。

        タンタンも中国本土からの出稼ぎ組で、売春婦をしてお金を儲けて故郷に帰ろうと思っている不法滞在者。ふたりは話すうちに、同じ故郷の出身者であることがわかる。ライが香港にやって来たのにはもうひとつ訳があった。香港に行くと言って音信が途絶えてしまった恋人を探す事だ。かくて、モンコックのクリスマス・イブを、人を捜しながら、標的を狙うライと、ヤクザとポンビキから逃げるタンタン、そして彼を探す黒社会の構成員たち、同じく彼を探す警察組織という、三つ巴、四つ巴の構図が出来上がるのだ。

        中国の田舎からやってきたという設定のふたりを、セシリア・チャンと、ダニエル・ウーはよく演じていると思う。緊迫した場面の続く展開で、観る者を飽きさせない作りは、さすがに脚本賞と監督賞を取っただけのことはある。

        ラストはかなりせつない。これがイー・トンシンの持ち味であるのだが・・・・・。

        セシリア・チャンは、『忘不了』に続いて、いささかうっとうしい演技が鼻をつく。綺麗な女優さんなんだけどなあ。映画の途中とラストで、セシリア・チャンが問いかける。「どうして香る港なんて、きれいな街の名前をしているのに、実際は汚れているの!?」 香港の住民は、きっとそんな香港が好きなんだろうし、私もそんな香港を舞台にした香港映画が好きなんだ。



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