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『0課の女 赤い手錠(ワッパ)』

 人形町三日月座BaseKOMで毎週月曜日の夜に行われている、KOM映画研究会は以前から気になっていたのだが、8月8日の上映が『0課の女 赤い手錠』だったので、「よし、この機会だから行ってみよう」という気になった。

 試写室は満席。早めに行ってよかった。

 『0課の女 赤い手錠』は、1974年東映映画。公開当時映画マニアの間で話題になっていた。私も封切りから遅れて、どこかの名画座で観ている。監督は野田幸男。それまで『不良番長』シリーズを内藤誠と交替で撮っていた人で、このシリーズはなーんか、いい意味での、いい加減さが魅力で、お遊びの楽しさがあった。それが、どうも『0課の女 赤い手錠』が、野田幸男らしからぬ凄い映画らしいということだった。私も当時釣られて観に行って、妙に興奮してしまった記憶がある。「あの野田だぜ、あの野田幸男が奇跡的な映画を撮った」と友人たちに話して歩いていた。

 『0課の女 赤い手錠』を観たのは、そのとき一回きりだから、これが37年ぶり(?) こうして観直してみた感想は、「ヘンな映画」というのが率直な印象。あのころよりも冷めた気持ちで映画を観ていたんだと思う。

 上映後、ティーチ・インがあったので、そのときの内容を憶えている範囲で書き残して置こうと思う。

*『さそり』シリーズがヒットして気を良くしていた東映に、原作が同じ篠原とおる、脚本も同じ神波史男、松田寛夫コンビで持ち込まれた企画だったので東映が撮らせた。もっとも神波、松田コンビは、もう『さそり』に飽き飽きしていて、別なものをと持ち込んだらしい。

*公開は、しばらくオクラのあと突然、網走番外地シリーズ二本の再上映と一緒に三本立てで封切られた。完成された映画を観て、東映が「これじゃ売れない」と判断したかららしい。

*とにかく主演が杉本美樹。やはり梶芽衣子ほどの力がない。では、杉本美樹の女刑事が大活躍する映画かと思えば、映画の中の杉本美樹はほとんど活躍しているシーンが無い。

*どうやら最初はタイトル前に長いシーンがあったことが脚本からうかがわれる。某国の外交官が日本で女性を誘拐してはレイプして殺すという事件があって、その被害者のひとりの黒人女性が零(杉本美樹)の知り合いだったらしい。このへんは脚本か原作を当たるしかないのだが、零はおとり捜査で、この外交官を射殺してしまう。映画はこのあたりをダイジェストに編集してあって、この一件が元で零は女囚部屋に入れられ、警察のものだと見破られて、女囚たちに袋叩きにあう。これがタイトルバック。

*つまり尺が長くなってしまったので、東映側から前半部をバッサリとカットされてしまったらしい。そのために、このあとの杉本美樹はひたすら敵に掴まったまま、何も出来ないシーンが長く続くことになるので、活躍シーンがないということになる。実はこの映画の背景にある部分がどうやら黒人少女と結び付くという構成だったらしいのだが、そのへんのことは観るも無残なことになってしまっている。

*仲原(郷^治)が出所してくる。出迎えたのがチンピラ仲間、サブ(荒木一郎)、稲葉(遠藤征慈)ら4人。5人は河川敷にクルマを停めているカップルを襲い、女を集団レイプする。理由なんて無い。ただ女がいるからってだけ。とにかく異常な集団なのだ。男はその場で殺害。仲原たちは女をさらい、知り合いのママが経営するスナックに連れ込む。スナックのママ矢野は、女を一目見るなり、週刊誌で観た顔だと閃く。女は大物政治家の娘で、近く同じく大物政治家の息子との結婚が近いという報道がなされている。ではと、身代金を要求しようということになる。

*このスナックのママを三原葉子が演じていて、白いヘンテコなカツラを被り、ラーメン、ライス、餃子を抱えてずーっと食べ続けているのだが、撮影が長引いても同じものを食べていたらしく、ラーメンは完全にのびきっていて、まずそう。

*零は、女囚部屋から出してもらう交換条件として、令嬢誘拐事件から、令嬢を助け出してくる任務を受ける。

*身代金の受け渡し。なにしろ後先考えないで行動する異常集団だから、身代金の受け渡し場所に警察が張っていることも計算に入れていない。仲原がノコノコと出てきたところを取り押さえられてしまう。それを助けたのが零で、零はまんまと敵のアジトであるスナックに潜入するのだが、ここでも零はチンピラ仲間に掴まってレイプされる。って異常だよね。

*奪った身代金は新聞紙。それで、もう一度、身代金を要求をすることになるのだが、これも受け取りに行ったひとりを警察側が殺してしまう。

*このアジトはまずいと思った一行は、令嬢と零をクルマに乗せてスナックを抜け出す。もちろんそのあとには警察が尾行しているのだが。

*次の隠れ家は米軍の住居。日本人の若い女性たちを集めて英語劇の稽古中。ここに侵入するわけだが、当然のごとく女は全員レイプの対象にされる。とにかく、単純と言えば単純だが、女と見れば裸にひんむいてレイプ。なんなんだこれ?

*「こんな連中といるといずれあんたは警察に捕まって死刑だ」と零に言われて、稲葉はそっと抜け出す。するとあっさり警察に捕まってしまう。担当の日下(室田日出男)に、手を万力で挟まれ、ガスバーナーで股間を焼かれてしまう遠藤征慈。このころの名脇役のひとりだ。

*サブ役の荒木一郎は、そう言われなければ誰だかわからない。常に大きなサングラスをしているし、台詞はこの映画を通してひとつだけ。でも凶暴な役どころで、令嬢に麻薬を打ったりして喜んでいる。

*このあとがいよいよクライマックス。本来は、全て部屋の中だけの話で完結させようとしたらしいのだが、それでは映像の売りが無い。外での闘いになるのだが、遠くへロケに出ようとしている野田組の気配を察して、東映側が、そんなことしたら金がかかり過ぎるから撮影所から出すなという命令が下ったらしい。そこで東映東京撮影所内の敷地で撮影されたのがあのクライマックス。

*なにやらどこかの廃墟のようなところで、犯人側、警察、そして零が三つ巴になって殺し合うシーンが壮絶に展開する。地面にはゴミが散乱している。このシーンのカット割りの細かさは、もう職人芸。BaseKOMのオーナーでもあり脚本家でもある柏原寛司氏から、「私もテレビに書いた脚本を野田さんが監督したことがあったけど、カット割は細かかったよ」

*どうやら、このクライマックスの撮影に野田幸男は相当に粘ったらしく、スタッフの疲労は限界に達していたというエピソードがある。

 野田幸男監督は1997年に亡くなった。

 実は、野田幸男監督は、『0課の女 赤い手錠』のあと、1977年に『激殺!邪道拳』という映画を撮ることになるのだが、この映画に関しては、実は私も微力ながらお手伝いをしている。そのことは、またいずれ機会があったら。

2011年8月19日記

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