百円の恋 2015年1月23日 テアトル新宿 安藤サクラっていう女優さん、特別美人だとは思えないのだけれど、妙に魅力のある人で、彼女が主演で女性ボクサーになる映画だというくらいの知識で観に行った。 ショックだったのは、その安藤サクラが最初に出て来た時の体型。おそらく、メイクの関係もあるだろうし、ボサボサの長髪にジャージ姿がボテッとした印象になるんだろうけど、だらしない体つきをしている。一子(安藤サクラ)は、32歳になっても働かず、母親が経営している弁当屋も手伝おうとせず、毎日ジャンクフードを食べて部屋でテレビゲームをやっている典型的なニート。そのうち離婚して実家に帰って来た妹と喧嘩して家を出て、百円均一のコンビニで働くようになり、アパートを借りて独り暮らしを始めるようになる。 ところが、このコンビニで働く人たちときたら、もうダメ人間の集まりみたいなところ。店長が「碌な奴がいない」と嘆くのもわかる。世間から落ちこぼれた人間の集まりみたいなのだが、どう見ても、それぞれの性格に問題があるんじゃないかと思えてくるような人ばかり。特に以前このコンビニで働いていて、今は廃棄される弁当を盗みに来るオバサン。これを演じるのが根岸季衣なのにはショック! 嫌なやつで映画の後半でとんでもない行動に出るのだが、ここまで行くと人間落ちるところまで落ちてしまったということか。坂田聡の同僚店員も嫌な役だったなぁ。思い返すと、嫌〜な気分になる。 そんな中、一子はボクシングジムでトレーニングをしている狩野(新井浩文)に恋し始め、自分もボクシングジムに入門する。 ボクササイズで、だらしない身体を絞ってダイエットする目的だろうくらいにジムの経営者も思っていたし、ひっょとしたら一子も、その程度の理由だったのかもしれない。女力を引き出すには、だらしない身体は一番嫌われるから。そしていつしか一子と狩野は一緒に生活するようになる。ところが37歳でボクサーとしての生活を引退した狩野は、一子を棄てて出て行ってしまう。 一子がボクシングを始めるまでが長い。こんな自堕落でやる気のない生活をしているヒロインと、どうしようもなくダメな人たちを見せられていると、正直うんざりしてくる。こんな映画じゃあ見せられた方はたまったもんじゃないと思い始めたころ、この映画は突然面白くなる。一子は俄然ボクシングに夢中になって行く。ボクシングを始めたころの動きとは別物。身体のキレがいいし、シェイプアップされた身体の一子は、それと同時に、実にきれいに変身している。女性の場合ボクサーとしては32歳で引退となるから、もういまさらと思われるのだがプロテストを受けて合格してしまう。もうそれでやめておきなさいというジム側の意見も聞かず、試合に出たいと言いだす。 ボクシング映画って、今までにもたくさんあって、代表的なのは『ロッキー』だろうが、『百円の恋』も『ロッキー』の影響が強い。トレーニングを積んで行く過程が描かれるのだけれど、バックにロックがかかって、否が応でも気分を高める。ちなみにそれ以外の部分はブルースが多くて、あまりにも、「らしい」のだけど、まあそれもいいかなと。 それで以下、最後までネタを割ってしまいます。 それで試合が組まれて、試合に出る訳ですよ。もう相手は何回も試合に出ているらしい若くて強いボクサー。一子に勝機があるとしたら左フック。ジム側も難色を示しながらもOKを出す。「顔をめちゃくちゃにされない程度に頑張れ」って。最初っから期待していない。この試合のシーンがなかなかよく撮れていて、よくおざなりに試合進行を撮っただけみたいなボクシング映画がある中で、これはかなり健闘したと思う。興奮したもの。それで、一子はというと、まったくいいとこなし。殴られるだけ殴られて、一発のパンチも返せないでダウンばかり繰り返す。と、観ている方からすれば、これはちょっとしたスキに期待の左フックが決まって起死回生のノックアウトを決めるんだろうと思うわけだ。ところがそんな甘くは無いんだよね。確かに偶然のようにして一発相手にお見舞いで来たものの、その何倍ものパンチを浴びせられてダウン。ボロ負け。試合後、外に出ると狩野が待っている。その姿を見て一子は泣き出してしまう。「勝ちたかった」と涙声で吐き出す。人生で負け犬だった一子の「勝ちたかった」という声は実に重い。でも、試合には勝てなかったけれど、一子は人生に大逆転勝利を収めたんだ。 ニートでアラサー女の成長物語として、これはしみじみと感動できる映画だった。 1月24日記 静かなお喋り 1月23日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |