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『50/50 フィフティフィフティ』

 下咽頭癌の手術で入院中にどうしても観たかった映画。実際の癌宣告された脚本家の脚本の映画化。難病ものにありがちな暗い映画ではないとの前評判だったので興味があった。

 主人公は27歳の青年。酒もタバコもやらなかったというのに癌の宣告を受ける。どこの癌なのか、今いち、よくわからないのだが、どうも脊椎のあたりに出来るむずかしい癌らしいということだけはわかった。

 癌というのは、自覚症状があまり無いことが多く、多くの人が突然に癌宣告を受けて驚くらしい。この青年アダムも突然に癌だと言われて驚くのだが、その驚き方が半信半疑な表情なのもわかる気がする。

 もともと難病ものの映画は苦手なので観に行った事がなかった。なんだか死を前にした人物とそれを取り巻く人々のドラマを観たいとは、まったく思えなかったからだ。それは今でも変わらない。『50/50』を観たいと思ったのは、この映画の主人公の反応と対応は、きっと私に近いものなのではないかと思ったからだ。

 アダムは、さっそくインターネットで自分の病気について調べ始める。これは私とそっくりなので共感を覚えた。もっとも私の場合は、自分の症状からインターネットで調べ始めて、「これは癌だな」と思い出し、医師から「癌です」と言われて、「やっぱりな」と納得したので、アダムとは逆。インターネットでの予備知識無しで突然、癌宣告を受けたアダムの驚きは私以上であったろう。

 インターネットで自分の病気を調べ上げたアダムは、自分の病気が、「五年以内の生存確率が50%」だという事を知る。これがこの映画のタイトルの意味だ。私の場合は、この生存確率というのを医師から知らされた。五年以内の生存確率という表現を使うことは世界共通らしい。私の場合は「五年以内の生存確率は20%から30%」と言われた。アダムは27歳、私はもう還暦目前のジジイ。その差はあるが、まだアダムは余裕があるじゃんという気になる。

 アダムにはカイルという、少々ガサツな性格の友人がいて、「50%の生存確率なら、賭博ではいい確率だ」というような事を言うが、私の場合、「20%から30%の生存確率なら、賭博ではいい確率だ」と言える人がいるだろうか?

 アダムと同棲している彼女がいるのだが、アダムへの同情を見せはするが、ちゃっかり浮気をしている。それに怒ったのがカイル。アダムはもう、どうでもよくなっているところがあるのだが、彼女を追い出してしまう。

 このあたりは、日本映画だともっとドロドロしそうだが、この映画は妙にあっさりしている。アダムにしても、この辺のことはもうどうでもいいと思っている気がするのだが。

 この映画では、アダムのことを心配して寄ってくる友人がカイルひとりに集約されていて、そのカイルが暗くないのがいい。私の場合も入院前に多くの友人と会ったし、入院中も多くの友人の見舞いを受けた。その友人たちが、私を励ますというより、明るく接してくれたのがうれしかった。それでいて本当に心配してくれているんだという気持ちが、ヒシヒシと伝わって来た。ありがとう、私の友人たち。

 この映画には新米のセラピスト女性が出て来て、やがてアダムと恋愛関係に発展していくというロマンスが盛り込まれているが、アメリカでは難病になると必ずセラピストのところに行くという習慣なりがあるのだろうか? セラピストが患者とそういう関係になっていってしまうというのは、「いかがなもんでしょ」という気がするのだが、まあ映画の中ということで。

 抗癌剤治療が始まり、その苦しさを表現するシーン。抗癌剤投与のあと自宅療養というのが意外だった。私の入院していた病院では、抗癌剤治療と放射線治療はセットで行われ、基本、入院だった。その苦しさは同室の患者さんを見ていたから、よくわかる。

 抗癌剤が効いていないということが判明し、切除手術になる。手術当日、自宅から病院へ行き、そのまま担架に乗って手術室へ。これも自分の体験とは大きく違っているのでびっくり。

 私の入院した病院は、手術の二日前に入院。手術に備えての検査と、手術を前にしての注意事項の説明、署名などが時間をかけて行われた。手術の朝も浣腸をして腸の中のものを全部出された。担架に乗せられて手術室というのも映画などではお決まりだが、私は歩いて手術室まで行き、自分で手術台に乗った。

 おそらく、今まで作られた難病ものの映画の中では、ちょっと変わった作品になっているには違いないと思う。それでも、私が自分の体験から脚本を書いて映画化したら、もっと違ったものになるだろうなという気がする。きっと、もっとカラッとしたもの。そんなものを観たい人がいるかどうかは別として。

2012年1月28日記

静かなお喋り 2012年1月27日

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