天使のはらわた・赤い眩暈 2015年10月1日 新文芸坐 石井隆監督二本立て『ヌードの夜』と一緒に観賞。両作とも公開当時に観ている。 『天使のはらわた・赤い眩暈』は、エロ劇画で人気の高かった石井隆が映画監督デヒューした1988年の日活ロマンポルノ作品。1988年といえば日活ロマンポルノが打ち切りになる年。それまで日活ロマンポルノでは、石井隆原作の『天使のはらわた』シリーズが何本も製作されていて、ここでいよいよ石井隆自身が監督にも挑戦したわけだが、これがキッカケになって、その後、映画に進んだといってもいいかもしれない。 公開当時に観たきりで、内容をほとんど忘れていたが、最初に観たときに、マンガを描いている人って、コマ割りというのはカット割りに共通するものがあるから、それほど問題なく撮れたんだろうなぁという感想は今でも変わらない。カット割りだけじやなくてカメラのアングルも撮る前から頭の中にあったに違いない。 日活ロマンポルノは70年代がピークで、80年代になると、AVが主流になってきて衰退して行ってしまう。この『天使のはらわた・赤い眩暈』も、日活ロマンポルノの終焉を象徴するかのように、主演女優はAV出身の桂木麻也子。共演は竹中直人だから、映画としては竹中のおかげでしっかりした映画になっているが、やはり石井隆が後に撮る映画での、大竹しのぶや余貴美子に比べてしまうと、役者としての実力や、スクリーンから匂い立つような生身の女の存在感は希薄。もっともだからといって桂木麻也子に不満があるかというと、そうでもなくて、桂木麻也子は、ほかの石井隆作品に出てくるような女ではなく、別の意味で妙にカワイイ。 夜勤中の看護師・名美は入院患者にレイプされそうになり、病院を逃げ出す。名美と同棲している男は、名美が夜勤で帰って来ないことをいいことに、別の女を引っ張り込んでいる。予定外に夜中に帰ってきてしまった名美は、その現場に鉢合わせ。家を飛び出したところで、客の金を使い込んでしまった証券マン村木(竹中直人)の運転する自動車に撥ねられてしまう。村木は名美を自動車に乗せ、廃屋に連れ込む。 このあと行き場を失くしたふたりが次第に心を通わせていくあたりの描写が、後の石井隆のようなわけにいかないのが、もどかしい気もするのだが、日活ロマンポルノの制約の中で、とても健闘した映画だと思う。 ラスト・シーン、村木を待ち続ける名美。実はもう村木は帰って来ないことを観客は知っているのだが・・・。名美はすでに立ち直っているように感じられる。これからまた働く場所を探して、住むアパートもみつけなくちゃと独り言を呟く。明るく「働かなくちゃ」と言うセリフが、とてもかわいらしい。そして、壊れていたはずのラジカセから歌が流れてきて、それ合わせて名美が躍り出すのラスト・ショット。 この曲が『テネシー・ワルツ』だ。恋人と踊っていたら、自分の友人がやってきた。それで彼氏を紹介したらば、彼氏を寝取られてしまったという曲。パティ・ペイジのものが有名で、日本の歌手も続々とレコーディングしているが、特に日本の女性が歌っているものは、まずことごとくパティ・ペイジのものとは別物だと言っていい。とにかくみんなこの歌を、感情を込めて歌い上げてしまうのだ。これが私には到底気に入らない。パティ・ペイジの歌い方は、そういった感情を込めて歌い上げるものではなく、どこか力なく悲しさを漂わせる歌い方。こっちの方が、より悲しみが伝わってくるものだ。おそらく石井隆もパティ・ペイジのものを使いたかったのだろうが、それはおそらく低予算の日活ロマンポルノじゃ無理。そこで、どこのだれだかわからない日本の女性歌手が歌ったものを使用しているが、これが実にいい歌い方なんですねぇ。最後に出てきたクレジット・タイトルでは、音楽がFLYとなっていて、別に音楽協力というクレジットが出てきて、そこに女性の名前が出てきたから、その人が歌ったんじゃないかと思う。 このラスト・シーンが観られただけでも、観なおしに行ってよかった。 10月3日記 静かなお喋り 10月1日 静かなお喋り このコーナーの表紙に戻る |